特許第6302607号(P6302607)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6302607
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   G01R15/20 B
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-566873(P2017-566873)
(86)(22)【出願日】2017年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2017029624
【審査請求日】2018年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2016-161122(P2016-161122)
(32)【優先日】2016年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000242633
【氏名又は名称】北陸電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】中溝 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】林 雅人
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−85381(JP,A)
【文献】 特開2013−003127(JP,A)
【文献】 特開2013−221812(JP,A)
【文献】 特開平11−251167(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0073235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つ電流が流れる導体の前記電流が流れる方向に延びる仮想中心線の回りを前記一対の側壁部と前記連結部により囲むように配置された概ねU字状のシールド本体と、
対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つ前記シールド本体が嵌合される嵌合凹部を備えた電気絶縁材料からなる概ねU字状のシールドケースと、
前記導体に電流が流れたときに発生する磁界または磁束を検知して電気信号に変換する磁電変換素子をハウジングの内部に収納した素子収納ユニットを備え、
前記シールドケースの対向する前記一対の側壁部にそれぞれ設けられた一対の係合部と前記素子収納ユニットの前記ハウジングに設けられて前記一対の係合部と係合する一対の被係合部とが係合した状態において、前記導体が前記シールド本体と前記素子収納ユニットとの間に位置している電流センサにおいて、
電気絶縁性と可撓性を有し、前記シールドケースの前記電流が流れる方向の両側に配置され、クリップ構造により前記ハウジングの一部及び前記導体の一部を挟むように前記ハウジングに対して装着されて、前記導体と前記磁電変換素子との距離を一定に保つ一対のクリップ部材を備えていることを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
前記ハウジングの中心を通り、前記仮想中心線と平行に延びる別の仮想中心線を囲む前記ハウジングの外周面は、前記導体と対向する第1の側面と、該第1の側面と対向する第2の側面と、前記第1の側面と前記第2の側面をそれぞれ連結し互いに対向する第3及び第4の側面とを備えており、
前記一対のクリップ部材は、それぞれ前記ハウジングの前記第1の側面と前記第2の側面と接触する第1の一対の挟持部及び前記第3の側面と前記第4の側面と接触する第2の一対の挟持部を備えたハウジング挟持部分と、前記ハウジング挟持部分と連続して設けられて前記導体の一部を挟持する一対の導体挟持部分が一体に形成された構造を有している請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記一対のクリップ部材が前記電流が流れる方向に移動することを阻止する複数のストッパが一体に形成されている請求項1または2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記複数のストッパは、前記一対のクリップ部材の間に位置して該一対のクリップ部材の内側端面と接触するように前記ハウジングの前記第2の側面に設けられた第1のストッパと、前記第3及び第4の側面に設けられて前記一対のクリップ部材の一方のクリップ部材の外側端面と接触する第2及び第3のストッパ並びに前記一対のクリップ部材の他方のクリップ部材の外側端面と接触する第4及び第5のストッパとからなる請求項3に記載の電流センサ。
【請求項5】
前記第1のストッパは、前記第2の側面が突出して形成された突出面からなり、
前記シールドケースの前記一対の側壁部に設けられた前記一対の係合部は、互いに向き合う方向に延びて前記突出面と接触する接触面を備えたフック形状を有している請求項4に記載の電流センサ。
【請求項6】
