(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロペラ軸を覆う船尾管内の油室、及び、前記船尾管に隣接して設けられるシール装置内の油室のうちの少なくともいずれか一方である第1油室からタンクまでの第1油路に設けられ、前記第1油室内の油圧を調整する圧力調整弁装置を含み、
前記圧力調整弁装置は、第1設定圧に応じた圧力に前記油圧を調整する第1弁と、前記第1設定圧よりも高い第2設定圧に応じた圧力に前記油圧を調整する第2弁とを含む、船尾管用油循環システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
【0010】
[実施例1]
先ず、船尾管用油循環システムの説明に先立って、実施例1による船尾管用油循環システムが適用される船尾管構造について説明する。
【0011】
図1は、船尾管用油循環システムが適用される船尾管構造100の概略構成を例示する図である。
図1においては、空気供給路121等の流路は、太線で模式的に図示されている。
【0012】
船尾管構造100は、船舶1のプロペラ軸2まわりに設けられる。
図1に示すように、船尾管構造100は、船尾管10と、船尾管シール装置101とを含む。なお、以下の説明では、プロペラ軸2の軸方向に沿ってプロペラ3側を船尾側、プロペラ3とは反対側を船首側という。また、軸方向とは、プロペラ3の軸方向を指し、径方向とは、プロペラ3の径方向を指し、周方向とは、プロペラ3の周方向を指す。
【0013】
船尾管10は、プロペラ軸2まわりに設けられる管状の部材であり、径方向外側からプロペラ軸2を覆う。船尾管10は、プロペラ軸2の外周に船尾管軸受室12(第1油室の一例)を形成する。例えば、船尾管10は、
図1に示すように、プロペラ軸2の径方向外側に周方向に延在するリング状の船尾管軸受室12を形成する。船尾管軸受室12内には、後述する船尾管用油循環システム70により潤滑油が供給される。船尾管軸受室12内には、プロペラ軸2を回転可能に支持する軸受11が設けられる。軸受11は、船尾管10に圧入されている。
【0014】
船尾管シール装置101は、軸方向で船尾管10に隣接して設けられる。船尾管シール装置101は、船尾側シール装置101a及び船首側シール装置101bを有し、船尾管軸受室12に供給される潤滑油が、プロペラ軸2を覆う船尾管10から船外又は船内に漏洩するのを防止する。
【0015】
船尾側シール装置101aは、ハウジング102、第1シールリング105a、第2シールリング105b、第3シールリング105cを有し、船外から船尾管10に連結されている。
【0016】
ハウジング102は、ボルト等によって連結された複数の筒状部材で構成され、プロペラ軸2が挿通されている。また、ハウジング102は、第1シールリング105a、第2シールリング105b、及び第3シールリング105cを保持し、船外からボルト104によって船尾管10の船尾側に連結されている。
【0017】
第1シールリング105a、第2シールリング105b、及び第3シールリング105cは、弾性材料で形成された円環状部材であり、それぞれ内周面がライナー4の外周面に摺接する。ライナー4は、金属材料で形成された円筒状部材であり、プロペラ軸2に外嵌してボルト5によってプロペラ3に固定されてプロペラ軸2と共に回転する。
【0018】
船首側シール装置101bは、ハウジング112、第4シールリング105d、第5シールリング105eを有する。
【0019】
ハウジング112は、ボルト等によって連結された複数の筒状部材で構成され、プロペラ軸2が挿通されている。また、ハウジング112は、第4シールリング105d及び第5シールリング105eを保持し、ボルト114によって船尾管10の船首側に連結されている。
【0020】
第4シールリング105d及び第5シールリング105eは、弾性材料で形成された円環状部材であり、それぞれ内周面がライナー6の外周面に摺接する。ライナー6は、金属材料で形成された円筒状部材であり、プロペラ軸2に外嵌して固定されてプロペラ軸2と共に回転する。
【0021】
船尾管構造100には、空気供給部120が接続される。
【0022】
空気供給部120は、空調ユニット110及び空気供給路121を含み、船尾管シール装置101の船尾側シール装置101aに空気を供給する。具体的には、空気供給部120は、船尾側シール装置101aの第1シールリング105aと第2シールリング105bとの間に、空気圧を海水圧以上に調整した空気を一定の流量で供給する。
【0023】
空調ユニット110は、レギュレータ、フローコントローラ、複数のバルブ等を有する。空調ユニット110は、不図示のコンプレッサーから供給された空気をレギュレータで減圧し、フローコントローラから空気供給路121を通じて船尾側シール装置101aに空気を供給する。
【0024】
フローコントローラは、設定された流量で船尾側シール装置101aに空気を供給するように、船尾側シール装置101aの第1シールリング105aを押圧する海水圧の変動に応じて、空気供給路121に供給する空気圧を海水圧以上に調整する。
【0025】
空気供給路121は、船内から船尾管10及び船尾側シール装置101aのハウジング102を通るように形成され、空調ユニット110から船尾側シール装置101aに空気を供給する。空気供給路121は、船尾側シール装置101aの第1シールリング105aと第2シールリング105bとの間に通じるように形成されている。
【0026】
空調ユニット110のフローコントローラから供給される空気は、空気供給路121を通って船尾側シール装置101aに導かれる。船尾側シール装置101aの内部に導かれた空気は、海水圧に抗して第1シールリング105aとライナー4との間から、船尾側シール装置101aの外部(海中)に排出される。
【0027】
船尾管構造100には、排出部150が接続される。
【0028】
排出部150は、排出ユニット151、排出路152を有し、船尾側シール装置101aに侵入した海水及び潤滑油が船尾側シール装置101aから排出される。排出路152は、船尾側シール装置101aの第1シールリング105aと第2シールリング105bとの間に通じるように形成され、第1シールリング105aと第2シールリング105bとの間に侵入した海水及び潤滑油が排出される。また、排出路152には、経路を開閉するためのバルブV7が設けられている。
【0029】
