特許第6302449号(P6302449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302449
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ベント式射出成形装置及び射出成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/78 20060101AFI20180319BHJP
   B29C 45/63 20060101ALI20180319BHJP
   B29C 45/18 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   B29C45/78
   B29C45/63
   B29C45/18
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-214435(P2015-214435)
(22)【出願日】2015年10月30日
(65)【公開番号】特開2017-81088(P2017-81088A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】515115758
【氏名又は名称】株式会社山本製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永尾 能央
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−276450(JP,A)
【文献】 特開平09−094824(JP,A)
【文献】 特開2009−226875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に射出口を有するシリンダと、
上記シリンダ内に配設されて回転駆動されるとともに、軸方向に押圧駆動されるスクリューと、
ポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるバージン材単体あるいはポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるリサイクル材を含んだ原料を上記シリンダ内の後端側に供給する原料供給部と、
上記シリンダ内の原料を所定温度に加熱する加熱装置とを備え、
上記シリンダにおける長手方向の中途部には、該シリンダの内部を外部に連通させて該シリンダ内の不要物を排出するためのベント口が設けられたベント式射出成形装置において、
上記原料供給部は、上記シリンダ内に、射出に必要な最小量の原料だけを供給して上記シリンダ内を飢餓状態とするように構成され、
上記加熱装置は、上記ベント口と上記原料供給部との間に配設される上流側加熱部と、上記ベント口と上記射出口との間に配設される下流側加熱部と、上記上流側加熱部及び上記下流側加熱部を制御する制御装置とを有し、
上記制御装置は、上記ベント口と上記原料供給部との間で原料を溶融させる第1の温度となるまで原料を加熱するように上記上流側加熱部を制御する一方、上記ベント口と上記射出口との間で上記第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるまで原料の温度を低下させるように上記下流側加熱部を制御することを特徴とするベント式射出成形装置。
【請求項2】
先端側に射出口を有するとともに、長手方向の中途部に外部と連通するベント口を有するシリンダ内の後端側に、ポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるバージン材単体あるいはポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるリサイクル材を含んだ原料を、射出に必要な最小量の原料だけを供給して上記シリンダ内の飢餓状態を維持する工程と、
上記シリンダ内の後端側に供給された原料を、上記ベント口までの間で原料が溶融するように設定された第1の温度となるまで加熱しながら上記シリンダ内のスクリューによって該シリンダの先端側へ送り、上記ベント口と上記射出口との間で、上記第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるまで原料の温度を低下させる工程と、
上記シリンダの先端側へ送られた原料を成形型のキャビティに射出する工程とを備えていることを特徴とするベント式射出成形装置を用いた射出成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂原料を射出成形する射出成形装置及び射出成形方法に関し、特に、シリンダにベント口を有するベント式射出成形装置及びその射出成形装置を用いた射出成形方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、射出成形装置は、シリンダと、シリンダ内に配設されたスクリューと、シリンダの外部に配設されたヒータとを備えており、原料供給ホッパから供給された原料をスクリューによって混練しながらヒータによって加熱して溶融状態にし、シリンダの先端側へ所定量送った後、成形型のキャビティに射出充填するように構成されている。この種の射出成形装置の分類方法としては様々あるが、その一つとしてベント式射出成形装置とノンベント式射出成形装置とに分類することができる。
【0003】