前記クリップ部材の前記一対の導体挟持部分の一方の前記導体挟持部分の前記導体と接触する面は、前記導体の外面に沿い且つ前記導体の外面と前記導体の周方向に離れた2箇所で接触するように湾曲しており、前記一対の導体挟持部分の他方の前記導体挟持部分の前記導体と接触する面は平面である請求項2に記載の電流センサ。
【請求項7】
前記クリップ部材の前記第2の一対の挟持部のうち前記他方の導体挟持部分側に位置する一方の前記挟持部は、前記他方の導体挟持部分から離れるに従って厚みが増加する形状を有している請求項6に記載の電流センサ。
【請求項8】
前記ハウジングの前記別の仮想中心線が延びる方向の端部には、前記磁電変換素子を含む回路のためのコネクタが設けられている請求項2に記載の電流センサ。
【請求項9】
前記一対のクリップ部材は、前記仮想中心線と直交し且つ前記シールドケースの中心を通る仮想面に対して面対称になる同じ形状を有している請求項1に記載の電流センサ。
【請求項10】
前記一対のクリップ部材の前記一方の導体挟持部分は、前記シールド本体の内部に一部が嵌合される嵌合部分を有しており、
前記仮想中心線と直交し且つ前記シールドケースの中心を通る仮想面に対して、前記シールドケースは非面対称となる形状を有しており、
前記一対のクリップ部材の前記ハウジング挟持部分は、前記嵌合部分が前記シールド本体内に嵌合している状態において、前記シールドケースと当接する当接部分を有しており、且つ前記仮想面に対して非面対称になる形状を有している請求項2に記載の電流センサ。
【請求項11】
前記磁電変換素子は、前記導体の周囲を囲むように発生する磁束による磁界の強さに比例して抵抗値が変化するAMR素子である請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁電変換素子を用いた電流センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第5944720号公報(特許文献1)の図1乃至図4には、対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つ電流が流れる導体(変形可能な撚り線)9の電流が流れる方向に延びる仮想中心線の回りを一対の側壁部と前記連結部により囲むように配置された概ねU字状のシールド本体45と、対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つシールド本体が嵌合される嵌合凹部を備えた電気絶縁材料からなる概ねU字状のシールドケース47と、導体9に電流が流れたときに発生する磁界または磁束を検知して電気信号に変換する磁電変換素子11をハウジング27の内部に収納した素子収納ユニットを備えた従来の電流センサが開示されている。この電流センサでは、シールドケース47の対向する一対の側壁部にそれぞれ設けられた一対の係合部55と素子収納ユニットのハウジング27に設けられて一対の係合部55と係合する一対の被係合部(貫通孔)49とが係合した状態において、導体9がシールド本体45と素子収納ユニットとの間に位置している。そしてこの従来の電流センサでは導体9を圧縮変形させた状態で、カバー23とシールドケース47に設けた一対の凹部65との間で挟んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5944720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の構造の電流センサでは、導体と磁電変換素子との間の距離を一定に維持するために、シールドケースとハウジングの構造を複雑なものとせざるを得ず、またシールドケースとハウジングの寸法精度を高くする必要があった。さらに導体の径寸法が異なると、シールドケースとハウジングの寸法設計をやり直さなければならず、汎用性に欠ける問題があった。
【0005】
本発明の目的は、簡単な構造で導体と磁電変換素子との間の距離を一定に保つことができ、しかも導体の径が異なっても対応できる汎用性の高い電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電流センサは、シールド本体と、シールドケースと、素子収納ユニットと、を備えている。シールド本体は、対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つ電流が流れる導体の電流が流れる方向に延びる仮想中心線の回りを一対の側壁部と連結部により囲むように配置された概ねU字状を呈している。本願明細書において、「導体」とは絶縁被覆された導体と絶縁被覆されていない導体の両方を含むものである。そしてシールドケースは、対向する一対の側壁部と該一対の側壁部を連結する連結部を備え且つシールド本体が嵌合される嵌合凹部を備えた電気絶縁材料からなる概ねU字状を呈している。素子収納ユニットは、導体に電流が流れたときに発生する磁界または磁束を検知して電気信号に変換する磁電変換素子をハウジングの内部に収納した構造を有している。