特許第6302476号(P6302476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

特許6302476HER3のベータヘアピンに結合するHER3抗原結合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302476
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】HER3のベータヘアピンに結合するHER3抗原結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180319BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20180319BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20180319BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20180319BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180319BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180319BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180319BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180319BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20180319BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180319BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/28
   C07K16/40
   C12P21/08
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   G01N33/53 Y
   A61P35/00
   A61K39/395 E
   A61K39/395 T
【請求項の数】25
【全頁数】96
(21)【出願番号】特願2015-540166(P2015-540166)
(86)(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公表番号】特表2016-503294(P2016-503294A)
(43)【公表日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】EP2013073094
(87)【国際公開番号】WO2014072306
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2015年7月3日
(31)【優先権主張番号】12191866.8
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】306021192
【氏名又は名称】エフ・ホフマン−ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ボッセンマイアー, ビルギット
(72)【発明者】
【氏名】カサゴルダ ヴァルリベラ, ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ, ギー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルク, ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ニーダーフェルナー, ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ショルツ, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュレムル, ミヒャエル
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/022814(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/144749(WO,A1)
【文献】 特表2012−525432(JP,A)
【文献】 特表2010−518820(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/031198(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合タンパク質が、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合する、ヒトHER3に結合する抗原結合タンパク質を選択するための方法であって;
a)配列番号1のアミノ酸配列を含み、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチド
及び
b)配列番号2のアミノ酸配列を含み、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチドが、
a)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示し、かつb)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示さない抗原結合タンパク質を選択するために使用され、
それによって、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない抗原結合タンパク質を選択する、方法。
【請求項2】
請求項1の方法を含む、医薬の製造方法。
【請求項3】
抗原結合タンパク質が抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
a)配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない、
ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項5】
a)配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない、
ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項6】
活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し、かつ配列番号2のアミノ酸配列に結合しない、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項7】
HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示す、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
ヒトHER3に結合する単離された抗体であって、
以下の特性:
a)抗体は、活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;
b)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3;
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
c)抗体は、HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害し;
d)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)との比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有し;
e)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRとの比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有し;
f)抗体は、配列番号2のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;
g)抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4;
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;
h)抗体は、HER3への結合をヘレグリンと競合せず;
i)抗体は、ヘレグリンのHER3への結合を誘導し;
j)抗体は、HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示し;及び
k)抗体は、HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーションの4時間後に、ヘレグリンの存在下で、HER3のほぼ完全な内部移行を示す;
のa及びfを有し、かつb〜e及びg〜kのうち一以上を任意選択的に有する、抗体。
【請求項9】
ヒト、ヒト化、又はキメラ抗体である、請求項6から8の何れか一項に記載の抗体。
【請求項10】
i)(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項11】
i)(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3;を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項12】
i)(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3;を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項13】
i)(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3;を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
【請求項14】
完全長IgG1抗体又はIgG4抗体である、請求項6から13の何れか一項に記載の抗体。
【請求項15】
Fab断片である、請求項6から13の何れか一項に記載の抗体。
【請求項16】
請求項6から15の何れか一項に記載の抗体、及び細胞傷害性薬剤を含む、イムノコンジュゲート。
【請求項17】
癌を治療することにおける使用のための、請求項6から15の何れか一項に記載の抗体、又は請求項16に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項18】
HER3/HER2二量体化の阻害における使用のための、請求項6から15の何れか一項に記載の抗体。
【請求項19】
請求項6から15の何れか一項に記載の抗体、又は請求項16に記載のイムノコンジュゲート、及び薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
【請求項20】
医薬としての使用のための、請求項6から15の何れか一項に記載の抗体、又は請求項16に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項21】
医薬の製造における、請求項6から15の何れか一項に記載の抗体、又は請求項16に記載のイムノコンジュゲートの使用。
【請求項22】
医薬が癌の治療用である、請求項21の使用。
【請求項23】
請求項6から15の何れか一項に記載の抗体をコードする単離された核酸。
【請求項24】
請求項23に記載の核酸を含む宿主細胞。
【請求項25】
抗体が産生されるように、請求項24に記載の宿主細胞を培養することと、前記細胞培養物又は細胞培養物上清から前記抗体を回収することとを含む、抗体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HER3のベータヘアピンに結合する抗HER3抗原結合タンパク質、例えば抗HER3抗体、これらの抗原結合タンパク質を選択するための方法、それらの調製及び医薬としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HERタンパク質ファミリーは、4つのメンバー:上皮成長因子受容体(EGFR)又はErbB−1とも称されるHER1、ErbB−2とも称されるHER2、HER3とも称されるErbB−3、及びHER4とも称されるErbB−4からなる。ErbBファミリータンパク質は、受容体チロシンキナーゼであり、細胞増殖、分化及び生存の重要なメディエーターを表している。HERファミリーは、ニューレグリン(NRG)ファミリー、アンフィレグリン、EGF及び(TGF−α)のような異なるリガンドの受容体タンパク質を表す。ヘレグリン(HRG又はニューレグリンNRG−1とも称される)は、例えばHER3及びHER4に対するリガンドである。
【0003】
ヒトHER3(ErbB−3、ERBB3、c−erbB−3、c−erbB3、受容体チロシンプロテインキナーゼerbB−3、配列番号3)は、HER1(EGFRとしても知られる)、HER2、及びHER4を含む、受容体チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーのメンバーをコードする(Kraus, M.H. et al, PNAS 86 (1989) 9193-9197; Plowman, G.D. et al, PNAS 87 (1990) 4905-4909; Kraus, M.H. et al, PNAS 90 (1993) 2900-2904)。プロトタイプの上皮成長因子受容体と同様に、膜貫通受容体HER3は、細胞外リガンド結合ドメイン(ECD)、ECD内の二量体化ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメイン(TKD)及びC末端リン酸化ドメインからなる。この膜結合タンパク質は、細胞外ドメイン内にヘレグリン(HRG)結合ドメインを有しているが、活性なキナーゼドメインは有していない。従って、それは、このリガンドに結合できるが、タンパク質のリン酸化を介して細胞内にシグナルを伝達することはできない。しかし、それはキナーゼ活性を有する他のHERファミリーメンバーとヘテロダイマーを形成する。ヘテロ二量体化は、受容体媒介性シグナル伝達経路の活性化とその細胞内ドメインのトランスリン酸化へと導く。HERファミリーメンバーとの間の二量体形成は、HER3のシグナル伝達の可能性を拡大し、シグナル多様化のためだけでなくシグナル増幅のための手段である。例えば、HER2/HER3ヘテロ二量体は、HERファミリーメンバー間のPI3KとAKT経路を介して、最も重要な有糸分裂シグナルの一つを誘導する(Sliwkowski M.X., et al, J. Biol. Chem. 269 (1994) 14661-14665; Alimandi M, et al, Oncogene. 10 (1995) 1813-1821; Hellyer, N.J., J. Biol. Chem. 276 (2001) 42153-4261; Singer, E., J. Biol. Chem. 276 (2001) 44266-44274; Schaefer, K.L., Neoplasia 8 (2006) 613-622)。HER3及びHER受容体ファミリー及びNGRリガンドファミリー内のその様々な相互作用の概要については、例えばG Sithanandam et al Cancer Gene Therapy (2008) 15, 413-448を参照。
【0004】
この遺伝子の増幅及び/又はそのタンパク質の過剰発現は、前立腺癌、膀胱癌、及び乳癌を含む多くの癌で報告されている。異なるアイソフォームをコードする代替的転写スプライスバリアントが特徴づけられている。1つのアイソフォームは、膜間領域を欠き細胞外に分泌される。この形態は膜結合型の活性を調節するように働く。更なるスプライスバリアントも報告されているが、それらは十分に特徴づけられてはいない。
【0005】
興味深いことに、その平衡状態において、HER3受容体は、その「閉じたコンホメーション」で存在し、このことは、ヘテロ二量体化HER3ベータヘアピンモチーフはHER3ECDドメインIVへの非共有結合性相互作用を介して係留されていることを意味する(図1c及び1dを参照)。これは、「閉じた」HER3コンホメーションは、特異的なHER3ヘレグリン結合部位でのリガンドヘレグリンの結合を介して開くことができると想定される。これは、HER3のECDドメインIとドメインIIIによって形成されたHER3界面で起こる。この相互作用により、HER3受容体は活性化され、その「開いたコンホメーション(open conformation)」へと変えられると考えられている(図1e及び1b、並びにBaselga, J. et al, Nat Rev Cancer 9 (2009). 463-475 and Desbois-Mouthon, C., at al, Gastroenterol Clin Biol 34 (2010) 255-259を参照)。この開いたコンホメーションにおいて、ヘテロ二量体化とHER2によるトランシグナル(transignal)誘導が可能である(図1bを参照)。
【0006】
国際公開第2003/013602号は、HER抗体を含む、HER活性の阻害剤に関する。国際公開第2007/077028号及び国際公開第2008/100624号はまたHER3抗体に関する。国際公開第97/35885号及び国際公開第2008/127181号はHER3抗体に関する。
【0007】
国際公開第2012は/22814号は、「閉じた又は不活性な」コンホメーションを凍結するHER3抗体に関し、それは、HER3のベータヘアピンがこの平衡状態においてアクセス可能でないように、それらがHER3の平衡状態をフリーズさせることを意味する(図1参照)。国際公開第2012/22814号におけるHER3抗体は、例えばSlyDスキャフォールド内でその活性な3次元配向で提示された場合に、HER3のβヘアピンに結合しない(例えば、図17及び2、及び、例えば配列番号18のポリペプチドを参照)。
【0008】
ヒトHER4(ErbB−4 ERBB4、v−erb−a赤芽球性白血病ウイルス癌遺伝子ホモログ4、p180erbB4トリ赤芽球性白血病ウイルス(v−erb−b2)癌遺伝子ホモログ4;配列番号5としても知られる)は、複数のフューリン様システインリッチドメイン、チロシンキナーゼドメイン、ホスファチジルイノシトール−3キナーゼ結合部位及びPDZドメイン結合モチーフを有する単一通過のタイプI膜貫通タンパク質である(Plowman G D, wt al, PNAS 90:1746-50(1993); Zimonjic D B, et al, Oncogene 10:1235-7(1995); Culouscou J M, et al, J. Biol. Chem. 268:18407-10(1993))。タンパク質は、ニューレグリン−2及び−3、ヘパリン結合EGF様増殖因子、及びベータセルリンに結合し、活性化される。リガンド結合は、有糸分裂及び分化を含む種々の細胞応答を誘導する。複数のタンパク質分解事象は、細胞質断片及び細胞外断片の放出を可能にする。この遺伝子における変異は癌と関連している。異なるタンパク質アイソフォームをコードする選択的スプライスバリアントが記載されているが;しかしながら、全変異体が完全に特徴付けられているわけではない。
【0009】
抗癌治療における使用のための抗HER4の抗体は、例えば、米国特許第5811098号、米国特許第7332579号、又はHollmen M, et al, Oncogene. 28 (2009) 1309-19(抗ErbB−4抗体mAb 1479)から知られている。
【0010】
これまでは、HER3の平衡状態においてアクセス可能ではない、HER3のこのベータヘアピンは隠されたエピトープを表しているので、抗原結合タンパク質、特に、HER3のベータヘアピンに特異的に結合する抗体を選択することは可能ではなかった(図1参照)。
【発明の概要】
【0011】
発明の要旨
そのような抗体を得るために、我々は今回、SlyDスキャフォールド内で3次元的に配向して機能的に提示されるHER3(及びカウンタースクリーニング用のHER4)のベータヘアピンを使用する方法を見いだした(例えば図2、及び配列番号13、及び17から24のポリペプチドを参照)。
【0012】
本発明は、ヒトHER3に対して結合し(及びヒトHER4と交差反応しない)抗原結合タンパク質、特に抗体を選択するための方法を提供し、
ここで、抗原結合タンパク質、特に抗体は、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、
ここで、
a)配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチドであって、
配列番号1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
及び
b)配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチドであって、
配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドが、
a)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示し、かつb)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示さない抗原結合タンパク質、特に抗体を選択するために使用され、
それによって、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない抗原結合タンパク質、特に抗体を選択する。
【0013】
本発明は、このような選択方法によって得られた、抗原結合タンパク質、特に抗体を提供する。
【0014】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質、特に抗体を提供し、ここで抗原結合タンパク質、特に抗体は、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合する。
【0015】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を更に提供し、ここで
a)抗原結合タンパク質は、配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗原結合タンパク質は、配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない。
【0016】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を更に提供し、
a)抗原結合タンパク質は、配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)抗原結合タンパク質は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0017】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を更に提供し、
a)抗体は、配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗体は、配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない。
【0018】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を更に提供し、
a)抗体は、配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)抗体は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0019】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合する。
【0020】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は、
活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;かつ
HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害する。
【0021】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は、
a)配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
b)活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
c)配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
及び/又は
d)HER3のβヘアピン領域に結合し;及び/又は
e)HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害し;及び/又は
f)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)との比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有し;及び/又は
g)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRの比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有し;
h)配列番号2のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;及び/又は
i)配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;
及び/又は
j)HER4のβヘアピン領域に対して交差反応性を有さず;及び/又は
k)HER3への結合をヘレグリンと競合せず;及び/又は
l)ヘレグリンのHER3への結合を誘導し;及び/又は
m)HER3−ECDにKD値≦1×10−8Mの親和性で結合し(一実施態様において、1×10−8Mから1×10−13MのKD値で;(一実施態様において、1×10−9Mから1×10−13MのKD値で);及び/又は
n)PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し;及び/又は
o)PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し、及びPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応せず;及び/又は
p)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示し;及び/又は
q)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後の4時間後に、ヘレグリンの存在下で、HER3のほぼ完全な内部移行を示す。
【0022】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体はモノクローナル抗体である。
【0023】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体はヒト、ヒト化、又はキメラ抗体である。
【0024】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、ヒトHER3に結合する抗体断片である。
【0025】
一実施態様において、本発明は、
i)(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0026】
一実施態様において、本発明は、
i)(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0027】
一実施態様において、本発明は、
i)(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0028】
一実施態様において、本発明は、
i)(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0029】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号31のVH配列、及び配列番号32のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0030】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号39のVH配列、及び配列番号40のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0031】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号47のVH配列、及び配列番号48のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0032】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号56のVH配列、及び配列番号57のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0033】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は完全長IgG1抗体又はIgG4抗体である。
【0034】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体はFab断片である。
【0035】
本発明は、そのような抗HER3抗体の単離された核酸を更に提供する。
【0036】
本発明は更に、そのような核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0037】
本発明は更に、抗体が産生されるように、そのような宿主細胞を培養することを含む、抗体を製造する方法を提供する。
【0038】
一実施態様において、そのような方法は宿主細胞から抗体を回収することを更に含む。
【0039】
本発明は更に、そのような抗HER3抗体及び細胞傷害性薬剤を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0040】
本発明は更に、そのような抗HER3抗体及び薬学的に許容される担体を含む薬学的製剤を提供する。
【0041】
本発明は更に、医薬として使用するための、本明細書に記載される抗HER3抗体を提供する。本発明は更に、癌の治療における使用のための、本明細書に記載の抗HER3抗体、又は抗HER3抗体及び細胞傷害性薬剤を含むイムノコンジュゲートを提供する。本発明は更に、HER3/HER2二量体化の阻害における使用のための本明細書に記載される抗HER3抗体を提供する。
【0042】
医薬の製造における、そのような抗HER3抗体、又は抗HER3抗体及び細胞傷害性薬剤を含むイムノコンジュゲートの使用。医薬が癌の治療のためであることを特徴とするそのような使用。医薬はHER3/HER2二量体化を阻害するためであることを特徴とする、そのような使用。
【0043】
本発明は更に、本明細書に記載される抗HER3抗体、又は抗HER3抗体及び細胞傷害性薬剤を含むイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む、癌を有する個体を治療する方法を提供する。
【0044】
本発明は更に、本明細書に記載される抗HER3抗体及び細胞傷害性薬剤を含むイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む、癌に罹患した個体の癌細胞においてアポトーシスを誘導する方法であって、それにより、個体における癌細胞のアポトーシスを誘導する方法を提供する。
【0045】
本発明の一実施態様は、
i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドであって、
そのポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0046】
本発明は更に、実験動物において配列番号1に対する免疫応答を誘発するために、
i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドの一つの使用を提供する。
【0047】
本発明は更に、以下の工程:
a)i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドを、少なくとも一回、実験動物に投与し、それによりポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンを含む工程、
b)配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンに特異的に結合する抗体を産生するB細胞をポリペプチドの最後の投与後3日から10日後に実験動物から回収する工程、及び
c)配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンに特異的に結合する抗体をコードする核酸を含む細胞を培養し、そして細胞又は培養培地から抗体を回収し、標的抗原に特異的に結合する抗体を産生する工程
を含む配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンに特異的に結合する抗体を製造するための方法を提供する。
【0048】
本発明は更に、エピトープマッピングのために、
i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドの使用を提供し、
それによりポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピン中にエピトープを含む。
【0049】
SlyDスキャフォールド内で3次元的に配向して機能的に提示されるHER3のベータヘアピンを使用して(例えば図2、及び配列番号13、及び17から24のポリペプチドを参照)、ベータヘアピンに結合する、本明細書に記載の抗HER3抗原結合性タンパク質、特に抗体が選択され得る。本発明による抗原結合タンパク質、特に抗体は、HER3発現癌細胞におけるHER3の内部移行などの非常に価値ある特性、又は非常に特異的な薬物動態学的特性(HER3−ECDの閉じたコンホメーションにおける(即ち、ヘレグリンの非存在下における)、HER3−ECDに対する結合と比較した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3スキャフォールド(3次元の機能的構造においてHER3のβヘアピンを呈示し、HER3のβヘアピンの開いたHERコンホメーションを模倣する)に対する結合の、より速い結合速度、及び、より高いモル比など)を有することが見いだされた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】コンホメーション変化における「閉じた」及び「開いた」コンホメーション並びにニューレグリンファミリーリガンド(例えば本明細書でHRと略されるヘレグリンなど)の影響の概略図。
図2】サーマス・サーモフィラスのSlyDスキャフォールド内で3次元的に配向して機能的に提示されるHER3のベータヘアピンの3D構造。
図3】TtSlyD−FKBP−Her3のNi−NTA精製のSDS−PAGE分析E1及びE2は、精製された画分12及び13を示している。SN:精製前の大腸菌溶解物の上清。
図4】サーマス・サーモフィラスのSlyD−FKBP−Her−3のNi−NTA精製された画分のSEC溶出プロフィール。
図5】A)選択されたクローンのIHCにおける特異性と反応性の試験。示されるように、全てのクローンは、HER3の検出に特異的であり、HERファミリーの他のメンバー(HER1、HER2、及びHER4).−抗体のM−08−11、17−02及び17−07との交差反応性を示さない。B)選択されたクローンのIHCにおける特異性と反応性の試験。示されるように、全てのクローンは、HER3の検出に特異的であり、HERファミリーの他のメンバー(HER1、HER2、及びHER4).−抗体のM−08−11、17−02、M−43−01及びM−46−01との交差反応性を示さない。
図6】T47D細胞における、M−08−11抗体誘導型時間依存性HER3内部移行のFACS分析。
図7】抗HER3抗体の二状態解析:図7a)とb)において、抗HER3抗体M−08−11の二状態解析が示される。図7a):抗HER3抗体M−08−11:「閉じた」Her−3 ECDは、非常に高いHer−3 ECD濃度においてのみ、1:1ラングミュアー相互作用に従って結合される(解離曲線は重ね合わされて一致する解離曲線を形成することができるため)。図7b):抗HER3抗体M−08−11:ヘレグリン/Her−3 ECDの相互作用の解離曲線は、重ね合わせることができない。図7c:抗HER3抗体M−08−11,M−43−01及びM−46−01の二状態速度論的解析の相互作用マップ。図7d):抗HER3抗体M−43−01の二状態速度論的解析の相互作用マップ。図7e):抗HER3抗体M−46−01の二状態速度論的解析の相互作用マップ。
図8】ビアコアセンサーグラムの重ね合わせプロット。1:100nMのM−05−74*ヘレグリン/Her−3 ECD相互作用。2:100nMのM−08−11*ヘレグリン/Her−3 ECD相互作用。3&4:100nMのM−05−74及び100nMのM−08−11*Her−3 ECD相互作用。5:緩衝液の基準。
図9】ビアコアエピトープビニング実験のセンサーグラムの重ね合わせ。一次抗体M−05−74(図中のM−074)は、二次抗体M−208、GT(=8B8)、M−05−74及びM−08−11(図9中のM−011)にHer−3 ECDを提示した(M−.測定のノイズは5RUであった)。
