(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに質量%で、Sn:0.005〜1.0%、Sb:0.005〜1.0%、Ga:0.0002〜0.3%、Ni:0.50%以下、Cu:1.50%以下、Mo:3.0%以下、B:0.003%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
さらに質量%で、W:0.50%以下、Co:0.50質量%以下、Mg:0.01%以下、Ca:0.0030%以下、Zr:0.30質量%以下、REM(希土類元素):0.20質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は普通鋼などに比較して耐食性に優れるため、金属光沢を意匠として有効に利用する目的で、防錆のためのコーティング処理を行わずに素地表面を露出させた状態で使用する場合が多い。しかし、厨房機器、家電製品、電子機器、器物などの製品のうちエレベーターや冷蔵庫、キッチンシンク、食器などの人目に触れ易い外装や日用品への適用においては、研磨によって一定の粗さ範囲での凹凸をもった筋模様を付与する、すなわち研磨目を付与することで防眩性や耐指紋汚れ性を向上させ、かつ表面の金属光沢を担保する場合がある。研磨目の付与には、ステンレス鋼板の製造ライン上において砥粒を接着剤で固着させた研磨ベルトを鋼板に対して押し当てる方法や、製品出荷後において砥粒を樹脂に混合して固めたスポンジで加工したステンレス製品を擦る方法や、砥粒を接着剤で固着させた研磨紙を束ねたものをリング状につないだホイール(フラップホイール)を回転させてステンレス鋼に押し付ける方法などがある。研磨目の表面粗度に関しては、日本工業規格で制定されているJIS G 4305に、冷間圧延ステンレス鋼板の表面仕上げとして、No.3、No.4、#240、#320、#400およびHLなどの記号によって、それぞれ所定の表面粗度を指定可能なことが規定されている。
【0003】
従来から研磨ベルトによる研磨の際には、冷却および研削性を向上させる目的で、研磨油が使用される。特許文献1には、摩擦熱による昇温時の研磨油自体の酸化防止剤、油膜切れの防止剤、および研削性の向上剤を研磨油に含有させることで酸化物の形成を抑制し、耐食性の低下を防いでいる。
【0004】
また、特許文献2には、表面の粗さである算術平均粗さRaが0.23以上で0.31μm以下の範囲となるようなJIS R 6001で規定する#400の砥粒に相当する研磨目を有し、表面の色調がLab系で赤色度を示すa値で1.0以下となるステンレス鋼製品を規定することによって、研磨による表面の酸化の程度が小さく、良好な耐食性を有することを記載している。
【0005】
また、特許文献3には、Moを添加したステンレス鋼において、焼鈍工程で表面に形成された緻密なMoに起因する酸化皮膜を除去し、研磨性を向上させる目的で、ハロゲンを含んだ酸処理をおこなっている。しかし、この時、溶解が不均一で、なおかつ粒界浸食もまた生じるために、Cr添加量を増やし、Cu、Niを添加し、さらにSiO
2酸化皮膜を残存させることで、研磨性に優れ、かつ耐食性に優れるステンレス鋼板の製造方法を記載している。
【0006】
また、特許文献4には、フェライトステンレス鋼板の研磨後に露点が−40℃以下の水素ガス雰囲気、いわゆるBA雰囲気中で、温度が1000℃以上、かつ当該温度に保持される時間が10秒以上となるように連続的に熱処理することによって、研磨で生成される酸化皮膜中の酸化物を還元することを特徴とする製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フェライト系ステンレス鋼は、研磨時の発熱による研磨焼けによって耐食性の低下を引き起こし易い。意匠性を創出するために、研磨目を付与する際には、これらの砥粒とステンレス素地の摩擦によって生じる熱により、研磨後の表面にFeを多く含む酸化物が形成される。このFeなどの酸化物へCl
-を含む水溶液が付着した場合、Feなどの酸化物は水溶液へ溶解した後、大気中の酸素と化学反応してFe(OH)
2などのような水酸化物を形成して、析出沈殿する。結果として、ステンレス表面に赤さびが発生し、素地の耐食性が低下したような外観となってしまう。
