特許第6302531号(P6302531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6302531生体投与を目的とした薬物導入剤および製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302531
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】生体投与を目的とした薬物導入剤および製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/16 20060101AFI20180319BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20180319BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20180319BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20180319BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   A61K9/16ZNA
   A61K47/02
   A61K47/14
   A61K9/19
   C01B25/32 P
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-217225(P2016-217225)
(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公開番号】特開2017-88601(P2017-88601A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2017年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219754(P2015-219754)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515311213
【氏名又は名称】医療法人 医潤会
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100143638
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 真久
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】中西 弘幸
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−105197(JP,A)
【文献】 特開平05−255095(JP,A)
【文献】 特表2003−500202(JP,A)
【文献】 特表2010−524859(JP,A)
【文献】 特表2006−509838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/16
A61K 9/19
A61K 47/02
A61K 47/14
C01B 25/32
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、該方法は、カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および薬物を含む混合物をインキュベートする工程を包含し、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、方法。
【請求項2】
請求項に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
【請求項3】
請求項またはに記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
【請求項4】
薬物を内包した炭酸アパタイトを分散した水溶液を調製する方法であって、以下:
(a)カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および薬物を含む混合物をインキュベートする工程であって、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、工程;
(b)インキュベート終了後の混合物を高速遠心する工程;ならびに、
(c)高速遠心して得られた沈殿を1.3mPa・s以上の粘度を有する水溶液中に分散
させる工程、
を包含する、方法。
【請求項5】
請求項に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
【請求項6】
請求項またはに記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)の少なくとも一部において、混合物に電圧が印加される、方法。
【請求項8】
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、以下:
(a)RO水製造装置または蒸留水製造装置で製造された水を攪拌機に投入する工程;
(b)リン酸イオン、および、炭酸水素イオンを該攪拌機に投入する工程;
(c)工程(a)および工程(b)によって投入された混合物のpHを6.0〜9.0に調整する工程;
(d)工程(c)でpHを調整した混合物にカルシウムイオン、および薬物を投入し、10℃以下で10分以内でインキュベートする工程;
(e)工程(d)でインキュベート前またはインキュベート後の混合物に乳化油性物質を添加する工程;
(f)工程(e)で得られた混合物を、ポリプロピレンを塗布した内筒またはポリプロピレン筒を装着した内筒を有する遠心分離機にて遠心分離して、沈殿を得る工程;ならびに、
(g)工程(f)で得られた沈殿を、該筒の上部または底部より自動挿入したノズルにて、空気、蒸留水、生理食塩水、および増粘剤からなる群から選択される物質を噴射し回収する工程、
を包含する方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法であって、さらに、
(h)工程(g)で回収した沈殿をボトル詰めし、凍結乾燥する工程、
を包含する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的物質を生体投与するための薬物導入剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸アパタイトは、水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))の水酸基(OH−)の一部を炭酸基(CO2−)にて置換した化学構造を有する。特許文献1には、物質を細胞内に導入するための担体として炭酸アパタイトを用いることが提案されている。具体的に特許文献1には、目的の物質及びリン酸カルシウム系材料から構成される複合体粒子をpH8.0からpH6.0に変化させた場合において、pH6.0に変化させてから所定時間内に、pH8.0において存在していた前記複合体粒子の少なくとも50%が溶解する細胞導入剤が開示されている。ただし、炭酸アパタイトは、一次粒子径は小さいが凝集性が強く、二次粒子径が大きいという問題があったため、EPR効果を得るには不十分であった。
【0003】
それを解消するための手段として、特許文献2には、リン酸とカルシウムを含む水溶液の炭酸量や反応雰囲気を制御する方法を開示している。しかしながら、これらの従来技術を踏まえても、炭酸アパタイトを物質の細胞内や生体内へと運ぶ担体として実用化するには、更なる改善が必要であった。
【0004】
炭酸アパタイトの粒径が大きい場合、生体投与した場合の安全性の問題が生じる。例えば、粒径が大きい炭酸アパタイトを動静脈投与した場合、血管内塞栓や肝臓および/または腎臓での蓄積が問題となる。また、粒径が小さすぎると、細胞(または組織)への送達効率が低減する。
【0005】
また、従来法の薬物の内包率は30%前後と低く、細胞導入剤としては満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2004/043495
【特許文献2】特開2005−75717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、適切な粒径(平均粒径および最大粒径)を有し、かつ、粒径の分散(σ)が小さく、薬物内包率が高い炭酸アパタイトの提供が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、低温および/または短時間の重合反応を用いる炭酸アパタイト製造方法を提供することによって、上記課題を解決した。
【0009】
例えば、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
炭酸アパタイトの集団が分散した水溶液であって、該炭酸アパタイトの集団の90%以上が700nm以下の粒径を有する、水溶液。
(項目2)
項目1に記載の水溶液であって、前記炭酸アパタイトの集団の95%以上が700nm以下の粒径を有する、水溶液。
(項目3)