図10】ビアコアセンサーグラムの重ね合わせプロット。1:M−05−74に対する90nMのヘレグリン*Her−3 ECD複合体。2:M−08−11に対する90nMのヘレグリン*Her−3 ECD複合体。3:8B8抗体に対する90nMのヘレグリン*Her−3 ECD複合体。
図11】ビアコア機能アッセイにより同定された作用機序の略図。1:M−08−11はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合し、遅延したヘレグリン解離を誘導し、それによってM−08−11はHer−3 ECD受容体複合体に留まることになる。2:M−05−74はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合する。ヘレグリンは、複合体にトラップされ、抗体は、複合体3のままである:8B8はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合する。複合体全体は、抗体から解離する。
図12】エピトープマッピング及びアラニンスキャンアプローチの戦略。EGFR、HER−2 ECD、HER−3 ECD及びHer−4 ECDのペプチドヘアピン配列(ペプチドヘアピン)は、それらの構造的埋め込み(構造)を含み、調べられた。システインは、セリンによって置換された。
図13】HER3に対する抗体M−08−11のエピトープのCelluSpotsTM合成及びエピトープマッピング。抗HER3抗体M−08−11は、HER3 ECD結合エピトープPLVYNKLTFQLE(配列番号48)に結合し、HER4のβヘアピンへの結合を示さない。
図14】HER4交差反応性を有さない抗HER3抗体M−08−11(M−011と命名)及び抗HER3/HER4抗体M−05−74(図中でM−074と命名)のCelluSpotsTM Alaスキャンからの結果−抗HER3抗体M−08−11のそのHER3 ECD結合エピトープPLVYNKLTFQLE(配列番号48)への結合に最も寄与しているアミノ酸は下線が引かれ/太字である。
図15】A)M−08−11(M−011)の結合は、H(HRG)のHER3−ECDへの結合を誘導/促進する。従って、M−08−11は、HER3−ECDに対する結合を、ヘレグリン(HRG)と競合しない。B)M−08−11、M−43−01及びM−46−01の結合は、HER3−ECDに対するヘレグリン(HRG)の結合を誘導し/促進する。従って、M−08−11、M−43−01及びM−46−01は、HER3−ECDに対する結合を、ヘレグリン(HRG)と競合しない。
図16】抗HER3抗体M−08−11(M−011と命名)による、MCF7細胞におけるHER2/HER3ヘテロ二量体/ヘテロ二量体化の阻害(免疫沈降及びウエスタンブロット)(HER3−IP=HER3抗体を用いた免疫沈降/HER2−IP=HER3抗体を用いた免疫沈降)。
図17】ビアコアセンサーグラム重ね合わせプロット:国際公開第2012/22814号に記載される抗HER3抗体MOR09823(2)と比較した、本発明の抗体M−08−11(1)のTtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対する結合。本M−08−11(1)の抗体は、TtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対する明らかな結合シグナルを示すが、抗体である抗HER3抗体MOR09823(2)は、TtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対して全く結合を示さない。抗体無しでの対照測定は、TtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対して全く結合を示さなかった。
【発明を実施するための形態】
【0051】
I.定義
本明細書における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」とは、下記に定義されるように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られる軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含有するフレームワークである。ヒト免疫グロブリンのフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同一のアミノ酸配列を含んでもよく、又はそれはアミノ酸配列の変化を含み得る。幾つかの実施態様において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。幾つかの実施態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、Vはヒト免疫グロブリンのフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列に、配列が同一である。
【0052】
「親和性成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる、その一又は複数の超可変領域(HVR)において一又は複数の改変を有するものである。
【0053】
本明細書で使用される、用語「抗原結合タンパク質」は、本明細書に記載される抗体、又はスキャフォールド抗原結合タンパク質を指す。一の好ましい実施態様において、抗原結合タンパク質は、本明細書に記載される抗体である。スキャフォールド抗原結合タンパク質は当技術分野で知られており、例えば、フィブロネクチン及び設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)が、抗原結合ドメインについての代替的なスキャフォールドとして使用されている。例えば、Gebauer and Skerra, Engineered protein scaffolds as next-generation antibody therapeuticsを参照。Curr Opin Chem Biol 13:245-255 (2009) and Stumpp et al., Darpins: A new generation of protein therapeutics. Drug Discov Today 13: 695-701 (2008)は、その両方とも、参照によりその全体が本明細書に援用される。B.本発明の抗原結合タンパク質に対する親可変ドメイン及び受容体の選択基準。一実施態様において、スキャフォールド抗原結合タンパク質は、CTLA−4(エヴィボディ(Evibody));リポカリン;例えばプロテインAのZドメイン(アフィボディ(Affibody)、SpA)、Aドメイン(アビマー(Avimer)/マキシボディ(Maxibody))などのプロテインA由来分子;GroEI及びGroESなどの熱ショックタンパク質;トランスフェリン(トランス−ボディ(trans-body));アンキリンリピートタンパク質(DARPin);ペプチドアプタマー;C型レクチンドメイン(テトラネクチン);ヒトγクリスタリン及びヒトユビキチン(affilins);PDZドメイン;ヒトプロテアーゼ阻害剤のサソリ毒素クニッツ型ドメイン;及びフィブロネクチン(アドネクチン)からなる群から選択され;これは天然のリガンド以外のリガンドへの結合を得るためにタンパク質操作を受けている。
【0054】
CTLA−4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)は、主にCD4+T細胞上に発現されるCD28ファミリー受容体である。その細胞外ドメインは、Igフォールド等の可変ドメインを有する。抗体のCDRに該当するループは、異なる結合特性を付与するために異種性配列で置換されてもよい。異なる結合特異性を有するように操作されたCTLA−4分子はエヴィボディ(Evibodies)として知られる。更なる詳細は、Journal of Immunological Methods 248 (1-2), 31-45 (2001)を参照のこと。
【0055】
リポカリンは、ステロイド、ビリン、レチノイド及び脂質等の小疎水性分子を輸送する細胞外タンパク質のファミリーである。それらは、異なる標的抗原に結合するよう操作されうる、円錐構造の開口端に多くのループを有する剛性β−シート二次構造を有する。アンチカリンは160−180アミノ酸のサイズであり、リポカリンに由来する。更なる詳細については、Biochim Biophys Acta 1482:337-350 (2000)、米国特許第7250297B1号及び米国特許出願公開第20070224633号を参照のこと。
【0056】
アフィボディは、抗原に結合するよう操作できる、黄色ブドウ球菌のプロテインAに由来するスキャフォールドである。ドメインはおよそ58アミノ酸の3−ヘリックス束から成る。ライブラリーは表面残基のランダム化によって作成されている。更なる詳細については、Protein Eng. Des.SeI.17, 455-462 (2004)及び欧州特許第1641818A1号を参照のこと。アビマーは、A−ドメインスキャフォールドファミリー由来のマルチドメインタンパク質である。およそ35アミノ酸の天然型ドメインは、規定のジスルフィド結合構造を採用する。多様性は、A−ドメインのファミリーにより呈されている天然バリエーションのシャッフリングによって生成される。更なる詳細については、Nature Biotechnology 23(12), 1556 - 1561 (2005)及びExpert Opinion on Investigational Drugs 16(6), 909-917 (June 2007)を参照のこと。
【0057】
トランスフェリンは単量体血清輸送糖タンパク質である。トランスフェリンは、許容表面ループへのペプチド配列の挿入によって、異なる標的抗原に結合するように操作され得る。操作されたトランスフェリンスキャフォールドの例はトランス−ボディ(Trans-body)を含む。更なる詳細については、J. Biol.Chem 274, 24066-24073 (1999)を参照のこと。
【0058】
設計されたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)は、細胞骨格への内在性膜タンパク質の接着を媒介するタンパク質のファミリーであるアンキリンに由来する。単アンキリンリピートは、2つのα−ヘリックス及びβ−ターンからなる33残基のモチーフである。それらは、各リピートの最初のα−ヘリックス及びβ−ターンにおける残基をランダム化することにより、異なる標的結合に結合するよう操作され得る。それらの結合表面は、モジュールの数を増加することによって増加することができる(親和性成熟の方法)。更なる詳細は、J. MoI. Biol. 332, 489-503 (2003), PNAS 100(4), 1700-1705 (2003) 及びJ. MoI. Biol. 369, 1015-1028 (2007)及び米国特許出願公開第20040132028A1号を参照のこと。
【0059】
フィブロネクチンは抗原に結合するように操作することができるスキャフォールドである。アドネクチンは、ヒトフィブロネクチンIII型(FN3)の15リピート単位の第10ドメインの天然型アミノ酸配列の骨格からなる。βサンドイッチの一端の3つのループは、ドネクチンが、目的の治療標的を特異的に認識できるように操作することができる。更なる詳細については、Protein Eng. Des. SeI. 18, 435- 444 (2005)、米国特許出願公開第20080139791号、国際公開第2005056764号及び米国特許第6818418B1号を参照のこと。
【0060】
ペプチドアプタマーは、活性部位に挿入された可変ペプチドループを含有する定常スキャフォールドタンパク質、典型的にはチオレドキシン(TrxA)からなる、コンビナトリアル認識分子である。更なる詳細は、Expert Opin. Biol. Ther. 5, 783-797 (2005)を参照のこと。
【0061】
ミクロボディーは、3−4のシステイン架橋を含有する長さ25−50アミノ酸の天然に生じるマイクロタンパク質に由来し、マイクロタンパク質の例は、KalataBI及びコノトキシン及びノッチンを含む。マイクロタンパク質はループを有し、マイクロタンパク質の全体のフォールドに影響することなく25アミノ酸までを含むよう操作することが可能である。操作されたノッチンドメインの更なる詳細は、国際公開第2008098796号を参照のこと。
【0062】
他の抗原結合タンパク質は、異なる標的抗原結合特性を操作するためのスキャフォールドとして用いられたタンパク質を含み、ヒトγ−クリスタリン及びヒトユビキチン(affilins)、ヒトプロテアーゼ阻害剤のクニッツタイプドメイン、Ras−結合タンパク質AF−6のPDZ−ドメイン、サソリ毒素(charybdotoxin)、C−タイプ・レクチンドメイン(tetranectins)を含み、Non-Antibody Scaffolds from Handbook of Therapeutic Antibodies (2007, edited by Stefan Dubel)の第7章、及びProtein Science 15:14-27 (2006)において概説される。本発明のエピトープ結合ドメインは、これらの代替タンパク質ドメインの何れかに由来することができる。
【0063】
用語「抗HER3抗原結合タンパク質」、「(ヒト)HER3に結合する抗原結合タンパク質」、及び「ヒトHER3に特異的に結合する抗原結合タンパク質」は、抗原結合タンパク質が、HER3を標的とする診断及び/又は治療剤として有用であるように十分な親和性で、HER3に結合することができる抗原結合タンパク質を指す。
【0064】
用語「抗HER3抗体」、「(ヒト)HER3に結合する抗体」、及び「ヒトHER3に特異的に結合する抗体」は、抗体が、HER3を標的とする診断及び/又は治療剤として有用であるように十分な親和性で、HER3に結合することができる抗体を指す。一実施態様において、抗HER3抗体の、無関係な、非HER3タンパク質への結合の程度は、例えば、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば、BIACORE)によって測定される場合、抗体のHER3への結合の約10%未満である。ある実施態様において、ヒトHER3に結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10−8M以下、例えば10−8Mから10−13M、例えば10−9Mから10−13M)の、ヒトHER3に対する結合の結合親和性KD値を有する。好ましい実施態様において、結合親和性の各KD値は、HER3結合親和性については、ヒトHER3の野生型細胞外ドメイン(ECD)(HER3−ECD)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定される。
【0065】
本明細書で使用される場合、用語「活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合する抗HER3抗原結合タンパク質又は抗HER3抗体」は、ヘレグリン(HRG)の存在下で、ヒトHER3−ECDに含まれる配列番号1のアミノ酸配列に結合する抗HER3抗原結合タンパク質又は抗HER3抗体を指す。好ましい実施態様において、用語「活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合する抗HER3抗原結合タンパク質又は抗HER3抗体」は、配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcys−Her3)に含まれる配列番号1のアミノ酸配列に結合する、抗HER3抗原結合タンパク質又は抗HER3抗体を指す。
【0066】
本明細書において用語「抗体」は、最も広い意味で用いられ、様々な抗体構造を包含し、限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び、所望の抗原結合活性を示す限り、抗体断片を含む。
【0067】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原を結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’);ダイアボディ;直鎖状抗体;単鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0068】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいて、参照抗体のその抗原に対する結合を、50%以上遮断する抗体を指し、逆に、参照抗体は、競合アッセイにおいて、抗体のその抗原に対する結合を、50%以上遮断する。例示的な競合アッセイが、本明細書において提供される。
【0069】
用語「(ヒト)HER4、HER4のβヘアピン、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はHER4 ECDに対する交差反応性を有する/示す(あるいは交差反応する)「抗体(又は抗原結合タンパク質)」は、上記HER3に結合する抗体(又は抗原結合タンパク質)について定義されるのと同様に、例えば、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcys−Her4)又はHER4 ECDに含まれる、PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列内で、(ヒト)HER4、HER4のβヘアピン、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに結合する抗体(又は抗原結合タンパク質)を指す。これに関連して、用語「例えば、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcys−Her4)又はHER4 ECDに含まれる、PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列内で、(ヒト)HER4、HER4のβヘアピン、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する交差反応性を有しない/示さない(あるいは交差反応しない)「抗体(又は抗原結合タンパク質)」は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcys−Her4)又はHER4 ECDのそれぞれに含まれる、PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列内で、(ヒト)HER4、HER4のβヘアピン、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対して結合しないものを指す。好ましい一実施態様において、抗体は、配列番号6のヒトHER4の細胞外ドメイン(ECD)(ヒトHER4−ECD)と交差反応しない場合、即ち、(例えば、抗原としてヒトHER4−ECDが可溶性分析物として注入される、固定化(例えば捕捉された)抗体を用いて、25℃で)表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定される結合シグナル(相対単位(RU)で)が、バックグランドシグナル(ノイズ)の3倍低い場合、ヒトHER4と交差反応しない。好ましい一実施態様において、本発明の抗体は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcys−Her4)と交差反応しない場合、ヒトHER4と交差反応しない。他の抗原に対する(例えば、HER2、HER1などに対する)交差反応性及び非交差反応性は同様に定義される。
【0070】
本明細書で使用する用語「癌」は、例えば、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞性細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭部又は頸部の癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、結腸癌、乳癌、子宮癌、卵管の癌、子宮内膜癌、子宮頸部癌、膣の癌、外陰部の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓又は尿管の癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆管癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、多形性膠芽腫、星状細胞腫、シュワン腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ性白血病であって良く、上記癌の何れかの難治性バージョン、又は上記癌のうちの一又は複数の組み合わせを含む。好ましい一実施態様において、癌は、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、肺癌又は前立腺癌である。好ましい一実施態様において、そのような癌は、HER3の発現又は過剰発現によって更に特徴付けられる。更なる一実施態様において、本発明は、原発腫瘍及び新たな転移の同時治療における使用のための本発明の抗HER3抗体である。
【0071】
用語「キメラ」抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が特定の起源又は種から由来し、一方重鎖及び/又は軽鎖の残りが異なる起源又は種から由来する抗体を指す。
【0072】
抗体の「クラス」は、その重鎖が保有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体の5つの主要なクラスがあり:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、及びこれらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgGに、IgG、IgG、IGA、及びIgAに分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0073】
本明細書で用いられる「細胞傷害性薬剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞死若しくは破壊を生ずる物質を指す。細胞傷害性薬剤は、限定されないが、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体);化学療法剤又は薬物(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他のインターカレート剤);増殖阻害剤;酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素など;抗生物質;小分子毒素などの毒素、又は細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒素(それらの断片及び/又はその変異体を含む);及び以下に開示される様々な抗腫瘍剤又は抗癌剤を包含する。好ましい一実施態様において、「細胞傷害性薬剤」は、シュードモナス外毒素A又はその変異体である。好ましい一実施態様において、「細胞傷害性薬剤」は、アマトキシン又はその変異体である。
【0074】
「エフェクター機能」は、抗体のアイソタイプにより変わる、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害(CDC);Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
【0075】
薬剤、例えば、薬学的製剤の「有効量」は、例えば、所望の治療的又は予防的結果を達成するために、必要な用量及び期間で有効な量を指す。
【0076】
用語「エピトープ」とは、抗体に対して特異的に結合できる任意のポリペプチド決定基を含む。ある実施態様においては、エピトープ決定基は、分子、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニルなどの化学的活性表面基を含み、そしてある実施態様においては、特定の三次元構造特性及び/又は比電荷特性を有することができる。エピトープは、抗体により結合される抗原の領域である。
【0077】
用語「Fc領域」は、定常領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。その用語は、天然配列Fc領域と変異体Fc領域を含む。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端まで伸長する。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在しているか、又は存在していない場合がある。本明細書に明記されていない限り、Fc領域又は定常領域内のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991), NIH Publication 91-3242に記載されるように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従う。
【0078】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRのドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。従って、HVR及びFR配列は一般にVH(又はVL)の以下の配列に現れる:FR1−H1(L1)−FR2−H2(L2)−FR3−H3(L3)−FR4。
【0079】
用語「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、本明細書中で互換的に使用され、天然型抗体構造と実質的に類似の構造を有するか、又は本明細書で定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0080】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞培養」は互換的に使用され、外因性の核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含める。宿主細胞は、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」を含み、継代の数に関係なく、それに由来する一次形質転換細胞及び子孫が含まれる。子孫は親細胞と核酸含量が完全に同一ではないかもしれないが、突然変異が含まれる場合がある。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたものと同じ機能又は生物活性を有する変異型子孫が本明細書において含まれる。
【0081】
「ヒト抗体」は、ヒト又はヒト細胞により産生されるか、又はヒト抗体のレパートリー又は他のヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト起源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0082】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」とは、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般的には、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからのものである。一般的には、配列のサブグループは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD(1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3にあるサブグループである。一実施態様において、VLについて、サブグループは上掲のKabatらにあるサブグループカッパIである。一実施態様において、VHについて、サブグループは上掲のKabatらにあるサブグループIIIである。
【0083】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基、及びヒトFR由来アミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。所定の実施態様において、ヒト化抗体は、少なくとも一つ、典型的には二つの可変ドメインの実質的に全てを含み、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体のものに対応し、FRの全て又は実質的に全てが、ヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体の「ヒト化変異体」、例えば、非ヒト抗体は、ヒト化を遂げた抗体を指す。好ましい一実施態様では、マウスHVRが、「ヒト化抗体」を調製するためのヒト抗体のフレームワーク領域に移植される。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332(1988) 323-327;及びNeuberger, M.S., et al., Nature 314(1985) 268-270を参照。マウス可変領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列抗体V遺伝子のコレクションへアラインされ、配列同一性及び相同性に従って分類された。アクセプター配列は、高い全配列相同性に基づいて、任意でアクセプター配列中に既存の正しい標準残基の存在に基づいて選択される(Poul, M-A. and Lefranc, M-P., in “Ingenierie des anticorps banques combinatores" ed. by Lefranc, M-P. and Lefranc, G., Les Editions INSERM, 1997を参照を参照)。生殖系列V遺伝子は、重鎖のHVR3の開始までの領域のみと、軽鎖のHVR3の真ん中までとをコードする。従って、生殖系列V遺伝子の遺伝子は、Vドメイン全体に対してはアラインされない。ヒト化コンストラクトは、ヒトフレームワーク1から3、マウスHVR、及びヒトJK4由来のヒトフレームワーク4配列、及び軽鎖及び重鎖のJH4配列をそれぞれ含む。一つの特定のアクセプター配列を選択する前に、ドナー抗体のいわゆる標準的ループ構造を決定することができる(Morea, V., et al., Methods, Vol 20, Issue 3(2000) 267-279を参照)。これらの標準的なループ構造は、いわゆる標準的な位置に存在する残基の種類によって決定される。これらの位置は、HVR領域の外に(部分的に)に存在し、親(ドナー)抗体のHVRコンホメーションを維持するために、最終的なコンストラクト中で機能的に同等に維持されるべきである。国際公開第2004/006955号において、非ヒト成熟抗体中のHVRの標準的なHVR構造タイプを同定する工程;ヒト抗体可変領域用のペプチド配列のライブラリーを得る工程;ライブラリー内の可変領域の標準的HVR構造タイプを決定する工程;及び標準的なHVR構造が、非ヒト及びヒト可変領域内の対応する位置で非ヒト抗体の標準的なHVR構造タイプと同じであるヒト配列を選択する工程を含む抗体をヒト化するための方法が報告されている。要約すると、潜在的なアクセプター配列は、高い全体の相同性に基づいて選択され、そして必要に応じて、更に、アクセプター配列中に既存の正しい標準残基の存在に基づいて選択される。幾つかの場合には、単純なHVRグラフト化は、非ヒト抗体の結合特異性の部分的な保持を生じる。結合特異性を再構成するために、少なくとも幾つかの特異的な非ヒトフレームワーク残基が必要であり、又、ヒトフレームワークに移植されなければならないこと、即ち、いわゆる「復帰突然変異」が、非ヒトHVRの導入に加えてなされる必要があることが見出されている(例えば、Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(1989) 10,029-10,033; Co et al., Nature 351(1991) 501-502を参照)。これらの特定のフレームワークアミノ酸残基は、FR−HVRとの相互作用に関与し、HVRのコンホメーション(ループ)を安定化していた(例えば、Kabat et al., J. Immunol. 147(1991) 1709を参照)。幾つかの場合には、正突然変異が、より緊密にヒト生殖細胞系配列を取り入れるために導入される。従って、「本発明の抗体のヒト化変異体」(例えば、マウス起源のもの)は、VH及びVLが、上記の標準的な技術(HVR移植、及び必要に応じて、フレームワーク領域、及びHVR−H1、HVR−H2、HVR−L1又はHVR−L2の特定のアミノ酸のその後の突然変異誘発を含み、一方で、HVR−H3及びHVR−L3は未修正のままである)によってヒト化されたマウス抗体の配列に基づく抗体を指す。
【0084】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」は、配列が超可変であるか(「相補性決定領域」又は「CDR」)、及び/又は構造的に定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体可変ドメインの各領域を指す。一般的に、抗体は、6つのHVR:VH(H1、H2、H3)に3つ、及びVL(L1、L2、L3)に3つを含む。本明細書における典型的のHVRは、以下を含む:(a)アミノ酸残基26−32(L1)、50−52(L2)、91−96(L3)、26−32(H1)、53−55(H2)、及び96−101(H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917(1987));(b)アミノ酸残基24−34(L1)、50−56(L2)、89−97(L3)、31−35b(H1)、50−65(H2)、及び95−102(H3)で生じるCDR(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991));(c)アミノ酸残基27c−36(L1)、46−55(L2)、89−96(L3)、30−35b(H1)、47−58(H2)、及び93−101(H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745(1996));及び(d)HVRのアミノ酸残基46−56(L2)、47−56(L2)、48−56(L2)、49−56(L2)、26−35(H1)、26−35b(H1)、49−65(H2)、93−102(H3)、及び94−102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組合せ。
【0085】
特に断らない限り、可変ドメイン内のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、上掲のKabatらに従い、本明細書において番号が付けられる。
【0086】
「イムノコンジュゲート」は、一以上の異種分子にコンジュゲートされた抗体であり、限定されないが、細胞傷害性薬剤を含む。
【0087】
「個体」又は「被検体」は、哺乳動物である。哺乳動物は、限定されないが、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及びサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含む。所定の実施態様において、個体又は被検体はヒトである。
【0088】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から分離されたものである。幾つかの実施態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS−PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)により決定されるように、95%以上又は99%の純度に精製される。抗体純度の評価法の総説としては、例えば、Flatman, S. et al., J. Chromatogr. B 848(2007) 79-87を参照のこと。
【0089】
「単離された」核酸は、その自然環境の成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、しかし、その核酸分子は、染色体外又はその自然の染色体上の位置とは異なる染色体位置に存在している。
【0090】
「抗HER3抗体をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖及び軽鎖(又はその断片)をコードする一以上の核酸分子を指し、単一のベクター又は別個のベクター内のそのような核酸分子、及び宿主細胞の一以上の位置に存在するそのような核酸分子を含む。
【0091】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味し、すなわち、例えば、天然に生じる変異を含み、又はモノクローナル抗体製剤の製造時に発生し、一般的に少量で存在している変異体などの、可能性のある変異体抗体を除き、集団を構成する個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。「モノクローナル」なる修飾語句は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で製造しなければならないと解釈されるべきものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、限定されないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含む様々な技術によって作成され、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及び他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0092】
