特許第6302405号(P6302405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6302405ヘテロ接合太陽電池を処理する方法および太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302405
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ヘテロ接合太陽電池を処理する方法および太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0747 20120101AFI20180319BHJP
【FI】
   H01L31/06 455
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-518013(P2014-518013)
(86)(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公表番号】特表2014-523125(P2014-523125A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】IB2012053204
(87)【国際公開番号】WO2013001440
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】1155716
(32)【優先日】2011年6月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506423291
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】リベイロン ピエール−ジャン
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−294830(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/096396(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0243036(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
痕跡量を除きホウ素原子を含まないn型太陽電池を処理する方法であって、該方法は以下のステップ、すなわち、
中心結晶シリコン層(1)を備え、その上及び/又は下に、水素化アモルファスシリコンから作製されたパッシベーション層(2及び3)が配置される、n型ヘテロ接合太陽電池を準備するステップと、
前記n型太陽電池が、少なくとも1つの光源からの、加熱に関して強度が制限される所定の光束に晒されている間に、加熱チャンバ、炉またはホットプレート内で、該電池を、30分から12時間の間の所定の処理時間、55℃と80℃との間の温度まで加熱するステップと、
を含み、
前記n型ヘテロ接合太陽電池の加熱が、それらの効率を向上させ安定化させる、方法。
【請求項2】
前記光束は、100W/m以上である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記光束は、250W/m以上である、請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記光束は、500W/m以上である、請求項2に記載の処理方法。
【請求項5】
前記所定の処理時間は、約10時間である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項6】
照明の下での前記加熱するステップは連続的又は逐次である、請求項1〜のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項7】
提供される前記n型ヘテロ接合太陽電池は、その表面に金属電極(6及び7)を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記n型ヘテロ接合太陽電池は、少なくとも1つの反射防止層を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって太陽電池を製造する方法であって、前記太陽電池の開放電圧絶対値|Voc|が初期絶対値|Vocinitialより大きいことを特徴とする、太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池を、その効率を向上させかつ安定化するために処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ接合太陽電池は、同じ材料の2つのゾーンを連結することによって形成されるホモ接合電池とは対照的に、2つの半導体、すなわち結晶シリコン及びアモルファスシリコンを連結することによって形成される。
【0003】
より具体的には、ヘテロ接合電池は、図1を参照すると、結晶シリコンから作製された中心層1を備え、その上下に、アモルファスシリコンから作製された、「パッシベーション層」と呼ばれる2つの層2及び3、すなわち上層2及び下層3が配置されている。
【0004】
中心層1として使用されるシリコン基板は、n型である(CZ又はFZ)結晶基板であり、すなわち、具体的には、このシリコン基板は、痕跡量を除きその大部分においてホウ素原子を含まない(痕跡量は、本発明では、[B]と示すホウ素の濃度が0at/cmと1×1016at/cmとの間であるものとして定義する)。
【0005】
本発明に関連して、パッシベーション層2及び3は、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)から作製される。
【0006】
結晶シリコン基板1は、太陽電池の性能を最大限にするために可能な最小量の不純物を含まなければならない。同様に、電池の端子間の非常に優れた電圧を保証するために、結晶シリコン1とアモルファスシリコンa−Si:Hの層2及び3との間の界面に対し、堆積前に可能な限り完全に洗浄しパッシベーションを行わなければならない。これらの洗浄には、有機粒子及び金属粒子を除去するという目的があるが、表面上の残留表面欠陥の全てを水素で飽和するという目的もある。パッシベーションを促進するために、有効性の異なる幾つかの異なる洗浄がある。同様に、アモルファスシリコン層2及び3の性質、その厚さ及びドーピングを変化させることにより、パッシベーションを促進することができる。