項目1に記載の水溶液であって、前記炭酸アパタイトの集団の98%以上が700nm以下の粒径を有する、水溶液。
(項目4)
炭酸アパタイトの集団が分散した水溶液であって、該炭酸アパタイトの集団の平均粒径が30nm以下である、水溶液。
(項目5)
項目4に記載の水溶液であって、該炭酸アパタイトの集団の平均粒径が20nm以下である、水溶液。
(項目6)
乳化油性物質を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目7)
前記乳化油性物質が0.5%(w/w)以上含まれ、かつHLB値が3〜16である、項目6に記載の水溶液。
(項目8)
増粘剤を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目9)
粘度が1.3mPa・s以上である、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目10)
前記炭酸アパタイトが薬物を内包し、該薬物の内包率が90%以上である、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目11)
項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液を含む、薬物を細胞内に送達するための組成物。
(項目12)
前記薬物が薬剤である、項目11に記載の組成物。
(項目13)
求電子剤を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目14)
官能基にカルボニル基を持つ物質を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目15)
求核剤を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目16)
官能基にアミノ基を持つ物質を含む、項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目17)
前記炭酸アパタイトが薬物を内包し、該薬物の内包率が98%以上である、項目13〜16のいずれか一項に記載の水溶液。
(項目18)
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、該方法は、カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および薬物を含む混合物をインキュベートする工程を包含し、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、方法。
(項目19)
項目18に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
(項目20)
項目18または19に記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
(項目21)
薬物を内包した炭酸アパタイトを分散した水溶液を調製する方法であって、以下:
(a)カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および薬物を含む混合物をインキュベートする工程であって、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、工程;
(b)インキュベート終了後の混合物を高速遠心する工程;ならびに、
(c)高速遠心して得られた沈殿を1.3mPa・s以上の粘度を有する水溶液中に分散させる工程、
を包含する、方法。
(項目22)
項目21に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
(項目23)
項目21または22に記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
(項目24)
項目21に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)の少なくとも一部において、混合物に電圧が印加される、方法。
(項目25)
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、以下:
(a)RO水製造装置または蒸留水製造装置で製造された水を攪拌機に投入する工程;
(b)リン酸イオン、および、炭酸水素イオンを該攪拌機に投入する工程;
(c)工程(a)および工程(b)によって投入された混合物のpHを調整する工程;
(d)工程(c)でpHを調整した混合物にカルシウムイオン、および薬物を投入し、10℃以下で10分以内でインキュベートする工程;
(e)工程(d)でインキュベート前またはインキュベート後の混合物に乳化油性物質を添加する工程;
(f)工程(e)で得られた混合物を、ポリプロピレンを塗布した内筒またはポリプロピレン筒を装着した内筒を有する遠心分離機にて遠心分離して、沈殿を得る工程;ならびに、
(g)工程(f)で得られた沈殿を、該筒の上部または底部より自動挿入したノズルにて、空気、蒸留水、生理食塩水、および増粘剤からなる群から選択される物質を噴射し回収する工程、
を包含する方法。
(項目26)
項目25に記載の方法であって、さらに、
(h)工程(g)で回収した沈殿をボトル詰めし、凍結乾燥する工程、
を包含する方法。
(項目27)
項目1〜5のいずれか一項に記載の水溶液を含む癌の処置または予防のための薬学的組成物であって、ここで、前記炭酸アパタイトが薬物を内包する、薬学的組成物。
例えば、本発明はまた、以下を提供する:
(項目A1)
薬物を投与する方法であって、該薬物を内包する炭酸アパタイトを含有する組成物を投与する工程を包含し、ここで、該炭酸アパタイトの集団の90%以上が700nm以下の粒径を有する、方法。
(項目A2)
項目A1に記載の方法であって、前記炭酸アパタイトの集団の95%以上が700nm以下の粒径を有する、方法。
(項目A3)
項目A1に記載の方法であって、前記炭酸アパタイトの集団の98%以上が700nm以下の粒径を有する、方法。
(項目A4)
項目A1に記載の方法であって、前記炭酸アパタイトの集団の平均粒径が30nm以下である、方法。
(項目A5)
項目A1に記載の方法であって、該炭酸アパタイトの集団の平均粒径が20nm以下である、方法。
(項目A6)
前記組成物が乳化油性物質を含む、項目A1に記載の方法。
(項目A7)
前記組成物に前記乳化油性物質が0.5%(w/w)以上含まれ、かつ前記組成物のHLB値が3〜16である、項目A6に記載の方法。
(項目A8)
前記組成物が増粘剤を含む、項目A1に記載の方法。
(項目A9)
前記組成物の粘度が1.3mPa・s以上である、項目A1に記載の方法。
(項目A10)
前記組成物における前記薬物の内包率が90%以上である、項目A1に記載の方法。
(項目A11)
前記組成物が求電子剤を含む、項目A1に記載の方法。
(項目A12)
前記組成物が求核剤を含む、項目A1に記載の方法。
(項目A13)
前記薬物がmiRNAである、項目A1に記載の方法。
(項目A14)
癌を治療または予防する方法であって、薬物を内包する炭酸アパタイトを含有する組成物を投与する工程を包含し、ここで、該炭酸アパタイトの集団の90%以上が700nm以下の粒径を有する、方法。
(項目A15)
前記薬物がmiRNAである、項目A14に記載の方法。
(項目A16)
前記薬物が抗癌剤である、項目A14に記載の方法。
(項目A17)
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、該方法は、カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および、薬物を含む混合物をインキュベートする工程を包含し、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、方法。
(項目A18)
項目A17に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
(項目A19)
項目A17に記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
(項目A20)
薬物を内包した炭酸アパタイトを分散した水溶液を調製する方法であって、以下:
(a)カルシウムイオン、リン酸イオン、炭酸水素イオン、および薬物を含む混合物をインキュベートする工程であって、ここで、インキュベートする温度が10℃以下であり、かつ、インキュベート時間が10分以内である、工程;
(b)インキュベート終了後の混合物を高速遠心する工程;ならびに、
(c)高速遠心して得られた沈殿を1.3mPa・s以上の粘度を有する水溶液中に分散
させる工程、
を包含する、方法。
(項目A21)
項目A20に記載の方法であって、ここで、前記インキュベートする時間が1分以内である、方法。
(項目A22)
項目A20に記載の方法であって、ここで、前記混合物が乳化油性物質を含む、方法。
(項目A23)
項目A20に記載の方法であって、ここで、前記工程(a)の少なくとも一部において、混合物に電圧が印加される、方法。
(項目A24)
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法であって、以下:
