特許第6302810号(P6302810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テルモ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000002
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000003
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000004
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000005
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000006
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000007
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000008
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000009
  • 特許6302810-ガイドワイヤ 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302810
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   A61M25/09 516
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-195614(P2014-195614)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-64062(P2016-64062A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 泰直
【審査官】 芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−126265(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0087780(US,A1)
【文献】 実開昭62−157549(JP,U)
【文献】 特開2003−052829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する長尺物からなるコア部を備えたガイドワイヤであって、
前記コア部は、基端側に形成された本体部と、先端側に形成された平板部とを備え、
前記平板部には、前記ガイドワイヤの軸方向に平行なスリットが2個以上設けられていることで、3個以上の細長形状部が形成され
前記コア部の先端側を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイル部を備え、前記コア部の先端と前記コイル部の先端とが固定されていることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記平板部には、前記ガイドワイヤの軸方向に平行なスリットが5個以上設けられていることで、6個以上の細長形状部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記細長形状部の断面が矩形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
記細長形状部の幅はすべて均一であることを特徴とする請求項1ないし請求項3の少なくとも一項に記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記スリットは、前記平板部の先端側にN個形成されており、
前記平板部の厚さをHとし、
N個の前記スリットそれぞれの幅をW1とし、
前記スリットの間および両端のN+1個の前記細長形状部それぞれの幅をW2とし、
N+1個の前記細長形状部それぞれの先端側において、前記コイル部に固定されている長さをDとしたとき、次の式(1)を満たすことを特徴とする請求項4に記載のガイドワイヤ。
{H×W2+(H×2+W2×2)×D}×(N+1) >
{W2×(N+1)+W1×N}×H+
[H×2+{W2×(N+1)+W1×N}×2]×D ・・・式(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔内、特に血管内にカテーテルを誘導する際に使用されるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、例えば、PTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty:経皮的冠状動脈血管形成術)のような外科的手術が困難な部位の治療、人体への低侵襲を目的とした治療、心臓血管造影などの検査に用いられるカテーテルの血管内への誘導などの際に使用される。PTCAは、冠状動脈の狭窄部位をバルーン等で拡張して、血液流路を確保する治療方法である。
【0003】
