(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。本明細書において、「左側」および「右側」は、車両に乗車した操縦者から見た左右側をいう。
【0017】
図1は本発明の第1実施形態に係る回転ユニットを有する過給機を備えた自動二輪車の左側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは、前半部を形成するメインフレーム1と、後半部を形成するシートレール2とを有している。シートレール2は、メインフレーム1の後部に取り付けられている。メインフレーム1の前端にヘッドパイプ4が一体形成され、このヘッドパイプ4にステアリングシャフト(図示せず)を介してフロントフォーク8が回動自在に軸支されている。フロントフォーク8の下端部に前輪10が取り付けられ、フロントフォーク8の上端部に操向用のハンドル6が固定されている。
【0018】
一方、車体フレームFRの中央下部であるメインフレーム1の後端部に、スイングアームブラケット9が設けられている。このスイングアームブラケット9の取り付けたピボット軸16の回りに、スイングアーム12が上下揺動自在に軸支されている。このスイングアーム12の後端部に、後輪14が回転自在に支持されている。車体フレームFRの中央下部でスイングアームブラケット9の前側に、駆動源であるエンジンEが取り付けられている。エンジンEがチェーンのような動力伝達機構11を介して後輪14を駆動する。エンジンEは、例えば、4気筒4サイクルの並列多気筒水冷エンジンである。ただし、エンジンEの形式はこれに限定されない。
【0019】
メインフレーム1の上部に燃料タンク15が配置され、シートレール2に操縦者用シート18および同乗車用シート20が支持されている。また、車体前部に、樹脂製のカウリング22が装着されている。カウリング22は、前記ヘッドパイプ4の前方から車体前部の側方にかけての部分を覆っている。カウリング22には、空気取入口24が形成されている。空気取入口24は、カウリング22の前端に位置し、外部からエンジンEへの吸気を取り入れる。
【0020】
車体フレームFRの左側に、吸気ダクト30が配置されている。吸気ダクト30は、前端開口30aをカウリング22の空気取入口24に臨ませた配置でヘッドパイプ4に支持されている。吸気ダクト30の前端開口30aから導入された空気は、ラム効果により昇圧される。
【0021】
エンジンEの後方に、過給機32が配置されている。過給機32は、外気を加圧してエンジンEに供給する。前記吸気ダクト30は、エンジンEの前方から左外側方を前後方向に延びて通過したのち、
図2に示すように車体内側に湾曲して車幅方向(左右方向)の中央部に向かって延びる。左右方向に延びる吸気ダクト30の下流端30bは、過給機32の吸込口36に接続され、過給機32に走行風Aを吸気Iとして導いている。
【0022】
図1に示す過給機32の吐出口38とエンジンEの吸気ポート42との間に、吸気チャンバ40が配置され、過給機32の吐出口38と吸気チャンバ40とが直接接続されている。吸気チャンバ40は、過給機32の吐出口38から供給された高圧の吸気Iを貯留する。過給機32の吐出口38と吸気チャンバ40とをパイプを介して接続してもよい。吸気チャンバ40と吸気ポート42との間には、スロットルボディ45が配置されている。
【0023】
吸気チャンバ40は、過給機32およびスロットルボディ45の上方に配置されている。吸気チャンバ40およびスロットルボディ45の上方に、前記燃料タンク15が配置されている。
【0024】
図3に示すように、過給機32は遠心式であり、過給機回転軸44の一端部(左側端部44a)に固定された羽根車50と、羽根車50を覆う羽根車ハウジング52と、過給機回転軸44を回転自在に支持する過給機ケース56と、エンジンEの動力を羽根車50に伝達する変速機構54と、変速機構54を覆う変速機構ケーシング58とを有している。本実施形態の羽根車50はアルミニウム合金製であるが、材質はこれに限定されず、例えば樹脂製であってもよい。羽根車50は、羽根車ハウジング52により形成された吸込口36から吸気を吸入して加圧する。
【0025】