ベント式射出成形装置は、特許文献1にも開示されているように、シリンダの長手方向の中途部に、当該シリンダの内部に連通するベント口が設けられている。ベント口よりも後端側に原料供給ホッパが設けられており、この原料供給ホッパからは、シリンダ内に常に少量の原料が滞留する程度に原料が供給される。原料供給ホッパから供給された原料は溶融状態にしてスクリューで送り、そのときに発生した不要物(ガス等)がベント口から排出されるように構成されている。このベント式の場合、その独特な構造に起因し、無背圧計量を行っても樹脂密度が不安定にならないという特徴がある。
【0004】
ノンベント式射出成形装置は、ベント口が無く、原料供給ホッパから自重によって連続的に供給された原料を溶融状態にするとともにスクリューで送るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−166712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、市場の要求により樹脂原料の高機能化が進展しており、今日では高い耐候性や耐熱性、難燃性などが付与された原料は珍しくなくなってきているが、原料が高機能化していくほどその特性を発揮するために添加される改質剤などにより分子鎖が長くかつ複雑な組成を構成する傾向にある。
【0007】
高機能化された原料の最たるものとして、二種類以上の樹脂材料を合成して作られるアロイ原料を挙げることができる。このアロイ原料は、2種類以上の樹脂が分離しないように添加されている相溶化剤の熱劣化、高融点側樹脂にシリンダ温度を合わせることによる低融点側樹脂の熱分解や組成の複雑さなどに起因して熱履歴の蓄積による分子量低下が機械的特性に与える影響が大きいと考えられており、実際にアロイ原料のリサイクルが禁止されるケースが見受けられる。
【0008】
このアロイ原料をはじめとする高機能化された原料のリサイクルを機械的特性の大幅な低下を招くことなく実現できれば環境負荷を軽減することができ、また、そのような高機能化された原料は高価であることからリサイクルが可能になれば各種部品等の製造に要するコストを低減することができる。そして、リサイクルは1回だけでなく、複数回、好ましくはバージン材にリサイクル材を一定割合配合する形で永久使用できれば環境負荷をより一層軽減できる。
【0009】
ここで、ノンベント式射出成形装置では、原料が自重で連続的に供給されるので、原料供給ホッパからシリンダの先端までが原料で満杯になった状態、即ち、飽食状態となる。そして、背圧をかけた状態のスクリューによって原料を計量しているので、計量時間は原料の粘度に依存することになる。例えば、原料の粘度が低くなればなるほど回転抵抗が低くなる影響でスクリュー1回転当たりの原料の送り量が少なくなって計量時間が長くなる。このことを前提に、例えばアロイ原料を複数回リサイクルする場合を想定すると、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目とリサイクル回数が増えるほど、熱履歴の蓄積による分子量低下が進行していき、その結果、シリンダ内における原料の粘度が低下し、計量時間が長くなっていく。つまり、リサイクル回数が増えるほど、製品の機械的特性が低下していくので、ノンベント式射出成形装置を使用することを前提にするとリサイクル回数を増やすのは困難である。
【0010】
一方、ベント式射出成形装置では、シリンダ内に常に少量の原料が滞留する程度に原料の供給が行われた状態、即ち飢餓状態にして無背圧で計量できるので、計量時間は原料の粘度とは無関係になる。従って、リサイクル回数が増えてシリンダ内における原料の粘度が低下したとしても、計量時間は変化しない。計量時間が変化しないことにより熱履歴が蓄積し難くなり、機械的特性維持の面で有利になる。
【0011】
ところが、いかに飢餓成形により溶融樹脂のシリンダ内滞留時間が一定に保たれるといえども、ベントシリンダはノンベントシリンダに比べ約1.4倍の長さを持っていることに起因し、溶融樹脂がシリンダ内で受ける総熱量が相対的に増加してしまうという欠点を持っている。つまり、原料に熱履歴が蓄積されやすくなり機械的特性維持の面で不利になる。
【0012】
そこで、本願発明者は、ベント口を境にして前後に分かれている2つの加熱部、即ち、原料供給部からベント口までの間に配置される上流側加熱部と、ベント口から射出口までの間に配置される下流側加熱部のうち、下流側加熱部温度を上流側加熱部温度よりも40℃以上低く設定することに想到した。こうすれば、ベントシリンダがノンベントシリンダと比べ長いことによる熱履歴蓄積面での欠点を軽減することができる。そればかりか、下流側加熱部温度を過去に実績のない極端な低温とすることで溶融樹脂への熱履歴蓄積が著しく低減された結果、従来の成形方法では考えられないような高い機械的強度を得ることができる可能性さえ出てくる。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂原料のリサイクル回数を増やした場合に機械的特性の低下を抑制して使用に耐え得る製品とすることができるようにし、ひいては、成形済樹脂製品の廃棄による環境負荷の低減を図るとともに、製品を低コスト化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、ベント式射出成形装置においてシリンダ内を飢餓状態に保ったまま、下流側加熱部温度を上流側加熱部温度よりも40℃以上低い低温に設定し、ベント口通過後の溶融樹脂が超低温に保温される状態を維持して熱履歴蓄積による熱分解を抑制したまま計量し、射出するようにした。
