(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6302613
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ナノコイル型GSRセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20180319BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20180319BHJP
H01L 43/00 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
G01R33/02 D
H01L43/00
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-53594(P2017-53594)
(22)【出願日】2017年3月1日
【審査請求日】2017年11月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】717002887
【氏名又は名称】ナノコイル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本蔵 義信
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 一恵
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−151413(JP,A)
【文献】
特開平01−298792(JP,A)
【文献】
特許第6014792(JP,B1)
【文献】
国際公開第03/071299(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/047637(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/025606(WO,A1)
【文献】
特開2000−284030(JP,A)
【文献】
特開2001−052947(JP,A)
【文献】
特表2011−511936(JP,A)
【文献】
国際公開第02/086922(WO,A1)
【文献】
国際公開第96/08749(WO,A2)
【文献】
米国特許第5748523(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
G01R 33/02
H01L 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極配線基板上に、感磁体である磁性ワイヤと通電用の磁性ワイヤ端子およびその周りに巻き付けたナノコイルとその端部にあるナノコイル端子とそれらの端子と外部の集積回路と連結するための電極を有し、前記ナノコイルは、前記磁性ワイヤを固定する前記電極配線基板の溝の面に取り付けられたナノコイル下部と前記溝内に絶縁性樹脂で接着固定された前記磁性ワイヤの上部に取り付けられたナノコイル上部および前記ナノコイル下部と前記ナノコイル上部とを結合するナノコイル接合部からなるナノコイル型GSRセンサ素子の製造方法において、
前記ナノコイルは、前記溝における配線パターン形成にあたり光の回折現象の影響を回避して前記ナノコイル下部を形成する工程と、
前記磁性ワイヤがガラス被覆されていない場合には前記ナノコイル下部を前記絶縁性樹脂で薄く覆って前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置し、前記磁性ワイヤがガラス被覆されている場合には前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置する工程と、
前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置して、前記磁性ワイヤの上部は前記絶縁性樹脂で薄く覆われ、もしくは薄く覆われた状態で前記磁性ワイヤを前記絶縁性樹脂により前記溝に固定する工程と、
前記磁性ワイヤの上部に平面状の前記ナノコイル上部を形成する工程および前記磁性ワイヤ端子と前記電極、前記ナノコイル端子と前記電極とをそれぞれ接合する工程とからなり、
前記ナノコイル下部を形成する工程は、
(1)前記溝を有する前記電極配線基板に導電性金属を蒸着して金属蒸着膜を作製する工程と、
(2)フィルムマスク基板材の上に感光性フォトレジスト層を形成したフィルムマスク母材を作製し、前記ナノコイル下部の配線図面を焼き付けた平坦なフォトマスクを作製し、次いで前記フォトマスクを前記フィルムマスク母材の前記感光性フォトレジスト層に平面密着させた後、露光して前記配線図面を焼き付けてフィルムマスクを作製する工程と、
(3)前記フィルムマスクの前記感光性フォトレジスト側を、前記金属蒸着膜で覆われている前記溝の面に密着して貼り付けた後、前記フィルムマスクを現像して、その後固化して前記配線図面を転写した3次元マスクを形成する工程と、
(4)前記金属蒸着膜は前記3次元マスク部分による被覆部を除いて露出部をエッチングし、その後、前記3次元マスクの固化した前記感光性フォトレジストを剥離して前記ナノコイル下部を形成する工程と、
