特許第6302364号(P6302364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6302364ケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302364
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/12 20060101AFI20180319BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20180319BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   E04C5/12
   E04G21/12 104C
   E02D5/80 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-125166(P2014-125166)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-3511(P2016-3511A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】森 孝之
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 誠門
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−314199(JP,A)
【文献】 特開2006−219912(JP,A)
【文献】 特表2005−520080(JP,A)
【文献】 米国特許第05511909(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/12
E04C 5/08
E04G 21/12
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト設置面に削孔されたボルト孔と、
前記ボルト孔に先端側が挿入されると共に前記ボルト設置面から後方に突出したケーブルボルトと、
前記ケーブルボルトを埋め込むように前記ボルト孔に充填された充填材と、
前記ケーブルボルトを挿通させると共に前記ボルト設置面に当接するプレートと、
前記プレートの後方に設置されると共に前記ケーブルボルトが挿通されるソケット部と、
前記ソケット部の内壁面と前記ケーブルボルトとの間に後方から挿入されたウエッジと、を備え、
前記ソケット部は、前記ウエッジから後方に突出した前記ケーブルボルトの後端部を収納する凹部を有しており、
前記凹部の内壁面に形成された雌ネジ部に螺合する雄ネジ部が前部に形成され、前記凹部の内側に前記前部がねじ込まれると共に、当該凹部内を閉鎖して前記ケーブルボルトの後端面を覆う一体構造のキャップが前記ソケット部の後端に取り付けられており、
前記凹部内において前記キャップの前端面と前記ウエッジとの間に挟み込まれると共に、前記ケーブルボルトの前記後端部を挿通させる内側スリーブが設けられており、
前記凹部にねじ込まれる前記キャップの前進により、前記前部の前端面が前記内側スリーブを介して前記ウエッジを前方に押圧し
前記前端面には、前記内側スリーブの後方に突出した前記ケーブルボルトの後端部が挿入される孔部が形成されている、ことを特徴とするケーブルボルトの定着構造。
【請求項2】
前記内側スリーブは、前端に設けられ前記ウエッジの後端面に当接するフランジを有することを特徴とする請求項に記載のケーブルボルトの定着構造。
【請求項3】
前記凹部内の空間に収納された防錆剤を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のケーブルボルトの定着構造。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載のケーブルボルトの定着構造を構築するためのケーブルボルトの定着方法であって、
前記ウエッジから更に後方に突出した前記ケーブルボルトの前記後端部が収納された前記凹部に防錆剤を充填する防錆剤充填工程と、
前記防錆剤充填工程の後、前記キャップを前記ソケット部の後端に取り付けて前記凹部を閉鎖するキャップ取付工程と、を備えたことを特徴とするケーブルボルトの定着方法。
【請求項5】
ボルト設置面に削孔されたボルト孔と、
前記ボルト孔に先端側が挿入されると共に前記ボルト設置面から後方に突出したアンカーボルトと、