【0015】
第1の発明は、
先端側に射出口を有するシリンダと、
上記シリンダ内に配設されて回転駆動されるとともに、軸方向に押圧駆動されるスクリューと、
ポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるバージン材単体あるいはポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるリサイクル材を含んだ原料を上記シリンダ内の後端側に供給する原料供給部と、
上記シリンダ内の原料を所定温度に加熱する加熱装置とを備え、
上記シリンダにおける長手方向の中途部には、該シリンダの内部を外部に連通させて該シリンダ内の不要物を排出するためのベント口が設けられたベント式射出成形装置において、
上記原料供給部は、上記シリンダ内に、射出に必要な最小量の原料だけを供給して上記シリンダ内を飢餓状態とするように構成され、
上記加熱装置は、上記ベント口と上記原料供給部との間に配設される上流側加熱部と、上記ベント口と上記射出口との間に配設される下流側加熱部と、上記上流側加熱部及び上記下流側加熱部を制御する制御装置とを有し、
上記制御装置は、上記ベント口と上記原料供給部との間で原料を溶融させる第1の温度となるまで原料を加熱するように上記上流側加熱部を制御する一方、上記ベント口と上記射出口との間で上記第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるまで原料の温度を低下させるように上記下流側加熱部を制御することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ベント式射出成形装置であることから無背圧で計量することが可能になるので、計量時間は原料の粘度に殆ど依存しなくなる。これにより、リサイクル回数が例えば3回〜5回程度まで増えた場合のように、熱履歴の蓄積によって樹脂の分子量がある程度低下してシリンダ内における原料の粘度が低下したとしても、背圧をかけて計量を行うノンベント式射出成形装置のように計量時間が長くなることがないため、計量時間はリサイクル回数が1回の場合と殆ど変わらなくなる。また、シリンダ内を飢餓状態に保つことで出来るだけ溶融樹脂滞留時間を短くすることに加え、下流側加熱部を低温とすることで時間当たりの熱履歴蓄積も抑制できる。したがって、リサイクル回数が増えても熱履歴の蓄積が少なくなり、得られる製品の機械的特性の低下が抑制される。
【0017】
そして、シリンダ内では、原料供給部によって供給された原料が、まず、ベント口と原料供給部との間に位置する上流側加熱部により加熱されて溶融する。その後、溶融した原料の温度は、ベント口と射出口との間に位置する下流側加熱部を流通する間に低下し、原料が低温状態になるので、樹脂に熱履歴が蓄積し難くなる。よって、熱履歴の蓄積による樹脂の分子量の低下が抑制され、その結果、得られる製品の機械的特性の低下が抑制される。
【0018】
また、分子鎖の中に熱に弱い結合が含まれる場合や組成の複雑さなどに起因して熱履歴の蓄積による分子量低下が機械的特性に大きく影響を与えると考えられるアロイ樹脂をリサイクルする場合に、本発明に係るベント式射出成形装置を使用することで機械的特性の低下が抑制されるので、これまで難しいとされていた高機能化された原料のリサイクルが可能になる。
【0019】
の発明は、先端側に射出口を有するとともに、長手方向の中途部に外部と連通するベント口を有するシリンダ内の後端側に、ポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるバージン材単体あるいはポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂からなるリサイクル材を含んだ原料を、射出に必要な最小量の原料だけを供給して上記シリンダ内の飢餓状態を維持する工程と、
上記シリンダ内の後端側に供給された原料を、上記ベント口までの間で原料が溶融するように設定された第1の温度となるまで加熱しながら上記シリンダ内のスクリューによって該シリンダの先端側へ送り、上記ベント口と上記射出口との間で、上記第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるまで原料の温度を低下させる工程と、
上記シリンダの先端側へ送られた原料を成形型のキャビティに射出する工程とを備えていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第1の発明と同様に、ベント式射出成形装置のシリンダを飢餓状態にし、ベント口と原料供給部との間で原料を溶融状態にし、その後、ベント口と射出口との間で原料に熱履歴が蓄積しないようにすることが可能になる。よって、得られる製品の機械的特性の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
第1、の発明によれば、ベント式射出成形装置のシリンダ内を飢餓状態にし、ベント口と原料供給部との間で原料を溶融させる第1の温度となるまで原料を加熱する一方、ベント口と射出口との間で第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるまで原料の温度を低下させるようにしたので、樹脂原料のリサイクル回数を増やした場合に機械的特性の低下を抑制して使用に耐え得る製品とすることができ、その結果、成形済樹脂製品の廃棄による環境負荷の低減を図ることができるとともに、製品を低コスト化することができる。