からなることを特徴とするナノコイル型GSRセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速スピン回転効果を基礎とするGSRセンサの一層の高感度化、マイクロ化および低消費電力化を可能とするコイルピッチをナノレベルに微細化したナノコイル技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話・スマートフォンなどの携帯端末、生体磁気検出、地磁気検出等のために磁気検出装置が用いられ、一層の高感度化、低ノイズ化、小型化または省電力化のための開発が行われている。このような磁気検出装置の代表的な例として、CoFeSiB系合金等からなるアモルファスワイヤを感磁体として、ワイヤの磁化の変化をワイヤに巻き付けた検出コイルで外部磁界を検知するパルス駆動型のMIセンサやGSRセンサがある。
【0003】
MIセンサとは、感磁ワイヤの最表面層に円周方向異方性磁界を有するアモルファスワイヤに、20MHz〜200MHzの高周波電流を流すと、表皮効果により、そのインピーダンスが外部磁界に応じて大きく変化するというマグネトインピーダンス効果(MI効果という。)を利用したセンサをいう。このMIセンサには二つのタイプがあり、一つは磁界強度に応じたワイヤのインピーダンス変化を直接的に検出するインピーダンス測定方式で、もう一つはワイヤに巻き付けた検出コイルの出力電圧としてインピーダンス変化を間接的に測定するコイル電圧測定方式である。ここで、MIはMagneto−Impedanceの略である。
【0004】
GSRセンサとは、アモルファスワイヤに0.5GHz〜4GHzのパルス電流を印加して、ワイヤ最表面の円周方向に整列したスピンを一斉にGHzの超高速で回転させ、その際に生じるワイヤ軸方向の磁化の変化をワイヤに巻き付けたマイクロコイルで検出コイル電圧として直接検知するセンサである。ここで、GSRはGHz−Spin−Rotationの略である。
【0005】
MIセンサやGSRセンサのコイルの出力電圧は、検出コイルの巻き数(N)に比例するので、検出コイルの巻き数を増加させるためには、コイルを微細化してコイルピッチ(コイル幅とコイル間隔の合計をいう。)を微細加工プロセスによりいかに小さくできるかが課題であった。同時に巻き数の増加に伴うコイル抵抗の増加および寄生容量の増加による影響を取り除くことも重大な課題であった。
また、コイルの出力電圧はワイヤに流すパルス電流の周波数(f)にも依存するが、渦電流の問題や大電力を制御する回路などの技術問題があり、パルス電流の高周波化は困難であった。この問題についてはGSR効果の発見によって解消したが、マイクロコイルからナノコイルへと微細化した場合には、さらにMHzからGHzへの増加に伴う電磁的誘導電圧の問題が大きくなり、一層の改善対策が必要となる。
【0006】
MI素子としては、湿式方式の微細加工プロセスで加工したコイルで、特許文献1には直径30μmのワイヤを凹形状溝の絶縁体内に埋設して捲線間隔(コイルピッチ)50μm/巻、捲線内径(コイル内径)66μm、コイル内径/ワイヤ直径=2.2が記載されている。
次に、コイルの微細化を図るために、特許文献2には直径30μmのワイヤを平面基板上に液状樹脂で付着させて幅(コイル幅)15μm、コイル内径/ワイヤ直径=1.4が記載されている。
【0007】
上述の凹状コイル方式(特許文献1)やワイヤ上部に凸状に形成するコイル方式(特許文献2)の湿式方式のコイル形成方式では、15μm以下の線幅のコイル製作は困難であった。さらに、マスクと基板平面との間に大きな間隙ができて、露光時に光の回折現象により微細な配線を焼き付けることができず、コイルピッチは30μmが限界であった。
【0008】
一般的に通常のドライ方式のフォトリソグラフィ技術を応用して、凹凸のある基板にコイル配線をパターニングする場合、基板面上の凹凸によりマスクと基板に間隙が生じて、露光時の回折現象により線幅が制限される。この対策としてワイヤの半分(ワイヤ断面の半分をいう。)を基板上の溝に埋設し、残り半分を凸状の絶縁被膜で覆って露光することによって、さらに絶縁被膜の厚みを最小化することによって、凹凸を小さくすることができ、その結果コイルピッチの微細化が実現している(特許文献3)。
この凹凸コイル方式により、ワイヤ(ガラス被覆)は直径10μmで、線幅2μm、コイルピッチ5μm、コイルアスペクト比(コイルの厚み/コイルピッチの比をいう。)2.6のマイクロコイルを実現している。なお、コイル内径/ワイヤ直径は1.9と推定される。
【0009】
マイクロコイルの出力電圧をMIセンサで使用されている従来のサンプルホールド回路(非特許文献1)で検知すると、マイクロコイルは素子コイルの抵抗が大きいためにIRドロップによる電圧降下が大きくなり、
コイル出力電圧はコイルピッチを小さくしてコイル巻き数を増やしてもそれに比例した出力電圧を取り出すことができない。この対策としてパルス対応型バッファー回路が開発され、マイクロコイルからなるMI素子とパルス対応型バッファー回路とを組み合わせることで、MIセンサの感度が大幅に改善された(特許文献4)。
【0010】
次に、コイルピッチを小さくしてパルス周波数2GHzとしたGSRセンサ素子を用いて高感度、低ノイズ、低消費電力、小型化したGSRセンサが開発されている(特許文献5)。