【0009】
特許文献1に記載の方法では、表面粗度が小さいステンレス鋼帯を研磨する時に、研磨抵抗が大きくなる場合、研磨油の工夫だけでは昇温を防ぐことができず、耐食性の低下を抑制することはできない。
【0010】
特許文献2に記載の範囲には、表面のRaと色調を規定しているが、多くの製品にはRaが0.35〜5.0μmとなるような比較的粗い研磨目が付与される。この場合、耐食性の低下を抑制することはできない。
【0011】
特許文献3に記載の方法では、焼鈍時に形成させた酸化皮膜を敢えて鋼板表面に残存させることによって、地鉄の溶解、特に、粒界における浸食を最小限に抑制し、研磨後の耐食性を確保しているが、比較的粗い研磨目を付与する場合、例え焼鈍後の酸洗工程を工夫して焼鈍時の酸化皮膜を残したとしても、研磨時に全ての酸化皮膜は除去されてしまうため、耐食性の低下を抑制することはできない。
【0012】
特許文献4に記載の方法では、BA雰囲気とするため、製造コストが高くなる。
【0013】
本発明の目的は、より粗い研磨を施した場合においても、耐食性が低下するのを抑制するフェライト系ステンレス鋼、およびより少ない工程で耐食性の低下を抑制することができるフェライト系ステンレス鋼研磨仕上げの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、従来技術が抱える上記問題点を解決し、研磨後の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を開発するべく、研磨後の表面に形成された酸化物構造と塩水中での耐食性について鋭意検討を重ねた。その結果、Nb+5Vが0.35以上2.0以下となるようにNbとVの微量添加および調質圧延の圧下率を高くする製造方法の適用によるステンレス鋼の硬化によって、研磨時の研削量を抑制し、発熱を抑えることができることを知見した。これによって、塩水中での赤さびの原因となるFeを多く含む酸化物の形成を抑制する。また、Snを微量添加すると、NbやVと同様にステンレス鋼の硬化に寄与するだけでなく、表面酸化物中のFeの濃化を低下することができることも知見した。
【0015】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.030%以下、N:0.030%以下、Si:0.01〜0.50%、Mn:1.5%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:12〜25%、Nb:0.01〜1.0%、V:0.010〜0.50%、Ti:0.60%以下、Al:0.80%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ式(A)を満たし、さらに表面の算術平均粗さRaが0.35〜5.0μmとなるような研磨目を有し、表面の色差L
*値が70以上の値をとることを特徴とする、フェライト系ステンレス鋼。
0.35≦Nb+5V≦2.0・・・式(A)
(2)さらに質量%で、Sn:0.005〜1.0%、Sb:0.005〜1.0%、Ga:0.0002〜0.3%、Ni:0.5%以下、Cu:1.5%以下、Mo:3.0%以下、B:0.003%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする、(1)に記載の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
(3)さらに質量%で、W:0.50%以下、Co:0.50質量%以下、Mg:0.01%以下、Ca:0.0030%以下、Zr:0.30質量%以下、REM(希土類元素):0.20質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼。
(4)圧下率が0.5〜5.0%の調質圧延を行うことを特徴とする、耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、比較的粗い粗度の研磨をおこなった場合でも耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼を得ることを、耐食性試験結果で確認している。そのため、塩素を含む水道水が接する屋内での用途に対し、良好な耐食性が得られるフェライト系の鋼種で、研磨をおこなっても耐食性を低下させないようにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼成分の詳細な規定について以下に説明する。