【0022】
また、高機能化されたアロイ樹脂をリサイクルすることができるので、製品をより一層低コスト化することができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係るベント式射出成形装置の概略構造を示す断面図である。
図2】ベント式射出成形装置のブロック図である。
図3】アロイ樹脂からなるリサイクル材のリサイクル回数と引張試験における破断時の伸びとの関係を示すグラフである。
図4】アロイ樹脂からなるリサイクル材のリサイクル回数と引張試験における破断時の伸び低下率との関係を示すグラフである。
図5】アロイ樹脂からなるリサイクル材のリサイクル回数とアイゾット衝撃強度との関係を示すグラフである。
図6】アロイ樹脂からなるリサイクル材のリサイクル回数とアイゾット衝撃強度低下率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るベント式射出成形装置1の概略構造を示す断面図である。ベント式射出成形装置1は、バージン材単体あるいはバージン材とリサイクル材が混合された原料を射出成形し、各種製品を得ることができるように構成されている。各種製品とは、例えば自動車部品や家電用部品等を挙げることができる。また、リサイクル材は、各種樹脂、または2種類以上の樹脂が混合されたアロイ樹脂からなるリサイクル材等を挙げることができる。
【0026】
ベント式射出成形装置1は、シリンダ2と、スクリュー3と、スクリュー駆動装置4(図2に示す)と、原料供給装置(原料供給部)5と、加熱装置6と、制御装置7(図2に示す)とを備えている。シリンダ2は、水平方向に延びており、図示しないが工場等の地面に設置された基台に固定されている。シリンダ2の先端側は図1における左側であり、シリンダ2の後端側は図1における右側である。シリンダ2の先端側には、シリンダ2の外部から内部へ樹脂等が逆流するのを防止するための逆止弁を有するノズル20が設けられている。ノズル20に射出口20aが形成されている。シリンダ2における長手方向の中途部には、該シリンダ2の内部を外部に連通させるベント口21が設けられている。ベント口21は、シリンダ2内の不要物、例えばガス等を排出するためのものである。
【0027】
スクリュー3は、シリンダ2内において回転可能に支持されるとともに、軸方向に移動可能になっている。スクリュー3の外周面には、螺旋条30が連続して形成されている。スクリュー3の後端側は、シリンダ2の後端側から突出している。このスクリュー3の後端側には、スクリュー駆動装置4が連結されている。スクリュー駆動装置4は、スクリュー3を回転駆動するとともに、軸方向にも押圧駆動するように構成された周知の構造のものである。図2に示すように、スクリュー駆動装置4は制御装置7に接続され、該制御装置7によって制御される。
【0028】
原料供給部5は、原料をシリンダ2内の後端側に供給するためのものであり、原料を貯留するホッパ50と、ホッパ50の内部をシリンダ2の内部に接続する接続筒部51と、接続筒部51に設けられ、原料の供給量を調整する供給量調整部52とを備えている。ホッパ50には、上記リサイクル材を破砕して細かくしたペレット状の原料Aが貯留される。供給量調整部52は、制御装置7によって制御されて所定量の原料Aを所定のタイミングでシリンダ2の内部に供給することができるように構成されたものであり、例えば流量制御弁等である。尚、供給量調整部52は、例えば原料Aを送る送り装置等で構成することができる。
【0029】
加熱装置6は、最上流側ヒータ61と、上流側ヒータ62と、下流側ヒータ63と、最下流側ヒータ64とを備えている。最上流側ヒータ61と、上流側ヒータ62とは、ベント口21と原料供給部5との間に配設される上流側加熱部6Aである。最上流側ヒータ61は、シリンダ2の最も上流に配設されており、本発明の第1加熱部に相当するものである。上流側ヒータ62は、最上流側ヒータ61よりもベント口21に近い側、即ち下流側に配設されており、本発明の第2加熱部に相当するものである。また、下流側ヒータ63と、最下流側ヒータ64とは、ベント口21と射出口20aとの間に配設される下流側加熱部6Bである。最下流側ヒータ64は、最も下流に配設されている。加熱装置6の4つのヒータ61〜64によってシリンダ2の先端側から後端側まで加熱されるようになっている。
【0030】
シリンダ2は、ベント口21を基準として、ベント口21よりも上流側の第1ステージS1と、ベント口21よりも下流側の第2ステージS2とに分けることができる。第1ステージS1では、上流側加熱部6Aによる加熱が行われる一方、第2ステージS2では、下流側加熱部6Bによる原料Aの降温が行われる。第1ステージS1では原料Aの樹脂成分が完全に溶融し、第2ステージS2には溶融状態の樹脂が送られる。
【0031】
加熱装置6の4つのヒータ61〜64は、例えば電力を供給することによって発熱する発熱体を有しており、互いに同じ構造のものである。ヒータ61〜64は、制御装置7に接続されて該制御装置7によってON/OFFの切替、及び単位時間当たりの発熱量が個別に調整される。発熱量の調整はヒータ61〜64に供給する電力量の増減によって行うことができる。
