(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、昇華性を備え、溶融相を持たない金属窒化物の粒子を主成分とする原料粉末を、有機溶媒に分散させてスラリーを得るスラリー調製工程と、溶射装置から噴出するフレーム中における前記原料粉末の温度が前記金属窒化物の昇華温度よりも低く、かつ、前記フレーム中における前記原料粉末の速度が500〜1500m/sとなるように、前記フレームへ前記スラリーを供給してフレーム溶射し、基材の表面に皮膜を形成する皮膜形成工程と、を備える、皮膜付き基材の製造方法である。
このような皮膜付き基材の製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0013】
本発明の製造方法が備える各工程について説明する。
【0014】
<スラリー調整工程>
初めに、スラリー調整工程について説明する。
本発明の製造方法においてスラリー調整工程では、昇華性を備え、溶融相を持たない金属窒化物の粒子を主成分とする原料粉末を、有機溶媒に分散させてスラリーを得る。
【0015】
原料粉末について説明する。
原料粉末は、昇華性を備え、溶融相を持たない金属窒化物の粒子を主成分とする。
【0016】
ここで、昇華性を備え、溶融相を持たない金属窒化物とは、融点よりも低い温度で蒸発し、常圧下、融点においては気体で存在する金属窒化物を意味するものとする。
【0017】
このような金属窒化物として、例えば、AlN、BN、Si
3N
4、NbN、GaN、InN、ScN、YN、LaN、Ge
3N
4、Sn
3N
4、TiN、ZrN、HfN、Th
3N
4、VN、TaN、CrN、Mo
2N、WN、Fe
4N、LaN、CeN、GdNが挙げられる。
【0018】
また、「主成分」とは、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは実質的に100質量%(すなわち、原料や製造工程から混入し得る不可避的不純物以外は前記金属窒化物の粒子以外のものを含まないこと)であることを意味する。
以下において特に断りがない限り「主成分」の文言は、このような意味で用いるものとする。
【0019】
原料粉末は、前記金属窒化物を主成分とし、前記金属窒化物以外のものを含んでもよい。原料粉末が含んでもよい前記金属窒化物以外の成分として、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属水酸化物などが例示される。金属窒化物がAlNの場合、その他の成分として、CaO、Y
2O
3、Al
2O
3、Ln
2O
3、La
2O
3、CeO
2、Nb
2O
3、Sm
2O
3、Gd
2O
3、Dy
2O
3を含んでもよい。
【0020】
原料粉末は、粒子径が0.01〜30μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましい。
また、原料粉末は、平均粒子径(メジアン径)が0.01〜30μmであることが好ましく、0.5〜3μmであることがより好ましい。
ここで原料粉末の粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定して求める値とする。
また、原料粉末の平均粒子径は、従来公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて積算粒度分布(体積基準)を測定して求める値とする。
【0021】
スラリーについて説明する。
スラリー調整工程では、上記のような原料粉末を有機溶媒に分散させてスラリーを得る。
【0022】
有機溶媒は従来公知のものを用いることができ、例えばアルコール類を用いることができる。アルコール類としてはエチルアルコール、メチルアルコール、灯油が挙げられる。有機溶媒としてエチルアルコールを用いることが好ましい。
有機溶媒としてアルコール類を用いると(好ましくは冷却されたアルコール類を用いると)、スラリーがフレーム内へ供給されて有機溶媒が気化する際に気化熱によってフレームの温度を低下させ得る。そして、原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま皮膜を構成し易くなり、より耐電圧が高く、かつ、より熱伝導率が高い金属窒化物の皮膜を基材の表面に形成することができるからである。
【0023】
このような有機溶媒へ前記原料粉末を添加し、必要に応じて超音波発信機等を用いて撹拌等することで分散させて、スラリーを得ることができる。
スラリー中に含まれる原料粉末の含有率は1〜90質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましい。