羽根車ハウジング52と過給機ケース56とがボルト55を用いて連結され、過給機ケース56と変速機構ケーシング58とがボルト57を用いて連結されている。この実施形態では、変速機構54として遊星歯車変速装置を用いている。ただし、変速機構54は遊星歯車変速装置に限定されない。
【0026】
過給機32はエンジンEの動力によって駆動される。具体的には、エンジンEの回転軸であるクランク軸26(
図1)の回転力が、
図3に示すチェーン60を介して、過給機回転軸44に連結された、変速機54の入力軸65に伝達されている。より詳細には、入力軸65の右側端部にスプロケット62が設けられ、このスプロケット62の歯車62aにチェーン60が掛け渡されている。
【0027】
入力軸65は中空軸からなり、軸受64を介して変速機構ケーシング58に回転自在に支持されている。入力軸65における先端部である右側端部65bの外周面にスプライン歯67が形成されおり、この外周面にスプライン嵌合されたワンウェイクラッチ66を介して、前記スプロケット62が入力軸65に連結されている。入力軸65の右側端部65bの内周面に雌ねじ部が形成されており、ワンウェイクラッチ66が、この雌ねじ部に螺合されたボルト68の頭部により、ワッシャ70を介して、右側端部65bに装着されている。
【0028】
過給機32の過給機回転軸44の基端部である右側部44bが、入力軸65の基端部である左側端部65aに、遊星歯車装置(変速機構)54を介して連結されている。入力軸65の左側端部65aは、鍔状のフランジ部65aからなる。過給機回転軸44は、中実のシャフトに形成されている。過給機回転軸44は、軸受69を介して過給機ケース56に回転自在に支持されている。
【0029】
図4に示すように、軸受69は軸方向(自動二輪車の左右方向)に並んで2つ配置されており、各軸受69は、回転部材である内輪69aと、静止部材である外輪69bとを有している。両内輪69a,69aの間にスペーサ部材となる間座71が配置されている。これら2つの軸受69,69が、軸受ハウジング76に収納され、軸受アセンブリBAの一部を構成している。つまり、内輪69aは、過給機回転軸44と一体に回転する回転部品RMであり、外輪69bおよび軸受ハウジング76は、過給機回転軸44と一体に回転しない非回転部品NMである。軸受ハウジング76は、軸受アセンブリBAの外周部を構成する。間座71も、軸受アセンブリBAの一部を構成している。
【0030】
軸受アセンブリBAは、外周部を把持固定した状態で、過給機回転軸44を回転自在に支持できる。軸受アセンブリBAは、過給機ケース56に形成されるアセンブリ収納空間に着脱可能に構成されている。具体的には、過給機ケース56に軸受アセンブリBAが収納された状態で、軸受アセンブリBAと過給機ケース56との間に径方向の隙間が形成される。この隙間に、後述のオイル層96を形成することで、軸受アセンブリBAは、過給機ケース56に対して浮動的に支持されている。
【0031】
軸受アセンブリBAの軸受69は、例えばアンギュラ玉軸受である。軸受アセンブリBAの軸受ハウジング76は、各外輪69b,69bの軸方向端面が当接する段差部が形成されている。段差部は、間座71と軸方向の長さが同じである。これにより、軸受ハウジング76は、2つの軸受69に対して軸方向に固定される。また、軸受ハウジング76の右側端面は、過給機ケース56に軸方向に対向しており、軸受アセンブリBAの右側への移動が規制されている。
【0032】
過給機回転軸44の右側端部(基端部)44bに、外歯78が形成されている。外歯78は、過給機回転軸44のほかの部分よりも大径に形成されている。外歯78の左側端面に、右側の軸受69の内輪69aの右側端面が当接している。
【0033】
過給機回転軸44における軸受アセンブリBAと羽根車50との間に、オイルシールアセンブリSAが配置されている。オイルシールアセンブリSAは、過給機回転軸44に嵌合されて羽根車50と左側の軸受99の内輪99aとの間で挟圧される筒状のカラー75と、後述のオイル層96(
図3)からのオイル漏れを防ぐためのオイルシール77を保持するシール保持体79とを有している。
【0034】