磁性ワイヤは、直径10μm、異方性磁界5Gを有し、かつ円周方向にスピン配列をもち、ガラス被覆しており長さ0.2mmである。コイルは、磁性ワイヤの周りに凹凸方式によってコイル巻き数48回、コイルピッチ5μm、コイル線幅3μm、コイル線厚さ0.5μm、コイル内径15μm、コイル長さ160μである。また、コイル抵抗は220Ω、単位長さ当たり1.4KΩ、コイル内径/ワイヤ直径は1.5、コイル内径/コイルピッチで定義されるコイルアスペクト比は3.0である。
【0011】
GSRセンサの高感度化、低ノイズ化、小型化または省電力化のためには、検出コイルの一層の微細化とコイル巻き数の増加が求められている。しかし、特許文献4および特許文献5による微細コイルの製造方法は、ドライ方式のフォトリソグラフィ技術による凹凸のある基板にコイル配線をパターニングする方法であることから露光時の回折現象のために微細化はコイル線幅2μmが限界であった。
フォトリソグラフィが持つ、微細なコイルを高生産性と自由度の高い微細加工方法を活かしてマイクロレベルからさらに微細なナノレベルの線幅を有するナノコイルをつくる新加工方法が求められている。
【0012】
また、超微細加工により作られるナノコイルの単位長さ当たりのコイル抵抗は、コイル線の幅と厚みの微細化によりコイル断面積が大きく減少してコイル抵抗がさらに大きくなる。
このことによる電子回路への影響の解明が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3693119号
【特許文献2】特許第4835805号
【特許文献3】特許第5747294号
【特許文献4】特許第5678358号
【特許文献5】特許第5839527号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「新しい磁気センサとその応用」:トリケップス社、毛利佳年雄著、2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、GSRセンサ素子の2μm未満コイルピッチのナノコイルを形成してコイル巻き数(N)の増加によって出力電圧を高め、併せてコイル抵抗(R)とインダクタンス(L)を大きくしてコイルに流れる電流(i)を小さくすることにより出力電圧の降下(iRドロップ)を小さくして電子回路を安定化して、GSRセンサの一層の高感度化、低ノイズ化、小型化、低消費電力等を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の技術的課題を鋭意検討した結果、凹凸のある基板にフォトリソグラフィ技術でコイル線をパターニングするにあたって、予め感光性フォトレジスト層を上面とするフィルムマスク母材の上に配線図面を露光・転写したフィルムマスクを凹凸のある基板に密着させること(以下、フィルムマスク法という。)で、光の回折現象の影響を回避してコイルアスペクト比を大きくでき、ナノコイルを実現する3次元フォトリソグラフィ技術の発明に至った。
【0017】
さらに、ナノコイルに付随するコイル抵抗及び寄生容量の増加する問題については、まず静電電位差によって発生する寄生容量については左巻きコイルと右巻きコイルの組合せコイルとすることによって誘導電圧を消失させるという解決策を考案した。コイル抵抗、コイルインピーダンスの増加に対しては、パルス対応型のサンプルホールド回路を適用することで解決できることを見出した。
【0018】
フィルムマスク法を基礎とした3次元フォトリソグラフィ技術によるコイルピッチが2μm未満でアスペクト比が10以上と大きいナノコイルの製造方法を以下に説明する。
磁性ワイヤと磁性ワイヤに巻き付けたナノコイルとからなる素子を電極配線基板上に形成する場合において、ナノコイルは凹形状のナノコイル下部と平面状のナノコイル上部に分割して、あるいは凹形状のナノコイル下部と凸形状のナノコイル上部に分割して、それぞれを形成し、両者を接合することで出来上がる。凹凸形状のナノコイルは、感光性フォトレジスト層を持つフィルムマスクを凹凸面に沿って張り付けることにより微細加工が可能となる。
【0019】
以下、一例としてフィルムマスクを使ったナノコイル下部(凹形状)を溝に形成する工程を説明する。
工程(1)で、溝加工した基板の溝内(底面および側面をいう。)および基板の上面に導電性金属を蒸着させて金属蒸着膜を形成する。
工程(2)で、フィルムをフィルムマスク基板材とし、その上面に感光性フォトレジスト層からなるフィルムマスク母材を形成する。次いで、このフィルムマスク母材とフォトマスクの平面どうしを密着させた状態で微細パターンを光の回折現象を回避した状態で露光してフィルムマスクを形成する。パターン転写には出射波長の短い光を利用するほどより微細なパターンが転写できる。
工程(3)で、感光性フォトレジスト層と溝を有する基板とが相対し、しかもフィルムマスクが溝に沿って密着するように基板に貼り付ける。貼り付ける方法としては、フィルムマスクの静電作用で溝内に張り付けたり、フィルムマスクと基板との隙間である溝内の空気を真空引きするなどして取り除くことにより負圧を加えて張り付けたりする。
工程(4)で、フィルムマスク基板材を取り除き露光された感光性フォトレジスト層のみを基板に残す。なお、工程(4)でフィルムマスク基板材を取り除いているが、工程(3)の貼り付け前に取り除いてもよい。
工程(5)で、基板溝内に密着している感光性フォトレジスト層を現像し基板上に取り残された感光性フォトレジスト層を固化し3次元マスクを形成する。