【0024】
<皮膜形成工程>
皮膜形成工程について説明する。
本発明の製造方法において皮膜形成工程では、溶射装置から噴出するフレーム中における前記原料粉末の温度が前記金属窒化物の昇華温度よりも低く、かつ、前記フレーム中における前記原料粉末の速度が500〜1500m/sとなるように、前記フレームへ前記スラリーを供給してフレーム溶射し、基材の表面に皮膜を形成する。
【0025】
フレーム溶射を行う溶射装置は、例えば
図1に示すフレーム溶射装置を用いることができる。
図1において溶射装置10は、内部に燃焼室12を有し、この燃焼室12へ酸素含有気体を供給するための酸素流路14および主燃料を供給するための主燃料流路16と、これら酸素含有気体と主燃料との混合体に点火するためのバーナ18とを有する。また、燃焼室12にはバーナ18に対向する側に、フレームを噴出させるための孔(ガンノズル20)が形成されており、さらにガンノズル20の外側には中心に孔を有する円筒状の先端筒22が設置されていて、ガンノズル20および先端筒22の孔から外側へ向かってフレームを噴出させることができる。先端筒22の孔を大きさを調整することで、フレームの速度を調整することができる。
【0026】
先端筒22にはスラリー供給流路24が形成されていて、ここからフレーム内へ前記スラリーを供給する。また、先端筒22には、さらに補助燃料供給流路26が形成されていて、ここからフレームへ補助燃料を供給することができる。
【0027】
ガンノズル20には圧縮空気供給流路28が形成されていて、ここから供給された圧縮空気が先端筒22に形成された孔の内側側面に沿って流れるように供給される。これによってスラリー供給流路24から供給されたスラリーが先端筒22が有する孔の内側側面に付着しないように構成されている。
【0028】
例えば
図1に示した溶射装置10を用いる場合、皮膜形成工程では、溶射装置10から噴出するフレーム中における前記原料粉末の温度が前記金属窒化物の昇華温度よりも低く、かつ、前記フレーム中における前記原料粉末の速度が500〜1500m/sとなるような条件において、前記フレームへ前記スラリーを供給してフレーム溶射する。
【0029】
ここで原料粉末の温度および速度は、フレーム溶射装置における先端筒の先端から基材の主面までの長さを100%とし、先端筒の先端を0%の位置、基材の主面を100%の位置とした場合、65%の位置から85%の位置までの範囲におけるフレーム内に存在する原料粉末の温度および速度を意味するものとする。なお、原料粉末の温度および速度は、従来公知の溶射粒子温度測定装置(例えば、Oseir社製、スプレーウォッチ3i)を用いて測定することができる。
【0030】
このようにして測定される原料粉末の温度が、前記金属窒化物の昇華温度よりも低くなるようにする。例えば金属窒化物が窒化アルミニウムである場合、フレーム中における原料粉末(窒化アルミニウム)の温度を1900〜2500℃とすることが好ましく、2030〜2450℃とすることがより好ましい。このフレーム中における原料粉末(窒化アルミニウム)の温度は、補助燃料(アセチレン等)を用いる場合、1900〜2200℃とすることが好ましく、補助燃料を用いない場合、2300〜2500℃とすることが好ましい。
後述するように、酸素含有気体の供給圧力、主燃料の供給圧力、補助燃料の供給圧力等を最適化することによって、原料粉末の温度が前記金属窒化物の昇華温度よりも低くなるように調整することができる。
【0031】
また、このようにして測定される原料粉末の速度が、500〜1500m/sとなるようにする。この速度は600〜900m/sとなるようにすることが好ましい。
後述するように、酸素含有気体の供給圧力、主燃料の供給圧力、補助燃料の供給圧力等を最適化することによって、原料粉末の速度を500〜1500m/sとなるように調整することができる。
【0032】
図1に示した溶射装置を用いる場合、次のようにフレーム溶射して、皮膜形成工程を行うことができる。
【0033】
図1に示した溶射装置10における酸素流路14および主燃料流路16から酸素含有気体および主燃料を供給する。
【0034】
ここで酸素含有気体は酸素を含む気体、例えば空気であってよく、酸素と空気とを混合した気体であってもよい。酸素含有気体は酸素であることが好ましい。
【0035】
酸素含有気体は、圧力を30〜150psiとして供給することが好ましく、55〜125psiとして供給することがより好ましく、60〜90psiとして供給することがより好ましく、65〜80psiとして供給することがさらに好ましい。
【0036】
