(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303018
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】車両制御装置、及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20180319BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20180319BHJP
B60W 10/101 20120101ALI20180319BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20180319BHJP
B60W 10/107 20120101ALI20180319BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
B60W30/02 300
B60W10/00 114
B60W10/06
B60W10/107
F02D29/02 311A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-548586(P2016-548586)
(86)(22)【出願日】2015年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2015066508
(87)【国際公開番号】WO2016042856
(87)【国際公開日】20160324
【審査請求日】2017年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-189907(P2014-189907)
(32)【優先日】2014年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諏訪部 智之
【審査官】
山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−069849(JP,A)
【文献】
特開2011−131634(JP,A)
【文献】
特開2010−031846(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/010547(WO,A1)
【文献】
特開2013−124749(JP,A)
【文献】
特開2013−063722(JP,A)
【文献】
特開平02−241844(JP,A)
【文献】
特開平03−282040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/101
B60W 10/107
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦伝達機構としての無段変速機構と摩擦締結要素を締結及び解放する機構とを直列に有する変速機を備えた車両の車両制御装置であって、前記車両の左右の車輪に分配される駆動力を別々に制御し、車両側からの要求により駆動源から前記車輪に伝達される駆動力を低減する車両姿勢制御を実行可能な車両制御装置において、
前記車輪におけるスリップの発生を検出するスリップ検出手段と、
前記車両姿勢制御作動中であって前記スリップ検出手段により前記車輪のスリップが検出されたとき、前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機を制御する変速機制御手段と、
前記変速機制御手段により前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機が制御されるときに前記無段変速機構で滑りが発生しないように前記駆動源のトルクの低下量を算出し、該低下量に基づいて前記駆動源のトルクを低減するトルク低減制御を実行するトルク制御手段と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記トルク制御手段は、前記変速機の変速比が所定のLow変速比範囲にあるとき前記トルク低減制御を実行する、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御装置であって、
前記トルク制御手段は、前記変速機の変速比が所定のHigh変速比範囲にあるとき前記トルク低減制御を実行しない、
車両制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両制御装置であって、
前記車両姿勢制御作動中であって前記スリップ検出手段により前記車輪のスリップが検出され、かつ、前記変速機の変速比が前記所定のLow変速比範囲と前記所定のHigh変速比範囲との間の変速比範囲にあるとき、前記駆動源のトルクを低減する第2のトルク制御手段を備える、
車両制御装置。
【請求項5】
摩擦伝達機構としての無段変速機構と摩擦締結要素を締結及び解放する機構とを直列に有する変速機を備えた車両の車両制御方法であって、前記車両の左右の車輪に分配される駆動力を別々に制御し、車両側からの要求により駆動源から前記車輪に伝達される駆動力を低減する車両姿勢制御を実行可能な車両制御方法において、
前記車輪におけるスリップの発生を検出し、
前記車両姿勢制御作動中に前記車輪のスリップが検出されたとき、前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機を制御し、
前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機が制御されるときに前記無段変速機構で滑りが発生しないように前記駆動源のトルクの低下量を算出し、該低下量に基づいて前記駆動源のトルクを低減するトルク低減制御を実行する、