排出路152に排出された海水及び潤滑油は、排出ユニット151に導かれる。排出ユニット151は、排出タンクを備え、排出路152に排出された海水及び潤滑油を排出タンクに回収する。
【0030】
次に、船尾管シール装置101の構成について説明する。
図2は、船尾管シール装置101の概略構成を例示する断面図である。
【0031】
図2に示すように、船尾側シール装置101aは、ハウジング102、第1シールリング105a、第2シールリング105b、第3シールリング105c、漁網防止リング106を有する。
【0032】
ハウジング102は、船尾側から順に、第1分割ハウジング102a、第2分割ハウジング102b、第3分割ハウジング102c、第4分割ハウジング102d、第5分割ハウジング102eを有する。ハウジング102には、空気孔102b1、空気供給路121、ハウジング油路132b、及び排出路152が形成されている。
【0033】
分割ハウジング102a〜102eは、それぞれ円筒状の部材であり、互いに嵌合して積層された状態で船尾管10に固定される。また、分割ハウジング102a〜102eは、それぞれ隣接する分割ハウジングとの間に環状溝を形成し、シールリング105a〜105c、漁網防止リング106を保持する。
【0034】
ハウジング102は、第1分割ハウジング102aと第2分割ハウジング102bとの間で漁網防止リング106を保持し、第2分割ハウジング102bと第3分割ハウジング102cとの間で第1シールリング105aを保持する。また、ハウジング102は、第3分割ハウジング102cと第4分割ハウジング102dとの間で第2シールリング105bを保持し、第4分割ハウジング102dと第5分割ハウジング102eとの間で第3シールリング105cを保持する。
【0035】
シールリング105a〜105cは、ゴム等の弾性材料で形成された円環状の部材であり、それぞれライナー4の外周面に摺接するようにハウジング102に保持されている。シールリング105a〜105cは、ゴム等の弾性材料で形成された円環状の部材であり、それぞれライナー4の外周面に摺接するようにハウジング102に保持されている。シールリング105に用いられる弾性材料としては、例えば、耐水、耐油に優れるフッ素ゴム、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0036】
図3は、第1シールリング105aの構成を例示する図である。
図3に示すように、第1シールリング105aは、キー部105a1、ヒール部105a2、アーム部105a3、リップ部105a4を有する。
【0037】
キー部105a1は、第1シールリング105aの外周側端部に形成され、隣接する第2分割ハウジング102bの溝102b2と第3分割ハウジング102cの溝102c1とで形成される環状溝に嵌合して保持される。
【0038】
ヒール部105a2は、キー部105a1からライナー4に向かって延伸するように形成されている。アーム部105a3は、ヒール部105a2の端部から船尾側に延伸するように形成されている。第3分割ハウジング102cには、第1シールリング105aのヒール部105a2及びアーム部105a3を支持するバックアップリング102c2が形成されている。
【0039】
リップ部105a4は、アーム部105a3の内周側端部に形成され、ライナー4の外周面に摺接する。リップ部105a4は、ライナー4とは反対側の面にスプリング溝105a5を有し、スプリング溝105a5に嵌められている円環状のスプリング111によって締め付けられるようにライナー4に向かって押圧されている。リップ部105a4は、スプリング111に押圧されることで、摺接部105a6が弾性変形してライナー4の外周面に摺接する。
【0040】
第1シールリング105aは、上記したように、キー部105a1が第2分割ハウジング102bと第3分割ハウジング102cとの間に保持され、リップ部105a4の摺接部105a6がライナー4の外周面に摺接する。
【0041】
第2シールリング105b及び第3シールリング105cは、第1シールリング105aと同様の形状を有し、それぞれハウジング102に保持されてライナー4の外周面に摺接するように設けられている。但し、第2シールリング105b及び第3シールリング105cは、第1シールリング105aと向きが異なる。具体的には、第2シールリング105b及び第3シールリング105cは、それぞれ、アーム部がヒール部から船首側に向かって延伸し、リップ部がハウジング102に保持されるキー部よりも船首側でライナー4に摺接するように設けられている。
【0042】
第1シールリング105aと第2シールリング105bとの間には、空気室107が形成される。空気室107には、空調ユニット110のフローコントローラから、空気圧が第1シールリング105aの船尾側の海水圧以上に調整された空気が、空気供給路121を通じて一定の流量で供給される。
【0043】
空気室107に空気圧が海水圧以上の空気が供給されることで、第1シールリング105aのリップ部とライナー4との間から空気室107への海水の流入が防止される。空気室107に侵入した海水や潤滑油は、排出路152から排出されて排出ユニット151に回収される。
【0044】
第2シールリング105bと第3シールリング105cとの間には、船尾側潤滑油室108aが形成される。船尾側潤滑油室108aには、後述する船尾管用油循環システム70により、潤滑油がハウジング油路132bを通じて供給される。
【0045】
船尾側潤滑油室108aでは、供給された潤滑油が第2シールリング105bによって封止されることで、油圧が船尾管軸受室12の潤滑油の油圧以上となる(後出の
図4参照)。このため、船尾側潤滑油室108aに供給された潤滑油は、第3シールリング105cとライナー4との間から船尾管10側に流出する。
【0046】
船首側シール装置101bは、ハウジング112、第4シールリング105d、第5シールリング105eを有する。
【0047】
ハウジング112は、船尾側から順に、第1分割ハウジング112a、第2分割ハウジング112b、第3分割ハウジング112cを有する。ハウジング112には、ハウジング油路137a,137bが形成されている。
【0048】
第4シールリング105d及び第5シールリング105eは、第1シールリング105aと同様の形状を有し、それぞれハウジング112に保持されてライナー6の外周面に摺接するように設けられている。船首側潤滑油室108b(第2油室の一例)は、軸方向で第4シールリング105d及び第5シールリング105eの間に形成される。