(a)RO水製造装置または蒸留水製造装置で製造された水を攪拌機に投入する工程;
(b)リン酸イオン、および炭酸水素イオンを該攪拌機に投入する工程;
(c)工程(a)および工程(b)によって投入された混合物のpHを調整する工程;
(d)工程(c)でpHを調整した混合物にカルシウムイオン、および薬物を投入し、10℃以下で10分以内でインキュベートする工程;
(e)工程(d)でインキュベート前またはインキュベート後の混合物に乳化油性物質を添加する工程;
(f)工程(e)で得られた混合物を、ポリプロピレンを塗布した内筒またはポリプロピレン筒を装着した内筒を有する遠心分離機にて遠心分離して、沈殿を得る工程;ならびに、
(g)工程(f)で得られた沈殿を、該筒の上部または底部より自動挿入したノズルにて、空気、蒸留水、生理食塩水、および増粘剤からなる群から選択される物質を噴射し回収する工程、
を包含する方法。
(項目A25)
項目A24に記載の方法であって、さらに、
(h)工程(g)で回収した沈殿をボトル詰めし、凍結乾燥する工程、
を包含する方法。
【発明の効果】
【0010】
適切な粒径(平均粒径および最大粒径)を有し、かつ、粒径の分散(σ)が小さく、薬物内包率の高い炭酸アパタイトが提供される。本発明の炭酸アパタイトを用いることによって、細胞への薬物の送達を高効率で安全に行うことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、低温下インキュベート(8℃)または高温下インキュベート(37℃)を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径の比較を示すグラフである。
図2図2は、低温(8℃)における種々のインキュベート時間を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径の経時的頻度を示すグラフである。
図3A図3Aは8℃・1分間のインキュベートで生成した炭酸アパタイト粒子の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
図3B図3Bは、各Zmを有する粒子の頻度を示すグラフである。
図4図4は、乳化油性物質を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径の経時的頻度を示すグラフである。
図5図5は、増粘剤を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径の頻度を示すグラフである。
図6図6は、低温、短時間インキュベートにおける反応および求電子剤添加による核酸内包率を示すグラフである。
図7図7は、低温、短時間インキュベートにおける電圧印加による核酸内包率を示すグラフである。
図8図8は、本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト肺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験の結果を示すグラフである。
図9図9は、本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験の結果を示すグラフである。
図10図10は、電圧を印加して製造した核酸内包炭酸アパタイトを使用した場合の、ヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験の結果を示すグラフである。
図11図11は、ヒト胃癌細胞株を用いて作製した担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験の結果を示すグラフである。
図12図12は、ヒト結腸腺癌細胞株を用いて作製した担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験の結果を示すグラフである。
図13図13は、大腸癌・多発性肝転移の63歳男性を対象とする臨床試験の結果を示す写真である。
図14図14は、膵臓癌の76歳男性を対象とする臨床試験の結果を示す写真である。
図15図15は、食道癌・多発性肺転移の55歳男性を対象とする臨床試験の結果を示す写真である。
図16A図16Aは、当該発明の核酸内包炭酸アパタイトを製造するための製造装置(撹拌機)である。
図16B図16Bは、当該発明の核酸内包炭酸アパタイトを製造するための製造装置(反応装置)である。
図16C図16Cは、当該発明の核酸内包炭酸アパタイトを製造するための製造装置(反応装置)である。
図16D図16Dは、当該発明の核酸内包炭酸アパタイトを製造するための製造装置(遠心分離機)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。本明細書で使用する「%」は、そうでないと明記しない限り重量%(w/w%)を意味する。
【0013】
(用語の定義)
本発明で使用される「炭酸アパタイト」の組成自体は公知である。炭酸アパタイトは、水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))の水酸基(OH−)の一部を炭酸基(CO2−)にて置換した化学構造を有し、一般式Ca10−m(PO(CO1−nで表すことができる。ここで、Xは、炭酸アパタイトにおけるCaを部分的に置換しうる元素であればよく、例えば、Sr、Mn、希土類元素等を挙げることができる。mは、通常0以上1以下の正数であり、好ましくは0以上0.1以下であり、より好ましくは0以上0.01以下であり、更に好ましくは0以上0.001以下である。Yは、炭酸アパタイトにおけるCOを部分的に置換しうる単位であり、OH、F、Cl等を例示することができる。nは、通常0以上0.1以下の正数であり、好ましくは0以上0.01以下であり、より好ましくは0以上0.001以下であり、更に好ましくは0以上0.0001以下である。本発明の炭酸アパタイトは、代表的には、例えば、pH8.0からpH6.0に変化させた場合において、pH6.0に変化させてから所定時間内に、pH8.0において存在していた前記複合体粒子の少なくとも50%が溶解する特性を有することを特徴とする。
本明細書において使用する「炭酸アパタイト」は、「薬物」を内包し、薬学的組成物または医薬組成物を生成することができる。本発明の薬学的組成物または医薬組成物の調製において、当業者は、癌をはじめ種々の疾患の治療・予防に利用することができる。本発明において、治療および/または予防の目的である疾患および/または状態に適切な薬物を選択することができる。
【0014】
本明細書において使用される用語「粒径」とは、レーザー回折分析装置を用いて体積基準にて測定される値をいう。この測定では、別個の粒子として認識可能な独立した粒子の粒径を測定する。そのため、複数の粒子が凝集している場合は、それらの集合体を一つの粒子と判断する。
【0015】
本明細書において使用される用語「平均粒径」とは、測定部位を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した全ての粒子の粒径の平均値をいう。
【0016】
本明細書において使用される用語「乳化油性物質」とは、細胞への投与に適合性の任意の油性(疎水性)の成分または両親媒性の成分であって、乳化する能力を有する成分をいう。本発明で使用する乳化油性物質としては、例えば、精製大豆油を有効成分とするイントラリポス(登録商標)、イコサペント酸エチル、リン脂質PEG(リン脂質にPEGを結合した物質)が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。
【0017】
本明細書において使用される用語「増粘剤」とは、細胞への投与に適合性の任意の物質であって水溶液の粘性を増大する物質をいう。本発明で使用する増粘剤としては、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、グリセリン、フルクトース、キシリトール、トレハロースなどの糖類、ならびに、PEGが挙げられるがこれらに限定されない。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。
【0018】
本明細書において使用される用語「薬物」とは、細胞および/または組織への送達が意図される任意の物質をいう。薬物は、薬剤(例えば、薬理学的効果を奏する物質)であってもよい。本発明で使用する薬物としては、DNA、RNA、アンチセンスRNA、si
RNA、miRNA等の核酸(核酸医薬)、酵素、ペプチド又はタンパク質、各種ペプチド性ホルモン等のポリペプチド、フルオロウラシルなどの代謝拮抗剤、シクロホスファミドなどのアルキル化剤、シスプラチンなどの白金製剤、ベバシズマブなどの分子標的薬、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン)などの各種抗癌剤、各種抗生物質、ホルモン剤、ビタミン剤、抗アレルギー剤、中枢神経系疾患治療薬、循環器官疾患治療薬、呼吸器官系疾患治療薬、消化器官系疾患治療薬、泌尿生殖器官疾患治療薬等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらの複数を適宜組み合わせたものを使用してもよい。
【0019】
