特許第6303102号(P6303102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303102
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ガラス用合紙とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 57/00 20060101AFI20180326BHJP
   B65D 85/48 20060101ALI20180326BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20180326BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B65D57/00 B
   B65D85/48
   D21H27/00 Z
   D21H11/14
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-251650(P2013-251650)
(22)【出願日】2013年12月5日
(65)【公開番号】特開2015-107817(P2015-107817A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】391064120
【氏名又は名称】長良製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】家田 利一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 静男
(72)【発明者】
【氏名】野々村 修一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 史隆
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 宣是
【審査官】 高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−041498(JP,A)
【文献】 特開平04−153227(JP,A)
【文献】 特開2007−057745(JP,A)
【文献】 特開平1−273687(JP,A)
【文献】 特開2008−143542(JP,A)
【文献】 特開昭60−181399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 57/00
B65D 85/48
D21H 11/14
D21H 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施し、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物をアモルファス物質に分解して、古紙や再生紙中に含まれている汚れや印刷インク、粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板へ転写されることを減少させたことを特徴とするガラス用合紙。
【請求項2】
古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物をアモルファス物質に分解して、ガラス基板への転写を減らすようにしたことを特徴とするガラス用合紙の製造方法。
【請求項3】
紫外線照射処理を、波長が150〜500nmの紫外線により行うことを特徴とする請求項2に記載のガラス用合紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な表面性が要求されるガラス基板の間に挿入して傷付き等の発生を防ぐことができるガラス用合紙とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイや太陽光発電用パネル等に用いられるガラス基板は、異物の付着や傷のない高度な表面性が要求されている。このため、前記ガラス基板を運搬、保管、荷役等する際には、複数枚重ね合わせた各ガラス基板の間にガラス用合紙を挿入し、ガラス基板同士の接触による傷の生成を防いでいる。このようなガラス用合紙としては、例えば、特許文献1、2に示されるように種々のものが提案されている。
【0003】
一方、液晶ディスプレイや太陽光発電用パネル等の需要の高まりやガラス基板の大型化等に伴い、合紙の需要も多くなってきており、コスト削減の観点から安価な古紙や再生紙を利用してコストの低減を図ることが検討されている。
しかし、古紙や再生紙を用いた場合は、古紙中に含まれている汚れや印刷インクや粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板側へ転写され、ガラス基板表面の汚れを発生させるという現象が生じた。そのため、品質を確保するには古紙や再生紙の利用をやめ、高品質なパルプ原料のみからなる紙を用いることが望ましいのであるが、コスト高になるという問題があった。
【0004】
また、前記粘着性異物の不純物については、古紙を利用した場合に、粘着テープ等の完全に固化されていない粘着成分が粘着ピッチ異物として合紙中に分散され、微細欠陥を発生させる原因の一つになっているとの指摘がある(特許文献3を参照)。
しかしながら、特許文献3では、単に、粘着ピッチ異物の含有密度を所定値以下にすると微細欠陥の発生を防止できるとの記載があるに過ぎず、粘着ピッチ異物を除去する具体的な方法については何ら記載がなく、その示唆もない。
【0005】
このように、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することと、合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにすることとは相矛盾しており、現時点では両者を満足できる合紙の製造方法は提案されていないのが現状である。