【0049】
船首側潤滑油室108bには、後述する船尾管用油循環システム70により、潤滑油がハウジング油路137aから供給される。また、船首側潤滑油室108bに供給される潤滑油は、ハウジング油路137bを介して潤滑油タンク131(後述)に戻される。
【0050】
船尾管シール装置101は、上記した構成により、船尾側シール装置101aが船尾管10から船外への潤滑油の漏洩を防止し、船首側シール装置101bが船内への潤滑油の漏洩を防止する。また、船尾管シール装置101の船尾側シール装置101aでは、海水と潤滑油とが空気室によって隔てられ、潤滑油が船外に漏洩する可能性が低減されている。また、第2シールリング105bが故障した場合であっても、第3シールリング105cを潤滑油側の予備のシールリングとして機能させ、潤滑油が船外に漏洩するのを防止できる。このような構成により、船尾管10から船外への潤滑油の漏洩がより低減される。
【0051】
図4は、船尾管10の船尾管軸受室12や、空気室107を含む各室の所望の圧力バランスの一例を示す図である。
図4には、各シールリング105a〜105eが模式的に示され、リップ部の形状にて向きが模式的に表されている。
【0052】
図4では、縦軸に圧力を取り、横軸に軸方向の位置を取り、圧力バランスが圧力値L1〜L5で示される。L
Nは、ライナー4、6の外表面を模式的に表すラインであり、♯1は、第1シールリング105aの摺接位置を表し、♯2は、第2シールリング105bの摺接位置を表し、♯3は、第3シールリング105cの摺接位置を表し、♯4は、第4シールリング105dの摺接位置を表し、♯5は、第5シールリング105eの摺接位置を表す。
【0053】
圧力値L1は、海水圧を表し、圧力値L2は、空気室107内の圧力を表し、圧力値L3は、船尾側潤滑油室108a内の圧力(油圧)を表し、圧力値L4は、船尾管軸受室12内の圧力(油圧)を表し、圧力値L5は、船首側潤滑油室108b内の圧力(油圧)を表す。
図4に示す例では、各圧力値L1〜L5の関係は、
図4に模式的に示すように、L5<L1<L2<L4<L3である。尚、L1<L2の関係は、上述のように、空気供給部120により実現される。かかる所望の圧力バランス(L5<L1<L2<L4<L3)を実現することで、上述のように、船尾側シール装置101aが船尾管10から船外への潤滑油の漏洩を防止し、船首側シール装置101bが船内への潤滑油の漏洩を防止できる。
【0054】
例えば、空気室107内の圧力よりも船尾側潤滑油室108a内の油圧又は船尾管軸受室12内の油圧が高くなるため、第2シールリング105bには船尾側潤滑油室108aから空気室107に向かう方向に圧力がかかり、船首側に向かって延伸するアーム部及びリップ部がライナー4に向かって押圧される。第2シールリング105bが差圧により押圧されると、リップ部がライナー4に圧接して船尾側潤滑油室108aと空気室107との間を封止する。第2シールリング105bによって船尾側潤滑油室108aと空気室107との間が封止されることで、潤滑油の船外への漏洩が防止されている。
【0055】
また、同様に、潤滑油の油圧が船首側潤滑油室108bよりも船尾管軸受室12で高くなるため、第4シールリング105dには船尾管軸受室12から船首側潤滑油室108bに向かう方向に圧力がかかり、船尾側に向かって延伸するアーム部及びリップ部がライナー6に向かって押圧される。第4シールリング105dが差圧により押圧されると、リップ部がライナー6に圧接して船尾管軸受室12と船首側潤滑油室108bとの間を封止する。第4シールリング105dによって船尾管軸受室12と船首側潤滑油室108bとの間が封止されることで、潤滑油の船内への漏洩が防止されている。
【0056】
図4に示すような所望の圧力バランスは、以下で説明するように、空気供給部120及び船尾管用油循環システム70により実現できる。
【0057】
次に、
図5を参照して、船尾管構造100に適用できる船尾管用油循環システム70を説明する。
【0058】
図5は、船尾管用油循環システム70の概略構成を例示する図である。
図5では、各種の配管(流路)については、線で表現されており、空気の流路には区別のために“//”が付与されている。
図5では、船尾管用油循環システム70に加えて、空気供給部120が示される。また、
図5では、船尾管軸受室12、船尾側潤滑油室108a、及び船首側潤滑油室108bが模式的に示される。
図5では、
図1に示した接続ポイントP1〜P5が模式的に示される。
【0059】
船尾管用油循環システム70は、圧力調整弁装置駆動流路122と、船尾側循環部130と、船首側循環部140と、を含む。
【0060】
圧力調整弁装置駆動流路122は、空気室107に連通する流路である。
図5に示す例では、圧力調整弁装置駆動流路122は、空気供給路121から分岐して形成される流路である。圧力調整弁装置駆動流路122は、圧力調整弁装置80のスイッチSW1に接続される。圧力調整弁装置駆動流路122は、後述するように、内部の空気の圧力を利用してスイッチSW1をオン/オフすることで、圧力調整弁装置80の状態を切り替える。
【0061】
船尾側循環部130は、圧力調整弁装置80と、潤滑油タンク131と、船尾側循環路132と、ポンプ134とを含む。船尾側循環部130は、潤滑油タンク131から船尾管10の船尾管軸受室12及び船尾側シール装置101aに供給して再び潤滑油タンク131に戻るように潤滑油を循環させる。
【0062】
圧力調整弁装置80は、船尾管軸受室12から潤滑油タンク131までの油路1321(第1油路の一例)に設けられ、船尾管軸受室12内の油圧を調整する。圧力調整弁装置80は、船尾管軸受室12内の油圧を、上述した所望の圧力バランス(L5<L1<L2<L4<L3)が実現されるように調整する機能を有する。
【0063】
図5に示す例では、圧力調整弁装置80は、第1設定圧Pv1に設定される第1リリーフ弁R1(第1弁の一例)と、第2設定圧Pv2(>第1設定圧Pv1)に設定される第2リリーフ弁R2(第2弁の一例)と、電磁弁R3(第3弁の一例)と、スイッチSW1とを含む。船尾管軸受室12からの油路1321は、分岐点P70にて2つの油路1321−1,1321−2に分岐し、その後、油路1321−6に統合してから潤滑油タンク131に至る。第1リリーフ弁R1及び電磁弁R3は、油路1321−1に設けられ、第2リリーフ弁R2は、油路1321−2に設けられる。