用語「Mab」は、モノクローナル抗体を指し、一方用語「hMab」は、そのようなモノクローナル抗体のヒト化変異体を指す。
【0093】
「ネイキッド抗体」とは、異種の部分(例えば、細胞傷害性部分)又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体を指す。ネイキッド抗体は、薬学的製剤中に存在してもよい。(先行技術がイムノコンジュゲートを有する場合に含まれる)。
【0094】
「天然型抗体」は、様々な構造を有する、天然に生じる免疫グロブリンを指す。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から成る、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続いて3つの定常ドメイン(CH1、CH2及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端に、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、続いて軽鎖定常領域とも呼ばれる定常軽鎖(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)とラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプのいずれかに割り当てることができる。
【0095】
用語「パッケージ挿入物」は、効能、用法、用量、投与、併用療法、禁忌についての情報、及び/又はそのような治療用製品の使用に関する警告を含む、治療用製品の商用パッケージに慣習的に含まれている説明書を指すために使用される。
【0096】
「参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST−2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN−2を用いて得られる。ALIGN−2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成され、ソースコードは米国著作権庁、Washington D.C., 20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN−2プログラムはジェネンテック社、South San Francisco, Californiaを通して公的に入手可能であり、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN−2プログラムは、UNIXオペレーティングシステム、特にデジタルUNIX V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメータは、ALIGN−2プログラムによって設定され変動しない。
【0097】
アミノ酸配列比較にALIGN−2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(或いは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対して所定の%アミノ酸配列同一性を有する又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは、A及びBのプログラムアラインメントにおいて、配列アラインメントプログラムALIGN−2によって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと一致しない場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは一致しないと評価されるであろう。特に断らない限りは、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、直前のパラグラフに記載したように、ALIGN−2コンピュータプログラムを用いて得られる。
【0098】
用語「薬学的製剤」は、その中に有効で含有される活性成分の生物学的活性を許容するような形態であって、製剤を投与する被検体にとって許容できない毒性である他の成分を含まない調製物を指す。
【0099】
「薬学的に許容される担体」は、被検体に非毒性であり、有効成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体は、限定されないが、緩衝剤、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含む。
【0100】
特に断らない限り、本明細書で使用する用語「HER3」は、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス、ラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物由来の任意の天然型HER3を指す。その用語は、「完全長」で未処理のHER3、並びに細胞内でのプロセシングから生じた任意の形態のHER3を含む。その用語はまた、HER3の天然に生じる変異体、例えば、スプライスバリアント又は対立遺伝子変異体を含む。典型的なヒトHER3のアミノ酸配列は、配列番号3に示される。「ヒトHER3」(ErbB−3、ERBB3、c−erbB−3、c−erbB3、受容体チロシンプロテインキナーゼerbB−3、配列番号3)は、HER1(EGFRとしても知られる)、HER2、及びHER4を含む、受容体チロシンキナーゼの上皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーのメンバーをコードする(Kraus, M.H. et al, PNAS 86(1989) 9193-9197; Plowman, G.D. et al, PNAS 87(1990) 4905-4909; Kraus, M.H. et al, PNAS 90(1993) 2900-2904)。プロトタイプの上皮成長因子受容体と同様に、膜貫通受容体HER3は、細胞外リガンド結合ドメイン(ECD)、ECD内の二量体化ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内タンパク質チロシンキナーゼドメイン(TKD)及びC末端リン酸化ドメインからなる。この膜結合タンパク質は、細胞外ドメイン内にヘレグリン(HRG)結合ドメインを有しているが、活性なキナーゼドメインは有していない。従って、このリガンドに結合できるが、タンパク質のリン酸化を介して細胞内にシグナルを伝達することはできない。しかし、それはキナーゼ活性を有する他のHERファミリーメンバーとヘテロダイマーを形成する。ヘテロ二量体化は、受容体媒介性シグナル伝達経路の活性化とその細胞内ドメインのトランスリン酸化へと導く。HERファミリーメンバーとの間の二量体形成は、HER3のシグナル伝達の可能性を拡大し、シグナル多様化のためだけでなくシグナル増幅のための手段である。例えば、HER2/HER3ヘテロ二量体は、HERファミリーメンバー間のPI3KとAKT経路を介して、最も重要な有糸分裂シグナルの一つを誘導する(Sliwkowski M.X., et al, J. Biol. Chem. 269(1994) 14661-14665; Alimandi M, et al, Oncogene. 10(1995) 1813-1821; Hellyer, N.J., J. Biol. Chem. 276(2001) 42153-4261; Singer, E., J. Biol. Chem. 276(2001) 44266-44274; Schaefer, K.L., Neoplasia 8(2006) 613-622)。HER3及びHER受容体ファミリー及びNGRリガンドファミリー内のその様々な相互作用の概要については、例えば、G Sithanandam et al Cancer Gene Therapy(2008) 15, 413−448を参照。
【0101】
興味深いことに、その平衡状態において、HER3受容体は、その「閉じたコンホメーション」で存在し、このことは、ヘテロ二量体化HER3ベータヘアピンモチーフはHER3のECDドメインIVへの非共有結合性相互作用を介して係留されていることを意味している(図1cを参照)。これは、「閉じた」HER3コンホメーションは、特異的なHER3ヘレグリン結合部位でのリガンドヘレグリンの結合を介して開くことができると想定される。これは、HER3のECDドメインIとドメインIIIによって形成されたHER3界面で起こる。この相互作用により、HER3受容体が活性化され、その「開いたコンホメーション」へと移行されると考えられる(図1b及びBaselga, J. et al, Nat Rev Cancer 9(2009). 463-475及びDesbois-Mouthon, C., at al, Gastroenterol Clin Biol 34(2010) 255-259を参照)。この開いたコンホメーションにおいて、ヘテロ二量体化とHER2によるトランシグナル(transignal)誘導が可能である(図1bを参照)。
【0102】
本明細書で用いられるように、「治療」(及び「治療する(treat)」又は「治療している(treating)」など文法上の変形)は、治療されている個体の自然経過を変えようと試みる臨床的介入を指し、予防のため又は臨床病理の過程においてのどちらかで実行できる。治療の望ましい効果は、限定されないが、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の緩和、疾患の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮小、転移を予防すること、疾患の進行の速度を遅らせること、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善を含む。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるか又は疾患の進行を遅くするために使用される。
【0103】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗体の抗原への結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。天然型抗体の可変重鎖ドメイン及び軽鎖(それぞれVH及びVL)は、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)を含む各ドメインを有し、一般的に似たような構造を有する。(例えば、Kindt, T.J., et al., Kuby Immunology、第6版、W.H. Freeman and Co., N.Y.(2007)、91頁)を参照)。単一のVH又はVLドメインが、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。更に、特定の抗原に結合する抗体は、相補的なVL又はVHドメインのそれぞれのライブラリーをスクリーニングするために、抗原に特異的に結合する抗体由来のVH又はVLドメインを用いて単離することができる。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150(1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352(1991) 624-628)を参照。
【0104】
本明細書で使用される、用語「ベクター」は、それがリンクされている別の核酸を伝播することができる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、並びにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。ある種のベクターは、それらが動作可能なようにリンクされている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と言う。
【0105】
II.組成物及び方法
一態様において、本発明は一部が、SlyDスキャフォールド内で3次元的に配向して機能的に提示されるHER3及びHER4のベータヘアピンを使用して(例えば図2、配列番号13及び17から24のポリペプチドを参照)、HER3のベータヘアピンに特異的であり、HER4のβヘアピンとは交差反応しない、抗体を選択することが可能であるという知見にもとづいている。
【0106】
ある実施態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し(及びヒトHER4と交差反応しない)抗体を提供し、ここで、抗体はヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合する。
【0107】
本発明の抗体は、例えば癌の診断又は癌の治療のために有用である。
【0108】
A.典型的な抗HER3抗原結合タンパク質及び抗体
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を提供し、
a)抗原結合タンパク質は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗原結合タンパク質は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドと交差反応しない。
【0109】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を更に提供し、
a)抗原結合タンパク質は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
かつ
b)抗原結合タンパク質は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0110】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を更に提供し、
a)抗原結合タンパク質は、配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗原結合タンパク質は、配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない。
【0111】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗原結合タンパク質を更に提供し、
a)抗原結合タンパク質は、配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)抗原結合タンパク質は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0112】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、
a)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドと交差反応しない。
【0113】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を更に提供し、
a)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
かつ
b)抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0114】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を更に提供し、
a)抗体は、配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)抗体は、配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない。
【0115】
本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を更に提供し、
a)抗体は、配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)抗体は、配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない。
【0116】
一態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体はヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合する。
【0117】
ある実施態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は以下の特性:
a)抗体は、配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
b)抗体は、活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
c)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
及び/又は
d)抗体は、HER3のβヘアピン領域に結合し;及び/又は
e)抗体は、HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害し(実施例6を参照);及び/又は
f)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)との比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有し;及び/又は
g)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRとの比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有し;
h)抗体は、配列番号2のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;及び/又は
i)抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;
及び/又は
j)抗体は、HER4のβヘアピン領域に対して交差反応性を有さず;及び/又は
k)抗体は、HER3への結合をヘレグリンと競合せず(実施例5を参照);及び/又は
l)抗体は、HER3へのヘレグリンの結合を誘導し(実施例5を参照);及び/又は
m)抗体は、HER3−ECDに、KD値≦1×10−8Mの親和性で結合し(一実施態様において、1×10−8Mから1×10−13MのKD値で;(一実施態様において、1×10−9Mから1×10−13MのKD値で);及び/又は
n)抗体は、PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し(実施例2及び3を参照);及び/又は
o)抗体は、PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し、かつPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応しない(実施例2及び3を参照);及び/又は
p)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示し(実施例2bを参照);及び/又は
q)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後の4時間後に、ヘレグリンの存在下で、HER3のほぼ完全な内部移行を示す(実施例2bを参照)
の一以上を有する(また各単一の特性の各組み合わせも本明細書で意図される)。
【0118】
ある実施態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は以下の特性:
a)抗体は、配列番号1のアミノ酸配列に結合し;かつ
抗体は、配列番号2のアミノ酸配列と交差反応しない;
及び/又は
b)抗体は、活性化性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;かつ
抗体は、活性化性化HER4における配列番号2のアミノ酸配列と交差反応しない;
及び/又は
c)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
かつ、抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列内に結合しない;
及び/又は
d)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに結合し;
かつ抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドと交差反応しない;
及び/又は
e)抗体はHER3のβヘアピン領域に結合し;及び抗体はHER4のβヘアピン領域と交差反応しない;
及び/又は
f)抗体は、アミノ酸配列PVYNKLTFQLE(配列番号48)を含む15アミノ酸長のポリペプチド、及びアミノ酸配列PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応しない;及び/又は
g)抗体は、アミノ酸配列PVYNKLTFQLE(配列番号48)を含む15アミノ酸長のポリペプチドに結合する
の一以上を有する(また各単一の特性の各組み合わせも本明細書で意図される)。
【0119】
ある実施態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体を提供し、ここで、抗体は、アミノ酸配列PVYNKLTFQLE(配列番号48)を含む15アミノ酸長のポリペプチドに結合し、かつアミノ酸配列PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応しない。
【0120】
ある実施態様において、本発明は、ヒトHER3に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない単離された抗体を提供し、ここで、抗体は、PVYNKLTFQLE(配列番号48)のアミノ酸配列を含む15アミノ酸長のポリペプチドに結合する。
【0121】
一態様において、本発明は、(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一、二、三、四、五、又は六のHVRを含む抗HER3抗体を提供する。
【0122】
一態様において、本発明は、(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。別の実施態様において、抗体は配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0123】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0124】
別の態様において、本発明は、(a)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(ii)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(iii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3;から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(ii)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(iii)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0125】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号30から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗HER3抗体を提供する。
【0126】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号31のVH配列、及び配列番号32のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0127】
一態様において、本発明は、(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一、二、三、四、五、又は六のHVRを含む抗HER3抗体を提供する。
【0128】
一態様において、本発明は、(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。別の実施態様において、抗体は配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2、及び(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0129】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0130】
別の態様において、本発明は、(a)(i)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(ii)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(iii)配列番号35から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3;から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(ii)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(iii)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0131】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号38から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗HER3抗体を提供する。
【0132】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号39のVH配列、及び配列番号40のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0133】
一態様において、本発明は、(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一、二、三、四、五、又は六のHVRを含む抗HER3抗体を提供する。
【0134】
一態様において、本発明は、(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。別の実施態様において、抗体は配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0135】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0136】
別の態様において、本発明は、(a)(i)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(ii)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(iii)配列番号43から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3;から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(ii)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(iii)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0137】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号46から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗HER3抗体を提供する。
【0138】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号47のVH配列、及び配列番号48のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0139】
一態様において、本発明は、(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される、少なくとも一、二、三、四、五、又は六のHVRを含む抗HER3抗体を提供する。
【0140】
一態様において、本発明は、(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。別の実施態様において、抗体は配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3、及び配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。更なる実施態様において、抗体は、配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3、配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3、及び配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1を含む。更なる実施態様において、抗体は、(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。
【0141】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含む抗HER3抗体を提供する。一実施態様において、抗体は、(a)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む。
【0142】
別の態様において、本発明は、(a)(i)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(ii)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(iii)配列番号51から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3;から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVH HVR配列を含むVHドメイン;及び(b)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される少なくとも一つ、二つ、又は三つ全てのVL HVR配列を含むVLドメインを含む。
【0143】
別の態様において、本発明は、(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号54から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗HER3抗体を提供する。
【0144】
一実施態様において、そのような抗HER3抗体は、
i)配列番号56のVH配列、及び配列番号57のVL配列を含み;
ii)i)のうちの抗体のVH及びVLのヒト化変異体を含む。
【0145】
別の態様において、本発明は、
i)(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0146】
別の態様において、本発明は、
i)(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0147】
別の態様において、本発明は、
i)(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0148】
別の態様において、本発明は、
i)(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む抗HER3抗体を提供する。
【0149】
上記実施態様の何れかにおいて、抗HER3抗体はヒト化されている。一実施態様において、抗HER3抗体は、上記実施態様の何れかににあるHVRを含み、更に、アクセプターヒトフレームワーク、例えば、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを含む。別の実施態様において、抗HER3抗体は、上記実施態様の何れかににあるHVRを含み、更に、ヒト生殖系列IMGT_hVH_1_46又はIMGT_hVH_3_15のフレームワーク領域を含むVH、及びヒト生殖系列IMGT_hVK_1_33のフレームワーク領域を含むVLを含む。ヒト生殖系列のフレームワーク領域及び配列は、Poul, M-A. and Lefranc, M-P., in “Ingenierie des anticorps banques combinatores" ed. by Lefranc, M-P. and Lefranc, G., Les Editions INSERM, 1997に記載されている。全てのヒト生殖系列の重鎖及び軽鎖可変フレームワーク領域は、例えば、Lefranc, M.P., Current Protocols in Immunology (2000) - Appendix 1P A.1P.1-A.1P.37に一覧され、IMGT、国際免疫遺伝学情報システム(the international ImMunoGeneTics information system)(登録商標)(http://imgt.cines.fr)又はhttp://vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukを介してアクセス可能である。
【0150】
別の態様において、本発明は、
A)
i)(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体
B)
i)(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体
C)
i)(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体
D)
i)(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体
を含む抗HER3抗体を提供し、
ここで、抗体は以下の特性:
a)抗体は、配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
b)抗体は、ヒトHER4と交差反応しない;及び/又は
c)抗体は、活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
d)抗体は、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
及び/又は
e)抗体は、HER3のβヘアピン領域に結合し;及び/又は
f)抗体は、HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害し;及び/又は
g)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)との比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有し;及び/又は
h)抗体は、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRのと比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有し;
i)抗体は、配列番号2のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;及び/又は
j)抗体は、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列に対して交差反応性を示さず;
及び/又は
k)抗体は、HER4のβヘアピン領域に対して交差反応性を有さず;及び/又は
l)抗体は、HER3への結合をヘレグリンと競合せず;及び/又は
m)抗体は、ヘレグリンのHER3への結合を誘導し;及び/又は
n)抗体は、HER3−ECDに、KD値≦1×10−8Mの親和性で結合し(一実施態様において、1×10−8Mから1×10−13MのKD値で;(一実施態様において、1×10−9Mから1×10−13MのKD値で);及び/又は
o)抗体は、PLVYNKLTFQLEP(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し;及び/又は
p)抗体は、PLVYNKLTFQLEP(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し、及びPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応しない;及び/又は
q)抗体は、HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示し;及び/又は
r)抗体は、HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後の4時間後に、ヘレグリンの存在下で、HER3のほぼ完全な内部移行を示す
の一以上を有する。
【0151】
更なる態様において、本発明は、本明細書に提供される抗HER3抗体と同じエピトープに結合する抗体を提供する。例えば、ある実施態様において、配列番号31のVH配列及び配列番号32のVL配列を含む抗HER3抗体と同じエピトープに結合する抗体が提供される。ある実施態様において、アミノ酸PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるヒトHER3の断片内のエピトープに結合する抗体が提供される。ある実施態様において、アミノ酸PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるヒトHER3の断片内のエピトープに結合し、及びアミノ酸PQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるヒトHER4の断片と交差反応しない抗体が提供される。
