【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、割合、操作等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0037】
本実施例で製造した組成物の成分分析は下記の方法により行った。
(1)水分含有量の測定
水分含有量は、組成物の1gを105℃で3時問加熱乾燥し、精密天秤で恒量を求め定量した。
【0038】
(2)全窒素の定食
全窒素はAOAC法に基づくセミミクロケルダール法によって定量した。
【0039】
(3)遊離アミノ酸の定量およびアミノ酸組成の分析
総遊離アミノ酸量はNinhydrin法によって定量した。定量には標準アミノ酸としてロイシンの検量線を作成し使用した。また、遊離アミノ酸の組成は、生体分析用カラムを装着したアミノ酸自動分析機(日立社製、L-8500型)を用いて分析した。この分析には、組成物の50mgを蒸留水に溶解し、ロータリーエバポレーダー(60℃)で減圧乾固させた後、0.02N塩酸5mLで溶出し、ろ紙でろ過したのち、滅菌フィルターでろ過したろ液50μLを分析試料として使用した。
【0040】
(4)タンパク質の定量
総タンバク質量はLawry法によって決定した。標準検量線の作成には牛血清アルブミンを使用した。
【0041】
(5)N−アセチル−D−グルコサミンの定量
N−アセチル−D−グルコサミン含有量はMorgan-Elson法で定量した。
【0042】
(6)グルコサミノグリカンの定量
2−ニトロフェニルヒドラジンカップリング法による比色定量法で分析した。標準検量の作成には鶏冠由来ヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HARC)およびstreptococcus zooepidemicus由来のヒアルロン酸ナトリウム(和光純薬社製、HASZ)を用いた。
【0043】
(7)低分子ヒアルロン酸の分子量測定
示差屈折計(Shimazu社製、RID-10A型)を装着した高速液体クロマトグラフィー(Shimazu社製)によってヒアルロン酸の分子量を推定した。カラムとしてTSKgel G-2,500PW
XL(7.8mmID×30cm)を用い、水を移動相として流速1ml/minで分析を行った。分子量マーカーには分子量400、1000、2000、6000の4種のポリエチレングリコール(Aldrich社製)を用いた。また、各低分子ヒアルロン酸の構成重量比は、医薬組成物とデキストリンのみのサンプルを高速液体クラマトグラフィにより分析し、組成物で現れたピークのピーク面積からデキストリンのピーク面積を差し引くことにより求めた。
【0044】
[製造例]
採取したてのニワトリの鶏冠1kgを約1cm角に切断して小片化し、100℃で蒸きょうを行うことにより加熱殺菌した。この小片状の鶏冠にプロテアーゼを中心とした食物由来の酵素類を添加して45℃で1.5時間反応させた後、攪拌して均質化した。その後、濾過して粗大な固形成分を除去し、液状の分解生成物(以下、「プロテアーゼ分解物」という)を得た。このプロテアーゼ分解物は、pH6.5、Brix値6.20、固形分濃度5.91質量%であった。このプロテアーゼ分解物を凍結乾燥して粉砕し、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末(組成物1)を得た。また、このプロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末に3倍等量(質量比)のデキストリンを添加することにより、デキストリン添加凍結乾燥粉末(組成物1’)を製造した。
【0045】
[組成物の成分分析]
製造した組成物1’について、上記の方法により成分分析を行った。測定された一般成分の含有率を表1に示し、遊離アミノ酸の組成を表2に示し、低分子ヒアルロン酸の分子量の分析結果を表3に示す。なお、表1〜3中の「%」は「質量%」を表す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
表2に示すように、組成物1’に含まれる遊離アミノ酸の中では、イソロイシン、β−アミノイソ酪酸の含有量が多く、ついで、アラニン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、シスチン、チロシン等が多く含まれていた。
また、表3に示すように、組成物1’に含まれる低分子ヒアルロン酸は、推定分子量5000、1520、1140、760および380の5種類からなることがわかった。また、ヒアルロン酸の繰り返し単位1つの分子量を約400とすると、各低分子ヒアルロン酸の繰り返し単位数は、分子量の大きい順に、13〜14、4、3、2および1であり、質量比率は、33%、47%、10%、6%および4%であった。よって、低分子ヒアルロン酸の主要成分は、分子量1520程度の4分子成分と分子量5000程度の13〜14分子成分の2成分であることがわかった。なお、組成物1’における、分子量380〜5000の低分子ヒアルロン酸の含有率は、組成物1’の全量に対して13.4質量%であった。
