(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
(アルミニウム合金板)
以下、本発明に係るアルミニウム合金板の一実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、表面に陽極酸化皮膜が形成されて用いられるのに適したものである。
そして、本実施形態に係るアルミニウム合金板は、化学成分が、Mg:2.0〜6.0質量%、Cr:0.02〜0.40質量%、Zn:0.010〜0.40質量%、Cu:0.01〜0.20質量%、Mn:0.10質量%以下に規制し、Fe:0.07質量%以下に規制し、Si:0.05質量%以下に規制し、残部Al及び不可避不純物からなる。以下、本実施形態に係るアルミニウム合金板の化学成分について説明する。
【0021】
(Mg)
Mgは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、当該アルミニウム合金板の強度を向上させる効果を得るため、Mg量を2.0〜6.0質量%とする。Mg量が2.0質量%未満になるとアルミニウム合金板としての強度、具体的には耐力が不十分となるとともに、加工性も低下する。また、Mg量が6.0質量%を超えると、陽極酸化処理を行った場合にアルミニウム合金板の表面が白っぽく着色されるとともに、加工性が低下する。Mg量の下限は、例えば、2.3質量%とするのが好ましく、4.0質量%とするのがより好ましい。Mg量の上限は、例えば、5.9質量%とするのが好ましく、4.8
質量%とするのがより好ましい。
【0022】
(Cr)
Crは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、当該アルミニウム合金板の強度を向上させる効果を得るため、Cr量を0.02〜0.40質量%とする。また、Crは、陽極酸化皮膜を着色することが一般的に知られている。Cr量が0.40質量%を超えると、陽極酸化皮膜が黄色くなって光沢度が低下し、表面の意匠性が低下する。そのため、表面の意匠性を良好なものとする観点からも、Cr量の上限は0.40質量%とするのが好ましい。他方、Cr量が0.02質量%未満であると、アルミニウム合金板としての強度、具体的には耐力が不十分となる。Cr量の下限は、例えば、0.05質量%とするのが好ましい。Cr量の上限は、例えば、0.39質量%とするのが好ましく、0.35質量%とするのがより好ましく、0.17質量%とするのがさらに好ましい。
【0023】
(Zn)
Znは、加工性を向上させる効果がある。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、当該加工性を向上させる効果を得るため、Zn量を0.010〜0.40質量%とする。Zn量が0.010質量%未満であると、良好な加工性を得ることができない。また、Zn量が0.40質量%を超えると、光沢度が低下し表面の意匠性が低下する。Zn量の下限は、例えば、0.02質量%とするのが好ましい。Zn量の上限は、例えば、0.38質量%とするのが好ましく、0.20質量%とするのがより好ましく、0.10質量%とするのがさらに好ましい。
【0024】
(Cu)
Cuは、アルミニウム合金板の強度を向上させる効果がある。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、当該アルミニウム合金板の強度を向上させる効果を得るため、Cu量を0.01〜0.20質量%とする。また、Cuは、陽極酸化皮膜を着色することが一般的に知られている。Cu量が0.20質量%を超えると、陽極酸化皮膜が黄色くなって光沢度が低下し、表面の意匠性が低下する。そのため、表面の意匠性を良好なものとする観点からも、Cu量の上限は0.20質量%とするのが好ましい。他方、Cu量が0.01質量%未満であると、陽極酸化処理前にアルミニウム合金板を化学研磨等した後の意匠性が確保できない。すなわち、陽極酸化処理前のアルミニウム合金板の算術平均粗さRaを0.05μm以下とすることができない。Cu量の下限は、例えば、0.05質量%とするのが好ましい。Cu量の上限は、例えば、0.09質量%とするのが好ましい。
【0025】
(Mn)
Mnは、通常、地金不純物(不可避不純物)としてアルミニウム合金中に混入する。
Mnは、アルミニウム合金中に固溶すると陽極酸化皮膜を赤く着色し、光沢度の低下を招く。そのため、本実施形態に係るアルミニウム合金板においては、Mn量を、例えば、0.10質量%以下に規制する。なお、Mn量は少ないほど好ましく、下限は特に限定しないが、例えば、0.01質量%などとすることができる。また、Mn量の上限は、例えば、0.08質量%とするのが好ましく、0.05質量%とするのがより好ましい。Mn量の制御については後述する。
【0026】
(Fe)
Feは、通常、地金不純物(不可避不純物)としてアルミニウム合金中に混入する。
