【実施例1】
【0020】
本発明のヘッダープレートレス熱交換器は、偏平チューブ2の積層体からなるコア3と、その外周を被嵌するケーシング6と、コア3の両端に配置された一対のタンク7とを有する。
コア3を構成する偏平チューブ2は、
図2に示すごとく、浅い溝状に形成された一対の上プレート2aと下プレート2bとを互いに逆向きに嵌着したものからなる。上下一対の各プレート2a、2bにはともに、その長手方向の両端部に厚み方向に拡開した拡開部1が形成されている。それとともに、各プレート2a,2bの平面の外面側に多数のディンプル14が千鳥状に配置され、それら各ディンプル14は、隣接するプレートで互いに整合する位置に突設されている。
【0021】
各プレート2a,2bの一方側の拡開部1には、長手方向両端部を残して、その中間部分に入熱抑制手段として細長い切欠き1aが形成されている。この切欠き1aは、
図3に示す如く、後述する被冷却流体8が流入し易い中間部分がろう付けしろtを残して、より大きく切除され、入熱抑制手段20を形成している。なお、この実施例では、各プレート2a、2bの長手方向両端部には、
図3のごとく、被冷却流体8があまり流通しないので、切除する必要がない。また、その両端部はケーシング6に近接して、ケーシング6および、そのマニホールド用溝部18からの伝熱がより多く存在するので、入熱抑制手段20を設けなくともよい。
【0022】
また、この例では、切欠き1aを設けた拡開部1に近接して、突条10aが拡開部1に平行に且つ、拡開部1の高さと同一高さに形成されている。この突条10aは、偏平チューブ2の幅方向一端から1/3以上の長さで、各プレート2a、2bの外面側に一体的に突出されている。
各偏平チューブ2の切欠き1a及び凸条10aは、一対の上下プレート2a、2bで整合する位置に設けられている。偏平チューブ2の拡開部1との間で狭水路11を形成する凸条10aには、その根元部に冷却水案内用の凸部12が一体に設けられている(狭水路11と反対側の位置に設けられる)。この凸部12は、突条10aの根元部に滞留しがちな、冷却水9を突条10aの先端側に導く。さらに、凸部12はケーシング6とも接合され、冷却水9が突条10aの根元から冷却水出口5bに直接バイパスされるのを防止している。それらを積層したとき、各偏平チューブ2の拡開部1、突条10a、凸部12、ディンプル14は、それぞれ互いに接触するように構成されている。そして、それらの接触部が一体的にろう付け固定されてコア3を構成する。このとき、突条10aと拡開部1との間に峡水路11が形成される。
【0023】
この例では、凸条10aは拡開部1に沿って、1本のみ設けられているが、
図5に示す如く、複数の凸条10(
図5の例では、凸条10a、10b、10cの3本)を千鳥状に突設して、冷却水9を蛇行させるようにしてもよい。このようにすることにより、冷却水9は多パスに流れ、滞留をなくしてより均一な温度分布となる。複数の凸条10を設ける場合、凸部12は少なくとも、拡開部1に最も近い位置の凸条10aの根元に設けられることが望ましい。
また、
図6の例で示すように、凸条10a、10b、10cの間隔を狭めて、切欠き1aが設けられている拡開部1側に片寄らせて配置することもできる。この場合、第1突条10aに隣接する狭水路11に対向する水路(第1突条10aと第2突条10bからなる)も狭くなっている。
第2突条10bが第1突条10aから離れた位置に設けられている場合、狭水路11に対向する水路の位置では、まだ被冷却流体8が高温の状態であるため、狭水路11に対向する位置で冷却水9の沸騰が起こる可能性がある。それを避けるため、間隔を狭めて配置することは効果的にスケールを防止することになる。
【0024】
次に、コア3の外周にケーシング6が被嵌し、その長手方向両端に一体に一対のタンク7を設ける。このケーシング6は、箱状に形成されたケーシング本体とその開口を閉塞する蓋部材とからなる。そのケーシング6には、コア3の両端の両側に位置し、4つの冷却水マニホールド用溝部18が外側に突設形成されている。この冷却水マニホールド用溝部18は、コア3の積層方向の全長に渡って形成されている。
