(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るガスセンサ(NOxセンサ)1の縦断面図(軸線AXに沿って切断した断面図)、
図2は、ガスセンサ素子10の軸線AXに沿う断面図、
図3はガスセンサ素子のIp2−電極133近傍の分解斜視図である。
【0013】
ガスセンサ1は、測定対象ガスである排ガス中の特定ガス(NOx)の濃度を検出可能なガスセンサ素子10を備え、内燃機関の排気管(図示なし)に装着されて使用されるNOxセンサである。このガスセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部21が外表面の所定位置に形成された筒状の主体金具20を備える。ガスセンサ素子10は、軸線AX方向に延びる細長板状をなし、主体金具20の内側に保持されている。
さらに詳しくは、ガスセンサ1は、ガスセンサ素子10の後端部10k(
図1において上端の部位)が挿入される挿入孔62を有する保持部材60と、この保持部材60の内側に保持された6個の端子部材とを備える。なお、
図1では、6個の端子部材のうち2個の端子部材(具体的には、端子部材75,76)のみを図示している。
【0014】
ガスセンサ素子10の後端部10kには、平面視矩形状の電極端子部13〜18(
図1では、電極端子部14、17のみ図示)が合計6個形成されている。電極端子部13〜18には、それぞれ、前述の端子部材が弾性的に当接して電気的に接続している。例えば、電極端子部14には、端子部材75の素子当接部75bが弾性的に当接して電気的に接続している。また、電極端子部17には、端子部材76の素子当接部76bが弾性的に当接して電気的に接続している。
さらに、6個の端子部材(端子部材75,76など)には、それぞれ、異なるリード線71が電気的に接続されている。例えば、
図1に示すように、端子部材75のリード線把持部77によって、リード線71の芯線が加締められて把持される。また、端子部材76のリード線把持部78によって、他のリード線71の芯線が加締められて把持される。
【0015】
主体金具20は、軸線AX方向に貫通する貫通孔23を有する筒状部材である。この主体金具20は、径方向内側に突出する形態で貫通孔23の一部を構成する棚部25を有している。主体金具20は、ガスセンサ素子10の先端部10sを自身の先端側外部(
図1において下方)に突出させると共に、ガスセンサ素子10の後端部10kを自身の後端側外部(
図1において上方)に突出させた状態で、ガスセンサ素子10を貫通孔23内に保持している。
また、主体金具20の貫通孔23の内部には、環状のセラミックホルダ42、滑石粉末を環状に充填してなる2つの滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が配置されている。詳細には、ガスセンサ素子10の径方向周囲を取り囲む状態で、セラミックホルダ42、滑石リング43,44、及びセラミックスリーブ45が、この順に、主体金具20の軸線方向先端側(
図1において下端側)から軸線方向後端側(
図1において上端側)にわたって重ねて配置されている。
【0016】
また、セラミックホルダ42と主体金具20の棚部25との間には、金属カップ41が配置されている。また、セラミックスリーブ45と主体金具20のカシメ部22との間には、加締リング46が配置されている。なお、主体金具20のカシメ部22が、加締リング46を介してセラミックスリーブ45を先端側に押し付けるように、加締められている。
主体金具20の先端部20bには、ガスセンサ素子10の先端部10sを覆うように、複数の孔を有する金属製(具体的にはステンレス)の外部プロテクタ31及び内部プロテクタ32が、溶接によって取り付けられている。一方、主体金具20の後端部には、外筒51が溶接によって取り付けられている。外筒51は、軸線AX方向に延びる筒状をなし、ガスセンサ素子10を包囲している。
【0017】
保持部材60は、絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、軸線AX方向に貫通する挿入孔62を有する筒状部材である。挿入孔62内には、前述した6個の端子部材(端子部材75,76など)が配置されている(
図1参照)。保持部材60の後端部には、径方向外側に突出する鍔部65が形成されている。保持部材60は、鍔部65が内部支持部材53に当接する態様で、内部支持部材53に保持されている。なお、内部支持部材53は、外筒51のうち径方向内側に向けて加締められた加締部51gにより、外筒51に保持されている。
