特許第6303159号(P6303159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6303159
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ゴルフクラブシャフト
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20180326BHJP
【FI】
   A63B53/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-133159(P2017-133159)
(22)【出願日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年10月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼須 健司
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴次
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−239564(JP,A)
【文献】 特開2012−130533(JP,A)
【文献】 特開2017−000266(JP,A)
【文献】 特開2012−245309(JP,A)
【文献】 特開2009−066130(JP,A)
【文献】 米国特許第04157181(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順式フレックスが、130mm以上178mm以下であり、
前記順式フレックスがf1とされ、逆式フレックスがf2とされるとき、
f2/(f1+f2)が0.46以上0.50以下であり、
バット端からシャフト重心までの距離がL(センチメートル)とされ、シャフトの重量がWs(キログラム)とされるとき、次の式で計算されるバット端GLLが110kg・cm以下であり、
バット端GLL = Ws×L×L
複数の層によって構成されており、
前記複数の層が、第1バット部分層と、第2バット部分層とを含んでおり、
前記第1バット部分層が、ガラス繊維強化層であり、
前記第2バット部分層が、フープ層であるゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記バット端GLLが85kg・cm以上である請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
シャフト長さが43インチ以上48インチ以下である請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
シャフト重量が35グラム以上50グラム以下であり、シャフトトルクが6.0°以上7.5°以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
複数の層によって構成されており、
前記複数の層が、バット部分ストレート層と、チップ部分ストレート層とを含んでおり、
前記バット部分ストレート層と前記チップ部分ストレート層とが軸方向領域において互いにオーバーラップしたオーバーラップ領域が形成されている、請求項1からのいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記バット部分ストレート層の繊維弾性率が、チップ部分ストレート層の繊維弾性率よりも小さい請求項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
部分フープ層を更に有しており、
前記部分フープ層が、前記オーバーラップ領域に配置されている請求項又はに記載のゴルフクラブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
振りやすさ等の観点から、シャフトの仕様が考慮されたクラブが提案されている。特許第5546672号公報、特許第5546673号公報及び特許第5546701号公報は、スイング軸回りのクラブ慣性モーメントを所定の範囲に規定したときの、スイング軸回りのシャフト慣性モーメントの好ましい値を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5546672号公報
【特許文献2】特許第5546673号公報
【特許文献3】特許第5546701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ゴルフクラブシャフトの更なる改善について、鋭意検討した。その結果、振りやすさを高めうる新たな構成を見いだすに至った。
【0005】
本発明の目的は、振りやすいゴルフクラブシャフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある側面において、シャフトの順式フレックスが、130mm以上178mm以下である。前記順式フレックスがf1とされ、逆式フレックスがf2とされるとき、f2/(f1+f2)が0.46以上0.50以下であってもよい。バット端からシャフト重心までの距離がL(センチメートル)とされ、シャフトの重量がWs(キログラム)とされるとき、次の式で計算されるバット端GLL(kg・cm)が110kg・cm以下であってもよい。
バット端GLL = Ws×L×L
【0007】
他の側面において、前記バット端GLLが85kg・cm以上であってもよい。
【0008】
他の側面において、シャフト長さが43インチ以上48インチ以下であってもよい。
【0009】
他の側面において、シャフト重量が35グラム以上50グラム以下であってもよい。シャフトトルクは6.0°以上7.5°以下であってもよい。
【0010】
前記シャフトは、複数の層によって構成されていてもよい。前記複数の層が、第1バット部分層と、第2バット部分層とを含んでいてもよい。前記第1バット部分層が、ガラス繊維強化層であってもよい。前記第2バット部分層が、フープ層であってもよい。
【0011】
前記複数の層が、バット部分ストレート層と、チップ部分ストレート層とを含んでいてもよい。前記バット部分ストレート層と前記チップ部分ストレート層とが軸方向領域において互いにオーバーラップしたオーバーラップ領域が形成されていてもよい。
【0012】
他の側面において、前記バット部分ストレート層の繊維弾性率が、チップ部分ストレート層の繊維弾性率よりも小さくてもよい。
【0013】
他の側面において、前記シャフトは、部分フープ層を更に有していてもよい。前記部分フープ層が、前記オーバーラップ領域に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