【0019】
C:0.030質量%以下
Cは、硬化や安定化元素との組合せによる結晶粒粗大化抑制による強度向上等の効果があるが、溶接部の耐粒界腐食性、加工性を低下させる。高純度系フェライト系ステンレス鋼ではその含有量を低減させる必要があるため、上限を0.030質量%とした。過度に低減させることは精錬コストを悪化させるため、より望ましくは、0.002〜0.020質量%である。
【0020】
N:0.030質量%以下
Nは、Cと同様に耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低減させる必要があることから、その上限を0.030質量%とした。ただし過度に低減させることは精錬コストを悪化させるため、より望ましくは、0.002〜0.020質量%である。
【0021】
Si:0.01〜0.5質量%
Siは、一般的に耐食性、耐酸化性に有効であり、脱酸剤として添加する元素であるため、下限値は0.01質量%である。また、金属組織を硬化するため、研磨時の研削量を低減することができる。しかし、靭性の低下を引き起こし易く、加工性、製造性を低下させる。そのため上限は0.5質量%とした。望ましくは、上限値は0.3質量%未満である。下限値は望ましくは0.08質量%以上である。
【0022】
Mn:1.5質量%以下
Mnは、脱酸元素として重要な元素であるが、過剰に添加すると腐食の起点となるMnSを生成しやすくなるので、上限を1.5質量%とした。脱酸元素として使用するので0.01質量%以上が好ましい。またフェライト組織を不安定化させるため、その含有量を0.01〜0.60質量%とするのが好ましい。より望ましくは、0.05〜0.3質量%である。Mnは含有しなくてもよい。
【0023】
P:0.04質量%以下
Pは、溶接性、加工性を低下させるだけでなく、粒界腐食を生じやすくもするため、低く抑える必要がある。そのため含有量を0.04質量%以下とした。より望ましくは0.001〜0.03質量%である。
【0024】
S:0.01質量%以下
Sは、先述のCaSやMnS等の腐食の起点となる水溶性介在物を生成させるため、低減させる必要がある。そのため含有率は0.01質量%以下とする。ただし過度の低減はコストの悪化を招くため、より望ましくは0.0001〜0.006質量%である。
【0025】
Cr:12〜25質量%
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保する上で最も重要な元素であり、フェライト組織を安定化するので少なくとも12質量%は必要である。Crは前述したSiと同様に表面の酸化皮膜中に濃化し、Feの濃化を相対的に抑制することで、研磨後の赤さび発生を抑える。Crを増加させると、研磨後の耐食性も向上するが、加工性、製造性を低下させるため、上限を25質量%とした。望ましくは13.5〜22.5質量%であり、より望ましくは16.0〜21.0質量%である。さらに好ましくは、16.5〜20.0%である。
【0026】
Nb:0.01〜1.0質量%
Nbは、本発明に重要な元素であり、炭化物または窒化物として析出すると、金属組織を硬化させる働きをもち、研磨時の研削量を抑え、結果として研磨熱を抑制し、酸化物形成を抑える。また、Tiと同様にC、Nを固定し、溶接部の粒界腐食を抑制し加工性を向上させる上で非常に重要な元素であるため、下限を0.01%とする。ただし過剰な添加は、過剰な析出によって靭性低下を引き起こし、加工性を低下させるため、上限は1.0質量%以下とするのが良い。下限値は0.03質量%以上であってもよい。0.05質量%以上が望ましく、より望ましくは0.08質量%以上である。望ましい範囲は0.10〜0.30%である。より望ましい範囲は、0.10〜0.20質量%である。
【0027】
V:0.010〜0.50%質量%
