【0035】
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法は特定の方法に限定されることはないが、例えば、以下:
(a)RO水製造装置または蒸留水製造装置で製造された水を攪拌機に投入する工程;
(b)リン酸イオン、および、炭酸水素イオンを該攪拌機に投入する工程;
(c)工程(a)および工程(b)によって投入された混合物のpHを調整する工程;
(d)工程(c)でpHを調整した混合物にカルシウムイオン、および薬物を投入し、低温(例えば、、約10℃、約9℃、約8℃、約7℃、約6℃、約5℃、約4℃、約3℃、または、約2℃)かつ短時間(例えば、10分以下、9分以下、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、90秒以下、75秒以下、60秒以下、45秒以下、または、30秒以下)インキュベートする工程;
(e)工程(d)でインキュベート前またはインキュベート後の混合物に乳化油性物質を添加する工程;
(f)工程(e)で得られた混合物を、ポリプロピレンを塗布した内筒またはポリプロピレン筒を装着した内筒を有する遠心分離機にて遠心分離して、沈殿を得る工程;ならびに、
(g)工程(f)で得られた沈殿を、該筒の上部または底部より自動挿入したノズルにて、空気、蒸留水、生理食塩水、および増粘剤からなる群から選択される物質を噴射し回収する工程、
を包含する方法によって製造することが可能である。
(薬物)
本発明において使用する薬物としては、例えば、核酸医薬の有効成分である核酸分子、ならびに、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。核酸医薬としては、例えば、デコイ、アンチセンス、miRNA、siRNA、アプタマー、および、CpGオリゴが挙げられるがこれらに限定されない。
miRNA(マイクロRNA分子)は、一般に20〜25ヌクレオチド長である。miRNAは、pri−miRNAと呼ばれるより長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」)からプロセスされる。前駆体miRNAは、非タンパク質コード遺伝子から転写される。前駆体miRNAは、ステムループまたは折り畳み様構造を形成することを可能にする相補性の2つの領域を有し、核内でDroshaと呼ばれる酵素によって切断される。Droshaは、リボヌクレアーゼIII様ヌクレアーゼである。Droshaによって切断されることによって生成されたpre−miRNAは次に細胞質でDicerと呼ばれる酵素によってスプライシングされ、RISCに取り込まれた後にmiRNAとなる。miRNAは、典型的にはpri−miRNAのステムループ中のステムの一部である。
本発明においては、所望の薬理効果・生理学的効果に基づき、種々の核酸医薬(例えば、miRNA)を用いることができる。核酸医薬は、例えば、5’末端のリン酸基もしくはヒドロキシル基の置換;ホスホジエステル結合の他の結合様式(例えば、ホスホロチオエート結合)への変換;および/または糖修飾(例えば、2’O−Me修飾)などを含んでもよい。
使用可能なmiRNAとしては、限定されることはないが、例えば、
[miR−34a] 5’−uggcagugucuuagcugguugu−3’(配列番号1)、
[miR−148a] 5’−ucagugcacuacagaacuuugu−3’(配列番号2)、および、
[miR−200a] 5’−uaacacugucugguaacgaugu−3’(配列番号3)
が挙げられるがこれらに限定されない。本発明においては、前駆体miRNA、または、前駆体miRNAをコードする核酸もまた薬剤として使用可能である。
(内包率の改善)
本発明の製造方法を用いた場合、薬物の内包率(炭酸アパタイトへの内包率)は従来技術よりも格段に優れている。さらに薬物の内包率を改善する方法としては、例えば、内包反応を起こす溶液に電圧を印加して、例えば、負電荷を帯びた薬物(例えば、核酸)が正電荷を帯びたカルシウムイオンと接触する確率を増加する方法が挙げられる。または、正電荷を帯びた薬物(例えば、抗癌剤)が負電荷を帯びた炭酸アパタイトと接触する確率を増加する方法が挙げられる。ただし、薬物は電荷を帯びていなくても良い。これは、炭酸アパタイトやカルシウムイオンが電荷を帯びているため電圧印加によって溶液中を移動し、薬物と接触する確率が増加するためである。また、抗癌剤は負電荷を帯びていても良い。これは、正電荷を帯びたカルシウムイオンと接触する確率が増加するためである。
印加電圧は、100V〜1000Vであるが、これに限定されない。好ましくは、200〜600V、より好ましくは360〜460Vである。印加は、極短時間、好ましくは、0.6ms〜1.0msの1パルスを、3〜50回、約5秒毎に行うが、これに限定されない。電圧印加1回ごとに印加の方向(+極と−極の向き)を180度変えることで、(a)負電荷を帯びた薬物と正電荷を帯びたカルシウムイオンが、あるいは、(b)正電荷を帯びた薬物と負電荷を帯びた炭酸アパタイトが、偏らずに混合液中を移動できるようになり、接触の機会が格段に増え、結果として、内包率が改善される。
(処方)
