特許第6303015号(P6303015)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303015
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】製品販売促進最適化システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 30/02 20120101AFI20180319BHJP
   G06Q 10/04 20120101ALI20180319BHJP
【FI】
   G06Q30/02 318
   G06Q10/04
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-544329(P2016-544329)
(86)(22)【出願日】2014年8月15日
(65)【公表番号】特表2016-531376(P2016-531376A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】US2014051245
(87)【国際公開番号】WO2015041778
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】14/030,287
(32)【優先日】2013年9月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502303739
【氏名又は名称】オラクル・インターナショナル・コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】596060697
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】パンチャンガム,キラン・ベンカタ
(72)【発明者】
【氏名】レオン,ガイ−ハング・ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】ペラキス,ジョージア
【審査官】 牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−044752(JP,A)
【文献】 米国特許第07877286(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0130726(US,A1)
【文献】 小出 武 外1名,参考効果を考慮した多期間最適割引問題,日本オペレーションズ・リサーチ学会 2013年春季研究発表会アブストラクト集 (第31回企業事例交流会),2013年 3月 5日,p.200−201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
命令が格納されたコンピュータ読取可能プログラムであって、前記命令は、プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに製品および目的関数についての販売促進価格設定を決定させ、前記決定させることは、
前記製品についての非線形時間依存性最適化問題を受付けるステップを備え、前記最適化問題は、需要モデルおよび複数の制約を含み、前記制約は、複数の期間と、前記期間の各々における前記製品についての販売非促進価格とを含む価格ラダーを含み、前記決定させることは、さらに、
前記期間の各々について、その期間における価格が販売促進価格を含み、かつ、前記価格ラダー上のすべての他の価格が販売非促進価格に設定されたときの前記目的関数の変化を決定して、係数を生成するステップと、
前記期間の各々における前記係数の最大値を決定するステップと、
前記係数に基づいて近似の混合整数計画(MIP)問題を生成するステップと、
前記MIP問題の線形計画(LP)緩和を決定するステップと、
前記LP緩和を解いて、前記価格ラダーに沿って前記期間の各々における前記製品についての販売促進価格のベクトルを生成するステップとを備える、コンピュータ読取可能プログラム。
【請求項2】
前記目的関数は、利益総額、総収入または売上総利益の少なくとも1つを含む、請求項1に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項3】
前記最適化問題は、前記製品についての時間依存性参照価格設定を含む、請求項1または2に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項4】
前記複数の制約は、ノータッチ制約または価格変化に対する制限の少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項5】
前記係数のすべてが互いに異なるか否かを決定するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項6】
前記係数の各々と二値決定変数との積を合計するステップをさらに含み、前記二値決定変数の各々は、0または1のいずれかを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項7】