PTCAでは、ガイドワイヤの先端部をバルーンカテーテルの先端部よりも突出させた状態で、ガイドワイヤを血管の狭窄部位付近まで挿入することによって、バルーンカテーテルを狭窄部位に誘導する。その際、ガイドワイヤは、蛇行または分岐した血管、狭窄した血管等を選択し、通過する必要があり、また、狭窄部位では狭窄部位を構成するコレステロール等の堆積物をガイドワイヤの押し込み力によって押し広げる、または貫通させる必要がある。したがって、PTCAに用いられるガイドワイヤには、血管形状に追従でき、血管壁を傷つけないために優れた柔軟性(血管追従性)が要求されるとともに、手元部(基端部)の押し込み力が先端部に有効に伝わる優れた押し込み性(プッシャビリティ性)も要求される。
【0004】
また、PTCAでは、ガイドワイヤの血管追従性をさらに向上させるために、ガイドワイヤを血管内に挿入する前に、先端形状付けが行われることがある。具体的には、ガイドワイヤの先端部を分岐血管等の形状に合わせて医師等が手指で所定の形状(例えば、J型)に曲げて形状付けを行う。したがって、ガイドワイヤには、前記のような先端形状付けが容易に行えることも要求される。
【0005】
従来、PTCAに用いられるガイドワイヤとして、特許文献1では、以下のような構成を備えたガイドワイヤが提案されている。特許文献1のガイドワイヤは、長尺物からなるコア部と、コア部の先端側を覆うように設置されたコイルとを備え、コア部の先端側には板高さ(板厚)の2倍以上の板幅で形成された平板部を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2009/126656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のガイドワイヤでは、板厚の薄い平板部をコア部の先端側に備えることによって充分な血管追従性を実現できる。しかしながら、特許文献1のガイドワイヤでは、例えば狭窄部位など、他の部位よりも強い押し込み力でガイドワイヤを先に進ませる場合に、板厚の薄い平板部が変形する(撓む)ことによって、手元部(基端部)の押し込み力が先端部に有効に伝わらず、ガイドワイヤのプッシャビリティ性が低下することがあるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は優れた血管追従性およびプッシャビリティ性を有するガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係るガイドワイヤは、可撓性を有する長尺物からなるコア部を備えたガイドワイヤであって、前記コア部は、基端側に形成された本体部と、先端側に形成された平板部とを備え、前記平板部には、前記ガイドワイヤの軸方向に平行なスリットが2個以上設けられていることで、3個以上の細長形状部が形成され前記コア部の先端側を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイル部を備え、前記コア部の先端と前記コイル部の先端とが固定されていることを特徴とする。
また、本発明に係るガイドワイヤは、前記平板部には、前記ガイドワイヤの軸方向に平行なスリットが5個以上設けられていることで、6個以上の細長形状部が形成されていることが好ましい。
また、本発明に係るガイドワイヤは、前記細長形状部の断面が矩形状であることが好ましい。
また、本発明に係るガイドワイヤは、前記細長形状部の幅がすべて均一であることが好ましい。
【0010】
前記構成によれば、可撓性を有する長尺物からなるコア部の先端側に細長い板状の平板部を有することによって、ガイドワイヤの優れた血管追従性を実現できる。また、平板部に複数の細長形状部が形成されており、ガイドワイヤの基端部が回転操作された際に、複数の細長形状部が絡み合って立体構造となることによって、ガイドワイヤの基端部の押し込み力を先端部に有効に伝えることができ、優れたプッシャビリティ性を実現できる。
【0011】
また、本発明に係るガイドワイヤは、前記スリットが、前記平板部の先端側にN個形成されており、前記平板部の厚さをHとし、N個の前記スリットそれぞれの幅をW1とし、前記スリットの間および両端のN+1個の前記細長形状部それぞれの幅をW2とし、N+1個の前記細長形状部それぞれの先端側において、前記コイル部に固定されている長さをDとしたとき、次の式(1)を満たすことが好ましい。
{H×W2+(H×2+W2×2)×D}×(N+1) >
{W2×(N+1)+W1×N}×H+
[H×2+{W2×(N+1)+W1×N}×2]×D ・・・式(1)
【0012】
前記構成によれば、コイル部とコア部の固定部分の接着面積が、スリットの無い平板部の場合に比べて増えるので、当該固定部分の固定強度が増し、コイル部とコア部の分離(抜け)の可能性を低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るガイドワイヤによれば、優れた血管追従性およびプッシャビリティ性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態のガイドワイヤを示す部分縦断面図である。
図2】第1実施形態のガイドワイヤの先端側での平面図である。
図3】第1実施形態のガイドワイヤにおいて細長形状部が絡み合って立体構造となっている様子を示す平面図である。
図4図2に示すA−A線におけるコア部の端面図である。
図5図2に示すB−B線におけるコア部の端面図である。
図6】本発明の第2実施形態のガイドワイヤにおけるコア部の平板部の平面図である。
図7】本発明の第3実施形態のガイドワイヤにおけるコア部の平板部の平面図である。