図3に示すように、シール保持体79は、ボルト81により過給機ケース56に支持されている。つまり、シール保持体79は、軸受アセンブリBAが軸方向に移動するのを防ぐストッパ部材として機能する。オイルシールアセンブリSAのカラー75は、過給機回転軸44と一体に回転する回転部品RMであり、オイルシール77およびシール保持体79は、過給機回転軸44と一体に回転しない非回転部品NMである。
【0035】
カラー75は、羽根車50と軸受アセンブリBAの内輪69aとに狭持されて過給機回転軸44に固定されている。シール保持体79は、オイルシール77を保持し、オイルシール77は、カラー75とシール保持体79との径方向隙間をふさいで、羽根車50側にオイルが流れるのを防いでいる。過給機ケース56に形成されるシール保持体79を取り付けるためのボルト孔は、アセンブリ収容空間よりも径方向外側に形成されている。軸受ハウジング76の左側端面は、シール保持体79に軸方向に対向しており、軸受アセンブリBAの左側への移動が規制されている。
【0036】
本発明の回転軸である過給機回転軸44の左側端部(先端部)の外周面に雄ねじ部104が形成されており、この雄ねじ部104に締結部材85が螺合により取り付けられている。締結部材85は、羽根車50を過給機回転軸44の軸方向後側(自動二輪車の右側)に押圧して過給機回転軸44に取り付ける。締結部材85は、羽根車50よりも比重の大きい材料、具体的には、鉄または鋼製である。
【0037】
図4に示すように、締結部材85は、羽根車50の吸込口36側に位置し、内部に過給機回転軸44の雄ねじ部104に螺合する雌ねじ部106を有している。締結部材85の先端部85aの外表面85bは、過給機回転軸44の一端面よりも軸方向に突出して延び、かつ羽根車50から遠ざかるにつれて連続的に滑らかに先細りとなる縮径形状に形成されている。本実施形態の締結部材85は、先端部85aで雌ねじ部106が軸方向から塞がれている。詳細には、本実施形態の締結部材85は、一種の袋ナットである。締結部材85は、中心軸線C上に先細りの先端85cが位置する。締結部材85の先端85cは、
図3に示す羽根車ハウジング52の開口端(左側端)52aよりも外側(左側)に位置している。
【0038】
図5に示すように、締結部材85は、トルクレンチのような回転操作用の工具が嵌合するための非円柱部分108と、非円柱部分108よりも基端部寄り(右寄り)に形成される円柱部分110とを有している。非円柱部分108は、先端側から見て円柱部分110を外接円とする多角形形状に形成されており、本実施形態では、各辺の長さが等しい正六角柱形状である。円柱部分110は、
図4に示す羽根車50における締結部材85に接する先端部分50aの外径と等しい外径に設定されている。したがって、円柱部分110と羽根車50の先端部分50aとの間が面一に形成されて段差は存在しない。
【0039】
円柱部分110を設けることで、先端部85aを加工機で先細り形状に形成し易い。例えば、旋盤のような加工機にチャック可能な程度の軸方向寸法分だけ、円柱部分110を設けることができる。このような円柱部分110の軸方向寸法は、好ましくは、5mm以上である。締結部材85は、基端側に開口した中空部を有する中空形状に形成される。具体的には、中空部は、円柱部分110および非円形部分108の全体、ならびに先端部85aの一部にまたがって形成される。雌ねじ部106は、円形部分110から非円形部分108の途中まで形成される。換言すると、非円形部分108の内部には、中空部分であって雌ねじが形成されない部分が存在する。雄ねじ部104が過給機回転軸44の左側端まで形成される場合、雌ねじ部106は過給機回転軸44の左側端よりも左側の位置にまで延長される。
【0040】
過給機回転軸44、羽根車50、オイルシールアセンブリSA、軸受アセンブリBAおよび締結部材85により、羽根車50一体に回転する部材を含んで過給機ケース56に着脱自在に収納されて、持ち運び可能にユニット化される回転ユニットRUを構成している。回転ユニットRUは、羽根車50とともに一体回転する部材をすべて含むことが好ましい。回転ユニットRUは、高速に回転する。本実施形態では、一分あたり5万回転以上で回転する。
【0041】