【0064】
第1リリーフ弁R1は、潤滑油タンク131に出力側が接続される。第1リリーフ弁R1は、入力側が電磁弁R3を介して船尾管軸受室12に接続される。従って、第1リリーフ弁R1には、油路1321における船尾管軸受室12から第1リリーフ弁R1までの部分を介して船尾管軸受室12内の油圧が入力される。第1リリーフ弁R1は、入力される油圧が第1設定圧Pv1以上となると開状態となり、入力される油圧が第1設定圧Pv1未満では閉状態となる。
【0065】
第2リリーフ弁R2は、潤滑油タンク131に出力側が接続される。第2リリーフ弁R2は、入力側が船尾管軸受室12に接続される。従って、第2リリーフ弁R2には、油路1321における船尾管軸受室12から第2リリーフ弁R2までの部分を介して船尾管軸受室12内の油圧が入力される。第2リリーフ弁R2は、入力される油圧が第2設定圧Pv2以上となると開状態となり、入力される油圧が第2設定圧Pv2未満では閉状態となる。
【0066】
電磁弁R3は、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が所定値Pa1以上となったときに閉状態となる。具体的には、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が所定値Pa1以上となると、スイッチSW1がオンし、電磁弁R3を閉じさせる。電磁弁R3は、
図5に示すように、第1リリーフ弁R1よりも船尾管軸受室12に近い側に設けられる。
【0067】
電磁弁R3が閉状態であるとき、第1リリーフ弁R1は機能せず、第2リリーフ弁R2が機能する。このため、電磁弁R3が閉状態であるとき、船尾管軸受室12内の油圧は、第2設定圧Pv2に応じた圧力に調整される。尚、第2設定圧Pv2に応じた圧力とは、第2設定圧Pv2に、船尾管10と圧力調整弁装置80の高低差による圧力を付加した圧力に略等しい。
【0068】
電磁弁R3が開状態であるとき、第2リリーフ弁R2は実質的に機能せず、第1リリーフ弁R1が機能する。このため、電磁弁R3が開状態であるとき、船尾管軸受室12内の油圧は、第1設定圧Pv1に応じた圧力に調整される。尚、第1設定圧Pv1に応じた圧力とは、第1設定圧Pv1に、船尾管10と圧力調整弁装置80の高低差による圧力を付加した圧力に略等しい。
【0069】
このようにして、圧力調整弁装置80は、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力に応じて、船尾管軸受室12内の油圧を2段階で調整できる。ここで、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力は、上述のように、海水圧に応じて決まる。従って、海水圧が増加し(喫水が増加し)、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が所定値Pa1以上となると、船尾管軸受室12内の油圧が、第2設定圧Pv2に応じた圧力に調整されることになる。他方、海水圧が減少し(喫水が減少し)、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が所定値Pa1未満となると、船尾管軸受室12内の油圧が、第1設定圧Pv1に応じた圧力に調整されることになる。従って、圧力調整弁装置80を用いることで、喫水が変化した場合でも、上述した所望の圧力バランス(L5<L1<L2<L4<L3)が実現することが可能である。
【0070】
ところで、L2<L3の関係について、
図4に示すように差圧ΔPが有意に存在すれば、シール機能は実現できる。しかしながら、差圧ΔPが必要以上に大きいと、船尾側シール装置101aの第2シールリング105bの摩耗速度が増加してしまう不都合が生じる。
【0071】
この点、圧力調整弁装置80は、海水圧に応じて上述のように2段階で船尾管軸受室12内の油圧を調整できるので、それに伴い海水圧に応じて船尾側潤滑油室108a内の油圧を2段階で調整できる。即ち、海水圧が比較的高くなると、船尾側潤滑油室108a内の油圧を高めて差圧ΔPを小さくでき、海水圧が比較的低くなると、船尾側潤滑油室108a内の油圧を低めて差圧ΔPを小さくできる。これにより、船尾側シール装置101aの第2シールリング105bの摩耗速度を増加させることなく、上述した所望の圧力バランス(L5<L1<L2<L4<L3)が実現することが可能である。尚、圧力調整弁装置80は、2段階で船尾管軸受室12内の油圧を調整するが、他の例については後述する。
【0072】
潤滑油タンク131は、大気圧に解放されたタンクである。従って、潤滑油タンク131の設置位置に制約はない。これは、設置位置に制約がある重力式のヘッドタンク(
図6参照)とは対照的である。
【0073】
船尾側循環路132は、船尾管軸受室12から潤滑油タンク131まで延在する油路1321と、ポンプ134の吐出側において分岐する油路1322,1323とを含む。油路1321には、上述のように圧力調整弁装置80が設けられる。
【0074】
ポンプ134は、潤滑油タンク131から潤滑油を吸引して吐出する。ポンプ134により吐出された潤滑油は、油路1322を介して船尾管軸受室12に供給されるとともに、油路1323を介して船尾側潤滑油室108aに供給される。油路1322,1323は、ポンプ134の吐出側で分岐して、それぞれ、船尾管軸受室12及び船尾側潤滑油室108aに接続される。
【0075】
船首側循環部140は、船首側油路142,144を含む。
【0076】
船首側油路142(第2油路の一例)は、油路1322における接続部P11に一端が接続され、船首側潤滑油室108bに他端が接続される(該他端の接続部はP3参照)。ポンプ134から吐出される潤滑油は、油路1322,1323間で分岐され、油路1322を流れる潤滑油の一部は、更に船首側油路142へと供給される。船首側油路142には、流量を調整するためのオリフィス1421が設けられる。これにより、船首側潤滑油室108bに一定の流量で潤滑油を安定して供給できる。尚、
図5に示す例では、船首側油路142は、船尾側循環路132における油路1322,1323への分岐後の接続点P11にて船尾側循環路132に接続されているが、船尾側循環路132における油路1322,1323への分岐前の接続点(図示せず)にて船尾側循環路132に接続されてもよい。
【0077】