保持部材60の後端面61上には、絶縁部材90が配置されている。絶縁部材90は、電気絶縁性材料(具体的にはアルミナ)からなり、円筒状をなす。この絶縁部材90には、軸線AX方向に貫通する貫通孔91が合計6個形成されている。この貫通孔91には、前述した端子部材のリード線把持部(リード線把持部77,78など)が配置されている。
【0018】
また、外筒51のうち軸線方向後端部(
図1において上端部)に位置する後端開口部51cの径方向内側には、フッ素ゴムからなる弾性シール部材73が配置されている。この弾性シール部材73には、軸線AX方向に延びる円筒状の挿通孔73cが、合計6個形成されている。各々の挿通孔73cは、弾性シール部材73の挿通孔面73b(円筒状の内壁面)によって構成されている。各々の挿通孔73cには、リード線71が1本ずつ挿通されている。各々のリード線71は、弾性シール部材73の挿通孔73cを通じて、ガスセンサ1の外部に延出している。弾性シール部材73は、外筒51の後端開口部51cを径方向内側に加締めることで径方向に弾性圧縮変形し、これにより、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとを密着させて、挿通孔面73bとリード線71の外周面71bとの間を水密に封止している。
【0019】
一方、
図2に示すように、ガスセンサ素子10は、板状の固体電解質体111、121、131と、これらの間に配置された絶縁体140、145とを備え、これらが積層方向に積層された構造を有する。さらに、ガスセンサ素子10には、固体電解質体131の裏面側に、ヒータ161が積層されている。このヒータ161は、アルミナを主体とする板状の絶縁体162、163と、その間に埋設されたヒータパターン164(Ptを主体としている)とを備えている。
【0020】
固体電解質体111、121、131は、固体電解質であるジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体111の表面側には、多孔質のIp1+電極112が設けられている。また、固体電解質体111の裏面側には、多孔質のIp1−電極113が設けられている。Ip1+電極112及びIp1−電極113は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Ip1+電極112にはIp1+リードが接続されている(図示せず)。又、Ip1−電極113にはIp1−リード(図示せず)が接続されている。Ip1+リード及びIp1−リードは、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されているが、Ip1+電極112及びIp1−電極113と異なり、緻密に形成されている。このため、Ip1+リード及びIp1−リードは、非透水性を有している。
また、Ip1+電極112(とIp1+リード)の表面側(
図2において上面側)の一部には、Ip1+電極112を覆うようにしてアルミナ等からなるガス非透過性の保護層115が積層されている。なお、本実施形態では、Ip1+電極112の側面からポンピングした酸素を出し入れするが、例えばIp1+電極112上の保護層115をくり貫いてガス透過性の多孔質層を配置し、Ip1+電極112の上面からポンピングした酸素を出し入れしてもよい。
【0021】
固体電解質体111及び電極112、113は、Ip1セル110(第1ポンプセル)を構成する。このIp1セル110は、電極112、113間に流すポンプ電流Ip1に応じて、電極112の接する雰囲気(ガスセンサ素子10の外部の雰囲気)と電極113の接する雰囲気(後述する第1測定室150内の雰囲気)との間で酸素の汲み出し及び汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
【0022】
固体電解質体121は、絶縁体140を挟んで、固体電解質体111と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体121の表面側(
図2において上面側)には、多孔質のVs−電極122が設けられている。また、固体電解質体121の裏面側(