【0050】
[組成物を含有するカプセル製剤の調製]
プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末に3倍等量(質量比)のデキストリンを添加して調製したデキストリン添加凍結乾燥粉末(組成物1’)を、ゼラチンからなるカプセル内に充填してカプセル製剤(以下、「プロテアーゼ分解物含有カプセル」という)を調製した。このとき、カプセルが含むプロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末の量は、1カプセルあたり150mgとした。
【0051】
[組成物の作用の評価]
製造例で製造したプロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末の作用を、日常において膝や腰の痛みに悩む健康な男女12名(男性:6名、女性:6名)を被験者として評価した。被験者の年齢範囲は55歳以上77歳未満であった。具体的には、摂取開始前に、各被験者に対して所定のアンケート又は検査を行っておき、その後、プロテアーゼ分解物含有カプセルを、1日2回、4カプセルずつを水又はぬるま湯と共に摂取させ、その摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後、8週間後に、それぞれ所定のアンケート又は検査を行った。ここで、上記のカプセル製剤の服用量は、プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末の1日摂取量で1回600mg×2回=1200mgに相当する。
また、統計解析には、統計解析ソフト(SAS社製:SAS 9.4またはIBM社製:SPSS Statistics19)を用い、摂取開始前の評価結果と各期間経過後の評価結果を対応するデータとしてt-検定により行った。アンケート調査によって得られたスコアは、ノンパラメトリックとして取り扱い、群内での比較にはWilcoxon符号付順位和検定を行った。ここで、有意水準は両側5%とし、5%以上10%未満を有意傾向ありと判定した。また、以下で示す
図1〜8において、「
*」はp<0.05を表し、「
**」はp<0.01を表し、「
+」はp<0.1を表す。各データは、平均値±標準誤差で表すことがある。
【0052】
(膝関節痛緩和作用の評価)
(1)日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度(JKOM)による評価
日本版変形性膝関節症患者機能評価尺度に基づき、プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、VAS(Visual Analogue Scale)法を用いた膝の痛みの程度のアンケートと、膝の痛みやこわばり、日常生活の状態、ふだんの生活および健康状態についてのアンケートを行った。そして、各摂取期間経過後のアンケート結果のスコアの合計と、摂取開始前のアンケート結果のスコアの合計とをWilcoxon符号付準位和検定にて比較した。摂取開始前を基準とした各摂取期間経過後のスコアの合計の変化量を
図1に示す。
VAS法による痛みの程度の評価は、長さ100mmの直線の一端を「痛みなし」、もう一方の端を「これまで経験した最も激しい痛み」と設定し、被験者自身が感じる痛みの程度を直線上にマークさせ、「痛みなし」の点を起点としてマークした箇所までの長さを測定することで行った。アンケート結果のスコア化は、最も軽度の選択肢を「0」、最も重度の選択肢を「4」とし、中間の選択肢には症状の重症度に応じてそれぞれ「1」「2」「3」として行った。
アンケート結果のスコアの合計は、摂取前では27.8±3.8、摂取2週後では21.0±2.9、摂取4週後では15.9±3.0、摂取6週後では15.2±2.9、摂取8週後では15.8±3.1であった。
図1に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では−6.8±1.7、摂取4週後では−11.9±2.4、摂取6週後では−12.7±3.1、摂取8週後では−12.0±2.8であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取2週後、摂取4週後、摂取6週後、摂取8週後で有意な減少が認められた。
【0053】
(2)西オンタリオ・マクマスター大学変形性関節症指数(準WOMAC調査票)による評価