船首側油路144(第3油路の一例)は、船首側潤滑油室108bに一端が接続され(該一端の接続部はP4参照)、潤滑油タンク131に他端が接続される。従って、船首側潤滑油室108bに供給される潤滑油は、船尾側潤滑油室108aや船尾管軸受室12に供給される潤滑油と同様、潤滑油タンク131に戻される。
【0078】
次に、
図6に示す比較例と対比して、圧力調整弁装置80を備える船尾管用油循環システム70の効果を説明する。
【0079】
図6は、
図5の対照として示す比較例の説明図である。
図6では、
図5に対する主なる異なる部分だけ符号を付している。比較例では、圧力調整弁装置80の代わりに、重力式のヘッドタンク40を備えており、また、船首側循環部42が船尾側循環部とは別に独立して設けられる。
【0080】
比較例では、重力式のヘッドタンク40を備えるので、重力式のヘッドタンク40を高所に設置する必要があり、取り付けの工数が有意にかかるという不都合がある。また、重力式のヘッドタンク40を一旦設置すると、圧力の調整ができないため、喫水差の大きい船舶には運用できないという不都合がある。
【0081】
この点、船尾管用油循環システム70によれば、圧力調整弁装置80は、重力式のヘッドタンク40とは異なり、設置の高さに制約が無いため、取り付けの位置の自由度が高い。従って、船尾管用油循環システム70を既存の船舶に改修等で取り付ける場合でも、取り付け工数を大幅に削減できる。また、圧力調整は、例えば第1リリーフ弁R1や第2リリーフ弁R2の設定圧を調整することで容易に実現できる。
【0082】
また、比較例では、船首側循環部42が船尾側循環部とは別に独立して設けられるので、船首側循環部42に対して専用の重力式のヘッドタンク421が必要となる。
【0083】
この点、船尾管用油循環システム70によれば、上述のように、船首側循環部140と船尾側循環部130とは、ポンプ134及び潤滑油タンク131を共用する関係となる。この場合、比較例で必要とされる専用の重力式のヘッドタンク421が不要となり、効率的な構造を実現できる。
【0084】
次に、
図7乃至
図12を参照して、圧力調整弁装置について、圧力調整弁装置80に代えて用いられてもよい幾つかの他の例について説明する。
【0085】
図7は、一例による圧力調整弁装置80Aの説明図である。
図7(
図8乃至
図12も同様)において、“OIL IN”は潤滑油の入力側を表し、“OIL OUT”は潤滑油の出力側を表す。
【0086】
圧力調整弁装置80Aは、単一のリリーフ弁R4からなる。この場合も、リリーフ弁R4の設定圧を適切に設定することで、船尾管軸受室12内の潤滑油の圧力を所望の圧力に調整できる。尚、
図7に示す圧力調整弁装置80Aは、喫水が有意に変化しない船舶に好適である。尚、
図7に示す圧力調整弁装置80Aを用いる場合は、圧力調整弁装置駆動流路122は不要である。
【0087】
図8は、他の一例による圧力調整弁装置80Bの説明図である。
【0088】
圧力調整弁装置80Bは、圧力調整弁装置80に対して、電磁弁R3が手動弁V1で置換された点が異なる。このようにして、電磁弁R3が手動弁V1で置換された場合でも、手動弁V1を手動で動かすことで、同様の効果を得ることができる。尚、
図8に示す圧力調整弁装置80Bを用いる場合は、圧力調整弁装置駆動流路122は不要である。
【0089】
図9は、他の一例による圧力調整弁装置80Cの説明図である。
【0090】
圧力調整弁装置80Cは、圧力調整弁装置80に対して、電磁弁R3が手動弁V1で置換され、かつ、第3リリーフ弁R5と手動弁V2が追加された点が異なる。このため、油路1321は、3つの油路1321−1,1321−2,1321−3に分岐され、油路1321−3に第3リリーフ弁R5及び手動弁V2が設けられる。第3リリーフ弁R5は、第1リリーフ弁R1や第2リリーフ弁R2の設定圧とは異なる第3設定圧Pv3に設定される。例えば、第2設定圧Pv2>第3設定圧Pv3>第1設定圧Pv1である。これにより、船尾管軸受室12内の油圧を3段階で調整でき、喫水の変化に伴う海水圧の変化によりきめ細やかに対応できる。尚、
図9に示す圧力調整弁装置80Cを用いる場合は、圧力調整弁装置駆動流路122は不要である。
【0091】
図10は、他の一例による圧力調整弁装置80Dの説明図である。
図10(
図11乃至
図12も同様)において、“AIR IN”は、圧力調整弁装置駆動流路122からの空気の入力を表す。
【0092】
圧力調整弁装置80Dは、圧力調整弁装置80に対して、第3リリーフ弁R5、第2電磁弁R6、及び第2スイッチSW2が追加された点が異なる。このため、油路1321は、3つの油路1321−1,1321−2,1321−3に分岐され、油路1321−3に第3リリーフ弁R5及び第2電磁弁R6が設けられる。第3リリーフ弁R5は、第1リリーフ弁R1や第2リリーフ弁R2の設定圧とは異なる第3設定圧Pv3に設定され、第2設定圧Pv2>第3設定圧Pv3>第1設定圧Pv1である。また、圧力調整弁装置駆動流路122は、2つの第1及び第2駆動流路122−1,122−2に分岐され、第1駆動流路122−1にスイッチSW1が設けられ、第2駆動流路122−2に第2スイッチSW2が設けられる。第2スイッチSW2は、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が第2所定値Pa2以上となったときに閉状態となる。具体的には、圧力調整弁装置駆動流路122内の空気の圧力が所定値Pa2以上となると、第2スイッチSW2がオンし、第2電磁弁R6を閉じさせる。第2電磁弁R6は、
図10に示すように、第3リリーフ弁R5よりも船尾管軸受室12に近い側に設けられる。第2所定値Pa2は、スイッチSW1が機能する閾値である所定値Pa1よりも大きい。従って、海水圧が上昇する過程では、第2スイッチSW2はスイッチSW1よりも遅くオンする。上述のように、第2設定圧Pv2>第3設定圧Pv3>第1設定圧Pv1であるので、船尾管軸受室12内の油圧を3段階で調整でき、喫水の変化に伴う海水圧の変化によりきめ細やかにかつ自動で対応できる。
【0093】
図11は、他の一例による圧力調整弁装置80Eの説明図である。
【0094】
圧力調整弁装置80Eは、
図10に示した圧力調整弁装置80Dに対して、第2電磁弁R6が手動弁V3で置換された点が異なる。従って、圧力調整弁装置80Eは、
図10に示した圧力調整弁装置80Dに対して、第2スイッチSW2を備えない点も異なる。このようにして、一部の電磁弁が手動弁で置換されてもよい。
【0095】