本明細書において使用される用語「薬物の内包率」とは、投入した薬物のうち炭酸アパタイトに担持される薬物の割合をいう。例えば、内包率は、
(炭酸アパタイトに担持される薬物の量)/(投入した薬物の全量)
によって算出される。好ましくは、本発明における薬物の内包率は、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上である。
【0020】
本明細書において使用される用語「求電子剤」とは、異なる化学種間で電子の授受を伴いながら化学反応を生成する反応において、電子を受け取る側の薬物をいう。本発明で使用する求電子剤としては、アセトアミノフェン、アセトサリチル酸、アスコルビン酸、ジアゼパム、などの官能基にカルボニル基を持つ物質が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。理論に拘束されることは望まないが、負電荷を帯びた薬物(例えば、核酸)を求電子剤により引き寄せ、粒子に内包させる。その中でも、官能基にカルボニル基を持つ物質の場合は、特にその効果が顕著であると考えられる。
【0021】
本明細書において使用される用語「求核剤」とは、異なる化学種間で電子の授受を伴いながら化学反応を生成する反応において、電子を供与する側の薬物をいう。本発明で使用する求核剤としては、グリシン、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの官能基にアミノ基を持つ物質が挙げられるがこれらに限定されない。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。理論に拘束されることは望まないが、正電荷を帯びた薬物(例えば、抗癌剤)を求核剤により引き寄せ、粒子に内包させる。その中でも、官能基にアミノ基を持つ物質の場合は、特にその効果が顕著であると考えられる。
【0022】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用される「カルシウムイオン」の供給源は、特に限定されることはないが、例えば、塩化カルシウムが挙げられるがこれに限定されない。
【0023】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用される「リン酸イオン」の供給源は、特に限定されることはないが、例えば、リン酸二水素ナトリウム二水和物が挙げられるがこれに限定されない。
【0024】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用される「炭酸水素イオン」の供給源は、特に限定されることはないが、例えば、炭酸水素ナトリウムが挙げられるがこれに限定されない。
【0025】
本発明の炭酸アパタイトの製造における、カルシウムイオン、リン酸イオン、および、炭酸水素イオンを含む混合物をインキュベートするpHとしては、例えば、pH6.0〜9.0、pH7.0〜8.0、約pH7.5が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用されるインキュベート温度としては、好ましくは、10℃以下、9℃以下、8℃以下、7℃以下、6℃以下、5℃以下、4℃以下、3℃以下、2℃以下が挙げられるがこれらに限定されない。ただし、混合物の凍結を避けることが好ましいので、例えば、1℃以上、2℃以上、3℃以上、4℃以上、5℃以上、6℃以上、7℃以上が使用される。
【0027】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用されるインキュベート温度を低温にすると、平均粒径が小さくなる。そのため、インキュベート温度を調整することによって生成される炭酸アパタイトの粒径を制御することが可能となる。理論に拘束されることは望まないが、より低温でインキュベートすると、粒子のブラウン運動が抑制され、その結果、粒子の凝集が抑制されるためであると考えられる。
【0028】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用されるインキュベート時間としては、好ましくは、10分以下、9分以下、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、90秒以下、75秒以下、60秒以下、45秒以下、30秒以下が挙げられるがこれらに限定されない。また、インキュベート時間は、好ましくは、10秒以上、15秒以上、20秒以上、25秒以上、30秒以上、35秒以上、40秒以上、45秒以上、50秒以上、55秒以上である。理論に拘束されることは望まないが、例えば、インキュベート温度を8℃にした場合、炭酸アパタイトの生成反応は約1分以内に終了し、それ以降は凝集反応が促進されると考えられる。
【0029】
本発明の炭酸アパタイトの製造において使用される反応(インキュベート)は、例えば、リン酸イオンおよび炭酸水素イオンを含む混合物にカルシウムイオンを添加することによって開始することができる。また、インキュベートはインキュベート混合物に増粘剤および/または乳化油性物質を添加することによって終了することができる。ただし、1分以内という短時間で生成反応がほぼ終了するため、最初から乳化油性物質または増粘剤を加えても構わない。
【0030】
本発明の炭酸アパタイトを含む水溶液中の乳化油性物質の濃度は、代表的には0.1%(w/w)以上、0.2%(w/w)以上、0.3%(w/w)以上、0.4%(w/w)以上、0.5%(w/w)以上、0.6%(w/w)以上、0.7%(w/w)以上、0.8%(w/w)以上、0.9%(w/w)以上、1.0%(w/w)以上であり、2.0%(w/w)以下、1.8%(w/w)以下、1.6%(w/w)以下、1.4%(w/w)以下、1.2%(w/w)以下、1.0%(w/w)以下、0.8%(w/w)以下、0.6%(w/w)以下である。乳化油性物質のHLB値は、代表的には3〜16、好ましくは6〜10である。理論に拘束されることは望まないが、化学反応であるがゆえ、粒子生成はほぼ瞬時に完了するため、反応前または反応後に乳化油性物質を投与することにより、超微細粒子生成の途中で反応を停止させ凝集を抑制すると考えられる。
【0031】
本発明の水溶液中に含まれる炭酸アパタイトの集団は、集団の90%以上が700nm以下の粒径を有する、集団の95%以上が700nm以下の粒径を有する、集団の98%以上が700nm以下の粒径を有する、集団の99%以上が700nm以下の粒径を有する、集団の90%以上が600nm以下の粒径を有する、集団の95%以上が600nm以下の粒径を有する、集団の98%以上が600nm以下の粒径を有する、集団の99%以上が600nm以下の粒径を有する、集団の90%以上が500nm以下の粒径を有する、集団の95%以上が500nmnm以下の粒径を有する、集団の98%以上が500nm以下の粒径を有する、集団の99%以上が500nm以下の粒径を有する、集団の90%以上が400nm以下の粒径を有する、集団の95%以上が400nm以下の粒径を有する、集団の98%以上が400nm以下の粒径を有する、あるいは、集団の99%以上が400nm以下の粒径を有する。
本発明の炭酸アパタイトの集団の特徴である上記に示した粒径を達成するためには、炭酸アパタイトを超音波処理することは不要である。超音波処理は炭酸アパタイト粒子を破壊するため炭酸アパタイトの粒径を小さくすることは可能であるが、粒子の破壊は均一に行われないため、結果として、炭酸アパタイト集団に含まれる各炭酸アパタイト粒子の粒径は大きく異なる。粒径のばらつきは、医薬組成物・薬学的組成物として使用する場合の大きなデメリットとなる。超音波処理を受けた炭酸アパタイトの粒子は凝集しやすい。そのため、超音波処理した炭酸アパタイトを医薬組成物・薬学的組成物として使用する場合には速やかに投与する必要があり、例えば、フィルター処理などによるサイズ分画をさらに行うことは困難である。これに対して、本発明の炭酸アパタイトの集団は超音波処理を受けていないため、数分以上または数十分以上放置しても凝集することがない。例えば、上記に示した本発明の炭酸アパタイトの集団の粒径の特徴は、例えば、本発明の炭酸アパタイト集団を室温(例えば、25℃)で、5分間、10分間、15分間、20分間、30分間、45分間、または、60分間放置した後でも維持される。
また、本発明の炭酸アパタイトは超音波処理を必要としないため室温で数分以上または数十分以上放置しても凝集することがない(溶液中で分散した状態を保つ)ことから、凝集を防止するため(溶液中で分散状態を保つため)のアルブミンの添加は不要である。したがって、本発明の炭酸アパタイトが分散した溶液は、好ましくは、アルブミンを含まない溶液または実質的に含まない溶液である。本発明によって作製される医薬組成物・薬学的組成物は、アルブミンを含まないことから、アルブミンに起因する疾患のリスクを回避することができる。
【0032】
本発明の水溶液中に含まれる炭酸アパタイトの集団の平均粒径は、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下、7nm以下、あるいは、5nm以下である。
【0033】
本発明の水溶液中に含まれる炭酸アパタイトの集団の粒径の分散「σ」は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下、さらに好ましくは0.01以下であるがこれらに限定されない。