酸素含有気体は、流量400〜1000L/minで供給することが好ましく、600〜900L/minで供給することがより好ましく、700〜800L/minで供給することがさらに好ましい。
【0037】
主燃料は、圧力を20〜140psiとして供給することが好ましく、40〜130psiとして供給することがより好ましく、45〜120psiとして供給することがより好ましく、47〜115psiとして供給することがさらに好ましい。
【0038】
主燃料は、流量100〜500ml/minで供給することが好ましく、150〜
400ml/minで供給することがより好ましく、200〜350ml/minで供給
することがさらに好ましい。
【0039】
ここで主燃料としては、灯油、アセチレン、プロピレン、プロパン、エチレン、天然ガス等を用いることができる。主燃料は、これらの中でも、灯油であることが好ましい。
【0040】
また、酸素含有気体および主燃料の混合比は特に限定されないが、主燃料が不完全燃焼する混合比であることが好ましい。不完全燃焼させると、燃焼しなかった一部の主燃料や、スラリー中の有機溶媒(アルコール類等)が気化する際の気化熱によって、フレームの温度を低下させ、その結果、原料粉末の少なくとも一部が未変質のまま皮膜を構成し易くなり、より耐電圧が高く、かつ、より熱伝導率が高い金属窒化物の皮膜を基材の表面に有する皮膜付き基材を製造しやすくなるからである。
なお、ここでは、後述する補助燃料ならびにスラリーおよび圧縮空気に含まれ得る酸素については考慮せずに、酸素含有気体および主燃料の混合比のみを、主燃料が不完全燃焼するように調整することが好ましい。
【0041】
このようにして酸素含有気体および主燃料を燃焼室へ供給して混合し、得られた混合体に点火してフレームを発生させる。そして、フレームの内部へ前記スラリーを供給する。
ここで、スラリーを気体と混合した後、フレームへ投入することが好ましい。気体は空気であることが好ましい。より耐電圧が高く、かつ、より熱伝導率が高い金属窒化物の皮膜を形成することができるからである。
【0042】
スラリー供給量は20〜80ml/minであることが好ましく、30〜60ml/minであることがより好ましい。
スラリー中の固形分濃度は10〜60質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましく、15〜40質量%であることがより好ましく、20〜38質量%であることがより好ましく、25〜35質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
圧縮空気は用いなくてよいが、用いる場合、圧縮空気の圧力を0.2〜1.5MPaとして供給することが好ましく、0.3〜0.8MPaとして供給することがより好ましい。また、圧縮空気は、流量を250〜2000L/minとして供給することが好ましく、400〜800L/minとして供給することがより好ましい。
なお、圧縮空気の代わりに、圧縮されていない気体(例えば大気)を利用することができる場合もある。
【0044】
皮膜調整工程では補助燃料を用いることが好ましい。補助燃料を用いて、フレームの温度を調整することができる。
補助燃料をフレームに供給すると、補助燃料がフレーム内へ供給されて気化する際に気化熱によってフレームの温度を低下させることもできる。この場合、原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま皮膜を構成し易くなるので好ましい。
【0045】
補助燃料として、アセチレン、メタン、エタン、ブタン、プロパン、プロピレンを用いることができる。
【0046】
補助燃料は、圧力を0.05〜1.0MPaとして供給することが好ましく、0.1〜0.5MPaとして供給することがより好ましい。また、補助燃料は、流量を5〜100L/minとして供給することが好ましく、10〜30L/minとして供給することがより好ましい。
【0047】
図1に示した溶射装置10を用いる場合、先端筒22の先端から基材の主面までの距離を10〜250mmとすることが好ましく、70〜150mmとすることがより好ましい。
【0048】
基材について説明する。
基材は特に限定されず、アルミニウム、ステンレス、ガラス(石英ガラスや無アルカリガラスなど)、セラミック(Y
2O
3、AlN、Al
2O
3などからなる焼結体など)、カーボン等が挙げられる。
特にAlNからなるセラミック基材の表面にAlNからなる皮膜を形成した皮膜付き基材は、プラズマ耐性が高く、かつ、放熱性が極めて高い点で極めて優れている。
【0049】
基材の大きさや形状は特に限定されないが、板状のものであることが好ましい。本発明の製造方法では、このような板状の基材(基板ともいう)の主面上に皮膜を形成することが好ましい。