図2において下面側)には、多孔質のVs+電極123が設けられている。Vs−電極122及びVs+電極123は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Vs−電極122にはVs−リード(図示せず)が接続され、Vs+電極123にはVs+リード(図示せず)が接続されている。Vs−リード及びVs+リードは、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されているが、Vs−リードはVs−電極122及びVs+電極123と異なり、緻密に形成されている。このため、Vs−リードは、非透水性を有している。一方Vs+リードはVs+電極123及びVs−電極122と同時に形成されるため、多孔質に形成されている。
【0023】
固体電解質体111と固体電解質体121との間には、ガスセンサ素子の内部空間としての第1測定室150が形成されている。この第1測定室150は、排気通路内を流通する排ガスが、ガスセンサ素子10内に最初に導入される内部空間であり、ガス透過性及び透水性を有する第1多孔質体(図示なし)を通じてガスセンサ素子10の外部と連通している。第1多孔質体151は、ガスセンサ素子10の外部との仕切りとして、第1測定室150の側方に設けられており、第1測定室150内への排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する。
第1測定室150の後端側(
図2において右側)には、第1測定室150と後述する第2測定室160との間の仕切りとして、排ガスの単位時間あたりの流通量を制限する第2多孔質体152が設けられている。
【0024】
固体電解質体121及び電極122、123は、Vsセル120を構成する。このVsセル120は、主として、固体電解質体121により隔てられた雰囲気(電極122の接する第1測定室150内の雰囲気と、電極123の接する基準酸素室170内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。
【0025】
固体電解質体131は、絶縁体145を挟んで、固体電解質体121と積層方向に対向するように配置されている。固体電解質体131の表面側(
図2において上面側)には、多孔質のIp2+電極132と多孔質のIp2−電極133が設けられている。Ip2+電極132及びIp2−電極133は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されており、ガス透過性及び透水性を有している。
又、Ip2+電極132にはIp2+リード134(
図3参照)が接続され、Ip2−電極133にはIp2−リード135(
図3参照)が接続されている。Ip2+リード134及びIp2−リード135は、Pt粉末とセラミック粉末とを含むサーメットにより形成されている。Ip2+リード134はIp2+電極132及びIp2−電極133と同時に形成されるため、多孔質に形成されている。このため、Ip2+リード134は、ガス透過性及び透水性を有している。。一方Ip2−リード135はIp2+電極132及びIp2−電極133と異なり、緻密に形成されている。このため、Ip2−リードは、非透水性を有している。
【0026】
Ip2+電極132とVs+電極123との間には、孤立した小空間としての基準酸素室170が形成されている。この基準酸素室170は、絶縁体145に形成されている開口部145bにより構成されている。なお、基準酸素室170内のうちIp2+電極132側には、セラミックス製の多孔質体が配置されている。
また、Ip2−電極133と積層方向に対向する位置には、ガスセンサ素子の内部空間としての第2測定室160が形成されている。この第2測定室160は、絶縁体145を積層方向に貫通する開口部145cと、固体電解質体121を積層方向に貫通する開口部125と、絶縁体140を積層方向に貫通する開口部141とにより構成されている。
第1測定室150と第2測定室160とは、ガス透過性及び透水性を有する第2多孔質体152を通じて連通している。従って、第2測定室160は、第1多孔質体151、第1測定室150、及び第2多孔質体152を通じて、ガスセンサ素子10の外部と連通している。
【0027】
固体電解質体131及び電極132、133は、NOx濃度を検知するためのIp2セル130(第2ポンプセル)を構成する。このIp2セル130は、第2測定室160内で分解されたNOx由来の酸素(酸素イオン)を、固体電解質体131を通じて、基準酸素室170に移動させる。このとき、電極132及び電極133の間には、第2測定室160内に導入された排ガス(測定対象ガス)に含まれるNOxの濃度に応じた電流が流れる。