図12は、他の一例による圧力調整弁装置80Fの説明図である。
【0096】
圧力調整弁装置80Fは、
図10に示した圧力調整弁装置80Dに対して、第4リリーフ弁R7及び手動弁V4が追加された点が異なる。このため、油路1321は、4つの油路1321−1,1321−2,1321−3,1321−4に分岐され、油路1321−4に第4リリーフ弁R7及び手動弁V4が設けられる。第4リリーフ弁R7は、第1リリーフ弁R1や第2リリーフ弁R2、第3リリーフ弁R5の設定圧とは異なる第4設定圧Pv4に設定され、第2設定圧Pv2>第4設定圧Pv4>第3設定圧Pv3>第1設定圧Pv1である。これにより、船尾管軸受室12内の油圧を4段階で調整でき、喫水の変化に伴う海水圧の変化によりきめ細やかに対応できる。
【0097】
尚、他のバリエーションは省略するが、船尾管軸受室12内の油圧は、5段階以上で調整可能とされてもよいし、実質的に機能させるリリーフ弁の切り替わりは全て自動又は一部のみが自動若しくは全てが手動で実現されてもよい。
【0098】
次に、
図13乃至
図14を参照して、上述した実施例1に対する変形例について説明する。
【0099】
上述した実施例1では、船尾側シール装置101aは、3本のシールリング、即ち第1シールリング105a、第2シールリング105b、第3シールリング105cを有していたが、シールリングの本数は、これに限られない。例えば、船尾側シール装置101aは、4本のシールリングを有してもよい。
【0100】
図13は、4本のシールリングを有する変形例(以下、「第1変形例」と称する)における所望の圧力バランスの一例を示す図である。
【0101】
図13では、縦軸に圧力を取り、横軸に軸方向の位置を取り、圧力バランスが圧力値L1〜L5で示される。
図4と同様、L
Nは、ライナー4、6の外表面を模式的に表すラインであり、♯0は、追加された新たな4本目のシールリングの摺接位置を表し、♯1は、第1シールリングの摺接位置を表し、♯2は、第2シールリングの摺接位置を表し、♯3は、第3シールリングの摺接位置を表す。
【0102】
図13において、SR0〜SR3は、各シールリングを模式的に表し、リップ部の形状にて向きが模式的に表されている。新たな4本目のシールリングSR0は、第1シールリングSR1との間に第1空気室107aを形成し、第1シールリングSR1と第2シールリングSR2との間には第2空気室107bが形成される。第2空気室107bには、上述した実施例1の空気室107と同様の態様で空気供給部120から空気が供給される。第2空気室107bに供給された空気は、第1シールリングSR1とライナー4との間から、第1空気室107aに流れ、次いで、新たな4本目のシールリングSR0とライナー4との間から外部(海中)に排出される。
図13に示す例では、各圧力値L1〜L5の関係は、
図13に模式的に示すように、L5<L1<L2’<L2<L4<L3である。ここで、L2’は、第1空気室107a内の圧力(空気)であり、L2は、第2空気室107b内の圧力(空気)であり、その他は、
図4を参照して説明した通りである。かかる構成によれば、4本のシールリングを備えることで、船外への潤滑油の漏洩を更に効果的に防止できる。
【0103】
かかる第1変形例においても、上述した実施例1と同様の態様で船尾管用油循環システム70を成立させることができる。
【0104】
また、上述した実施例1では、船尾側シール装置101aは、船尾側潤滑油室108aを備えているが、これに限られない。即ち、船尾側シール装置101aは、船尾側潤滑油室108aを備えない構成であってもよい。尚、船尾側潤滑油室108aを備えない構成の場合、上述した実施例1における油路1323やハウジング油路132bは不要である。
【0105】
図14は、船尾側潤滑油室108aを備えない変形例(以下、「第2変形例」と称する)における所望の圧力バランスの一例を示す図である。
【0106】
図14では、縦軸に圧力を取り、横軸に軸方向の位置を取り、圧力バランスが圧力値L1〜L5で示される。
図4と同様、L
Nは、ライナー4、6の外表面を模式的に表すラインであり、♯1〜♯5の意味は
図4と同様である。
【0107】
図14において、SR11〜SR13は、各シールリングを模式的に表し、リップ部の形状にて向きが模式的に表されている。
図14に示す各シールリングSR12,SR13は、
図4に示した対応するシールリング105b、105cと向きが前後反転されている。第1シールリングSR11と第2シールリングSR12との間に第1空気室107cが形成され、第2シールリングSR12と第3シールリングSR13との間には第2空気室107dが形成される。第1空気室107c及び第2空気室107dには、上述した実施例1の空気室107と同様の態様で空気供給部120から空気が供給される。例えば、第1空気室107c及び第2空気室107dには、空気供給路121を2つに分岐させて形成した空気供給路がそれぞれ接続される。第1空気室107cに供給された空気は外部(海中)に排出される。第2空気室107dに供給された空気は、第2シールリングSR12とライナー4との間から、第1空気室107cに流れ、次いで、第1シールリングSR11とライナー4との間から外部(海中)に排出される。
【0108】
図14に示す例では、各圧力値L1〜L5の関係は、
図14に模式的に示すように、L5<L4<L1<L2<L3である。かかる構成によれば、L4<L3であるので、第2空気室107d内の圧力よりも船尾管軸受室12内の油圧が低くなるため、第3シールリングSR13には第2空気室107dから船尾管軸受室12に向かう方向に圧力がかかり、船尾側に向かって延伸するアーム部及びリップ部がライナー4に向かって押圧される。第3シールリングSR13が差圧により押圧されると、リップ部がライナー4に圧接して第2空気室107dと船尾管軸受室12との間を封止する。第3シールリングSR13によって第2空気室107dと船尾管軸受室12との間が封止されることで、潤滑油の船外への漏洩が防止されている。
【0109】
かかる第2変形例においても、上述した実施例1と同様の態様で船尾管用油循環システム70を成立させることができる。尚、第2変形例の場合は、上述のように、船尾側潤滑油室108aを備えないので、船尾管用油循環システム70における油路1323やハウジング油路132bは不要である。
【0110】
このように、実施例1による船尾管用油循環システム70は、空気を海中に噴出させることで潤滑油の船外への漏洩を防止する機構を備える構成であれば、多様な船尾側シール装置に適用できる。