Feは、晶出物であるAl−Fe系金属間化合物を生成する。Al−Fe系金属間化合物は、陽極酸化処理中に酸化されて陽極酸化皮膜中に取り込まれ、アルミニウム合金板の光沢度を低下させる。そのため、Fe量は0.07質量%以下に規制する。なお、Fe量は、0.05質量%以下に規制するのが好ましく、0.03質量%以下に規制するのがより好ましい。Fe量の制御については後述する。
【0027】
(Si)
Siは、通常、地金不純物(不可避不純物)としてアルミニウム合金中に混入する。
Siは、晶出物であるMg−Si系金属間化合物を生成する。Mg−Si系金属間化合物は、陽極酸化処理中にそのまま陽極酸化皮膜に取り込まれ、アルミニウム合金板の光沢度を低下させる。そのため、Si量は0.05質量%以下に規制する。なお、Si量は、0.03質量%以下に規制するのが好ましい。Si量の制御については後述する。
【0028】
(残部)
本実施形態に係るアルミニウム合金板の化学成分におけるその他の部分、すなわち、残部は、Al及び前記Mn、Fe、Si以外の不可避不純物からなる。このような不可避不純物としては、例えば、Ga、Niなどを挙げることができる。これらの不可避不純物は、個々に0.05質量%以下、合計で0.15質量%以下であれば本発明の効果を阻害しないので、前記条件を満たす限り不可避不純物を含有することは許容される。
【0029】
(Ti、V、B、Zr、Mo)
Ti、V、B、Zr、Moはいずれも、凝固時に板幅及び板厚の中央部に偏析し、陽極酸化皮膜に筋模様を形成することがある。そのため、本実施形態に係るアルミニウム合金板の化学成分においては、さらに、Ti:300質量ppm以下に規制し、V:200質量ppm以下に規制し、B:質量50ppm以下に規制し、Zr:50質量ppm以下に規制し、Mo:50質量ppm以下に規制するのが好ましい。なお、好ましくは、Ti:100質量ppm以下に規制し、V:150質量ppm以下に規制し、B、Zr、Moはいずれも30ppm以下に規制するのが好ましい。これらの元素をそれぞれ前記した含有量以下に規制すると、板の断面の意匠性を優良なものとすることができる。
【0030】
前記したMn、Fe、Si、Ti、V、B、Zr、Moの含有量の規制は、例えば、三層電解法により精錬した地金を使用したり、偏析法を利用してこれらを排除したりすることによって行うことができる。
【0031】
(好ましい実施形態)
以上に説明した本実施形態に係るアルミニウム合金板は、最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度が40個/mm
2以下、算術平均粗さが0.05μm以下、耐力が70MPa以上、エリクセン値が6.0mm以上、及び、前記算術平均粗さが0.05μm以下となるように加工した後、陽極酸化処理を行って陽極酸化皮膜を形成し、入射角60度にて光沢度を測定した場合における光沢度の差分が、陽極酸化処理前後で300以下とするのが好ましい。以下、好ましい実施形態における各要素について説明する。
【0032】
(最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度)
アルミニウム合金板表面に存在する最大長さが4μm以上の晶出物は、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜中に取り込まれ、当該晶出物上で光が乱反射するため、陽極酸化皮膜の光沢度が低下する。最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度が40個/mm
2以下であれば、個数密度が低く、光沢には影響しないので好ましい。また、最大長さが4μm未満の晶出物は、酸化皮膜に取り込まれたとしても光沢には影響しない。つまり、最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度を40個/mm
2以下にすることで、陽極酸化処理後の光沢度の低下を抑制することができる。なお、最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度は、38個/mm
2以下であるのが好ましく、34個/mm
2以下であるのがより好ましく、32個/mm
2以下であるのがさらに好ましく、30個/mm
2以下であるのがよりさらに好ましい。最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度はさらに低いほど好ましく、例えば、20個/mm
2以下としたり、16個/mm
2以下としたり、0個/mm
2としたりするのが好ましい。
最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度は、例えば、FeやSiの含有量を制御することで調節することができる。なお、FeやSiの含有量の制御については前述したとおりである。