前記アンカーボルトを埋め込むように前記ボルト孔に充填された充填材と、
前記アンカーボルトを挿通させると共に前記ボルト設置面に当接するプレートと、
前記プレートの後方に設置されると共に前記アンカーボルトが挿通されるソケット部と、
前記ソケット部の内壁面と前記アンカーボルトとの間に後方から挿入されたウエッジと、を備え、
前記ソケット部は、前記ウエッジから後方に突出した前記アンカーボルトの後端部を収納する凹部を有しており、
前記凹部の内壁面に形成された雌ネジ部に螺合する雄ネジ部が前部に形成され、前記凹部の内側に前記前部がねじ込まれると共に、当該凹部内を閉鎖して前記アンカーボルトの後端面を覆う一体構造のキャップが前記ソケット部の後端に取り付けられており、
前記凹部内において前記キャップの前端面と前記ウエッジとの間に挟み込まれると共に、前記アンカーボルトの前記後端部を挿通させる内側スリーブが設けられており、
前記凹部にねじ込まれる前記キャップの前進により、前記前部の前端面が前記内側スリーブを介して前記ウエッジを前方に押圧し
前記前端面には、前記内側スリーブの後方に突出した前記アンカーボルトの後端部が挿入される孔部が形成されている、ことを特徴とするアンカーボルトの定着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケーブルボルトは、設置時点では緊張力が付与されず、設置場所の岩盤のゆるみ等に伴う変位が発生して初めて引張力が発現する。ケーブルボルトの終端部にウエッジを用いた定着構造においては、ケーブルボルトに引張力が発生していない時点ではウエッジのケーブルボルトに対する強い把持力が十分に作用していないため、ウエッジが緩む可能性もある。そこで、万一にも緩んだウエッジが脱落しないように、従来、下記特許文献1に記載のケーブルボルトの定着構造が提案されている。この定着構造では、ケーブルボルトの後端部にアンカープレートとソケット部とが配設され、ソケット部を挿通するケーブルボルトとソケット部の内壁面との間にウエッジが挿入されている。そして、ウエッジの脱落を防止すべくソケット部の外側面に取り付けられた押さえ部材でウエッジの後端面を押さえている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−314199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ケーブルボルトにおいては、定着構造の施工中においてもウエッジが緩む虞がある。特許文献1の定着構造によれば、例えば押さえ部材を取り付ける前の工程においては、緩んだウエッジがソケット部から脱落する可能性があるので、施工中にウエッジが落下しないような対策が別途必要になる。また、この種のケーブルボルトにおいては、ケーブルボルトの後端部がケーブル切断面を含むので何らかの防錆処理が必要である。特許文献1においては最終的に露出したケーブルボルト後端部の防錆処理に手間をかける必要がある。
【0005】
そこで本発明は、施工中におけるウエッジの落下の可能性を低減すると共に、アンカーボルトの防錆処理を容易に行うことができるケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のケーブルボルトの定着構造は、ボルト設置面に削孔されたボルト孔と、ボルト孔に先端側が挿入されると共にボルト設置面から後方に突出したケーブルボルトと、ケーブルボルトを埋め込むようにボルト孔に充填された充填材と、ケーブルボルトを挿通させると共にボルト設置面に当接するプレートと、プレートの後方に設置されると共にケーブルボルトが挿通されるソケット部と、ソケット部の内壁面とケーブルボルトとの間に後方から挿入されたウエッジと、を備え、ソケット部は、ウエッジから後方に突出したケーブルボルトの後端部を収納する凹部を有しており、凹部の内側に少なくとも一部が嵌め込まれると共に、当該凹部内を閉鎖してケーブルボルトの後端面を覆うキャップがソケット部の後端に取り付けられていることを特徴とする。
【0007】
この定着構造によれば、ウエッジから後方に突出したケーブルボルトの後端部が凹部に収納されると共に、キャップによって凹部内が閉鎖される。よって、ソケット部の後端にキャップを取り付けるといった簡易な作業により、ケーブルボルトの後端部を凹部内に閉鎖することができ防錆効果が得られる。また、キャップを取り付ける前の工程においてウエッジが緩みケーブルボルトから離れた場合にも、ウエッジはソケット部の凹部内に引っかかるなどして留まり易く、下方に落下する可能性が低減される。