前記係数が互いに異なっていない場合、前記係数の1つ以上にファクターを加えるステップをさらに含む、請求項5に記載のコンピュータ読取可能プログラム。
【請求項8】
製品および目的関数についての販売促進価格設定を決定するためにコンピュータで実行される方法であって、前記方法は、
コンピュータのプロセッサが、前記製品についての非線形時間依存性最適化問題を受付けるステップを備え、前記最適化問題は、需要モデルおよび複数の制約を含み、前記制約は、複数の期間と、前記期間の各々における前記製品についての販売非促進価格とを含む価格ラダーを含み、前記方法はさらに、
前記プロセッサが、前記期間の各々について、その期間における価格が販売促進価格を含み、かつ、前記価格ラダー上のすべての他の価格が販売非促進価格に設定されたときの前記目的関数の変化を決定して、係数を生成するステップと、
前記プロセッサが、前記期間の各々における前記係数の最大値を決定するステップと、
前記プロセッサが、前記係数に基づいて近似の混合整数計画(MIP)問題を生成するステップと、
前記プロセッサが、前記MIP問題の線形計画(LP)緩和を決定するステップと、
前記プロセッサが、前記LP緩和を解いて、前記価格ラダーに沿って前記期間の各々における前記製品についての販売促進価格のベクトルを生成するステップとを備える、方法。
【請求項9】
製品についての販売促進価格設定を決定するためのシステムであって、前記システムは、
前記製品についての非線形時間依存性最適化問題を受付ける目的関数変化決定モジュールを備え、前記最適化問題は、需要モデルおよび複数の制約を含み、前記制約は、複数の期間と、前記期間の各々における前記製品についての販売非促進価格とを含む価格ラダーを含み、前記目的関数変化決定モジュールは、前記期間の各々について、その期間における価格が販売促進価格を含み、かつ、前記価格ラダー上のすべての他の価格が販売非促進価格に設定されたときの目的関数の変化を決定して、係数を生成し、前記システムはさらに、
前記期間の各々における前記係数の最大値を決定し、前記係数に基づいてMIP問題を生成する混合整数計画(MIP)生成器と、
前記MIP問題のLP緩和を決定し、前記LP緩和を解いて、前記価格ラダーに沿って前記期間の各々における前記製品についての販売促進価格のベクトルを生成する線形計画(LP)ソルバーとを備える、システム。
【請求項10】
前記目的関数変化決定モジュールは、前記係数のすべてが互いに異なるか否かをさらに決定する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記目的関数変化決定モジュールは、前記係数が互いに異なっていない場合、前記係数の1つ以上にファクターをさらに加える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記MIP生成器は、前記係数の各々と二値決定変数との積をさらに合計し、前記二値決定変数の各々は、0または1のいずれかを含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
前記目的関数は、利益総額、総収入または売上総利益の少なくとも1つを含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記最適化問題は、前記製品についての時間依存性参照価格設定を含む、請求項9〜13のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
一実施形態は、概してコンピュータシステムに関し、特に、製品販売促進最適化(product promotion optimization system)コンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
製品ライン価格設定は、一年を通して増分利益を生じるために動的な価格設定戦略を使用する小売業者および他の商品販売者が直面する、重要なビジネス上の問題である。とりわけ、ますます多くの小売業者が決定支援システムを利用し始めており、この決定支援システムは、価格設定推奨を自動化し、最適化するために大量の詳細な需要データを活用している。特に、ある製品の価格変化がその需要、または別の製品の需要に及ぼす効果の分析に基づく品目の価格弾力性の統計的モデリングを使用して、製品の価格設定を最適化することができる。
【0003】
さらに、多くの小売業者が、販売および/または利益を増進する刺激として、販売促進を使用している。販売促進は、製品のライフサイクルにおいて一時的なものであり、典型的には数週間以下継続し、通常価格からの価格割引と関連付けられる。促進価格設定を最適化することは、極めて困難な問題である。なぜなら、小売業者は、どの製品を販売促進するか、どの販売促進手段を使用するか、価格割引をどれだけ深くするか、最後に、販売促進をいつに予定するかについて決定しなければならないためである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