図8】本発明の第4実施形態のガイドワイヤの先端側での平面図である。
図9】本発明の第1実施形態におけるコイル部と平板部の接着面積増加に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るガイドワイヤの第1実施形態〜第4実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明において、先端側とはガイドワイヤの血管挿入側を指し、基端側とは操作者(医師等)がガイドワイヤの操作を行う側を指す。
【0016】
<第1実施形態>
図1に示すように、ガイドワイヤ(以下、ワイヤと称する。)1は、コア部2を備える長尺物である。ワイヤ1の全長は、特に限定されず、例えば、200〜5000mmが好ましい。なお、ガイドワイヤ1は、コイル部6を備えることが好ましく、以下、コイル部6を備えるものとして説明する。ワイヤ1は、コア部2とコイル部6とが先端側で固定されている。固定方法としては、半田、ろう材、接着材等によって固定部72(固定材料)で固定されることが好ましいが、溶接で固定部72を形成してもよい。以下、各構成について説明する。
【0017】
(コア部)
図1図2に示すように、コア部2は、可撓性を有する長尺物からなる。なお、図1におけるX方向、Y方向に対し、それら両方に垂直な方向が、図2に示すZ方向である。コア部2は、ワイヤ1の柔軟性および強度を考慮して、Ni−Ti合金、ステンレス鋼等の弾性金属材料からなることが好ましい。そして、コア部2は、基端側から先端側に向かって順に、本体部3と、移行部4と、平板部5とを備え、平板部5には少なくとも1つのスリット53によって形成された細長形状部52が形成されている(第1実施形態ではスリット53が5個、細長形状部52が6個)。なお、コア部2は、移行部4を備えていなくてもよい。
【0018】
(本体部)
図1図2に示すように、本体部3は、棒状(非平板形状)の長尺物から構成される。本体部3の横断面(軸方向(X方向。以下同様)に垂直な断面)は、略円形状(図4参照)であることが好ましい。また、本体部3は、基端側から先端側に向かって、一定の外径を有する大径部31と、先端側に向かって外径が漸減する第1テーパ部32と、一定の外径を有する中径部33と、先端側に向かって外径が漸減する第2テーパ部34と、一定の外径を有する小径部35とを備えることが好ましい。
なお、一定の外径を有する部分の間(大径部31と中径部33との間、および、中径部33と小径部35との間)に形成されるテーパ部として、前記では第1テーパ部32と第2テーパ部34との2つを記載したが、テーパ部は2つに限定されず、少なくとも1つ形成すればよい。
【0019】
また、大径部31と外径が同一で構成材料が異なる大径部36を、接合部37(溶接部)で大径部31に接合してもよい。なお、大径部31と大径部36との接合方法としては、特に限定されないが、摩擦圧接、レーザを用いたスポット溶接、アプセット溶接等の突き合わせ抵抗溶接、管状接合部材による接合等が挙げられる。
【0020】
(移行部)
図1図2に示すように、移行部4は、本体部3と平板部5とを繋ぎ、基端側から先端側に向かって、円形等の横断面(図4参照)から矩形の横断面(図5参照)に次第に変化する部分である。そして、移行部4の長さは1〜10mmが好ましい。移行部4は、棒状の本体部3の先端側、より好ましくは細径化された先端側を金型等によってプレスすることによって、平板部5と共に作製することが好ましい。なお、平板部5の横断面の形状は、プレスによって作製するため、横断面の両端は少し丸みが残り略矩形状となる。但し、説明の便宜上、図5では両端の丸みを省略する。
【0021】
(平板部)
図1図2に示すように、平板部5は、ワイヤ1(コア部2)に柔軟性を持たせると共に、ワイヤ先端部の先端形状付けが容易となるように、矩形状の横断面(図5参照)を有する細長い板状の平板から構成されている。平板部5は、板長さ:1〜30mm、板幅:0.1〜0.45mm、板厚:0.01〜0.06mmであることが好ましい。また、平板部5の板幅は先端側に向かって増大または減少してもよく、板厚も先端側に向かって増大または減少してもよい。第1実施形態では、平板部5の板幅および板厚は先端側に向かって一定であるものとする。
【0022】
また、平板部5は、その先端側が固定部72でコイル部6に固定されている。なお、前記したように、平板部5は、棒状の本体部3の先端側を金型等によってプレスすることによって移行部4と共に作製することが好ましい。
【0023】
また、平板部5には、軸方向に平行で幅がW1の5個のスリット53が設けられたことによって、軸方向に平行で幅がW2の6個の角柱状の細長形状部52が形成されている。それぞれのスリット53の幅W1は、0〜0.1mmであることが好ましい。また、それぞれの細長形状部52の幅W2は、0.02〜0.3mmであることが好ましい。5個のスリット53は、平板部5にレーザ加工等の機械加工を施すことによって作製することが好ましい。平板部5において、6個の細長形状部52以外は平板部分51である。
【0024】
なお、5個のスリット53はすべてが同じ幅でなくてもよく、また、6個の細長形状部52もすべてが同じ幅でなくてもよい。また、スリット53および細長形状部52は、基端側から先端側に向かって増大または減少するように形成してもよい。また、細長形状部52の軸方向に垂直な断面の形状は、矩形でなくとも、円形などの他の形状であってもよい。例えば円形の場合、細長形状部52の軸方向に垂直な断面の直径は、0.02〜0.3mmであることが好ましく、その他の寸法は本実施形態のように矩形の場合と同様である。また、目的を達成するために必要な好適な寸法に、断面形状によって適宜設定可能なものとする。