【0008】
また、キャップは、凹部の内壁面に形成された雌ネジ部に螺合する雄ネジ部を有し、凹部にねじ込まれるキャップの前進によってウエッジが前方に押圧されることとしてもよい。この構成によれば、キャップからの押圧によってウエッジがケーブルとソケット部との間に強固に喰い込むので、ウエッジの緩みが抑制される。
【0009】
また、本発明のケーブルボルトの定着構造は、凹部内においてキャップとウエッジとの間に挟み込まれると共に、ケーブルボルトの後端部を挿通させる内側スリーブを更に有することとしてもよい。
【0010】
またその場合、内側スリーブは、前端に設けられウエッジの後端面に当接するフランジを有することとしてもよい。この構成によれば、フランジによってウエッジの後端面が均一に押されるので、ウエッジが正しい姿勢で挿入され、ウエッジによるケーブルボルトの把持機能が正しく発揮される。また、フランジよりも後方の部分においては、ソケット部の内壁面と内側スリーブとの隙間を広くすることができるので、例えば、この隙間から作業者の手が入り易く、作業者がウエッジの後端の状態を手で触って確認することができる。
【0011】
また、本発明のケーブルボルトの定着構造は、凹部内の空間に収納された防錆剤を更に有することとしてもよい。この構成によれば、凹部内に収納されたケーブルボルトの後端部が防錆される。
【0012】
本発明のケーブルボルトの定着方法は、上述の何れかのケーブルボルトの定着構造を構築するためのケーブルボルトの定着方法であって、ウエッジから更に後方に突出したケーブルボルトの後端部が収納された凹部に防錆剤を充填する防錆剤充填工程と、防錆剤充填工程の後、キャップをソケット部の後端に取り付けて凹部を閉鎖するキャップ取付工程と、を備えたことを特徴とする。この定着方法によれば、キャップを取り付ける前にソケット部の凹部に防錆剤を充填するので、ケーブルボルトの後端部の防錆処理を効率よく行うことができる。
【0013】
本発明のアンカーボルトの定着構造は、ボルト設置面に削孔されたボルト孔と、ボルト孔に先端側が挿入されると共にボルト設置面から後方に突出したアンカーボルトと、アンカーボルトを埋め込むようにボルト孔に充填された充填材と、アンカーボルトを挿通させると共にボルト設置面に当接するプレートと、プレートの後方に設置されると共にアンカーボルトが挿通されるソケット部と、ソケット部の内壁面とアンカーボルトとの間に後方から挿入されたウエッジと、を備え、ソケット部は、ウエッジから後方に突出したアンカーボルトの後端部を収納する凹部を有しており、凹部の内側に少なくとも一部が嵌め込まれると共に、当該凹部内を閉鎖してアンカーボルトの後端面を覆うキャップがソケット部の後端に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
この定着構造によれば、ウエッジから後方に突出したアンカーボルトの後端部が凹部に収納されると共に、キャップによって凹部内が閉鎖される。よって、ソケット部の後端にキャップを取り付けるといった簡易な作業により、アンカーボルトの後端部を凹部内に閉鎖することができ防錆効果が得られる。また、キャップを取り付ける前の工程においてウエッジが緩みアンカーボルトから離れた場合にも、ウエッジはソケット部の凹部内に引っかかるなどして留まり易く、下方に落下する可能性が低減される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工中におけるウエッジの落下の可能性を低減すると共に、アンカーボルトの防錆処理を容易に行うことができるケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るケーブルボルト定着構造を示す正面図であり、(b)はその断面図である。
図2図1のケーブルボルト定着構造の主要部を示す分解斜視図である。
図3図1のケーブルボルト定着構造を構築するための定着方法を示す断面図である。
図4】(a)は、本発明の第2実施形態に係るケーブルボルト定着構造を示す正面図であり、(b)はその断面図である。