【0111】
[実施例2]
実施例2は、空気を海中に噴出させることで潤滑油の船外への漏洩を防止する機構を備えない点が、上述した実施例1と異なる。
【0112】
図15は、実施例2による船尾管用油循環システム70Aの説明図である。
図15では、実施例2による船尾管用油循環システム70Aが適用される船尾管構造100Aの概略構成が併せて示される。実施例2において、上述した実施例1と同様であってよい構成要素については、
図15において同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0113】
船尾管構造100Aは、上述した船尾管構造100に対して、船尾側シール装置101aが船尾側シール装置201aで置換された点が異なる。
【0114】
船尾側シール装置201aは、4本のシールリングSR21〜SR24を備える。シールリングSR21、SR22間、シールリングSR22、SR23間、シールリングSR23、SR24間には、それぞれ、船尾側潤滑油室108a−1,108a−2,108a−3が形成される。
【0115】
船尾管用油循環システム70Aは、上述した実施例1による船尾管用油循環システム70に対して、構造上、圧力調整弁装置駆動流路122を備えていない点と、船尾側循環部130及び圧力調整弁装置80が船尾側循環部130A及び圧力調整弁装置800で置換された点、及び監視用循環部160が追加された点が異なる。
【0116】
船尾側循環部130Aは、上述した実施例1による船尾側循環部130に対して、船尾側潤滑油室108aが船尾側潤滑油室108a−3となる点と、船尾側潤滑油室108a−3と圧力調整弁装置800とを連通させる油路138を備える点が異なる。油路138は、一端が船尾側潤滑油室108a−3に接続され、他端が圧力調整弁装置800に接続される。この際、油路138は、油路1321に合流してから圧力調整弁装置800に接続される。即ち、油路138は、油路1321と圧力調整弁装置800を共用する関係である。従って、実施例2では、圧力調整弁装置800は、船尾管軸受室12内の油圧のみならず、船尾側潤滑油室108a−3内の油圧も同時に調整する。
【0117】
監視用循環部160は、重力式のヘッドタンク162から船尾側潤滑油室108a−2を通ってヘッドタンク162に戻る油路を形成する。船尾側潤滑油室108a−2に供給された潤滑油は、シールリングSR22とライナー4との間のシール圧に起因して、船尾側潤滑油室108a−1側には実質的に流出しない。船尾側潤滑油室108a−1では、事前に供給された潤滑油のみがシールリングSR21によって封止されており、油圧が船尾側潤滑油室108a−2の潤滑油の油圧よりも低い圧力に保たれている(後出の
図16参照)。船尾側潤滑油室108a−2内の油圧は、重力式のヘッドタンク162の高さに応じて決まる。
【0118】
圧力調整弁装置800は、上述した実施例1による圧力調整弁装置80に対して、圧力調整弁装置駆動流路122で動作しない点が異なる。即ち、圧力調整弁装置800は、例えば
図7に示した圧力調整弁装置80Aや、
図8に示した圧力調整弁装置80Bや、
図9に示した圧力調整弁装置80Cであってよい。
【0119】
図16は、船尾管10の船尾管軸受室12や、船尾側潤滑油室108a−1等を含む各室の所望の圧力バランスの一例を示す図である。
図16には、各シールリングSR21〜SR24、及び105d〜105eが模式的に示され、リップ部の形状にて向きが模式的に表されている。
【0120】
図16では、縦軸に圧力を取り、横軸に軸方向の位置を取り、圧力バランスが圧力値L1〜L5で示される。L
Nは、ライナー4、6の外表面を模式的に表すラインであり、♯11は、シールリングSR21の摺接位置を表し、♯12は、シールリングSR22の摺接位置を表し、♯13は、シールリングSR23の摺接位置を表し、♯13sは、シールリングSR24の摺接位置を表し、♯4は、第4シールリング105dの摺接位置を表し、♯5は、第5シールリング105eの摺接位置を表す。
【0121】
圧力値L1は、海水圧を表し、圧力値L12は、船尾側潤滑油室108a−1内の圧力を表し、圧力値L13は、船尾側潤滑油室108a−2内の圧力(油圧)を表し、圧力値L14は、船尾側潤滑油室108a−3内の圧力(油圧)を表す。また、上述した実施例1と同様、圧力値L4は、船尾管軸受室12内の圧力(油圧)を表し、圧力値L5は、船首側潤滑油室108b内の圧力(油圧)を表す。
【0122】
図16に示す例では、各圧力値L1、L4〜L5、L12〜L14の関係は、
図16に模式的に示すように、L12<L13<L5<L1<L14=L4である。尚、L14=L4の関係は、上述のように、圧力調整弁装置800により実現される。かかる所望の圧力バランス(L12<L13<L5<L1<L14=L4)を実現することで、同様に、船尾側シール装置101aが船尾管10から船外への潤滑油の漏洩を防止し、船首側シール装置101bが船内への潤滑油の漏洩を防止できる。
【0123】
例えば、船尾側潤滑油室108a−1内の油圧よりも海水圧が高くなるため、シールリングSR21には海中から船尾側潤滑油室108a−1に向かう方向に圧力がかかり、船尾側に向かって延伸するアーム部及びリップ部がライナー4に向かって押圧される。シールリングSR21が差圧により押圧されると、リップ部がライナー4に圧接して船尾側潤滑油室108a−1と海中との間を封止する。シールリングSR21によって船尾側潤滑油室108a−1と海中との間が封止されることで、潤滑油の船外への漏洩が防止されている。
【0124】
また、船尾側潤滑油室108a−2内の油圧よりも船尾側潤滑油室108a−3や船尾管軸受室12内の油圧が高くなるため、シールリングSR23には船尾側潤滑油室108a−3から船尾側潤滑油室108a−2に向かう方向に圧力がかかり、船首側に向かって延伸するアーム部及びリップ部がライナー4に向かって押圧される。シールリングSR23が差圧により押圧されると、リップ部がライナー4に圧接して船尾側潤滑油室108a−2と船尾側潤滑油室108a−3との間を封止する。シールリングSR23によって船尾側潤滑油室108a−2と船尾側潤滑油室108a−3との間が封止されることで、潤滑油の船外への漏洩が防止されている。
【0125】