そしてシールドケースの対向する一対の側壁部にそれぞれ設けられた一対の係合部と素子収納ユニットのハウジングに設けられて一対の係合部と係合する一対の被係合部とが係合した状態において、導体がシールド本体と素子収納ユニットとの間に位置している。本発明においては、特に、電気絶縁性と可撓性を有し、シールドケースの電流が流れる方向の両側に配置され、クリップ構造によりハウジングの一部及び導体の一部を挟むようにハウジングに対して装着されて、導体と磁電変換素子との距離を一定に保つ一対のクリップ部材を備えている。本発明のように、一対のクリップ部材を設けると、従来のように、シールドケースとハウジングとの間で導体の位置決めをする必要がないので、シールドケースとハウジングの構造を簡単なものとすることができる上、導体の径が異なっても、基本的にシールドケースとハウジングの設計を変更する必要がない。また導体の径が大きく異なる場合には、一対のクリップ部材を異なる径の導体を挟持できるものに変えればよいので、汎用性が高くなる。
【0007】
一対のクリップ部材が、仮想中心線と直交し且つシールドケースの中心を通る仮想面に対して面対称になる同じ形状を有していれば、一対のクリップ部材として同じものを用いることができるので、部品の種類が減る上、電流センサの製造コストを下げることができる。
【0008】
ハウジングの中心を通り、前記仮想中心線と平行に延びる別の仮想中心線を囲むハウジングの外周面は、導体と対向する第1の側面と、該第1の側面と対向する第2の側面と、第1の側面と第2の側面をそれぞれ連結し互いに対向する第3及び第4の側面とを備えているものをハウジングとして用いることができる。この場合、一対のクリップ部材は、それぞれハウジングの第1の側面と第2の側面と接触する第1の一対の挟持部及び第3の側面と第4の側面と接触する第2の一対の挟持部を備えたハウジング挟持部分と、ハウジング挟持部分と連続して設けられて導体の一部を挟持する一対の導体挟持部分が一体に形成された構造を有しているのが好ましい。このような構造を採用すると、ハウジング挟持部分によりクリップ部材のハウジングに対する位置決めを確実に行うことができる。また一対の導体挟持部分のハウジングに対する位置も完全に固定することができる。その結果、導体と磁電変換素子との距離を確実に一定なものとして維持することができる。
【0009】
ハウジングには、一対のクリップ部材が電流が流れる方向に移動することを阻止する複数のストッパが一体に形成されているのが好ましい。このような複数のストッパを設ければ、一対のクリップ部材の寸法精度が多少悪い場合でも、一対のクリップ部材の位置が変わることがない。
【0010】
なお複数のストッパは、一対のクリップ部材の間に位置して該一対のクリップ部材の内側端面と接触するようにハウジングの第2の側面に設けられた第1のストッパと、第3及び第4の側面に設けられて一対のクリップ部材の一方のクリップ部材の外側端面と接触する第2及び第3のストッパ並びに一対のクリップ部材の他方のクリップ部材の外側端面と接触する第4及び第5のストッパとから構成するのが好ましい。このような第1乃至5のストッパを設けると、少ない数のストッパを用いて、一対のクリップ部材の位置を確実に固定することができる。
【0011】
なお第1のストッパは、第1の側面が突出して形成された突出面からなり、シールドケースの一対の側壁部に設けられた一対の係合部は、互いに向き合う方向に延びて突出面と接触する接触面を備えたフック形状を有しているのが好ましい。このような構造では、シールドケースをハウジングに取り付ける際に、ハウジングの第3及び第4の側面に沿ってシールドケースの一対の側壁部に設けた一対の係合部を滑らせながら移動させるだけで、一対の係合部と一対の被係合部を係合状態にすることができる。
【0012】
クリップ部材の一対の導体挟持部分の一方の導体挟持部分の導体と接触する面は、導体の外面に沿い且つ導体の外面と導体の周方向に離れた2箇所で接触するように湾曲しており、一対の導体挟持部分の他方の導体挟持部分の導体と接触する面は平面であるのが好ましい。このような構成を採用すると、導体の径寸法がばらついても導体を一対の導体挟持部分により確実に挟持することができる。
【0013】
クリップ部材の第2の一対の挟持部のうち他方の導体挟持部分側に位置する一方の挟持部は、他方の導体挟持部分から離れるに従って厚みが増加する形状を有しているのが好ましい。このようにするとクリップ部材を拡げた際に発生する応力集中で、クリップ部材の角部で破損が発生することを防止できる。
【0014】
また一対のクリップ部材の一方の導体挟持部分は、シールド本体の内部に一部が嵌合される嵌合部分を有していてもよい。この場合、仮想中心線と直交し且つシールドケースの中心を通る仮想面に対して、シールドケースは非面対称となる形状を有しているのが好ましい。そして一対のクリップ部材のハウジング挟持部分は、嵌合部分がシールド本体内に嵌合している状態において、シールドケースと当接する当接部分を有しており、且つ仮想面に対して非面対称になる形状を有しているのが好ましい。このようにすると常にシールド本体の取付状態が一定になるため、組立のバラツキが特性のバラツキの発生原因となることを防止できる。
【0015】