工程(6)で、金属蒸着膜をエッチングし、その後感光性フォトレジスト層を剥離して、ナノコイル下部を形成する。
以上述べたフィルムマスク法により凹凸面上にコイルピッチ2μm未満のコイル配線を基板上に行うことができる。
【0020】
磁性ワイヤに巻かれるナノコイルの製作工程は、まずフィルムマスク法で基板溝内にナノコイル下部を形成し、その溝に沿って磁性ワイヤを設置し、基板面まで絶縁性樹脂を充填し磁性ワイヤを固定し、絶縁性樹脂の上部と基板面とを平坦な面として、フォトリソグラフィ工法で容易に平面状のナノコイル上部を形成する。同時にナノコイル下部とナノコイル上部のそれぞれの両端を結合したナノコイル接合部を形成してナノコイルが作製される。磁性ワイヤとして、あらかじめ絶縁性膜で被覆されたワイヤを用いる方が望ましい。
【0021】
フィルムマスク法により作製されたナノコイルを用いるナノコイル型GSRセンサ素子は、そのナノコイルのコイルピッチを2μm未満とし、コイルアスペクト比は10以上にする。コイル抵抗はコイル長さ1mmあたり5kΩ以上とする。また、ナノコイルの内径を磁性ワイヤの直径の2.5倍以下とする。
【0022】
GSRセンサ素子のナノコイルのコイル抵抗はコイル長さ1mmあたり5kΩ以上と大幅に大きいことからパルス対応型バッファー回路を介してサンプルホールド回路にて検知する。マイクロコイルのコイル抵抗は2kΩ/mm以下に対して、ナノコイルのそれは大きいために電流が微小化しバッファー回路の動作がより安定し、コイル電圧の電圧降下も10%以下と小さくなる。
【0023】
ナノコイルの寄生容量の増加問題に対しては、基板上に右巻きナノコイルと左巻きナノコイルの一対のユニットコイルまたは複数対のユニットコイルを設置し、左巻きナノコイルと右巻きナノコイルに同一向きの電流が流れるように、磁性ワイヤ通電用の電極2個と磁性ワイヤ端子を接続する。また、ナノコイル電圧検出用電極2個とユニットコイル端子は磁性ワイヤにはパルス電流を通電した時に、右巻きナノコイルと左巻きナノコイルの出力電圧が外部磁界に比例した出力電圧が同符号になるように接続する。この時寄生容量にともなう誘導電圧は消失する。さらに、基板上のコイルと電子回路とが形成する配線ループによって生じる電圧については、配線のクロス構造化により取り除くことができる。
もちろん、寄生容量については、回路が動作し発生誘導電圧が実用的に許容されるレベルにおいては、右巻きコイルまたは左巻きコイルの単一方向コイルをGSR素子のナノコイルとして採用することも可能である。
【発明の効果】
【0024】
感光性フォトレジストとフォトマスクを平面どうしで露光した後に、凹形状(溝など)または凸形状に貼り付け、微細コイルを作製するフィルムマスク法により、GSRセンサ素子のコイルピッチ2μm未満のナノコイルを形成してコイル巻き数(N)の増加によって出力電圧を高め、コイル抵抗を大幅に大きくし、コイルに流れる電流を小さくすることにより電子回路が安定化する。GSRセンサの一層の高感度化、低ノイズ化、小型化、低消費電力等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1のナノコイル型GSRセンサ素子の平面を示す概念図である。
【
図2】実施例1における素子のA−A’線に沿う断面の概念図である。
【
図3】実施例1におけるナノコイル型GSRセンサの配線図である。
【
図4】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(1)金属蒸着膜の作製を示す概念図である。
【
図5】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(2)フィルムマスク母材およびフィルムマスクの作製を示す概念図である。
【
図6】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(3)フィルムマスクの貼り付けを示す概念図である。
【
図7】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(4)フィルムマスクを溝内に密着する概念図である。
【
図8】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(5)3次元マスクを示す概念図である。
【
図9】実施例1におけるナノコイル下部の形成工程における(6)感光性フォトレジスト膜の剥離後のナノコイル下部の概念図である。
【
図10】実施例1における電子回路のブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施形態)
本発明の実施形態のナノコイル型GSRセンサ素子の製造方法は、
電極配線基板上に、感磁体である磁性ワイヤと通電用の磁性ワイヤ端子およびその周りに巻き付けたナノコイルとその端部にあるナノコイル端子とそれらの端子と外部の集積回路と連結するための電極を有し、前記ナノコイルは、前記磁性ワイヤを固定する前記電極配線基板の溝の面に取り付けられたナノコイル下部と前記溝内に絶縁性樹脂で接着固定された前記磁性ワイヤの上部に取り付けられたナノコイル上部および前記ナノコイル下部と前記ナノコイル上部とを結合するナノコイル接合部からなるナノコイル型GSRセンサ素子の製造方法において、