【0152】
1.抗体親和性
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10−8M以下、例えば10−8Mから10−13M、例えば10−9Mから10−13M)の解離定数KDを有する。
【0153】
一つの好ましい実施態様において、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIACORE(登録商標))を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを使用してKDを測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、 BIACORE Inc.)を、提供者の指示書に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化する。抗原を10mM酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入する。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入した。動力学的な測定のために、Fabの2倍の段階希釈(0.78nMから500nM)を、25°Cで、およそ25μl/分の流速で0.05%ポリソルベート20(TWEEN−20TM)界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入する。結合センサーグラム及び解離センサーグラムを同時にフィットさせることによる単純1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合速度((kon又はka)と解離速度(koff又はkd)を算出する。平衡解離定数KDは、比率Kd/Kd(koff/kon.)として計算される。例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 865-881を参照。上記の表面プラスモン共鳴アッセイによる結合速度が10−1−1を上回る場合、結合速度は、分光計、例えば流動停止を備えた分光光度計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズ SLM−AMINCOTM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される漸増濃度の抗原の存在下、25℃で、PBS(pH7.2)中20nM抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて測定することができる。
【0154】
2:抗体断片
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は抗体断片である。抗体断片は、限定されないが、Fab、Fab’、Fab’−SH、F(ab’)、Fv、及びscFv断片、及び下記の他の断片を含む。所定の抗体断片の総説については、Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (2003) 129-134を参照。scFv断片の総説については、例えば、Plueckthun, A., In; The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore (eds.), Springer-Verlag, New York (1994), pp. 269-315を参照;また、国際公開第93/16185号;及び米国特許第5,571,894号及び第5,587,458号も参照。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつインビボ半減期を増加させたFab及びF(ab’)断片の議論については、米国特許第5869046号を参照のこと。
【0155】
ダイアボディは2価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第0404097号;国際公開第1993/01161号; Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (2003) 129-134;及びHolliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照。トリアボディ及びテトラボディもまた、Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (20039 129-134)に記載されている。
【0156】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部、又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片である。所定の実施態様において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516B1号を参照)。
【0157】
抗体断片は様々な技術で作成することができ、限定されないが、本明細書に記載するように、インタクトな抗体の分解、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による製造を含む。
【0158】
3:キメラ及びヒト化抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体はキメラ抗体である。所定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号、及びMorrison, S.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855)に記載されている。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサル等の非ヒト霊長類由来の可変領域)及びヒト定常領域を含む。更なる例において、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のものから変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0159】
所定の実施態様において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する免疫原性を低減するために、親の非ヒト抗体の特異性と親和性を保持したまま、ヒト化されている。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR(又はその一部)が、非ヒト抗体から由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する、一以上の可変ドメインを含む。ヒト化抗体はまた、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部をも含む。幾つかの実施態様において、ヒト化抗体の幾つかのFR残基は、例えば抗体特異性又は親和性を回復もしくは改善するめに、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0160】
ヒト化抗体及びそれらの製造方法は、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633に総説され、更に、Riechmann, I. et al., Nature 332 (1988) 323-329; Queen, C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033;米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号、及び第7,087,409号;Kashmiri, S.V. et al., Methods 36 (2005) 25-34 (SDR(a−CDR)グラフティングを記述);Padlan, E.A., Mol. Immunol. 28 (1991) 489-498 (「リサーフェシング」を記述); Dall'Acqua, W.F. et al., Methods 36 (2005) 43-60 (「FRシャッフリング」を記述);及びOsbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) 及び Osbourn, J. et al., Methods 36 (2005) 61-68及びKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83 (2000) 252-260(FRシャッフリングへの「誘導選択」アプローチを記述)に記載されている。Morea, V., et al., Methods, Vol 20, Issue 3 (2000) 267-279) 及び国際公開第2004/006955号(標準構造を介したアプローチ)。
【0161】
4:ヒト抗体
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で周知の様々な技術を用いて製造することができる。ヒト抗体は一般的に、van Dijk, M.A. and van de Winkel, J.G., Curr. Opin. Pharmacol. 5 (2001) 368-374及びLonberg, N., Curr. Opin. Immunol. 20 (2008) 450-459に記載されている。
【0162】
ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有する又はインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に、免疫原を投与することにより調製することができる。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、又は染色体外に存在するかもしくは動物の染色体にランダムに組み込まれている、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含む。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化される。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の報告については、Lonberg, N., Nat. Biotech. 23 (2005) 1117-1125を参照。また、例えば、XENOMOUSETM技術を記載している、米国特許第6,075,181号及び6,150,584号;HuMab(登録商標)技術を記載している米国特許第5,770,429号;K−M MOUSE(登録商標)技術を記載している米国特許第7,041,870号及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載している米国特許出願公開第2007/0061900号)も参照のこと。このような動物で生成されたインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることにより、更に改変される可能性がある。
【0163】
ヒト抗体は、ハイブリドーマベース法によって作成することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ細胞株が記載されている。(例えば、 Kozbor, D., J. Immunol. 133 (1984) 3001-3005; Brodeur, B.R. et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, Marcel Dekker, Inc., New York (1987), pp. 51-63; and Boerner, P. et al., J. Immunol. 147 (1991) 86-95);及びBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991)を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されたヒト抗体はまた、Li, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103 (2006) 3557-3562に記載されている。更なる方法は、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載している)及びNi, J., Xiandai Mianyixue 26 (2006) 265-268(ヒト−ヒトハイブリドーマを記載している)に記載されたものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers, H.P. and Brandlein, S., Histology and Histopathology 20 (2005) 927-937及びVollmers, H.P. and Brandlein, S., Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27 (2005) 185-191に記載されている。
【0164】
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成され得る。このような可変ドメイン配列は、次に所望のヒト定常ドメインと組み合わせてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術が、以下に説明される。
【0165】
5.ライブラリー由来の抗体
本発明の抗体は、所望の活性又は活性(複数)を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、様々な方法が、ファージディスプレイライブラリーを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてのライブラリーをスクリーニングするために、当該技術分野で知られている。その方法は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al., Methods in Molecular Biology 178 (2001) 1-37に概説され、更に、McCafferty, J. et al., Nature 348 (1990) 552-554; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628; Marks, J.D. et al., J. Mol. Biol. 222 (1992) 581-597; Marks, J.D. and Bradbury, A., Methods in Molecular Biology 248 (2003) 161-175; Sidhu, S.S. et al., J. Mol. Biol. 338 (2004) 299-310; Lee, C.V. et al., J. Mol. Biol. 340 (2004) 1073-1093; Fellouse, F.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101 (2004) 12467-12472;及びLee, C.V. et al., J. Immunol. Methods 284 (2004) 119-132に記載されている。
【0166】
所定のファージディスプレイ法において、VH及びVL遺伝子のレパートリーがポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により個別にクローニングされ、ファージライブラリーにランダムに再結合され、その後、Winter, G. et al., Ann. Rev. Immunol. 12 (1994) 433-455に記載されるように、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、通常、抗体断片を、単鎖Fv(scFv)断片、又はFab断片のいずれかとして提示する。免疫された起源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要性を伴うことなく免疫原に高親和性抗体を提供する。代わりに、Griffiths, A.D. et al., EMBO J. 12 (1993) 725-734に記載されるように、ナイーブなレパートリーが、任意の免疫感作無しで、広範囲の非自己抗原及び自己抗原に対して、抗体の単一起源を提供するために、(例えば、ヒトから)クローン化することができる。最後に、ナイーブなライブラリーはまた、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992)に記載されるように、非常に可変なCDR3領域をコードし、インビトロで再構成を達成するために、幹細胞由来の非再配列V遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを使用することにより合成することができる。ヒト抗体ファージライブラリーを記述する特許公報は、例えば、米国特許第5,750,373号、及び米国特許出願公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号及び第2009/0002360を含む。
【0167】
ヒト抗体ライブラリーから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書でヒト抗体又はヒト抗体の断片とみなされる。
【0168】
6:多重特異性抗体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様において、結合特異性の一つはHER3に対してであり、他は、任意の他の抗原に対してである。二重特異性抗体はまたHER3を発現する細胞に細胞傷害性薬剤を局所化するために用いることができる。二重特異性抗体は、全長抗体又は抗体断片として調製することができる。
【0169】
多重特異性抗体を作製するための技術は、限定されないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の組換え共発現(Milstein, C. and Cuello, A.C., Nature 305 (1983) 537-540、国際公開第93/08829号、及びTraunecker, A. et al., EMBO J. 10 (1991) 3655-3659)を参照)及び「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」エンジニアリング(例えば、米国特許第5,731,168号を参照)を含む。多重特異抗体はまた、抗体のFc−ヘテロ2量体分子を作成するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開第2009/089004号)、2つ以上の抗体又は断片を架橋すること(例えば米国特許第4,676,980号;及び Brennan, M. et al., Science 229 (1985) 81-83)を参照);2重特異性抗体を生成するためにロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny, S.A. et al., J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553を参照);二重特異性抗体フラグメントを作製するため、「ダイアボディ」技術を使用すること(例えば、Holliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448)を参照);単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用すること(例えば、 Gruber, M et al., J. Immunol. 152 (1994) 5368-5374)を参照);及び、例えばTutt, A. et al., J. Immunol. 147 (1991) 60-69に記載されているように、三重特異性抗体を調製することによって作成することができる。
【0170】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能性抗原結合部位を有する改変抗体もまた本明細書に含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576号を参照)。
【0171】
本明細書中の抗体又は断片はまた、HER3/HER4並びにその他の異なる抗原(例えば米国特許出願公開第2008/0069820号参照)に結合する抗原結合部位を含む、「2重作用(Dual Acting)Fab」又は「DAF」を含む。
【0172】
本明細書中の抗体又は抗体断片はまた、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号及び国際公開第2010/145793号に記載される多重特異性抗体を含む。
【0173】
7:抗体変異体
ある実施態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望まれ得る。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な改変を導入することにより、又はペプチド合成によって調製することができる。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内における、残基の欠失、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終コンストラクトが所望の特性、例えば、抗原結合を有していることを条件として、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終構築物に到達させるために作成され得る。
【0174】
a)置換、挿入、及び欠失変異体
ある実施態様において、一以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換型変異誘発の対象となる部位は、HVRとFRを含む。保存的置換は、表1の「好ましい置換」の見出しの下に示されている。より実質的な変更が、表1の「典型的な置換」の見出しの下に与えられ、アミノ酸側鎖のクラスを参照して以下に更に説明される。アミノ酸置換は、目的の抗体に導入することができ、その産物は、所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の減少、又はADCC又はCDCの改善についてスクリーニングされる。
【0175】
【0176】
アミノ酸は共通の側鎖特性に基づいてグループに分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0177】
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。
【0178】
置換された変異体の一つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体など)の一以上の高頻度可変領域残基の置換を含む。一般的には、更なる研究のために選択され得られた変異体は、親抗体と比較して、特定の生物学的特性の改変(例えば、改善)(例えば、親和性の増加、免疫原性を減少)を有し、及び/又は親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。典型的な置換型変異体は、親和性成熟抗体であり、例えば、本明細書に記載されるファージディスプレイに基づく親和性成熟技術を用いて、簡便に製造され得る。簡潔に言えば、一つ以上のHVR残基が変異し、変異体抗体は、ファージ上に表示され、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0179】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体の親和性を向上させるために、HVRで行うことができる。このような改変は、HVRの「ホットスポット」、即ち、体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンにコードされた残基で(例えば、Chowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照)、及び/又はSDR(a−CDR)で行うことができ、得られた変異体VH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリーから構築され再選択することによる親和性成熟は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al. in Methods in Molecular Biology 178 (2002) 1-37に記載されている。親和性成熟の幾つかの実施態様において、多様性が、種々の方法(例えば、変異性PCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチドを標的とした突然変異誘発)の何れかにより、成熟のために選択された可変遺伝子中に導入される。次いで、二次ライブラリーが作成される。次いで、ライブラリーは、所望の親和性を有する抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入するするもう一つの方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4から6残基)がランダム化されたHVR指向のアプローチを伴う。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング突然変異誘発、又はモデリングを用いて、特異的に同定され得る。CDR−H3及びCDR−L3がしばしば標的にされる。
【0180】
所定の実施態様において、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限りにおいて、一以上のHVR内で生じる可能性がある。例えば、実質的に結合親和性を低下させない保存的改変(例えば本明細書で与えられる保存的置換)をHVR内で行うことができる。このような改変は、HVR「ホットスポット」又はSDRの外側であってもよい。上記に与えられた変異体VH又はVL配列の所定の実施態様において、各HVRは不変であるか、又はわずか1個、2個又は3個のアミノ酸置換が含まれているかの何れかである。
【0181】
突然変異誘発のために標的とすることができる抗体の残基又は領域を同定するための有用な方法は、Cunningham, B.C. and Wells, J.A., Science 244 (1989) 1081-1085により記載されるように、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又はグループ(例えば、arg、asp、his、lys及びgluなどの荷電残基)が同定され、抗原と抗体との相互作用が影響を受けるかどうかを判断するために、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)に置換される。更なる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸の位置に導入され得る。代わりに、又は更に、抗原抗体複合体の結晶構造が、抗体と抗原との接触点を同定する。そのような接触残基及び隣接残基が、置換の候補として標的とされるか又は排除され得る。変異体はそれらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0182】
アミノ酸配列挿入は、一残基から百以上の残基を含有するポリペプチド長にわたるアミノ及び/又はカルボキシル末端融合、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端メチオニン残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体は、酵素に対する抗体のN末端又はC末端への融合(例えばADEPTの場合)、又は抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドへの融合を含む。
【0183】
b)グリコシル化変異体
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度が増加又は減少するように改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、一以上のグリコシル化部位が作成又は削除されるようにアミノ酸配列を変えることによって簡便に達成することができる。
【0184】
抗体がFc領域を含む場合には、それに付着する糖を変えることができる。哺乳動物細胞によって産生される天然型抗体は、典型的には、Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN−結合により一般的に付着した分岐鎖、二分岐オリゴ糖を含んでいる。例えば、Wright, A. and Morrison, S.L., TIBTECH 15 (1997) 26-32を参照。オリゴ糖は、様々な炭水化物、例えば、二分岐オリゴ糖構造の「幹」のGlcNAcに結合した、マンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、シアル酸、並びにフコースを含み得る。幾つかの実施態様において、本発明の抗体におけるオリゴ糖の改変は、一定の改善された特性を有する抗体変異体を作成するために行われ得る。
【0185】
一実施態様において、抗体変異体は、Fc領域に(直接又は間接的に)付着されたフコースを欠いた糖鎖構造を有して提供される。例えば、このような抗体のフコース量は、1%から80%、1%から65%、5%から65%、又は20%から40%であり得る。フコースの量は、例えば、国際公開第2008/077546号に記載されているように、MALDI−TOF質量分析法によって測定されるAsn297に付着しているすべての糖構造の合計(例えば、コンプレックス、ハイブリッド及び高マンノース構造)に対して、Asn297の糖鎖中のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域(Fc領域残基のEU番号付け)でおよそ297の位置に位置するアスパラギン残基を指し、しかし、Asn297もまた位置297の上流又は下流のおよそ±3アミノ酸に、すなわち抗体の軽微な配列変異に起因して、位置294と300の間に配置され得る。このようなフコシル化変異体はADCC機能を改善させた可能性がある。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号;米国特許第2004/0093621号を参照。「フコース非修飾」又は「フコース欠損」抗体変異体に関連する出版物の例としては、米国特許出願公開第2003/0157108号、国際公開第2000/61739号、国際公開第2001/29246号、米国特許出願公開第2003/0115614号、米国特許出願公開第2002/0164328号、米国特許出願公開第2004/0093621号、米国特許出願公開第2004/0132140号、米国特許出願公開第2004/0110704号、米国特許出願公開第2004/0110282号、米国特許出願公開第2004/0109865号、国際公開第2003/085119号、国際公開第2003/084570号、国際公開第2005/035586号、国際公開第2005/035778号、国際公開第2005/053742号、国際公開第2002/031140号、Okazaki, A. et al., J. Mol. Biol. 336 (2004) 1239-1249; Yamane-Ohnuki, N. et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622が含まれる。非フコシル化抗体を産生する能力を有する細胞株の例としては、タンパク質フコシル化を欠損しているLec13 CHO細胞(Ripka, J., et al., Arch. Biochem. Biophys. 249 (1986) 533-545;米国特許出願公開第2003/0157108号;及び国際公開第2004/056312号、特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例えば、アルファ−1、6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞など(例えば、Yamane-Ohnuki, N., et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622; Kanda, Y., et al., Biotechnol. Bioeng. 94 (2006) 680-688;及び国際公開第2003/085107号を参照)を含む。
【0186】
抗体変異体は、例えば、抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている二分オリゴ糖を更に備えている。このような抗体変異体はフコシル化を減少させ、及び/又はADCC機能を改善している可能性がある。このような抗体変異体の例は、例えば国際公開第2003/011878号;米国特許第6,602,684号;及び米国特許出願公開第2005/0123546号に記述される。Fc領域に結合したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。このような抗体変異体はCDC機能を改善させた可能性がある。このような抗体変異体は、例えば国際公開第1997/30087号;国際公開第1998/58964号;及び国際公開第1999/22764号に記述される。
【0187】
c)Fc領域変異体
ある実施態様において、一又は複数のアミノ酸修飾を、本明細書で提供される抗体のFc領域に導入することができ、それによってFc領域変異体を生成する。Fc領域の変異体は、一又は複数のアミノ酸位置においてアミノ酸修飾(例えば置換)を含むヒトFc領域の配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0188】
ある実施態様において、本発明は、インビボにおける抗体の半減期が重要であるが、ある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCCなど)が不要又は有害である用途のための望ましい候補とならしめる、全てではないが一部のエフェクター機能を有する抗体変異体を意図している。インビトロ及び/又はインビボでの細胞毒性アッセイを、CDC活性及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認するために行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合アッセイは、抗体がFcγR結合を欠くが(それゆえ、おそらくADCC活性を欠く)、FcRn結合能力を保持していることを確認するために行うことができる。ADCCを媒介する初代細胞、NK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcRの発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492の464ページの表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;及びHellstrom, I., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照)に説明される。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えば、フローサイトメトリー用のACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ(Promega, Madison, WI)を参照。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、又は更に、目的の分子のADCC活性は、Clynes, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656に開示されるように、インビボで、例えば動物モデルにおいて評価することができる。C1q結合アッセイはまた、抗体が体C1qを結合することができないこと、したがって、CDC活性を欠いていることを確認するために行うことができる。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171; Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照)。FcRn結合及びインビボでのクリアランス/半減期の測定は当該分野で公知の方法を用いても行うことができる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006: 1759-1769を参照)。
【0189】
エフェクター機能が減少した抗体は、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327、329の一又は複数の置換を有するものが含まれる(米国特許第6737056号)。そのようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297及び327の2以上での置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7,332,581号)。