【0033】
(算術平均粗さ)
陽極酸化処理は、アルミニウム合金板の表面から深さ方向に成長するため、アルミニウム合金板表面の形態が陽極酸化処理後にも強く反映される。従って、陽極酸化処理前のアルミニウム合金板の算術平均粗さRaを0.05μm以下にすることで、陽極酸化処理後にも優れた光沢を得ることができるので好ましい。なお、算術平均粗さRaが0.05μm以下であればアルミニウム合金板の表面の光沢度はほぼ一定であるため、陽極酸化処理を行った後のアルミニウム合金板の表面の光沢度もほぼ一定の値が得られる。算術平均粗さRaが0.05μmを超えると光沢が不十分であり、陽極酸化処理後にも高い光沢を得ることができない。陽極酸化処理前のアルミニウム合金板の算術平均粗さRaは、0.05μm以下が好ましく、0.03μm以下がより好ましい。
算術平均粗さRaを0.05μm以下にする方法としては、例えば、圧延、切削加工、機械研磨、化学研磨、電解研磨などの方法がある。
算術平均粗さRaは、市販の表面粗さ測定装置を用いることにより測定することができる。
【0034】
(耐力)
アルミニウム合金板の耐力が70MPa以上であると、輸送機器、機械部品、建築材料、器物、装飾品、構造材料などのアルミニウム成形品として用いる際に必要な機械的強度を確保することができるので好ましい。一方、アルミニウム合金板の耐力が70MPa未満であると、これらのアルミニウム成形品とした場合に必要な機械的強度を得ることができない。アルミニウム合金板の耐力の下限は、例えば、70MPaとするのが好ましく、100MPaとするのがより好ましい。アルミニウム合金板の耐力の上限は、例えば、300MPaとするのが好ましく、200MPaとするのがより好ましい。
アルミニウム合金板の耐力は、例えば、MgやCr、Cuなどの含有量を制御することで調節することができる。また、アルミニウム合金板の耐力は、例えば、任意の調質を施すことによって調節することもできる。この場合、アルミニウム合金板は、調質に応じた耐力を備えることができる。
耐力は、例えば、JIS Z 2241:2011に準拠して金属材料引張試験を行うことにより求めることができる。
【0035】
(エリクセン値)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、陽極酸化皮膜が形成された後、任意の形状に成形されて使用される。そのため、本実施形態に係るアルミニウム合金板は加工性に優れていることが好ましい。加工性は、エリクセン値により把握することができる。
アルミニウム合金板のエリクセン値は、例えば、Znの含有量を制御することで調節することができる。アルミニウム合金板のエリクセン値の下限は、例えば、6.0mm以上とするのが好ましく、8.0mm以上とするのがより好ましい。アルミニウム合金板のエリクセン値は、例えば、任意の調質を施すことによって調節することもできる。この場合、アルミニウム合金板は、調質に応じたエリクセン値を備えることができる。
エリクセン値は、例えば、JIS Z 2247:2006に準拠してエリクセン試験を行うことにより求めることができる。
【0036】
(陽極酸化処理前後における光沢度の差分)
陽極酸化皮膜は、皮膜厚さによって光沢や色調が変化するが、どのような態様にしたとしても、陽極酸化処理前後における光沢度の差分が大きいと、陽極酸化処理前後の光沢度の落差感が大きくなり、表面の意匠性に劣るという印象を与えることになる。光沢度の差分は、陽極酸化処理を行う前の光沢度と、陽極酸化処理を行って皮膜厚さが3μm以上30μm未満の陽極酸化皮膜を形成した後の光沢度との差ΔGを算出することにより求めることができる(下記式(1)参照)。なお、陽極酸化皮膜の皮膜厚さの制御は、陽極酸化処理に用いる電解液の選択と、処理時間、処理温度などを適宜調整することによって行うことができる。電解液の選択と、処理時間、処理温度などについて詳しくは後述する。
ΔG=G
陽極酸化処理前の光沢度−G
陽極酸化処理後の光沢度・・・(1)
【0037】
光沢度は、一般的に入手可能な光沢度計を用い、入射角60度にて測定することができる。このようにして得られた陽極酸化処理前後における光沢度の差分が300以下であると、陽極酸化処理を行った場合であっても金属光沢の低下が小さく抑えられていることになるため、良好な金属光沢を得ることができる。つまり、陽極酸化処理前後における光沢度の差分が300以下であれば、表面の意匠性に優れたものと評価することができる。一方で、陽極酸化処理前後における光沢度の差分が300を超えると、陽極酸化処理によって表面が白っぽく濁り、目視でも著しい金属光沢の低下が確認できる。そのため、アルミニウム合金板の表面の意匠性が劣ってしまう。
【0038】