【0025】
そのマニホールド用溝部18のうち1つは、冷却水9の冷却水出口5bに連通する。そして、この冷却水出口5bが設けられる位置に隣接して、コア3に設けられた各狭水路11を配置し、コア3をケーシング6内に設置する。このとき、冷却水マニホールド用溝部18の幅方向の中心線は、各偏平チューブ2の各峡水路11の中心に位置する。この状態で、コア3が配置されることにより、偏平チューブ2の拡開部1に設けられた切欠き1aは、被冷却流体8の流れ方向上流部に対向されて配置される。
冷却水入口5a、冷却水出口5bは冷却水マニホールド用溝部18の長手方向の中央に取り付けられる。
【0026】
なお、コア3を構成する各偏平チューブ2およびケーシング6の部材には、その組成(重量%:%と略記する)が、少なくともCrが19%以上、Niが17.5%以上、Moが5.0%以上を含有するステンレス材(いわゆる、スーパーステンレス材)を用いることが望ましい。
具体例を挙げると、JIS規格のSUS312L(20%Cr‐18%Ni‐6%Mo‐0.8%Cu‐0.2%N)、SUS836L(23%Cr‐25%Ni‐5.5%Mo‐0.2%N)を用いることができる。JIS規格以外では、Crが23%、Niが35%、Moが7.5%、Nが0.2%を含むものを用いることができる。
【0027】
上述の組成を含有するスーパーステンレス材を少なくともコア3、ケーシング6に用いることにより、防食効果が向上する。この材料は、後述するタンク7に用いることもできる。
【0028】
また、この例のタンクは、端部に底部7aとその両側に側壁7bを有する箱形に形成されており、一端側のタンク7ではその底部7aに入口15が設けられる。この入口15に近い位置に冷却水出口5bが設けられる。そして、他端側のタンク7の平面にその出口16が配置されている。
このように各部品を組立て、互いに接触する少なくとも一方側にろう材が塗布または被覆され、炉内で一体的にろう付け固定されて熱交換器が完成する。
被冷却媒体8は出口16から排出される。一方で、その一部が凝縮し、出口16側のタンク7の底部に凝縮水が溜まる。この凝縮水を排出するために出口16側のタンク7の底部には、図示しない排水パイプが設けられる。
【0029】
(作用)
この例では、燃料電池からの排ガスである被冷却流体8が、
図1において、左側のタンク7の入口15から、各偏平チューブ2の内部を流通して、右側のタンク7の出口16を介して外部に導かれる。また、冷却水9は冷却水入口5aから流入し、各偏平チューブ2の外面側を流通して冷却水出口5bに導かれる。
この冷却水9は突条10の先端側に導かれて、突条10と拡開部1との間の峡水路11を通り、冷却水出口5bに導かれる。峡水路11は、その横断面が比較的狭く形成されているため、そこで流速を増す。
なお、冷却水9は偏平チューブ2の拡開部1には流通しない。拡開部1で偏平チューブ2どうしが積層されているからである。
【0030】
そこで、偏平チューブ2の拡開部1の長手方向中間部は、入熱抑制手段20として、切欠き1aが設けられており、被冷却媒体8の入熱を小さくする。それにより、冷却水9の沸騰をより効果的に抑制することができる構造となっている。
なお、各偏平チューブ2内には拡開部1を除き、インナーフィン13が配置される。そして、各峡水路11を流通した冷却水9は、それぞれ冷却水マニホールド用溝部18内に導かれ、冷却水出口5bから外部に排出される。
この例では、冷却水出口5b、冷却水入口5aがケーシング6の同一側に配置されたが、それらが対角位置に存在してもよい。
【0031】
図3は偏平チューブ2の拡開部1の切欠き1aにおける、高温の被冷却流体8の流速分布図である。同図から明らかなように、その流速は拡開部1の切欠き1aの中間が速く、周辺(端部)では遅い。そこで、流速の速い中間部で、欠切き1aの幅を狭く形成し、入熱を可及的に小さくし、冷却水の沸騰および、それに伴うスケール(炭酸カルシウムなど)の堆積を防止する。
図4は
図3のIV−IV矢視図である。
図4で拡開部1には冷却水は流通せず、峡水路11を流通する。