【0190】
FcRへの改善又は減少した結合を有する特定の抗体変異体が記載されている。(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開第2004/056312号、及びShields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照)。
【0191】
所定の実施態様において、抗体変異体はADCCを改善する一又は複数のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の位置298、333、及び/又は334における置換(EUの残基番号付け)を含む。
【0192】
幾つかの実施態様において、改変された(すなわち改善されたか又は減少した)C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を生じる、Fc領域における改変がなされ、例えば、米国特許第6,194,551号、国際公開第99/51642号、及びIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184に説明される。
【0193】
増加した半減期を有し、胎仔への母性IgGの移送を担う、新生児Fc受容体(FcRn)への結合が改善された抗体(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593、及びKim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)が、米国特許出願公開第2005/0014934号に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する一又は複数の置換を有するFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域の残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434の一以上の置換、例えば、Fc領域の残基434の置換(米国特許第7,371,826号)を有するものが含まれる。
【0194】
Duncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;及び、Fc領域の変異体の他の例に関しては国際公開第94/29351号も参照のこと。
【0195】
d)システイン操作抗体変異体
ある実施態様において、抗体の一以上の残基がシステイン残基で置換されている、システイン操作抗体、例えば、「thioMAbs」を作成することが望まれ得る。特定の実施態様において、置換された残基は、抗体のアクセス可能な部位で存在する。それらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書中で更に記載されるように、イムノコンジュゲーを作成するために、例えば薬物部分又はリンカー−薬剤部分などの他の部分に抗体をコンジュゲートするために使用することができる。ある実施態様において、一以上の以下の残基がシステインで置換され得る:軽鎖のV205(Kabatの番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7521541号に記載のように製造され得る。
【0196】
e)抗体誘導体
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られ、容易に入手可能な付加的な非タンパク質部分を含むように更に改変することができる。抗体の誘導体化に適した部分としては、限定されないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ−1,3−ジオキソラン、ポリ−1,3,6−トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(単独重合体又はランダム共重合体の何れか)及びデキストラン又はポリ(n−ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコール単独重合体、プロピレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール及びこれらの混合物を包含する。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドはその水中での安定性に起因して製造における利点を有し得る。ポリマーは何れかの分子量のものであってよく、そして分枝鎖又は未分枝鎖であってよい。抗体に結合するポリマーの数は変動してよく、そして、一以上の重合体が結合する場合は、それらは同じか又は異なる分子であることができる。一般的に、誘導体化に使用するポリマーの数及び/又は種類は、限定されないが、向上させるべき抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が限定された条件下で治療に使用されるのか等を含む考慮に基づいて決定することができる。
【0197】
その他の実施態様において、放射線への曝露によって選択的に加熱されてもよい抗体と非タンパク質性部分とのコンジュゲートが、提供される。一実施態様において、非タンパク質部分はカーボンナノチューブである(Kam, N.W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (2005) 11600-11605)。放射線は、任意の波長であって良いが、限定されないものの、通常の細胞に害を与えないが、抗体−非タンパク質部分の近位細胞が死滅される温度に非タンパク質部分を加熱する波長が含まれる。
【0198】
B.組換え方法及び組成物
抗体は、例えば米国特許第4,816,567号で説明したように、組換えの方法及び組成物を用いて製造することができる。一実施態様において、本明細書に記載される抗HER3抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び/又は抗体のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードし得る。更なる実施態様において、そのような核酸を含む一以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施態様において、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。一実施態様において、宿主細胞は以下を含む(例えば、以下で形質転換される):(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一ベクター、及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二ベクター。一実施態様において、宿主細胞は、真核生物、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様において、抗HER3抗体を作る方法が提供され、その方法は、上記のように、抗体の発現に適した条件下で、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養することを含み、及び必要に応じて、宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から抗体を回収することを含む。
【0199】
抗HER3抗体の組換え生産のために、例えば上述したように、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために一以上のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離され、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0200】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適切な宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合には、抗体は、細菌で産生することができる。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、第5,789,199号及び第5,840,523号を参照。(また、大腸菌における抗体断片の発現を記述しているCharlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology、248巻, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003)、頁245-254も参照)。発現の後、抗体は可溶性画分において細菌の細胞ペーストから単離され、更に精製することができる。
【0201】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、菌類や酵母菌株を含む抗体をコードするベクターのための、適切なクローニング宿主又は発現宿主であり、そのグリコシル化経路が、「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトのグリコシル化パターンを有する抗体の生成をもたらす。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414;及びLi, H., et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照。
【0202】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞はまた、多細胞生物(無脊椎動物と脊椎動物)から派生している。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株が同定され、これらは特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用することができる。
【0203】
植物細胞培養を宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号(トランスジェニック植物における抗体産生に関するPLANTIBODIESTM技術を記載)を参照。
【0204】
脊椎動物細胞もまた宿主として用いることができる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合されている哺乳動物細胞株は有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS−7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham, F.L. et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74に記載される293又は293細胞;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76);ヒト子宮頚癌細胞(HeLa);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2)、マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えば、Mather, J.P. et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68に記載されるTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、DHFRCHO細胞(Urlaub, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220)を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及びY0、NS0及びSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞系の総説については、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照。
【0205】
C.アッセイ及び抗体(又は抗原結合タンパク質)選択法
本明細書で提供される抗HER3抗体は、同定され、当技術分野で公知の様々なアッセイによってその物理的/化学的性質及び/又は生物学的活性についてスクリーニングされ、又は特徴づけることができる。
【0206】
本発明の一態様は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)抗体を選択するための方法であり、ここで、抗体(又は抗原結合タンパク質)はヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含み、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチド、
及び
b)配列番号2のアミノ酸配列を含み、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチドは、
a)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示し、かつb)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示さない、抗体(又は抗原結合タンパク質)を(結合アッセイにおいて)選択するために使用され、
それによって、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない抗体(又は抗原結合タンパク質)を選択する。
【0207】
本発明の一態様は、ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)抗体を選択するための方法であり、ここで、抗体(又は抗原結合タンパク質)はヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含み、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチド、
及び
b)配列番号6のアミノ酸配列を有するヒトHER4 ECDのHER3のポリペプチドは、
a)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示し、かつb)のうちのヒトHER4 ECDのポリペプチドに対する結合を示さない、抗体(又は抗原結合タンパク質)を(結合アッセイにおいて)選択するために使用され、
それによって、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない抗体(又は抗原結合タンパク質)を選択する。
【0208】
一実施態様において、選択された抗体が、PQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列又はPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列を含んでいないポリペプチドに結合しないことを確認するために、そのような選択法は、選択された抗体が、
配列番号14 TtSlyD−野生型
配列番号15 TtSlyDcas
配列番号16 TgSlyDΔIF
からなる群から選択されるポリペプチドによりカウンタースクリーニングされる(ポリペプチドに対する結合について試験される)工程を更に含む。
【0209】
本発明は、このような選択法により得られた抗体(又は抗原結合タンパク質)を提供する。
【0210】
以下の工程:
a)配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンに対する、複数の抗体(又は抗原結合タンパク質)の結合親和性を決定し、それにより、HER3のβヘアピンは、配列番号1のアミノ酸配列を有するHER3のβヘアピンを含み、
i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドとして提示される工程;
b)予め定義された閾値レベルを超える見かけの複合体の安定性を有する抗体(又は抗原結合タンパク質)を選択する工程;
c)配列番号2のアミノ酸配列を有するHER4のβヘアピンに対する、選択された抗体(又は抗原結合タンパク質)の結合親和性を決定し、それにより、HER4のβヘアピンは、
配列番号2のアミノ酸配列を有するHER4のβヘアピンを含み、
i)配列番号20 TtSlyDcas−Her4、
ii)配列番号21 TtSlyDcys−Her4、
iii)配列番号22 TgSlyDser−Her4、及び
iv)配列番号23 TgSlyDcys−Her4、
からなる群から選択されるポリペプチドとして提示される工程;
d)予め定義された閾値レベルを超える見かけの複合体の安定性を有しない抗体(又は抗原結合タンパク質)を選択する工程
を含む、ヒトHER3に特異的に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)抗体(又は抗原結合タンパク質)を選択するための方法。
【0211】
1.結合アッセイ及びその他のアッセイ
一態様において、本発明の抗体(又は抗原結合タンパク質)は、例えば、表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE)を含み、ELISA、ウエスタンブロット法など公知の方法により、その抗原結合活性について試験される。
【0212】
その他の態様において、競合アッセイを、HER3への結合について、M−08−11と競合する抗体を同定するために用いることができる。ある実施態様では、このような競合する抗体は、M−08−11によって結合される同じエピトープ(例えば線状又はコンホメーションエピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な典型的な方法が、Morris, G.E. (ed.), Epitope Mapping Protocols, In: Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Humana Press, Totowa, NJ (1996)に提供されている。更なる方法は、CelluSpotTM技術を用いた実施例4に詳細に記載される。
【0213】
典型的な競合アッセイにおいて、固定化HER3は、HER3にそれぞれ結合する第一の標識された抗体(例えば、M−08−11)、及びHER3へ結合について第一の抗体と競合する能力について試験されている未標識の第二の抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第二抗体はハイブリドーマ上清中に存在してもよい。対照として、固定化HER3が、未標識の第二の抗体でなく、標識された第一の抗体を含む溶液中でインキュベートされる。HER3への第一の抗体の結合を許容する条件下でインキュベートした後、過剰の非結合抗体が除去され、固定化されたHER3に結合した標識の量が測定される。もし、固定化されたHER3に結合した標識の量が、対照サンプルと比較して試験サンプル中で実質的に減少している場合、それは、第二抗体が、HER3への結合において第一の抗体と競合していることを示している。Harlow, E. and Lane, D., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY (1988)を参照。
【0214】
2.活性のアッセイ
一態様において、アッセイは、生物学的活性を有するそれらの抗HER3抗体(又は抗原結合タンパク質)を同定するために与えられる。生物学的活性は、例えば、HER3リン酸化の阻害、HER3を発現又は過剰発現する癌細胞の癌細胞増殖の阻害、HER3/HER2のヘテロ二量体化の阻害、FACSアッセイを介した(時間依存性)内部移行、異種移植された、HER3発現又は過剰発現する癌細胞を持つ、異種移植動物(例えば、マウス又はラット)モデルにおけるインビボ腫瘍増殖阻害が含まれ得る。インビボ及び/又はインビトロで、単独で、又は細胞傷害性薬剤とのイムノコンジュゲートとしての何れかとして、このような生物学的活性を有する抗体もまた提供される。
【0215】
所定の実施態様において、本発明の抗体は、そのような生物学的活性について試験される。特定された生物学的活性についての典型的なビトロ又はインビボのアッセイが、実施例2e、並びに実施例5、6及び8に記載される。
【0216】
D.イムノコンジュゲート
本発明はまた、化学療法剤又は薬物、増殖阻害剤、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、又は動物起源の酵素活性毒素、又はそれらの断片)、又は放射性同位元素など、一以上の細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた本明細書中の抗HER3抗体(又は抗原結合タンパク質)を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0217】
一実施態様において、イムノコンジュゲートは、抗体−薬物コンジュゲート(ADC)であって、そこでは抗体は、限定されないが、メイタンシノイド(米国特許第5208020号、第5416064号及び欧州特許第0425235号B1を参照);モノメチルアウリスタチン薬物部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)(米国特許第5,635,483号及び第5,780,588号及び第7,498,298号を参照)などのアウリスタチン;ドラスタチン;カリケアマイシン又はその誘導体(米国特許第5,712,374号、米国特許第5,714,586号、米国特許第5,739,116号、米国特許第5,767,285号、米国特許第5,770,701号、米国特許第5,770,710号、米国特許第5,773,001号及び米国特許第5,877,296号を参照;Hinman, L.M. et al., Cancer Res. 53 (1993) 3336-3342;及び、Lode, H.N. et al., Cancer Res. 58 (1998) 2925-2928);ダウノマイシン又はドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz, F. et al., Curr. Med. Chem. 13 (2006) 477-523; Jeffrey, S.C. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 16 (2006) 358-362; Torgov, M.Y. et al., Bioconjug. Chem. 16 (2005) 717-721; Nagy, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97 (2000) 829-834; Dubowchik, G.M. et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12 (2002) 1529-1532; King, H.D. et al., J. Med. Chem. 45 (20029 4336-4343;及び米国特許第6,630,579号を参照);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、及びオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;及びCC1065を含む一つ以上の薬物とコンジュゲートしている。
【0218】
その他の実施態様において、イムノコンジュゲートは、酵素的に活性な毒素又はその断片にコンジュゲートされた、本明細書に記載の抗体を含み、限定されないが、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌からの)外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン、アレウリテス・フォーディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、モモルディカ・チャランチア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria oficinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)及びトリコテセン(tricothecene)が含まれる。
【0219】
その他の実施態様では、イムノコンジュゲートは、シュードモナス外毒素A又はその変異体にコンジュゲートされた本明細書に記載されるような抗体を含む。シュードモナス外毒素A又はその変異体は、例えば、国際公開第2011/32022号、国際公開第2009/32954号、国際公開第2007/031741号、国際公開第2007/016150号、国際公開第2005/052006号、及び、Liu W, et al, PNAS 109 (2012) 11782-11787に記載される。
【0220】
その他の実施態様では、イムノコンジュゲートは、放射性コンジュゲートを形成するために放射性原子にコンジュゲートされた本明細書に記載されるような抗体を含む。様々な放射性同位体が放射性コンジュゲートの製造のために入手可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体を含む。放射性コンジュゲートが検出に使用される場合、それは、シンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばTc99m又はI123、又は核磁気共鳴(NMR)イメージング(磁気共鳴イメージング、MRIとしても周知)用のスピン標識、例えば、再びヨウ素−123、ヨウ素−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含有し得る。
【0221】
抗体と細胞傷害性薬剤のコンジュゲートは、a)組換え発現技術を使用して(例えば、大腸菌において、Fab又はFv抗体断片に融合した、アミノ酸配列に基づく毒素の発現のために)、又はb)ポリペプチドカップリング技術を使用して(Fab又はFv抗体断片への、アミノ酸配列に基づく毒素のソルターゼ酵素ベースのカップリング等)、又はc)N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミダートHCLなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベレートなど)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン−2,6−ジイソシアネートなど)、及びビス−活性フッ素化合物(1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンなど)などの様々な二官能性タンパク質カップリング剤を使用しての何れかにより作製することができる。例えば、Vitetta, E.S. et al., Science 238 (1987) 1098-1104に記載されるように、リシンイムノトキシンを調製することができる。炭素−14−標識1−イソチオシアナトベンジル−3−メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX−DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体へのコンジュゲーションのためのキレート剤の例である国際公開第94/11026号を参照のこと。リンカーは、細胞中に細胞傷害性薬剤の放出を容易にする「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光解離性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari, R.V. et al., Cancer Res. 52 (1992) 127-131;米国特許第5,208,020号)が使用され得る。
【0222】
本明細書において、イムノコンジュゲート又はADCは、限定されないが、市販の(例えばPierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aからの)、BMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCC、及びスルホ−SMPB、及びSVSB(スクシンイミジル(4−ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むクロスリンカー試薬を用いて調製されるコンジュゲートを明示的に意図する。
【0223】
E.診断及び検出のための方法及び組成物
所定の実施態様において、本明細書で提供される抗HER3抗体の何れかは、生物学的サンプル中のHER3のそれぞれの存在を検出するのに有用である。本明細書で使用する「検出」という用語は、定量的又は定性的検出を包含する。所定の実施態様において、生物学的サンプルは、腫瘍組織などの細胞又は組織を含む。
【0224】
一実施態様において、診断又は検出の方法における使用のための抗HER3抗体が提供される。更なる態様において、生物学的サンプル中のHER3の存在を検出する方法が提供される。所定の実施態様において、本方法は、抗HER3抗体のHER3のそれぞれへの結合を許容する条件下で、本明細書に記載のように抗HER3抗体と生物学的サンプルを接触させること、及び複合体が抗HER3抗体とHER3のそれぞれとの間に形成されているかどうかを検出することを含む。そのような方法は、インビトロ又はインビボでの方法であり得る。一実施態様において、例えばHER3のそれぞれが双方とも患者の選択のためのバイオマーカーであるなど、抗HER3抗体が抗HER3抗体による治療にふさわしい被検体を選択するために使用される。
【0225】
本発明の抗体を用いて診断され得る典型的な障害は癌を含む。
【0226】
ある実施態様において、標識された抗HER3抗体が提供される。標識は、限定されるものではないが、(例えば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識、放射性標識など)直接検出される標識又は部分、並びに、例えば、酵素反応又は分子間相互作用を介して間接的に検出される酵素又はリガンドのような部分が含まれる。典型的な標識は、限定されないが、ラジオアイソトープ32P、14C、125I、H、及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシェフェラーゼ、例えばホタルルシェフェラーゼ及び細菌ルシェフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシェフェリン、2,3−ジヒドロフタルジネジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘテロサイクリックオキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ、色素前駆体を酸化する過酸化水素を利用する酵素、例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼと共役したもの、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定な遊離ラジカルなどが含まれる。
【0227】
F.薬学的製剤
本明細書に記載の抗HER3抗体(又は抗原結合タンパク質)の薬学的製剤は、所望の程度の純度を有するその抗体と任意の薬学的に許容される一以上の担体(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980))とを、凍結乾燥製剤又は水性溶液の形態で混合することによって調製される。薬学的に許容される担体は、使用される投薬量及び濃度でレシピエントに毒性でなく、そしてこれには、限定しないが、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸のような緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチオルベンジルアンモニウムクロライド;ヘキサメトニウムクロライド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;及びm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリ(ビニルピロリドン);アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジン;マンノサッカライド、ジサッカライド、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム、金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。本明細書における典型的な薬学的に許容される担体は、介在性薬物分散剤、例えば、水溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、rhuPH20(HYLENEX(登録商標))、Baxter International, Inc.)などのヒト可溶性PH−20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質を更に含む。所定の典型的なsHASEGP及び使用法は、rhuPH20を含み、米国特許出願公開第2005/0260186号及び第2006/0104968号に開示されている。一態様において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つ又は複数の追加のグルコサミノグリカンと組み合わされる。
【0228】
典型的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6267958号に記載されている。水性の抗体製剤は、米国特許第6171586号及び国際公開第2006/044908号に記載されているものが含まれ、後者の製剤はヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。
【0229】
本明細書における製剤はまた、治療される特定の適応症のために必要な一以上の活性成分を含有し得る。
【0230】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術又は界面重合法によって、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル及びポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)により、コロイド薬物送達系に(例えばリポソーム、アルブミンミクロスフィア、ミクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロ・エマルジョンで調製されたマイクロカプセルに封入されてもよい。このような技術は、RemingtonのPharmaceutical Sciences、第16版、Osol, A. (編) (1980)に開示される。
【0231】
徐放性製剤が調製されてもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリックスが成形品、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態をしている。
【0232】
インビボ投与に使用される製剤は、一般的に無菌である。無菌性は、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより、達成することができる。
【0233】
G.治療的方法及び組成物
本明細書において提供される抗HER3抗体(又は抗原結合タンパク質)又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体(又は抗原結合タンパク質)のイムノコンジュゲートの何れかが、治療方法で使用され得る。
【0234】
一態様において、医薬としての使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートが提供される。更なる態様において、癌を治療することにおける使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートが提供される。ある実施態様において、治療の方法における使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートが提供される。ある実施態様において、本発明は、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む、癌を有する個体を治療する方法における使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートを提供する。更なる実施態様において、本発明は、癌細胞においてアポトーシスを誘導すること/又は癌細胞増殖を阻害することにおける使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートを提供する。ある実施態様において、本発明は、癌細胞中でアポトーシスを誘導するために/又は癌細胞増殖を阻害するために、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む、個体において、癌細胞中でアポトーシスを誘導する/又は癌細胞増殖を阻害する方法における使用のための、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートを提供する。上記実施態様のいずれかに記載の「個体」は、好ましくはヒトである。
【0235】