振りやすいシャフトが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係るシャフトが装着されたゴルフクラブを示す。
図2図2は、図1のシャフトの積層構成を示す展開図である。
図3図3は、ゴルフクラブをスイングするゴルファーを上から見た図である。
図4図4(a)は順式フレックスの測定方法を示す概略図であり、図4(b)は逆式フレックスの測定方法を示す概略図である。
図5図5は、シャフトトルクの測定方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
なお、本願において、「軸方向」とは、シャフトの軸方向を意味する。
【0018】
図1は、一実施形態に係るシャフト6を備えたゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。シャフト6のチップ部に、ヘッド4が取り付けられている。シャフト6のバット部に、グリップ8が取り付けられている。
【0019】
ゴルフクラブ2は、ドライバー(1番ウッド)である。通常、ドライバーのクラブ長さLcは、43インチ以上47インチ以下である。好ましくは、ゴルフクラブ2は、ウッド型ゴルフクラブである。なお、クラブ長さLcは、R&A(Royal and Ancient Golf Club of Saint Andrews;全英ゴルフ協会)の規定に準拠して測定される。この規定は、R&Aが発行する最新のゴルフ規則において、「付属規則II クラブのデザイン」の「1 クラブ」における「1c 長さ」に記載されている。図1が示すように、このクラブ長さLcの測定では、水平面に対して60°の平面にソールが当接される。この60°の平面と水平面との交線から、クラブの後端までの距離が、クラブ長さLcである。
【0020】
本実施形態において、ヘッド4は中空構造を有する。ヘッド4は、ウッド型である。ヘッド4は、ヘッド重量Whを有する。ヘッド4は、ハイブリッド型(ユーティリティ型)であってもよい。ヘッド4は、アイアン型であってもよい。ヘッド4は、パター型であってもよい。
【0021】
ヘッド4は、鋳造、鍛造、プレス成形等、公知の方法で製造されうる。中空構造を有するヘッド4では、複数の部材が溶接されている。
【0022】
ヘッド4の材質として、金属及び繊維強化プラスチックが例示される。この金属として、チタン合金、純チタン、ステンレス鋼及び軟鉄が例示される。繊維強化プラスチックとして、炭素繊維強化プラスチックが例示される。
【0023】
グリップ8は、スイング中においてゴルファーにより握られる部分である。グリップ8の製法は限定されない。グリップ8は、公知の製法により製造されうる。この製法として、プレス成形及び射出成形が例示される。
【0024】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップ端Tpとバット端Btとを有する。チップ端Tpは、ヘッド4の内部に位置している。バット端Btは、グリップ8の内部に位置している。
【0025】
シャフト6は、シャフト重量Wsを有する。
【0026】
図1において両矢印Lsで示されているのは、シャフト長さである。シャフト長さLsは、チップ端Tpとバット端Btとの間の軸方向距離である。図1において両矢印Lで示されているのは、バット端Btからシャフト重心Gsまでの軸方向距離である。シャフト重心Gsは、シャフト6単体の重心である。この重心Gsは、シャフト軸線上に位置する。
【0027】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0028】
プリプレグシートは、繊維と樹脂とを有している。この樹脂は、マトリクス樹脂とも称される。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0029】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造されている。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。
【0030】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【0031】
シャフト6の製法は限定されない。設計自由度の観点から、シートワインディング製法により製造されたシャフトが好ましい。なお、シャフト6の材質は限定されない。シャフト6は、例えば、スチールシャフトでもよい。
【0032】
図2は、シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(積層構成図)である。
【0033】
シャフト6は、複数のシートにより構成されている。シャフト6は、第1シートs1から第16シートs16までの、16枚のシートにより構成されている。この展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。これらのシートは、展開図において上側に位置しているシートから順に、巻回される。この展開図において、図面の左右方向は、シャフトの軸方向と一致する。この展開図において、図面の右側は、シャフトのチップ端Tp側である。この展開図において、図面の左側は、シャフトのバット端Bt側である。
【0034】
この展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えば図2において、第1シートs1の端は、チップ端Tpに位置している。例えば図2において、第6シートs6の端は、バット端Btに位置している。
【0035】
本願では、「層」という文言と、「シート」という文言とが用いられる。「層」は、巻回された後における称呼である。これに対して「シート」は、巻回される前における称呼である。「層」は、「シート」が巻回されることによって形成される。即ち、巻回された「シート」が、「層」を形成する。また、本願では、層とシートとで同じ符号が用いられる。例えば、シートs1によって形成された層は、層s1である。
【0036】
シャフト6は、ストレート層と、バイアス層と、フープ層とを有する。本願の展開図において、各シートには、繊維の配向角度Afが記載されている。この配向角度Afは、シャフト軸方向に対する角度である。
【0037】
シャフト6は、2層のバイアス層を有する。3層以上のバイアス層が設けられてもよい。シャフト6は、2層以上のストレート層を有する。
【0038】
「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層を構成するシートは、ストレートシートとも称される。
【0039】