を含む車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両制御装置、及び車両の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車輪における制動力を個別に制御可能な横滑り防止装置と、車輪がスリップした場合にエンジントルクを低減するトラクションコントロール装置とを設け、これらを制御することで車両姿勢を安定させる車両姿勢制御を実行可能とした車両の制御装置がJP2011−131634Aに開示されている。
【発明の概要】
【0003】
また、車両においては、車輪がスリップした場合に変速機の保護のために変速機の状態に応じてエンジントルクを低下させるトルク制御が行われることが知られている。
【0004】
上記車両姿勢制御と、トルク制御とを実行可能な車両で、例えば、登坂路など大きい駆動力が要求されているシーンにおいて、車両姿勢制御に加えて上記するトルク制御が行われると、車両の駆動力の低下量が大きくなり、登坂路を走行するために必要な駆動力が不足するおそれがある。このようにトルク制御が適切に実行されない場合には、運転性が悪化するおそれがある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、
無段変速機構における滑りを防止し、変速機を保護す
ることを目的とする。
【0006】
本発明のある態様によれば、摩擦伝達機構としての無段変速機構と摩擦締結要素を締結及び解放する機構とを直列に有する変速機を備えた車両の車両制御装置であって、前記車両の左右の車輪に分配される駆動力を別々に制御し、車両側からの要求により駆動源から前記車輪に伝達される駆動力を低減する車両姿勢制御を実行可能な車両制御装置において、前記車輪におけるスリップの発生を検出するスリップ検出手段と、前記車両姿勢制御作動中であって前記スリップ検出手段により前記車輪のスリップが検出されたとき、前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機を制御する変速機制御手段と、前記変速機制御手段により前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機が制御されるときに
前記無段変速機構で滑りが発生しないように前記駆動源のトルクの低下量を算出し、該低下量に基づいて前記駆動源のトルクを低減するトルク低減制御を実行するトルク制御手段と、を備える車両制御装置が提供される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、摩擦伝達機構としての無段変速機構と摩擦締結要素を締結及び解放する機構とを直列に有する変速機を備えた車両の車両制御方法であって、前記車両の左右の車輪に分配される駆動力を別々に制御し、車両側からの要求により駆動源から前記車輪に伝達される駆動力を低減する車両姿勢制御を実行可能な車両制御方法において、前記車輪におけるスリップの発生を検出し、前記車両姿勢制御作動中に前記車輪のスリップが検出されたとき、前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機を制御し、前記無段変速機構のトルク容量よりも前記摩擦締結要素のトルク容量が小さくなるように前記変速機が制御されるときに
前記無段変速機構で滑りが発生しないように前記駆動源のトルクの低下量を算出し、該低下量に基づいて前記駆動源のトルクを低減するトルク低減制御を実行する車両制御方法が提供される。
【0008】
これら態様によると、
車両姿勢制御作動中かつスリップ検出時に、車輪のグリップ力が大きくなり、車輪側から入力するトルクが大きくなった場合には、摩擦締結要素が滑ることで摩擦締結要素がフェーズとして機能し、さらに、駆動源のトルクが低減されるので、無段変速機構における滑りを抑制し、変速機構を保護す
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本実施形態の車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は本実施形態のコントローラの概略構成図である。
【
図3】
図3は記憶装置に格納される変速マップの一例である。
【
図4】
図4は本実施形態のトルクダウン制御のメインルーチンの内容を示したフローチャートである。
【
図5】
図5は本実施形態のトルクダウン制御のサブルーチンの内容を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比(変速段)」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比(変速段)が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2c付きトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、作動装置6を介して車輪7へと伝達される。
【0012】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0013】
変速機4は、摩擦伝達機構としてのベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から車輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30とが直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0014】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ圧Ppri、及びセカンダリプーリ圧Psecに応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0015】