更なる態様において、本発明は、医薬の製造又は調製における、抗HER3抗体又は細胞傷害性薬剤にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートの使用を提供する。一実施態様において、本医薬は癌の治療のためのものである。更なる実施態様において、本医薬は、癌を有する個体に、医薬の有効量を投与することを含む、癌を治療する方法で使用するためのものである。更なる実施態様において、医薬は、癌細胞においてアポトーシスを誘導するため/又は癌細胞増殖を阻害するためのものである。更なる実施態様において、医薬は、癌細胞中でアポトーシスを誘導するための/又は癌細胞増殖を阻害するための、医薬の有効量を個体に投与することを含む、癌に罹患している個体において、癌細胞中でアポトーシスを誘導する/又は癌細胞増殖を阻害する方法における使用のためである。上記実施態様の何れかに記載の「個体」は、ヒトであり得る。
【0236】
更なる態様にて、本発明は、癌を治療するための方法を提供する。一実施態様において、本方法は、癌を有する個体に、抗HER3抗体の有効量を投与することを含む。上記実施態様の何れかに記載の「個体」は、ヒトであり得る。
【0237】
更なる態様において、本発明は、癌に罹患している個体において、癌細胞中でアポトーシスを誘導する/又は癌細胞増殖を阻害するための方法を提供する。一実施態様において、本方法は、癌に罹患している個体において、癌細胞中でアポトーシスを誘導する/又は癌細胞増殖を阻害するための、抗HER3抗体又は細胞傷害性化合物にコンジュゲートされた抗HER3抗体のイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む。一実施態様において、「個体」はヒトである。
【0238】
更なる態様において、本発明は、例えば、上記の治療法の何れか使用される、本明細書で提供される抗HER3抗体の何れかを含む薬学的製剤を提供する。一実施態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗HER3抗体の何れか、及び薬学的に許容される担体を含む。
【0239】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、任意の適切な手段によって投与することができ、経口、肺内、及び鼻腔内、及び局所治療が所望される場合、病巣内投与が含まれる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与が含まれる。投薬は、その投与が短期間か又は長期であるかどうかに部分的に依存し、任意の適切な経路、例えば、静脈内又は皮下注射などの注射により行うことができる。限定されないが、様々な時間点にわたる、単一又は複数回投与、ボーラス投与、パルス注入を含む様々な投与スケジュールが本明細書で考えられている。
【0240】
本発明の抗体は良好な医療行為に合致した方法で処方され、投与され、投薬される。この文脈における考慮因子としては、治療すべき具体的な障害、治療すべき具体的な哺乳類、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール及び医師にとって既知の他の因子が挙げられる。抗体は、必要ではないが任意で、問題となる障害の予防又は治療のために、現在使用中の一又は複数の薬剤ともに処方される。そのような他の薬剤の有効量は製剤中に存在する抗体の量、障害又は治療の種類及び上記した他の要因に依存する。これらは一般的には本明細書に記載されるのと同じ用量及び投与経路において、又は、本明細書に記載された用量の1%から99%で、又は経験的に/臨床的に妥当であると決定された任意の用量及び任意の経路により使用される。
【0241】
疾患の予防又は治療のためには、本発明の抗体の適切な用量(単独で使用されるか、又は、一以上の更なる治療的薬剤との組み合わされる場合)は治療すべき疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体を予防又は治療目的のいずれにおいて投与するか、以前の治療、患者の臨床的履歴及び抗体に対する応答性、及び担当医の判断に依存する。抗体は、患者に対して、単回、又は一連の治療にわたって適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一回以上の別個の投与によるか、連続注入によるかに関わらず、抗体約1μg/kgから15mg/kg(例えば0.5mg/kgから10mg/kg)が患者への投与のための初期候補用量となり得る。1つの典型的な一日当たり用量は上記した要因に応じて約1μg/kgから100mg/kg以上の範囲である。数日間以上に渡る反復投与の場合には、状態に応じて、治療は疾患症状の望まれる抑制が起こるまで持続するであろう。1つの例示される抗体用量は約0.05mg/kgから約10mg/kgの範囲である。従って、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kgの1つ以上の用量(又はこれらの何れかの組み合わせ)を患者に投与してよい。このような用量は断続的に、例えば毎週又は3週毎(例えば患者が抗体の約2投与量から約20投与量、又は例えば約6投与量を受けるように)投与してよい。初期の高負荷投与量の後に一以上の低投与量が投与され得る。典型的な投薬レジメンは、抗体の、約4mg/kgの初期負荷用量の投与と、その後の約2mg/kgの毎週の維持用量の投与を伴う。しかしながら、他の投薬レジメンを使用してもよい。この治療の進行は、従来技術及びアッセイにより容易にモニターされる。
【0242】
上記の製剤又は治療方法の何れかが、抗HER3抗体の代わりか又は抗HER3抗体に加えて、本発明のイムノコンジュゲートを用いて行うことができることが理解される。
【0243】
III.製造品
本発明の他の実施態様において、上述した障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な物質を含む製造品が提供される。製造品は、容器とラベル又は容器上にある又は容器に付属するパッケージ挿入物を含む。好適な容器は、例としてボトル、バイアル、シリンジ、IV輸液バッグ等を含む。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な物質から形成されうる。容器は、疾患の治療、予防、及び/又は診断に有効である、それ自体か、又はその他の組成物と併用される化合物を収容し、無菌のアクセスポートを有し得る(例えば、容器は皮下注射針による穴あきストッパーを有する静脈内溶液バッグ又はバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも一の活性剤は本発明の抗体である。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が特定の症状の治療のために使用されることを示している。更に、製造品は、(a)組成物が本発明の抗体を包含する組成物を含む第一の容器;及び(b)組成物が更なる細胞障害性又はその他の治療的薬剤を包含する組成物を含む第2の容器を含み得る。本発明の本実施態様における製造品は、組成物が特定の疾患を治療することに用いることができることを示すパッケージ挿入物をさらに含んでいてもよい。別法として、又は加えて、製造品は、薬学的に許容される緩衝液、例えば注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液を含む第二(又は第三)の容器をさらに含んでもよい。これは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業的及びユーザーの立場から望まれる他の物質のさらに含んでもよい。
【0244】
上記の製造品の何れかは、抗HER3抗体の代わりか又はそれに加えて、本発明のイムノコンジュゲートを含み得ることが理解される。
【0245】
アミノ酸配列の記述
配列番号1 ヒトHER3のβヘアピン
配列番号2 ヒトHER4のβヘアピン
配列番号3 ヒトHER3
配列番号4 ヒトHER3細胞外ドメイン(ECD)
配列番号5 ヒトHER4
配列番号6 ヒトHER4細胞外ドメイン(ECD)
配列番号7 ヒトHER1
配列番号8 ヒトHER1細胞外ドメイン(ECD)
配列番号9 ヒトHER2
配列番号10 ヒトHER2細胞外ドメイン(ECD)
配列番号11 ヒトヘレグリン断片(HRG)
配列番号12 ヒトヘレグリンβ−1断片(Preprotechから提供)
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3,
配列番号14 TtSlyD−野生型
配列番号15 TtSlyDcas
配列番号16 TgSlyDΔIF
配列番号17 TtSlyDcas−Her3
配列番号18 TtSlyDcys−Her3
配列番号19 TgSlyDser−Her3
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
配列番号21 TtSlyDcas−Her4
配列番号22 TtSlyDcys−Her4
配列番号23 TgSlyDser−Her4
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
配列番号25 重鎖HVR−H1、M−08−11
配列番号26 重鎖HVR−H2、M−08−11
配列番号27 重鎖HVR−H3、M−08−11
配列番号28 軽鎖HVR−L1、M−08−11
配列番号29 軽鎖HVR−L2、M−08−11
配列番号30 軽鎖HVR−L3、M−08−11
配列番号31 重鎖可変ドメインVH、M−08−11
配列番号32 軽鎖可変ドメインVL、M−08−11
配列番号33 重鎖HVR−H1、M−17−02
配列番号34 重鎖HVR−H2、M−17−02
配列番号35 重鎖HVR−H3、M−17−02
配列番号36 軽鎖HVR−L1、M−17−02
配列番号37 軽鎖HVR−L2、M−17−02
配列番号38 軽鎖HVR−L3、M−17−02
配列番号39 重鎖可変ドメインVH、M−17−02
配列番号40 軽鎖可変ドメインVL、M−17−02
配列番号41 重鎖HVR−H1、M−43−01
配列番号42 重鎖HVR−H2、M−43−01
配列番号43 重鎖HVR−H3、M−43−01
配列番号44 軽鎖HVR−L1、M−43−01
配列番号45 軽鎖HVR−L2、M−43−01
配列番号46 軽鎖HVR−L3、M−43−01
配列番号47 重鎖可変ドメインVH、M−43−01
配列番号48 軽鎖可変ドメインVL、M−43−01
配列番号49 重鎖HVR−H1、M−46−01
配列番号50 重鎖HVR−H2、M−46−01
配列番号51 重鎖HVR−H3、M−46−01
配列番号52 軽鎖HVR−L1、M−46−01
配列番号53 軽鎖HVR−L2、M−46−01
配列番号54 軽鎖HVR−L3、M−46−01
配列番号55 重鎖可変ドメインVH、M−46−01
配列番号56 軽鎖可変ドメインVL、M−46−01
配列番号57 ヒトHER3のβヘアピン内の結合エピトープ
配列番号58 シュードモナス外毒素変異体PE24LR8M_3G(GGGリンカーを含む)
配列番号59 M−08−11の軽鎖;M−08−11_LC
配列番号60 ソルターゼタグを含むM−08−11 HCの重鎖;M−08−11_HC
配列番号61 シュードモナス外毒素変異体PE24LR8MにコンジュゲートされたM−08−11 HCの重鎖(Fab−011−PEの重鎖1)
配列番号62 シュードモナス外毒素変異体PE24LR8Mに、直接のPE24LR8M融合体として、コンジュゲートされたM−08−11HCの重鎖(Fab−011−PEの重鎖2)
配列番号63 可溶性黄色ブドウ球菌ソルターゼA
配列番号64 重鎖可変ドメインVH、M−05−74
配列番号65 軽鎖可変ドメインVL、M−05−74
配列番号66 ヒトカッパ軽鎖定常領域
配列番号67 ヒトラムダ軽鎖定常領域
配列番号68 IgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号69 L234A及びL235Aに関して変異されたIgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号70 L234A、L235A及びP329Gに関して変異されたIgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号71 IgG4由来のヒト重鎖定常領域
【0246】
以下の実施例及び図は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の精神から逸脱することなく、改変は記載された手順で行うことができることが理解される。
【0247】
以下に、本発明の幾つかの実施態様が記載される。
1. ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)抗原結合タンパク質を選択するための方法であって;
ここで、抗原結合タンパク質は、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
ここで、
a)配列番号1のアミノ酸配列を含み、
配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチド
及び
b)配列番号2のアミノ酸配列を含み、
配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4、
からなる群から選択される少なくとも一のポリペプチドは、
a)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示し、かつb)のうちの少なくとも一ポリペプチドに対する結合を示さない、抗原結合タンパク質を選択するために使用され、それによって、ヒトHER3のPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつヒトHER4と交差反応しない抗原結合タンパク質を選択する、方法。
2. 実施態様1に記載の選択方法により得られた、抗原結合タンパク質。
3. 抗原結合タンパク質が抗体である、実施態様1に記載の方法、又は実施態様2に記載の抗原結合タンパク質。
4. a)配列番号18 TtSlyDcys−Her3のポリペプチドに結合し、
かつ
b)配列番号22 TtSlyDcys−Her4のポリペプチドと交差反応しない、ヒトHER3に結合する単離された抗原結合タンパク質。
5. a)配列番号18のポリペプチド(TtSlyDcas−Her3)に含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し、かつ
b)配列番号22のポリペプチド(TtSlyDcas−Her4)に含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列と交差反応しない、ヒトHER3に結合する単離された抗原結合タンパク質。
6. 抗体である、実施態様4又は5に記載の抗原結合タンパク質。
7. 活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合する、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
8. 抗体は、HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示す、実施態様6から7の何れか一に記載の抗体。
9. ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)単離された抗体であって、
a)配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
b)活性化HER3における配列番号1のアミノ酸配列に結合し;及び/又は
c)配列番号13 TtSlyD−FKBP−Her3、
配列番号17 TtSlyDcas−Her3、
配列番号18 TtSlyDcys−Her3、
配列番号19 TgSlyDser−Her3、及び
配列番号20 TgSlyDcys−Her3
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQPLVYNKLTFQLEPNPHT(配列番号1)のアミノ酸配列内に結合し;
及び/又は
d)HER3のβヘアピン領域に結合し;及び/又は
e)HER3/HER2ヘテロ二量体のヘテロ二量体化を阻害し;及び/又は
f)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)のと比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有し;及び/又は
g)表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRとの比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有し;
h)配列番号2のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;及び/又は
i)配列番号21 TtSlyDcas−Her4、
配列番号22 TtSlyDcys−Her4、
配列番号23 TgSlyDser−Her4、及び
配列番号24 TgSlyDcys−Her4
からなる群から選択されるポリペプチドに含まれるPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)のアミノ酸配列に対して交差反応性を有さず;
及び/又は
j)HER4のβヘアピン領域に対して交差反応性を持たず;及び/又は
k)HER3への結合をヘレグリンと競合せず;及び/又は
l)ヘレグリンのHER3への結合を誘導し;及び/又は
m)HER3−ECDにKD値≦1×10−8Mの親和性で結合し(一実施態様において、1×10−8Mから1×10−13MのKD値で;(一実施態様において、1×10−9Mから1×10−13MのKD値で);及び/又は
n)PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し;及び/又は
o)PLVYNKLTFQLE(配列番号48)からなるポリペプチドに結合し、及びPQTFVYNPTTFQLEHNFNA(配列番号2)からなるポリペプチドと交差反応しない;及び/又は
p)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後0分で検出されるように、ヘレグリンの非存在下での結合レベルと比較した場合、ヘレグリンの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示し;及び/又は
q)HER3を発現するT47D細胞を用いたFACSアッセイにおいて、抗体とのインキュベーション後の4時間後に、ヘレグリンの存在下で、HER3のほぼ完全な内部移行を示す、抗体。
10. ヒトHER3に結合し、及びヒトHER4と交差反応しない単離された抗体であって、PLVYNKLTFQLE(配列番号48)のアミノ酸配列を含むポリペプチドである、15アミノ酸長のポリペプチドに結合する、抗体。
11. ヒト、ヒト化、又はキメラ抗体である、実施態様6から10に記載の抗体。
12. ヒトHER3に結合し(かつヒトHER4と交差反応しない)抗体断片である、実施態様6から10に記載の抗体。
13. (a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、請求項6から12の何れか一項に記載の抗体。
14. (a)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項6から12又は13の何れか一項に記載の抗体。
15.
i)(a)配列番号25のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号26のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号27のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号28のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号29のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号30のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
16. (a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、請求項6から12の何れか一項に記載の抗体。
17. (a)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項6から12又は16の何れか一項に記載の抗体。
18.
i)(a)配列番号33のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号34のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号35のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号36のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号37のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号38のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
19. (a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、請求項6から12の何れか一項に記載の抗体。
20. (a)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項6から12又は19の何れか一項に記載の抗体。
21.
i)(a)配列番号41のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号42のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号43のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号44のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号45のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号46のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
22. (a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、請求項6から12の何れか一項に記載の抗体。
23. (a)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項6から12又は22の何れか一項に記載の抗体。
24.
i)(a)配列番号49のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号50のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号51のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号52のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号53のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号54のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
ii)あるいはi)の(a)、(b)、(d)及び/又は(e)のうちの抗体のHVRのヒト化変異体を含む、ヒトHER3に結合する単離された抗体。
25. 完全長IgG1抗体又はIgG4抗体である、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体。
26. Fab断片である、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体。
27. 実施態様6から24の何れか一に記載の抗体、及び細胞傷害性薬剤を含む、イムノコンジュゲート。
28. 実施態様6から24の何れか一に記載の抗体、又は実施態様27に記載のイムノコンジュゲート、及び薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
29. 医薬としての使用のための、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体、又は実施態様27に記載のイムノコンジュゲート。
30. 癌を治療することにおける使用のための、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体、又は実施態様42に記載のイムノコンジュゲート。
31. HER3/HER2二量体化の阻害における使用のための、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体。
32. 医薬の製造における、実施態様6から24の何れか一に記載の抗体、又は実施態様27に記載のイムノコンジュゲートの使用。
33. 医薬は癌の治療用である、実施態様32の使用。
34. 医薬は、HER3/HER3二量体化の阻害用である、医薬の製造における実施態様6から24の何れか一に記載の抗体の使用。
35. 実施態様1から34の何れか一に記載の抗体、又は実施態様1から34の何れか一に記載の抗体と細胞傷害性薬剤とを含むイムノコンジュゲートの、有効量を個体に投与することを含む、癌を有する個体を治療する方法。
36. 実施態様1から35の何れか一に記載の抗体と細胞傷害性薬剤とを含むイムノコンジュゲートの有効量を個体に投与することを含む、癌に罹患した個体の癌細胞においてアポトーシスを誘導する方法であって、それにより、個体における癌細胞のアポトーシスを誘導する方法。
37. 実施態様6から24の何れか一に記載の抗体をコードする単離された核酸。
38. 実施態様39に記載の核酸を含む宿主細胞。
39. 抗体が産生されるように、実施態様39に記載の宿主細胞を培養することを含む、抗体を製造する方法。
40. i)配列番号12 TtSlyD−FKBP−Her3、
ii)配列番号16 TtSlyDcas−Her3、
iii)配列番号17 TtSlyDcys−Her3、
iv)配列番号18 TgSlyDser−Her3、及び
v)配列番号19 TgSlyDcys−Her3、
からなる群から選択されるポリペプチドであって、そのポリペプチドは配列番号1のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【0248】
実施例
材料及び一般的な方法
組換えDNA技術
Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記述されるように、標準的な方法がDNAを操作するために使用された。分子生物学的試薬を、製造元の指示に従って使用した。
【0249】
遺伝子合成
所望の遺伝子セグメントを、化学合成によって作られたオリゴヌクレオチドから調製した。特異な制限エンドヌクレアーゼ切断部位に隣接した400−1600bp長の遺伝子セグメントは、アニーリング及びPCR増幅を含むオリゴヌクレオチドの連結によって構築され、続いて示された制限部位、例えばEcoRI/BlpI又はBsmI/XhoIを介して以下に記載の発現ベクターへクローニングされた。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって確認した。遺伝子合成断片は、Geneart(Regensburg, Germany)で指定された仕様に基づいて発注された。
【0250】
DNA配列決定
DNA配列は、Sequiserve GmbH(Vaterstetten, Germany)で行った二本鎖配列決定により決定した。
【0251】
DNA及びタンパク質配列分析及び配列データ管理
インフォマックスのベクターNT1アドバンススイートバージョン11.5.0が、配列の作成、マッピング、解析、注釈及び説明のために使用された。
【0252】
実施例1
抗原及びスクリーニングタンパク質の調製−HER3のβヘアピン及びHER4のβヘアピンに結合する抗体を選択するための機能的βヘアピンHER3及びβヘアピンHER4コンストラクトの生成
機能的βヘアピンHER3及びHER4コンストラクトを生成するために、HER3のβヘアピン(配列番号1)及びHER4のβヘアピン(配列番号4)のアミノ酸配列は、FKBPドメインを含むポリペプチドのSlyDフレームワークに移植された。このようなコンストラクトにおいて、移植されたβヘアピンは、(例えば、HRGなどのリガンドの非存在下で)HER3又はHER4の天然の非活性コンホメーションにおける隠れた構造とは対照的に、自由にアクセス可能である(HER3のβヘアピンが隠れている図1c及び1dを参照)。
【0253】
全ての融合SlyDポリペプチドは、ほとんど同一のプロトコールを用いて精製し、リフォールディングすることができる。特定の発現プラスミドで形質転換された大腸菌BL21(DE3)細胞を選択的増殖のための各抗生物質(カナマイシン30/ml、又はアンピシリン(100μg/ml))を含むLB培地中37℃で、OD600が1.5まで増殖させ、細胞質ゾル過剰発現を、1mMのイソプロピルβ−D−チオガラクトシド(IPTG)を添加することによって誘導した。誘導後3時間で、細胞を、遠心分離(5000gで20分間)により回収し、凍結し、−20℃で保存した。細胞溶解のために、凍結したペレットを、7MのGdmCl及び5mMのイミダゾールを補充した冷却した50mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)に再懸濁した。その後、懸濁液を、氷上で2〜10時間撹拌し、細胞溶解を完了した。遠心分離(25000g、1h)及び濾過(硝酸セルロース膜、8.0μm、1.2μm、0.2μm)の後、溶解物を、溶解緩衝液で平衡化したNi−NTAカラムにアプライした。続く洗浄工程において、(7MのGdmClを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)中)イミダゾールの濃度を10mMに上昇させ、チオール部分を還元型に維持し、早期のジスルフィド架橋を防ぐために、5mMのTCEPを添加した。還元性洗浄緩衝液の少なくとも15から20体積を適用した。その後、GdmCl溶液を、マトリックス結合のSlyD融合ポリペプチドのコンホメーションリフォールディングを誘導するために、100mMのNaCl、10mMのイミダゾール、及び5mMのTCEPを含有する50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)に交換した。同時に精製するプロテアーゼの再活性化を回避するために、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete(登録商標)EDTAフリー、Roche)をリフォールディング緩衝液に添加した。リフォールディング緩衝液の計15から20カラム体積を、一晩の手順で適用した。その後、TCEP及びComplete(登録商標)EDTAフリー阻害剤カクテルの両方を、100mMのNaCl及び10mMのイミダゾールを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)の10カラム体積で洗浄することにより除去した。最後の洗浄工程では、粘り強い汚染物質を除去するために、イミダゾール濃度を30mM(10カラム体積)まで上げた。リフォールディングしたポリペプチドは、次いで、同じ緩衝液中250mMイミダゾールを適用することにより溶出した。タンパク質含有画分を、トリシン−SDS−PAGEによって純度について評価した(Schaegger, H. and von Jagow, G., Anal. Biochem. 166 (1987) 368-379)。その後、緩衝系(50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、100mMのKCl、0.5mMのEDTA)としてリン酸カリウムを使用して、タンパク質を、サイズ排除クロマトグラフィー(SuperdexTM HiLoad、Amersham Pharmacia)にかけた。最後に、タンパク質含有画分をプールし、約5mg/mlの濃度までアミコンセル(YM10)で濃縮した。TtSlyD−FKBP−Her3のNi−NTA精製の典型的なSDS−PAGE分析が図3に示され、サーマス・サーモフィラスSlyD−FKBP−Her−3のニッケルNTA精製された画分のSEC溶出プロファイルが図4に示される。サーマス・サーモフィラスのSlyD(TtSlyD)−Her−3融合ポリペプチドは、そのモノマー形態で、可溶性で安定したポリペプチドとして正常に精製することができた。最終収量は、画分12と13から16.4mgの精製タンパク質で定量した。
【0254】
表2(挿入体としてHER3二量体化ドメイン断片(HER3のβヘアピン(配列番号1))又は挿入体としてHER4二量体化ドメイン断片(HER4のβヘアピン(配列番号2))を保有する)開発されたSlyDベースのエピトープスキャフォールドのアミノ酸配列の概要。
【0255】
TtSlyD−FKBP−Her3、TtSlyDcas−Her3、TtSlyDcys−Her3、Thermococcus gammatolerans TgSlyDser−Her3及びTgSlyDcys−Her3は、挿入体としてHER3二量体化ドメイン断片(HER3のβヘアピン(配列番号1))を保有し、免疫原として及びELISAスクリーニングにおける陽性対照として使用された。
【0256】
TtSlyD−野生型、TtSlyDcas、TgSlyDΔIFは、(挿入体としてHER3二量体化ドメイン断片(HER3のβヘアピン(配列番号1))又はHER4二量体化ドメイン断片(HER4のβヘアピン(配列番号2)を含まない)ELISAスクリーニングにおいて、陰性対照として使用された。
【0257】
TtSlyDcas−Her4、TtSlyDcys−Her4、TgSlyDser−Her4及びTgSlyDcys−Her4(挿入体としてHER4二量体化ドメイン断片(HER4のβヘアピン(配列番号2)を保有する)を、HER4の交差反応性のために開発されたクローンを確認するためにELISAスクリーニングに使用した。
【0258】
エピトープスキャフォールドは、大腸菌で発現されるので、N末端メチオニン残基が存在するか又はしない場合がある。(Nt=N−末端;Ct=C−末端)
【0259】
【0260】
実施例2
a)免疫化とHER3抗体の選択
HER3のβヘアピンに対する抗体の生成のために、Balb/C、NMRI又はSJLマウスを異なる抗原で免疫した。抗原として、以下のタンパク質を使用した:完全長Her3 ECD、又はエピトープスキャフォールドタンパク質TtSlyD−FKBP12−Her3、TtSlyDcys−Her3、TtSlyDcas−Her3、TgSlyDcys−Her3及びTgSlyDser−Her3。TtSlyD−FKBP12−HER3変異体は、HER3二量体化ドメイン特異的抗体の生成のために使用される第一世代のエピトープスキャフォールドを表す。エピトープスキャフォールドとしてSlyD変異体を使用することの一般原理は、既に第一世代のSlyD−FKBP12スキャフォールドを使用して実証することができたが、高い安定性を有するスキャフォールドの改善された変異体が開発された。これらのSlyD変異体は、サーマス・サーモフィラス及びThermococcus gammatoleransから由来する。
【0261】
全てのマウスは、免疫化キャンペーンの開始後の時間点0週、6週及び10週目で3回の免疫化に供された。各時点で、各マウスを、100μlのPBSに溶解した100μgのエンドトキシンを含まない免疫原で免疫した。1回目の免疫化のため、免疫原を100μlのCFAと混合した。2回目及び3回目の免疫化のため、免疫原をIFAと混合した。1回目と3回目の免疫化は、腹腔内経路を介して適用され、2回目の免疫化は皮下に適用された。ハイブリドーマ技術を用いた抗体の開発のための脾臓細胞の調製の前に、マウスは、アジュバントを含まない100μlのPBS中の12.5μgの免疫原によって、静脈内追加免疫に供された。
【0262】
力価分析
それぞれの免疫原に対する及びスクリーニングタンパク質に対する血清力価の測定のため、各マウスの血清の少量が、免疫化キャンペーンの開始後11週目に採取された。ELISAのため、免疫原又はスクリーニングのスキャフォールドタンパク質をプレート表面上に固定化した。HER3 ECDは1μg/mlの濃度で固定化され、スキャフォールドタンパク質TtSlyD−FKBP12−Her3、TtSlyD−FKBP12、TtSlyDcys−Her3、TtSlyDcas−Her3、TtSlyDcas、TgSlyDcys−Her3、TgSlyDser−Her3及びTgSlyDΔIFは、0.5/mlの濃度で使用された。スキャフォールドタンパク質TtSlyDcas及びTgSlyDΔIFは、陰性対照として使用された。各マウスからの血清を、1%BSAを含むPBS中に希釈し、希釈液をプレートに添加した。血清は、希釈1:300、1:900、1:2700、1:8100、1:24300、1:72900、1:218700及び1:656100で試験された。結合した抗体は、基質としてHRP標識F(ab’)ヤギ抗マウスFcγ(Dianova)及びABTS(Roche)を用いて検出された。
【0263】
血清滴定のレベルにおいてさえも、免疫化マウスは、HER3の二量体化βヘアピンドメインに対する抗体を生じることは既に明らかであった。Her3 ECDで免疫したマウスでは、これは、二量化β−ヘアピンループを含有するスキャフォールドタンパク質の一つに対しての滴定により示すことができる。強く低減されたシグナルは、HER3 ECDを用いた免疫によって産生された抗体の大部分は、ECD内の他の部分を標的としており、ごく一部のみが二量体化β−ヘアピンドメインに結合しているという事実により説明することができる。HER3二量体化ループを含むスキャフォールドで免疫したマウスにおいて、ループを標的とする抗体の割合は、HER3 ECDに対する滴定(陽性対照)及びHER3挿入体を含まない対照スキャフォールドに対する滴定(陰性対照)により示すことができる。