本発明の水溶液を医薬組成物・薬学的組成物として使用する場合、組成物に含まれる担体としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物オイル、リポソーム)、およびその組み合わせを含むがそれらに限定されない、溶剤または分散媒質が挙げられる。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用によって;例えば、液体ポリオールまたは脂質などの担体における分散による必要とされる粒子サイズの維持によって;例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用によって;またはそのような方法の組み合わせによって維持され得る。多くの場合において、例えば糖、塩化ナトリウム、またはその組み合わせなどの等張剤を含むことが好ましいと思われる。
本発明の医薬組成物・薬学的組成物は、他の追加の抗癌剤と共に製剤化されていてもよく、また他の追加の抗癌剤と併用投与されてもよい。このような抗癌剤としては、限定されることはないが、例えば、シクロホスファミド水和物、イホスファミド、チオテパ、ブスルファラン、メルファラン、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダカルパジン、テモゾロミド等のアルキル化剤;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム水和物、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、タガフール、シタラビン、ゲムシタビン塩酸塩、フルダラビン燐酸エステル、ネララビン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム等の代謝拮抗剤;ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、プラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマシイン塩酸塩、ペプロマイシン塩酸塩、ジノスタチンスチマラマー、カリケアマイシン等の抗生物質;ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、パクリタキセル等の微小管阻害剤;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ファドロゾール塩酸塩水和物等のアロマターゼ阻害剤;シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤;イリノテカン塩酸塩水和物、ノギテカン塩酸塩、エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼ阻害剤;プレドニゾロン、デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド;サリドマイドおよびその誘導体であるレナリドマイド;プロテアーゼ阻害剤であるボルテゾミブ等が挙げられる。これら追加の抗癌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0037】
(実施例1:インキュベート温度の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行って、インキュベート温度による粒子径への影響を調べた。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaH
2PO
4・2H
2O)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl
2 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・4℃、8℃、12℃、16℃、20℃、24℃、28℃、32℃、または、37℃で30分間インキュベートした。
【0038】
このときの粒子径の分布(D50、メジアン径)を、堀場製作所のPARTICA LA960を用いて決定した。測定値は体積基準値である。その結果は、以下のとおりである。
【0039】
(表1)
種々のインキュベート温度を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径
温度 D50(メジアン径)
4℃ 0.381
8℃ 0.677
12℃ 0.754
16℃ 0.887
20℃ 2.537
24℃ 5.707
28℃ 11.042
32℃ 14.590
37℃ 16.017。
【0040】
低温(8℃)または高温(37℃)の場合のより詳細な粒度分布を
図1に示した。低温(8℃)の場合は、高温(37℃)の場合よりも小さい粒子径のピークが高かった。高温(37℃)サンプルは各試薬量を1/2とした。これらの結果から、10℃以下のインキュベート温度が適切であると理解できる。理論に拘束されることは望まないが、粒径が小さくなる原因は、より低温でインキュベートすると、粒子のブラウン運動が抑制され、その結果、粒子の凝集が抑制されるためであると考えられる。
【0041】
(実施例2:インキュベート時間の影響)