羽根車50の軸方向(左右方向)両端面は、軸心方向に直交する平面で形成されている。左側端面は、締結部材85が当接する座面を構成し、右側端面は、カラー75に当接する当接面を構成している。本実施形態では、羽根車50の右側端面が、カラー75、内輪69a、間座71を介して間接的に、外歯78の左側端面に当接している。
【0042】
つまり、羽根車50の右側端面を間接的に外歯78の左側端面に当接させた状態で、締結部材85によって羽根車50の左側端面を押し付けることで、羽根車50が過給機回転軸44に固定される。ここで、過給機回転軸44の左側端部44aに形成された雄ねじは、過給機回転軸44が回転すると、締結部材85が締まる向きに設定されている。また、外歯78は、はす歯形状に形成されており、過給機回転軸44が回転すると、羽根車50の回転に起因して発生する吸込反力の向きと反対側の軸方向の力がかかるように形成されている。外歯78をはす歯で構成することで、軸受69にかかる軸方向の負荷を減らすことができる。
【0043】
締結部材85に、回転ユニットRUの回転バランス調整用の調整部が形成されている。詳細には、締結部材85の円柱部分110が、回転バランス調整用の調整部を構成する。バランス調整は、円柱部分110の外周面の削り込み、または肉盛りにより行われる。締結部材85に加えて、羽根車50の背面にも調整部を設けてもよい。調整部は、羽根車50よりも比重が重い部位に設けるのが好ましい。本実施形態では、羽根車50はアルミニウム合金製で、締結部材85は鋼製であるから、締結部材85は羽根車50よりも比重が重い部位である。
【0044】
回転ユニットRUには、
図3の遊星歯車装置54を介して動力が入力される。遊星歯車装置54は入力軸65と過給機回転軸44との間に配置され、変速機構ケーシング58に支持されている。過給機回転軸44の右側端部(基端部)44bに、外歯78が形成されており、この外歯78に複数の遊星歯車80が周方向に並んでギヤ連結されている。すなわち、過給機回転軸44の外歯78は遊星歯車装置54の太陽歯車として機能する。さらに、遊星歯車80は径方向外側で大径の内歯車(リングギヤ)82にギヤ連結している。遊星歯車80は、過給機ケース56に装着された軸受84によりキャリア軸86に回転自在に支持されている。
【0045】
キャリア軸86は固定部材88に固定され、この固定部材88が過給機ケース56にボルト90により固定されている。つまり、キャリア軸86は固定されている。内歯車82には入力軸65の左側端部に設けられた入力ギヤ92がギヤ連結されている。このように、内歯車82が入力軸65と同じ回転方向に回転するようにギヤ接続され、キャリア軸86が固定されて遊星歯車80は内歯車82と同じ回転方向に回転する。太陽歯車(外歯車78)は出力軸となる過給機回転軸44に形成されており、遊星歯車80と反対の回転方向に回転する。
【0046】
過給機ケース56に、外部からの過給機潤滑通路(図示せず)に連通して、軸受ハウジング76まで潤滑油を導く潤滑油通路94が形成されている。詳細には、過給機ケース56と軸受ハウジング76との間にオイル層96が形成され、このオイル層96に潤滑油通路94が接続されている。これにより、軸受ハウジング76は、オイル層96を介して過給機ケース56に径方向に移動可能に支持されている。オイル層96は、過給機回転軸44の揺動を緩和する機能を持つ。
【0047】
シール保持体79(非回転部品NM)と過給機ケース56との間に、羽根車50の先端と羽根車ハウジング52の内周面との隙間であるチップクリアランスを調節するドーナツ板状のシム102が挿入されている。
【0048】
具体的には、過給機ケース56にシム収容空間が形成され、シム102がシール保持体79と過給機ケース56との間に介在している。シム102は、過給機ケース56に対して着脱可能である。シム収容空間は、アセンブリ収容空間よりも径方向外側に形成されている。シム102の枚数が増えるほど、シール保持体79が過給機ケース56に対して左側に離れた位置で、過給機ケース56に固定される。例えば、厚さの異なるシム102が複数枚用意され、シール保持体79と過給機ケース56との間に、シム102が1枚あるいは複数枚配置される。具体的には、軸受ハウジング76がシール保持体79に当接した状態で、羽根車50と羽根車ハウジング52との間のチップクリアランスが所定範囲に収まるように、シム102が選択される。