【0034】
本発明の炭酸アパタイトの水溶液は、例えば、高速遠心して得られた炭酸アパタイト沈殿を水溶液中に分散させることによって調製可能である。分散させる水溶液の粘度としては、例えば、0.5mPa・s以上、0.6mPa・s以上、0.7mPa・s以上、0.8mPa・s以上、0.9mPa・s以上、1.0mPa・s以上、1.1mPa・s以上、1.2mPa・s以上、1.3mPa・s以上、1.4mPa・s以上、1.5mPa・s以上、1.6mPa・s以上、1.7mPa・s以上、1.8mPa・s以上、ならびに、5.0mPa・s以下、4.5mPa・s以下、4.0mPa・s以下、3.5mPa・s以下、3.0mPa・s以下、2.9mPa・s以下、2.8mPa・s以下、2.7mPa・s以下、2.6mPa・s以下、2.5mPa・s以下、2.4mPa・s以下、2.3mPa・s以下、2.2mPa・s以下、2.1mPa・s以下、2.0mPa・s以下が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明で使用する高速遠心としては、例えば、8,000G以上、9,000G以上、10,000G以上、11,000G以上、12,000G以上、13,000G以上、14,000G以上、例えば、8,000G、9,000G、10,000G、11,000G、12,000G、13,000G、および、14,000Gが挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
薬物を内包した炭酸アパタイトの製造方法は特定の方法に限定されることはないが、例えば、以下:
(a)RO水製造装置または蒸留水製造装置で製造された水を攪拌機に投入する工程;
(b)リン酸イオン、および、炭酸水素イオンを該攪拌機に投入する工程;
(c)工程(a)および工程(b)によって投入された混合物のpHを調整する工程;
(d)工程(c)でpHを調整した混合物にカルシウムイオン、および薬物を投入し、低温(例えば、、約10℃、約9℃、約8℃、約7℃、約6℃、約5℃、約4℃、約3℃、または、約2℃)かつ短時間(例えば、10分以下、9分以下、8分以下、7分以下、6分以下、5分以下、4分以下、3分以下、2分以下、90秒以下、75秒以下、60秒以下、45秒以下、または、30秒以下)インキュベートする工程;
(e)工程(d)でインキュベート前またはインキュベート後の混合物に乳化油性物質を添加する工程;
(f)工程(e)で得られた混合物を、ポリプロピレンを塗布した内筒またはポリプロピレン筒を装着した内筒を有する遠心分離機にて遠心分離して、沈殿を得る工程;ならびに、
(g)工程(f)で得られた沈殿を、該筒の上部または底部より自動挿入したノズルにて、空気、蒸留水、生理食塩水、および増粘剤からなる群から選択される物質を噴射し回収する工程、
を包含する方法によって製造することが可能である。
(薬物)
本発明において使用する薬物としては、例えば、核酸医薬の有効成分である核酸分子、ならびに、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。核酸医薬としては、例えば、デコイ、アンチセンス、miRNA、siRNA、アプタマー、および、CpGオリゴが挙げられるがこれらに限定されない。
miRNA(マイクロRNA分子)は、一般に20〜25ヌクレオチド長である。miRNAは、pri−miRNAと呼ばれるより長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」)からプロセスされる。前駆体miRNAは、非タンパク質コード遺伝子から転写される。前駆体miRNAは、ステムループまたは折り畳み様構造を形成することを可能にする相補性の2つの領域を有し、核内でDroshaと呼ばれる酵素によって切断される。Droshaは、リボヌクレアーゼIII様ヌクレアーゼである。Droshaによって切断されることによって生成されたpre−miRNAは次に細胞質でDicerと呼ばれる酵素によってスプライシングされ、RISCに取り込まれた後にmiRNAとなる。miRNAは、典型的にはpri−miRNAのステムループ中のステムの一部である。
本発明においては、所望の薬理効果・生理学的効果に基づき、種々の核酸医薬(例えば、miRNA)を用いることができる。核酸医薬は、例えば、5’末端のリン酸基もしくはヒドロキシル基の置換;ホスホジエステル結合の他の結合様式(例えば、ホスホロチオエート結合)への変換;および/または糖修飾(例えば、2’O−Me修飾)などを含んでもよい。
使用可能なmiRNAとしては、限定されることはないが、例えば、
[miR−34a] 5’−uggcagugucuuagcugguugu−3’(配列番号1)、
[miR−148a] 5’−ucagugcacuacagaacuuugu−3’(配列番号2)、および、
[miR−200a] 5’−uaacacugucugguaacgaugu−3’(配列番号3)
が挙げられるがこれらに限定されない。本発明においては、前駆体miRNA、または、前駆体miRNAをコードする核酸もまた薬剤として使用可能である。
(内包率の改善)
本発明の製造方法を用いた場合、薬物の内包率(炭酸アパタイトへの内包率)は従来技術よりも格段に優れている。さらに薬物の内包率を改善する方法としては、例えば、内包反応を起こす溶液に電圧を印加して、例えば、負電荷を帯びた薬物(例えば、核酸)が正電荷を帯びたカルシウムイオンと接触する確率を増加する方法が挙げられる。または、正電荷を帯びた薬物(例えば、抗癌剤)が負電荷を帯びた炭酸アパタイトと接触する確率を増加する方法が挙げられる。ただし、薬物は電荷を帯びていなくても良い。これは、炭酸アパタイトやカルシウムイオンが電荷を帯びているため電圧印加によって溶液中を移動し、薬物と接触する確率が増加するためである。また、抗癌剤は負電荷を帯びていても良い。これは、正電荷を帯びたカルシウムイオンと接触する確率が増加するためである。
印加電圧は、100V〜1000Vであるが、これに限定されない。好ましくは、200〜600V、より好ましくは360〜460Vである。印加は、極短時間、好ましくは、0.6ms〜1.0msの1パルスを、3〜50回、約5秒毎に行うが、これに限定されない。電圧印加1回ごとに印加の方向(+極と−極の向き)を180度変えることで、(a)負電荷を帯びた薬物と正電荷を帯びたカルシウムイオンが、あるいは、(b)正電荷を帯びた薬物と負電荷を帯びた炭酸アパタイトが、偏らずに混合液中を移動できるようになり、接触の機会が格段に増え、結果として、内包率が改善される。
(処方)
本発明の水溶液を医薬組成物・薬学的組成物として使用する場合、組成物に含まれる担体としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物オイル、リポソーム)、およびその組み合わせを含むがそれらに限定されない、溶剤または分散媒質が挙げられる。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用によって;例えば、液体ポリオールまたは脂質などの担体における分散による必要とされる粒子サイズの維持によって;例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用によって;またはそのような方法の組み合わせによって維持され得る。多くの場合において、例えば糖、塩化ナトリウム、またはその組み合わせなどの等張剤を含むことが好ましいと思われる。
本発明の医薬組成物・薬学的組成物は、他の追加の抗癌剤と共に製剤化されていてもよく、また他の追加の抗癌剤と併用投与されてもよい。このような抗癌剤としては、限定されることはないが、例えば、シクロホスファミド水和物、イホスファミド、チオテパ、ブスルファラン、メルファラン、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダカルパジン、テモゾロミド等のアルキル化剤;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム水和物、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、タガフール、シタラビン、ゲムシタビン塩酸塩、フルダラビン燐酸エステル、ネララビン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム等の代謝拮抗剤;ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、プラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマシイン塩酸塩、ペプロマイシン塩酸塩、ジノスタチンスチマラマー、カリケアマイシン等の抗生物質;ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、パクリタキセル等の微小管阻害剤;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、ファドロゾール塩酸塩水和物等のアロマターゼ阻害剤;シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤;イリノテカン塩酸塩水和物、ノギテカン塩酸塩、エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼ阻害剤;プレドニゾロン、デキサメサゾンなどの副腎皮質ステロイド;サリドマイドおよびその誘導体であるレナリドマイド;プロテアーゼ阻害剤であるボルテゾミブ等が挙げられる。これら追加の抗癌剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。なお、本発明の炭酸アパタイトの製造は特定の装置のみによって可能となるものではないが、例えば、図16に示す装置を利用することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1:インキュベート温度の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行って、インキュベート温度による粒子径への影響を調べた。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・4℃、8℃、12℃、16℃、20℃、24℃、28℃、32℃、または、37℃で30分間インキュベートした。