本実施形態に係るアルミニウム合金板における陽極酸化処理前後の光沢度の差分を300以下とするのは、例えば、最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度を制御したり、Mg、Cr、Zn、Cu、Mn、Fe、Siの含有量を制御したりすることで行うことができる。
【0039】
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、JIS H 4000:2006に規定されている2000〜9000系の各種アルミニウム合金にて形成されたものであればどのようなものも用いることができる。また、陽極酸化処理前のアルミニウム合金板は、一般的な製造条件にて板材として製造されたものであればどのようなものも用いることができる。なお、一般的な製造条件としては、例えば、所定の化学成分のアルミニウム合金、好ましくは後記する化学成分(例えば、実施例2のA5052合金)のアルミニウム合金を溶解し、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、例えば、450℃にて8時間の均質化熱処理を施し、さらに、この均質化した鋳塊に熱間圧延および冷間圧延を施して、例えば、1mmの圧延板とすることができる。また、必要に応じてこの圧延板に対して焼鈍を行うこともできる。焼鈍は、例えば、360℃で3時間加熱という条件で行うことができる。なお、このときのアルミニウム合金板の算術平均粗さRaは約0.3μm程度である。
【0040】
このようにして製造した本実施形態に係るアルミニウム合金板は、陽極酸化処理を行う前に、前処理を行う。陽極酸化処理の前処理は、例えば、エメリー紙#1200で研磨し、酸化アルミナまたはダイヤモンド懸濁液を用いてバフ研磨を行い、さらにその後、例えば、4%リン酸水溶液中で60℃、20A/dm
2で10分電解研磨を行うことで、アルミニウム合金板の表面の算術平均粗さRaを0.05μm以下、より好ましくは0.03μm以下とすることができる。
【0041】
(陽極酸化処理および陽極酸化皮膜)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、表面に陽極酸化皮膜が形成されているのが好ましい。
陽極酸化処理は、後記するような一般的な条件にて行うことができるが、陽極酸化皮膜の皮膜厚さが3μm以上30μm未満となるように行うのが好ましい。陽極酸化皮膜の皮膜厚さにより金属光沢や色調を変化させることができる。従って、本実施形態に係るアルミニウム合金板における陽極酸化皮膜の皮膜厚さは、所望する金属光沢および色調に応じて前記した範囲内で適宜設定するとよい。なお、陽極酸化皮膜の皮膜厚さは、薄いほど安価になるが、十分な耐食性、耐摩耗性、意匠性が得られない場合があり、また、3μm未満では陽極酸化皮膜を安定して形成するのが困難となる場合がある。一方、陽極酸化皮膜の皮膜厚さが30μm以上になると、コスト高になるとともに、変形したとき皮膜にクラックが発生し易くなる場合がある。従って、前記したように、陽極酸化皮膜の皮膜厚さは3μm以上30μm未満とするのが好ましい。
【0042】
陽極酸化処理に使用できる電解液としては、例えば、硫酸、しゅう酸、クロム酸、その他の有機酸などを挙げることができる。電解液はこれらの中の1種を使用してもよく、2種以上を選択して併用することもできる。例えば、電解液として硫酸を選択した場合、例えば、30℃の20%硫酸溶液にアルニミウム合金板を浸漬し、電流密度200A/m
2を30分かけると、皮膜厚さが約30μmの陽極酸化皮膜を形成することができる。また、0℃程度の低温の電解液にてアルミニウム合金板を処理すると、硬質な陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0043】
(封孔処理)
陽極酸化皮膜は多孔性であるので、耐食性を向上するために封孔処理を行うのが好ましい。封孔処理は、例えば、70〜100℃の処理液に2〜30分間浸漬することで行うことができる。なお、処理液としては、例えば、沸騰純水、酢酸ニッケル溶液、重クロム酸溶液、ケイ酸ナトリウム溶液などが挙げられる。封孔処理は、例えば、沸騰純水であれば30分程度、酢酸ニッケル溶液であれば90℃で15分程度浸漬すればよい。
【0044】
以上に説明した本発明に係るアルミニウム合金板によれば、化学成分を前記した如く特定の範囲に制御しており、好ましくは、最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度と、算術平均粗さと、耐力と、エリクセン値と、を所定の範囲となるように制御しているので、高強度であり、陽極酸化処理後の金属光沢に優れるとともに、加工性にも優れたものとすることができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の効果を奏する実施例とそうでない比較例とを参照して、本発明の内容について具体的に説明する。
【0046】
(アルミニウム合金板の製造)