前記ナノコイルは、前記溝における配線パターン形成にあたり光の回折現象の影響を回避して前記ナノコイル下部を形成する工程と、
前記磁性ワイヤがガラス被覆されていない場合には前記ナノコイル下部を前記絶縁性樹脂で薄く覆って前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置し、前記磁性ワイヤがガラス被覆されている場合には前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置する工程と、
前記ナノコイル下部の上に前記磁性ワイヤを配置して、前記磁性ワイヤの上部は前記絶縁性樹脂で薄く覆われ、もしくは薄く覆われた状態で前記磁性ワイヤを前記絶縁性樹脂により前記溝に固定する工程と、
前記磁性ワイヤの上部に平面状の前記ナノコイル上部を形成する工程および前記磁性ワイヤ端子と前記電極、前記ナノコイル端子と前記電極とをそれぞれ接合する工程とからなり、
前記ナノコイル下部を形成する工程は、
(1) 前記溝を有する前記電極配線基板に導電性金属を蒸着して金属蒸着膜を作製する工程と、
(2)フィルムマスク基板材の上に感光性フォトレジスト層を上面に貼り付けたフィルムマスク母材を作製し、前記ナノコイル下部の配線図面を焼き付けた平坦なフォトマスクを作製し、次いで前記フォトマスクを前記フィルムマスク母材の前記感光性フォトレジスト層に平面密着させた後、露光して前記配線図面を焼き付けてフィルムマスクを作製する工程と、
(3) 前記フィルムマスクの前記感光性フォトレジスト側を、前記金属蒸着膜で覆われている前記溝の面に密着して貼り付けた後、前記フィルムマスクを現像し、その後固化して前記配線図面を転写した3次元マスクを形成する工程と、
(4) 前記金属蒸着膜は前記3次元マスクによる被覆部を除いて露出部をエッチングし、その後、前記3次元マスクの固化した前記感光性フォトレジストを剥離して前記ナノコイル下部を形成する工程と、
からなることを特徴とする。
【0027】
感光性フォトレジスト層とフィルムマスク基板材とからなるフィルムマスク母材に露光転写した後に、溝内の金属蒸着膜にフォトレジスト層が密着するようにフィルムマスクを貼り付けることにより、露光時の回折現象もないため溝の深さに拘わらず立体パターンのナノコイル下部を形成することができる。
【0028】
また、本実施形態において、磁性ワイヤは磁性ワイヤ径より大きな深さを持つ溝に固定され、ナノコイル下部は溝の面に形成し、ナノコイル上部は平面状に形成し、ナノコイル下部とナノコイル上部の両者はナノコイル接合部にて結合されている。
溝の形状は、溝断面が正方形や長方形からなる矩形状、溝底面に対して溝上部が開放している逆台形状、V形状からなる。また溝底面は丸みを帯びていてもよい。
【0029】
電極配線基板の溝(凹溝)の面にナノコイル下部を形成し、磁性ワイヤ径以上の深さを持つ溝内に磁性ワイヤ全体を固定することによって、続くナノコイル上部の形成において平面状とすることができる。ナノコイル上部を平面状にすることは、ナノコイル下部とナノコイル上部の接合部の形成が容易になるとともに平面状のナノコイル上部は通常のフォトリソグラフィ技術で容易に形成でき、生産性の向上につながる。また、コイル内径と磁性ワイヤ径の比を2.5倍より小さく形成できる。
【0030】
本実施形態の製造方法により製造される
ナノコイル型GSRセンサ素子は、
ナノコイルのコイルピッチは0.2μm〜2μm未満で、コイル線幅は0.1〜1μm未満で、コイル線厚みは0.1〜0.5μm未満で、コイル内径とコイルピッチの比で定義されるアスペクト比が10以上で、かつ、コイル抵抗が単位長さ当たり5kΩ/mm以上である。
【0031】
ナノコイルのコイルピッチを0.2μm〜2μm未満と微細化することにより巻き数が大幅に増加して出力電圧が大きくなって高感度が得られる。また、コイルアスペクト比を10以上とすることにより直径1μm以上から15μmの磁性ワイヤに適用できる。
さらに、コイルピッチの微細化によるコイル断面積の微小化と相まってコイル巻き数の増加という相乗効果としてコイル抵抗(R)が大幅に増加する。コイル抵抗の増加に伴い、電流(i)が微小化してゼロに近づいてコイル電圧の電圧降下はゼロに近づく。同時に回路内の発熱(i
2)もゼロとなるため電子回路を構成するバッフアー回路におけるエネルギーロスゼロとなり電子回路が安定化する。バッファー回路の入力インピーダンスが大きくなることでその動作がより高速で安定することを確認した。
【0032】
また、本実施形態において、電極配線基板上に右巻きナノコイルの検出素子と左巻きナノコイルの一対または複数対を設置し、左巻きナノコイルと右巻きナノコイルに同一向きの電流が流れるように、磁性ワイヤ通電用の電極2個と磁性ワイヤ端子を接続し、またナノコイル電圧検出用電極2個とナノコイル端子は磁性ワイヤにはパルス電流を通電した時に、右巻きナノコイルと左巻きナノコイルの出力電圧が外部磁界に比例した出力電圧が同符号になり、かつ外部磁界がゼロの場合に寄生容量によって発生する出力電圧が異符号になり消失するように接続する。
【0033】
この配線構造により、コイルの出力電圧は加算され、静電電位差による誘導電圧はキャンセルされて消滅する。
【0034】