【0050】
皮膜形成工程では、有機溶媒や補助燃料の種類や供給量等を調整して、前記原料粉末の少なくとも一部が未溶融状態のまま皮膜を構成する処理条件でフレーム溶射することが好ましい。
【0051】
前記皮膜形成工程では、30〜150psiの供給圧力に調整した酸素含有気体(好ましくは酸素)と、20〜140psiの供給圧力に調整した主燃料(好ましくは灯油)とを混合ガスを得た後、得られた混合ガスに点火して前記フレームを生じさせ、そのフレームへ、前記スラリーに加え、15〜30psiの供給圧力に調整した補助燃料(好ましくはアセチレン)を供給してフレーム溶射することが好ましい。ここで、スラリー供給量が20〜80ml/minであることが好ましく、30〜60ml/minであることがより好ましい。
このような酸素含有気体の供給圧力、主燃料の供給圧力および補助燃料の供給圧力(好ましくはさらに上記のようなスラリー供給量)とした場合、溶射装置から噴出するフレーム中における前記原料粉末の温度が前記金属窒化物の昇華温度よりも低く、かつ、前記フレーム中における前記原料粉末の速度が500〜1500m/sとなり得る。
【0052】
このような皮膜形成工程によって、前記基材の表面に皮膜を形成することができる。
【0053】
皮膜の厚さは、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、皮膜の厚さは、1000μm以下であってよく、200μm以下であってよい。
【0054】
皮膜は、前記原料粉末の一部が未変質であることが好ましい。
したがって、例えば前記原料粉末がAlNである場合、皮膜に含まれる未変質のAlNの含有率が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、この含有率は95質量%以下であってよい。
【0055】
このような本発明の製造方法によって、基材の表面に皮膜を有する皮膜付き基材を得ることができる。
このような皮膜付き基材における皮膜は、金属窒化物を主成分とし、耐電圧が高く、かつ、熱伝導率が高い。
【0056】
また、このような皮膜付き基材は耐プラズマ性が高い。ここで耐プラズマ性におけるプラズマは、種類において特に制限はされないが、例えば大気圧プラズマ、誘導結合プラズマ、容量結合プラズマ、有磁場プラズマ、高周波プラズマ、熱プラズマなどが挙げられる。また、皮膜の気孔率が低いと、耐プラズマ性が高い。具体的には皮膜の気孔率が7%以下であることが好ましい。
ここで気孔率とは、走査型電子顕微鏡などで皮膜断面を撮影し、得られた2000倍率の画像から求めた視野面積当たりの空孔面積、つまり、空孔面積/視野面積×100(%)の値を意味する。
【0057】
このように皮膜付き基材はプラズマ耐性が高いので、プラズマ雰囲気に曝される部材に用いることができる。例えば半導体製造装置、フラットパネルディスプレイ製造装置、または太陽電池パネル製造装置などの部材が挙げられる。本発明の皮膜付き基材は半導体製造装置部材に用いることが好ましい。半導体製造装置部材として、例えばイオン注入装置、エピタキシャル成長装置、CVD装置、真空蒸着装置、エッチング装置、スパッタリング装置、アッシング装置などにおいてプラズマ雰囲気に曝される部材が挙げられる。この部材として、例えばチャンバー、ベルジャー、サセプター、クランプリング、フォーカスリング、シャドーリング、絶縁リング、ダミーウエハー、プラズマを発生させるためのチューブ、プラズマを発生させるためのドーム、透過窓、赤外線透過窓、監視窓、半導体ウエハーを支持するためのリフトピン、シャワー板、バッフル板、ベローズカバー、上部電極、下部電極、静電チャックなどが挙げられる。
【実施例】
【0058】
<実施例1>
厚さ3mmのアルミニウム基板を用意し、この基板の主面上へ、窒化アルミニウム粒子(平均粒子径:2.3μm)を原料粉末として用いてフレーム溶射して、50μmの厚さの皮膜を形成した。
フレーム溶射における処理条件は以下の通りである。なお、フレーム溶射装置は、
図1に示したものを用いた。
フレーム溶射の処理条件
酸素圧力:73psi
燃料(灯油)圧力:65psi
補助燃料(アセチレン)圧力:25psi
スラリー供給量:50ml/min
先端筒の先端からアルミニウム基板の主面までの距離:100mm
【0059】
このようなフレーム溶射を行っている間において、フレーム溶射装置から噴出されてから、アルミニウム基板または既に形成された皮膜までに到達するまでの間の、概ね半溶融状態の窒化アルミニウム粒子の温度および速度を測定した。具体的には、フレーム溶射装置における先端筒の先端からアルミニウム基板の主面までの長さを100%とし、先端筒の先端を0%の位置、アルミニウム基板の主面の100%の位置とした場合、65%の位置から85%の位置までの範囲におけるフレーム内に存在する窒化アルミニウム粒子の温度および速度を測定した。このような温度および速度の測定には、溶射粒子温度測定装置(Oseir社製、スプレーウォッチ3i)を用いた。