【0032】
加熱装置6の4つのヒータ61〜64は、シリンダ2の外周面を囲む形状とされている。従って、ヒータ61〜64の熱はシリンダ2の周壁部を加熱し、加熱されたシリンダ2の周壁部の熱が内部の原料やスクリュー3に伝達し、これにより、原料が所定温度なるまで加熱される。
【0033】
また、シリンダ2の外部には、最上流側温度センサ71と、上流側温度センサ72と、下流側温度センサ73と、最下流側温度センサ74とが配設されている。これら温度センサ71〜74は、従来から周知の温度センサであり、例えば熱電対等を使用することができる。最上流側温度センサ71は、最上流側ヒータ61による加熱温度を検出するためのものであり、シリンダ2の内部における最上流側ヒータ61の配設部位に対応する箇所(シリンダ2内部の最上流部)に存在する原料温度を間接的に検出することができる。上流側温度センサ72は、上流側ヒータ62による加熱温度を検出するためのものであり、シリンダ2の内部における上流側ヒータ62の配設部位に対応する箇所(シリンダ2内部のベント口21よりも上流部)に存在する原料温度を間接的に検出することができる。下流側温度センサ73は、下流側ヒータ63による加熱温度を検出するためのものであり、シリンダ2の内部における下流側ヒータ63の配設部位に対応する箇所(シリンダ2内部のベント口21よりも下流部)に存在する原料温度を間接的に検出することができる。最下流側温度センサ74は、最下流側ヒータ64による加熱温度を検出するためのものであり、シリンダ2の内部における最下流側ヒータ64の配設部位に対応する箇所(シリンダ2内部の最下流部)に存在する原料温度を間接的に検出することができる。
【0034】
最上流側温度センサ71と、上流側温度センサ72と、下流側温度センサ73と、最下流側温度センサ74は、制御装置7に接続されていて、検出した温度に関する信号を連続的に出力している。これらセンサ71〜74は、ベント式射出成形装置1を構成する要素である。
【0035】
制御装置7は、例えば周知のマイクロコンピュータ装置等で構成することができ、中央演算装置や、記憶装置、各種設定ボタン等を有している。制御装置7は、設定ボタン等によって設定された回転速度でスクリュー3が回転するようにスクリュー駆動装置4を制御するとともに、設定されたタイミングで設定された量だけスクリュー3が軸方向に移動するようにスクリュー駆動装置4を制御する。また、制御装置7は、設定された原料供給量となるように原料供給装置5を制御する。
【0036】
さらに、制御装置7は、設定された温度となるように、最上流側ヒータ61、上流側ヒータ62、下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64を個別に制御する。このとき、ヒータ61〜64による加熱温度は、最上流側温度センサ71、上流側温度センサ72、下流側温度センサ73及び最下流側温度センサ74からフィードバックされ、各ヒータ61〜64に供給される電力量が設定温度となるように調整される。制御装置7は、基本的には、上流側加熱部6Aである最上流側ヒータ61及び上流側ヒータ62による加熱温度を、下流側加熱部6Bである下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64による加熱温度よりも高くする。最上流側ヒータ61、上流側ヒータ62、下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64の温度は個別に設定することができるようになっている。
【0037】
金型(成形型)80は、固定型81と可動型82とからなる。固定型81は固定盤83に取り付けられている。可動型82は可動盤84に取り付けられている。可動盤84には駆動装置85が連結されている。駆動装置85によって可動型82を固定型81に対して接離する方向に移動させて金型80を型閉じ状態と型開き状態とに切り替えることができるようになっている。金型80の内部には、型閉じ状態でキャビティCが区画形成される。また、固定型81には、キャビティCと、シリンダ2の射出口20aとを連通させるためのスプルー81aが形成されている。
【0038】
次に、上記のように構成されたベント式射出成形装置1を使用して射出成形を行う場合について説明する。原料供給装置5のホッパ50には、バージン材単体あるいはバージン材とリサイクル材が混合された原料Aを十分な量貯留しておく。また、金型80は型閉じ状態にしておく。そして、スクリュー3を回転させながら、原料供給装置5の供給量調整部52によって所定量の原料Aをシリンダ2の内部に供給して原料Aの計量を開始する。シリンダ2の内部に供給する原料Aの供給量は、成形サイクルを満足させるために必要最小限の量、即ち、1回の成形でキャビティCに射出する量の1倍から2倍程度である。計量時の背圧は無背圧、またはごく少量の背圧に留める。
【0039】
また、加熱装置6の上流側加熱部6Aの温度は、原料Aを溶融させることができる温度以上となるように設定された第1の温度となるまで原料Aを加熱するように設定する。また、加熱装置6の下流側加熱部6Bの温度は、上記第1の温度よりも必ず低い温度に設定する。具体的には、上記第2の温度は、上記第1の温度よりも40℃以上低く設定しておくことが好ましく、原料AがポリカーボネートとABS樹脂とを含有するアロイ樹脂(PC/ABS)である場合には、最上流側ヒータ61による加熱温度を260℃とし、上流側ヒータ62による加熱温度を270℃とし、下流側ヒータ63による加熱温度を220℃とし、最下流側ヒータ64による加熱温度を220℃とする。尚、この加熱温度は例示であり、下流側ヒータ63による加熱温度が例示温度を下回ってもよい。