【0049】
前記チップクリアランスが所定範囲内に収まることで、過給機32の性能が維持できる。チップクリアランスが小さくなるほど、高速回転時における過給機32の性能が向上する。回転ユニットRU全体で軸方向位置を調整しているので、軸方向位置を調整した場合でも、回転バランスが乱れることはない。
【0050】
つぎに、
図4の回転ユニットRUのバランス調整方法および過給機への組付方法について説明する。
図6に示すように、同バランス調整方法は、回転ユニットRUを組み立てる回転ユニット組立工程S1と、組み立てた回転ユニットUのバランス調整を行う回転バランス調整工程S2とを有している。バランス調整後の回転ユニットUは、組付工程S3において過給機ケースに組み付けられる。
【0051】
回転ユニット組立工程S1では、
図4の過給機回転軸44に、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを取り付け、過給機回転軸44の左側端部44a(先端部)に羽根車50を装着した後、過給機回転軸44の先端の雄ねじ部104に締結部材85を螺合する。締結部材85を締め付けることで、羽根車50、軸受アセンブリBAの内輪69a、間座71およびオイルシールアセンブリSAのカラー75が軸方向(右側)に押圧され、外歯78と締結部材85との間で挟持される。これにより、羽根車50、軸受アセンブリBAの内輪69a、間座71およびカラー75が過給機回転軸44に相対変位不能に固定され、回転ユニットRUが組み立てられる。
【0052】
回転バランス調整工程S2では、軸受アセンブリBAの軸受ハウジング76の外周面およびシール保持体79を治具によって支持した状態で、羽根車50を回転させて、締結部材85の円柱部分110を削ることで、回転ユニットRUの回転バランスを調整する。必要に応じて、過給機32の性能に影響の少ない羽根車50の背面を削って、回転バランスを調整する。本実施形態では、回転ユニットRUの重心が軸心に近づくようにバランス調整される。これにより、回転ユニットRUが高速回転したときに、軸受69が損傷するのを防いだり、回転ユニットRUの振動を抑えたり、回転ユニットRUが加振源になるのを防いだりすることができる。
【0053】
締結部材85は機械加工にて形成されない可能性があり、非円形部分108が形成されている。このため、過給機回転軸44に対して回転バランスが乱れやすい。したがって羽根車50端体で回転バランスを調整しても、締結部材85が装着された状態では回転バランスがとれていないことがある。本実施形態のように、回転ユニットRUとして組み立てた状態で回転バランスを調整することで、羽根車50以外の回転部品RMの回転バランスも考慮してバランスを調整することができるから、回転バランスの精度が向上する。
【0054】
組付工程S3では、回転バランス調整後の回転ユニットRUを、冶具から取り外して分解することなく、過給機ケース56に組み付ける。その際、オイルシールアセンブリSAのシール保持体79と過給機ケース56との間にシム102を挿入することで、羽根車50と過給機ケース56とのチップクリアランスを調節する。
【0055】
このバランス調整方法では、締結部材85を用いて羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAが過給機回転軸44に一体化されているので、回転ユニットRUを一体で過給機ケース56から取り付けることができる。その結果、過給機回転軸44に羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを一体化した状態で、回転ユニットRUのバランスを調整できるので、過給機32に組み込んだのちのバランス調整が不要になるから、組立工数を削減できる。また、締結部材85に、回転バランス調整用の円柱部分110が設けられているので、羽根車50のみを削る場合に比べて、選択肢が増えてバランス調整がし易くなる。
【0056】
さらに、ボルト81を用いてオイルシールアセンブリSAのシール保持体79を過給機ケース56に固定することで、回転ユニットRUが過給機ケース56に容易に取り付けられる。そのため、回転ユニットRUを過給機ケース56に圧入する必要がないので、組立も容易である。