ストレート層は、上記角度Afが実質的に0°とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、上記角度Afは、完全には0°とはならない。
【0040】
通常、ストレート層では、絶対角度θaが10°以下である。絶対角度θaとは、上記配向角度Afの絶対値である。例えば、絶対角度θaが10°以下とは、角度Afが−10°以上+10°以下であることを意味する。
【0041】
図2の実施形態において、ストレートシートは、シートs1、シートs5、シートs7、シートs9、シートs11、シートs12、シートs14、シートs15及びシートs16である。
【0042】
バイアス層は、シャフトの捻れ剛性及び捻れ強度との相関が高い。好ましくは、バイアスシートは、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートを含む。捻れ剛性の観点から、バイアス層の絶対角度θaは、好ましくは15°以上であり、より好ましくは25°以上であり、更に好ましくは40°以上である。捻れ剛性及び曲げ剛性の観点から、バイアス層の絶対角度θaは、好ましくは60°以下であり、より好ましくは50°以下である。
【0043】
シャフト6において、バイアス層を構成するシートは、第2シートs2及び第4シートs4である。シートs2は、第1バイアスシートとも称される。シートs4は、第2バイアスシートとも称される。上述の通り、図2には、シート毎に、上記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、バイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。本願において、バイアス層を構成するシートは、単にバイアスシートとも称される。シートs2及びシートs4は、後述される合体シートを構成する。
【0044】
図2では、シートs4の繊維の傾斜方向が、シートs2の繊維の傾斜方向に等しい。しかし、シートs4は、裏返されて、シートs2に貼り付けられる。この結果、シートs2の角度Afと、シートs4の角度Afとは、互いに逆方向となる。この点を考慮して、図2の実施形態では、シートs2の角度Afが−45度と表記され、シートs4の角度Afが+45度と表記されている。
【0045】
シャフト6は、フープ層を有する。シャフト6は、複数のフープ層を有する。シャフト6は、5つのフープ層を有する。シャフト6において、フープ層は、層s3、層s6、層s8、層s10及び層s13である。シャフト6において、フープ層を構成するシートは、第3シートs3、第6シートs6、第8シートs8、第10シートs10及び第13シートs13である。本願において、フープ層を構成するシートは、フープシートとも称される。
【0046】
好ましくは、フープ層における上記絶対角度θaは、シャフト軸線に対して実質的に90°とされる。ただし、巻き付けの際の誤差等に起因して、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に90°とはならない場合がある。通常、フープ層では、上記角度Afが−90°以上−80°以下、又は、80°以上90°以下である。換言すれば、通常、フープ層では、上記絶対角度θaが80°以上90°以下である。
【0047】
1枚のシートのプライ数(巻回数)は限定されない。例えば、シートのプライ数が1であるとき、このシートは、周方向において1周巻かれる。例えば、シートのプライ数が2であるとき、このシートは、周方向において2周巻かれる。例えば、シートのプライ数が1.5であるとき、このシートは、周方向において1.5周巻かれる。シートのプライ数が1.5であるとき、このシートは、0〜180°の周方向位置で1つの層を形成し、180°〜360°の周方向位置では2つの層を形成する。
【0048】
皺等の巻回不良を抑制する観点から、幅が広すぎるシートは好ましくない。この観点から、1枚のバイアスシートのプライ数は、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。巻回工程の作業効率の観点から、1枚のバイアスシートのプライ数は、1以上が好ましい。
【0049】
皺等の巻回不良を抑制する観点から、幅が広すぎるシートは好ましくない。この観点から、1枚のストレートシートのプライ数は、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がより好ましい。巻回工程の作業効率の観点から、1枚のストレートシートのプライ数は、1以上が好ましい。全てのストレートシートにおいて、上記プライ数が1であってもよい。
【0050】
全長シートでは、巻回不良が生じやすい。巻回不良を抑制する観点から、好ましくは、全ての全長ストレートシートにおいて、1枚のシートのプライ数は2以下である。全ての全長ストレートシートにおいて、上記プライ数が1であってもよい。
【0051】
皺等の巻回不良を抑制する観点から、幅が広すぎるシートは好ましくない。この観点から、1枚のフープシートのプライ数は、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がより好ましい。巻回工程の作業効率の観点から、1枚のフープシートのプライ数は、1以上が好ましい。全てのフープシート(フープ層)において、上記プライ数が2以下であってもよい。
【0052】
全長シートでは、巻回不良が生じやすい。巻回不良を抑制する観点から、好ましくは、全ての全長フープシートにおいて、1枚のシートのプライ数は2以下である。全ての全長フープシートにおいて、上記プライ数が1であってもよい。
【0053】
図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、カバーシートにより挟まれている。通常、このカバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムである。使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0054】
本願の展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。即ち、図2において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。
【0055】