【0007】
各アモルファスシリコン層2及び3は、透明導電性酸化物の層、すなわちそれぞれ上層4及び下層5で覆われる。
【0008】
使用時に光束を受け取るように意図されているため「正面」と呼ばれる、透明導電性酸化物層4の自由面に、金属電極6が配置され、正面とは対照的に「裏面」と呼ばれる透明導電性酸化物層5の自由面に、金属電極7が配置される。
【0009】
陽子がシリコン層1、2及び3内に入るのを可能にするために、電極6は金属格子から構成される。
【0010】
電極7を、(電極6のように)格子とするか、又は連続層とすることができる。この場合、陽子は、この不透明層を通過してシリコン層1、2及び3に達することができない。
【0011】
De Wolf他による論文(非特許文献1)は、水素化アモルファスシリコンでパッシベーションが行われた結晶シリコンから作製された領域に対する光誘発性劣化(LID:light induced degradation)の影響を研究している。この研究の目的は、パッシベーションの質を定義するのみであるパラメータτeff(電荷キャリア寿命(charge carrier lifetime))を用いて、アモルファスシリコンのバルク及び界面の欠陥の性質及び安定性を分析することである。この論文は、いかなる改善も、又はヘテロ接合太陽電池の性能(特に効率)の安定性さえも提案していない。反対に、この論文(図1b)は、照明の下での時間の関数としてのこの係数の変動が、a−Si:H/c−Si(111)に対してかつa−Si:H/c−Si(100)に対し、その係数が、わずかな向上の後、6時間後に低下するため、それほど良くないことを示している。
【0012】
太陽電池の効率を向上させるために、電池が電圧下にある間に電池に対して熱処理(50℃と230℃との間にある温度まで電池を加熱)を施すことがすでに提案されている。この種の処理は、ホウ素原子でドープされたシリコンから作製された電池に対してすでに確保されている。特に、こうした電池では、使用中(すなわち、照明されるとき)エネルギー変換効率が低下する可能性がある。この影響は、照明中の、置換位置にあるホウ素原子(B)及び酸素二量体(Oi2)を結び付ける複合体の形成に関連する。照明中、可動性の酸素二量体は、不動のホウ素原子に向かって拡散する。形成された複合体は、シリコンのバンドギャップ内に深いエネルギー準位を導入し、それにより、自由電荷が再結合することになり、したがって、電荷キャリアの寿命と電池のエネルギー変換効率とが低下する。
【0013】
n型ヘテロ接合電池(すなわち、中心層1に対して使用されるシリコン基板が痕跡量を除きホウ素を含まない、ヘテロ接合電池)に対して、本出願人は、この電池が痕跡量を除きホウ素を含まなくても、この電池の効率を向上させるように適合させることができることを発見した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Physical Review B, vol. 83, no. 23, 7 June 2011, pages 233301-1 - 233301-4, XP55025598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、ホウ素を含まないn型太陽電池を処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的に対して、本発明は、20℃と200℃との間の温度で行われる熱処理中にn型ヘテロ接合電池を照明することを提案する。
【0017】
より具体的には、本発明は、痕跡量を除きホウ素原子を含まないn型太陽電池を、それらの効率を向上させ安定化するために処理する方法であって、本方法は以下のステップ、すなわち、
中心結晶シリコン層を備え、その上及び/又は下に、水素化アモルファスシリコンから作製されたパッシベーション層が配置される、n型ヘテロ接合太陽電池を準備するステップと、
太陽電池が所定の光束に晒されている間に、この電池を、所定の処理時間、20℃と200℃との間の温度まで加熱するステップと、
を含む、方法に関する。
【0018】
他の実施形態において、
光束は、100W/m以上、好ましくは250W/m以上、有利には500W/m以上とすることができる。
【0019】
所定の処理時間は、48時間未満であり、好ましくは30分間と12時間との間であり、有利には約10時間とすることができる。
【0020】
加熱温度は、好ましくは20℃と150℃との間であり、有利には35℃と80℃との間であり、通常は55℃と80℃との間とすることができる。
【0021】
照明の下での加熱するステップは連続的又は逐次であることができる。
【0022】
提供されるn型ヘテロ接合太陽電池は、その表面に金属電極、及び/又は電池内への光子の透過を促進する反射防止層を含むことができる。
【0023】
本発明はまた、上記の方法によって得られた太陽電池であって、開放電圧絶対値|Voc|が初期絶対値|Vocinitialより大きい、太陽電池に関する。
【0024】
本発明の他の特徴は、それぞれ以下を示す添付の図面を参照して与えられる以下の詳細な説明に述べられている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に関連して使用されるヘテロ接合電池の概略斜視図である。
図2】本発明による方法を実施する装置の概略断面図である。
図3】本発明による処理が施されるヘテロ接合電池のパッシベーションの改善を示すグラフである。
図4】3.5Aと5Aとの間の光束強度に対して、ヘテロ接合電池のパッシベーションにおける最終的な改善に対する、入射照明光束の強度の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による太陽電池を処理する方法は、n型である、すなわち痕跡量を除きホウ素原子を含まない([B]と示すホウ素の濃度が0at/cmと1×1016at/cmとの間)ヘテロ接合太陽電池を提供する第1のステップを含む。電池は、結晶シリコンから作製された中心層1を含み、その上下に、水素化アモルファスシリコンから作製された2つのパッシベーション層2及び3が配置される。