Vは、本発明に重要な元素であり、金属組織を硬化させる働きをもち、結果として研磨熱を抑制し、酸化物形成を抑える。さらに、Vを添加すれば耐銹性や耐すき間腐食性を改善するためのCr、Moの使用量を抑えて優れた耐食性を示すことができ、また加工性も担保することができる。下限は0.01質量%が良い。ただしVの過度の添加は加工性を低下させる上、耐食性向上効果も飽和するため、上限を0.50質量%とする。望ましくは0.2質量%である。より望ましくは0.05〜0.15質量%である。
【0028】
Nb+5V:0.35〜2.0質量%
本発明では、Nb+5Vを式(A)の範囲に制御する。0.35を下回る場合、硬度が足りず、研磨時に発生する熱を抑制することができないため、結果として研磨後の耐食性を保つことができない。一方で、2.0を上回る場合、硬度は十分であるが、加工性が極端に低下し、製造性を低下させる。
0.35≦Nb+5V≦2.0・・・式(A)
【0029】
Al:0.80質量%以下
AlはSiと同様に脱酸元素として重要であり、また非金属介在物の組成を制御し組織を微細化する効果もある。しかし過剰に添加すると非金属介在物の粗大化を招き、製品の疵発生の起点になる恐れもある。そのため、上限値を0.80%とした。下限値は0.01質量%が望ましい。望ましくは0.01%〜0.80%である。さらに望ましくは0.03〜0.5質量%である。Alは含有しなくてもよい。
【0030】
Ti:0.60質量%以下
Tiは、一般にはフェライト系ステンレス鋼の溶接部においてC、Nを固定することで、粒界腐食を抑制させ、加工性を向上させる重要な元素である。しかしながら過剰な添加は製造時の表面疵の原因となるため、その範囲を0.60質量%以下とした。Tiは含有しなくても良いが、下限値は0.03質量%以上であってもよい。0.05質量%以上が望ましく、より望ましくは0.08質量%以上である。望ましい範囲は0.08〜0.30質量%とする。より望ましい範囲は、0.08〜0.20質量%とした。
【0031】
さらに本発明で規定される選択的に含有することができる他の化学組成について以下に詳しく説明する。
【0032】
Sn:0.005〜1.0質量%
SnはSiと同様に金属組織を硬化するため、研磨時の研削量を低減することができ、結果として研磨熱を抑制し、酸化物形成を抑える重要な元素である。同時に、腐食速度を抑制し、研磨後の耐流れさび性を向上させるのに重要な元素である。0.005質量%以上で効果を発現するので、下限値を0.005質量%とした。0.05質量%以上が望ましく、さらに0.08質量%以上が望ましい。過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、上限は1.0質量%とした。望ましくは0.5質量%とした。さらに望ましくは0.4%以下である。したがって、Snの範囲は0.005〜1.0%とした。望ましくは0.05〜0.5%である。より望ましくは0.08〜0.4%である。
【0033】
Cu:1.5質量%以下
Cuは、必須ではないが、スクラップを原料として用いた場合に不可避不純物として0.01質量%以上含まれ得る。一般に、Cuは腐食速度を抑制するため、Snと同様に研磨後の耐流れさび性を向上するために必要に応じて添加する。0.05質量%以上添加すると良い。望ましくは、0.09質量%以上であり、更に望ましくは0.15質量%以上である。しかし、過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、上限は1.5質量%とした。望ましくは、1.0質量%以下である。より望ましくは0.50質量%である。従って、望ましい範囲は0.05〜1.0質量%であり、より望ましくは0.09〜0.50質量%である。
【0034】
Ni:0.50質量%以下
Niは、必須ではないが、含有すれば活性溶解速度を抑制させ、かつ不働態化に非常に効果がある。しかし、過剰な添加は、加工性を低下させ、フェライト組織を不安定にするだけでなくコストも悪化するため、0.50質量%以下とした。望ましくは0.35質量%未満とした。下限は0.05質量%以上が良い。望ましくは0.05質量%以上、0.35質量%未満である。
【0035】
Mo:3.0質量%以下