【0040】
そして、原料Aがスクリュー3によって送られて上流側ヒータ62に対応する部位に達する。上流側ヒータ62の温度は、原料Aを溶融させることができる温度であるため、原料Aが溶融状態で下流側へ送られていく。
【0041】
この実施形態では、ベント式射出成形装置1であることから原料Aはシリンダ2の内部でベント口21に達するまでの間、即ち第1ステージS1で完全に溶融する。そして、ベント口21からは不要物であるガス等が排出される。原料Aが、シリンダ2の内部においてベント口21よりも下流側の第2ステージS2に送られると、下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64の温度が上流側加熱部6Aよりも40℃以上低く設定されているので、原料Aの温度は、熱履歴が蓄積しない程度の低温まで降下する。第2の温度とは、原料Aが分子量の著しい低下を伴う熱履歴を蓄積しない程度の温度であり、具体的には、第1の温度から40℃以上離れた低温に設定することである。
【0042】
尚、この実施形態では、下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64の温度がPC/ABSアロイ樹脂に対する射出成形時の推奨温度下限を下回っているが、樹脂成分はスクリュー3によって連続的に混練されているので、固化することはなく、シリンダ2の先端側まで送られる。ただし、下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64の温度が樹脂成分の推奨温度下限よりも大幅に低いと、発熱体であるヒータからの距離が遠いことに起因し、シリンダ2の内壁よりも低温となってしまうスクリュー3の表面に樹脂成分が固着する場合があるので、原料Aがスクリュー3の表面に固着しない程度の温度に設定するのが好ましい。
【0043】
上記のようにして1回の射出量に相当する量の原料Aがシリンダ2の先端側に溜まって計量が完了すると、スクリュー3をスクリュー駆動装置4によって軸方向先端側へ押圧する。これにより、原料Aが射出口20aから射出されてスプルー81aを通ってキャビティCに充填されて成形される。
【0044】
以上説明したように、この実施形態に係るベント式射出成形装置1を用いた射出成形方法は、シリンダ2内の後端側に、バージン材単体あるいはバージン材とリサイクル材が混合された原料Aを必要最小量に留め飢餓状態になるよう供給する原料供給工程と、シリンダ2内の後端側に供給された原料Aを、ベント口21までの間で原料Aが溶融するように設定された第1の温度となるまで加熱しながらシリンダ2内のスクリュー3によって該シリンダ2の先端側へ送り、ベント口21と射出口20aとの間で、第1の温度よりも40℃以上低い温度に設定された第2の温度となるように原料Aの温度を低下させる工程と、シリンダ2の先端側へ送られた原料Aを金型80のキャビティCに射出する射出工程とを備えている。
【0045】
リサイクル材で成形された製品を再びリサイクル材とする場合のように、リサイクル回数を重ねていくと、熱履歴の蓄積による分子量低下が進行していく。特に、リサイクル回数が例えば3回〜5回程度まで増えた場合では分子量低下が顕著になる。このようなリサイクル材を仮にノンベント式射出成形装置で成形しようとすると、次のような問題が想定される。
【0046】
すなわち、ノンベント式射出成形装置は、計量した樹脂の密度にバラつきが生じないようにするために背圧が必要であり、よって、背圧をかけた状態のスクリューによって原料を計量している。このため、計量時間は原料の粘度に大きく依存しており、原料の粘度が低くなればなるほど背圧に対する溶融原料の反発力が弱まり、スクリュー1回転当たりの原料の送り量が少なくなって計量時間が長くなる。上記したように樹脂成分の分子量低下が進んだリサイクル材では、ノンベント式射出成形装置のシリンダ内で粘度が低下してしまって計量時間が長くなる。計量時間が長くなるということは1回の計量に要するスクリューの総回転数および滞留時間が増加するので、熱履歴が更に蓄積されてしまい、その結果、分子量が大幅に低下してしまう。
【0047】
この実施形態によれば、ベント式射出成形装置1であることから背圧をかけなくても計量した樹脂の密度にバラつきが少なく、従って、無背圧で計量することが可能になるので、計量時間は原料の粘度に殆ど依存しなくなる。これにより、リサイクル回数が例えば3回〜5回程度まで増えたとしても、ノンベント式射出成形装置のように計量時間が長くなることはなく、リサイクル回数が1回の場合と殆ど変わらない時間で計量を行うことができる。
【0048】
また、計量時にシリンダ2内を飢餓状態にしているので、飽食状態にしている場合に比べて原料Aがシリンダ2に投入されてから射出されるまでのシリンダ内滞留時間が大幅に減少する。滞留時間そのものが短くなれば、得られる製品の機械的特性の低下が抑制される。
【0049】
そして、シリンダ2内では、原料供給装置5によって供給された原料Aが、まず、ベント口21と原料供給装置5との間で溶融する。その後、原料Aは、ベント口21と射出口20aとの間を流通する間に温度低下して低温状態になるので、原料Aの樹脂成分に熱履歴が蓄積し難くなる。よって、分子量の低下が抑制され、その結果、製品中にボイドが発生する等の分子量低下による悪影響を回避することが可能になり、このことによっても機械的特性の低下が抑制される。