バリエータ20は、セカンダリプーリ圧Psecに基づいてライン圧PLが設定され、ライン圧PLを減圧、調圧することでプライマリプーリ圧Ppriが生成される片調圧タイプの変速機である。
【0016】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0017】
Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速(第1変速段)となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は2速(第2変速段)となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は後進となる。
【0018】
各車輪7には、それぞれブレーキ装置8が設けられており、各ブレーキ装置8は、運転者のブレーキペダルの操作量にかかわらず、制動力を個別に制御可能となっている。
【0019】
コントローラ12は、エンジン1および変速機4などを統合的に制御するコントローラであり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。なお、コントローラ12を複数のコントローラで構成してもよい。
【0020】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ21のプライマリ回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ22のセカンダリ回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、各車輪7に設けられ、車輪7の回転速度Nfを検出する車輪回転速度センサ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46、エンジン回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ47からの信号、ステアリングの操作量θを検出する舵角センサ48の出力信号等が入力される。
【0021】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号(トルク指示信号)、制動力信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、ブレーキ装置8に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0022】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0023】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APOなど)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
図3では、説明のため2つのアクセル開度APO(APO=4/8、8/8)を示す。
【0024】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比it」という。)に対応する。
【0025】
変速機4では、副変速機構30が1速の場合に実現できる変速領域(
図3中、A領域とB領域)と、副変速機構30が2速の場合に実現できる変速領域(
図3中、B領域とC領域)とは一部(B領域)が重なっている。つまり、変速領域として、副変速機構30で1速、2速でも実現できる共通変速領域が設定されている。変速機4は、副変速機構30のLowブレーキ32、Highクラッチ33のいずれを締結しても、B領域のスルー変速比itを実現することができる。
【0026】
コントローラ12は、各ブレーキ装置8における制動力を運転者のブレーキペダル操作によらずそれぞれ制御することで、左右の車輪7に分配される駆動力を別々に制御し、車両の横滑り、尻振りを防止する滑り防止機能と、車輪7に伝達するエンジントルクTeを低減するトラクションコントロール機能とを有する車両姿勢制御(以下、VDC(:Vehicle Dynamics Control)という。)を実行することができる。
【0027】
また、コントローラ12は、車輪7におけるスリップの発生状態と、変速機4の運転状態、例えば副変速機構30の変速段などとに応じて上記トラクションコントロール機能と同様のトルクダウン制御を実行することができる。つまり、コントローラ12は、車両姿勢制御とは別に、スリップの発生状態と変速機4の状態とに応じてエンジントルクTeを低減することができる。
【0028】
次に本実施形態のトルクダウン制御について
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
ステップS100では、コントローラ12は、VDCが作動しているかどうか判定する。VDCが作動している場合には処理はステップS101に進み、VDCが作動していない場合には今回の処理は終了する。
【0030】
ステップS101では、コントローラ12は、VDCを実行することで、各ブレーキ装置8における制動力を制御するとともに、エンジントルクTeを低減する。
【0031】
ステップS102では、コントローラ12は、車輪7がスリップしているかどうか、つまりVDCを実行しているにもかかわらず、ホイルスピンが発生したかどうか判定する。コントローラ12は、各車輪7に設けた車輪回転速度センサ45からの信号に基づいて、前後輪の回転速度差が所定速度差以上の場合にホイルスピンが発生していると判定する。所定速度差は予め設定された値である。ホイルスピンが発生している場合には処理はステップS104に進み、ホイルスピンが発生していない場合には処理はステップS103に進む。