図5図4のケーブルボルト定着構造の主要部を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るケーブルボルトの定着構造、ケーブルボルトの定着方法、及びアンカーボルトの定着構造の実施形態について詳細に説明する。以下に示す各実施形態では、アンカーボルトの一例としてケーブルボルト1を用いたケーブルボルト定着構造について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るケーブルボルト定着構造3を示す正面図であり、図1(b)はその断面図である。また、図2は、ケーブルボルト定着構造3の主要部を示す分解斜視図である。以下の説明において、「前方」、「後方」、「前端」、「後端」などの前後の概念を持つ語を用いる場合には、図1(b)における右方を前方、図1(b)における左方を後方とする。
【0019】
ケーブルボルト1は、例えば、トンネル及び地下空洞ならびにダムや斜面等の岩盤掘削工事において、施工時や供用時に岩盤の力学的な安定性を確保するための支保工に適用される。この種のケーブルボルトは、他の支保部材であるロックボルトやPSアンカーに比して長尺の施工が容易であるので、例えば、断層等の脆弱部における長尺ボルトによる補強に適用される。また、ケーブルボルトはフレキシブルであり、狭いスペースから施工可能であることから、大断面トンネルにおける先行支保としても適用される。更にはケーブルボルトは、導入力不要で特殊な施工機器が不要であるので、例えば、地下空洞におけるPSアンカーのコストダウン策としての適用もできる。
【0020】
ケーブルボルト定着構造3は、岩盤100上のボルト設置面101に例えば直径60〜120mmで削孔されたボルト孔103と、ボルト孔103に挿入されたケーブルボルト1と、ケーブルボルト1を埋め込みボルト孔103に定着させるためにボルト孔103に充填・硬化された充填材5(例えば、セメントミルク、モルタル等)と、を備えている。ケーブルボルト1は、例えばストランド鋼材からなる撚線であり、その表面には腐食防止等のための被覆が施されている。ケーブルボルト1の先端側は、例えば15〜20m程度の長さでボルト孔103に挿入されており、ケーブルボルト1の後端の例えば100〜200mm分が、ボルト設置面101から後方に突出している。
【0021】
ケーブルボルト定着構造3は、ケーブルボルト1を挿通させボルト設置面101に当接するプレート11と、プレート11の後方に設置されると共にケーブルボルト1が挿通される筒状のソケット部13と、を備えている。プレート11は、ケーブルボルト1を挿通させる円形開口部11aを有している。ソケット部13の円形の前端面は、円形開口部11aよりも大径であり、円形開口部11aの縁部においてプレート11の後面に押し当てられている。
【0022】
ソケット部13は、前方に形成されたテーパ部15と、テーパ部15の後方に形成された円筒部17と、を有している。テーパ部15の内壁面15aは、前方に行くほど直径が小さくなるように形成された円錐面を成している。円筒部17は、外周面をテーパ部15と共通し当該テーパ部15の後端から更に後方に延びた円筒形状を成している。円筒部17の内径は、テーパ部15の最大の内径よりも大きい。円筒部17の内壁面17aには雌ネジ部17sが形成されている。
【0023】
更にケーブルボルト定着構造3は、テーパ部15の内壁面15aとケーブルボルト1との隙間に挿入され、楔として機能するウエッジ19を有している。ウエッジ19は、テーパ部15に対応する円錐面を有し、ケーブルボルト1を挟んで対面する2つのウエッジ部材19a,19bからなる。ウエッジ19の後端は、テーパ部15の後端から後方に突出している。ウエッジ19から更に後方に、ケーブルボルト1の後端部1aが突出しており、当該後端部1aは、円筒部17の中空部として構成される凹部21内に収納されている。
【0024】
ケーブルボルト1は、PSアンカーとは異なり設置時点では緊張力が付与されていないので、ケーブルボルト定着構造3の施工直後においては、ケーブルボルト1に引張力は生じていない。岩盤100のゆるみ等に伴う変位が発生して初めてケーブルボルト1の引張力が生じる。そして、ケーブルボルト1に引張力が発生したとき、ウエッジ19は、楔効果によってケーブルボルト1の表面に対して喰い込むようにケーブルボルト1を強固に把持する。本実施形態における定着構造3では、施工直後にはケーブルボルト1の引張力は生じていない。岩盤のゆるみ等に伴う変位により引張力を生じる本ケーブルボルト1においては、施工直後にケーブルの端部にボルト等を嵌合してケーブルボルト1に緊張力を導入する作業は行われない。
【0025】