ハウジングの別の仮想中心線が延びる方向の端部には、磁電変換素子を含む回路のためのコネクタが設けられていてもよい。コネクタを用いると電流センサの取付の際にリード線が邪魔になることがないので、電流センサの取付作業が容易になる。
【0016】
磁電変換素子は、任意であるが、導体の周囲を囲むように発生する磁束による磁界の強さに比例して抵抗値が変化するAMR素子であるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】導体に対して装着された本発明の電流センサを正面右側から見た斜視図である。
図2図1の電流センサの分解斜視図である。
図3図1の電流センサを背面側から見た分解斜視図である。
図4図1のIV−IV線断面図である。
図5図1のV−V線断面図である。
図6】(A)は第2の実施の形態の電流センサの斜視図を示しており、(B)は図6(A)の左側面図を示している。
図7】(A)は第2の実施の形態の電流センサの斜視図を示しており、(B)は図7(A)の分解斜視図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明に係る電流センサの実施の形態について説明する。
【0019】
各図において、本実施の形態の電流センサは絶縁被覆導体であるケーブルCに流れる電流を検知する。導体は、本実施の形態においては絶縁被覆されたケーブルCだが、他の実施の形態では絶縁被覆されていない導体やバスバなども検知の対象となり得る導体である。図1はケーブルC(導体)に対して装着された本発明の第1の実施の形態の電流センサ1の正面側から見た斜視図を示しており、図2図1の電流センサの分解斜視図であり、図3図1の電流センサを背面側から見た分解斜視図であり、図4図1のIV−IV線断面図、図5図1のV−V線断面図である。なお図4及び図5において、断面部を示すハッチングを省略してある。
【0020】
これらの図において、本実施の形態の電流センサ1は、シールド本体3と、シールドケース5と、素子収納ユニット7と、一対のクリップ部材9及び11を備えている。
【0021】
シールド本体3は、外界からの磁界の影響をシールドするため、及びケーブルが発生した磁束を集中させるためにPCパーマロイ製である。PCパーマロイは、Niを主成分とし、Cu及びMoの少なくとも一方を副成分とし、残部がFeからなる高透磁率材料であり、本実施の形態では、Niが77〜79%、Cuが0〜5%、Moが4〜5%、Feが13〜15.4%を含むもの、その他にC,Si,Mn等を含むものを用いている。シールド本体3は帯状のPCパーマロイ板がU字形に湾曲させられて構成されており、対向する一対の側壁部31及び32と該一対の側壁部31及び32を連結する連結部33を備え且つ電流が流れる導体の電流が流れる方向に延びる仮想中心線CL1の回りを一対の側壁部31及び32と連結部33により囲むように配置された概ねU字状を呈している。一対の側壁部31,32の他端側は連結することなく開口している。
【0022】
シールドケース5は、対向する一対の側壁部51及び52と該一対の側壁部51及び52を連結する連結部53を備えて、ガラス入りのポリブチレンテレフタレイト等の電気絶縁材料により概ねU字状に一体成形されている。そしてシールドケース5は、シールド本体3が嵌合される嵌合凹部54を備えている。なお図示していないが、本実施の形態では、組立時に嵌合凹部54からシールド本体3が抜け出るのを防止するために、連結部53の一部を突出させたり、または溶融変形させて、シールド本体3に対する抜け止め部を形成してある。
【0023】
シールドケース5の対向する一対の側壁部51及び52には、それぞれ一対の係合部55及び56が一体に設けられている。一対の側壁部51及び52に設けられた一対の係合部55及び56は、互いに向き合う方向に延びて突出面と接触する接触面55A及び56Aを備えたフック形状を有している。
【0024】
素子収納ユニット7は、ケーブルC(導体)に電流が流れたときに発生する磁界または磁束を検知して電気信号に変換する磁電変換素子8(図4及び図5)をハウジング71の内部に収納した構造を有している。ハウジング71は、ガラス入りのポリブチレンテレフタレイト等の電気絶縁性を有する絶縁樹脂材料からなり、嵌合構造と係止構造とにより結合されたハウジング本体72とベース73とから構成されている。具体的には、ベース73に設けた係止部73Aをハウジング本体72の側壁の内部に設けた被係止部72Aと係止させている。
【0025】