【0050】
仮に、ノンベント式射出成形装置で成形する場合を想定すると、本実施形態のようにシリンダ2の下流側の温度を、推奨温度下限を下回るような低温に設定することはできない。その理由は、ノンベント式射出成形装置の場合、シリンダ内のどこまでが固相原料でどこからが液相原料か不明確、すなわち、構造的に原料の固相と液相の境界が曖昧にならざるを得ず、そのような状況でシリンダの先端側の温度を、推奨温度を下回るレベルまで低下させてしまうと、スクリュー折損やスクリュー回転不可等のリスクが発生する。つまり、ノンベント式射出成形装置においては、常にシリンダの先端まで固相のペレットが送られてくる可能性を考慮しなければならない。スクリュー折損等のリスクを負ってでも、どこか1箇所のみを低温に設定してみたとしても、温度も範囲も限定された設定範囲でしか実施できず、効果も殆ど得られないからである。
【0051】
したがって、この実施形態によれば、リサイクル回数を増やしても機械的特性の低下を抑制して使用に耐え得る製品とすることができるので、リサイクルを推進して環境負荷を低減でき、また、製品を低コスト化することができる。
【0052】
また、シリンダ2内に供給された直後の原料Aを最上流側ヒータ61によって加熱して溶融した後、比較的低温の下流側ヒータ63及び最下流側ヒータ64によって温度低下させることができるので、原料Aの熱履歴の蓄積を抑制することができる。
【0053】
尚、上記実施形態では、最上流側ヒータ61と上流側ヒータ62の温度を異なる温度にしているが、これに限らず、最上流側ヒータ61と上流側ヒータ62を同じ温度にしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、加熱装置6のヒータとセンサの数を4つにしているが、これに限られるものではなく、ヒータとセンサの数は任意に設定することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
図3は、実施例としてのベント式射出成形装置1と、比較例としてのノンベント式射出成形装置とで原料を全量リサイクル成形した場合におけるリサイクル回数と引張破断時伸び(%)との関係を示すグラフである。ベント式射出成形装置1とノンベント式射出成形装置とで同じ形状の試験片を成形した。試験片成形時の充填条件については、ベント式射出成形装置1とノンベント式射出成形装置の両方で射出保圧時間を9秒、冷却時間を15秒、成形サイクルを30秒とした。投入時の原料Aは、ベント式射出成形装置1は無乾燥の吸水状態とし、ノンベント式射出成形装置は110℃の熱風で12時間乾燥した乾燥状態とした。原料AはPC/ABS(株式会社東レ製PC/ABSポリマーアロイPX10−X07)である。
【0057】
引張試験の条件は以下の通りである。すなわち、引張試験機にはインストロンジャパン株式会社製 万能試験機MODEL4206を使用し、ISO527に準拠した試験方法にて行った。試験例ごとにn=10実施し、結果には平均値を用いた。
【0058】
また、試験室の雰囲気温度はエアコンによって25℃となるように管理していた。引張速度は、全て10mm/分とした。
【0059】
ベント式射出成形装置1では、一般に原料供給状態が飢餓状態で成形するのに対し、ノンベント式射出成形装置では、一般に原料供給状態が飽食状態で成形するようにしている。この実施例で使用する最新型のベント式射出成形装置1ではベントアップ不具合対策としてシリンダ2内の樹脂密度を低く保つことが必須なので原料定量供給機(供給量調整部52)が標準装備されているのに対し、ノンベント式射出成形装置では一般的に飢餓成形を行う必要性が無く、原料定量供給機を用いた飢餓成形は一般的ではないため、通常の飽食成形を採用している。
【0060】
ベント式射出成形装置1は図1に示すような装置を用いてシリンダ2内を飢餓状態にして原料を計量し、かつ、ベント口21よりも上流側で原料を溶融させ、ベント口21よりも下流側では原料を低温にして原料に熱履歴が蓄積しないようにしている。ベント式射出成形装置1は、株式会社日本製鋼所製 J220AD射出成形機に株式会社日本油機製 ベント式可塑化ユニットを換装したベント式射出成形装置である。
【0061】
また、図1に示す最上流側ヒータ61は260℃、上流側ヒータ62は270℃、下流側ヒータ63は220℃、最下流側ヒータ64は220℃とした。また、シリンダ2内には、原料供給を停止すると次回計量が完了しない程度の必要最小量の原料を供給して飢餓状態にした。この場合、スクリューは1計量当たり30回転することになる。
【0062】
ノンベント式射出成形装置としては、日精樹脂工業株式会社製 NEX220IIIノンベント式射出成形機を使用した。原料はホッパから自重で連続供給した。計量時の背圧は、一般的な設定例にならい15MPaとした。また、図1に示すようにベント式射出成形装置1と同様にヒータが配置されており、最上流側ヒータ61は250℃、上流側ヒータ62は260℃、下流側ヒータ63は260℃、最下流側ヒータ64は260℃とした。1計量当たりのスクリュー回転数は、リサイクル回数が0回のときに8回転、リサイクル回数が5回のときに12回転であり、リサイクル回数が増えるに従って1計量当たりのスクリュー回転数が増加した。これはリサイクル回数の増加によってシリンダ内における原料の粘度が低下したことに起因する。