はじめに、表1のNo.1〜22に示す化学成分のアルミニウム合金を溶解し、鋳造して鋳塊とした。そして、この鋳塊に面削を施した後、450℃にて8時間の均質化熱処理を施した。そして、この均質化した鋳塊に熱間圧延および冷間圧延を施し、1mmの圧延板とした。次いで、この圧延板を360℃で3時間加熱して焼鈍を行い、アルミニウム合金板を製造した。
【0047】
(算術平均粗さRaの調整)
製造したアルミニウム合金板の表面を陽極酸化処理の前処理として、エメリー紙#1200で研磨し、酸化アルミナまたはダイヤモンド懸濁液を用いてバフ研磨を行った。その後、4%リン酸水溶液中で60℃、20A/dm
2で10分電解研磨を行い、表1に示す算術平均粗さRa(なお、表1において「陽極酸化前のRa」と記載する。)を得た。なお、算術平均粗さRaはJIS B 0601:2001に準拠した表面粗さ測定装置を用いて測定した。
【0048】
(陽極酸化処理)
次いで、表面粗さを調整したアルミニウム合金板を温度20℃の15%硫酸水溶液に浸漬し、2.0A/dm
2の電流を10分かけて陽極酸化処理を行い、皮膜厚さ12μmの陽極酸化皮膜を形成した。その後、陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム合金を90℃の酢酸ニッケル溶液に20分浸漬して封孔処理を行った。
【0049】
そして、封孔処理を行ったアルミニウム合金板における最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度と、陽極酸化皮膜の皮膜厚さと、光沢度の差分と、表面の意匠性と、強度と、加工性と、を次のようにして測定または判定した。
【0050】
(最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度の計測)
製造したアルミニウム合金板の表面を鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM(日本電子株式会社製JSM−7001M))で観察して晶出物のサイズと個数を計測し、個数密度を算出した。
【0051】
(陽極酸化皮膜の皮膜厚さ)
陽極酸化処理を行って形成した、アルミニウム合金板の陽極酸化皮膜の皮膜厚さは、イソスコープMP10(ドイツ国Helmut.Fischer GmbH+Co.製)を用いて測定した。
【0052】
(光沢度の差分)
前記した電解研磨後の光沢度(すなわち、陽極酸化処理前の光沢度)と、前記した封孔処理後の光沢度(すなわち、陽極酸化処理後の光沢度)と、を光沢度計(ハンディ型光沢計PG−IIM(日本電色工業社製))で測定し、下記式(1)より光沢度の差分ΔGを算出した。なお、これらの光沢度は入射角60度にて測定した。
ΔG=G
陽極酸化処理前の光沢度−G
陽極酸化処理後の光沢度・・・(1)
【0053】
(表面の意匠性)
製造したアルミニウム合金板の表面の意匠性は、陽極酸化前後の光沢度の差分ΔGが300以下であるものを合格(○)、300を超えるものを不合格(×)と判定した。
【0054】
(強度)
製造したアルミニウム合金板を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠して金属材料引張試験を行い、耐力を測定した。耐力が70MPa以上であるものを合格(○)、70MPa未満のものを不合格(×)と判定した。
【0055】
(加工性)
製造したアルミニウム合金板を用いて、JIS Z 2247:2006に準拠してエリクセン試験を行い、6.0mm以上のものを合格(○)、6.0mm未満のものを不合格(×)と判定した。
【0056】
表1に、No.1〜22に係るアルミニウム合金板の化学成分と、封孔処理を行ったアルミニウム合金板における最大長さが4μm以上の晶出物の個数密度(個/mm
2)と、陽極酸化前のRa(μm)と、陽極酸化皮膜の皮膜厚さ(表1において単に「皮膜厚さ」と記載する。)(μm)と、光沢度の差分ΔGと、表面の意匠性の判定結果と、強度の判定結果と、加工性の判定結果と、を示す。なお、表1中において下線を付した数値は、本発明の要件を満たしていないことを示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すNo.1〜11に係るアルミニウム合金板は、本発明の要件を満たしていたので、高強度であり、表面の意匠性に優れる(陽極酸化処理後の金属光沢に優れる)とともに、加工性にも優れていた(いずれも実施例)。
【0059】
これに対し、No.12〜22に係るアルミニウム合金板は、本発明の要件のいずれかを満たしていなかったので、強度、表面の意匠性および加工性のうちのいずれかの評価が劣っていた(いずれも比較例)。具体的に説明すると以下のとおりである。
【0060】
No.12に係るアルミニウム合金板は、Mg量が少ないため、強度および加工性が不合格となった。