【0027】
アモルファスシリコン層2及び/又は3のうちの少なくとも一方に対して、ドープ又は微量ドープすることが有利である。より詳細には、層2にp型ドーパントをドープする(又は微量ドープする)ことができ、層3にn型ドーパントでドープ(又は微量ドープ)することができる。1つの特定の場合において、層3を真性、すなわち非ドープとすることができる(真性半導体は、電気的挙動が、ドーピングの場合のように不純物の追加によらず、その構造のみによって決まる半導体である。真性半導体において、電荷キャリアは、結晶欠陥によってかつ熱励起によって生成される。伝導帯における電子の数は、価電子帯における正孔の数に等しい)。
【0028】
アモルファスシリコン層2及び/又は3は、厚さが35nm以下であることが好ましい。層2及び/又は3がドープ(又は微量ドープ)アモルファスシリコンから作製される場合、それらの厚さは15nmと20nmとの間であることが有利である。層3が真性a−Siから作製される場合、その厚さは、10nm以下であることが有利である。
【0029】
次に、太陽電池は、所定の光束に晒されている間に、所定の処理時間、20℃と200℃との間の温度まで加熱される。
【0030】
照明の下での加熱ステップの温度は、20℃と150℃との間、有利には35℃と80℃との間、通常は55℃と80℃との間であることが好ましい。
【0031】
n型太陽電池を処理する方法の間に行われる、照明の下で加熱するこのステップの前に、(例えば220℃の温度での)長いアニーリングステップは行われない。約200℃の温度で行われることが多い唯一のアニーリングステップは、電池のメタライゼーションを形成するために行われるステップである。
【0032】
屋外又は炉等の加熱チャンバ内で処理を行うことができる。圧力、雰囲気又は湿度が制御されるチャンバ内で処理を行う必要はない。
【0033】
使用される装置の簡易化された概略図を図2に示す。当該電池10は、ホットプレート20上にかつ光源30の下に配置される。
【0034】
1つ又は複数の光源で作業することができる。
【0035】
さらに、ホットプレート20を、所望の温度の炉40と置き換えることができる。
【0036】
したがって、記載する発明は、洗浄プロセス又は層の性質に対する変更を行うことなく(そうした変更はすでに掘り下げて考察されている)、所与の堆積した活性層/洗浄の組合せに対して表面パッシベーションを更に改善するように提案する。温度での照明は、洗浄のステップとパッシベーション層2及び3を堆積するステップの後に行われる。そして、照明は、電池の製造中(層4〜5及び/又は電極6〜7は堆積していない)に、又は完成した電池(層4〜5及び電極6〜7は堆積している)に対して更に行うことができる。
【0037】
本発明による方法が完成した電池に適用される場合、表面及び裏面にメタライゼーション格子がある従来のヘテロ接合電池の場合、光束を、正面を介して又は裏面を介して施すことができる。裏面(例えば連続した金属層)に対して不透明メタライゼーションが使用される場合、照明は、必ず正面に施されなければならない。
【0038】
照明時間の関数としてのパッシベーションの改善(Voc)の一例を図3に示す。経時的に飽和する傾向にあるパッシベーションの連続的な改善について示す。言い換えれば、一定の照明及び加熱に関して、閾値長さの時間を超えて処理を継続することは無意味である。
【0039】
本発明による処理時間は48時間未満であり、30分間と12時間との間であることが好ましい。処理時間は、少なくとも100W/m、好ましくは250W/m以上、有利には500W/m以上である光束に対して、約10時間であることが有利である。
【0040】
照明に関して、本方法を正確に作動させるために十分な量のエネルギーを提供することが必要である。
【0041】
概して、光強度が高いほど、効率に対する影響はより大きくかつより急速になる。したがって、工業上の観点から、高い照明出力を用いる処理方法を使用することが有利である。
【0042】
電池は、500W以上の出力のハロゲンバルブで照明されることが好ましい。しかしながら、入射照明のいかなる出力でもパッシベーションの改善が観察される。しかしながら、照明の強度が低下するほど、パッシベーションの改善は小さくなり、特に、本方法の工業化に関して、反応速度は低速になる。したがって、図4が示すように、照明の出力は、パッシベーションの改善の大きさ及び反応速度に重要な影響を与える。等しい加熱温度に対して、3.5A(実線)及び4A(破線)の光束強度で照明される電池は、5A(点線)の光束強度で照明される電池よりはるかに急速に、かつより低いパッシベーション値で飽和する。
【0043】
処理される電池の特徴に応じて、施される照明の出力上限を決めるために、照明によってもたらされる電池の加熱を考慮する必要がある。具体的には、n型ヘテロ接合電池は、200℃以上の温度で劣化する。したがって、入射光束の強度は加熱に関して制限されることを考慮する必要がある。この理由は、加熱により、ホットプレート又は炉によって提供される熱が追加されるためである。
【0044】
本発明によれば、プレート又は炉の加熱温度は、20℃と200℃との間であり、35℃と80℃との間であることが有利である。これは、基板のタイプに、かつ使用されるパッシベーション層のタイプによって大きく決まる。
【0045】
本発明の他の特徴によれば、n型ヘテロ接合太陽電池は、RCCとすることもでき、すなわち、メタライゼーション及び活性層の全てが電池の裏面にまとめてグループ化される。それにより、裏面を、水素化アモルファス層堆積物によってパッシベーションが行われる唯一の面とすることができる。したがって、表面堆積物は、入射光束に対して可能な限り透明であり、優れた表面パッシベーションを提供する場合、重要ではない。
【0046】
さらに、本発明による方法は連続的であることが有利であるが、逐次であってもよく、すなわち、中断された後に再開されてもよい。
【0047】
提供されるn型ヘテロ接合太陽電池は、電池内への光子の透過を促進する反射防止層を含むことができる。
図1
図2
図3
図4