Moは、不働態皮膜の補修に効果があり、耐食性を向上させるのに非常に有効な元素で特にCrとの組み合わせで耐孔食性を向上させる効果がある。しかし、Moを増加させると耐食性は向上するが、加工性を低下させ、またコストが高くなるため上限を3.0質量%とする。より望ましくは、0.30〜2.00%である。
【0036】
B:0.003質量%以下
Bは二次加工脆性改善に有効な粒界強化元素であるため、必要に応じて添加することができる。しかし、過度の添加はフェライトを固溶強化して延性低下の原因になる。このため上限は0.003質量%とする。下限を0.0001質量%とすると好ましい。より望ましくは0.0002〜0.0020質量%である。
【0037】
W:0.50質量%以下
Wは、高温強度の向上に有効であり、必要に応じて0.01%以上で添加する。また、0.50%を超えて添加すると固溶強化が大きすぎて機械的性質が低下するため、0.01〜0.50%で添加する。製造コストや熱延板靭性を考慮すると、0.02%〜0.15%とすることが望ましい。
【0038】
Co:0.50質量%以下
Coは、耐摩耗性の向上や高温強度の向上に有効であり、必要に応じて0.01%以上で添加する。また、0.50%を超えて添加してもその効果は飽和し、固溶強化による機械的性質の劣化を生じるため、0.01〜0.50%で添加する。製造コストや高温強度の安定性の点から、0.05%〜0.20%とすることが望ましい。
【0039】
Mg:0.01質量%以下
Mgは、製鋼工程における凝固組織の微細化に有効な元素であり、必要に応じて0.0003%以上で添加する。また、0.01%を超えて添加してもその効果は飽和し、Mgの硫化物や酸化物に起因する耐食性の低下を生じ易くなるため、0.0003〜0.01%で添加する。製鋼工程におけるMg添加はMgの酸化燃焼が激しく歩留まりが低くなりコストの増加が大きいことを考慮すると、0.0005%〜0.0015%とすることが望ましい。
【0040】
Ca:0.0030質量%以下
Caは、製鋼工程における重要な脱硫元素であり、脱酸素効果も有するため、必要に応じて0.0003%以上で添加する。また、0.0030%を超えて添加してもその効果は飽和し、Caの粒化物に起因する耐食性の低下や、酸化物に起因する加工性劣化を生じるため、0.0003〜0.0030%で添加する。スラグ処理等の製造性を考慮すると、0.0005%〜0.0015%とすることが望ましい。
【0041】
Zr:0.30質量%以下
Zrは、NbやTiなどと同様に炭窒化物を形成してCr炭窒化物の形成を抑制し耐食性を向上させるため、必要に応じて0.01%以上で添加する。また、0.30%を超えて添加してもその効果は飽和し、大型酸化物の形成により表面疵の原因にもなるため、0.01〜0.30%で添加する。Ti,Nbに較べると高価な元素でありため製造コストを考慮すると、0.02%〜0.05%とすることが望ましい。
【0042】
REM(希土類元素):0.20質量%以下
REMは、耐酸化性の向上に有効であり、必要に応じて0.001%以上で添加する。また、0.20%を超えて添加してもその効果は飽和し、REMの粒化物による耐食性低下を生じるため、0.001〜0.20%で添加する。製品の加工性や製造コストを考慮すると、0.002%〜0.05%とすることが望ましい。
【0043】
REM(希土類元素)は、一般的な定義に従う。スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。単独で添加しても良いし、混合物であっても良い。
【0044】
Sb:0.005〜1.0質量%
Snと同様の作用効果を発現する元素として、添加してもよい。下限は0.005%とした。0.05質量%以上が望ましく、さらに0.08質量%以上が望ましい。過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、上限は1.0質量%とした。望ましくは0.5質量%とした。さらに望ましくは0.4%以下である。したがって、Sbの範囲は0.005〜1.0%とした。望ましくは0.05〜0.5%である。より望ましくは0.08〜0.4%である。
【0045】
Ga:0.0002〜0.3%
Gaは、耐食性向上のため、0.3%以下で添加しても良い。下限は0.0002%とする。0.0020%以上が更に好ましい。