【0057】
本実施形態では、遊星歯車装置54を用いて回転ユニットRUに動力を伝達しているので、入力軸65、キャリア軸86および過給機回転軸44の3つの軸の芯出しを行う必要があり、軸心を一致させるのが困難である。しかしながら、軸受ハウジング76がオイル層96を介して過給機ケース56に径方向に移動可能に支持されているので、遊星歯車装置54を用いることに起因する過給機回転軸44の揺動を吸収できる。この場合、軸受ハウジング76を過給機ケース56に固定できないが、シール保持体79を過給機ケース56に固定することで、回転ユニットRUがケースに回転自在に収納される。さらに、シール保持体79が、軸受ハウジング76の軸方向への移動するのを防ぐストッパ部を兼ねているので、部品点数を減らすことができる。
【0058】
さらに、オイルシールアセンブリSAのシール保持体79と過給機ケース56との間にシム102を挿入することで、羽根車50と過給機ケース56とのチップクリアランスを調節しているので、羽根車50のクリアランスの調節が容易になる。
【0059】
また、軸受ハウジング76の外周面を支持した状態で、回転ユニットRUの回転バランスを調整するので、過給機回転軸44に羽根車50、軸受アセンブリBAおよびオイルシールアセンブリSAを一体化した状態で、回転ユニットRUのバランスを調整でき、調整作業が容易になる。
【0060】
回転ユニットRUとして羽根車50と一体回転しない軸受ハウジング76が、回転ユニットRUに含まれている。これにより、軸受ハウジング76の外周部を冶具で支持した状態で、回転バランス調整を行うことができる。その結果、回転バランスの調整を容易にかつ精度よく行うことができる。このように、羽根車50と一体回転する回転部品RMを回転可能に支持する部分が、回転ユニットRUに含まれることが好ましい。
【0061】
上記構成によれば、
図4に示す締結部材85の先端部85aの外表面85bが、羽根車50から遠ざかるにつれて連続的に先細りとなる縮径形状に形成されている。これにより、高速の吸気が締結部材85の先端部85aの外表面85bに沿って滑らかに羽根車50に吸入される。その結果、吸入時の吸気抵抗が小さくなって、回転ユニットRUの圧送効率、すなわち過給機32の効率が向上する。また、締結部材85の突出した先端部85aの外径を、雌ねじ部106の内径よりも小さくできる。これにより、吸入時の吸気抵抗がさらに小さくなる。
【0062】
図2に示すように、吸気通路を構成する吸気ダクト30は、過給機32の吸込口36の手前で湾曲している。そのため、吸気Iの流れが湾曲方向外側(車体後方)に偏っており、中心軸線C付近にも高速の吸気が流れやすくなっている。したがって、
図3に示す締結部材85の先端部85aによる吸気抵抗低減効果が大きくなる。過給機32の効率が向上したことにより、特に、高出力時のエンジンEの出力が数%向上した。
【0063】
図4に示す締結部材85は、中心軸線C上に先細りの先端85cが位置する。これにより、過給機回転軸44の一端面の全体が覆われるので、吸気抵抗が一層小さくなる。
【0064】
締結部材85の円柱部分110は、羽根車50の先端部分50aの外径と等しい外径に設定されている。これにより、締結部材85と羽根車50との間に段差がなくなるので、吸入時の吸気の抵抗を一層小さくできる。また、円柱部分110を大きくすることで、回転バランスの調整代も大きくなり、バランス調整がしやすくなる。
【0065】
締結部材85の非円柱部分108は、
図5に示すように、先端側から見て円柱部分110を外接円とする正六角形形状に形成されている。これにより、非円柱部分108と円柱部分110との間の段差が小さくなるので、吸入時の吸気抵抗を一層小さくできる。また、非円柱部108の重心が中心軸線Cに近づくので、バランス調整がしやすくなる。
【0066】
図7は、本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態に係る回転ユニットRUAの締結部材120は、先細りの先端部120aが半球形状である。その他の構造は、第1実施形態と同じである。第2実施形態においても、上述の第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0067】