実施例1と同様の実験を行った。ただし、インキュベート温度を8℃にし、
図2に示される時間、インキュベートを行った。堀場製作所のPARTICA LA960を用いて測定した結果を
図2に示す。この結果から、同じ低温度であってもインキュベート時間が短くなるほど二次凝集体生成が抑制されると考えられる。また、8℃・1分のインキュベートで生成した炭酸アパタイト粒子をAFMで撮影した画像を
図3Aに示す。Zmの値は凡そ粒子の直径の値を示している。
図3Bは、各Zmを有する粒子の頻度を示す。
【0042】
理論に拘束されることは望まないが、例えば、インキュベート温度を8℃にした場合、炭酸アパタイトの生成反応は約1分以内に終了し、それ以降は凝集反応が促進されると考えられる。
【0043】
(実施例3:乳化油性物質添加の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行った。結果を
図4に示す。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaH
2PO
4・2H
2O)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl
2 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で1分間インキュベートした。
・乳化油性物質(イントラリポス)を濃度1%となるように加え、10分、60分、24時間放置した。
【0044】
24時間まで水溶液を放置しても全ての粒子が700nm以下であった。理論に拘束されることは望まないが、
図4に示される結果は、乳化油性物質の油性による凝集抑制効果であると考えられる。ただし、乳化油性物質は凍結により凝集抑制効果が減弱・消失するため、上清とともに乳化油性物質を破棄し、沈殿物に増粘剤を加えた後、凍結し、実施例4を施行した。
【0045】
(実施例4:増粘剤添加の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行った。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaH
2PO
4・2H
2O)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl
2 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で1分間インキュベートした。
・乳化油性物質(イントラリポス)を濃度1%となるように加えた。
・高速遠心13,000Gを3分間行い、上清とともに乳化油性物質を破棄し、沈殿に対して増粘剤(グリセリン40%+グルコース10%)でピペッティングを行い、回収した。
・ピペッティングして得られた炭酸アパタイトが分散した水溶液を50mlバイアル瓶に10mlずつ小分けして−80℃の冷凍庫で凍結した。
・バイアル瓶を凍結乾燥機に入れて、12時間程度凍結乾燥した。
・凍結乾燥後に得られたパウダー化炭酸アパタイトのバイアル瓶を−80℃冷凍庫に保存した。
【0046】
結果を
図5に示す。凍結乾燥溶解後の粒子は全て(少なくとも98%以上が)700nm以下であり、この粒子を数時間放置しても粒子径は変化しなかった。理論に拘束されることは望まないが、
図5に示される結果は、増粘剤による粘性増加により粒子のブラウン運動が抑制され、その結果、粒子の凝集が抑制されるためであると考えられる。
【0047】
(実施例5:核酸内包率における、低温・短時間反応および求電子剤添加の効果)
8℃・10分間のインキュベートにおける反応および求電子剤(アセトアミノフェン)の添加による核酸内包率を
図6に示す。実施例2と同様の条件を用いて実験を行った。(反応液115mlに対して核酸7mg使用)ただし、全粒子径をナノサイズに抑えながら薬物の内包率を高めるためにインキュベート時間を10分とした。この結果は、負電荷を帯びた薬物を内包する場合には、求電子剤添加により内包率が向上することを実証するものである。理論に拘束されることは望まないが、まず、低温・短時間により生成された超微細粒子が高率に薬物(例えば、核酸)を内包させ、未だ粒子に内包されず遊離状態の負電荷を帯びた薬物(例えば、核酸)を求電子剤により引き寄せ、粒子にほぼ全ての薬物(例えば、核酸)を内包させると考えられる。同様に、正電荷を帯びた薬物を内包する場合には、求核剤添加により内包率が向上することが理解できる。
(実施例6:核酸内包率における、電圧印加の効果)
使用した核酸量を40mgとした以外は、実施例5に記載の実験と同様の条件を用いて、低温・短時間インキュベートで「電圧印加なし」と「電圧印加あり」の場合を比較した。電圧印加の条件は、電圧360〜460Vで0.6〜1.0msのパルスを1回印加するステップを5秒毎に行い、これを合計50回繰り返した。結果を
図7に示す。40mgの核酸を使用した場合の結果のみを示すが、使用した核酸量をこれ以上、または以下とした場合でも同様に電圧印加による核酸内包率の顕著な改善が見られた。電圧は、2枚の並行な電極間に混合液(塩化カルシウム+核酸)を入れて電圧をかけることによって印加した。電極間では均一な層のように電流が流れる。理論に拘束されることは望まないが、電流が流れた際、負電荷を帯びた核酸はプラス電極側へ、正電荷を帯びたカルシウムイオンはマイナス電極側へ移動し、核酸とカルシウムイオンとの接触の機会が大幅に向上した結果、炭酸アパタイトの核酸内包率が向上したと考えられる。