【0028】
なお、本実施形態では、次のようにして、各電極112、113、122、123、132、133を形成している。具体的には、まず、100重量部のPt粉末と14重量部のセラミック粉末と10重量部の有機バインダー(例えば、エチルセルロース)を混合し、この混合物に対し所定量の溶媒を加えて、電極用ペーストを作製する。次いで、この電極用ペーストを対応する固体電解質体の表面側及び裏面側に塗工する。その後、加熱により有機バインダを消失させて、多孔質の各電極112、113、122、123、132、133が形成される。
【0029】
又、本実施形態では、次のようにして、各電極112、113、122、133に接続される上記した各リードを形成している。具体的には、まず、100重量部のPt粉末と18重量部のセラミック粉末と5重量部の有機バインダー(例えば、エチルセルロース)を混合し、この混合物に対し所定量の溶媒を加えて、リード用ペーストを作製する。次いで、このリード用ペーストを対応する固体電解質体の表面側及び裏面側に塗工する。その後、加熱により有機バインダを消失させて、各リードが形成される。
ところで、各電極112、113、122、133に接続されるリード用ペーストは、前述の電極用ペーストに比べて、有機バインダーの添加量を少量(約半分の量)にしている。このように、加熱により消失して内部空孔を形成する有機バインダの添加量を少量とすることで、内部空孔の少ない緻密なリードが形成される。一方、各電極123、132に接続されるリード用ペーストは電極用ペーストと同じものを用いて、電極用ペーストと同時に形成される。
【0030】
又、本実施形態では、固体電解質体111の表面上のIp1+電極112を除く部位に、アルミナ絶縁層118が形成され、Ip1+電極112はアルミナ絶縁層118を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体111と接触する。
さらに、固体電解質体111の裏面上のIp1−電極113を除く部位には、アルミナ絶縁層119が形成され、Ip1−電極113はアルミナ絶縁層119を積層方向に貫通する貫貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体111と接触する。
【0031】
さらに、本実施形態では、固体電解質体121の表面上のVs−電極122を除く部位に、アルミナ絶縁層128が形成され、Vs−電極122はアルミナ絶縁層128を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
さらに、固体電解質体121の裏面上のVs+電極123を除く部位に、アルミナ絶縁層129が形成され、Vs+電極123はアルミナ絶縁層129を積層方向に貫通する貫通孔(図示せず)を通じて、固体電解質体121と接触する。
【0032】
さらに、本実施形態では、固体電解質体131の表面上のIp2+電極132を除く部位に、アルミナ絶縁層138が形成され、Ip2+電極132はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔138a(
図3参照)を通じて、固体電解質体131と接触する。さらに、固体電解質体131の表面上のIp2−電極133を除く部位にも、アルミナ絶縁層138が形成され、電極133はアルミナ絶縁層138を積層方向に貫通する貫通孔138b(
図3参照)を通じて、固体電解質体131と接触する。
なお、Ip2−電極133は、電極本体部133yと、電極本体部133yのIp2−リード135側の部位に重ねられる補強部133xとからなるが、電極本体部133yと補強部133xは電極の焼成後は一体となってIp2−電極133を構成する。
【0033】
以上のように、電極112、113、122、123、132、133のうち、各アルミナ絶縁層の貫通孔を通して対応する固体電解質体に接触させることで、実際に感応部として機能させる電極の面積を一定とすることができ、測定対象であるガス濃度を精度良く検知することが可能となる。なお、各リードは、対応する電極112、113、122、133とは電気特性が異なるため、リードやこれと接続した接続部の一部が固体電解質と接触する構成とした場合は、接触させない本実施形態と比べて、ガス濃度の検知精度が劣ることになる。
【0034】
ここで、本実施形態のガスセンサ1によるNOx濃度検知について、簡単に説明する。