その結果、窒化アルミニウム粒子の温度は、1800〜2200℃であった。
また、窒化アルミニウム粒子の速度は、500〜1500m/sであった。
【0060】
<皮膜特性評価>
次に、アルミニウム基板の表面に形成された皮膜の耐電圧および熱伝導率を測定した。
耐電圧は、耐電圧試験機(菊水電子工業株式会社製、TOS8750)を用いて行った。
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法を用いた熱伝導率測定装置(NETZSCH製、LFA457)を用いて行った。そして、JIS H 8453:2010 遮熱コーティングの熱伝導率測定方法に基づき、アルミニウム基板のみの熱伝導率、および皮膜付き基材(窒化アルミニウム粒子をアルミニウム基板の主面上に溶射して50μmの厚さの皮膜が形成されたもの)の熱伝導率を測定し、皮膜のみの熱伝導率を算出した。
【0061】
その結果、耐電圧は300MV/m、熱伝導率は109W/mKであった。
【0062】
<プラズマ耐性の評価>
次に、アルミニウム基板の表面に形成された窒化アルミニウムからなる皮膜について、ICPプラズマ暴露を行い、プラズマ耐性の評価を行った。以下に具体的に説明する。
【0063】
ICPエッチング装置((株)エリオニクス製 ICPエッチング装置EIS-700SIを用いて、プラズマ暴露を行った。
プラズマ条件は、下記の通り。
・プラズマガスO
2、CF
4、SF
6
・ガス比O
2 3standard cc/min(sccm)、CF
4 30sccm、SF
6 5sccm
・ガス圧0.6〜0.7Pa(成り行きで若干の変動有り)
・プラズマパワー800W(反射は0W)
・バイアス電圧55〜63V(装置最大値の80%設定、値は成り行き)
・プラズマ暴露サイクル 20min暴露−10min休止を16サイクル、合計8時間実施
ここで、今回、暴露されていない部位を残すためのマスクは、アルミニウム材を用いて作製し、表面を黒アルマイト処理した。参考までに本来であれば、表面にニッケルめっきを施す事が望ましい由、福島県ハイテクプラザ技術者より指摘があった。
サンプルの表面は、AlN皮膜に対しては、表面が脆く研磨できなかった為、成膜され
たままの状態でプラズマ暴露実験に供した。比較の為同時に行ったY
2O
3皮膜については、表面研磨を行った後、プラズマ暴露実験に供した。
【0064】
上記のようなICPプラズマ暴露を施した後の窒化アルミニウムからなる皮膜について、その表面形状をレーザー変位計を用いて測定した。測定結果を
図2(a)に示す。
また、比較のため、窒化アルミニウム粒子の代わりにイットリア(Y
2O
3)を原料粉末として用い、その他については同様の方法で製造した皮膜付き基材における皮膜(Y
2O
3からなる皮膜)について、同条件でICPプラズマ暴露を施し、同様に、その表面形状をレーザー変位計を用いて測定した。測定結果を
図2(b)に示す。
【0065】
AlNは8サイクルの暴露では、有意にエッチングされた様子は見られなかった。比較の為に同時に暴露試験を行ったY
2O
3皮膜については、約5〜6μmのエッチングが認められた。
すなわち、今回のプラズマ条件においては、AlN皮膜は、現在実用化されているY
2O
3皮膜の耐プラズマ性に勝るとも劣らないものである、と言える。
【0066】
<実施例2>
厚さ3mmのアルミナ(Al
2O
3)基板を用意し、この基板の主面上へ、窒化アルミニウム粒子(平均粒子径:2.3μm)を原料粉末として用いてフレーム溶射して、4〜10μm程度の厚さの皮膜を形成した。
フレーム溶射における処理条件は以下の通りである。なお、フレーム溶射装置は、
図1に示したものを用いた。
フレーム溶射の処理条件
酸素流量:780L/min
燃料(灯油)流量:220mL/min
補助燃料(アセチレン)流量:12mL/min
スラリー供給量:45ml/min
先端筒の先端からアルミニウム基板の主面までの距離:80mm
【0067】
また、実施例1と同様の方法で、フレーム溶射を行っている間における窒化アルミニウム粒子の温度および速度を測定した。
その結果、窒化アルミニウム粒子の温度は、1800〜2200℃であった。
また、窒化アルミニウム粒子の速度は、553m/sであった。
【0068】
<皮膜特性評価>
次に、実施例1と同様の方法で、アルミナ基板の表面に形成された皮膜の耐電圧および熱伝導率を測定した。