【0264】
b)抗体の開発及びELISAスクリーニング/選択
ここで説明するエピトープスキャフォールド技術の使用は、Her3二量体化ドメインを標的とする抗体の開発のための主要な2つの戦略を提供する(HER3のβヘアピン(配列番号1))。1つの戦略は、完全長HER3 ECDで免疫し、二量体化ドメインに特異的な抗体をスクリーニングするためのスキャフォールドを使用することである。他の戦略は、免疫化のためのスキャフォールドの直接の使用、及びHER3 ECD、他の骨格を有するスキャフォールド又はカウンタースクリーニングのための挿入体を含まないスキャフォールドを使用することである。抗体は、初代B細胞をP3X63Ag8.653骨髄腫細胞と融合することによるハイブリドーマ技術を用いて開発された。2日後、最終追加免疫の後、免疫したマウスを屠殺し、脾臓細胞集団を調製した。脾臓細胞は、PEG融合技術を用いて、P3X63Ag8.653と融合させた。融合からの細胞のバッチ培養は、5%CO下、37℃で一晩インキュベートした。翌日、融合細胞を含む細胞のバッチを400gで10分間遠心分離した。その後、細胞を、0.1×アザセリン−ヒポキサンチン(Sigma)を補充したハイブリドーマ選択培地に懸濁し、96ウェルプレートにウェル当たり2.5x10細胞の濃度で播種した。プレートを、5%CO下、37℃で少なくとも1週間培養した。ELISA分析の3日前に選択培地を交換した。
【0265】
初代培養上清を、HER3 ECD及び種々のスキャフォールドタンパク質に対するELISAで試験した。スキャフォールドタンパク質に対する試験は、選択されたクローンが、天然のHER3 ECDの二量体化ドメインに結合していることを実証するために行われた。対照スキャフォールドのTtSlyDcas及びTgSlyDΔIFに対する試験は、選択されたクローンは、スキャフォールド骨格ではなく挿入されたHER3由来の配列に結合していることを示すために行われた。交差反応性を確認するために、得られたクローンは、Herファミリーの他のメンバー、即ち、HER1、HER2及びHER4の完全長のECDに対して試験された。示されるように、全ての選択されたクローンは、Her3に対して高度に特異的であり、Herファミリーの他のメンバーに対する交差反応性は検出されなかった。ELISAスクリーニングにおいて、抗原ダウンフォーマットが使用された。HER3 ECDは1μg/mlの濃度で固定化され、スキャフォールドタンパク質TtSlyD−FKBP12−Her3、TtSlyD−FKBP12、TtSlyDcys−Her3、TtSlyDcas−Her3、TtSlyDcas、TgSlyDcys−Her3、TgSlyDser−Her3及びTgSlyDΔIFは、0.5/mlの濃度で固定化された。ハイブリドーマ上清をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートした。結合した抗体は、HRP標識F(ab’)ヤギ抗マウスFcγ(Dianova)を用いて検出され、ABTS(Roche)がHRP基質として使用された。
【0266】
【0267】
c)免疫組織化学
全ての選択されたクローンは、IHCにおいて反応性及び特異性について試験された。従って、HEK293細胞は、完全長HER1、HER2、HER3又はHER4をそれぞれコードするプラスミドで一過性にトランスフェクトされた。トランスフェクションの2日後、HER1、HER2、HER3又はHER4を今や発現する異なる細胞株は回収され、続いて、ホルマリンで固定され、IHC対照を生成するためにアガロースに包埋された。ホルマリン中で一晩更に固定した後、アガロースブロックはパラフィンに包埋された。トランスフェクトされていないHEK293細胞を陰性対照として使用し、トランスフェクトされた細胞に応じて処置された。パラフィン包埋した後、3μmの薄い切片をミクロトームを用いて調製した。切片をガラス顕微鏡スライド上にマウントし、2時間乾燥させた。免疫組織化学の染色手順の全ての更なる工程は、ベンタナベンチマークXTを用いて行われた。スライドを脱脂し、抗原回復は1時間加熱することによって行われた。抗原回復のために、ベンタナ緩衝液CC1を使用した。抗体は、1μg/mlの濃度で使用した結合した抗体の検出のためにベンタナUltraView検出キットを使用した。結果を図5に示す。示されるように、全てのクローンは、HER3の検出に特異的であり、HERファミリーの他のメンバー(HER1、HER2、及びHER4)との交差反応性を示さない。
【0268】
d)選択された抗HER3ハイブリドーマのDNA配列決定
選択されたハイブリドーマクローンのDNA配列を得るために、5’Race PCRを行った。RT−PCRのために、全RNAは、全RNA精製キット(Qiagen)を用いて、5×10細胞から調製した。逆転写及びPCRは5’prime RACE PCRキットを使用して行った(Roche)。重鎖及び軽鎖から得られたPCR断片をゲル電気泳動及び続くゲル精製によって精製した。PCR断片をTopo Zero−Bluntクローニングキット(Invitrogen)を用いてクローンし、コンピテント細胞に形質転換した。各々のハイブリドーマからの幾つかのクローンが、選択されたクローンのコンセンサス配列を得るために配列決定に供された。M−08−11、M−17−02、M−17−07及びM−17−12、M−43−01及びM−46−01が、配列決定のために供された。M−17−02、M−17−07及びM−17−12においては、同一のVH及びVL配列が同定された。M−17−01及びM−17−11は、同様に配列決定される。
【0269】
e)FACSを介したM−08−11の時間依存性内部移行の解析
HER3へのM−08−11の結合及びHER3 M−08−11の内部移行は、HER3を発現する腫瘍細胞株T47Dを用いてFACSで分析された。5×10細胞が、50ngの組換えヒトヘレグリン断片(HRG)(配列番号11)により処置された。配列番号11のアミノ酸を含む断片11が、pCDNA.1ベクター(Invitrogen)にクローニングされた。HRG断片は、Invitrogenにより記載されたプロトコールに従ってFreeStyleTM 293−F細胞中で発現された。(FreeStyleTM 293発現システムのカタログ番号K9000−01)。精製されたHRG断片は、20mMのヒスチジン、140mMのNaCl;pH6.0中に溶解され、−80℃で保存された。
【0270】
未処置(−)の細胞を陰性対照として使用した。ヘレグリン誘導活性化のすぐ後で、M−08−11の1μgが、細胞に添加された。細胞を、37℃で0、5、15、30、45、60、75、90、105、120、180分間240分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を直ちに氷上に置いた。細胞を、3mlのFACS緩衝液で1回洗浄し、その後1μgのR−Phycoerythrinヤギ抗マウスIgG(H+L)二次抗体で30分間染色した。フローサイトメトリーが、FACSCantoTMフローサイトメーター(BD Biosciences)を用いて行われた。T47D細胞における、M−08−11誘導型、時間依存性HER3受容体の内部移行のFACS解析の結果:M−08−11は、追加された組換えヒトヘレグリン断片(HRG)の有無にかかわらず発現されたHER3 ECDへの結合を示している。M−08−11は、4時間かけてHER3受容体の内部移行へと導く。結果を図6に示す。アイソタイプ対照は、一定の水平の黒い棒として表示される。
【0271】
M−08−11は、HRGの非存在下(−)で、発現されたHER3 ECDに対して弱い結合を示す。これに対して、ヒトヘレグリン断片の存在下(+HRG)では、より強い結合を検出することができた。HER3を発現する腫瘍細胞株T47DによるFACSアッセイにおける結合は、抗体曝露(0分のインキュベーション)の直後(0分)で検出される場合、HRGの非存在下での結合レベルと比較した場合、HRGの存在下で少なくとも2倍高い結合レベルを示す。M−08−11は、4時間かけてHER3受容体の内部移行へと導く。アイソタイプ対照は、一定の水平の黒い棒として表示される。
【0272】
実施例3
a)HER3抗体の速度論的スクリーニング/結合特性
速度論的スクリーニングは、ビアコアCM5センサーを備えたBIAcore 4000装置で、Schraemlらに従って行われた(Schraml, M. and M. Biehl, Methods Mol Biol 901 (2012) 171-181)。全てのアッセイにおいて試験抗体が捕捉された。そのシステムは、ソフトウェアバージョンV1.1の制御下にあった。機器の緩衝液は、HBS−EP(10mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、1mMのEDTA、0.05%(w/v)のP20)であった。システムは、25℃で操作された。10mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中の30μg/mlのウサギポリクローナル抗体(RAM IgG、(Fcガンマ特異性を有するウサギ抗マウスIgG)GE Healthcare)が、フローセル1、2、3、及び4のスポット1、2、4及び5において、製造業者の指示に従ってEDC/NHS化学を用いて固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて飽和された。各フローセルにおいて、参照シグナルは、スポット1−2及びスポット5−4を用いて計算され、スポット3はブランク対照とした。抗原(ヒト組換えHER3 ECD(68kDa)、及びHER3のβ−ヘアピンペプチド(配列番号1)を含む、組換えサーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−HER3(15kDa)は、非特異的結合を抑制するために、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン、Sigma)を補充した機器の緩衝液で150nMに希釈された。それらの適用の前に、ハイブリドーマ培養上清は、機器の緩衝液で1:5に希釈された。希釈された混合物を2分間、30μl/分の流速で注入した。抗体捕捉レベル(CL)は応答単位でモニターされた。その直後に、各抗原を、3分間、30μl/分の流速で注入した。その後、抗体−抗原複合体の解離シグナルを5分間記録した。センサーは、30μl/分の流速で2分間、10mMのグリシン−HCl溶液(pH1.7)を注入することによって再生した。抗原の注入の終了の直前に記録されたシグナルは、応答単位で結合遅延(BL)として記された。解離の記録の終了の直前に記録されたシグナルは、応答単位で安定性遅延(SL)として記された。解離速度定数を算出して決定した。分単位での抗体−抗原複合体の安定性は、以下の式:ln(2)/60*kdを用いて計算した。モル比は、式:MW(抗体)/MW(抗原)*BL(抗原)/CL(抗体)を用いて計算した。
【0273】
結合遅延(BL)は、分析物注入の終了時での応答単位を表す。センサー表面上でリガンドとして捕捉された抗体の量は、反応単位で捕捉レベル(CL)として測定される。試験される分析物の分子量の情報と共に、溶液中の抗体及び分析物、モル比を計算することができる。センサーは、適切な量の抗体リガンド捕捉レベルと共に形作られる場合、各抗体は、溶液中で少なくとも一分析物に機能的に結合することができる必要がある(これはMR=1.0のモル比で表される)。そして、モル比はまた、分析物結合の結合価モードについての指標である。最大結合価は、各Fab結合価により一つで、2つの分析物に結合する抗体について、MR=2とすることができる。立体的制限又は機能不全分析物の結合の場合、モル比は、HER3 ECDが、本発明の抗HER3βヘアピン抗体により(このβヘアピンは閉じたコンホメーションにおいて隠されているので)、その「閉じた」コンホメーションで結合される場合であるように、化学量論未満の結合を示すことができる。モル比の決定における最大のアッセイ偏差はMR=0.2である。
【0274】
抗HER3抗体M−08−11のスクリーニング/選択:
一実験において、速度論的スクリーニングは、ヒト組換えHer−3 ECDによるマウスの免疫化から得られた、異なる融合からのハイブリドーマ一次培養を用いて開始された。目的は、HER3のヘテロ二量体化ドメインのβ−ヘアピンペプチド(配列番号1)に対する結合特異性を有する培養物を選択することであった。溶液中の抗原/分析物として、ヒト組換えHER3 ECD(68kDa)、及びHER3のβヘアピンペプチド(配列番号1)を含む、組換えサーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−HER3(15kD)((配列番号13)下記の表では、サーモSlyD−Her3と略記される)が使用された。正の的中は、両方の抗原/分析物に対する結合活性を有する一次培養上清として分類された。表4は、例示的に、一次培養上清を示し、そこから、M−08−11はこれらの要件を満たしており、HER3のβヘアピンに対するエピトープ特異性を示している。従って、これは、配列番号1のHER3ヘアピンに結合する抗HER3抗体のスクリーニングの適切な方法である。
【0275】
【0276】
M−08−11、M−17−01、M−17−02、M−43−01及びM−46−01は、ヒトHER3 ECDに対する、それらの結合におけるモル比の減少を示しており(それぞれ、MR=0.4、0.04、0.1、0.1及び0.2)(=ヘレグリンの非存在下、HER3−ECDの閉じたコンホメーション)、一方、HER3のβヘアピン(配列番号1)を含むサーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3に対するその結合において、M−08−11、M−17−01、−17−02、M−43−01及びM−46−01は、改善されたモル比を示し(それぞれ、MR=1.3、1.5、1.7、1.7及び1.8)、(HER3のβヘアピンが、ヘレグリンの非存在下で隠されたエピトープを表している(その非活性化状態/閉じたコンホメーションにある)ヒトHer−3 ECDに比べて)改善されたエピトープの接触性による、機能的な、化学量論1:1結合を示している。純粋な抗原結合親和性を独立に見ると、M−08−11、M−17−01、M−17−02、M−43−01及びM−46−01は、HER3−HERG複合体と比較して、HER3 ECDに対してわずかに強い結合親和性を示している。
【0277】
b)ヘレグリン(HRG)の非存在下及び存在下での、HER3抗体M−08−11、M−17−01、M−17−02、M−43−01及びM−46−01の作用機序を調べるための、HER3抗体M−08−11、M−17−01、M−17−02、M−43−01及びM−46−01の速度論
その平衡状態において、Her−3 ECDは、その「閉じたコンホメーション」で存在し、このことは、ヘテロ二量体化Her3ベータヘアピンモチーフはHer−3 ECDドメインIVへの非共有結合性相互作用を介して係留されていることを意味している(図1c及び1dを参照)。これは、「閉じた」Her3コンホメーションは、特異的なHer3ヘレグリン結合部位でのリガンドヘレグリンの結合を介して開くことができると想定される。これは、Her3のECDドメインIとドメインIIIによって形成されたHer3界面で起こる。この相互作用により、Her−3受容体が活性化され、その「開いたコンホメーション」へと移行されると考えられる(図1b及びeを参照)。これが生じると、Her−3のベータヘアピンは記載された抗体に対して接触可能となる。この作用機序は、ビアコア実験によりインビトロでシミュレートすることができる。
【0278】
ビアコアT100機器(GE Healthcare)は、モノクローナル抗体を、ヘレグリン活性化Her−3細胞外ドメイン(Her3_ECD)に対するそれらの挙動について、速度論的に評価するために使用された。CM5シリーズセンサーをシステムに装着し、製造業者の指示に従ってHBS−ET緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.005%w/vのTween20)で正規化した。サンプル緩衝液は、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン、Sigma #86524)を補充したシステム緩衝液であった。そのシステムは、25℃で操作された。6500RU−RAMのFcγ(Fcγ断片RamIgGの相対単位、GE Healthcare)は、4つ全てのフローセル上に、EDC/NHS化学を用いて、製造元の指示に従って固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて不活性化された。
【0279】
分析物に対する各抗体の結合活性は速度論的に試験された。抗体は、5μl/分で1分間の注入により35nMの濃度で捕捉された。流速は100μl/分に設定された。
【0280】
試験された溶液中の分析物は、ヒトヘレグリン断片(HRG)(配列番号11)、44kDaのホモ二量体タンパク質(実施例2eの組換えサーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−HER3(15kD)((配列番号13)下記の表ではT.T.SlyD−Her3と略記)に従って調製)、ヒト組換えHER3 ECD(配列番号4)(68kDa)、ヒト組換えHER4 ECD(配列番号6)、及びヘレグリンの5倍モル濃度過剰で60分間、室温でインキュベートされ、HER4 ECD−HRG複合体を生じる(複合体におけるMWの追加)100nMのHer−4 ECDであった。
【0281】
溶液中の分析物を、3.5分間、0nM、1.1nM、3.7nM、11.1nM、33.1nM及び90nMの異なる濃度の工程で注入した。解離は15分間モニターされた。可能な場合には、速度論的シグネチャは、ラングミュアフィットに従って評価された。
【0282】
【0283】
更なる実験において、HER1 ECD、T.T.SlyD−cysHer3及びHER3のβヘアピンを含まないT.T.SlyD−casが測定に含められ、その結果は表5bに示され、M−05−74の同一の結合特性を実質的に明らかにしている。
【0284】
ビアコアT200機器(GE Healthcare)はCM5シリーズセンサーを備えていた。センサーは、製造業者の指示に従ってHBS−ET緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.05%w/vのTween20)で正規化された。サンプル緩衝液は、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン、Sigma #86524)を補充したシステム緩衝液であった。システムは、25℃で操作された。6500RU−RAMのFcγ(Fcγ断片RamIgGの相対単位、GE Healthcare)は、4つ全てのフローセル上に、アミンカップリングEDC/NHS化学を用いて、製造元の指示に従って固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて不活性化された。モノクローナル抗体は、10μl/分で1分間注入することによって、センサー表面上で捕捉された(CL、捕捉レベル)。濃度依存性の反応速度が測定された。分析物HER−1−ECD、HER−2−ECD、HER−3−ECD、HER−4−ECD、T.T.SlyD−cysHer3及びT.T.SlyD−casの濃度系列は、0nM、1.1nM、3.3nM、2×10nM、30nM及び90nmでそれぞれ注入された。ヘレグリンβ(HRG)は、0nM、17nM、2×50nM、150nM及び450nMで注入され、90nMのHER−3 ECD及び90nMのHER−4 ECDは、HRGβの5倍過剰と共に2時間レインキュベートされ、0nM、1.1nM、3.3nM、2×10nM、30nM及び90nMのHER濃度の工程で注入された。全ての分析物は、100μl/分の流速で5分間の結合時間と10分間の解離時間で注入された。センサー捕捉システムは、10mMのグリシンpH1.7で、10μl/分で3分間の注入によって再生された。可能であれば、速度論的データは、ビアコアT200評価ソフトウェアを用いて評価された。HER−3−ECD、HER−4−ECD及びT.T.SlyD−cysHer3の反応速度論は、可能な限り、ラングミュアフィッティングモデルを用いて評価されたか、又は二状態反応速度論の相互作用マップが使用された。
【0285】
【0286】
モル比は、式:MW(抗体)/MW(抗原)*BL(抗原)/CL(抗体)を用いて計算した。
【0287】
抗HER3抗体のM−08−11、M−43−01及びM−46−01は、組換えサーマス・サーモフィラスSlyD−Her3(15kDa)に提示される、ナノモルの親和性で(表5a−cを参照)及びそれぞれMR=1.4、1.5、1.7、1.7及び1.8の機能的化学量論で「開いた」Her3 ECDコンホメーションに結合する。「閉じた」HER ECDは、それぞれMR=0.5、0.04、0.1、0.1及び0.2の減少した機能性により結合され、HER3のヘアピンドメインの接近における立体障害を示している。ヒトヘレグリンベータ(HRG)、野生型サーマス・サーモフィラスSlyDタンパク質、Her−4 ECD及びヘレグリン複合体化Her−4 ECDに対しては、結合は検出されなかった。従って、抗HER3抗体M−08−11、M−43−01及びM−46−01は、Her−3 ECD及びHER3のβヘアピンに特異的に結合するが、HER4−ECDには結合しない。
【0288】
M−08−11は、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合の結合定数(Ka)とHER3−ECD(配列番号4)への結合の結合定数(Ka)との比(Ka(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(Ka(HER3−ECD))が1.5以上を有する。
【0289】
M−08−11は、サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3(配列番号13)への結合のモル比MRとHER3−ECD(配列番号4)への結合のモル比MRの比(MR(サーマス・サーモフィラスSlyD FKBP−Her3)/(MR(HER3−ECD))が2.0以上を有する。
【0290】
M−08−11、M−43−01及びM−46−01は共に、抗体は、HER−3−ECD及びHER−3−ECD−HRGと特異的に相互作用するが、HER−4−ECDとは相互作用しないという機序で、M−5−74エピトープとは異なる、エピトープクラスに属する。HER−1−ECD、HER−2−ECD、HER−4−ECD及びHRGに対して特定できる相互作用は無い。M−08−11、M−43−01及びM−46−01は、T.T.SlyD−cysHer3に、1:2の化学量論で結合し、T.T.SlyD−casと相互作用しない。M−08−11、M−43−01及びM−46−01は、HER−3−ECD−HRGに対して、不活性なHER−3−ECDと比較した場合、改善された化学量論で結合する。
M−46−01は、HER−3−ECD−HRGへの結合において最高の化学量論を示す。
【0291】
M−08−11、M−43−01及びM−46−01は、二状態機構を介してHER−3−ECD−HRGと相互作用する、同じクラスの抗体に属する。従って、25℃での複合体の相互作用は、相互作用マップにより決定される(図7c、d、e)。
【0292】
クローンM−08−11の速度論的解析
驚くべきことに、抗HER3抗体M−08−11、M−17−01、M−17−02、M−43−01及びM−46−01は、ヘレグリン複合体化Her−3 ECDに、M−05−74とは異なる相互作用様式で結合することが見いだされた。抗HER/HER抗体M−05−74は、HER3のβ−ヘアピンに結合するが、HER4−ECD及びHER4のβヘアピンへの特異的結合をも示す、別の抗体である(M−05−74は、配列番号55及び配列番号56のVH及びVLを有する)。M−08−11は、ヘレグリン活性化Her−3 ECDに対して、非ラングミュア、非1:1相互作用で、しかし複合速度論的様式で特異的に結合する。1:1の反応速度論は、二元複合体へと直接的に相互作用しA]+[B]→[AB]、複合体の一定の解離速度を示す。複合体解離の半減期は、式t1/2 diss=ln(2)/kで記述することができる。対照的に、多状態速度論は、解離相の複合体非線形曲率を示している。反応物は、中間体を形成することができ、その後、更に、安定した生成物へと反応するような機序で相互作用することができる[A]+[B]→[AB]*→[AB]。結合様式を解明するために、ビアコア実験が行われた。
【0293】
ビアコアB3000機器(GE Healthcare)は、ヘレグリン活性化Her−3 ECDに対するその結合の作用機序について、速度論的にクローン培養M−08−11を評価するために使用された。CM5シリーズセンサーをシステムに装着し、製造業者の指示に従ってHBS−ET緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.005%w/vのTween20)で正規化した。サンプル緩衝液は、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン)を補充したシステム緩衝液であった。システムは、25℃で操作された。10000RU−RAMのFcγ(Fcγ断片ウサギ抗マウスIgG/ジャクソン研究所の相対単位)は、全てのフローセル上に、EDC/NHS化学を用いて、製造元の指示に従って固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて不活性化された。
【0294】
ヘレグリン複合体化Her−3 ECDとのM−08−11相互作用は、単相ラングミュア1:1相互作用でなく、複合体相互作用を明らかにしたので、抗体の結合様式は、二状態解析により調べられた(Jenkins, J. L., M. K. Lee, et al. J Biol Chem 275 (2000) 14423-14431)。
【0295】
抗HER3抗体M−08−11は、その未精製のハイブリドーマ上清から10μl/分で2分間注入により、センサー表面上で捕捉された。流速は100μl/分に設定された。各サイクルにおいて、分析物複合体(5:1)ヘレグリン/HER3−ECDは、100nMの濃度で注入された。別の実施態様において、分析物のHer−3 ECDは1μMで注入された。各連続したサイクルでは、分析物の注入時間は、30秒、90秒、180秒及び300秒から延長されました。結合は、センサーグラムとしてモニターされた。センサー表面の完全な再生は、60秒間、30μl/分で、10mMのグリシンpH1.7の3回の連続注射を使用して達成された。最後に、得られたセンサーグラムは、重ね合わせプロットにプロットされ、正規化された。正規化されたデータは、分析物解離段階の開始時点で、報告点において重ね合わされた。1:1ラングミュア相互作用は、典型的に合同解離シグネチャを生成するが、一方、複合体相互作用は、非合同、時には二相性解離段階を示す。
【0296】
図7a)とb)において、抗HER3抗体M−08−11の二状態解析が示される。解離曲線は重ね合わされて一致する解離曲線を形成することができるため、「閉じた」Her−3 ECDは、非常に高いHer−3 ECD濃度においてのみ、1:1ラングミュア相互作用に従って結合される(図7a)。ヘレグリン/Her−3 ECDの相互作用の解離曲線は、重ね合わせることができない(図7b)。複合体は、従って、非ラングミュア機構によって結合されている。M−08−11(M−011)相互作用は、4パラメーターの二状態モデルによって計算される場合、以下のデータが得られた。
【0297】
ヘレグリン/Her−3 ECDへのM−08−11の結合は機能的である(MR=1:1)。二状態モデルは4つの速度論的パラメータを提供する。見かけの解離定数(親和性)KDapp=18nMは、Ka1及びKd2のステップを決定する速度から商を形成することにより算出することができる。
【0298】
【0299】
更なる実験において、二状態速度論的解析が、相互作用マップに基づいて、抗HER3抗体M−08−11、M−43−01及びM−46−01により行われ(Altschuh, D., et al, Biochem Biophys Res Commun. 428(1) (2012) 74-79)、製造業者の助言に従って、TraceDrawerソフトウェア(バージョン1.5)Ridgeview Diagnostics)を使って、データから計算された。結果は、表6b及び図7c、d、eに示される。
【0300】
一般的に、相互作用マップ(図7c、d、e)は、M−08−11、M−43−01及びM−46−01のHER−3−ECD−HRGとの相互作用は、二つの異なる反応速度の寄与から構成される。二状態反応速度の番号:見かけの反応速度において同定されたサブコンポーネントの番号;ka 1/Ms;結合速度定数;kd 1/s:解離速度定数;KD(M):解離速度定数;重量(%):全体的な相互作用への寄与。
【0301】
【0302】
相互作用マップは、M−08−11 M−43−01及びM−46−01ヘレグリン/Her−3 ECD相互作用における、2つの速度論的構成要素を同定する。見かけの反応速度は、二つの相互作用から構成され、一つは、低親和性結合事象であり、二つめは、より高い親和性成分であり、それは、ビアコア二状態モデルを用いて計算された見かけの親和性と同じように、同じ領域にある。
【0303】
例示的な抗HER3抗体M−08−11の二状態の相互作用モードの解釈は、図8の重ね合わせプロット内のデータによって明白になる。図8は、ヘレグリン活性化のHer−3 ECD複合体(HER3 ECD HRG)を結合する、抗HER3抗体M−08−11及び抗HER3/HER4抗体M−05−74の二つの異なる機序を示している。Her−3ヘアピンに対する接触性は、Her−3 ECDの「開いたコンホメーション」において改善されているので、M−08−11は、加速された結合速度定数Kaを有する活性化された複合体に特異的に結合する。ヘレグリンは、このように相互作用のための触媒である。相互作用の過程で、ヘレグリンは、M−08−11*Her−3 ECD複合体から離れて解離する。この三量体複合体の解離段階で、結合シグナルのレベルは、純粋なHer−3 ECDの相互作用シグナルの結合レベルに漸近的に移動する。これはまた、抗体M−43−01及びM−46−01についても有効である。抗HER3/HER4抗体のM−05−74は、複合体からのヘレグリン解離を捕捉し及び防止する。M−05−74は、ヘレグリンに対するトラップ(「ヘレグリン−シンク」)である。
【0304】
実施例4
抗HER3抗体M−08−11のエピトープマッピング及びユニークなエピトープ(例えば、TtSlyDcys−Her3(配列番号18)内のHER3のβヘアピン、及びHER4のβヘアピンに交差反応性無し)によるM−08−11の作用機序分析
ビアコア2000(GE Healthcare)機器は、アクセス可能なエピトープクローンの培養上清を、それらの結合特異性について評価するために使用された。CM5センサーをシステムに装着し、製造業者の指示に従ってHBS−ET緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.005%w/vのTween20)で正規化した。サンプル緩衝液は、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン、Sigma)を補充したシステム緩衝液であった。システムは、37°Cで操作された。10000RU−RAMのFcγ(Fcγ断片ウサギ抗マウスIgG/ジャクソン研究所の相対単位)は、4つ全てのフローセル上に、EDC/NHS化学を用いて、製造元の指示に従って固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて不活性化された。
【0305】
10μl/分の流速で、50nMの抗HER3 M−05−74一次抗体は、全てのフローセル上で1分間捕捉された。流速は30μl/分に設定され、IgGをブロッキング溶液(50μg/mlのIgGの(20:2:1のIgG1−Fcγ、IgG2a−Fcγ、IgG2b)、Roche)を5分間注入した。抗原のHer−3 ECDは、3分間1.5μMで注入された。
【0306】
その後、100nMの各抗HER3二次抗体(a)M−05−74、b)国際公開第97/35885号からの8B8(図ではGTと命名、c)HER3のドメインIVに結合するM−208、及びd)M−08−11;HER4 ECD及びHER4のβヘアピン交差反応性を有さない別のHER3のβヘアピンバインダー)が30μl/分で3分間注入された。センサー表面の酸性再生は、60秒間、30μl/分で、10mMのグリシンpH1.7の3回の連続注射を使用して達成された。
【0307】
測定のノイズは二次性M−05−74の注入の再結合によって定義され、これは既に解離した一次M−05−74を再飽和する。実験は、二次性M−208のシグナルは、M−05−74の存在下で完全にHer−3 ECDを飽和するので、M−208及びM−05−74は、Her−3 ECD上の別個のエピトープを占有することを示した(図9を参照)。M−08−11の結合は、M−05−74の存在によって完全にブロックされる。M−08−11の二次的シグナルはノイズの更に下にある。それにもかかわらず、M−08−11は、ヒトHER4 ECD及びHER4のβヘアピンに結合しないので、M−08−11は、M−074とは異なるエピトープに結合する。(また、以下の、HER3及びHER4のβヘアピンによる正確なエピトープマッピングデータも参照)。8B8(=GT)二次抗体は、M−05−74の存在下で、ノイズの上にある有意なシグナルを生成する。従って、8B8(=GT)抗体は、M−05−74及びM−08−11以外の別のエピトープに結合する。
【0308】
図10は、異なる結合の作用機序を示す、抗HER3抗体M−08−11、抗HER3/HER4抗体M−05−74及び抗HER3抗体8B8(国際公開第97/35885号から)のビアコアセンサーグラムの重ね合わせプロットである。抗HER3抗体M−08−11 HER3(HER4 ECD及びHER4のβヘアピン交差反応性を有さないβヘアピンバインダー)は、ヘレグリン解離を遅延させ(2)、複雑な二状態速度論を生みだす。抗HER3/HER4抗体M−05−74は、ヘレグリン活性化Her−3 ECD(1)をt1/2 diss=18分でトラップし、ヘレグリン・シンクとして機能する。8B8抗体(3)は、ヘレグリンをトラップせず、また、Her−3 ECD/ヘレグリン複合体からのヘレグリン解離を遅延させない。それは完全なラングミュア相互作用であるため、ヘレグリン/Her−3 ECD複合体は、8B8抗体からのインタクトな複合体として、迅速かつ完全に解離する。
【0309】
図11では、これらの結合の作用機序のスキームが示されている。1:M−08−11はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合し、遅延したヘレグリン解離を誘導し、それによってM−08−11はHer−3 ECD受容体複合体に留まることになる。2:M−05−74はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合する。ヘレグリンは、複合体にトラップされ、抗体は、複合体のままである:3:8B8はヘレグリン活性化Her−3 ECDに結合する。複合体全体は、抗体から解離する。
【0310】
ペプチドベースの2Dエピトープマッピング
別の実施態様において、CelluSpotsTM合成及びエピトープマッピング技術を使用してHER3 ECDエピトープを特徴づけるために、ペプチドベースの2Dエピトープマッピング実験が行われた。エピトープマッピングは、ヒトHER1 ECD、HER2 ECD、HER3 ECD及びHER4 ECDペプチドヘアピンの配列に対応する、重複する、固定化されたペプチド断片(長さ:15アミノ酸)のライブラリーを用いて実施された。図12において、エピトープマッピング及びアラニンスキャンアプローチの戦略が示される。HER1(EGFR)ECD、HER2 ECD、HER3 ECD及びHER4 ECDのペプチドヘアピンの配列(βヘアピン)は、それらの構造的埋め込み(構造)を含めて、調べられた。システインは、セリンによって置換された。HER4のβヘアピンに対する結合でなく、HER3のβヘアピンに対する結合を介した介した抗体の抗体選択のために、HER3及びHER4のβヘアピンは、配列番号1及び配列番号2により定義される。
【0311】
合成された各ペプチドは、一アミノ酸だけシフトされた;即ち、14個のアミノ酸は、それぞれ、前及び次のペプチドと重複している。ペプチドアレイの調製のため、Intavis CelluSpotsTM技術を使用した。このアプローチでは、ペプチドは、合成後に溶解される変性セルロースディスク上で自動合成(Intavis MultiPep RS)を用いて合成される。高分子セルロースに共有結合した個々のペプチドの溶液は、その後、コーティングされた顕微鏡スライド上にスポットされる。CelluSpotsTM合成は、384ウェルの合成プレート中のアミノ変性セルロースディスク上で9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を利用して段階的に行った。各カップリングサイクルにおいては、対応するアミノ酸はDMF中のDIC/HOBtの溶液で活性化した。カップリング工程の間、未反応のアミノ基を、無水酢酸、ジイソプロピルエチルアミン及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾールの混合物でキャップした。合成が完了すると、セルロースディスクを、96ウェルプレートに移し、側鎖の脱保護のため、トリフルオロ酢酸(TFA)、ジクロロメタン、トリイソプロピルシラン(TIS)と水との混合物で処理した。開裂溶液を除去した後、セルロースに結合したペプチドは、TFA、TFMSA、TIS及び水の混合物に溶解され、ジイソプロピルエーテルで沈殿させ、DMSO中に再懸濁された。ペプチド溶液は、その後、インタビス(Intavis)のスライドスポッティングロボットを使用して、Intavis CelluSpotsTMスライド上にスポットした。