図8は、本発明の第3実施形態を示す。第3実施形態に係る回転ユニットRUBの締結部材122は、先細りの先端部122aに軸方向に貫通した貫通孔124が形成されている。貫通孔124の外周には、径方向に沿った平坦な先端面123が形成されている。貫通孔124の直径d1および先端面123の外径、つまり先細りの先端部122aの直径d2は、回転軸44の直径d3よりも小さく設定されている。その他の構造は、第1実施形態と同じである。第3実施形態においても、上述の第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0068】
図9は、本発明の第4実施形態を示す。第4実施形態に係る回転ユニットRUCの回転軸44の先端部126は、締結部材である六角ナット125から軸方向先端側に突出し、先端部126の外表面126aが、羽根車50から遠ざかるにつれて連続的に滑らかに先細りとなるように湾曲している。その他の構造は、第1実施形態と同じである。第4実施形態によれば、高速の吸気が、先細りの回転軸44の先端部126の外表面126aに沿って滑らかに羽根車50に吸入される。その結果、吸入時の吸気抵抗が小さくなって、回転ユニットRUCの圧送効率が向上する。
【0069】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、上記実施形態では、非円形部分108は六角柱形状であったが、これに限定されず、六角形以外の多角形形状であってもよい。さらに、非円形部分108は多角形形状以外に、回転操作用の工具の溝(ローレット)が形成された、ほぼ円柱形状であってもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、締結部材85に調整部を設けていたが、羽根車50を除く他の回転ユニット構成部品に調整部を設けてもよい。例えば、羽根車50と締結部材85との間にカラーを配置し、このカラーに調整部を設けてもよい。その際、カラーに偏心をつけておき、カラーの向きを変えることでバランス調整することもできる。さらに、上記実施形態では、締結部材85の先端部85aの外表面85bが連続的に先細りとなる縮径形状に形成されていたが、段階的に先細りとなるように形成してもよく、また、外表面85bは、その断面形状が中心軸線Cに向かって凹入した湾曲形状であってもよい。また、締結部材85は、軸方向の先端部85a側から見て、回転ユニットRUの回転方向と反対の旋回方向を有する螺旋状に形成してもよい。
【0071】
上記回転ユニットは、羽根車が比較的高速で回転する遠心式過給機に好適に適用され、特に、遊星歯車装置にて増速される過給機に好適に適用される。また、エンジンのような回転数が比較的高速な装置からの動力で駆動される過給機に好適に適用される。ただし、他の構造の過給機にも適用することができ、自動二輪車以外の乗物のエンジンに搭載された過給機にも適用することができる。また、エンジン回転力のほか、排気エネルギー、電気モータ等によって駆動される過給機にも適用できる。さらに、ポンプ、送風機のような過給機以外の回転機械にも適用できる。
【0072】
回転ユニットRUには、シールアセンブリSAのうちカラー75が含まれていればよく、オイルシール77およびシール保持体79が回転ユニットRUから省略してもよい。また、シールアセンブリSAはなくてもよく、シム102を用いない構造の過給機にも本発明は適用できる。
【0073】
また、オイル層96はなくてもよい。その場合、軸受ハウジング76を過給機ケース56に圧入嵌合してもよく、また、軸受ハウジング自体を過給機ケース56に形成してもよい。さらに、上記実施形態では、基端部に設けた大径の外歯78と先端に螺合した締結部材85との間で回転ユニット構成部品を挟持することで回転ユニットRUを一体化したが、回転ユニットRUの構造はこれに限定されない。例えば、基端部に小径の歯車を設け、先端部に大径のストッパを設け、基端部に螺合したナットとストッパとの間で回転ユニット構成部品を挟持してもよい。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。