更にケーブルボルト定着構造3は、ソケット部13の後端に取り付けられる内ネジ式のキャップ23を有している。キャップ23の先端側の外周面23aには、上記雌ネジ部17sに螺合する雄ネジ部23sが形成されている。この構成により、キャップ23の先端側が凹部21の内側に嵌め込まれ、ねじ込まれることで、キャップ23は、凹部21内を閉鎖してケーブルボルト1の後端面1bを覆う。なお、キャップ23のヘッド部の側面には、キャップ23を回転させる工具を差し込むための工具孔23tが設けられている。また、キャップ23の前端面には、ケーブルボルト1の後端部1aが前方から挿入される有底の円柱孔23bが形成されている。
【0026】
ケーブルボルト1の後端面1bは、ケーブル材料から切り出した切断面であるので、腐食防止用の被覆がなく金属が露出している状態であるが、後端面1bがキャップ23で閉鎖された空間にあることにより、腐食及び錆の発生が抑制される。更に、キャップ23によって閉鎖された凹部21内には、例えばグリース等の防錆剤27が充填されている。この防錆剤27の存在により、後端部1aが凹部21内で防錆剤27に浸漬された状態になるので、ケーブルボルト1の後端面1bの防錆効果がより大きくなる。なお、凹部21の閉鎖性を高めるために、キャップ23の先端側の周囲にOリングが設置され、キャップ23のヘッド部の前端面とソケット部13の後端面との間に当該Oリングが挟み込まれるようにしてもよい。
【0027】
更にケーブルボルト定着構造3は、凹部21内においてキャップ23とウエッジ19との間に挟み込まれると共に、ケーブルボルト1の後端部1aを挿通させる内側スリーブ29を有している。内側スリーブ29は、円柱状の胴部29cと、前端において胴部29cから径方向に張り出したフランジ29aと、後端において胴部29cから径方向に張り出したフランジ29bと、を有している。フランジ29aはウエッジ19の後端面19sに当接し、フランジ29bは、キャップ23の前端面に当接する。フランジ29aはフランジ29bよりも大径である。キャップ23が、ソケット部13にねじ込まれて前進すると、ソケット部13の前端面により内側スリーブ29が前方に押され、当該内側スリーブ29を介してウエッジ19が前方に押圧される。そうすると、キャップ23からの押圧によってウエッジ19がケーブルボルト1とソケット部13との間に強固に喰い込むので、ウエッジ19の緩みが抑制される。
【0028】
このとき、内側スリーブ29のフランジ29aの存在によって、2つのウエッジ部材19a,19bの後端面19sが均一に押され、互いに面一になり易いので、ウエッジ19が正しい姿勢で挿入され、ウエッジ19によるケーブルボルト1の把持機能が正しく発揮される。また、フランジ29aよりも後方の胴部29cは、フランジ29aよりも小径であるので、当該胴部29cと円筒部17の内壁面17aとの隙間を広くすることができる。よって、施工中においては、例えば、この隙間から作業者の手が入り易く、作業者がウエッジ19の後端の状態を手で触って確認することができる。
【0029】
図3を参照しながら、ケーブルボルト定着構造3を構築するための定着方法について説明する。本実施形態の定着方法は、ウエッジ構造組立工程と、防錆剤充填工程と、キャップ取付工程と、を備えている。
【0030】
図3に示されるように、削孔されたボルト孔103にケーブルボルト1を挿入し、充填材5で定着させる。その後、プレート11とソケット部13とをケーブルボルト1の後端に挿入してボルト設置面101上にセットし、ソケット部13のテーパ部15の内壁面15aとケーブルボルト1との隙間にウエッジ19を挿入する(ウエッジ構造組立工程)。その後、ウエッジ19の後方に内側スリーブ29をセットし、凹部21を埋めるように凹部21内に防錆剤27を充填する(防錆剤充填工程)。その後、工具を用いてキャップ23をソケット部13の後端にねじ込んで凹部21を閉鎖する(キャップ取付工程)。このとき、キャップ23の前進に伴って余剰の防錆剤27が凹部21から外部に溢れ出し、凹部21の空間内に防錆剤27が良好に充填される。また、キャップ23の前進に伴って、内側スリーブ29を介してウエッジ19が前方に押圧され、ウエッジ19がケーブルボルト1とソケット部13との間に強固に喰い込む。
【0031】