プリプレグシートを巻回するには、先ず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、タック性(粘着性)を有する。このタック性は、マトリクス樹脂に起因する。即ち、このマトリクス樹脂が半硬化状態であるため、粘着性が発現する。この露出したフィルム側の面の縁部が、巻き始め縁部とも称される。次に、巻き始め縁部が、巻回対象物に貼り付けられる。マトリクス樹脂の粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けが円滑になされうる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられてなる巻回物である。次に、離型紙が剥がされる。次に、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが巻回対象物に巻き付けられる。このように、樹脂フィルムが剥がされて、巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられた後に、離型紙が剥がされる。この手順により、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。なぜなら、離型紙が貼り付けられたシートは、離型紙に支持されているため、皺となりにくいからである。離型紙は、樹脂フィルムと比較して、曲げ剛性が高い。
【0056】
図2の実施形態では、一部のシートが合体シートとされる。合体シートは、2枚以上のシートが貼り合わされることによって形成される。全てのフープシートは、合体シートの状態で、巻回される。この巻回方法により、フープシートの巻き付け不良が抑制される。
【0057】
上述の通り、本願では、繊維の配向角度によって、シート及び層が分類される。更に、本願では、軸方向長さによって、シート及び層が分類される。
【0058】
本願において、軸方向の略全体に配置される層が、全長層と称される。本願において、軸方向の略全体に配置されるシートが、全長シートと称される。巻回された全長シートが、全長層を形成する。
【0059】
チップ端Tpから軸方向に20mm隔てた地点がTp1とされ、チップ端Tpから地点Tp1までの領域が第1領域とされる。また、バット端Btから軸方向に100mm隔てた地点がBt1とされ、バット端Btから地点Bt1までの領域が第2領域とされる。上記第1領域及び上記第2領域が、シャフトの性能に与える影響は、限定的である。この観点から、全長シートは、上記第1領域及び上記第2領域に存在していなくてもよい。好ましくは、全長シートは、チップ端Tpからバット端Btにまで延びている。換言すれば、全長シートは、シャフト軸方向の全体に配置されているのが好ましい。
【0060】
本願において、シャフト軸方向において部分的に配置される層が、部分層と称される。本願において、シャフト軸方向において部分的に配置されるシートが、部分シートと称される。巻回された部分シートが、部分層を形成する。部分シートの軸方向長さは、全長シートの軸方向長さよりも短い。好ましくは、部分シートの軸方向長さは、シャフト全長の半分以下である。
【0061】
本願では、ストレート層である全長層が、全長ストレート層と称される。図2の実施形態において、全長ストレート層は、層s11及び層s14である。全長ストレートシートは、シートs11及びシートs14である。
【0062】
本願では、フープ層である全長層が、全長フープ層と称される。図2の実施形態において、全長フープ層は、層s3及び層s13である。全長フープシートは、シートs3及びシートs13である。
【0063】
本願では、ストレート層である部分層が、部分ストレート層と称される。図2の実施形態において、部分ストレート層は、層s1、層s5、層s7、層s9、層s15及び層s16である。部分ストレートシートは、シートs1、シートs5、シートs7、シートs9、シートs15及びシートs16である。
【0064】
本願では、フープ層である部分層が、部分フープ層と称される。図2の実施形態において、部分フープ層は、層s6、層s8及び層s10である。部分フープシートは、シートs6、シートs8及びシートs10である。
【0065】
本願では、バット部分層との文言が用いられる。このバット部分層として、バット部分ストレート層及びバット部分フープ層が挙げられる。図2の実施形態において、バット部分ストレート層は、層s7及び層s12である。バット部分ストレートシートは、シートs7及びシートs12である。
【0066】
図2の実施形態は、バット部分フープ層s6を有する。バット部分フープ層s6の一端はバット端Btに位置する。図2の実施形態は、バット部分フープ層s8を有する。バット部分フープ層s8の一端はバット端Btに位置する。図2の実施形態は、複数のバット部分フープ層s6、s8を有する。
【0067】
バット部分層(バット部分シート)とバット端Btとの間の軸方向距離は、100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、0mmがより好ましい。本実施形態では、全てのバット部分層において、この距離は0mmである。
【0068】
本願では、チップ部分層との文言が用いられる。チップ部分層(チップ部分シート)とチップ端Tpとの間の軸方向距離は、40mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、20mm以下がより好ましく、0mmがより好ましい。本実施形態では、全てのチップ部分層において、この距離は0mmである。
【0069】
このチップ部分層として、チップ部分ストレート層が挙げられる。図2の実施形態において、チップ部分ストレート層は、層s1、層s9、層s15及び層s16である。チップ部分ストレートシートは、シートs1、シートs9、シートs15及びシートs16である。
【0070】
図2の実施形態は、中間部分フープ層s10を有する。中間部分フープ層s10のバット側の端は、バット端Btから離れている。中間部分フープ層s10のチップ側の端は、チップ端Tpから離れている。部分フープ層s10は、中間領域R2(後述)の全体に亘って配置されている。
【0071】
図2に示されるシートを用いて、シートワインディング製法により、シャフト6が作製される。
【0072】
以下に、このシャフト6の製造工程の概略が説明される。
【0073】
[シャフト製造工程の概略]
【0074】
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この工程により、図2に示された各シートが切り出される。
【0075】
裁断は、裁断機によりなされてもよい。裁断は、手作業でなされてもよい。手作業の場合、例えば、カッターナイフが用いられる。
【0076】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、前述した合体シートが作製される。
【0077】