ガスセンサ素子10の固体電解質体111、121、131は、ヒータパターン164の昇温に伴い加熱され、活性化する。これにより、Ip1セル110、Vsセル120、及びIp2セル130が動作するようになる。
排気通路(図示なし)内を流通する排ガス(測定対象ガス)は、第1多孔質体(図示なし)による流通量の制限を受けつつ第1測定室150内に導入される。このとき、Vsセル120には、電極123側から電極122側へ微弱な電流Icpが流されている。このため、排ガス中の酸素は、負極側となる第1測定室150内の電極122から電子を受け取ることができ、酸素イオンとなって固体電解質体121内を流れ、基準酸素室170内に移動する。つまり、電極122、123間で電流Icpが流されることによって、第1測定室150内の酸素が基準酸素室170内に送り込まれる。
【0035】
第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より薄い場合、電極112側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、ガスセンサ素子10の外部から第1測定室150内へ酸素の汲み入れを行う。一方、第1測定室150内に導入された排ガスの酸素濃度が所定値より濃い場合、電極113側が負極となるようにIp1セル110に電流Ip1を流し、第1測定室150内からガスセンサ素子10外部へ酸素の汲み出しを行う。
このように、第1測定室150において酸素濃度が調整された排ガスは、第2多孔質体152を通じて、第2測定室160内に導入される。第2測定室160内で電極133と接触した排ガス中のNOxは、電極132、133間に電圧Vp2を印加されることで、電極133上で窒素と酸素に分解(還元)され、分解された酸素は、酸素イオンとなって固体電解質体131内を流れ、基準酸素室170内に移動する。このとき、第1測定室150で汲み残された残留酸素も同様に、Ip2セル130によって基準酸素室170内に移動する。これにより、Ip2セル130には、NOx由来の電流及び残留酸素由来の電流が流れる。
なお、基準酸素室170内に移動した酸素イオンは、基準室内に接するVs+電極123とVs+リード、及びIp2+電極132とIp2+リードを介して外部(大気)に放出される。このため、Vs+リード及びIp2+リードは多孔質となっている。
【0036】
ここで、第1測定室150で汲み残された残留酸素の濃度は、上記のように所定値に調整されているため、その残留酸素由来の電流は略一定とみなすことができ、NOx由来の電流の変動に対し影響は小さく、Ip2セル130を流れる電流は、NOx濃度に比例することとなる。従って、Ip2セル130を流れる電流Ip2を検出し、その電流値に基づいて、排ガス中のNOx濃度を検知することができる。
【0037】
本実施形態では、固体電解質体131、アルミナ絶縁層138、Ip2−電極133、Ip2−リードが、特許請求の範囲に記載の「固体電解質体」、「絶縁層」、「電極部」、「リード部」にそれぞれ相当する。
そこで、
図4〜
図8を参照し、Ip2−電極133及びIp2−リードの詳細な構成及び作用について説明する。
図4はIp2−電極133及びIp2−リード135の上面図、
図5は
図4のA−A線に沿う断面図、
図6は
図4のB−B線に沿う断面図、
図7は
図6の変形例を示す断面図、
図8は、Ip2−電極133の製造方法を示す工程図である。
なお、
図4は保護層115を取り去った状態での上面図を示す。又、
図5〜
図8は、高さ方向の変位を誇張して表示している。
【0038】
図4に示すように、Ip2−電極133は、ガスセンサ素子10の幅方向に長い略矩形状の電極本体部133yと、電極本体部133yのIp2−リード135側の部位に重ねられる補強部133xとを一体に有している。なお、電極の焼成後は電極本体部133yと補強部133xとは区別できなくなり、後述する外周電極部133a、隆起部133b及び主電極部133cを構成するが、説明の便宜上、電極本体部133yと補強部133xとの境界を破線で表す。また、補強部133xの一部は、後述する隆起部を構成し、電極本体部133yの厚みが薄くなって電気抵抗が高くなったり、断線するのを防止する機能を有する。
電極本体部133y(Ip2−電極133)の左後端側の角部は後端側に向かって延出して接続部133dを形成し、Ip2−リード135はアルミナ絶縁層138上及び接続部133d上に配置されている。そして、補強部133xは、接続部133dを含む電極本体部133yの左側の短辺の内側の部位に積層されている。