また、スリット53の個数(N個)は、1〜50個が好ましい。その場合、細長形状部52の個数は、スリット53の個数よりも1つ多い2〜51個となる。
【0025】
また、スリット53および細長形状部52の軸方向の長さ(図2のD1)は、1〜30mmであることが好ましい。
また、平板部5における平板部分51の軸方向の長さ(図2のD2)は、0〜20mmであることが好ましい。
【0026】
(コイル部)
図1に示すように、コイル部6は、コア部2の先端側を覆うように設置され、素線を螺旋状に形成してなるコイルである。コイル部6は、隣接する素線同士が接触した、いわゆる密巻きしたものや、隣接する素線同士が離間したもののいずれでもよい。また、コイル部6は、その先端側が固定部72でコア部2(平板部5)に固定されている。
【0027】
なお、コイル部6は、固定部72以外でもコア部2に固定されていてもよい。第1実施形態では、コイル部6の途中の部位である境界部63が固定部73でコア部2(小径部35など)に固定され、第1コイル部61の基端側が固定部71でコア部2(中径部33の基端側、および、第1テーパ部32の先端側)に固定されている。
ここで、固定部71、72、73では、例えば、半田、ろう材、接着剤、溶接等によって固定すればよい。
【0028】
コイル部6の素線を構成する材料は、特に限定されないが、ステンレス鋼、Pt−Ni合金等の金属材料であることが好ましい。また、コイル部6のサイズは、特に限定されず、ワイヤ1の使用目的によって異なる。PTCAに使用されるワイヤ1では、コイル部6の外径が0.2〜0.4mm、コイル長さが10〜1000mmであることが好ましい。コイル部6の外径は、ワイヤ1の長さ方向に同一径であることが好ましいが、ワイヤ1の先端側に向かって減少していてもよい。コイル部6の内部は、空洞になっており、その中にコア部2及び固定部72のみが存在する。コア部2は空洞の中で変形するための自由度をある程度もっている。
【0029】
また、コイル部6は、2種以上の金属材料を組み合わせたものであってもよい。例えば、コイル部6は、基端側にステンレス鋼製の素線からなる第1コイル部61と、先端側にX線不透過材料であるPt−Ni合金製の素線からなる第2コイル部62とを備え、第1コイル部61と第2コイル部62との境界部63で両コイル部61、62を溶接、接着等で接合したものであってもよい。これにより、ワイヤ1の先端側がX線透視下で視認しやすくなる。
【0030】
(樹脂被覆部)
ワイヤ1は、コイル部6の少なくとも先端側の表面を覆うように形成された樹脂被覆部8を備えている。
具体的には、樹脂被覆部8によって覆われる部分は、ワイヤ1の表面のうち、第2コイル部62の先端側の一部の表面、第2コイル部62の全表面、コイル部6(第2コイル部62、境界部63および第1コイル部61)の全表面、先端から基端までの全表面など、いずれであってもよい。
【0031】
樹脂被覆部8は、フッ素系樹脂、無水マレイン酸系高分子物質、ポリウレタン等の樹脂材料からなることが好ましく、フッ素系樹脂からなることがさらに好ましい。また、樹脂被覆部8の厚みは0.001〜0.05mmが好ましい。このような樹脂被覆部8で覆われていることによって、ワイヤ1は、摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減するため、血管内での操作性が向上する。ただし、樹脂被覆部8はワイヤ1に必須の構成ではなく、無くてもよい。
【0032】
前記したように、PTCAにおいてワイヤ1を使用する際、血管の狭窄部位では、狭窄部位を構成するコレステロール等の堆積物をワイヤ1の押し込み力によって押し広げる、または貫通させる必要がある。その際、図3に示すように、操作者がワイヤ1の基端部を軸の周方向に回転させると、平板部5の細長形状部52が絡み合って立体構造となることによって、細長形状部52における軸方向の剛性が大幅に増大する。
【0033】
このように、第1実施形態のワイヤ1によれば、可撓性を有する長尺物からなるコア部2の先端側に細長い板状の平板部5を有することによって、ワイヤ1の優れた血管追従性を実現できる。また、血管の狭窄部位では、操作者がワイヤ1の基端部を軸の周方向に回転させることで、細長形状部52が絡み合って立体構造となることによって、ワイヤ1の基端部の押し込み力を先端部に有効に伝えることができ、優れたプッシャビリティ性を実現できる。
【0034】
ここで、スリット53の個数をN個とし、それぞれの幅をW1とし、N+1個の細長形状部52それぞれの幅をW2とし、平板部5の厚さをHとし(図1参照)、平板部5が固定部72に固定されている長さをDとしたとき(図2参照)、次の式(1)を満たすことが好ましい。
{H×W2+(H×2+W2×2)×D}×(N+1) >
{W2×(N+1)+W1×N}×H+
[H×2+{W2×(N+1)+W1×N}×2]×D ・・・式(1)
【0035】
式(1)の左辺について、1個の細長形状部52における当該固定部分の接着面積は、図9(a)に示す直方体の表面のうち、斜線の面以外の表面であり、{H×W2+(H×2+W2×2)×D}である。したがって、N+1個の細長形状部52における当該固定部分の接着面積は{H×W2+(H×2+W2×2)×D}×(N+1)となる。