一実施形態は、製品および目的関数についての販売促進価格設定を決定するシステムである。システムは、製品についての非線形時間依存性最適化問題を受付け、非線形問題は、需要モデルおよび複数の制約を含み、制約は、複数の期間と、期間の各々における製品についての販売非促進価格とを含む価格ラダーを含む。システムは、各期間について、その期間における価格が販売促進価格を含み、かつ、価格ラダー上のすべての他の価格が販売非促進価格に設定されたときの目的関数の変化を決定して、係数を生成する。システムは、各期間における係数の最大値を決定し、係数に基づいて近似の混合整数計画(Mixed Integer Programming;「MIP」)問題を生成する。システムは、MIP問題の線形計画(Linear Programming;「LP」)緩和を決定し、LP緩和を解いて、価格ラダーに沿って各期間における製品についての販売促進価格のベクトルを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本発明の一実施形態を実現可能なコンピュータシステムのブロック図である。
図2】一実施形態に係る、ある製品について最適化された販売促進を決定する際の図1の製品販売促進最適化モジュールの機能のフローチャートである。
図3a】さまざまな入力パラメータについて、MIP最適解と厳密な先行技術の最適解との比の特性を示す図である。
図3b】さまざまな入力パラメータについて、MIP最適解と厳密な先行技術の最適解との比の特性を示す図である。
図4a】先行技術と比較した本発明の実施形態のスケーラビリティを示す図である。
図4b】先行技術と比較した本発明の実施形態のスケーラビリティを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
詳細な説明
一実施形態は、製品最適化問題から増分利潤(incremental profit)係数を決定することによって、1つの製品について最適化された販売促進価格設定(promotional pricing)を決定する製品販売促進最適化装置である。各期間について係数の最大値が決定され、近似の混合整数計画(「MIP」)問題が定式化される(formulated)。MIPの線形計画緩和が決定され、その後、線形計画緩和が解かれて、販売促進価格設定解が出力される。
【0007】
図1は、本発明の一実施形態を実現可能なコンピュータシステム10のブロック図である。1つのシステムとして示されているが、システム10の機能は、分散型システムとしても実現可能である。システム10は、情報を通信するためのバス12または他の通信機構と、バス12に連結された、情報を処理するためのプロセッサ22とを含む。プロセッサ22は、如何なるタイプの汎用または特定目的プロセッサであってもよい。システム10は、情報およびプロセッサ22によって実行されるべき命令を格納するためのメモリ14をさらに含む。メモリ14は、ランダムアクセスメモリ(「RAM」)、読出専用メモリ(「ROM」)、磁気ディスクもしくは光ディスクなどのスタティックストレージ、または任意の他のタイプのコンピュータ読取可能媒体の任意の組合せからなり得る。システム10は、ネットワークへのアクセスを設けるために、ネットワークインターフェースカードなどの通信デバイス20をさらに含む。このため、ユーザは、ネットワークまたは任意の他の方法により、直接または遠隔的にシステム10とインターフェースし得る。
【0008】
コンピュータ読取可能媒体は、プロセッサ22によってアクセス可能な任意の利用可能な媒体であり得、揮発性および不揮発性媒体、リムーバブルおよび非リムーバブル媒体、ならびに通信媒体が含まれる。通信媒体には、コンピュータ読取可能命令、データ構造、プログラムモジュール、または搬送波もしくは他の伝送機構などの変調データ信号における他のデータが含まれ得、任意の情報伝達媒体(information delivery media)が含まれる。
【0009】
プロセッサ22は、バス12を介して、液晶ディスプレイ(「LCD」)など、ユーザに情報を表示するためのディスプレイ24にさらに連結される。さらに、キーボード26およびコンピュータマウスなどのカーソル制御デバイス28がバス12に連結されて、ユーザは、システム10とインターフェースすることができる。
【0010】
一実施形態において、メモリ14は、プロセッサ22によって実行される機能を設けるソフトウェアモジュールを格納する。モジュールは、システム10にオペレーティングシステム機能を設けるオペレーティングシステム15を含む。モジュールは、製品販売促進最適化モジュール16をさらに含み、製品販売促進最適化モジュール16は、以下により詳しく開示するように、最適化された製品販売促進価格設定を生成する。システム10は、オラクル社による「小売需要予測(Retail Demand Forecasting)」、または企業資源計画(Enterprise Resource Planning;「ERP」)システムなど、より大きなシステムの一部であり得る。したがって、システム10は、典型的には、追加の機能を含むために、1つ以上の追加の機能モジュール18を含む。データベース17は、バス12に連結されて、モジュール16および18のために集中型ストレージを設け、価格設定情報、在庫情報、ERPデータなどを格納する。
【0011】