さらに、磁性ワイヤの通電用の端子は、少なくとも磁性ワイヤの上部の絶縁性樹脂を除去して露出した磁性ワイヤ上部と磁性ワイヤ電極とを蒸着金属で配線接合する。あるいは、磁性ワイヤがガラス被覆磁性ワイヤの場合には磁性ワイヤの上部の絶縁性樹脂とともにガラス被覆を除去して露出した磁性ワイヤ上部と磁性ワイヤ電極とを蒸着金属で配線接合する。
この配線接合により、磁性ワイヤと電極との電気的接続を安定化させて磁性ワイヤ通電を確実にすることができる。
【0035】
また、本実施形態により製造される
ナノコイル型GSRセンサ素子と、磁性ワイヤにギガヘルツのパルス電流を流す手段と、パルス電流を流した時に生じるナノコイルの電圧出力をパルス対応型バッファー回路に介してサンプルホールド回路にて外部磁界に比例する電圧に変換する手段とからなるナノコイル型GSRセンサは、ナノコイルの電圧降下はナノコイルの出力電圧の10%以下である。
【0036】
バッファー回路からなる電子回路を備える
ナノコイル型GSRセンサ素子は、GSRセンサ素子のコイルピッチ10μm以下を2μm未満と1/5に小さくすることによりナノコイルの巻き数を5倍以上多くし、かつナノコイルの線幅の小幅化と薄膜化が相乗してコイル抵抗が数倍以上大きくなっている。この大きなコイル抵抗により出力電流は大きく減少して電子回路が安定し、低ノイズが得られる。また、ナノコイルの電圧降下はナノコイルの出力電圧の10%以下と減少する。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
初めに、ナノコイル型GSRセンサ素子(以下、素子という。)の製造方法により製造される素子から説明する。素子の平面図を
図1に、素子10のA−A’断面図を
図2に、素子10のナノコイルの配線図(素子101)を
図3に示し、その素子10の製造方法を
図4〜9に示して説明する。
次に素子10とパルス対応型バッファー回路付の電子回路(
図10)とを組み合わせた
ナノコイル型GSRセンサについて説明する。
【0038】
先ず、
図1および
図2により素子の構造について説明する。
素子10は、電極配線基板(以下、基板という。)20の上に感磁体である絶縁素材(ガラス)で被覆された磁性ワイヤ30とその周りに巻き付けたナノコイル40、かつ2つの磁性ワイヤ端子31と2つの磁性ワイヤ電極32および2つのナノコイル端子41と2つのナノコイル電極42からなる4つの端子と4つの電極とを有している。
ナノコイル40は、ナノコイル下部401とナノコイル上部402および両者を結合するナノコイル接合部403からなる。ナノコイル下部401は磁性ワイヤ30を固定する基板20の溝21の面に取り付けられ、ナノコイル上部402は溝21内に液状の絶縁性樹脂35で接着固定された磁性ワイヤ30の上部に取り付けられ、コイル接合部403は基板20の平坦面上で
ナノコイル上部402と同一平面上にある。
【0039】
基板20の大きさは、長さ0.2mm、幅0.2mm、高さ0.2mmである。基板20には、基板20の長手方向に底面の幅20μm、上部の幅32μm、深さ13μmの逆台形状の溝21を加工した。
【0040】
磁性ワイヤ30は、CoFeSiBアモルファス合金の直径10μm、厚み1μm以下のガラス被覆のワイヤである。その結晶構造は、アモルファス構造で弱負磁歪10
−6を持つ比透磁率は1万の高透磁率磁性ワイヤである。そのワイヤに、引張応力を負荷し軸方向と円周方向に5Gの磁気異方性Kθを発生させて、円周方向スピン配列を持つ円周表面磁区と軸方向スピン配列を持つ中央コア部磁区の2相の磁区構造を形成した。表面磁区の厚みdを1μm以下とした。
【0041】
パルス電流の強度は、100mA以上としてワイヤ表面に60Gの十分大きな円周磁界Hθを発生させて、その磁界の力で表面磁区のθ傾斜したスピンを一斉に円周方向に回転を実現した。同時に2n(ナノ)秒のパルス持続時間を確保してコア部磁区と表面磁区との界面に存在する90度磁壁をコア中心部へ浸透させて、コア部磁区を縮小し、円周方向に磁化飽和またはそれに近い磁化状態にさせて磁化履歴を消去した。このパルス磁界アニーリング処理を測定ごとに行い、出力からヒステリシス特性を除去した。
【0042】
パルス周波数は、2GHzとして、電流の表皮深さpを0.12μmで円周表面磁区の厚みは1μm程度とした。上記特性の磁性ワイヤの長さは0.2mmとして、測定範囲±Hmは40Gに調整した。
【0043】
ナノコイル40の巻き数は250回、コイルピッチは0.6μm(600nm)、磁性ワイヤ30の長さ200μm、ナノコイル40の長さ150μmとした。また、コイル内径は20.5μm、コイル厚みは14.0μmとした。コイルアスペクト比は23となる。また、コイル線幅は0.3μm、コイル線の厚みは0.15μmとした。コイル抵抗はコイル長さ1mm当たり12kΩに調整した。
【0044】
次に、
図4〜9によりナノコイル40の製造方法を説明する。
先ず、溝21からなる立体パターンのナノコイル下部401とナノコイル接合部403を形成する。その工程について
図4〜
図9により説明する。
工程(1)で、基板20の長手方向に延在する溝21の底面、側面および基板20の上面に導電性金属を蒸着して厚み0.15μmの金属蒸着膜400を作製する(
図4)。
工程(2)で、厚み2μmのフィルムマスク基板材502とその上に厚み0.4μmの感光性フォトレジスト層501を形成してなるフィルムマスク母材50を作製する。フィルムマスク基板材502は水溶性のポリビニルアルコール膜である。この感光性フォトレジスト層501にフォトマスク62を載せ、紫外光60によってナノコイル下部に相当する微細パターンの露光を行なう(