ハウジング71の中心を通り、仮想中心線CL2を囲むハウジング71の外周面は、ケーブルC(導体)と対向する第1の側面71Aと、該第1の側面71Aと対向する第2の側面71Bと、第1の側面71Aと第2の側面71Bをそれぞれ連結し互いに対向する第3の側面71C及び第4の側面71Dとを備えている。ハウジング71には、一対のクリップ部材9及び11が、電流が流れる方向に移動することを阻止する5つの第1乃至第5のストッパ(74〜78)が一体に形成されている。第1のストッパ74は、一対のクリップ部材9及び11の間に位置して該一対のクリップ部材9及び11の内側端面と接触するようにハウジング71の第2の側面71Bに設けられている。第1のストッパ74は、第2の側面71Bが突出して形成された突出面からなる。本実施の形態では、第1のストッパ74の幅方向に対向する一対の上側角部74A及び74Bがハウジング71に設けられた一対の被係合部を構成している。またハウジング71はさらに、第3の側面71C及び第4の側面71Dに設けられてクリップ部材11の外側端面と接触する第2のストッパ75及び第3のストッパ76と、クリップ部材9の外側端面と接触する第4のストッパ77及び第5のストッパ78を備えている。なお第2乃至第5のストッパ75乃至78は、ベース72と一体に形成されている。これらストッパ74〜78を設ければ、一対のクリップ部材9及び11の寸法精度が多少悪い場合でも、一対のクリップ部材9及び11の位置が変わることがない。
【0026】
一対のクリップ部材9及び11は、電気絶縁性と可撓性を有するガラス入りのポリブチレンテレフタレイト等の絶縁樹脂材料により一体に成形されている。クリップ部材9及び11は、シールドケース5の電流が流れる方向の両側に配置され、クリップ構造によりハウジング71の一部及びケーブルC(導体)の一部を挟むようにハウジング71に対して装着されて、ケーブルC(導体)と磁電変換素子8との距離を一定に保つために設けられている。一対のクリップ部材9及び11は、それぞれハウジング71の第1の側面71Aと第2の側面71Bと接触する第1の一対の挟持部(9A及び11A並びに9B及び11B)及び第3の側面71Cと第4の側面71Dと接触する第2の一対の挟持部(9C及び11C並びに9D及び11D)を備えたハウジング挟持部分91及び111と、ハウジング挟持部分91及び111と連続して設けられてケーブルC(導体)の一部を挟持する一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)が一体に形成された構造を有している。一対のクリップ部材9及び11の一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)の一方の導体挟持部分(92A,112A)のケーブルC(導体)と接触する面は、ケーブルC(導体)の外面に沿い且つ前記導体の外面とケーブルC(導体)の周方向に離れた2箇所で接触するように湾曲しており、一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)の他方の導体挟持部分(92B、112B)のケーブルC(導体)と接触する面は平面である。本実施の形態ではケーブルCが絶縁被覆導体であるため、図4に示すように、ケーブルCの絶縁被覆は導体挟持部分92Bにより圧縮変形している。
【0027】
本実施の形態では、一対のクリップ部材9及び11が、仮想中心線CL2と直交し且つシールドケース5の中心を通る仮想面(図示せず)に対して面対称になる同じ形状を有している。そのため、一対のクリップ部材9及び11として同じものを用いることができるので、部品の種類が減る上、電流センサの製造コストを下げることができる。また本実施の形態で用いる一対のクリップ部材9及び11の形状であれば、ハウジング挟持部分91及び111によりクリップ部材9及び11のハウジング71に対する位置決めを確実に行うことができる。また一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)のハウジング71に対する位置も完全に固定することができる。その結果、ケーブルC(導体)と磁電変換素子8との距離を確実に一定なものとして維持することができる。
【0028】
本実施の形態では、シールド本体3を嵌合したシールドケース5をハウジング71に取り付ける際には、ハウジング71の第3及び第4の側面71C及び71Dに沿ってシールドケース5の一対の側壁部51及び52に設けた一対の係合部55及び56を滑らせながら移動させるだけで、一対の係合部55及び56と一対の被係合部74A及び74Bを係合状態にすることができる。このようにして素子収納ユニット7のハウジング71に設けられて一対の被係合部74A及び74Bと一対の係合部55及び56とが係合した状態において、ケーブルC(導体)がシールド本体3と素子収納ユニット7との間に位置することになる。
【0029】
また一対のクリップ部材9及び11をハウジング71に装着する際には、一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)を外側に広げた状態で、ハウジング挟持部分91及び111をハウジング71の両端部に嵌合させ、一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)が第2乃至第5のストッパを越えた位置で一対の導体挟持部分(92A及び92B,112A及び112B)を広げていた力を解除する。
【0030】