【0046】
その他の成分について本発明では特に規定するものではないが、本発明においては、また、Ta、Bi等を必要に応じて添加してもかまわない。なお、As、Pb等の一般的な有害な元素や不純物元素はできるだけ低減することが好ましい。
【0047】
次に、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼の表面特性の規定について以下に説明する。
【0048】
本発明のステンレス鋼板は、表面の算術平均粗さRaが0.35〜5.0μmとなるような研磨目を有する。Raが0.35μm以上では特許文献2に記載の方法でも耐食性の低下を防止することができず、本発明ではじめて耐食性の低下を防止することができる。そこで、本発明のRaの下限を0.35μmとした。一方、Raが5.0μmを超えるような研磨が施される例はほとんどないため、Raの上限を5.0μmとした。
【0049】
本発明の鋼成分、特にNbとVおよびNb+5Vの含有量を本発明範囲とするとともに、表面の色差L
*値が70以上の値であれば、硬度が十分であり、研磨による発熱が少なく、Raが0.35μm以上の研磨目を有する研磨を行った場合においても、酸化物の形成が少なく、耐食性の低下を防止することが可能となる。
【0050】
また、本発明の鋼成分を含有し、請求項4に記載の次頁の製造方法のところで説明するような、圧下率が0.5%以上5.0%以下の調質圧延を行うことによって、表面の色差L
*値を70以上とすることができる。
【0051】
本発明では、Nb+5Vを式(A)の範囲に制御する。
図1はNb+5Vと、色差計で測定するL
*値の関係おける、塩水噴霧試験後の耐食性評価値による判定について示すグラフである。
図1において、○はL
*が合格、×はL
*が不合格である。×のうち、太字の×は式(A)のみが外れその他の成分は本発明範囲内の事例、細字の×は式(A)以外の成分が本発明範囲外であった事例である。Nb+5Vの値が0.35以上かつ各成分が本発明範囲内であれば、圧下率が0.5%以上5.0以下の調質圧延を行うことによって、十分な硬度が得られ、Raが0.35〜5.0μmとなるような研磨を行った場合においても、研磨による発熱が抑制されると同時に、酸化物の形成もまた抑制されるため、表面の色差L
*値が70以上の値を示す。このようなL
*値を示す場合、塩水噴霧試験における耐食性評価では良好な耐食性を示す。
0.35≦Nb+5V≦2.0・・・式(A)
【0052】
次に、本発明に係るステンレス鋼板の製造方法について説明する。
【0053】
上述した適正な成分組成を有する鋼を公知の方法で溶製し、連続鋳造等公知の方法でスラブとし、当該スラブを1100〜1200℃に再加熱後、仕上げ温度を700〜900℃とする熱間圧延をおこない、熱延鋼帯とする。ついで、この熱延鋼帯を800〜1100℃の温度で焼鈍し、酸洗し、仕上げ厚さを6.0mm以下の冷延鋼帯とする。これを、コークス炉燃焼ガス雰囲気下で、例えば、950℃×60秒程度の焼鈍を施し、その後、ソルト処理したのち、硝弗酸溶液への浸漬処理、または中性塩中での電解処理を施す。この冷延鋼帯に、0.5%以上5.0%以下の圧下率の調質圧延をおこなうことにより、硬化させる。5.0%超の圧下率で圧延することは設備の能力限界及び表面疵の発生に繋がる可能性があるため適用する場合には設備面や表面疵対策を講じる必要がある。通常の調質圧延では圧下率は0.5%未満である。本発明においては、0.5%以上の圧下率において、Nb含有量を0.10〜1.0質量%、V含有量を0.040〜0.20質量%でかつ(A)式0.35≦Nb+5V≦2.0を満たすことと相まって、硬質化する効果が認められた。1%以上が望ましい。前記の設備能力や表面疵を考慮すると、上限は4%が望ましい。この硬化によって、表面を研磨する際の発熱を抑制することができる。
【0054】
次に表面に意匠性として研磨目を付与するため、ステンレス鋼板の製品板または加工後の製品に対して、算術平均粗さRaが0.35〜5.0μmとなる研磨をおこなう。研磨に使用する研磨ベルトに付着している砥粒は、使用距離が増す、すなわち同じベルト部位が継続して使用され、ベルトに付着した砥粒が摩耗または脱落していくと、新品の状態と比較して砥粒のサイズが細かくなっていく。一般的にこれは目殺しと呼ばれ、実質的な番手は大きくなっていく。そのため、仕上げ時の表面粗さが任意のRaとなるように番手と使用距離を変化させることができる。