【0312】
エピトープ解析のために、上記のように調製したスライドを、エタノールで、次にTris緩衝生理食塩水(TBS;50mMトリス、137mMの塩化ナトリウム、2.7ミリモルのKCl、pH8)で洗浄し、5mLの10倍ウェスタンブロッキング試薬(Roche Applied Science)、TBS中2.5gのスクロース、0.1%のTween20を用いて、4℃で16時間、ブロッキングした。スライドをTBS及び0.1%のTween20で洗浄し、その後、環境温度で2時間、TBS中の1μg/mLの対応するIGF1抗体及び0.1%Tween20と共にインキュベートし、その後TBS+0.1%Tween20で洗浄した。検出のために、スライドは、抗ウサギ/抗マウスHRP二次抗体(TBS−T中で1:20000)とインキュベートし、続いて化学発光基質ルミノールとインキュベートし、LumiImager(Roche Applied Science)で可視化した。ELISA陽性のスポットを定量化し、対応するペプチド配列のアサインメントを通じて、抗体結合エピトープを同定した。
【0313】
図13に示されるように、M−08−11は、アミノ酸配列PLVYNKLTFQLE(配列番号48)を含み、Herファミリーの他のヘアピン配列に対して検出可能な交差反応性を有さない(特にHER4のβヘアピンに対する結合を何も検出することができなかった)HER3 ECD特異的エピトープを示す。M−05−74は、アミノ酸配列VYNKLTFQLEPを有するHER3 ECDエピトープ、及びEGFR及びHER2 ECDのヘアピンモチーフに対して検出可能なシグナルを有さない、アミノ酸配列VYNPTTFQLEを有するHER4 ECDエピトープに対する交差反応性を示す。8B8抗体では全くシグナルは検出できず、従って、8B8抗体は、抗HER3抗体M−08−11及び抗HER3/HER4抗体M−05−74、並びに一般にβ−ヘアピンペプチドモチーフとは異なるエピトープを標的とする。
【0314】
図14において、抗HER3抗体M−08−11のHER3 ECDの結合性エピトープへの結合に最も貢献している、Ala−Scanによって同定されたアミノ酸は下線が引かれ/太字である。
【0315】
実施例5
HER3抗体の存在下でのHER3−ECDに対するHRGの結合(ELISA)
ストレプトアビジン被覆96ウェルプレートを、SBPタグ付きHER3−ECDを含有する細胞培養上清とともに4℃でインキュベートした。翌日、ウェルは洗浄緩衝液(PBS+0.05%のTween−20)で3回洗浄され、1%BSAを含有するPBSで1時間ブロックされた。洗浄緩衝液で更に3回洗浄した後、(デルフィア結合緩衝液中)40μlの抗体溶液を、所望の最終濃度の2倍ストック(10−3から10nM、あるいは10−4から10nM)として各ウェルに加えた。直ちに、40μlの20nMのユーロピウム標識ヘレグリンβ(PeproTech、カタログ#100−03)が、10nMの最終濃度を達成するために添加された。プレートを2時間室温でシェーカー上でインキュベートした。デルフィア洗浄緩衝液(Delfia Wash Buffer)で3回洗浄した後、デルフィア増強溶液(Delfia Enhancement Solution)が添加され、15分間シェーカー上でインキュベートされた(光防護されて)。最後に、プレートを、時間分解蛍光測定プロトコールを用いて、Tecan Infinite F200リーダーで測定した。抗HER3抗体M−08−11、M−43−01及びM−46−01の結合は、HRGのHER3−ECDに対する結合を、プラトーが、(M−08−11及びM−43−01について)200%のシグナルに達するまで及び(M−46−01について)330%のシグナルに達するまで、促進/誘導することができる。M−33は、アイソタイプ対照として機能し、およそ100%の濃度非依存性の値を示している。結果は、図15AとBに示される。
【0316】
実施例6
MCF7細胞におけるHER2/HER3ヘテロ二量体/ヘテロ二量体化の阻害(免疫沈降及びウエスタンブロット)
MCF−7細胞を6ウェルプレートに播種し(2mlのRPMI、10%FCS、ウェルあたり8×105細胞)、一晩増殖させた。翌日に、培地は0.5%のFCSを含有する2mlの飢餓培地により交換された。3日目に、抗体は10μg/mlの最終濃度まで添加され、プレートは37℃でインキュベートされた。50分後、ヘレグリンβ(PeproTech、カタログ#100−03)が500ng/mlの最終濃度まで添加され、プレートは37℃で更に10分間インキュベートされた。細胞はPBSで洗浄され、1%ジギトニンを含有する250μlのトリトン溶解緩衝液中で溶解された。収集された溶解物の60μlが反応チューブに移され、40μlの抗体結合セファロース(ハーセプチン又はHER3抗体#208の何れか)及び0.3%ジギトニンを含有する500μlの緩衝液と共にインキュベートされた。反応混合物は、4℃で一晩ホイール回転装置上でインキュベートされた。翌日、反応混合物は、0.3%ジギトニンを含有する500μlの緩衝液で3回洗浄された。最後の洗浄後、上清は捨てられ、10μlの4Xローディング緩衝液が添加された。チューブは70℃で10分間インキュベートされ、上清は、結果としてSDS−PAGE用のゲルにロードされた。次のセミドライウエスタンブロットの後、HER2抗体で免疫沈降したサンプルを含む膜は、抗HER3抗体M−08−11(図16のM−011)でインキュベートされ、逆も同様であった。次いで、膜はHRPコンジュゲート二次抗体と共にインキュベートされ、ECLシグナルはX線フィルム上に転写された。結果は、図16に示され、抗HER3抗体M−08−11によるHER2/HERヘテロ二量体形成(HER2/HERヘテロ二量体化)の阻害を示している。
【0317】
実施例7
M−08−11−Fab−シュードモナス外毒素(M−08−11−PE又はM−08−11−Fab−PEと命名)の生成
M−08−11のFab断片、PE24変異体、及び配列番号49、50、51、52(又は53)の配列に基づいたシュードモナス外毒素変異体PE24LR8MにコンジュゲートされたM−08−11のFab断片の発現、精製及び再生。
【0318】
Fabの発現(例えば、ソルターゼカップリングのため)−発現ベクター
記載されたFab断片の発現のため、CMVイントロンAプロモーターを含む又は含まないcDNA構成、又はCMVプロモーターを含むゲノム構成の何れかに基づいた一過性発現(例えば、HEK293−F)細胞のための発現プラスミドの変異体が適用された。
抗体発現カセットの他に、ベクターは以下を含む:
− 大腸菌でこのプラスミドの複製を可能にする複製起点、及び
− 大腸菌においてアンピシリン耐性を付与する、β−ラクタマーゼ遺伝子
【0319】
抗体遺伝子の転写ユニットは、以下の要素で構成された:
− 5’末端におけるユニークな制限酵素部位(複数可)
− ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサー及びプロモーター、
− cDNA構成の場合には続いてイントロンAの配列、
− ヒト抗体遺伝子の5’非翻訳領域、
− 免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
− cDNA、又は免疫グロブリンエキソン−イントロン構成の何れかとしてのヒト抗体鎖
− ポリアデニル化シグナル配列を有する3’非翻訳領域、及び
− 3’末端におけるユニークな制限酵素部位(複数可)。
【0320】
以下に記載する抗体鎖を含む融合遺伝子がPCR及び/又は遺伝子合成によって生成され、既知の組換え法及び係る核酸セグメントの連結による、例えば各ベクター中のユニークな制限部位を使用した技術によって構築された。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一過性トランスフェクションのために、大量のプラスミドが、形質転換された大腸菌培養物(Nucleobond AX, Macherey-Nagel)からのプラスミド調製により調製された。
【0321】
細胞培養技術
Current Protocols in Cell Biology (2000), Bonifacino, J.S., Dasso, M., Harford, J.B., Lippincott-Schwartz, J. and Yamada, K.M. (eds.), John Wiley & Sons, Inc.に記載のように標準的な細胞培養技術を使用した。
Fab断片は、以下に説明するように懸濁液中で増殖しているHEK29−F細胞中で、重鎖及び軽鎖の発現プラスミドの一過性同時トランスフェクションにより発現された。
【0322】
HEK293−Fシステムにおける一過性トランスフェクション
Fab断片は、各プラスミド(例えば、重鎖及び修飾重鎖、並びに対応する軽鎖と修飾型軽鎖をコードする)により、製造業者の指示に従ってHEK293−Fシステム(Invitrogen)を使用して、一過性トランスフェクションにより作製された。簡潔には、無血清FreeStyleTM293発現培地(Invitrogen)の振盪フラスコ内又は攪拌発酵槽内の何れかの懸濁液中で増殖するHEK293−F細胞(Invitrogen)が、4つの発現プラスミドと293−FreeTM(Novagen)又はフェクチン(Invitrogen)との混合物によりトランスフェクトされた。2Lの振盪フラスコの場合(Corning)、HEK293−F細胞を、600ml中に1.0E*6細胞/mLの密度で播種し、8%CO2で120rpmでインキュベートした。翌日、細胞は、A)重鎖又は修飾型重鎖のそれぞれ及びその対応する軽鎖を等モル比でコードする計600μgのプラスミドDNA(1μg/mL)を含む20mLのOpti−MEM(Invitrogen)及びB)20mlのOpti−MEM+1.2mLの293−Free(Novagen)又はフェクチン(2μL/mL)の約42mLの混合物を用いて、約1.5E*6細胞/mLの細胞密度でトランスフェクトされた。グルコース消費に応じて、グルコース溶液が発酵の過程で添加された。分泌された抗体を含む上清を5−10日後に回収し、抗体が直接上清から精製されたか又は上清は凍結保存された。
【0323】
ソルターゼカップリング−発現ベクターのためのシュードモナス外毒素変異体PE24−LR8Mの発現
PE24−LR8Mの発現のため、大腸菌発現プラスミドを使用した。
【0324】
シュードモナス外毒素AドメインIIIのための発現カセットの他、ベクターは以下を含む:
− 大腸菌での複製のためのベクターpBR322由来の複製起点(Sutcliffe, G., et al., Quant. Biol. 43 (1979) 77-90による)、
− 大腸菌からのlacIリプレッサー遺伝子(Farabaugh, P.J., Nature 274 (1978) 765-769)、
− 大腸菌のpyrF欠失株(ウラシル要求性)の相補性により、プラスミドの選択を可能にする、オロチジン5’−リン酸脱炭酸酵素をコードするサッカロマイセス・セレビシエのURA3遺伝子(Rose, M. et al. Gene 29 (1984) 113-124)。
【0325】
毒素遺伝子の転写ユニットは、以下の要素で構成された:
− 5’末端におけるユニークな制限酵素部位(複数可)、
−Stueber、Dらによる合成リボソーム結合部位を含む、T5ハイブリッドプロモーター(Bujard, H., et al. Methods. Enzymol. 155 (1987) 416-433 and Stueber, D., et al., Immunol. Methods IV (1990) 121-152によるT5−PN25/03/04ハイブリッドプロモーター)(前を参照)、
− N末端結合タグ続いてフリン部位を伴うシュードモナス外毒素AドメインIII(ソルターゼカップリングのためのGGGリンカーを含む、配列番号45のシュードモナス外毒素変異体PE24LR8M_3G)、
− 2つのバクテリオファージ由来の転写ターミネーター、λ−T0ターミネーター(Schwarz, E., et al., Nature 272 (1978) 410-414) 及びfd−ターミネーター(Beck E. and Zink, B. Gene 1-3 (1981) 35-58)、
− 3’末端におけるユニークな制限酵素部位(複数可)。
【0326】
化学的に定義された培地における大腸菌流加プロセスにおける、シュードモナス外毒素Aコンストラクト変異体PE24−LR8M_3Gの発現及び培養
PE24−LR8M_3G_Ecoli(25kDa)の発現のために、大腸菌の栄養要求性(PyrF)の相補性により、抗生物質無しのプラスミド選択を可能にする大腸菌の宿主/ベクター系が使用された(欧州特許第0972838号及び米国特許第6291245号)。
【0327】
大腸菌K12株は、発現プラスミドで電気穿孔により形質転換された。形質転換された大腸菌細胞は、最初に寒天プレート上で37℃で増殖された。このプレートから採取されたコロニーを3mLのローラー培地に移し、37℃で1−2の光学密度まで(578nmで測定)増殖させた。次いで、1000μlの培養物を1000μlの滅菌86%−グリセロールと混合し、直ちに長期保存のために−80℃で凍結した。このクローンの生成物の正確な発現は最初に小規模振盪フラスコ実験で検証され、10Lの発酵槽に移送する前に、SDS−PAGEで分析された。
【0328】
予備培養:
予備発酵用に、化学的に定義された培地が使用されている。予備発酵用に、4つのバッフル付きの1000mlの三角フラスコ内の220mlの培地に、初代シードバンク(primary seed bank)アンプルのうち1.0mlが播種された。培養は、2.9の光学密度(578nm)が得られるまで、32℃、170rpmで8時間、ロータリーシェーカー上で実施された。予備培養の100mlが、10Lバイオリアクターのバッチ培地に播種するために用いられた。
【0329】
発酵:
10lのBiostat C、DCU3発酵槽(Sartorius, Melsungen, Germany)内での発酵のために、化学的に定義バされたバッチ培地が使用された。全ての成分は脱イオン水に溶解された。pH調節のためのアルカリ溶液は、11.25g/lのL−メチオニンを補充した水性の12.5%(w/v)NH溶液であった。
【0330】
4.2リットルの滅菌バッチ培地と予備培養からの100mlの播種物で開始し、バッチ発酵は、31℃、pH6.9±0.2、800mbarの背圧、及び10l/分の初期通気速度で行われた。溶解酸素の相対値(pO2)は、攪拌速度を1500rpmまで増加させることにより、発酵を通じて50%に維持された。溶解酸素値の急な増加によって示される、最初に補充したグルコースが枯渇した後、温度は25℃にシフトされ、15分後、発酵は、両方の供給の開始と共に(それぞれ60g/hと14g/h)流加モードに入った。供給2の速度は、一定に保たれるが、供給1の速度は、事前に定義された供給プロファイルを使用して、7時間以内に60g/hから最終的に160g/hまで段階的に増加された。二酸化炭素排ガス濃度が2%を上回るとき、通気速度は、5時間以内に10lから20l/分まで一定に増加された。組換えPE24−LR8M_3G_Ecoliタンパク質の発現は、光学密度が約120で2.4gのIPTGの添加によって誘導された。標的タンパク質は、細胞質内で可溶性で発現される。
【0331】
培養の24時間後、光学密度209が達成され、全ブロスは4−8℃に冷却される。細菌は、フロースルー遠心分離(13,000rpm、13l/h)により遠心分離により回収され、得られたバイオマスは、更なる処理(細胞破壊)まで−20℃で保存される。収量は、リットル当たり67.5gの乾燥細胞である。
【0332】
生成物形成の分析:
発酵槽から取り出されたサンプル、一つは誘導の前、他方はタンパク質の発現の時点のものが、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析された。全てのサンプルから同量の細胞が(ODTarget=10)、5mLのPBS緩衝液中に懸濁させ、氷上で超音波処理を経て破壊された。次に、各懸濁液の100μLが(15,000rpmで5分間)遠心分離され、各上清は回収され別のバイアルに移された。これは、可溶性及び不溶性の発現された標的タンパク質を区別するためである。各上清(=可溶性タンパク質画分)100μlと各ペレット(=不溶性タンパク質画分)200μLに、SDSサンプル緩衝液(Laemmli, U.K., Nature 227 (1970) 680-685)が添加された。サンプルは可溶化され、サンプル中の全てのタンパク質を可用化し還元するため、95℃での激しい混合下15分間加熱された。室温に冷却した後、各サンプルの5μLが、4−20%のTGXCriterion Stain Freeポリアクリルアミドゲルに移された(Bio-Rad)。更に、5μlの分子量標準物質(Precision Plus Protein Standard, Bio-Rad)が適用された。
【0333】
電気泳動は200Vで60分間行われ、その後、ゲルはGelDOC EZ Imager(Bio-Rad)に移され、UV照射で5分間処理された。ゲルの画像は、Image Lab分析ソフトウェア(Bio-Rad)を用いて分析された。タンパク質発現の相対的定量化は、分子量標準物質の25kDaバンドの体積に対して生成物バンドの量を比較することによって行われた。
【0334】
化学的に定義された培地上での大腸菌流加プロセスにおけるシュードモナス外毒素A変異体融合体(Fab−PE24)の抗体断片の軽鎖コンストラクト(VL)及び抗体断片の重鎖の発現及び培養
Fab−軽鎖(23.4kDa)及びFab−重鎖PE24融合体(48.7kDa)の発現のために、大腸菌の栄養要求性(PyrF)の相補性により、抗生物質無しのプラスミド選択を可能にする大腸菌の宿主/ベクター系が使用された(欧州特許第0972838号及び米国特許第6291245号)。
【0335】
大腸菌K12株は、それぞれの発現プラスミドで電気穿孔により形質転換された。形質転換された大腸菌細胞は、最初に寒天プレート上で37℃で増殖された。それぞれの形質転換のために、このプレートから採取されたコロニーは3mLのローラー培地に移され、37℃で1−2の光学密度まで(578nmで測定)増殖された。次いで、1000μlの培養物を1000μlの滅菌86%−グリセロールと混合し、直ちに長期保存のために−80℃で凍結された。これらのクローンの生成物の正確な発現は最初に小規模振盪フラスコ実験で検証され、10Lの発酵槽に移送する前に、SDS−PAGEで分析された。
【0336】
予備培養:
予備発酵用に、化学的に定義された培地が使用されている。予備発酵用に、4つのバッフル付きの1000mlの三角フラスコ内の220mlの培地に、初代シードバンク(primary seed bank)アンプルのうち1.0mlが播種された。培養は、7から8の光学密度(578nm)が得られるまで、37℃、170rpmで9時間、ロータリーシェーカー上で実施された。予備培養の100mlが、10Lバイオリアクターのバッチ培地に播種するために用いられた。
【0337】
発酵(RC52#003):
10lのBiostat C、DCU3発酵槽(Sartorius, Melsungen, Germany)内での発酵のために、化学的に定義バされたバッチ培地が使用された。pH調節のためのアルカリ溶液は、11.25g/lのL−メチオニンを補充した水性の12.5%(w/v)NH溶液であった。
【0338】
4.2リットルの滅菌バッチ培地と予備培養からの100mlの播種物で開始し、バッチ発酵は、31℃、pH6.9±0.2、800mbarの背圧、及び10l/分の初期通気速度で行われた。溶解酸素の相対値(pO2)は、攪拌速度を1500rpmまで増加させることにより、発酵を通じて50%に維持された。溶解酸素値の急な増加によって示される、最初に補充したグルコースが枯渇した後、温度は37℃にシフトされ、15分後、発酵は、両方の供給の開始と共に(それぞれ60g/hと14g/h)流加モードに入った。供給2の速度は、一定に保たれるが、供給1の速度は、事前に定義された供給プロファイルを使用して、7時間以内に60g/hから最終的に160g/hまで段階的に増加された。二酸化炭素排ガス濃度が2%を上回るとき、通気速度は、5時間以内に10lから20l/分まで一定に増加された。細胞質内に位置する不溶性の封入体としての組換え標的タンパク質の発現は、光学密度が約40で2.4gのIPTGの添加によって誘導された。
【0339】
培養の24時間後、光学密度185が達成され、全ブロスは4−8℃に冷却される。細菌は、フロースルー遠心分離(13,000rpm、13l/h)により遠心分離により回収され、得られたバイオマスは、更なる処理(細胞破壊)まで−20℃で保存される。収量は、リットル当たり40から60mgの間の乾燥細胞である。
【0340】
生成物形成の分析:
発酵槽から取り出されたサンプル、一つは誘導の前、他方はタンパク質の発現の時点のものが、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析された。全てのサンプルから同量の細胞が(ODTarget=10)、5mLのPBS緩衝液中に懸濁させ、氷上で超音波処理を経て破壊された。次に、各懸濁液の100μLが(15,000rpmで5分間)遠心分離され、各上清は回収され別のバイアルに移された。これは、可溶性及び不溶性の発現された標的タンパク質を区別するためである。各上清(=可溶性タンパク質画分)100μlと各ペレット(=不溶性タンパク質画分)200μLに、SDSサンプル緩衝液(Laemmli, U.K., Nature 227 (1970) 680-685)が添加された。サンプルは可溶化され、サンプル中の全てのタンパク質を可用化し還元するため、95℃での激しい混合下15分間加熱された。室温に冷却した後、各サンプルの5μLが、4−20%のTGXCriterion Stain Freeポリアクリルアミドゲルに移された(Bio-Rad)。更に、5μlの分子量標準物質(Precision Plus Protein Standard, Bio-Rad)及び既知の標的タンパク質濃度(0.1μg/μl)を含む3つの量(0.3μl、0.6μl及び0.9μl)の定量標準物質が適用された。
【0341】
電気泳動は200Vで60分間行われ、その後、ゲルはGelDOC EZ Imager(Bio-Rad)に移され、UV照射で5分間処理された。ゲルの画像は、Image Lab分析ソフトウェア(Bio-Rad)を用いて分析された。3つの標準物質により、線形回帰曲線は、>0.99の係数を用いて計算され、元の試料中の標的タンパク質の濃度が算出された。
【0342】
(M−08−11のFab断片、PE24変異体、及びシュードモナス外毒素変異体PE24LR8MにコンジュゲートされたM−08−11のFab断片の)精製、ソルターゼカップリング及び再生
Fab断片
Fab断片は、製造業者の説明に従って、アフィニティークロマトグラフィーによりニッケル(NiセファロースTM高性能HisTrapTM)により精製した。簡潔には、上清を、50mMリン酸ナトリウムpH8.0、300mMのNaClで平衡化したカラムにロードした。タンパク質の溶出は、4mMのイミダゾール及びその後に最大100mMのイミダゾールまでの勾配を含む洗浄工程により、pH7.0で、同じ緩衝液を用いて行なわれた。所望のFab断片を含む画分をプールし、20mMのHis、140mMのNaCl、pH6.0に対して透析された。
【0343】
ソルターゼカップリングのためのPE24
PE24を発現する大腸菌細胞は、20mMのトリス、2mMのEDTA、pHは8.0+コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル錠(Roche)中で高圧ホモジナイゼーションにより溶解された(詳細が必要な場合:Christian Schantz)。溶解物は濾過され、20mMトリス、pH7.4中で平衡化したQセファロースFF(GE Healthcare)にロードされた。タンパク質は、同じ緩衝液中で最大500mMのNaClまでの勾配により溶出された。PE24含有画分はSDS PAGEにより同定された。組み合わされたプールは濃縮され、20mMのトリス、150mMのNaCl、pH7.4中で平衡化されたHiLoadTMSuperdexTM75(GE Healthcare)に適用された。PE24を含む画分はSDS PAGEに従ってプールされ、−80℃で凍結された。
【0344】
PE24へのFab断片のソルターゼカップリング
Fab断片及びPE24は、アミコン(登録商標)ウルトラ4遠心分離フィルター装置(Merck Millipore)を使用して50mMのトリス、150mMのNaCl、5mMのCaCl、pH7.5へ別々に透析濾過され、5−10mg/mlまで濃縮された。タンパク質及びソルターゼの両方が1:1:0.8で混合された。37℃で1時間インキュベートした後、混合物は、50mMリン酸ナトリウム、pH8.0、300mMのNaCl中で平衡化されたNiセファロースTM High Perfomance HisTrapTMにロードされた。溶出は、同じ緩衝液(pH7.0)中、最大100mMまでのイミダゾール勾配で行われた。最終生成物のFab−PE24を含むフロースルー画分は濃縮され、20mMのトリス、150mMのNaCl、pH7.4中でHiLoadTMSuperdexTM200(GE Healthcare)にロードされた。所望の結合タンパク質を含有する画分がプールされ、−80℃で保存された。ソルターゼとして可溶性黄色ブドウ球菌のソルターゼAが使用された(配列番号54)。可溶性黄色ブドウ球菌ソルターゼAは、以下の発現プラスミドを用いて発現され精製された。ソルターゼ遺伝子は、N末端切断型黄色ブドウ球菌ソルターゼA(60−206)分子をコードする。HEK293細胞における可溶性ソルターゼの一過性発現のための発現プラスミドは、可溶性ソルターゼ発現カセットの他に、大腸菌においてこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、及び大腸菌においてアンピシリン耐性を付与するβ−ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。可溶性ソルターゼの転写ユニットは、以下の機能要素を含む:
− イントロンAを含む(P−CMV)ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサー及びプロモーター、
− ヒト重鎖免疫グロブリンの5’非翻訳領域(5’UTR)、
− マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
− N末端切断型黄色ブドウ球菌ソルターゼAをコードする核酸、及び
− ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0345】
大腸菌封入体から誘導されたFab−PE24の再生
VH−PE24及びVL−Cカッパの封入体は、8Mのグアニジン塩酸塩、100mMのトリス−HCl、1mMのEDTA、pH8.0+100mMのジチオスレイトール(DTT)で別々に可溶化された。室温で12−16時間後、可溶化物のpHは3.0に調整され、遠心分離された溶液は8M塩酸グアニジン、10mMのEDTA、pH3.0に対して透析された。タンパク質の濃度は、ビウレット反応によって決定され、封入体調製物の純度はSDS PAGEにより評価された。両鎖の等モル量は、2段階で0.5Mのアルギニン、2mMのEDTA、pH10+1mMのGSH/1mMのGSSGへ、0.2−0.3mg/mlの最終濃度まで希釈された。4−10℃で12−16時間、再生されたタンパク質は、HOで<3mS/cmに希釈され、20mMトリス/HCl、pH7.4で平衡化されたQセファロースFF(GE healthcare)上にロードされた。溶出は、同じ緩衝液中で最大400mMのNaClへの勾配により行われた。正確な生成物を含有する画分が、SDS−PAGE及び分析用サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により同定された。プールした画分は濃縮され、20mMのトリス、150mMのNaCl、pH7.4中又は代わりに20mMヒスチジン、140mMの塩化ナトリウム、pH6.0中で、HiLoadTM SuperdexTM 200(GE Healthcare)にロードされた。画分は、分析用SECに応じて分析され、プールされ、−80℃で保存された。
【0346】
配列番号50及び配列番号53に基づいて、M−08−11のFab断片の、シュードモナス外毒素変異体PE24LR8Mとのイムノコンジュゲート(M−08−11−PE)を、組換えにより発現させ、精製され、直接PE24LR8M融合タンパク質としても再生させることができる。
【0347】
実施例8
M−08−11−Fab−シュードモナス外毒素コンジュゲート(M−08−11−PE)による異なる腫瘍細胞株の細胞死滅
HER3を過剰発現するA549細胞は、白色96ウェルプレートに播種され(平らな、透明底、ウェル当たり1×10細胞)、一晩RPMI(10%FCS)中で増殖された。翌日に、培地は50μlの飢餓培地(RPMI、0.5%FCS)で交換された。少なくとも4時間後、5μlのヘレグリンβ(PeproTech、カタログ#100−03)(HRGベータ)が500ng/mlの最終濃度まで添加された。50μlのM−08−11−Fab−シュードモナス外毒素コンジュゲート(M−08−11−Fab−PE)が、10、3.3、1.1、0.37、0.12、0.04、0.014、0.005及び0.002μg/mlの最終濃度まで添加された。プレートは72時間インキュベートされた。24時間及び48時間後、5μlのヘレグリンβが、500ng/mlの最終濃度まで再び添加される。72時間後に、発光は、PromegaによるCellTiter−Glo発光細胞生存率アッセイ(カタログ#G7571)を使用して、Tecan Infinite F200リーダーで測定される。HRGの非存在下及び存在下でのM−08−11−Fab−シュードモナス外毒素コンジュゲート(M−08−11−Fab−PE)のEC50値が計算される。
【0348】
実施例9
本発明の抗体のヒト化変異体
マウス抗体の結合特異性は、ヒトの身体に異物として認識されるであろう、配列伸長から生じる潜在的な免疫原性の問題を排除するために、ヒトアクセプターフレームワークに転移される。これは、ヒト(アクセプター)抗体フレームワーク上にマウス(ドナー)抗体のHVR全体を移植することによって行われ、HVR(又はCDR)グラフティング又は抗体ヒト化と呼ばれている。
【0349】
マウス可変領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列抗体V遺伝子のコレクションへアラインされ、配列同一性及び相同性に従って分類された。アクセプター配列は、高い全配列相同性に基づいて、任意でアクセプター配列中に既存の正しい標準残基の存在に基づいて選択される(Poul, M-A. and Lefranc, M-P., in “Ingenierie des anticorps banques combinatores" ed. by Lefranc, M-P. and Lefranc, G., Les Editions INSERM, 1997を参照)。
【0350】
生殖系列V遺伝子は、重鎖のHVR3の開始までの領域のみと、軽鎖のHVR3の真ん中までとをコードする。従って、生殖系列V遺伝子の遺伝子は、Vドメイン全体に対してはアラインされない。ヒト化コンストラクトは、ヒトフレームワーク1から3、マウスHVR、及びヒトJK4由来のヒトフレームワーク4配列、及び軽鎖及び重鎖のJH4配列をそれぞれ含む。
【0351】
一つの特定のアクセプター配列を選択する前に、ドナー抗体のいわゆる標準的ループ構造を決定することができる(Morea, V., et al., Methods, Vol 20, Issue 3 (2000) 267-279を参照)。これらの標準的なループ構造は、いわゆる標準的な位置に存在する残基の種類によって決定される。これらの位置は、HVR領域の外に(部分的に)に存在し、親(ドナー)抗体のHVRコンホメーションを維持するために、最終的なコンストラクト中で機能的に同等に維持されるべきである。
【0352】
国際公開第2004/006955号において、非ヒト成熟抗体中のHVRの標準的なHVR構造タイプを同定する工程;ヒト抗体可変領域用のペプチド配列のライブラリーを得る工程;ライブラリー内の可変領域の標準的HVR構造タイプを決定する工程;及び標準的なHVR構造が、非ヒト及びヒト可変領域内の対応する位置で非ヒト抗体の標準的なHVR構造タイプと同じであるヒト配列を選択する工程を含む抗体をヒト化するための方法が報告されている。
【0353】
要約すると、潜在的なアクセプター配列は、高い全体の相同性に基づいて選択され、そして必要に応じて、更に、アクセプター配列中に既存の正しい標準残基の存在に基づいて選択される。
【0354】
幾つかの場合には、単純なHVRグラフト化は、非ヒト抗体の結合特異性の部分的な保持を生じる。結合特異性を再構成するために、少なくとも幾つかの特異的な非ヒトフレームワーク残基が必要であり、又、ヒトフレームワークに移植されなければならないこと、即ち、いわゆる「復帰突然変異」が、非ヒトHVRの導入に加えてなされる必要があることが見出されている(例えば、Queen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10,029-10,033; Co et al., Nature 351 (1991) 501-502を参照)。これらの特定のフレームワークアミノ酸残基は、FR−HVRとの相互作用に関与し、HVRのコンホメーション(ループ)を安定化していた(例えば、Kabat et al., J. Immunol. 147 (1991) 1709を参照)。
【0355】
幾つかの場合には、正突然変異が、より緊密にヒト生殖細胞系配列を取り入れるために導入される。
【0356】
これらの設計された抗体配列の遺伝子は、従来型のPCR技術によって生成される。重鎖可変領域は、(エフェクター機能が要求される場合)ヒトIgG1重鎖定常領域、又は(エフェクター機能が要求されない場合;IgG1 L234A L235A P329G;IgG4 S228P L235E P329G)ヒトIgG1/IgG4重鎖定常領域変異体の何れかに対して融合される。軽鎖可変ドメインは、発現プラスミドの構築のために、軽鎖カッパ又はラムダ定常ドメインの何れかに融合される。これによって、マウス抗HER3抗体M−08−11、17−02、M−43−01及びM−46−01はヒト化される。抗体は、HEK又はCHOのような哺乳動物細胞培養系において発現され、プロテインA及びサイズ排除クロマトグラフィーにより精製される。ヒト化抗体は、全長抗体又は抗体断片の何れかで発現され、又は免疫毒素コンジュゲートに含まれる(実施例7と同様に)。
【0357】
実施例11
国際公開第2012/22814号に記載される抗HER3抗体MOR09823(2)と比較した、抗体M−08−11(1)のTtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対する結合。
ビアコアT200機器(GE Healthcare)はCM5シリーズセンサーを備え、製造業者の指示に従って、HBS−ET+緩衝液(10mMのHEPES pH7.4、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.05%w/vのTween20)で正規化された。サンプル緩衝液は、1mg/mlのCMD(カルボキシメチルデキストラン)を補充したシステム緩衝液であった。システムは、37℃で操作された。二重抗体捕捉システムは、センサー表面上に構築された。6500RUのmAb<M−IgG>Rが、全てのフローセル上でEDC/NHS化学を用いて、製造業者の指示に従って固定化された。センサーは、1Mのエタノールアミンを用いて不活性化された。フローセル1は、基準としての役割を果たし、抗TSH IgG1抗体により10μl/分で1分間捕捉された。フローセル2に、M−08−11は、10μl/分で1分間捕捉された。フローセル3には、マウス抗ヒトFCパン抗体が10μl/分で1分間捕捉され、その後、抗HER3抗体M−08−11(1)(90nM)又は抗HER3抗体MOR09823(150nM)抗体が、1分間、10μl/分で注入された。流速は60μl/分に設定された。TtSlyDcys−HER3(配列番号18)の溶液中の分析物は、5分間、0nM及び150nMの濃度で注入され、その解離は600秒モニターされた。センサーは、10mMのグリシン、pHが1.7緩衝液による3分間、10μl/分での1回の注入により完全に再生された。
【0358】
図17は、TtSlyDcys−Her3及び緩衝液の150nMでの結合シグナルを示している、センサーグラム重ね合わせプロットを示す。上記の重ね合わせプロットは、抗体M−08−11の、150nMのTtSlyDcys−Her3への結合を示している(1)。MOR09823抗体は、TtSlyDcas−Her3には結合しない(2)。全く抗体を含まない対照の測定はまた、TtSlyDcys−Her3(配列番号18)に対して全く結合を示さなかった。国際公開第2012/22814号に記載の抗HER3抗体MOR09823(2)は、TtSlyDcys−Her3とのいかなる結合相互作用も示さない。陽性対照抗体M−08−11(1)は、TtSlyDcas−Her3に対して有意な結合を示す。150nMのTtSlyDcys(HER−3のβヘアピンの挿入無し)を注入する場合、両方の抗体との相互作用は特定できなかった(データ非表示)。国際公開第2012/22814合に記載さっる抗HER3抗体MOR09823もまた、分析物としてHER3−ECDに対するその結合親和性に関して試験された。TtSlyDcys−Her3の代わりにHER3−ECDを使用するこの設定において、MOR09823は、KD(親和性)が0.3nMでHER3 ECDに対して明らかな結合シグナルを示した。従って、MOR09823はヒトHER3に結合するが、TtSlyDcys−HER3(配列番号18)内に含まれるような、ヒトHER3のβヘアピンには結合しない。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]