本実施の形態では、一対のクリップ部材9及び11を設けたので、従来のように、シールドケースとハウジングとの間で導体の位置決めをする必要がない。その結果、シールドケース5とハウジング71の構造を簡単なものとすることができる上、ケーブルC(導体)の径が異なっても、基本的にシールドケース5とハウジング71の設計を変更する必要がない。またケーブルC(導体)の径が大きく異なる場合には、一対のクリップ部材9及び11を異なる径の導体を挟持できるものに変えればよい。
【0031】
磁電変換素子8として用いるAMR素子は、ケーブルCに電流が流れたときに発生する磁界の磁束密度を検知して電気信号に変換する。本実施の形態では、磁電変換素子8としてケーブルCの周囲を囲むように発生する磁束による磁界の強さに比例して抵抗値が変化するAMR素子を用いているが、他の実施の形態では、GMR素子、TMR素子等、他の磁電変換素子も使用することができる。AMR素子は、電流の測定範囲が広く、しかも大電流の測定に優れている。
【0032】
[第2の実施の形態]
図6(A)は、第2の実施の形態の電流センサ1の斜視図を示している。図6(A)では、電流センサはケーブルには実装していない。図6(B)は図6(A)の左側面図である。なお図6(A)及び(B)においては、図1乃至図5に示した第1の実施の形態と同様の部分には、図1乃至図5に付した符号と同じ符合を付して説明を省略する。本実施の形態では、クリップ部材9及び11の第2の一対の挟持部(9C及び11C並びに9D及び11D)のうち他方の導体挟持部分(92B、112B)側に位置する一方の挟持部(9C及び11C)は、他方の導体挟持部分(92B、112B)から離れるに従って厚み(ハウジング71に向かう方向の厚み寸法)が増加する形状を有している。言い換えると一方の挟持部(9C及び11C)には、他方の導体挟持部分(92B、112B)に向かうに従って厚みが薄くなるテーパが付されている。このようにするとクリップ部材9及び11を拡げた際に発生する応力集中で、クリップ部材9及び11の角部[挟持部(9B,11B)と挟持部(9C,11C)の間の角部]で破損が発生することを防止できる。
【0033】
[第3の実施の形態]
図7(A)は、第3の実施の形態の電流センサ1の斜視図を示している。図7(A)では、電流センサはケーブルには実装していない。図7(B)は図7(A)の分解斜視図である。なお図7(A)及び(B)においては、図1乃至図5に示した第1の実施の形態と同様の部分には、図1乃至図5に付した符号と同じ符合を付して説明を省略する。
【0034】
本実施の形態では、シールドケース5´と、一対のクリップ部材9´及び11´の形状が第1の実施の形態のシールドケース5及び一対のクリップ部材9及び11の形状と異なる。本実施の形態の一対のクリップ部材9´及び11´の一方の導体挟持部分(92´A,112´A)は、シールド本体5´の内部に一部が嵌合される嵌合部分(92´Aa,112´Aa)を有していてもよい。この場合、仮想中心線CL1と直交し且つシールドケース5´の中心を通る仮想面(図示しない)に対して、シールドケース5´は非面対称となる(面対称ではない)形状を有している。具体的には、本実施の形態では、シールドケース5´のクリップ部材11´側の部分に凸部5´Aが形成されている。また一対のクリップ部材9´及び11´のハウジング挟持部分91´及び111´は、嵌合部分(92´Aa,112´Aa)がシールド本体3内に嵌合している状態において、シールドケース5´と当接する当接部分(91´,111´A)を有しており、且つ仮想中心線CL1と直交し且つシールドケース5´の中心を通る仮想面(図示しない)に対して非面対称になる形状を有している。このようにすると常にシールド本体3の取付状態が一定になるため、組立のバラツキが特性のバラツキの発生原因となることを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、一対のクリップ部材を設けたので、従来のように、シールドケースとハウジングとの間で導体の位置決めをする必要がなく、シールドケースとハウジングの構造を簡単なものとすることができる。その上、導体の径が異なっても、基本的にシールドケースとハウジングの設計を変更する必要がない。また導体の径が大きく異なる場合には、一対のクリップ部材を異なる径の導体を挟持できるものに変えればよいので、汎用性が高くなる。
【符号の説明】
【0036】
1 電流センサ
3 シールド本体
5 シールドケース
55,56 係合部
7 素子収納ユニット
74〜78 ストッパ
74A,74B 被係合部
8 磁電変換素子
9,11 クリップ部材側壁部
91及び111 ハウジング挟持部分
92A及び92B,112A及び112B 導体挟持部分
C ケーブル
【要約】
簡単な構造で導体と磁電変換素子との間の距離を一定に保つことができ、しかも導体の径が異なっても対応できる汎用性の高い電流センサを提供する。クリップ部材9及び11が、シールドケース5の電流が流れる方向の両側に配置される。クリップ部材9及び11は、クリップ構造によりハウジング71の一部及びケーブルC(導体)の一部を挟むようにハウジング71に対して装着されて、ケーブルC(導体)と磁電変換素子8との距離を一定に保つ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7