一実施形態は、小売業者に製品販売促進最適化を提供し、製品販売促進最適化は、1つの製品と、顧客に販売促進を知らせるための1つの手段とを有する。小売業者は、有限期間(たとえば3か月)にわたってある目的関数(たとえば、利益総額、収入、売上総利益など)を最大化することを望み、この目的関数において、需要は、価格の非線形時間依存性関数として表され、これらの価格は、離散的な価格ラダー(price ladder)のみから値を取り得る。
【0012】
実施形態は、一定の制約を受付ける離散変数の非線形時間依存性目的関数(たとえば、集約利益総額)を最小化または最大化する販売促進最適化問題を定式化する。目的関数は、すべての異なる期間について計算され、この目的関数において、各品目毎の需要は、すべての品目価格の非線形関数として表され、これらの価格は、特定の価格ラダーのみから値を取り得る。この最大化問題は、次のように記述され得る。すなわち、ビジネスルールによって動機付けされるいくつかの制約を受付ける集約利益総額(または任意の他の代替的な目的関数)を最大化するように、販売期間Tにわたる各期間における最良価格(p、…、p)を得る。
【0013】
一実施形態は、参照価格効果を組入れた需要モデルから始まる。一般に、参照価格は、履歴公示価格および過去の価格設定の記憶に依存して、消費者が時間tにおいて払おうとする価格を特徴付ける。実施形態は、価格の関数として、需要をモデリングするために参照価格効果を対数−対数形式(log-log form)でモデル化する。ここで、時間tにおける需要は、次のとおりである。
【0014】
【数1】
【0015】
式中、β、β価格、β利得およびβ損失は、それぞれ需要の季節性、価格弾力性パラメータ、参照価格利得および損失パラメータと共に市場占有率を表す。一般に、需要に対する参照価格効果は、非対称である。演算子「+」は、(x)=max(x、0)によって規定される。実施形態は、如何なる需要形態も取らない。
【0016】
実施形態は、いくつかのビジネス要件/ルールを組入れ、有限の計画対象期間窓(horizon window)を考慮する。このようなビジネスルールの例としては、価格変動(たとえば、品目の価格はそのときの20%しか修正できないなど)に対する自然制限(natural limitations)、およびノータッチ制約(たとえば、2回の販売促進が、あるアイドル時間によって離されなければならないなど)が含まれる。さらに、実施形態は、小売環境下で観察される販売促進疲労効果を取込むために、時間tにおける需要を過去の価格に依存させる。たとえば、時間tにおける価格を割引すると、そのときの需要は増加するが、将来のどこかの時期に需要が低下する可能性もある。たとえば、一部の顧客は、魅力的な割引のため、より多くの量を購入するかもしれない。この現象は、「備蓄(stockpiling)」として知られており、実施形態は、需要に対する参照価格伝搬効果(reference price propagation effect)を用いることによって、この要因を取込む。一実施形態では、次の制約が考慮される。
【0017】
需要モデル:一実施形態は、近視眼的な(非戦略的な)顧客を有する無限母集団を仮定する要求モデルを使用する。時間tにおける要求は、所与の非線形かつ時間依存性関数d=f(p、r)として表され、式中、rは、時間tにおける参照価格を示し、次に示される指数平滑法関係に従うと仮定される。
【0018】
【数2】
【0019】
式中、0≦θ<1は、記憶パラメータを表し、rは、(データから示されるまたは推定される)初期参照価格である。したがって、時間tにおける要求は、暗黙的に、すべての過去の価格に依存する。
【0020】
価格ラダー:一実施形態において、価格ラダーは、{q、…、q}として表され、式中、qは通常価格である。需要モデルは、通常価格qが時間依存性である場合について、一般化することができる。二値変数αは、時間tにおける価格がqに設定された場合に1と同等となり、それ以外の場合には0となる。
【0021】
ノータッチ制約(no-touch constraint):このルールは、2回の連続的な販売促進が、ある期間によって離されるべきであることをモデル化する。
【0022】
価格変化に対する制限:頻繁に販売促進をすると、顧客は品目の価値が下がったとみなすため、小売業者はこのような制限を加える。さらに、このルールは、高いラベリング費用および他のビジネス要件によって動機付けされ得る。
【0023】
本発明の実施形態に係る販売促進最適化問題を規定するのに用いられる表記は、次のとおりである。
【0024】
(p、r)は、その期間における価格および参照価格の関数としての、時間tにおける需要についての非線形時間依存性式である。
【0025】
は、(所与の)通常価格である。時間依存性であり得る。
は、価格ラダーのk番目の要素である。
【0026】
Tは、計画対象期間の長さ(たとえば3か月)である。
θは、記憶パラメータである。
【0027】
cは、(所与の)費用である。
およびrは、それぞれ時間tにおける価格および参照価格である。
【0028】
Sは、ノータッチ期間(2つの連続的な価格変化の間の最小期間)を表す。
Lは、価格変化の数に対して加えられる制限である(定価からTのうちの価格Lの回数は、変更可能である)。
【0029】
αは、時間tにおける価格pを選択する場合を示す二値変数である。