電圧は複数回かけることがより好ましく、1回ごとに電流方向を逆にすることがより好ましいと考えられる。その理由は、核酸とカルシウムイオンが毎回逆方向へ移動するため、接触の機会がさらに増加すると考えられるからである。
【0048】
(実施例7:本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト肺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
本実施例では以下のとおりに核酸内包炭酸アパタイトによる細胞実験を行い、本発明の低温・短時間インキュベートと、従来技術の高温・長時間インキュベートとで抗腫瘍効果を比較した。
【0049】
(細胞)
本実施例ではA549細胞株(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株)を用いたが、これに限定されない。例えば、実施例8の結果から明らかなように、A549細胞株以外の細胞株、例えば、HCT116(ヒト結腸腺癌細胞株)、MIA PaCa−2(ヒト膵臓腺癌細胞株)、Hep−G2(ヒト肝癌細胞株)、OCUB−M(ヒト乳癌細胞株)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、SH−10−TC(ヒト胃癌細胞株)、NIH:OVCAR−3(ヒト卵巣癌細胞株)等を用いてもよい。6ウェルのプレートを使用して、培地は10%FBS−DMEMを用い、2.0×10
5個/ウェルの細胞を撒いた。(1)トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)。(2)miR−ネガティブコントロール(miR−NC)内包炭酸アパタイト。(3)核酸を内包していない炭酸アパタイト(8℃10分と37℃30分)。(4)核酸内包炭酸アパタイト(3.0μg/ウェル)(8℃10分と37℃30分)。各サンプル数はn=3とした。これらを24時間、48時間、72時間でそれぞれ計測した。
【0050】
(核酸)
本実施例ではmiR−34a(5’−uggcagugucuuagcugguugu−3’(配列番号1))を使用したが、これに限定されない。例えば、miR−148a(5’−ucagugcacuacagaacuuugu−3’(配列番号2))、miR−200a(5’−uaacacugucugguaacgaugu−3’(配列番号3))等を使用してもよい。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。
【0051】
(低温・短時間インキュベート)
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaH
2PO
4・2H
2O)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlのチューブ3本に20mlずつ分注した。
・1本目に対しては、miR−34aを30μg加えて軽く撹拌した。2本目に対してはmiR−NC(ネガティブコントロール)(株式会社RNAi 万能ネガコン)を30μg加えて軽く撹拌した。3本目に対しては何も加えなかった(ネガティブコントロール(NC))。
・20mlに対して1M CaCl
2 232μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で10分間インキュベートした。
・全てのサンプルについて、以下の高温・長時間インキュベート処理および共通プロトコール処理を行った。
【0052】
(高温・長時間インキュベート)
・室温の蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)0.37gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaH
2PO
4・2H
2O)90μL、1M塩化カルシウム(CaCl
2)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlのチューブ2本に20mlずつ分注した。
・1本目に対してはmiR−34aを30μg加えて軽く撹拌した。2本目に対しては何も加えなかった。
・20mlに対して1M CaCl
2 80μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・37℃ 30分間インキュベートした。
・次に下記共通プロトコールを行った。
【0053】
(共通プロトコール)
・上記チューブ計5本に対して高速遠心を4℃で13,000G・3分間行い、上清を破棄し、沈殿に対して20mlの10%FBS-DMEMでピペッティングを行い、回収し
た。
・1ウェルにつき2mlを撒いてトランスフェクションを行い、1ウェルへのmiR−34a投与量を3.0μgとした。
・37℃・5%CO
2濃度のインキュベーター内で培養した。