【0036】
また、式(1)の右辺について、スリット53を設けない場合(従来技術)における当該固定部分の接着面積は、図9(b)に示す直方体の表面のうち、斜線の面以外の表面であり、[{W2×(N+1)+W1×N}×H+[H×2+{W2×(N+1)+W1×N}×2]×Dとなる。
【0037】
そして、式(1)を満たせば、ワイヤ1の当該固定部分の接着面積が、スリットの無い平板部(従来技術)の場合に比べて増えるので、当該固定部分の固定強度が従来技術の場合よりも増し、当該固定部分におけるコイル部6(固定部72)とコア部2の分離(抜け)の可能性を低減できる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態のガイドワイヤにおけるコア部の平板部について説明する。図6に示すように、第2実施形態の平板部5aでは、基端側平板部分51aと先端側平板部分51bに挟まれた部分に、軸方向に平行な5個のスリット53aによって設けられた、軸方向に平行な6個の細長形状部52aが形成されている。
【0039】
第1実施形態のワイヤ1における平板部5の代わりに、このような平板部5aを用いた場合でも、操作者がワイヤ1の基端部を軸の周方向に回転させると、平板部5aの細長形状部52aが絡み合って立体構造となることによって、細長形状部52aにおける軸方向の剛性が大幅に増大し、ワイヤ1の基端部の押し込み力を先端部に有効に伝えることが可能となる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態のガイドワイヤにおけるコア部の平板部について説明する。図7に示すように、第3実施形態の平板部5bでは、平板部5における基端側に、軸方向に平行な5個のスリット53bによって設けられた、軸方向に平行な6個の細長形状部52bが形成されている。平板部5bにおいて、6個の細長形状部52b以外は平板部分51cである。
【0041】
第1実施形態のワイヤ1における平板部5の代わりに、このような平板部5bを用いた場合でも、操作者がワイヤ1の基端部を軸の周方向に回転させると、平板部5bの細長形状部52bが絡み合って立体構造となることによって、細長形状部52bにおける軸方向の剛性が大幅に増大し、ワイヤ1の基端部の押し込み力を先端部に有効に伝えることが可能となる。
【0042】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態のガイドワイヤにおけるコア部の平板部について説明する。図8に示すように、第4実施形態の平板部5cでは、第1実施形態の6個の細長形状部52(図2参照)の場合に比べて、中央の2個の細長形状部52cが、他の4個の細長形状部52よりも、固定部72に固定されている部分の長さが長く形成されている。
【0043】
このような構成の平板部5cによれば、固定部72とコア部2の固定部分の接着面積がさらに増えるので、当該固定部分の固定強度がさらに増し、コイル部6(固定部72)とコア部2の分離(抜け)の可能性をより一層低減できる。
【0044】
なお、他の細長形状部52よりも長い細長形状部52cは、2個に限定されず、両端以外であれば何個としてもよい。また、前述の通りスリット53の幅W1はそれぞれのスリットの幅が均一であることが好ましいが、それに限らず不均一であってもよい。例えば、両端のスリットから中心のスリットにつれて徐々に幅が小さくなってもよく、逆に大きくなってもよい。
【0045】
(ワイヤ1の使用方法)
最後に、本発明の第1実施形態〜第4実施形態のワイヤ1の使用方法について、PTCAを例にとって説明する。
ワイヤ1の先端をガイディングカテーテルの先端から突出させ、その状態でセルジンガー法により大腿動脈内に挿入し、大動脈、大動脈弓、右冠状動脈開口部を経て右冠状動脈内に挿入する。ガイディングカテーテルを右冠状動脈開口部の位置に残したまま、ワイヤ1のみを右冠状動脈内でさらに進めて血管狭窄部を通過させ、ワイヤ1の先端が血管狭窄部を越えた位置で停止する。これにより、狭窄部拡張用のバルーンカテーテルの通路が確保される。
【0046】
次に、ワイヤ1の基端側から挿通されたバルーンカテーテルの先端をガイディングカテーテルの先端から突出させ、さらにワイヤ1に沿って進め、右冠状動脈開口部から右冠状動脈内に挿入し、バルーンカテーテルのバルーンが血管狭窄部の位置に到達したところで停止する。
【0047】
次に、バルーンカテーテルの基端側からバルーン拡張用の流体を注入して、バルーンを拡張させ、血管狭窄部を拡張する。このようにすることによって、血管狭窄部に付着堆積しているコレステロール等の堆積物は物理的に押し広げられ、血流阻害が解消される。
【0048】
バルーン内からバルーン拡張用の流体を抜き取り、バルーンを収縮させる。次いで、バルーンカテーテルをワイヤ1と共に基端方向へ移動して、血管よりバルーンカテーテル、ワイヤ1およびガイディングカテーテルを抜き取る。以上により、PTCAの手技が終了する。
【符号の説明】
【0049】
1 ガイドワイヤ(ワイヤ)
2 コア部
3 本体部
4 移行部
5 平板部
51 平板部分
52 細長形状部
53 スリット
6 コイル部
71、72、73 固定部
8 樹脂被覆部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9