【0032】
ステップS103では、コントローラ12は、トルクダウン制御を実行しない。VDCが実行され、ホイルスピンが発生していないので、コントローラ12は、必要以上にエンジントルクTeが低下しないようにする。
【0033】
ステップS104では、コントローラ12は、現在の副変速機構30の変速段が1速であるかどうか判定する。現在の副変速機構30の変速段が1速の場合には処理はステップS105に進み、現在の副変速機構30の変速段が2速の場合には処理はステップS107に進む。
【0034】
ステップS105では、コントローラ12は、スルー変速比itがA領域にあるかどうか判定する。スルー変速比itがA領域にある場合には処理はステップS106に進み、スルー変速比itがB領域にある場合には処理はステップS107に進む。
【0035】
ステップS106では、コントローラ12は、第1ベルト保護制御を実行する。第1ベルト保護制御では、ライン圧PLの増加と、第1トルクダウンとが実行される。第1ベルト保護制御では、バリエータ20のセカンダリプーリ圧PsecがVベルト23の耐久油圧となるようにライン圧PLを増加し、バリエータ20のベルト容量をLowブレーキ32のトルク容量よりも大きくする。そのため、車輪7のグリップ力が大きくなり、車輪7側から入力するトルクが大きくなった場合に、Lowブレーキ32が滑ることでLowブレーキ32がフューズとして機能し、バリエータ20におけるベルト滑りを抑制することができる。さらに第1ベルト保護制御では、バリエータ20でベルト滑りが発生しないようにエンジントルクTeの低下量が算出され、低下量に基づいてエンジントルクTeを低下する。エンジントルクTeを低下することで、バリエータ20におけるベルト滑りを抑制することができる。このようにして、バリエータ20におけるベルト滑りを防止することができる。
【0036】
ステップS107では、コントローラ12は、トルクダウン制御を実行する。
【0037】
トルクダウン制御について
図5のフローチャートを用いて説明する。
【0038】
ステップS200では、コントローラ12は、現在の副変速機構30の変速段が2速であるかどうか判定する。現在の副変速機構30の変速段が2速の場合には処理はステップS202に進み、現在の副変速機構30の変速段が1速の場合(変速段が1速でスルー変速比itがB領域の場合)には処理はステップS201に進む。
【0039】
ステップS201では、コントローラ12は、第2トルクダウンを実行する。第2トルクダウンでは、エンジン回転速度Neのオーバーレブを防止するためにエンジントルクTeが低下する。
【0040】
ステップS202では、コントローラ12は、スルー変速比itがC領域にあるかどうか判定する。スルー変速比itがC領域にある場合には処理はステップS203に進み、スルー変速比itがB領域にある場合(変速段が2速でスルー変速比itがB領域の場合)には処理はステップS204に進む。
【0041】
ステップS203では、コントローラ12は、第2ベルト保護制御を実行する。第2ベルト保護制御では、Highクラッチ33の油圧を低下し、クラッチ容量を低下する。これにより、車輪7のグリップ力が大きくなり、車輪7側から入力するトルクが大きくなった場合に、Highクラッチ33が滑ることでHighクラッチ33がフューズとして機能し、バリエータ20におけるベルト滑りを防止することができる。第2ベルト保護制御では、エンジン1からバリエータ20への入力トルクが小さいのでエンジントルクTeの低下は行われない。
【0042】
ステップS204では、コントローラ12は、第3トルクダウンを実行する。第3トルクダウンでは、Highクラッチ33がフューズとして機能した場合のHighクラッチ33の発熱量を抑制するために、エンジントルクTeを低下する。
【0043】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0044】
VDCの作動後、車輪7におけるホイルスピンの発生状態と変速機4の状態に応じて、トルクダウン制御を実行するかどうか判定し、判定結果に基づいてトルクダウン制御を実行する。これにより、バリエータ20におけるベルト滑り、副変速機構30の発熱量増加などによる変速機4の劣化を防止するとともに、必要以上にエンジントルクTeが低下することを防止し、運転性の悪化を防止することができる。
【0045】
VDC作動後、ホイルスピンが発生していない場合には、トルクダウン制御を実行しない。これにより、必要以上にエンジントルクTeが低下することを防止し、運転性が悪化することを防止することができる。
【0046】
VDC作動後、ホイルスピンが発生し、スルー変速比itがB領域にある場合には、トルクダウン制御によってエンジントルクTeを低下する。これにより、変速機4にエンジン1側から入力されるトルクが低下し、変速機4の劣化を防止することができる。
【0047】
VDC作動後、ホイルスピンが発生し、スルー変速比itがA領域にある場合には、ベルト容量を増加するとともに、エンジントルクTeを低下する。これにより、バリエータ20においてベルト滑りの発生を防止することができる。
【0048】
VDC作動後、ホイルスピンが発生し、スルー変速比itがC領域にある場合には、クラッチ容量を低下する。これにより、バリエータ20においてベルト滑りの発生を防止することができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0050】
本願は2014年9月18日に日本国特許庁に出願された特願2014−189907に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。