・24時間、48時間、72時間で細胞数をカウントした。測定にはCOUNTESS II FLを用いた。
【0054】
結果を
図8に示す。四角「□」は、トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)の結果を示す。バツ「×」は、miR−ネガティブコントロール(miRNA活性を持たない分子「miR−NC」)内包炭酸アパタイトを示す。インキュベートは8℃10分間行った。三角「△」は、37℃30分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34aを内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加した結果を示す。丸「●」は、8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34aを内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、24時間後、48時間後、および、72時間後に生細胞数を測定した結果を示す。各サンプル数はn=3とした。投入した核酸量は同じであるにもかかわらず、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった。理論に拘束されることは望まないが、低温・短時間インキュベートによって超微細粒子が多く生成されて核酸内包率が向上し、さらに粒子径が小さいことで細胞へのトランスフェクション効率も向上したためと考えられる。
図8には示していないが、核酸を内包していない炭酸アパタイトは、NCやmiR−NCなど内包炭酸アパタイトのネガティブコントロールの結果と差がなく、炭酸アパタイト自体には抗腫瘍効果はないと考えられる。
【0055】
(実施例8:本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
ヒト結腸腺癌細胞株であるHCT116細胞株に対して、実施例7と同様の実験を行い、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。具体的には、6ウェルのプレートを使用し、培地には10%FBSを添加したDMEMを用い、1.2×10
5個/ウェルの細胞を播種し、種々の核酸を内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。その結果を、
図9に示す。図中の記号は、
図8と同様である。
実施例7の結果と同様の結果が得られた。すなわち、投入した核酸量は同じであるにもかかわらず、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった。理論に拘束されることは望まないが、低温・短時間インキュベートによって超微細粒子が多く生成されて核酸内包率が向上し、さらに粒子径が小さいことで細胞へのトランスフェクション効率も向上したためと考えられる。
図9には示していないが、核酸を内包していない炭酸アパタイトについて種々の異なるインキュベート温度を用いて作製したネガティブコントロールについて実験を行ったところ、インキュベート温度に拘わらず、NCやmiR−NCなど内包炭酸アパタイトのネガティブコントロールの結果と差がなく、炭酸アパタイト自体には抗腫瘍効果はないと考えられる。
その他の癌細胞株を使用した抗腫瘍細胞実験でも同様に、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった(データ示さず)。
(実施例9:電圧が印加された核酸を使用した場合の、ヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
電圧が印加された核酸の抗腫瘍効果が変質していないかを確認するために、ヒト結腸腺癌細胞株であるHCT116細胞株に対して、実施例8に記載の実験と同様の実験を行い、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。核酸はmiR−34aを使用し、電圧の印加は核酸と塩化カルシウムの混合液に対して、360〜460V、50回を約5秒間隔で行った。2.0×10
5個/ウェルの細胞を播種し、電圧を印加して調製した核酸内包炭酸アパタイトと、電圧を印加することなく調製した核酸内包炭酸アパタイトそれぞれ3.0μgを各ウェルに添加し、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。その結果を、
図10に示す。四角「□」は、トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)の結果を示す。三角「△」は、電圧を印加することなく8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34a内包炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加した結果を示す。丸「●」は、電圧を印加して8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34a内包炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、24時間後、48時間後、および、72時間後に生細胞数を測定した結果を示す。