続いて、上述したケーブルボルト定着構造3及び定着方法による作用効果について説明する。このケーブルボルト定着構造3によれば、ウエッジ19から後方に突出したケーブルボルト1の後端部1aが凹部21に収納されると共に、キャップ23によって凹部21内が閉鎖される。よって、ソケット部13の後端にキャップ23を取り付けるといった簡易な作業により、ケーブルボルト1の後端部1aを凹部内に閉鎖することができ防錆効果が得られる。また、ソケット部13がウエッジ19よりも後方まで延在する円筒部17を有しているので、上記のウエッジ構造組立工程からキャップ取付工程までの間にウエッジ19が緩みケーブルボルト1から離れた場合にも、ウエッジ19はソケット部13の凹部21内に引っかかるなどして留まり易く、ウエッジ19が下方に落下する可能性が低減される。
【0032】
また、上記の定着方法によれば、キャップ23の取付時に、内側スリーブ29を介してウエッジ19が前方に押圧され、ウエッジ19がケーブルボルト1とソケット部13との間に強固に喰い込むので、ウエッジ19の緩みが抑制される。また、キャップ23を取り付ける前にソケット部13の凹部21に防錆剤27を充填し、防錆剤27を溢れさせながらキャップ23をねじ込むといった簡単な手法で、ケーブルボルト1の後端部1aの防錆処理を更に効率よく行うことができる。なお、本実施形態の定着構造3は、岩盤のゆるみ等に伴う変位によりケーブルボルト1に引張力が生じるものであるので、施工時にはケーブルボルト1に緊張力を導入する作業等は行われない。従って、ケーブルボルト1の後端部1aに引張力を付与するためのボルトを嵌合させる等の作業は必要がなく、ケーブルボルト1が切断され後端部1aがソケット部13の凹部21内に収容されても問題がない。
【0033】
(第2実施形態)
図4(a)は、本発明の第2実施形態に係るケーブルボルト定着構造53を示す正面図であり、図4(b)はその断面図である。また、図5は、ケーブルボルト定着構造53の主要部を示す分解斜視図である。本実施形態に係るケーブルボルト定着構造53において、第1実施形態のケーブルボルト定着構造3と同一又は同等の構成要素には、図面に同一の符号を付して重複する説明を省略するものとする。
【0034】
ケーブルボルト定着構造53は、ケーブルボルト定着構造3におけるキャップ23に代えて、キャップ73を備えている。キャップ73のヘッド部73hは、六角ボルト形状を成しているので、六角レンチ等の汎用的な工具を用いてキャップ取付工程を実行することができる。また、ケーブルボルト定着構造53は、ケーブルボルト定着構造3における内側スリーブ29に代えて、リング状の内側スリーブ79を備えている。内側スリーブ79は、内側スリーブ29が備えるフランジ29a,29bを備えていないが、キャップ73からの押圧力をウエッジ19に伝達する機能を実現することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、実施形態では、内側スリーブ29,79を介してキャップ23,73がウエッジ19を押圧する構造を説明したが、内側スリーブ29,79は必須ではなく、キャップ23,73の前端面がウエッジ19の後端面19sを直接押圧するようにしてもよい。また、実施形態では、キャップ23,73の一部(先端側)のみが凹部21に嵌め込まれる構成を例として説明しているが、これに代えて、全部が凹部21に嵌め込まれるようなキャップを用いてもよい。また、第1実施形態のケーブルボルト定着構造3が備える構成要素と、第2実施形態のケーブルボルト定着構造53が備える構成要素と、を適宜組み合わせて採用してもよい。
【0036】
また、本発明の実施形態として、ケーブルボルト1に係る定着構造3及び定着方法について説明したが、本発明の定着構造及び定着方法におけるケーブルボルトは、岩盤のボルト孔に挿入されて充填材により定着された後に、岩盤のゆるみ等に伴う変位により引張力を発生するものであり、同様の機能を有するものであれば、本発明の定着構造及び定着方法のケーブルボルトに代替できることは言うまでもない。すなわち、本発明の定着構造は、ケーブルボルトの定着構造のみに限られず、ケーブルボルトを含めたアンカーボルト全般の定着構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…ケーブルボルト(アンカーボルト)、1a…後端部、1b…後端面、3,53…ケーブルボルト定着構造、5…充填材、11…プレート、13…ソケット部、15a…内壁面、17a…内壁面、17s…雌ネジ部、19…ウエッジ、19s…後端面、21…凹部、23…キャップ、23s…雄ネジ部、27…防錆剤、29,79…内側スリーブ、29a…フランジ、101…ボルト設置面、103…ボルト孔。
図1
図2
図3
図4
図5