貼り合わせ工程では、加熱又はプレスが用いられてもよい。より好ましくは、加熱とプレスとが併用される。後述する巻回工程において、合体シートの巻き付け作業中に、シート間のズレが生じうる。このズレは、巻き付け精度を低下させる。加熱及びプレスは、シート間の接着力を向上させる。加熱及びプレスは、巻回工程におけるシート間のズレを抑制する。
【0078】
(3)巻回工程
巻回工程では、マンドレルが用意される。典型的なマンドレルは、金属製である。このマンドレルに、離型剤が塗布される。更に、このマンドレルに、粘着性を有する樹脂が塗布される。この樹脂は、タッキングレジンとも称される。このマンドレルに、裁断されたシートが巻回される。このタッキングレジンにより、シート端部をマンドレルに貼り付けることが容易とされている。
【0079】
シートは、展開図に記載されている順番で、巻回される。展開図で上側にあるシートほど、先に巻回される。上記貼り合わせに係るシートは、合体シートの状態で、巻回される。
【0080】
この巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことにより、達成される。この巻回は、手作業によりなされてもよいし、機械によりなされてもよい。この機械は、ローリングマシンと称される。
【0081】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。このテープにより、巻回体に圧力が加えられる。この圧力はボイドを低減させる。
【0082】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の過程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの圧力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0083】
(6)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
硬化工程の後、マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0084】
(7)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、チップ端Tpの端面及びバット端Btの端面が、平坦とされる。
【0085】
なお、理解を容易とするため、本願の展開図では、両端カット後のシートが示されている。実際には、裁断時の寸法において、両端カットが考慮される。すなわち、実際には、両端カットがなされる部分の寸法が付加されて、裁断がなされる。
【0086】
(8)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、螺旋状の凹凸が存在する。この凹凸は、ラッピングテープの跡である。研磨により、この凹凸が消滅し、表面が滑らかとされる。好ましくは、研磨工程では、全体研磨と先端部分研磨とが実施される。
【0087】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体が、塗装される。
【0088】
以上のような工程により、シャフト6が得られる。
【0089】
[1.シャフトの仕様]
本発明者は、新たな視点に基づいて、ゴルフクラブシャフトの改良について検討した。この結果、バット端GLLが、振りやすさの改良に有効であることが判った。バット端GLLの詳細は、後述される。このバット端GLLに、シャフトの順式フレックス及び逆式フレックスを適合させることで、振りやすさが向上することを見いだした。
【0090】
[1−1.バット端GLL]
前述の通り、バット端Btからシャフト重心Gsまでの距離がL(センチメートル)とされる。また、シャフトの重量が、Ws(キログラム)とされる。バット端GLL(kg・cm)は、次の式によって算出される。
バット端GLL = Ws×L×L
【0091】
[1−2.順式フレックスf1]
図3は、スイングしているゴルファーh10を上から見た図である。図3は、ダウンスイングの初期段階を示している。
【0092】
ダウンスイングの初期段階では、角加速度が極大となり、シャフト6がしなる。このしなりは、スイングの進行方向に対してヘッドが遅れるようなしなりである。
【0093】
ダウンスイング初期のしなりにより、シャフト重心Gs及びヘッド重心Gは、スイング軸(ゴルファーの胴体)に近づくように変位する。よって、スイング軸回りのクラブ2の慣性モーメントが低減され、クラブ2を速く振ることが可能となる(加速効果)。順式フレックスf1を大きくすることで、このしなりを増大させることができる。また、この初期のしなりは、ダウンスイングの後半でのしなり戻りを増大させる(しなり戻り効果)。このしなり戻りは、ヘッドスピードの増加に寄与する。
【0094】
[1−3.f2/(f1+f2)]
順式フレックスf1には、主としてグリップ寄りの部分の曲げ剛性が反映される。一方、逆式フレックスf2には、主としてヘッド寄りの部分の曲げ剛性が反映される。f1を大きくすることで、シャフトの手元側(グリップ寄りの部分)が撓みやすくなる。手元側が撓むことで、スイング軸への前記変位が大きくなる。このため、前記加速効果が高まる(変位増大効果1)。また、ダウンスイング初期段階での変位が大きくなることで、前記しなり戻りに伴う変位の戻り量も増大する(変位増大効果2)。このため、前記しなり戻り効果が高まり、ヘッドスピードが向上しうる。なお、f1が大きすぎると、しなりが戻りきらない場合があり、変位増大効果2が減少する。一方、f2を大きくした場合、ヘッドスピードは向上しうるが、先端側が撓むため、フェース角への影響が大きく、インパクト時のフェース角のばらつきが大きくなり、安定性に欠ける。以上より、f2/(f1+f2)には好ましい値が存在する。この値が小さすぎるとヘッドスピードが上がりにくく、大きすぎると安定性に欠ける。
【0095】
[1−4.シャフト長さLs、シャフト重量Ws、シャフトトルク]
シャフトが長いほど、前記変位は大きくなりやすく、前記加速効果及び前記しなり戻り効果が得られやすい。この観点から、シャフトは長い方が好ましい。振りやすさ及び打球の方向安定性を考慮すると、軽量で且つシャフトトルクが抑制されるのが好ましい。
【0096】
[3.好ましい値]
各仕様の好ましい値は、以下の通りである。
【0097】
[3−1.バット端GLL]
振りやすさの観点から、バット端GLLは、110kg・cm以下が好ましく、109kg・cm以下がより好ましく、108kg・cm以下がより好ましく、107kg・cm以下がより好ましい。設計上の制約から、バット端GLLは、70kg・cm以上が好ましく、75kg・cm以上がより好ましく、78kg・cm以上が更に好ましい。振りやすさが向上すると、スイングのバラツキが減少するので、インパクトにおけるフェース角が安定する。この観点からも、バット端GLLは上記範囲にあるのが好ましい。