図10の結果より、電圧が印加された核酸から抗腫瘍効果は消失しておらず、電圧が印加されていない核酸と同じ機能を有していることが確認された。
(実施例10:担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験)
担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験を行った。実験手順の概略は、以下のとおりである。
(1.ヒト胃癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験)
(1.1.炭酸アパタイト溶液の調製)
炭酸アパタイト溶液を以下のようにして調製した。
・8℃に保冷した蒸留水によって100mlとした溶液中にNaHCO
3 0.74g、1M NaH
2PO
4・2H
2O 180μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液のpHを7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌した。
・上記の緩衝液0.644mlをチューブに分注し、各チューブに対して、miR−34a核酸28μgを添加し、次に、1M CaCl
2 7.47μlを添加した。
・混合物を8℃で10分間インキュベートし、13,000Gで3分間遠心し、上清を破棄した。
・各チューブの沈殿を生理食塩水0.7mlに溶解し、miR−148a 28μg/0.7mlの溶液とし、直ちに氷冷した。
・4μgの核酸を含む溶液0.1mlを、マウス一匹あたりの投与に使用する。
(1.2.担癌ヌードマウスの調製)
SH−10−TC(ヒト胃癌)細胞株を7週齢の雌性ヌードマウス(BALB/c・Slc・nu/nu)の背部皮下に移植した担癌モデルのヌードマウスを使用した。平均腫瘍体積が80mm
3を超えた日に、なるべく各群の間の平均腫瘍体積差が小さくなるように各群6匹のマウス(n=6)にて群分けを行い、炭酸アパタイトを、14日間、隔日で7回の投与を行い、各群の平均腫瘍体積の変化を記録した。
(1.3.結果)
移植日、ならびに、移植の4日後、8日後、11日後、および14日後の腫瘍体積を測定した結果(平均値±標準誤差)を
図11に示す。ダイヤ「◆」は、生理食塩水を尾静脈注射したマウスの結果を示す。白四角「□」は、ネガティブコントロールであるmiR−NCを尾静脈注射したマウスの結果を示す。黒四角「■」は、miR−148aを尾静脈注射したマウスの結果を示す。「※」は、miR−148a群がmiR−NC群に対してp<0.05で有意差がある場合を示す。
(2.ヒト結腸腺癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験)
上記ヒト結腸癌細胞株(HCT116)を用いた以外は、上記「1.ヒト胃癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験」と同様の実験を行った。核酸分子としては、miR−34aを用いた。「**」は、miR−34a群がmiR−NC群に対してp<0.01で有意差がある場合を示す。結果を
図12に示す。図中の記号は、
図11と同様である。ただし、黒四角「■」は、miR−34aを尾静脈注射したマウスの結果を示す。
(3.考察)
ヒト胃癌細胞株およびヒト結腸腺癌細胞株のいずれを用いたモデルマウスにおいても、核酸内包炭酸アパタイトを投与した群では平均腫瘍体積の顕著な増加抑制が確認された。
(実施例11:カニクイザルを用いた核酸内包炭酸アパタイトの静脈内投与試験)
核酸内包炭酸アパタイトの人体投与の想定量をカニクイザルの体重で換算し、1日1回×10日間連続投与することで安全性を確かめた。具体的には、ヒトの体重を50kgとしたときにmiRNAの1回投与量を10mgだと仮定し、例えばカニクイザルの体重が3kgの場合に1頭への投与量は1回0.6mgを通常量とした。本試験では1回に倍量(3kgならば1.2mg)を投与して安全性の確認を行った。1回投与量は、核酸(miR−34a)量として1.2mg(雄:0.24mg/kg、雌:0.40mg/kg)とした。
投与した核酸内包炭酸アパタイトの調製プロトコールは以下のとおりである。
・8℃に保冷した蒸留水によって27.6mlとした溶液中にNaHCO
3 0.204g、1M NaH
2PO
4・2H
2O 49.68μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液のpHを7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌した。
・miR−34a核酸1200μgを添加し、次に、1M CaCl
2 320.2μlを添加した。
・混合物を8℃で1分間インキュベートし、20%イントラリポス1.394mlを添加し(最終濃度1%)、さらに、8℃で10分間インキュベートし、4℃ 13,000Gで3分間遠心し、上清を破棄した。