【0063】
試験片を作成する金型にはダンベル試験片と、曲げ・衝撃試験片とセット取り金型を用いた。また、成形品粉砕用の粉砕機には、株式会社ホーライ製中速粉砕機P−1328を用いた。
【0064】
図3の横軸のリサイクル回数「0」とはリサイクルしていないバージン材の成形である。リサイクル回数「1」とは初めてリサイクルした原料で成形した製品の試験結果であり、リサイクル回数「2」とはリサイクルを繰り返して行い、2回目のリサイクル材を原料として成形した製品の試験結果である。このグラフでは、リサイクル回数5回目のリサイクル材まで試験を行った場合を示している。また、図3の縦軸は引張破断時伸びを示している。
【0065】
尚、機械的特性の評価項目の選定について、PC/ABSの特性としてどれだけ熱履歴が蓄積しても、誤差レベルでしか弾性率と降伏点での引張強度に変化が発生しなかったため、唯一大きな変化をみせた破断時伸びを評価項目とした。
【0066】
図4の横軸は図3の横軸と同じである。図4の縦軸の引張破断時伸び低下率(%)とは、リサイクルしていない原料(バージン材)で成形した製品の試験結果(引張破断時伸び)を100%としたときに、リサイクル材を原料として引張破断時伸びがどの程度維持されているかを示す数値であり、高いほどバージン材に近いということである。
【0067】
リサイクル回数0〜2回までは、ベント式射出成形装置による成形(ベント成形)と、ノンベント式射出成形装置による成形(ノンベント成形)とで引張破断時伸びに殆ど差は見られないが、リサイクル回数3回〜5回では、ベント成形の方が引張破断時伸びが大きな値となっており、引張破断時伸び低下率についてもベント成形の方が小さな低下率を示している。
【0068】
この結果から、PC/ABSのようなアロイ樹脂は、熱履歴の蓄積による分子量が低下してくると靱性が低下する、いわば脆くなること、ベント成形は熱履歴が蓄積していっても急激な伸びの低下は示さず機械的特性を維持していること、ノンベント成形は熱履歴の蓄積3回目時点で物性が大きく低下し機械的特性が損なわれていることが分かる。
【0069】
次に、アイゾット衝撃試験結果について図5及び図6に基づいて説明する。アイゾット衝撃試験は、JIS K 7110に基づいて行った。
【0070】
図5の横軸は図3の横軸と同じである。図5の縦軸はアイゾット衝撃強度(KJ/m)である。また、図6について横軸は図3の横軸と同じであり、縦軸はアイゾット衝撃強度低下率(%)である。アイゾット衝撃強度低下率(%)とは、リサイクルしていない原料で成形した製品の試験結果(アイゾット衝撃強度)を100%としたときに、リサイクル材を原料としてアイゾット衝撃強度がどの程度維持されているかを示す数値であり、高いほどバージン材に近いということである。
【0071】
図5から明らかなように、ベント成形した場合のアイゾット衝撃強度は、ノンベント成形した場合に比べてリサイクル回数0〜5回に亘り、絶対値で約12KJ/m、割合にして約50%もの向上幅を示した。また、図6から明らかなように、リサイクル回数が増えた場合に、ベント成形した場合のアイゾット衝撃強度低下率は、ノンベント成形した場合に比べて小さく抑えられている。
【0072】
PC/ABSの原料特性として特に秀でているのが耐衝撃性である。ベント成形は熱履歴の蓄積による衝撃強度低下度合いが低く抑えられているのに加え、PC/ABSに期待される衝撃強度をノンベント成形の1.5倍にまで高めることができており、このことは単に機械的特性を維持するというだけに留まらず、原料固有の機械的特性を高めることができているということである。
【0073】
以上のように、引張破断時伸び、及びアイゾット衝撃強度の両試験結果から、実施形態に係るベント成形特有のシリンダ2の温度設定と、原料定量供給による滞留時間の短さがPC/ABSのリサイクル時の機械的特性の維持に大きく寄与していることが分かる。つまり、本実施形態によれば、リサイクルが難しいとされているアロイ原料であっても安全かつ容易にリサイクルを行うことができる。
【0074】
尚、上記実施形態では、リサイクル材100%を射出成形する場合について説明したが、これに限らず、例えば、リサイクル材に所定割合のバージン材を混合したバージン材混合原料を射出成形する場合についても本発明を適用することができる。バージン材をリサイクル材に混合する割合は、適宜設定することができる
【0075】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明に係るベント式射出成形装置及び射出成形方法は、例えば複数回リサイクルしたリサイクル材を原料として製品を成形する場合や、そのリサイクル材に所定割合のバージン材を混合したものを原料として製品を成形する場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 ベント式射出成形装置
2 シリンダ
3 スクリュー
5 原料供給装置(原料供給部)
6 加熱装置
6A 上流側加熱部
6B 下流側加熱部
7 制御装置
20a 射出口
21 ベント口
61 最上流側ヒータ(第1加熱部)
62 上流側ヒータ(第2加熱部)
80 金型(成形型)
C キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6