西オンタリオ・マクマスター大学変形性関節症指数に基づき、プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、下記の指標を用いて、「過去2週間を振り返っての左右の膝の痛み」についてのアンケートを行った。そして、各摂取期間経過後におけるアンケート結果のスコアの合計と、摂取開始前のアンケート結果のスコアの合計とをWilcoxon符号付準位和検定にて比較した。摂取開始前を基準とした各摂取期間経過後のスコアの合計の変化量を
図2に示す。
【0054】
(指標とスコア)
痛みが全然ない:5点
軽い痛み:4点
中くらいの痛み:3点
強い痛み:2点
非常に激しい痛み:1点
【0055】
アンケート結果のスコアの合計は、摂取前では37.3±1.9、摂取2週後では42.1±1.8、摂取4週後では43.3±1.6、摂取6週後では45.1±1.5、摂取8週後では44.6±1.5であった。
図2に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では4.8±1.1、摂取4週後では6.0±1.6、摂取6週後では7.8±1.9、摂取8週後では7.3±2.0であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取2週後、摂取4週後、摂取6週後、摂取8週後で有意な増加が認められた。
【0056】
また、西オンタリオ・マクマスター大学変形性関節症指数に基づき、プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、下記の指標を用いて、「過去2週間を振り返っての膝の症状の為の、日常的な活動への影響」についてのアンケート(身体機能についてのアンケート)を行った。そして、各摂取期間経過後のアンケート結果のスコアの合計と、摂取開始前のアンケート結果のスコアの合計とをWilcoxon符号付準位和検定にて比較した。摂取開始前を基準とした各摂取期間経過後のスコアの合計の変化量を
図3に示す。
【0057】
(指標とスコア)
日常的な活動が全然難しくない:5点
日常的な活動が少し難しい:4点
日常的な活動がある程度難しい:3点
日常的な活動が難しい:2点
日常的な活動がかなり難しい:1点
【0058】
アンケート結果のスコアの合計は、摂取前では66.2±3.6、摂取2週後では73.0±2.5、摂取4週後では74.3±2.7、摂取6週後では75.3±2.5、摂取8週後では74.9±2.3であった。
図3に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では6.8±1.8、摂取4週後では8.2±2.3、摂取6週後では9.2±2.9、摂取8週後では8.8±2.9であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取2週後、摂取4週後、摂取6週後、摂取8週後で有意な増加が認められた。
【0059】
(腰痛緩和作用の評価)
腰痛症患者機能評価質問表(JLEQ)に基づき、プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、それぞれ、VAS法を用いた腰の痛みの程度のアンケートと、数日間の腰の痛み、数日間の腰痛による生活上の問題およびこの1か月の状態についてのアンケートを行った。そして、各摂取期間経過のアンケート結果のスコアの合計と、摂取開始前のアンケート結果のスコアの合計とをWilcoxon符号付準位和検定にて比較した。摂取開始前を基準とした各摂取期間経過後のスコアの合計の変化量を
図4に示す。
VAS法による痛みの程度の評価は、長さ100mmの直線の一端を「痛みなし」、もう一方の端を「これまで経験した最も激しい痛み」と設定し、被験者自身が感じる痛みの程度を直線上にマークさせ、「痛みなし」の点を起点としてマークした箇所までの長さを測定することで行った。アンケート結果のスコア化は、最も軽度の選択肢を「0」、最も重度の選択肢を「4」とし、中間の選択肢には症状の重症度に応じてそれぞれ「1」「2」「3」として行った。
アンケート結果のスコアの合計は、摂取前では38.3±7.3、摂取2週後では28.3±6.5、摂取4週後では21.3±5.5、摂取6週後では20.1±4.3、摂取8週後では17.8±4.1であった。
図4に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では−10.0±4.0、摂取4週後では−16.9±4.1、摂取6週後では−18.2±4.4、摂取8週後では−20.5±4.9であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取2週後、摂取4週後、摂取6週後、摂取8週後で有意な減少が認められた。
【0060】
[膝関節可動域開大作用の評価]
プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、東大式角度計30cm(Z813-153A))を用いて、整形外科専門医による膝関節自動可動域の測定を実施した。各摂取期間経過後の膝関節自動可動域の左右の平均値と、摂取開始前の膝関節自動可動域の左右の平均値とをt-検定により比較した。摂取開始前を基準とした、各摂取期間経過後の膝関節自動可動域の左右の平均値の変化量を
図5に示す。
膝関節自動可動域は、摂取前では137.38±1.81度、摂取2週後では138.50±1.71度、摂取4週後では138.13±2.42度、摂取6週後では140.79±1.62度、摂取8週後では141.38±1.77度であった。
図5に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では1.13±0.56度、摂取4週後では0.75±0.93度、摂取6週後では3.42±1.48度、摂取8週後では4.00±1.76度であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取2週後で増加の傾向、摂取6週後、摂取8週後で有意な増加が認められた。
【0061】
[コレステロール低減作用および血糖低減作用の評価]
プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と摂取開始から8週間後に、採血を行って血中総コレステロール(T-cho)値と血中グリコヘモグロビン(HbA1c)値を測定し、それらの測定値を摂取開始前と摂取開始8週間後でt-検定により比較した。ここで、グリコヘモグロビン(HbA1c)はヘモグロビンに血中のブドウ糖が結合したもので、血糖値が高いもの程、血中グリコヘモグロビン(HbA1c)値も高い値になる。
摂取開始前を基準とした8週間経過後の血中総コレステロール値の変化量を
図6に示す。
血中総コレステロール値は、摂取前では226.6±9.8mg/dL、摂取8週間後では214.3±7.9mg/dLであった。
図6に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取8週間後では−12.3±4.2mg/dLであった。経時比較において、摂取前に比較して摂取8週後で有意な減少が認められた。
また、摂取開始前を基準とした8週間経過後の血中グリコヘモグロビン値の変化量を
図7に示す。
血中グリコヘモグロビン値は、摂取前では5.47±0.08%、摂取8週後では5.29±0.07%であった。
図7に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取8週後では−0.18±0.03%であった。経時比較において、摂取前に比較して摂取8週後で有意な減少が認められた。
【0062】
[拡張期血圧低下作用の評価]
プロテアーゼ分解物含有カプセルの摂取開始前と、摂取開始から2週間後、4週間後、6週間後および8週間後に、電子血圧計(テルモ株式会社製、H55 エレマーノ血圧計)を用いて血圧を測定し、各摂取期間経過後の拡張期血圧と、摂取前の拡張期血圧とをt-検定により比較した。摂取開始前を基準とした各摂取期間経過後の拡張期血圧の変化量を
図8に示す。
拡張期血圧は、摂取前では75.7±3.2mmHg、摂取2週後では74.5±3.7mmHg、摂取4週後では75.1±3.6mmHg、摂取6週後では73.0±3.2mmHg、摂取8週後では69.5±3.3mmHgであった。
図8に示すように、摂取前を基準とした変化量は、摂取2週後では−1.2±2.6mmHg、摂取4週後では−0.6±2.3mmHg、摂取6週後では−2.7±2.2mmHg、摂取8週後では−6.2±2.1mmHgであった。経時比較において、摂取前に比較して摂取8週後で有意な減少が認められた。
【0063】
以上の結果から、本発明の組成物が含むプロテアーゼ分解物が、膝関節痛緩和作用、腰痛緩和作用、膝関節可動域開大作用、コレステロール低減作用、血糖低減作用および拡張期血圧低下作用を顕著に示すことを確認することができた。
プロテアーゼ分解物の凍結乾燥粉末がこれらの作用を示すメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。
まず、疼痛緩和作用と関節機能改善作用については、プロテアーゼ分解物が含む低分子ヒアルロン酸が関節の潤滑性を改善するとともに、関節軟骨の保護や破壊抑制、軟骨分化促進、滑膜細胞の保護に効果的に寄与し、さらに炎症を抑えるように機能したことが、これらの作用を生じさせたものと推測される。
拡張期血圧低下作用については、主としてプロテアーゼ分解物の疼痛緩和作用の影響によると考えられる。すなわち、関節痛や腰痛などにより優位になっていた交感神経の興奮が、プロテアーゼ分解物の疼痛緩和作用によって抑制され、拡張期血圧の低下につながったと推測される。
総コレステロール値および血糖値の低下については、プロテアーゼ分解物が含む成分が腸内細菌フローラおよび血清コレステロール代謝に有益な影響を与えたことによるものと推測される。