実施形態に係る販売促進最適化問題は、次のように定式として規定され得る(「販売促進最適化問題」と呼ぶ)。
【0030】
【数3】
【0031】
上述の販売促進最適化問題などの問題の一般的クラスは、最適にまで解くのが難しいことが知られており、高品質な近似解を得ることすらも解決困難である。一般に、利潤関数は、凸または凹と仮定することができないため、これらの問題を、価格ラダー制約が緩和され、価格変数が連続的であるとみなされた後に、傾斜法を用いて解くことはできない。さらに、可能性の数は指数関数的に極めて速く増加するため、列挙は解決可能でないことは明らかである。さらに、本発明の実施形態と同様に、過去の価格に対する需要の時間依存性が加えられる(すなわち、参照価格)と、上記の販売促進最適化問題を解くことは、より一層困難となる。
【0032】
上述のように、実施形態は、販売促進最適化問題の非線形時間依存性需要関数についての混合整数計画(「MIP」)近似を定式化する。さらに、MIP問題を解く代わりに、実施形態は、本発明の実施形態に係るモデルが効率的かつ解決可能となるように、MIP問題の線形計画(「LP」)緩和を解く。
【0033】
実施形態は、変数の離散的特性を利用することによって、販売促進最適化問題の高品質な近似解を得る。実施形態は、任意の非線形要求を有する問題の一般的クラスについても作用し、問題についての対象のビジネス要件の組入れも可能にする。さらに、実施形態は、目的関数、価格変化の許容数、およびノータッチ期間を含む、さまざまな入力パラメータが選ばれることを可能にする。実施形態は、解が効率的に提供され得、かつスケーラブルとなるように、問題を、線形計画問題を解くこととする。
【0034】
実施形態は、在庫は常に入手可能であると仮定しているため、需要は販売と同等である。実施形態はさらに、所与の期間(たとえば、週)中の販売は、その期間(たとえば、週)の価格、およびその品目についての参照価格に依存する(任意の時間依存性関数になり得る)と仮定する。
【0035】
実施形態は、販売非促進価格qの現在の値を付与され、目的は、計画対象期間にわたる各期間における新たな価格を得ることであり、この価格は、所与の目的関数を最大化し、かつ、価格制限およびノータッチ制約などのビジネス要件を充足する。価格ラダーは、典型的には、通常価格より低い価格を含むが、いくつかの実施形態では、通常価格より高い価格を含む可能性のある任意のタイプの価格ラダーにまで拡張され得る。
【0036】
図2は、一実施形態に係る、ある製品について最適化された販売促進を決定する際の図1の製品販売促進最適化モジュール16の機能のフローチャートである。一実施形態において、図2のフローチャートの機能は、メモリに格納されたソフトウェアまたは他のコンピュータ読取可能もしくは触知可能媒体によって実現され、プロセッサによって実行される。他の実施形態では、機能は、ハードウェア(たとえば、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit;「ASIC」)、プログラマブルゲートアレイ(Programmable Gate Array;「PGA」)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array;「FPGA」など)、またはハードウェアおよびソフトウェアの任意の組合せによって実施され得る。
【0037】
202において、上記のように、元の、一般的に非線形時間依存性の販売促進最適化問題が、入力ストリームから読出される。販売促進最適化問題は、需要モデル、目的関数、および制約を含む。
【0038】
204において、各期間および問題の各価格ラダー要素について、時間tにおける価格が価格ラダーにおいてqと同等となるよう選択され、かつ、すべての他の価格がq(すなわち、通常の販売非促進価格)に設定されたときの集約利益総額(または任意の他の代替的な目的関数)の変化が決定される。対応する価格の変化が販売非促進価格に比べて全体的に有益となるとき、これらの係数は正となる。
【0039】
206において、各期間について、係数bの最大値:bmaxが決定される。このような係数は、合計T個ある。
【0040】
208において、bが互いに異なるか否かが決定される。208においてyesの場合、機能は212に継続する。
【0041】
208においてnoの場合(すなわち、すべてのbが互いに異なっていない場合)、210において、すべてのbが互いに異なるように、bの一部に小さなファクターεが加えられる。この目的は、ユニークな最適解が生成され、かつ整数値となることが保証されるように、タイ(ties)を回避することである。さらに、以下に詳しく開示されるMIPの最適解の値は、小さなファクターの追加によって影響されない。一実施形態では、εの値は、bの最小値の5%とほぼ同等であり得る。
【0042】
212において、近似MIPが定式化され、これは、最大化されるべき目的関数(たとえば、利益総額)が、一度に1つの価格変化を有することの増分利潤の合計として計算される。より具体的には、目的は、204で計算された係数と決定変数αとの積の合計によって近似される。数学的には、目的は、
【0043】
【数4】
【0044】