従って、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することができ、しかも合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにしてガラス基板へ有機系の汚れが転写するのを確実に防止できる新たな技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248409号公報
【特許文献2】特開2007−51386号公報
【特許文献3】特開2008−143542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、古紙や再生紙を用いた場合、合紙からガラス基板へ転写される有機系の汚れの成分には、脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物が含まれていることを解明した。そして、この脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物に、何らかのエネルギーを付与して分解すれば、転写による汚れの付着が減少することを究明し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
本発明は上記理論に基づき、従来の問題点を解決して、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することができ、しかも合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにしてガラス基板へ汚れが転写するのを防止することができるガラス用合紙とその製造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施し、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物をアモルファス物質に分解して、古紙や再生紙中に含まれている汚れや印刷インク、粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板へ転写されることを減少させたことを特徴とするガラス用合紙である。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物をアモルファス物質に分解して、ガラス基板への転写を減らすようにしたことを特徴とするガラス用合紙の製造方法である。
【0011】
前記紫外線照射処理を、波長が150〜500nmの紫外線により行うことが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施し、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を分解して、古紙や再生紙中に含まれている汚れや印刷インク、粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板へ転写されることを減少させたので、素材原料に古紙や再生紙を利用しても、汚れ等が合紙からガラス基板へ転写することが少なくなる。
【0013】
請求項2に係る発明では、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を分解して、ガラス基板への転写を減らすようにしたので、汚れ等が合紙からガラス基板へ転写することが少ない合紙を効率よく安価に生産できることとなる。
【0014】
請求項3に係る発明では、波長が150〜500nmの紫外線により、脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を効率よく分解することができる。また、紫外線の波長に巾があるため、特定波長の紫外線ランプだけでなく、例えば種々の波長を含む水銀灯なども照射源として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】FT−IR分析による透過スペクトルを示すグラフである。
図2】紫外線照射前後における透過スペクトルの変化を示すグラフである。
図3】紫外線照射前後における透過スペクトルの変化を示すグラフである。
図4】種々の紫外線照射後の合紙からの汚れ付着面積比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明は、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施し、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を分解して、古紙や再生紙中に含まれている汚れや印刷インク、粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板へ転写されることを減少させたことを特徴とするガラス用合紙とその製造方法である。
前記古紙や再生紙は、新聞古紙や各種の印刷物古紙や各種の紙容器古紙などに代表されるが、パルプ古紙として使用されるあらゆる古紙を対象とするものである。これらの古紙や再生紙を利用した場合は、インク由来の鉱油成分や自然分解で生じるリグノセルロース成分由来の有機系成分からなる不純物の汚れが発生し、これがガラス基板へ転写されて汚れを発生させると言われている。そして、前記汚れの発生がガラス用合紙の原料として古紙や再生紙を利用することの阻害要因となっていた。
なお、前記古紙や再生紙の使用量は100%でもよいし、バージンパルプに対し任意の量だけ添加してもよい。
【0017】
本発明者は、前記の合紙からガラス基板へ転写されて付着する有機系の汚れについて、その成分を分析した。この分析に用いる資料は、以下の手順で作製した。