【0055】
上記に規定の調質圧延をおこなって硬化を施すことによって、比較的粗い研磨をおこなったとしても研磨時に研削量を低減させ、昇温を抑制する。この昇温抑制効果によって、表面にFeを多く含む酸化物の形成が抑制され、表面の色差L
*値が70以上の値をとる。また、Snを微量添加することによっても、NbやVの添加と同様にステンレス鋼の硬化に寄与するだけでなく、表面酸化物中のFeの濃化を低下することができる。
【実施例】
【0056】
表2に示す成分組成を有する本発明鋼の記号A1〜A25、および比較鋼B1〜B15を真空溶解炉で溶製し、鋳造して30kgの鋼塊を得、この鋼塊を1150℃に加熱し、1150〜900℃の温度範囲で熱間圧延をおこない、板厚が3mmの熱延板とした。ついで、これらの熱延板を950℃で焼鈍したのち冷間圧延と焼鈍を繰り返して、板厚が1.0mmの冷延板とした。その後、表面のスケールを除去するために、ソルト処理したのち、硝弗酸溶液への浸漬処理、または中性塩中での電解処理を施した。この冷延板を硬化させるために、表1に示すように最大5.0%の圧下率で冷間圧延をおこなった。
【0057】
次に表面に算術平均粗さRaが0.35〜5.0μmの範囲となるような任意の砥粒サイズを有した研磨ベルトで研磨をおこなった。RaはJIS B0601に準じて、測定長さ5mm、測定速度0.60mm/s、カットオフ波長0.8mmで測定した。表1にRaを示す。
【0058】
上記のようにして得た各種ステンレス鋼の表面を、色差測定、および耐食性評価をおこなった。また、各種評価は下記の要領でおこなった。
【0059】
<色差測定>
JIS Z8730に準じて、測定面積φ10mmで、コニカミノルタ社製のCR−200bを用いて、n数3回の平均値を算出した。数値はL
*a
*b
*表色系を用い、輝度を表すL
*を指標として用いた。
【0060】
<耐食性試験>
耐食性は、上記研磨後のサンプルを用いて、JIS Z2371に規定される塩水噴霧試験(SST)により評価した。塩水噴霧試験の条件は、5質量%の塩化ナトリウム水溶液を、温度35℃で96時間噴霧し続けた。
【0061】
<耐食性評価>
耐食性評価は表面のさび発生程度に基づいておこない、A〜Gの7段階で評価結果を示す。耐食性評価結果は、Aが最も良く、Gが最も悪い結果を示す。塩水噴霧試験は、5%の塩化ナトリウム水溶液を35℃で96時間噴霧し続けた。具体的な耐食性の評価基準を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
(A)式Nb+5Vの値、色差測定によるL
*値、および耐食性評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2-1】
【表2-2】
【0065】
表2−1から明らかなように、本発明を適用した本発明例では、耐食性が良好であった。
【0066】
B1はSi添加量が多いため、靭性の低下を引き起こし、加工性および製造性を低下させるため、本発明には不適切である。
B2、B3はC又はN添加量が多いため、粒界腐食が進展し易く、耐食性の低下を引き起こし、本発明には不適切である。
B4はCr添加量が少ないため、耐食性の低下を免れない。
B5、B6はMnまたはS添加量が多いため、腐食の起点となるMnSを生成し易くなり、耐食性の低下を引き起こす。
B7、B8はAlまたはTi添加量が多いため、非金属介在物を粗大化させ、表面疵の発生が認められるため、本発明には不適切である。
B9、B10、B11、B12、B13、B14はCrまたはNb、V、Cu、Sn、Ni添加量が多いため、加工性および製造性を低下させ、さらにコスト増となるため、本発明には不適切である。
B15はA28〜30と同成分であるが、圧下率が低いため、十分な硬度を得られず、耐食性の低下を免れないことから、本発明には不適切である。
B16,17,18はA式:Nb+5Vの値またはNb、Vのいずれかが低いため、十分な硬度を得られず、耐食性の低下を免れないことから、本発明には不適切である。