(式中、π(p)は、すべての価格がqと同等であるときの目的関数である)によって近似される。元の製品最適化問題のすべての他の制約は、そもそも線形であり、変更される必要はない。一実施形態に係るMIP定式化は、以下に詳しく開示される。
【0045】
214において、212によるMIPのLP緩和は、
【0046】
【数5】
【0047】
に修正することによって検討される。
【0048】
216において、214において定式化されたLPは、LPソルバーによって解かれる。既知のLPソルバーの例としては、Cplex、XPRESS MP、Gurobiなどが含まれる。最適整数解(αは復元される(restored)。
【0049】
218において、元の問題の価格設定解および対応する利益は、報告目的および他のインターフェース目的で出力ストリームに書込まれる。価格設定解は、
【0050】
【数6】
【0051】
の形態の、価格設定ラダー上の日付に対応する、製品についての価格のベクトルである。
図2の212に関連して開示されるMIP定式化のさらなる詳細は、次のとおりである。まず、すべての価格がqに設定されたときの計画対象期間にわたる集約利益総額は、π(p)によって示される。次に、係数の組が導入され、1つの価格のみが変更された(かつ、特定のqに同等となる)ときの集約利益と、π(p)との差が、次のように表される。
【0052】
【数7】
【0053】
式中、π(p)は、時間tにおける価格がqと同等であり、すべての残りの価格がqと同等である場合の集約利益総額を表す。
【0054】
先に開示したように、二値決定変数αの組は、次のように、時間tにおける価格がそのラダーにおいてk番目の価格に代入されたか否かを示す。
【0055】
【数8】
【0056】
最後に、MIP解が、次のように定式化される。
【0057】
【数9】
【0058】
上記のMIP問題は、割引ファクターなしに、有限計画対象期間Tにわたる集約利益総額を最大化する。他の実施形態では、一般的目的関数が代わりに使用され得る。さらに、いくつかの実施形態においては、各期間における異なる価格ラダーに対する制約および価格変化に対するより複雑な制限が組入れられ得る。
【0059】
図2の218における価格設定解出力は、上に開示した元の販売促進最適化問題の厳密解への近似となる。具体的には、この解は、厳密に1つのα変数が各時間tにおけるものと同等となるため、価格の最終ベクトルが、
【0060】
【数10】
【0061】
と容易に決定され得ることを保証する。最後に、実現可能な価格に対する制約は、元の定式化におけるものと同様である。
【0062】
開示されるように、実施形態は、1つの製品についての販売促進最適化問題に対するほぼ最適な解を得ることが可能である。さらに、実施形態は、1つの品目問題をサブルーチンとして解くことによって(すなわち、1つの品目問題を複数回解くことによって)、複数の項目を有するより一般的な問題を近似するために使用され得る。
【0063】
実施形態はスケーラブルであり、ほぼ最適な解を生じ、小売業者に付加価値を与える。実施形態の有効性を実証するために、本発明の実施形態に係るMIP解を用いた販売促進最適化問題を解くことと、厳密法(exact approach)を用いて得られる先行技術の最適解とを比較した。一般に、先行技術の厳密法は、網羅的列挙、または、非線形目的関数により整数計画を定式化することを伴う。しかしながら、これらの先行技術法は、一般に、大型の問題にはスケーラブルではない。
【0064】
図3aおよび図3bは、さまざまな入力パラメータ、すなわち、「S」(図3a)および「L」(図3b)について、MIP最適解(本発明の実施形態)と厳密な先行技術の最適解との比の特性を示す。上記のように、Sパラメータは、販売促進間の時間であり、Lパラメータは、販売促進の数である。示されるように、比は、2つの方法間で極めて1に近く、これは、本発明の実施形態に係る解の特性が、ほとんどの実用的状況に許容されることを示している。
【0065】
図4aおよび図4bは、先行技術(「最適解」と呼ぶ)と比較した本発明の実施形態(「MIP解」と呼び、図4aの線402および図4bの線404として示される)のスケーラビリティを示す。示されるように、本発明の実施形態に係るMIP解を得るための時間は、問題の大きさにかかわらず、概ね一定である(増加する数のSおよびLパラメータによって示される)。しかしながら、厳密な先行技術の最適法は、効率的かつ適時に実行することが不可能となり得る点にまで、問題の大きさに指数関数的に増加する。
【0066】
開示されるように、実施形態は、価格設定が価格設定ラダー上で低下する、1つの製品についての最適化された製品販売促進価格設定を生成する。元の販売促進問題は、増分利潤係数を決定することによって、近似MIPとして定式化される。MIPのLP緩和が決定され、LPが解かれて、製品についての販売促進価格設定のベクトルが生成される。
【0067】
本明細書において、いくつかの実施形態を具体的に例示および/または説明した。しかしながら、開示した実施形態の改良およびバリエーションが、上記の教示によってカバーされ、本発明の精神および意図する範囲から逸脱することなく、添付の請求項の範囲内にあることが理解されるであろう。
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b