・各チューブの沈殿に50%グリセリン1.656ml(濃度30%)と50%グルコース1.104ml(濃度20%)を添加して溶解し、miR−34a 1200μg/1.38mlの溶液とした。投与直前に生理食塩水で1.5倍希釈して使用した(グリセリン最終濃度20%、グルコース最終濃度13.3%)。
その結果、一般状態、体重、摂餌量、尿検査及び血液化学検査に核酸内包炭酸アパタイト投与による影響を示唆する変化はみられなかった。これによって、使用する核酸と炭酸アパタイトは、生体に対して毒性がなく、血管内塞栓などを生じさせないことが確認された。
その他、miR−34a・miR−148a・miR−200aをそれぞれ14日間で7回隔日投与する静脈内反復投与試験・オキサリプラチンとシスプラチンを使用した静脈内単回投与試験・他にも2つの実験系、全ての静脈内投与試験において、カニクイザルに何ら異常が見られないことを確認した。
(実施例12:臨床試験)
(1.臨床試験用の核酸内包炭酸アパタイトの調製)
・4℃に保冷した蒸留水(注射用)によって115mlとした溶液中にNaHCO
3 2.553g、1M NaH
2PO
4・2H
2O 621μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液をpH7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌し、28.75mlずつ4本のチューブに分注した。
・各チューブに3.75mgの核酸を添加し、次に、1M CaCl
2 1000.5μlを添加した。
・20%イントラリポス1.513mlを添加し(最終濃度1%)、4℃で10分間インキュベートし、4℃ 9100Gで5分間遠心し、上清を破棄した。
・4本のチューブの沈殿に50%グリセリン9.0ml(最終濃度30%)と50%グルコース6.0ml(最終濃度20%)を添加して溶解し、容量30mlのバイアル瓶に入れて凍結保存した(1バイアルあたり、溶液15ml、核酸15mg)。
(2.大腸癌・多発性肝転移の63歳男性を対象とする臨床試験)
薬物として、miR−148aを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてmiR−148a 15mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1日1回の投与を10日間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を30分間とした。1回のmiRNA投与量は、CT画像を基に患者の腫瘍総体積から決定した。
治療前と治療後のCTの結果を、
図13に示す。肝転移巣(丸で囲われた部分)の消失がCT検査により確認された。これによって、核酸内包炭酸アパタイトが網内系に捕捉・処理されることなく効果的に癌組織に送達されており、癌治療薬として非常に有効であることが確認された。また、副作用が無かったことから、核酸内包炭酸アパタイトは循環血中内で崩壊せずに、癌組織に送達され、癌細胞内に貪食された後に核酸を放出していることも確認された。
(3.膵臓癌の76歳男性を対象とする臨床試験)
薬物として、miR−34aを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてmiR−34a 15mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1日1回の投与を10日間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を30分間とした。
治療前と治療後のCTの結果を、
図14に示す。膵体部原発巣(丸で囲われた部分)の大幅な縮小がCT検査により確認された。膵臓癌は癌発見時には既に手術不可能となっている場合が多く、また非常に抗癌剤の効きにくい癌であるため、本試験の結果は、膵臓癌に対して核酸内包炭酸アパタイトが非常に有効な治療薬と成り得ることを示すものである。
(4.臨床試験用の抗癌剤内包炭酸アパタイトの調製)
薬物をオキサリプラチン64mgとした以外は、上記「1.臨床試験用の核酸内包炭酸アパタイトの調製」と同じ方法で、抗癌剤内包炭酸アパタイトを調製した。
(5.食道癌・多発性肺転移の55歳男性を対象とする臨床試験)
抗癌剤としてオキサリプラチンを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてオキサリプラチン 64mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1週間あたり1回の投与を8週間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を60分間とした。1回の抗癌剤投与量は、患者の体表面積から決定した。1回の炭酸アパタイト投与量は、炭酸アパタイトに含まれるカルシウム量が、カルチコール注射液(8.5%)の成人に対する上限量/日を超えない範囲で決定した。
治療前と治療後のCTの結果を、
図15に示す。肺転移巣(丸で囲われた部分)の消失がCT検査により確認された。この結果は、miRNAのような核酸のみならず、抗癌剤の投与においても本発明の炭酸アパタイトが際立って優れていることを実証するものである。
前記以外にも、多数の症例で効果を確認している。