No.13に係るアルミニウム合金板は、Mg量が過剰であったので、陽極酸化処理により光沢度が著しく低下した(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなった)。そのため、No.13に係るアルミニウム合金板は、表面の意匠性が不合格となった。また、No.13に係るアルミニウム合金板は、Mg量が過剰であったので、加工性も不合格となった。
No.14に係るアルミニウム合金板は、Cr量が少ないため、強度が不足した。
No.15に係るアルミニウム合金板は、Cr量が過剰であったので、陽極酸化皮膜が黄色く着色された。そのため、No.15に係るアルミニウム合金板は、光沢度が低下し(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなり)、表面の意匠性が不合格となった。
No.16に係るアルミニウム合金板は、Zn量が少ないため、加工性が低下した。
No.17に係るアルミニウム合金板は、Zn量が過剰であったので、光沢度が低下した(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなった)。そのため、No.17に係るアルミニウム合金板は、表面の意匠性が不合格となった。
No.18に係るアルミニウム合金板は、Cu量が過剰であったので、陽極酸化皮膜が黄色く着色され、光沢度が低下した(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなった)。そのため、No.18に係るアルミニウム合金板は、表面の意匠性が不合格となった。
No.19に係るアルミニウム合金板は、Mn量が過剰であったので、陽極酸化皮膜が赤く着色され、光沢度が低下した(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなった)。そのため、No.19に係るアルミニウム合金板は、表面の意匠性が不合格となった。
No.20に係るアルミニウム合金板は、Fe量が過剰であったので、晶出物の個数密度が過剰となった。そのため、No.20に係るアルミニウム合金板は、光沢度が低下し(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなり)、表面の意匠性が不合格となった。
No.21に係るアルミニウム合金板は、Si量が過剰であったので、晶出物の個数密度が過剰となった。そのため、No.21に係るアルミニウム合金板は、光沢度が低下し(陽極酸化処理の前後で光沢度の差分が大きくなり)、表面の意匠性が不合格となった。
No.22に係るアルミニウム合金板は、Cu量が少ないため、陽極酸化処理前のアルミニウム合金板の算術平均粗さRaを0.05μm以下とすることができなかった。従って、No.22に係るアルミニウム合金板は、光沢度の差分ΔGは300以下であったものの、陽極酸化処理前のアルミニウム合金板の算術平均粗さRaが粗いため光沢度に劣っていた。そのため、No.22に係るアルミニウム合金板については、表1に示すように、表面の意匠性が劣っていると判断した。
【0061】
次に、良好な評価が得られたNo.2に示すアルミニウム合金、つまり、Mg、Cr、Zn、Cu、Mn、Fe、Siの含有量を表1のNo.2に示す化学成分とし、さらに、Ti、V、B、ZrおよびMoを表2に示す量に規制したサンプル(No.2−1〜2−10)と、これらのうちの少なくとも1つを規制しないサンプル(No.2−11〜2−15)と、を用意した。そして、No.2−1〜2−15に係るアルミニウム合金に対して、前記と全く同じ条件でアルミニウム合金板を製造し、さらに、陽極酸化処理の前処理と、陽極酸化処理および封止処理と、を行った。
【0062】
封止処理したNo.2−1〜2−15に係るアルミニウム合金板における断面の意匠性を次のようにして判定した。
【0063】
(断面の意匠性)
陽極酸化処理後の板断面中央部、つまり、圧延方向と平行かつ平面に対して直角に切断した断面における、陽極酸化皮膜の中央部に、目視で筋模様が見えなかったものを優良(◎)、筋模様が見えたものを合格(○)と判定した。
【0064】
表2に、No.2−1〜2−15に係るアルミニウム合金板の化学成分と、断面の意匠性の判定結果と、を示す。なお、表2中において下線を付した数値は、Ti、V、B、ZrまたはMoを規制していないことを示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、No.2−1〜2−10に係るアルミニウム合金板は、Ti、V、B、ZrおよびMoをそれぞれ本発明で規定する所定値以下に規制していたので、断面の意匠性が優良となった。
【0067】
これに対し、No.2−11〜2−15に係るアルミニウム合金板は、Ti、V、B、ZrおよびMoのうちの少なくとも1つを規制していなかったので、断面の意匠性は合格にとどまった。