図5)。
工程(3)で、感光性フォトレジスト層501が基板20の金属薄膜400に接するようにフィルムマスク50を載せる(
図6)。次に、基板20の溝21の内部に静電作用でフィルムマスク50を入り込ませて密着させる(
図7)。ポリビニルアルコールを水に浸けることにより溶解して取り除き、感光性フォトレジスト層501を現像し、固化して3次元マスク503を作製する(
図8)。
工程(4)では、金属蒸着膜400をエッチングし、固化した感光性レジスト層の3次元マスク503を剥離してナノコイル下部401とナノコイル接合部403を形成する(
図9)。
【0045】
基板20の溝21に形成された
ナノコイル下部401にガラス被覆した磁性ワイヤ30を配置し、磁性ワイヤ30の上部は絶縁性樹脂35で薄く覆われた状態で、磁性ワイヤ30を溝21内に固定する。この絶縁性樹脂35の上面と磁性ワイヤ30の上部および基板20の面は平坦状になるようにする。
【0046】
磁性ワイヤ30の上部に平面パターンのナノコイル上部402をフォトリソグラフィ技術により形成する。ナノコイル上部402は、厚み0.15μmの金属蒸着膜でクランク形状に形成し、ナノコイル接合部403を介してナノコイル下部401と電気的に結合されて螺旋状のナノコイル40が形成される。
ナノコイル40の端部にはナノコイル端子41を金属蒸着で形成する。ナノコイル端子41とナノコイル電極42との接合部は金属蒸着で接合される。
【0047】
磁性ワイヤ30の端部の構造について説明する。
絶縁性樹脂35によって基板20に固定されているガラス被覆した磁性ワイヤ30の端部の上部にある絶縁性樹脂35を除去し、次にガラスをCF
4ガスによるスパッタリングで除去する。こうして露出した磁性ワイヤ30の金属端部の表面に金属蒸着して磁性ワイヤ端子32とし、磁性ワイヤ端子31と磁性ワイヤ電極32との接合部も金属蒸着で形成して結合する。
【0048】
最後に、
図3により素子10についてコイル配線図を記載した素子101を説明する。
基板201の基板溝221に沿って磁性ワイヤ301および磁性ワイヤ301の2本設置し、磁性ワイヤ301に一対の左巻きナノコイル405Lと右巻きナノコイル405Rおよび磁性ワイヤ302に一対の左巻きナノコイル406Lと右巻きナノコイル406Rを設置する。
【0049】
両磁性ワイヤに反対向きのパルス電流が流れるようにするために、図中の左側磁性ワイヤの磁性ワイヤ通電用の磁性ワイヤ入力電極321、磁性ワイヤプラス端子311+、磁性ワイヤマイナス端子311−、両磁性ワイヤ接続部313、右側磁性ワイヤの磁性ワイヤプラス端子312+、磁性ワイヤマイナス端子312−、磁性ワイヤグランド電極322と接続する。
【0050】
ナノコイルの接続は、ナノコイル出力端子421から、右側の左巻きナノコイル406Lのナノコイル端子411、412に接続され、順次ナノコイル端子413、414、415、416、417、418と接続され、最後にナノコイルグランド端子422に接続される。
【0051】
ナノコイル電圧は磁性ワイヤにはパルス電流を通電した時、外部磁界に起因した出力電圧は右巻きナノコイル同士と左巻きナノコイル同士には同相電圧が生じるが、右巻きナノコイルと左巻きコイルとの間では逆相電圧が生じる。同じ巻き方向のナノコイルは順接合、異なる方向のナノコイル間は逆接合されて、4つのナノコイルに生じる電圧は全て加算される。
【0052】
静電電位差による誘導電圧は、ナノコイル405Lとナノコイル406Rは電流と反対向きに端子接続され、ナノコイル405Rと406Lは電流と同じ向きに端子接続がなされており、合計でキャンセルとなる。
【0053】
円周磁界がナノコイルに直接作る誘導電圧は、反対向きに電流が流れる二つのナノコイル406Lとナノコイル405Lの端子接続によりキャンセルされ、さらに反対向きに電流が流れる二つのナノコイル406Rとナノコイル405Rの端子接続によってキャンセルされ、結局4つのナノコイルに生じる電圧は全てキャンセルされる。
【0054】
配線ループに起因する誘導電圧は、二つの反対称性関係のあるループによってキャンセルされる。ナノコイル端子413、414、415、416で形成されるループと411、412、417、418で形成されるループとからなる二つのループは、同一方向向きの磁界を検知するがナノコイル電流の向きが反対なのでキャンセルことになる。
以上3つの要因による誘導電圧は全て消失する。
【0055】
ナノコイル型GSRセンサ素子のナノコイルの巻数とナノコイル抵抗は、500回で6kΩとし、磁性ワイヤの抵抗は8Ωに調整した。この素子101を
図10に示す電子回路70のパルス対応型バッファー回路73に接続してナノコイル付GSRセンサを作製し、素子を評価した。
電子回路70の構成を
図10に示す。パルス発信器71、素子101、パルス対応型バッファー回路74、サンプルホールド回路75、AD変換回路およびデジタル信号処理回路からなっている。
パルス発信器71から2GHzの換算周波数をもつパルス電流を素子に通電し、その時に発生するナノコイル電圧をパルス対応型バッファー回路74で検知する。このナノコイル抵抗は非常に大きいが、ナノコイルの寄生容量が極限的に抑制されるため、ナノコイルには極微小電流が流れるだけで、その電圧降下はナノコイル出力電圧の3.8%と非常に小さく電子回路は安定している。