【0038】
このときの粒子径の分布(D50、メジアン径)を、堀場製作所のPARTICA LA960を用いて決定した。測定値は体積基準値である。その結果は、以下のとおりである。
【0039】
(表1)
種々のインキュベート温度を用いて製造した炭酸アパタイトの粒径
温度 D50(メジアン径)
4℃ 0.381
8℃ 0.677
12℃ 0.754
16℃ 0.887
20℃ 2.537
24℃ 5.707
28℃ 11.042
32℃ 14.590
37℃ 16.017。
【0040】
低温(8℃)または高温(37℃)の場合のより詳細な粒度分布を図1に示した。低温(8℃)の場合は、高温(37℃)の場合よりも小さい粒子径のピークが高かった。高温(37℃)サンプルは各試薬量を1/2とした。これらの結果から、10℃以下のインキュベート温度が適切であると理解できる。理論に拘束されることは望まないが、粒径が小さくなる原因は、より低温でインキュベートすると、粒子のブラウン運動が抑制され、その結果、粒子の凝集が抑制されるためであると考えられる。
【0041】
(実施例2:インキュベート時間の影響)
実施例1と同様の実験を行った。ただし、インキュベート温度を8℃にし、図2に示される時間、インキュベートを行った。堀場製作所のPARTICA LA960を用いて測定した結果を図2に示す。この結果から、同じ低温度であってもインキュベート時間が短くなるほど二次凝集体生成が抑制されると考えられる。また、8℃・1分のインキュベートで生成した炭酸アパタイト粒子をAFMで撮影した画像を図3Aに示す。Zmの値は凡そ粒子の直径の値を示している。図3Bは、各Zmを有する粒子の頻度を示す。
【0042】
理論に拘束されることは望まないが、例えば、インキュベート温度を8℃にした場合、炭酸アパタイトの生成反応は約1分以内に終了し、それ以降は凝集反応が促進されると考えられる。
【0043】
(実施例3:乳化油性物質添加の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行った。結果を図4に示す。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で1分間インキュベートした。
・乳化油性物質(イントラリポス)を濃度1%となるように加え、10分、60分、24時間放置した。
【0044】
24時間まで水溶液を放置しても全ての粒子が700nm以下であった。理論に拘束されることは望まないが、図4に示される結果は、乳化油性物質の油性による凝集抑制効果であると考えられる。ただし、乳化油性物質は凍結により凝集抑制効果が減弱・消失するため、上清とともに乳化油性物質を破棄し、沈殿物に増粘剤を加えた後、凍結し、実施例4を施行した。
【0045】
(実施例4:増粘剤添加の影響)
本実施例では、以下のとおりに炭酸アパタイトの製造を行った。
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlずつチューブ4本に分注した。
・チューブ1本に対して1M CaCl 290μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で1分間インキュベートした。
・乳化油性物質(イントラリポス)を濃度1%となるように加えた。
・高速遠心13,000Gを3分間行い、上清とともに乳化油性物質を破棄し、沈殿に対して増粘剤(グリセリン40%+グルコース10%)でピペッティングを行い、回収した。
・ピペッティングして得られた炭酸アパタイトが分散した水溶液を50mlバイアル瓶に10mlずつ小分けして−80℃の冷凍庫で凍結した。
・バイアル瓶を凍結乾燥機に入れて、12時間程度凍結乾燥した。
・凍結乾燥後に得られたパウダー化炭酸アパタイトのバイアル瓶を−80℃冷凍庫に保存した。
【0046】
結果を図5に示す。凍結乾燥溶解後の粒子は全て(少なくとも98%以上が)700nm以下であり、この粒子を数時間放置しても粒子径は変化しなかった。理論に拘束されることは望まないが、図5に示される結果は、増粘剤による粘性増加により粒子のブラウン運動が抑制され、その結果、粒子の凝集が抑制されるためであると考えられる。
【0047】
(実施例5:核酸内包率における、低温・短時間反応および求電子剤添加の効果)
8℃・10分間のインキュベートにおける反応および求電子剤(アセトアミノフェン)の添加による核酸内包率を図6に示す。実施例2と同様の条件を用いて実験を行った。(反応液115mlに対して核酸7mg使用)ただし、全粒子径をナノサイズに抑えながら薬物の内包率を高めるためにインキュベート時間を10分とした。この結果は、負電荷を帯びた薬物を内包する場合には、求電子剤添加により内包率が向上することを実証するものである。理論に拘束されることは望まないが、まず、低温・短時間により生成された超微細粒子が高率に薬物(例えば、核酸)を内包させ、未だ粒子に内包されず遊離状態の負電荷を帯びた薬物(例えば、核酸)を求電子剤により引き寄せ、粒子にほぼ全ての薬物(例えば、核酸)を内包させると考えられる。同様に、正電荷を帯びた薬物を内包する場合には、求核剤添加により内包率が向上することが理解できる。
(実施例6:核酸内包率における、電圧印加の効果)
使用した核酸量を40mgとした以外は、実施例5に記載の実験と同様の条件を用いて、低温・短時間インキュベートで「電圧印加なし」と「電圧印加あり」の場合を比較した。電圧印加の条件は、電圧360〜460Vで0.6〜1.0msのパルスを1回印加するステップを5秒毎に行い、これを合計50回繰り返した。結果を図7に示す。40mgの核酸を使用した場合の結果のみを示すが、使用した核酸量をこれ以上、または以下とした場合でも同様に電圧印加による核酸内包率の顕著な改善が見られた。電圧は、2枚の並行な電極間に混合液(塩化カルシウム+核酸)を入れて電圧をかけることによって印加した。電極間では均一な層のように電流が流れる。理論に拘束されることは望まないが、電流が流れた際、負電荷を帯びた核酸はプラス電極側へ、正電荷を帯びたカルシウムイオンはマイナス電極側へ移動し、核酸とカルシウムイオンとの接触の機会が大幅に向上した結果、炭酸アパタイトの核酸内包率が向上したと考えられる。
電圧は複数回かけることがより好ましく、1回ごとに電流方向を逆にすることがより好ましいと考えられる。その理由は、核酸とカルシウムイオンが毎回逆方向へ移動するため、接触の機会がさらに増加すると考えられるからである。
【0048】
(実施例7:本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト肺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
本実施例では以下のとおりに核酸内包炭酸アパタイトによる細胞実験を行い、本発明の低温・短時間インキュベートと、従来技術の高温・長時間インキュベートとで抗腫瘍効果を比較した。
【0049】
(細胞)
本実施例ではA549細胞株(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株)を用いたが、これに限定されない。例えば、実施例8の結果から明らかなように、A549細胞株以外の細胞株、例えば、HCT116(ヒト結腸腺癌細胞株)、MIA PaCa−2(ヒト膵臓腺癌細胞株)、Hep−G2(ヒト肝癌細胞株)、OCUB−M(ヒト乳癌細胞株)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、SH−10−TC(ヒト胃癌細胞株)、NIH:OVCAR−3(ヒト卵巣癌細胞株)等を用いてもよい。6ウェルのプレートを使用して、培地は10%FBS−DMEMを用い、2.0×10個/ウェルの細胞を撒いた。(1)トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)。(2)miR−ネガティブコントロール(miR−NC)内包炭酸アパタイト。(3)核酸を内包していない炭酸アパタイト(8℃10分と37℃30分)。(4)核酸内包炭酸アパタイト(3.0μg/ウェル)(8℃10分と37℃30分)。各サンプル数はn=3とした。これらを24時間、48時間、72時間でそれぞれ計測した。