(1)使用済みのガラス用合紙(長良製紙株式会社製の合紙:商品名「Kirari S」)を、ジエチルエーテルを用いたソックスレー法により樹脂成分を抽出する。
(2)抽出液を、Si基板に塗布する。
(3)基板の水分を蒸発して、基板上に成分を乾固させて試料とする。
【0018】
作製した試料を、フーリエ変換赤外吸収分光法(FT−IR)により成分分析した。この分析により得られた樹脂成分の赤外線透過スペクトルを図1に示す。このグラフより、以下のことが解析できた。
(i)波長2925cm−1、2853cm−1にメチレン基のC−H伸縮振動が見られる。
波長1460cm−1にメチレン基のC−H変角振動が見られる。
波長2953cm−1メチル基のC−H伸縮振動が見られる。
波長1377cm−1にメチル基のC−H対称変角振動が見られる。
波長722cm−1に直鎖のメチレン基の面内変角振動が見られる。
以上のことから、汚れ成分として脂肪族炭化水素化合物が推察できる。
(ii)波長1744cm−1に鎖状飽和エステルの>C=O伸縮振動が見られる。
波長1166cm−1及び1099cm−1に鎖状飽和エステルのC−O逆対称伸縮振動が見られる。
波長1709cm−1に不飽和エステルの>C=O伸縮振動が見られる。
波長1241cm−1に不飽和エステルのC−O伸縮振動が見られる。
以上のことから、汚れ成分として鎖状飽和エステル化合物と不飽和エステル化合物が推察できる。
(iii)また、使用済みのガラス用合紙(前述の合紙:商品名「Kirari S」)に付着した目視で確認できる黒い点状の汚れ物質について、フーリエ変換赤外吸収分光法により成分分析した結果も、同様の赤外線透過スペクトルが得られた。
以上のことから、合紙からガラス基板へ転写されて付着する有機系の汚れは、脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物であると推察した。
【0019】
前記推察から本発明者は、汚れの要因となる脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を合紙からなくせば、合紙からガラス基板へ転写される有機系の汚れの付着量を消滅、あるいは減少できると考えた。
そして、古紙や再生紙を含有する素材に対し、紫外線照射処理を施すことにより、素材中に含まれる脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物を分解し、これにより合紙表面からガラス基板へ転写される汚れを低減させることに成功したのである。
【0020】
次に、紫外線照射処理につき説明する。
前述と同様にして得た試料に対し、紫外線照射処理を施した。紫外線照射による各成分への影響の評価方法として、前述のフーリエ変換赤外吸収分光法(FT−IR)を用いた。紫外線の光源としては、波長が172nmのエキシマランプ(ウシオ電機株式会社製)を用い、照射時間は2秒と10分の2種類とした。
図2に、波数が2600〜3200cm−1の領域における赤外線透過スペクトルの変化を示す。また、図3に、波数が1400〜2000cm−1の領域における赤外線透過スペクトルの変化を示す。
【0021】
図2から、紫外線照射した試料では、脂肪族炭化水素化合物に起因するC−H伸縮振動が、紫外線照射なしの試料と比較して消滅あるいは減少しているのが確認できた。このことから、紫外線照射により脂肪族炭化水素化合物がアモルファス物質へ分解されたと推察することができる。
同様に、図3から、紫外線照射した試料では、エステル化合物に起因する>C=O伸縮振動が、紫外線照射なしの試料と比較して消滅あるいは減少しているのが確認できた。
【0022】
以上のことから、紫外線照射により鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物がアモルファス物質へ分解されて、汚れの発生要因が消滅あるいは減少し、転写に起因する汚れの発生が防止できたと推察することができる。
また、2秒間と10分間の紫外線照射の結果から、赤外線透過スペクトル形状に大きな変化は見られず、照射時間は2秒以上あればよいことが確認できた。
【0023】
前記エキシマランプによる紫外線照射の他、水銀灯による照射処理でも同様の効果を得られることが確認できた。水銀灯は、単一の波長の紫外線だけでなく、500nm以下の様々な波長の紫外線を含むことから、波長が150〜500nmの紫外線により照射を行えることがわかった。
【0024】
図4は、照射光源、照射距離、照射時間を変化させ紫外線を照射した合紙をガラス基板に押し当てたときのガラス基板上に転写された汚れ面積と、紫外線照射積算エネルギーとの関係を示すグラフであり、汚れ面積の紫外線照射積算エネルギーへの依存性がわかる。
未処理の合紙をガラス基板に押し当てたときの汚れ面積を100%としたが、紫外線照射により汚れ面積が減少することが確認できた。また、汚れ面積の減少率は、使用する光源によって異なることも確認できた。
【0025】
以上のように、有機系成分の汚れを含んだ素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にある脂肪族炭化水素化合物、鎖状飽和エステル化合物、不飽和エステル化合物をアモルファス物質へ分解することができ、この結果、ガラス基板に押し付けた時に転写される合紙表面の有機系汚れを、簡単かつ効率よく消滅あるいは低減したものとすることができることとなる。
【0026】
なお、以上の説明では合紙を用いる対象としてガラス基板と表現したが、このガラス基板は運搬、保管、荷役等する際に、複数枚重ね合わせた各ガラス基板の間に、傷付き防止のためにガラス用合紙が挿入されるあらゆるガラス製品を意味するものである。例えば、液晶用やプラズマ用や有機EL用のディスプレイ、タッチパネル用のガラスカバー、太陽光発電用のガラスカバーやガラス基板、自動車等のフロント、リア、サイド用ガラス等、及びこれらに類する全てのガラス製品を含んでいる。
図1
図2
図3
図4