【0098】
[3−2.順式フレックスf1]
順式フレックスf1が大きくなることで、ダウンスイングの初期段階における前記撓みが増大され、前記加速効果及び前記しなり戻り効果が向上しうる。この観点から、順式フレックスf1は、130mm以上が好ましく、140mm以上がより好ましく、150mm以上が更に好ましい。過大な順式フレックスf1は、しなり戻りを減退させうる。この観点から、順式フレックスf1は、200mm以下が好ましく、178mm以下がより好ましく、165mm以下が更に好ましい。
【0099】
[3−3.f2/(f1+f2)]
前記変位増大効果及びフェース角の安定性の観点から、f2/(f1+f2)は、0.50以下が好ましく、0.49以下がより好ましく、0.48以下が更に好ましい。設計上の制約を考慮すると、f2/(f1+f2)は、0.44以上が好ましく、0.45以上がより好ましく、0.46以上が更に好ましい。
【0100】
なお、順式フレックスf1及び逆式フレックスf2を調整する方法は限定されず、例えば以下が挙げられる。
(a)チップ部分層の巻回数の増減。
(b)チップ部分層の繊維弾性率の変更。
(c)チップ部分層の軸方向長さの変更。
(d)バット部分層の巻回数の増減。
(e)バット部分層の繊維弾性率の変更。
(f)バット部分層の軸方向長さの変更。
(g)シャフト(マンドレル)のテーパー角度の変更。
【0101】
[3−4.シャフト長さLs]
前記加速効果及び前記しなり戻り効果の観点から、シャフト長さLsは、43インチ以上が好ましく、44インチ以上がより好ましく、45インチ以上が更に好ましい。過大なシャフト長さLsは、しなり戻りを減退させうる。この観点から、シャフト長さLsは、48インチ以下が好ましく、47インチ以下がより好ましく、46インチ以下が更に好ましい。
【0102】
[3−5.シャフト重量Ws]
【0103】
バット端GLLを小さくする観点から、シャフト重量Wsは、50g以下が好ましく、48g以下がより好ましく、46g以下がより好ましく、44g以下がより好ましい。設計上の制約から、シャフト重量Wsは、30g以上が好ましく、32g以上がより好ましく、34g以上が更に好ましい。
【0104】
[3−6.シャフトトルク]
打球の方向安定性の観点から、シャフト6のシャフトトルクは、7.5°以下が好ましく、7.3°以下がより好ましく、7.1°以下が更に好ましい。軽量シャフトにおける限界を考慮すると、このシャフトトルクは、6.0°以上が好ましく、6.2°以上がより好ましく、6.4°以上が更に好ましい。
【0105】
[4.測定方法]
各仕様の測定方法は、以下の通りである。
【0106】
[4−1.順式フレックスf1、逆式フレックスf2]
図4(a)は、順式フレックスf1の測定方法を示す。この図4(a)に示されるように、チップ端Tpから1093mmの位置に、第一支持点S1が設定される。更に、チップ端Tpから953mmの位置に、第二支持点S2が設定される。第一支持点S1には、シャフト6を上方から支持する支持体B1が設けられる。第二支持点S2には、シャフト6を下方から支持する支持体B2が設けられる。荷重のない状態において、シャフト6のシャフト軸線は水平とされる。チップ端Tpから129mm隔てた荷重点m1に、2.7kgfの荷重を鉛直下向きに作用させる。荷重のない状態と、荷重をかけて安定した状態との間の荷重点m1の距離(mm)が、順式フレックスである。この距離は、鉛直方向に沿って測定される。
【0107】
なお、支持体B1の、シャフトと当接する部分(以下、当接部分という)の断面形状は、次の通りである。シャフト軸方向に対して平行な断面において、支持体B1の当接部分の断面形状は、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、15mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体B1の当接部分の断面形状は、凹状の丸みを有する。この凹状の丸みの曲率半径は、40mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体B1の当接部分の水平方向長さ(図4(a)における奥行き方向長さ)は、15mmである。支持体B2の当接部分の断面形状は、支持体B1のそれと同一である。荷重点m1において2.7kgfの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、10mmである。荷重点m1において2.7kgfの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して垂直な断面において、直線である。この直線の長さは、18mmである。この荷重圧子を含む重りが、荷重点m1にぶら下げられる。
【0108】
図4(b)は、逆式フレックスf2の測定方法を示す。第一支持点S1がチップ端Tpから12mm隔てた点とされ、第二支持点S2がチップ端Tpから152mm隔てた点とされ、荷重点m2がチップ端Tpから924mm隔てた点とされ、荷重が1.3kgfとされた他は順式フレックスと同様にして、逆式フレックスが測定される。
【0109】
[4−2.シャフトトルク]
図5は、シャフトトルクの測定方法を示す。チップ端Tpから40mmの地点からチップ端Tpまでの部分が、治具M1で固定される。この固定はエアチャックにより達成されており、このエアチャックの空気圧は2.0kgf/cmである。この治具M1から825mm隔てた位置から幅50mmの部分に、治具M2が固定される。この固定はエアチャックにより達成されており、このエアチャックの空気圧は1.5kgf/cmである。治具M1を固定したまま治具M2を回転させて、シャフト6に13.9kg・cmのトルクTrを付与する。このトルクTrによる捻れ角度が、シャフトトルクである。
【0110】
[5.積層構成]
好ましい積層構成は、次の通りである。
【0111】
[5−1.バット部分層としてのガラス繊維強化層]
シャフト6のバット部分層は、ガラス繊維強化層を含むのが好ましい。図2の実施形態では、シートs7が、ガラス繊維強化層である。なお、このガラス繊維強化層s7以外は、炭素繊維強化層である。
【0112】
ガラス繊維の比重は、炭素繊維の比重よりも大きい。ガラス繊維強化層をバット部分層として用いることで、前記距離Lを効果的に短くすることができる。バット側に用いられるガラス繊維強化層は、バット端GLLを小さくするのに寄与する。
【0113】