【0056】
パルス対応型バッファー回路74の入力側回路73と出力側回路75はともに高インピーダンスで、通常のバッファー回路の概念、つまり入力側回路73は高インピーダンスで出力側回路74は低インピーダンスと大きく異なっている。しかし磁性ワイヤのパルス電流によってナノコイルに一瞬の電流が流れ、電子スイッチ76が開閉した一瞬のみ、つまり出力側のコンデンサ77が充電されるナノ秒以下の時間間隔のみバッファー回路として機能するパルス対応型バッファー回路74によってナノコイル電圧は減衰することなくコンデンサ77にサンプルホールドされ増幅器78を介して出力される。
【0057】
その後AD変換回路で14ビットのデジタル信号に変換され、デジタル信号処理回路に転送され、所定の処理が行われて磁界Hに変換されて、その値が出力される。またデジタル信号処理回路、直接の信号データを保存するメモリ部、信号補正プログラムと初期設定値を保存するメモリ部を有している。出力は2回の値を平均処理した。
【0058】
上記構成のナノコイル型GSRセンサの性能に関しては、マイクロコイルのGSRセンサに比べて、磁気信号ノイズは0.2mGから0.02mGへと10倍、感度は0.4mGから0.04mGと10倍へと大幅に向上している。なお、測定範囲は±50G、直線性は±0.1%、ヒステリシスは2mG、温度ドリフトは0.2mG/℃、測定間隔200Hzの場合の消費電流は0.1mA、素子サイズは長さ0.3mm×幅0.2mmとセンササイズは1×1×0.6mm である。
総合的視点でみれば、MIセンサ(商品AMI306)からマイクロコイルのGSRセンサへ160倍の性能指数の改善が行われ、さらに本発明のナノコイル付GSRセンサにより10倍の改善が行われたことになる。すなわち、MIセンサから
ナノコイル型GSRセンサへの改善効果は1600倍となる。
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の超高速スピン回転現象を基礎とした
ナノコイル型GSRセンサは、微小磁界検知能力に一層優れて、高速測定、高感度、低消費電流および良質な磁気信号を提供することができる。
そのため、電子コンパス、磁気ジャイロ等の微小な地磁気を測定して3次元方位計およびリアルタイム3次元方位計への応用、生体磁気を測定した医療用センサ、マイクロサイズ化して生体内部での応用、高速測定能力を活用した磁気マッピング応用、さらには測定範囲を拡大した産業用磁気センサなど、幅広い用途で、その使用が期待される。
【符号の説明】
【0061】
10:実施例1におけるナノコイル型GSRセンサ素子(平面図)
20:電極配線基板、30:磁性ワイヤ、31:磁性ワイヤ端子、32:磁性ワイヤ電極、40:ナノコイル、41:ナノコイル端子、42:ナノコイル電極
【0062】
10:実施例1における
ナノコイル型GSRセンサ素子(A−A’に沿う‘断面図)
20:基板、21:基板溝、30:磁性ワイヤ、35:絶縁性樹脂、401:ナノコイル下部、402:ナノコイル上部、403:ナノコイル接続部
【0063】
101:実施例1の
ナノコイル型GSRセンサ素子(コイル配線図)
201:基板、211:左側の磁性ワイヤ用の基板溝、222:右側の磁性ワイヤ用の基板溝
301:左側の磁性ワイヤ、302:右側の磁性ワイヤ、321:磁性ワイヤ入力電極、322:磁性ワイヤグランド電極、311+:左側磁性ワイヤの磁性ワイヤプラス端子、311−:左側磁性ワイヤの磁性ワイヤマイナス端子、312+:右側磁性ワイヤの磁性ワイヤプラス端子、312−:右側磁性ワイヤの磁性ワイヤマイナス端子、313:左側磁性ワイヤの磁性ワイヤマイナス端子と右側磁性ワイヤのプラス端子との接続部、
405L:左巻きナノコイル、405R:右巻きナノコイル、406L:左巻きナノコイル、406R:右巻きナノコイル、411〜418:ナノコイル端子
【0064】
20:ナノコイル下部形成における基板、21:ナノコイル下部形成における基板溝、400:金属蒸着膜、50:フィルムマスク母材(露光後は、フィルムマスクという。)、501:感光性フォトレジスト層、502:フィルムマスク基板材、503:三次元マスク、60:紫外光、62:フォトマスク
【0065】
70:電子回路、71:パルス発振器、72:タイミング調整回路、73:入力側回路、74:パルス対応型バッファー回路、75:出力側回路(サンプルホールド回路)、76:電子スイッチ、77:ホールドコンデンサ、78:増幅器
【要約】
【課題】 本発明は、超高速スピン回転効果を基礎としたGSRセンサの一層の高感度化を可能とするコイルピッチをナノレベルに微細化したナノコイル技術に関するものである。
【解決手段】 感光性フォトレジスト層とフィルムからなるフィルムマスクに、フォトマスクを平面密着して光の回折現象を回避した状態で微細パターンを露光し、このフィルムマスクの露光した感光性フォトレジスト層が基板溝内に密着するように貼り付ける方法であるフィルムマスク法で行う。次いで、フィルムを取り除き、残存する感光性フォトレジスト層を現像などのフォトリソグラフィ技術により作製したコイルピッチ0.2〜2μm未満のナノコイル型GSRセンサ素子とパルス対応型バッファー回路との組合せにより、GSRセンサの高感度化と電子回路の安定化を可能とする。
【選択図】
図8