さらに、Ip2−リード135は先端側に狭幅の先端部135sを有し、先端部135sが補強部133x上に配置されている。なお、本実施形態では、先端部135sの幅W1は、アルミナ絶縁層138上のIp2−リード135の幅W2よりも狭くなっている。
【0039】
図4、
図5に示すように、Ip2−電極133は、アルミナ絶縁層138上に配置された外周電極部133aと、外周電極部133aの内側に形成されてアルミナ絶縁層138の開口138bの周縁138beの少なくとも一部を跨ぐ隆起部133bと、隆起部133bの内側に形成されて開口138bを通して固体電解質体131上に接して配置された主電極部133cとを一体に有している。
そして、
図5に示すように、Ip2−電極133の積層方向に沿う断面を見たとき、隆起部133bと外周電極部133aとは下に向かって凸となる変曲点Pにて接続されている。上述のように、電極の焼成後は電極本体部133yと補強部133xとは区別できないため、電極本体部133yを補強部133xが覆っているかを判別できない。そこで、変曲点Pの有無によって、補強部133xの有無を判別することができる。
つまり、電極本体部133yや補強部133xをペーストの印刷(塗布)等によって形成する場合、ペーストの表面張力と重力との関係で、電極本体部133yや補強部133xの端部はなだらかに垂れ下がり、
図5の積層方向に沿う断面形状は上に向かって凸となる変曲点を有する。一方、電極本体部133y上に補強部133xをペースト印刷等した場合、2回塗りとなるので、断面が上に向かって凸となる電極本体部133y上に、同様に断面が上に向かって凸となる補強部133xが重ねられ、両者の境界部分が下に向かって凸となる変曲点Pとして現れる。
なお、実際のIp2−電極133の厚みは薄いため、その積層方向に沿う断面を見たときに変曲点Pが判別し難いことがある。この場合には、断面像を拡大したり、Ip2−電極133の表面形状を3次元粗さ計や走査プローブ顕微鏡で測定し、その測定データを高さ方向に拡大する等して高さ方向の変位を誇張することで、変曲点Pを判別できる。
【0040】
そして、変曲点Pとして表される補強部133xを設けることにより、ペーストが付き回り難い角部となるアルミナ絶縁層138の開口138bの周縁138beに電極本体部133yの厚みが薄い部位Thが生じても、ペーストの2回塗りに起因する補強部133xによる隆起部133bが周縁138beを跨いで部位Thを覆って厚みを補うので、最終的に得られるIp2−電極133の厚みが薄くなって電気抵抗が高くなったり、断線するのを防止することができる。
なお、Ip2−電極133の焼成後の隆起部133bは、周縁138beを跨ぐ補強部133xとその下層の電極本体部133yによって形成されるものである。また、外周電極部133aは、補強部133xで覆われなかった電極本体部133yである。主電極部133cは、電極本体部133y単体、又は補強部133xと電極本体部133yとの積層部分によって形成されるものである。
このように、電極本体部133yを補強部133xが覆うことで隆起部133bが形成される一方で、変曲点Pにおける外周電極部133aは補強部133xで覆われなかった電極本体部133yの厚みを表す。従って、隆起部133bの最大厚みt1は、変曲点Pにおける外周電極部133aの厚みt2よりも厚くなる。ここで、厚みt1、t2は、アルミナ絶縁層138の上面からの厚みである。又、「最大厚みt1」とは、隆起部133bのうち最も高い部分(ピーク)の厚みである。
【0041】
なお、
図5の右側の変曲点Pのように、隆起部133b上及び外周電極部133a上にIp2−リード135が配置されている部位では、Ip2−リード135の表面の断面形状から変曲点Pを特定すればよい。これは、Ip2−リード135の厚みが比較的薄いため、Ip2−リード135を積層する前の隆起部133bと外周電極部133aの表面の断面形状と、Ip2−リード135の表面の断面形状とはほぼ同一とみなせるからである。
一方、外周電極部133a上にIp2−リード135が配置されている部位では、外周電極部133aの外縁Qは、アルミナ絶縁層138上のIp2−リード135の厚みが外周電極部133a側に向かって厚くなった位置とする。
【0042】
又、本発明においては、Ip2−電極133のうち厚みが厚い隆起部133bが電極本体部133yの厚みが薄い部位Thを覆う為、電極本体部133yの厚みが薄くなって電気抵抗が高くなったり、断線するのを防止する。