実施例2による船尾管用油循環システム70Aよっても、上述した実施例1による船尾管用油循環システム70と同様の効果が得られる。即ち、圧力調整弁装置800を用いて、船尾管軸受室12内の油圧を調整することで、重力式のヘッドタンクを不要とし、設置自由度を高めることができる。また、圧力調整弁装置800が複数のリリーフ弁を有する場合は(例えば
図8に示した圧力調整弁装置80Bや、
図9に示した圧力調整弁装置80C)、喫水の変化に応じて船尾管軸受室12内の油圧を調整できる。
【0126】
また、実施例2による船尾管用油循環システム70Aよれば、圧力調整弁装置800を用いて、船尾側潤滑油室108a−3内の油圧を調整することで、船尾側潤滑油室108a−3を船尾管軸受室12と同様の機能させることができる。これにより、例えばシールリングSR23が故障した場合でも、シールリングSR24により潤滑油の船外への漏洩を依然として防止することができる。
【0127】
次に、
図17参照して、上述した実施例2に対する変形例について説明する。
【0128】
上述した実施例2では、船尾側シール装置201aは、4本のシールリングSR21〜SR24を備えるが、シールリングの本数は、これに限られない。例えば、船尾側シール装置201aは、3本のシールリングを備える構成であってもよい。
【0129】
図17は、3本のシールリングを有する変形例(以下、「第3変形例」と称する)における所望の圧力バランスの一例を示す図である。
【0130】
第3変形例は、実質的に、上述した実施例2においてシールリングSR23が省略された構成に対応する。
図17では、
図16に示した所望の圧力バランスに対して、シールリングSR23に係る部分、即ち船尾側潤滑油室108a−3の圧力値L14が存在しない点が異なる。
【0131】
かかる第3変形例においても、上述した実施例2と同様の態様で船尾管用油循環システム70Aを成立させることができる。
【0132】
このように、実施例2による船尾管用油循環システム70Aは、空気を海中に噴出させることで潤滑油の船外への漏洩を防止する機構を備えていない構成であれば、多様な船尾側シール装置に適用できる。
【0133】
[実施例3]
実施例3は、船尾管軸受室12内の油圧を、圧力調整弁装置80のような圧力調整弁装置で制御しない点が、上述した実施例1と異なる。
【0134】
図18は、実施例3による船尾管用油循環システム70Bの説明図である。
図18では、実施例3による船尾管用油循環システム70Bが適用される船尾管構造100Bの概略構成が併せて示される。実施例3において、上述した実施例1と同様であってよい構成要素については、
図18において同一の参照符号を付して説明を省略する。尚、
図18では、船尾管軸受室12に対する潤滑油の循環系が図示されていないが、例えば重力式のヘッドタンクが用いられてよい(即ち、船尾管軸受室12に対しては、
図6に示した比較例の構成が採用されてもよい)。
【0135】
船尾管構造100Bは、上述した船尾管構造100に対して、船尾側シール装置101aが船尾側シール装置301aで置換された点が異なる。
【0136】
船尾側シール装置301aは、上述した船尾管構造100の船尾側シール装置101aに対して、構造上、船尾側潤滑油室108aに油路1323A(第1油路の一例)が接続される点が異なる。
【0137】
実施例3による船尾管用油循環システム70Bは、圧力調整弁装置80Gを備える。圧力調整弁装置80Gは、リリーフ弁R30と、リリーフ弁R32とを含む。また、船尾管用油循環システム70Bは、船首側シール装置101bから潤滑油タンク131までの船首側油路144Aを備える。
【0138】
リリーフ弁R30は、所定の第5設定圧Pv5に設定される。リリーフ弁R30は、油路1323Aに設けられ、潤滑油タンク131に出力側が接続される。リリーフ弁R30は、入力される油圧が第5設定圧Pv5以上となると開状態となり、入力される油圧が第5設定圧Pv5未満では閉状態となる。このようにして、リリーフ弁R30は、油路1323A内の油圧及びそれに伴い船尾側潤滑油室108a(第1油室の一例)内の油圧を、第5設定圧Pv5に応じた油圧に調整できる。
【0139】
リリーフ弁R32は、所定の第6設定圧Pv6に設定される。リリーフ弁R32は、船首側油路144A(第1油路の一例)に設けられ、潤滑油タンク131に出力側が接続される。リリーフ弁R32は、入力される油圧が第6設定圧Pv6以上となると開状態となり、入力される油圧が第6設定圧Pv6未満では閉状態となる。このようにして、リリーフ弁R32は、船首側油路144A内の油圧及びそれに伴い船首側潤滑油室108b(第1油室の一例)内の油圧を、第6設定圧Pv6に応じた油圧に調整できる。
【0140】
実施例3によれば、圧力調整弁装置80Gを備えるので、第5設定圧Pv5及び第6設定圧Pv6を適切に設定することで、船尾側潤滑油室108a及び船首側潤滑油室108b内の油圧を所望の油圧に調整できる。これにより、例えば船尾側潤滑油室108a及び船首側潤滑油室108b内の油圧を重力式のヘッドタンクを用いて調整する場合に比べて、配置の自由度を高めることができる。
【0141】
尚、実施例3では、圧力調整弁装置80Gは、船尾側潤滑油室108a及び船首側潤滑油室108bのそれぞれに対して単一のリリーフ弁R30、R32を備えるが、これに限られない。例えば、圧力調整弁装置80Gは、リリーフ弁R30に代えて、例えば
図7に示した圧力調整弁装置80Bや、
図8に示した圧力調整弁装置80Bや、
図9に示した圧力調整弁装置80Cの構造を備えてもよい。この場合、多段階に船尾側潤滑油室108a内の油圧を調整することが可能となる。
【0142】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0143】
例えば、上述した実施例1(他の実施例も同様)では、好ましい実施例として、船首側循環部140と船尾側循環部130とは、ポンプ134及び潤滑油タンク131を共用する態様で設けられるが、これに限られない。
図6に示した比較例と同様、船首側循環部42が船尾側循環部130とは別に独立して設けられてもよい。
船尾管用油循環システムは、プロペラ軸を覆う船尾管内の油室、及び、前記船尾管に隣接して設けられるシール装置内の油室のうちの少なくともいずれか一方を含む第1油室からタンクまでの第1油路に設けられ、前記第1油室内の油圧を調整する圧力調整弁装置を含む。好ましくは、前記圧力調整弁装置は、第1設定圧に応じた圧力に前記油圧を調整する第1弁と、前記第1設定圧よりも高い第2設定圧に応じた圧力に前記油圧を調整する第2弁とを含む。