ガラス繊維の弾性率は、7〜8ton/mmであり、低い。よって、ガラス繊維強化層をバット部分層として用いても、順式フレックスf1は過度に小さくならない。つまり、このガラス繊維強化層は、f2/(f1+f2)を小さくすることを妨げない。
【0114】
バット部分層は、ゴルファーの手に近い。ガラス繊維は、衝撃吸収性に優れる。バット部分層としてガラス繊維強化層を用いることで、打感が向上する。
【0115】
図2において両矢印P1で示されるのは、バット部分層であるガラス繊維強化層の軸方向長さである。バット端GLLを小さくする観点から、長さP1は、100mm以上が好ましく、150mm以上がより好ましく、180mm以上がより好ましい。P1が過大であると、シャフト重量Wsが過大となりうる。この観点から、長さP1は、350mm以下が好ましく、300mm以下がより好ましく、250mm以下がより好ましい。
【0116】
[5−2.バット部分層としてのフープ層]
シャフト6は、バット部分フープ層を有するのが好ましい。図2の実施形態は、複数のバット部分フープ層を有している。図2の実施形態において、バット部分フープ層は、層s6及び層s8である。
【0117】
バット部分フープ層は、潰れ変形を抑制するので、大径部であるバット部分を効果的に補強しうる。また、バット部分フープ層は、曲げ剛性にほとんど影響しないため、バット部の曲げ剛性が抑制される。バット部分フープ層は、順式フレックスf1を大きくし、且つ、f2/(f1+f2)を小さくするのに役立つ。
【0118】
バット部分フープ層は、それ自身の重量により、バット部分への重量配分を増加させる。バット部分フープ層は、シャフト重心Gsをバット端Bt側に移動するのに寄与する。バット部分フープ層は、距離Lを小さくするのに寄与する。バット部分フープ層は、バット端GLLを小さくするのに寄与する。
【0119】
図2において両矢印P2で示されるのは、バット部分フープ層の軸方向長さである。バット部分の強度向上及びバット端GLLの抑制の観点から、長さP2は、100mm以上が好ましく、150mm以上がより好ましく、180mm以上がより好ましい。P2が過大であると、バット部分フープ層の局所性が減少し、シャフト重心Gsをバット端Bt寄りに移動させる効果が減少する。この観点から、長さP2は、400mm以下が好ましく、350mm以下がより好ましく、300mm以下がより好ましい。
【0120】
[5−3.バット部分層としてのフープ層及びガラス繊維強化層]
図2の実施形態では、第1バット部分層として、ガラス繊維強化層s7が用いられている。このガラス繊維強化層s7は、ストレート層である。更に、図2の実施形態では、第2バット部分層として、フープ層s、sが用いられている。これらのバット部分フープ層s,sは、炭素繊維強化層である。これら第1バット部分層と第2バット部分層との相乗効果により、効果的に、f2/(f1+f2)及びバット端GLLの抑制が達成されうる。加えて、強度及び打感が向上しうる。
【0121】
[5−4.チップ端Tp側の幅が広いバイアスシート]
図2が示すように、バイアスシートs2では、バット端Btの幅Wbよりもチップ端Tpの幅Wtのほうが大きい。同様に、バイアスシートs4では、バット端Btの幅Wbよりもチップ端Tpの幅Wtのほうが大きい。この構成により、バイアス層の重量を抑制しつつ、シャフトの捻れ剛性が向上しうる。この構成は、シャフトトルクの低減とシャフトの軽量化との両立に寄与する。
【0122】
[5−5.互いにオーバーラップする部分ストレート層]
図2の実施形態は、バット部分ストレート層s5と、チップ部分ストレート層s9とを有している。バット部分ストレート層s5とチップ部分ストレート層s9とは、軸方向領域において、互いにオーバーラップしている。すなわち、バット部分ストレート層s5とチップ部分ストレート層s9との間で、オーバーラップ領域V1が形成されている。換言すれば、バット部分ストレート層s5のチップ端E1は、チップ部分ストレート層s9のバット端E2よりも、チップ側に位置する。なお、オーバーラップ領域V1は、軸方向の領域である。
【0123】
オーバーラップ領域V1は、中間領域R2に含まれている。図2が示すように、軸方向において3等分されることで、シャフト6は、チップ領域R1、中間領域R2及びバット領域R3に区画される。オーバーラップ領域V1の全体が、中間領域R2に含まれている。
【0124】
バット部分ストレート層s5の繊維弾性率は、チップ部分ストレート層s9の繊維弾性率よりも小さい。このため、オーバーラップ領域V1よりもバット端Bt側の部分において、しなりが生じやすい。この結果、順式フレックスf1が大きくされ、且つ、f2/(f1+f2)が小さくされる。
【0125】
このように、ストレート層の繊維弾性率を軸方向の中途位置で切り替えることで、曲げ剛性の分布の自由度が高まり、f2/(f1+f2)が所望の値に調整されうる。一方、シャフトの全長に亘って継ぎ目のない全長ストレート層に比べて、層s5とs9との間の継ぎ目には、応力が集中しやすい。更に、層s5と層s9との間で繊維弾性率が相違する場合、前記継ぎ目に応力が集中しやすい。オーバーラップ領域V1は、この応力の集中を効果的に緩和し、シャフト6の強度を高めうる。
【0126】
前述の通り、タウンスイングでは、シャフト6がしなる。このしなりは弾性変形である。この弾性変形が回復することは、しなり戻りとも称される。しなり戻りにより、ヘッドスピードが加速される。このしなり戻りは、振りやすさを高める。
【0127】
前述の通り、ストレート層は、曲げ変形への影響が大きい。前記継ぎ目は、曲げ変形に影響を与え、しなり戻りを低下させうる。オーバーラップ領域V1は、この問題を解決しうる。オーバーラップ領域V1は、部分ストレート層の継ぎ目におけるしなり戻りを促進し、振りやすさを高めうる。
【0128】
前述の通り、オーバーラップ領域V1は、中間領域R2に含まれている。オーバーラップ領域V1がバット領域R3に位置する場合、第3領域R3の剛性が高くなる。この場合、手元調子となりにくい。すなわち、f2/(f1+f2)が小さくなりにくい。オーバーラップ領域V1を中間領域R2に配置することで、f2/(f1+f2)を小さくすることが容易となる。なお、オーバーラップ領域V1がチップ領域R1に位置する場合、シャフトの先端部のしなりが不足して、打球が上がりにくい場合がある。
【0129】
オーバーラップ領域V1を有するバット部分ストレート層s5及びチップ部分ストレート層s9について、バット部分ストレート層s5の繊維弾性率がEM1(t/mm)とされ、チップ部分ストレート層s9の繊維弾性率がEM2(t/mm)とされる。f2/(f1+f2)を小さくする観点から、差(EM2−EM1)は、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、9以上が更に好ましい。過大なRM2は、シャフトのチップ部分の強度を低下させうる。この観点から、差(EM2−EM1)は、22以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下が更に好ましい。