【0050】
(核酸)
本実施例ではmiR−34a(5’−uggcagugucuuagcugguugu−3’(配列番号1))を使用したが、これに限定されない。例えば、miR−148a(5’−ucagugcacuacagaacuuugu−3’(配列番号2))、miR−200a(5’−uaacacugucugguaacgaugu−3’(配列番号3))等を使用してもよい。また、これらを適宜組み合わせたものを使用してもよい。
【0051】
(低温・短時間インキュベート)
・8℃に保冷した蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO)0.74gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlのチューブ3本に20mlずつ分注した。
・1本目に対しては、miR−34aを30μg加えて軽く撹拌した。2本目に対してはmiR−NC(ネガティブコントロール)(株式会社RNAi 万能ネガコン)を30μg加えて軽く撹拌した。3本目に対しては何も加えなかった(ネガティブコントロール(NC))。
・20mlに対して1M CaCl 232μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・8℃で10分間インキュベートした。
・全てのサンプルについて、以下の高温・長時間インキュベート処理および共通プロトコール処理を行った。
【0052】
(高温・長時間インキュベート)
・室温の蒸留水90mlに炭酸水素ナトリウム(NaHCO)0.37gおよび1Mリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)90μL、1M塩化カルシウム(CaCl)180μLを添加し、さらに、全量100mlになるように蒸留水を加えた。
・水溶液のpHを7.5に調整した(HClまたはNaOHを用いた)。
・0.22μmフィルターに通して25mlのチューブ2本に20mlずつ分注した。
・1本目に対してはmiR−34aを30μg加えて軽く撹拌した。2本目に対しては何も加えなかった。
・20mlに対して1M CaCl 80μLを加え、VOLTEXで撹拌した(5〜10秒程度)。
・37℃ 30分間インキュベートした。
・次に下記共通プロトコールを行った。
【0053】
(共通プロトコール)
・上記チューブ計5本に対して高速遠心を4℃で13,000G・3分間行い、上清を破棄し、沈殿に対して20mlの10%FBS-DMEMでピペッティングを行い、回収し
た。
・1ウェルにつき2mlを撒いてトランスフェクションを行い、1ウェルへのmiR−34a投与量を3.0μgとした。
・37℃・5%CO濃度のインキュベーター内で培養した。
・24時間、48時間、72時間で細胞数をカウントした。測定にはCOUNTESS II FLを用いた。
【0054】
結果を図8に示す。四角「□」は、トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)の結果を示す。バツ「×」は、miR−ネガティブコントロール(miRNA活性を持たない分子「miR−NC」)内包炭酸アパタイトを示す。インキュベートは8℃10分間行った。三角「△」は、37℃30分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34aを内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加した結果を示す。丸「●」は、8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34aを内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、24時間後、48時間後、および、72時間後に生細胞数を測定した結果を示す。各サンプル数はn=3とした。投入した核酸量は同じであるにもかかわらず、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった。理論に拘束されることは望まないが、低温・短時間インキュベートによって超微細粒子が多く生成されて核酸内包率が向上し、さらに粒子径が小さいことで細胞へのトランスフェクション効率も向上したためと考えられる。図8には示していないが、核酸を内包していない炭酸アパタイトは、NCやmiR−NCなど内包炭酸アパタイトのネガティブコントロールの結果と差がなく、炭酸アパタイト自体には抗腫瘍効果はないと考えられる。
【0055】
(実施例8:本発明の核酸内包炭酸アパタイトによるヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
ヒト結腸腺癌細胞株であるHCT116細胞株に対して、実施例7と同様の実験を行い、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。具体的には、6ウェルのプレートを使用し、培地には10%FBSを添加したDMEMを用い、1.2×10個/ウェルの細胞を播種し、種々の核酸を内包する炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。その結果を、図9に示す。図中の記号は、図8と同様である。
実施例7の結果と同様の結果が得られた。すなわち、投入した核酸量は同じであるにもかかわらず、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった。理論に拘束されることは望まないが、低温・短時間インキュベートによって超微細粒子が多く生成されて核酸内包率が向上し、さらに粒子径が小さいことで細胞へのトランスフェクション効率も向上したためと考えられる。図9には示していないが、核酸を内包していない炭酸アパタイトについて種々の異なるインキュベート温度を用いて作製したネガティブコントロールについて実験を行ったところ、インキュベート温度に拘わらず、NCやmiR−NCなど内包炭酸アパタイトのネガティブコントロールの結果と差がなく、炭酸アパタイト自体には抗腫瘍効果はないと考えられる。
その他の癌細胞株を使用した抗腫瘍細胞実験でも同様に、低温・短時間インキュベートでは抗腫瘍効果が顕著であった(データ示さず)。
(実施例9:電圧が印加された核酸を使用した場合の、ヒト結腸腺癌細胞株を用いた抗腫瘍細胞実験)
電圧が印加された核酸の抗腫瘍効果が変質していないかを確認するために、ヒト結腸腺癌細胞株であるHCT116細胞株に対して、実施例8に記載の実験と同様の実験を行い、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。核酸はmiR−34aを使用し、電圧の印加は核酸と塩化カルシウムの混合液に対して、360〜460V、50回を約5秒間隔で行った。2.0×10個/ウェルの細胞を播種し、電圧を印加して調製した核酸内包炭酸アパタイトと、電圧を印加することなく調製した核酸内包炭酸アパタイトそれぞれ3.0μgを各ウェルに添加し、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を試験した。その結果を、図10に示す。四角「□」は、トランスフェクションを行わないネガティブコントロール(NC)の結果を示す。三角「△」は、電圧を印加することなく8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34a内包炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加した結果を示す。丸「●」は、電圧を印加して8℃10分のインキュベートをすることによって製造した核酸miR−34a内包炭酸アパタイト3.0μgを各ウェルに添加し、24時間後、48時間後、および、72時間後に生細胞数を測定した結果を示す。
図10の結果より、電圧が印加された核酸から抗腫瘍効果は消失しておらず、電圧が印加されていない核酸と同じ機能を有していることが確認された。
(実施例10:担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験)
担癌ヌードマウスを用いた抗腫瘍効果実験を行った。実験手順の概略は、以下のとおりである。
(1.ヒト胃癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験)
(1.1.炭酸アパタイト溶液の調製)
炭酸アパタイト溶液を以下のようにして調製した。
・8℃に保冷した蒸留水によって100mlとした溶液中にNaHCO 0.74g、1M NaHPO・2HO 180μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液のpHを7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌した。
・上記の緩衝液0.644mlをチューブに分注し、各チューブに対して、miR−34a核酸28μgを添加し、次に、1M CaCl 7.47μlを添加した。
・混合物を8℃で10分間インキュベートし、13,000Gで3分間遠心し、上清を破棄した。