さらに、Ip2−リード135が隆起部133bに電気的に接続するので、Ip2−電極133のうち厚みが厚い隆起部133bと外周電極部133aとの焼成時に両者の収縮率が異なっていても、Ip2−電極133とIp2−リード135が断線し難い。これは、Ip2−電極133の厚みが異なる部位の間で焼成時に収縮率の差が生じ、隆起部133bの境界で断線が生じ易くなるが、この部分(隆起部133b近傍)を導電性の良いIp2−リード135で覆うことで、Ip2−電極133とIp2−リード135が断線し難くなるからである。特に、Ip2−電極133がガス透過性の良好な多孔質であって、Ip2−リード135を導電性の良い緻密な組成とした場合など、断線防止の効果が大きい。
なお、隆起部133b上にIp2−リード135(好ましくはIp2−リード135の先端部135s)が配置されていることは、両者の気孔率の差を例えばSEM(走査型電子顕微鏡)で観察する事で判別できる。
【0043】
又、
図6に示すように、主電極部133cの最小厚みt3がアルミナ絶縁層138の厚みt4よりも薄いと、電極本体部133yの厚みが薄い部位Thが生じ易くなるので、本発明がさらに有効となる。つまり、
図6に示す断面図は、電極本体部133y上に補強部133xで覆われない部分を有しており、この部分の主電極部133cの厚みt3は電極本体部133y自身の厚みを表すため、t3<t4であると厚みが薄い部位Thがより生じ易くなるからである。なお、「最小」厚みt3と規定した理由は、電極本体部133y上に補強部133xで覆われた部分(
図5)では、主電極部133cの厚みがt3よりも厚いからである。
又、上述のように、先端部135sの幅W1が、アルミナ絶縁層138上のIp2−リード135の幅W2よりも狭くなっていると、先端部135sをより確実に隆起部133b上に配置し易くなるので、Ip2−電極133とIp2−リード135がより一層断線し難い。
なお、
図6の断面図は、部位Thを含んでいないが、
図7に示すように部位Thを含む断面図では、隆起部133bの形状が
図6の場合と異なってくる。但し、
図7の例でも、変曲点Pが明確に現れるので、電極本体部133yを補強部133xが覆っていることを判別できる。
又、
図6、
図7で隆起部133bの形状が異なることに起因して、隆起部133bのうち最も高い部分(ピーク)Mの位置も異なってもよい。
【0044】
Ip2−電極133及びIp2−リード135は、例えば
図8のようにして製造することができる。
まず、アルミナ絶縁層138の開口138b上、及び開口138bの周縁138beを跨ぐようにして電極本体部133yをペースト印刷する(
図8(a))。次に、電極本体部133y上の所定部位であって、周縁138beを跨ぐようにして補強部133xをペースト印刷する(
図8(b))。次に、補強部133x上に重なると共にアルミナ絶縁層138の表面に延びるようにしてIp2−リード135をペースト印刷する(
図8(c))。
そして、電極本体部133y、補強部133x及びIp2−リード135を同時に焼成し、電極本体部133y及び補強部133xが一体化したIp2−電極133を形成する(
図8(d))。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
例えば、上記実施形態ではIp2−電極133について本発明を適用したが、他の電極に本発明を適用してもよい。例えば、上記実施形態では、Ip2+リードとVs+リードを両方多孔質としたが、片方を緻密として本発明を適用しても良い。
絶縁層の開口、電極部、リード部の形状も上記実施形態に限定されない。
又、Ip2−リード135が電極部よりも下層側(つまり、
図5で電極本体部133yとアルミナ絶縁層138の間)に位置してもよく、Ip2−リード135が電極部の内部(つまり、
図5で電極本体部133yと補強部133xの間)に位置してもよい。
【0046】
又、本発明は、絶縁層の開口を跨ぐように固体電解質体上に設ける電極部を備えたセンサ素子を有するあらゆるガスセンサに適用可能であり、本実施の形態のNOxセンサ素子(NOxセンサ)に適用することができるが、これらの用途に限られず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、被測定ガス中の酸素濃度を検出する酸素センサ(酸素センサ素子)や、HC濃度を検出するHCセンサ(HCセンサ素子)等に本発明を適用してもよい。