その結果、耐電圧は無限に高く測定不能、熱伝導率は30〜34W/mKであった。
【0069】
<皮膜断面観察による気孔率の算出>
得られた皮膜付き基材を2液硬化型エポキシ樹脂に包埋し、自動研磨機(ビューラー社製、機種:ECOMET3およびAUTOMET2)による研磨で観察面を得た後、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、機種:JSM−5600LV)を用いて皮膜表面(皮膜断面)のSEM画像を撮影した。倍率は2000倍とし、撮影時のコントラストおよびブライトネスの調整は、装置の自動調整機構を用いた。皮膜断面のSEM画像(2000倍)を
図3に示す。
図3のSEM画像より、実施例2において得られた皮膜は緻密な構造であることがわかる。
【0070】
次に、このSEM画像を、MEDIA CYBERNETICS社、Image Pro PLUS3.0を用いて2値化処理を行った。この画像処理後の画像から、視野面積当たりの空孔面積、つまり空孔面積/視野面積×100を算出し、これを気孔率(%)として求めた。
その結果、気孔率は0.7%と極めて低かった。
【0071】
<皮膜の組成分析>
得られた皮膜付き基材における皮膜について、微小部蛍光X線分析装置(島津製作所株式会社製、機種:XRF−1700)を用いて、これを構成する元素の濃度を測定した。
測定条件は以下の通りである。
X線管球のターゲット材:Rh
管電圧:40kV
管電流:95mA
X線通路の雰囲気:25Pa以下の真空
分析径(絞り):10mm
次に、微小部蛍光X線分析装置による測定結果から、FP法を用いて皮膜に含まれる元素の含有量を求めた。FP法とは、質量吸収係数・蛍光収率・X線源のスペクトル分布などの物理定数(ファンダメンタル・パラメーター)を用いて、蛍光X線強度の理論式から理論X線強度を求め、測定X線強度との対比を行って、各成分の濃度を算出する方法である。
この結果、皮膜におけるAl、NおよびO(酸素)の合計質量濃度が98.8質量%であり、ほぼこれらの元素からなることがわかった。また、この3元素のモル比は、Al:N:O(酸素)=63.5:25.0:11.5であった。
これにより、皮膜を構成する成分の多くは、AlN、もしくはAl
2O
3等の酸化アルミニウムであると推定される。ここで、上記3元素のモル比の値は、一部基材のAl
2O
3由来のものが含まれている。
【0072】
<皮膜を構成する粒子の結晶構造分析>
得られた皮膜付き基材の皮膜について、X線回折装置(島津製作所株式会社製、XRD−6000)を用いて結晶構造を分析した。測定手法はθ−2θ法を用いて、以下の条件により行った。θ−2θ法はX線源を固定し試料台をθだけ動かした時、検知器部を2θ動かしながらスキャンする方法である。
X線源:CuターゲットX線源
管電圧:40kV
管電流:30mA
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.3mm
【0073】
その結果、AlNが存在することを示すピーク(ピーク強度:10184カウント)と、Al
2O
3が存在することを示すピーク(ピーク強度:22858カウント)とがチャートに現れた。また、その他の存在を示すピークは現れなかった。
これにより、皮膜を構成する成分は、AlN、およびAl
2O
3であると推定される。ここで、上記Al
2O
3が存在することを示すピークには、基材のAl
2O
3由来のものが含まれている。本実施例では詳細を割愛するが、他の実験により、上記Al
2O
3が存在することを示すピークは、大部分が基材由来のものであることが判明している。したがって、皮膜を構成する成分の多くは、AlNであると推定される。
【0074】
<実施例3>
実施例2で用いた厚さ3mmのアルミナ基板の代わりに、同様の厚さのAlN基板を用意し、この基板の主面上へ、同様の窒化アルミニウム粒子(平均粒子径:2.3μm)を原料粉末として用いてフレーム溶射し、同様の厚さの皮膜を形成した。フレーム溶射の処理条件も、全て実施例2と同じとした。
【0075】
そして、実施例2と同様にして、フレーム溶射を行っている間における窒化アルミニウム粒子の温度および速度を測定したところ、いずれも実施例2の場合と同様の温度および速度であった。
【0076】
<皮膜特性評価>
次に、実施例2と同様の方法で、AlN基板の表面に形成された皮膜の耐電圧および熱伝導率を測定した。
その結果、耐電圧は無限に高く測定不能、熱伝導率は30〜34W/mKであった。
【0077】
<皮膜断面観察による気孔率の算出>
次に、実施例2と同様の方法で皮膜断面のSEM画像(2000倍)を得た後、気孔率を求めた。
その結果、気孔率は0.9%と極めて低かった。