・各チューブの沈殿を生理食塩水0.7mlに溶解し、miR−148a 28μg/0.7mlの溶液とし、直ちに氷冷した。
・4μgの核酸を含む溶液0.1mlを、マウス一匹あたりの投与に使用する。
(1.2.担癌ヌードマウスの調製)
SH−10−TC(ヒト胃癌)細胞株を7週齢の雌性ヌードマウス(BALB/c・Slc・nu/nu)の背部皮下に移植した担癌モデルのヌードマウスを使用した。平均腫瘍体積が80mmを超えた日に、なるべく各群の間の平均腫瘍体積差が小さくなるように各群6匹のマウス(n=6)にて群分けを行い、炭酸アパタイトを、14日間、隔日で7回の投与を行い、各群の平均腫瘍体積の変化を記録した。
(1.3.結果)
移植日、ならびに、移植の4日後、8日後、11日後、および14日後の腫瘍体積を測定した結果(平均値±標準誤差)を図11に示す。ダイヤ「◆」は、生理食塩水を尾静脈注射したマウスの結果を示す。白四角「□」は、ネガティブコントロールであるmiR−NCを尾静脈注射したマウスの結果を示す。黒四角「■」は、miR−148aを尾静脈注射したマウスの結果を示す。「※」は、miR−148a群がmiR−NC群に対してp<0.05で有意差がある場合を示す。
(2.ヒト結腸腺癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験)
上記ヒト結腸癌細胞株(HCT116)を用いた以外は、上記「1.ヒト胃癌細胞株を用いて作製したモデルマウスでの実験」と同様の実験を行った。核酸分子としては、miR−34aを用いた。「**」は、miR−34a群がmiR−NC群に対してp<0.01で有意差がある場合を示す。結果を図12に示す。図中の記号は、図11と同様である。ただし、黒四角「■」は、miR−34aを尾静脈注射したマウスの結果を示す。
(3.考察)
ヒト胃癌細胞株およびヒト結腸腺癌細胞株のいずれを用いたモデルマウスにおいても、核酸内包炭酸アパタイトを投与した群では平均腫瘍体積の顕著な増加抑制が確認された。
(実施例11:カニクイザルを用いた核酸内包炭酸アパタイトの静脈内投与試験)
核酸内包炭酸アパタイトの人体投与の想定量をカニクイザルの体重で換算し、1日1回×10日間連続投与することで安全性を確かめた。具体的には、ヒトの体重を50kgとしたときにmiRNAの1回投与量を10mgだと仮定し、例えばカニクイザルの体重が3kgの場合に1頭への投与量は1回0.6mgを通常量とした。本試験では1回に倍量(3kgならば1.2mg)を投与して安全性の確認を行った。1回投与量は、核酸(miR−34a)量として1.2mg(雄:0.24mg/kg、雌:0.40mg/kg)とした。
投与した核酸内包炭酸アパタイトの調製プロトコールは以下のとおりである。
・8℃に保冷した蒸留水によって27.6mlとした溶液中にNaHCO 0.204g、1M NaHPO・2HO 49.68μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液のpHを7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌した。
・miR−34a核酸1200μgを添加し、次に、1M CaCl 320.2μlを添加した。
・混合物を8℃で1分間インキュベートし、20%イントラリポス1.394mlを添加し(最終濃度1%)、さらに、8℃で10分間インキュベートし、4℃ 13,000Gで3分間遠心し、上清を破棄した。
・各チューブの沈殿に50%グリセリン1.656ml(濃度30%)と50%グルコース1.104ml(濃度20%)を添加して溶解し、miR−34a 1200μg/1.38mlの溶液とした。投与直前に生理食塩水で1.5倍希釈して使用した(グリセリン最終濃度20%、グルコース最終濃度13.3%)。
その結果、一般状態、体重、摂餌量、尿検査及び血液化学検査に核酸内包炭酸アパタイト投与による影響を示唆する変化はみられなかった。これによって、使用する核酸と炭酸アパタイトは、生体に対して毒性がなく、血管内塞栓などを生じさせないことが確認された。
その他、miR−34a・miR−148a・miR−200aをそれぞれ14日間で7回隔日投与する静脈内反復投与試験・オキサリプラチンとシスプラチンを使用した静脈内単回投与試験・他にも2つの実験系、全ての静脈内投与試験において、カニクイザルに何ら異常が見られないことを確認した。
(実施例12:臨床試験)
(1.臨床試験用の核酸内包炭酸アパタイトの調製)
・4℃に保冷した蒸留水(注射用)によって115mlとした溶液中にNaHCO 2.553g、1M NaHPO・2HO 621μlを含む緩衝液を調製し、この緩衝液をpH7.5に調整した後、0.22μmフィルターでろ過滅菌し、28.75mlずつ4本のチューブに分注した。
・各チューブに3.75mgの核酸を添加し、次に、1M CaCl 1000.5μlを添加した。
・20%イントラリポス1.513mlを添加し(最終濃度1%)、4℃で10分間インキュベートし、4℃ 9100Gで5分間遠心し、上清を破棄した。
・4本のチューブの沈殿に50%グリセリン9.0ml(最終濃度30%)と50%グルコース6.0ml(最終濃度20%)を添加して溶解し、容量30mlのバイアル瓶に入れて凍結保存した(1バイアルあたり、溶液15ml、核酸15mg)。
(2.大腸癌・多発性肝転移の63歳男性を対象とする臨床試験)
薬物として、miR−148aを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてmiR−148a 15mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1日1回の投与を10日間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を30分間とした。1回のmiRNA投与量は、CT画像を基に患者の腫瘍総体積から決定した。
治療前と治療後のCTの結果を、図13に示す。肝転移巣(丸で囲われた部分)の消失がCT検査により確認された。これによって、核酸内包炭酸アパタイトが網内系に捕捉・処理されることなく効果的に癌組織に送達されており、癌治療薬として非常に有効であることが確認された。また、副作用が無かったことから、核酸内包炭酸アパタイトは循環血中内で崩壊せずに、癌組織に送達され、癌細胞内に貪食された後に核酸を放出していることも確認された。
(3.膵臓癌の76歳男性を対象とする臨床試験)
薬物として、miR−34aを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてmiR−34a 15mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1日1回の投与を10日間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を30分間とした。
治療前と治療後のCTの結果を、図14に示す。膵体部原発巣(丸で囲われた部分)の大幅な縮小がCT検査により確認された。膵臓癌は癌発見時には既に手術不可能となっている場合が多く、また非常に抗癌剤の効きにくい癌であるため、本試験の結果は、膵臓癌に対して核酸内包炭酸アパタイトが非常に有効な治療薬と成り得ることを示すものである。
(4.臨床試験用の抗癌剤内包炭酸アパタイトの調製)
薬物をオキサリプラチン64mgとした以外は、上記「1.臨床試験用の核酸内包炭酸アパタイトの調製」と同じ方法で、抗癌剤内包炭酸アパタイトを調製した。
(5.食道癌・多発性肺転移の55歳男性を対象とする臨床試験)
抗癌剤としてオキサリプラチンを内包する炭酸アパタイトを点滴静注にてオキサリプラチン 64mg/日を投与した(炭酸アパタイト溶液15ml+生理食塩水100ml)。1週間あたり1回の投与を8週間連続した投与を1クールとした。一回の投与時間を60分間とした。1回の抗癌剤投与量は、患者の体表面積から決定した。1回の炭酸アパタイト投与量は、炭酸アパタイトに含まれるカルシウム量が、カルチコール注射液(8.5%)の成人に対する上限量/日を超えない範囲で決定した。
治療前と治療後のCTの結果を、図15に示す。肺転移巣(丸で囲われた部分)の消失がCT検査により確認された。この結果は、miRNAのような核酸のみならず、抗癌剤の投与においても本発明の炭酸アパタイトが際立って優れていることを実証するものである。
前記以外にも、多数の症例で効果を確認している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明における炭酸アパタイトの製造方法においては、インキュベート温度およびインキュベート時間によって、精密な粒径(平均粒径、粒径の分散および最大粒径)が制御できる。その結果、細胞および/または組織への薬物の送達に適切な炭酸アパタイトの製造が可能となる。本願発明により、薬物高内包率で、最大粒径700nm以下、平均粒径30nm以下の全ナノサイズの炭酸アパタイトを用いて、末期癌患者の残存癌に応じた、選択的治療遺伝子や抗癌剤などの集中的なデリバリーが行われ、身体に負担がなく、高い抗腫瘍効果を有する治療が飛躍的に発展すると考えられる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]