【0130】
f2/(f1+f2)を抑制する観点から、EM2は、30(t/mm)以上が好ましく、31(t/mm)以上がより好ましく、33(t/mm)以上がより好ましい。強度の観点から、EM2は、50(t/mm)以下がより好ましく、46(t/mm)以下がより好ましく、40(t/mm)以下がより好ましい。
【0131】
オーバーラップ領域V1の効果を高める観点から、オーバーラップ領域V1の軸方向長さは、50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、150mm以上が更に好ましい。シャフト重量Wsの抑制の観点から、オーバーラップ領域V1の軸方向長さは、400mm以下が好ましく、300mm以下がより好ましく、250mm以下が更に好ましい。
【0132】
[5−6.オーバーラップ領域V1に配置された部分フープ層]
オーバーラップ領域V1には、ストレート層の継ぎ目が存在する。この継ぎ目は、シャフトの撓み形状に影響し、応力集中を招来しうる。図2の実施形態では、オーバーラップ領域V1に、部分フープ層s10が配置されている。このため、前記継ぎ目における異常な変形を抑制し、応力集中を緩和しうる。また、部分フープ層s10は中間のみの部分的な使用をすることで、その重量が抑制されている。
【0133】
フープ層は、潰れ変形の回復を促進しうる。潰れ変形とは、シャフトの断面が楕円になるような変形である。シャフトは管状体であるため、シャフトの曲げ変形は潰れ変形を伴う。潰れ変形は、曲げ変形に連動している。潰れ変形が回復することで、曲げ変形も回復する。フープ層は、潰れ変形の回復を促進するため、曲げ変形の回復も促進しうる。オーバーラップ領域V1に設けられたフープ層は、オーバーラップ領域V1に起因するしなり戻りを促進しうる。しなり戻りが促進されることで、ヘッドスピード及び振りやすさが向上しうる。
【0134】
中間部分フープ層s10はフープ層であるため、ストレート層に比べて曲げ剛性への影響が少ない。よって、順式フレックスf1及びf2/(f1+f2)への影響が少ない。中間部分フープ層s10は、順式フレックスf1及びf2/(f1+f2)の設計を容易とするのに役立つ。
【0135】
下記の表1及び表2は、使用可能なプリプレグの例である。市販されている多種のプリプレグのなかから適切なものを選択することで、順式フレックスf1、逆式フレックスf2などのシャフトの特性を精度よく調整することができる。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【実施例】
【0138】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0139】
[実施例1]
上述された手順により、シャフトが作製された。積層構成は、図2の通りとされた。適切なプリプレグを選択すると共に、上述した(a)から(g)の設計手法により、シャフトのスペックを調整して、実施例1のシャフトを得た。フープ層には、シートの厚みが0.04mm未満の薄いプリプレグが用いられた。バット部分ストレート層s5の繊維弾性率EM1は、チップ部分ストレート層s9の繊維弾性率EM2よりも小さくされた。EM2−EM1は、6(ton/mm)とされた。層s5と層s9とにより構成されるオーバーラップ領域V1の軸方向長さは、200mmであった。シャフトトルクは、7.0°であった。このシャフトに、チタン合金製のドライバーヘッドとグリップとを装着して、実施例1に係るゴルフクラブを得た。実施例1の仕様及び評価結果が、下記の表3で示される。
【0140】
[実施例2から15及び比較例1及び2]
下記の表3から5に記載された仕様の他は実施例1と同様にして、実施例2から15及び比較例1及び2のシャフト及びゴルフクラブを得た。これらの仕様及び評価結果が、下記の表3から5に示される。なお、順式フレックスf1及び逆式フレックスf2の測定方法は、前述の通りである。
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
【表5】
【0144】
[評価方法]
評価方法は、次の通りである。
【0145】
[ヘッドスピード]
ハンディキャップが0から20までの10名のテスターが、実打テストを行った。各テスターが各クラブで5球ずつ打撃し、これらの打撃のそれぞれについて、ヘッドスピードが計測された。50のデータの平均値が、下記の表3から5で示される。
【0146】
[振りやすさ]
上記10名のテスターが、各クラブの振りやすさについて官能評価を実施した。振りやすさが、1点から5点までの5段階で評価された。点数が大きいほど評価が高い。10名のテスターの平均値が、下記の表3から5で示される。
【0147】
[フェース角ばらつき]
上記10名のテスターが、実打テストを行った。各テスターが各クラブで5球ずつ打撃し、これらの打撃のそれぞれについて、インパクト時のフェース角が計測された。10名分の各5球の標準偏差σの平均値が、下記の表3から5で示される。
【0148】
これらの評価結果が示すように、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示のシャフトは、ウッド型、ユーティリティ(ハイブリッド)型、アイアン型など、あらゆるゴルフクラブに適用されうる。
【符号の説明】
【0150】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
Gs・・・シャフトの重心
Tp・・・シャフトのチップ端
Bt・・・シャフトのバット端
s1〜s16・・・プリプレグシート
V1・・・オーバーラップ領域
R1・・・チップ領域
R2・・・中間領域
R3・・・バット領域
【要約】
【課題】振りやすいゴルフクラブシャフトの提供。
【解決手段】シャフト6では、順式フレックスが130mm以上178mm以下である。前記順式フレックスがf1とされ、逆式フレックスがf2とされるとき、f2/(f1+f2)が0.46以上0.50以下である。バット端Btからシャフト重心Gsまでの距離がL(センチメートル)とされ、シャフトの重量がWs(キログラム)とされるとき、バット端GLLは、次の式で計算される。
バット端GLL = Ws×L×L
このバット端GLL(kg・cm)が、110kg・cm以下である。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5