特許第6303178号(P6303178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303178
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】1材型の象牙細管封鎖材
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/02 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   A61K6/02
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-539412(P2015-539412)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2014075822
(87)【国際公開番号】WO2015046491
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-205010(P2013-205010)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 周明
(72)【発明者】
【氏名】畑中 憲司
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/046667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/113800(WO,A1)
【文献】 特開2013−082702(JP,A)
【文献】 特開2013−071917(JP,A)
【文献】 特表2010−518093(JP,A)
【文献】 特開2005−325102(JP,A)
【文献】 特開平10−017449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)、平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)及び分散剤(C)を含有する象牙細管封鎖材であって、
アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の重量比(A/B)が0.05〜15であり、アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の合計100重量部に対して、分散剤(C)を15〜95重量部含み、かつ象牙細管封鎖材100重量部に対して、アパタイト粒子(A)、フィラー(B)及び分散剤(C)の合計が85重量部以上であることを特徴とする象牙細管封鎖材。
【請求項2】
前記フィラー(B)が、無機フィラー(b)及び/又は有機フィラー(b’)である請求項1記載の象牙細管封鎖材。
【請求項3】
前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)、リンを含まないカルシウム化合物(b3)及びその他の無機フィラー(b4)からなる群から選択される少なくとも1種の無機フィラー(b)である請求項1又は2記載の象牙細管封鎖材。
【請求項4】
前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)の混合物、又は難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物から選択される無機フィラー(b)であり、(b1)と(b2)の総和又は(b2)と(b3)の総和のCa/P比が1.2〜2.0である請求項1〜3のいずれか記載の象牙細管封鎖材。
【請求項5】
前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物を含有する無機フィラー(b)であり、(b1)と(b2)と(b3)の総和のCa/P比が1.5〜3.0である請求項1〜3のいずれか記載の象牙細管封鎖材。
【請求項6】
無機フィラー(b)がその他の無機フィラー(b4)を更に含む請求項4又は5記載の象牙細管封鎖材。
【請求項7】
分散剤(C)が、水及び/又は非水系の液体である請求項1〜6のいずれか記載の象牙細管封鎖材。
【請求項8】
非水系の液体が、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である請求項7記載の象牙細管封鎖材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の象牙細管封鎖材と比較して処理直後の象牙細管の封鎖性、象牙細管封鎖の耐久性、操作性及び貯蔵安定性に優れる象牙細管封鎖材に関する。
【背景技術】
【0002】
冷たい物や熱い物、甘い物や酸っぱい物などを口にしたときに、歯の鋭い電撃的な痛みは、歯の象牙質の神経を刺激することによって生じると考えられている。歯の象牙質は多数の象牙細管によって貫かれており、象牙細管内は組織液で満たされている。この歯の痛みは象牙質が露出している場合、外部からの刺激を受けると象牙細管内の組織液が強制的に移動し、歯髄と象牙質の境界近傍に存在する知覚神経を刺激することにより起こると考えられている。この刺激は象牙細管内組織液を移動させるすべてのものにより生じ、このため、機械的、温度的刺激、甘みや酸味或いは浸透圧の変化を生じる刺激は、いずれも象牙質の痛みを引き起こすことになる。従って、飲食や歯ブラシによるブラッシング、又は運動時などに痛みが引き起こされ、日常生活にかなりの支障をきたすことになる。象牙質知覚過敏症には、歯ブラシによる不適切なブラッシングによる歯の摩耗やう蝕などによるエナメル質やセメント質の欠損に伴う歯頸部知覚過敏症、誤ったブラッシングによる歯肉縮退などによる歯根面部の知覚過敏症がある。最近は、人口構成の高齢化や有髄歯を保存する動きが高まっていることから、歯肉縮体や歯根露出に起因する象牙質知覚過敏が増加する傾向にある。
【0003】
象牙質知覚過敏症に対して現在行われている治療法の多くは、象牙細管内の組織液の移動を阻止することを目的としている。各種材料によって外来刺激を遮断する方法としては、例えば、(1)露出した象牙質の表面をレジン材料やグラスアイオノマーセメントにより機械的に被覆する方法、(2)シュウ酸を用い、象牙質のカルシウムと反応し得られる生成物により細管を封鎖する方法、(3)細管内のタンパク質をグルタルアルデヒドにより凝固させ、細管を封鎖するといった方法などがある。
【0004】
しかしながら、上記従来技術では材料自体のpHが低い、または毒性が高く歯肉縁下や歯間部に対し安心して処理できないといった問題があった。また、口腔内環境において象牙細管の封鎖が維持されず効果が持続しないといった問題があった。これらの課題を解決するために、近年リン酸カルシウムを用いた以下のような技術が開示されている。
【0005】
特許文献1には、ハイドロキシアパタイト、あるいはリン酸三カルシウムの粒子径が1.0μm〜5.0μmである粒状物を用いることにより象牙質知覚過敏症を予防および治療できる知覚過敏症用組成物が記載されている。しかしながら、粒子径が1.0μm〜5.0μmのリン酸カルシウムは、直径2〜3μmの象牙細管内に物理的に入った直後に粒子間に空隙が生じてしまうため、象牙細管内を緻密に封鎖することはできず、また持続的な象牙細管の封鎖を得ることはできないという問題があった。
【0006】
特許文献2には、900nm以下のリン酸カルシウム粒子を配合することを特徴とする象牙細管封鎖材が記載されている。これによれば、確実に象牙細管の内部に充填した後に象牙細管の内部に充填されたリン酸カルシウム粒子が核となり、再石灰化を促進させることができるとされている。しかしながら、900nm以下の小さなリン酸カルシウム粒子を用いるのみでは、口腔内環境下での石灰化よりも、比表面積が大きい粒子そのものの溶解が進行しやすく、初期の物理的封鎖が確実になされないばかりか、封鎖した後に封鎖物がうがいや飲食等の物理的刺激によって脱離してしまうという問題があった。
【0007】
特許文献3には、リン酸四カルシウム粒子及びリン酸のアルカリ金属塩から成る材と水を含有する材とを混合し、ハイドロキシアパタイトに転化することを特徴とする2材型の象牙細管封鎖材が記載されている。当該封鎖材は象牙細管の深部にまでハイドロキシアパタイトを析出して象牙細管を緻密に封鎖することが可能であるものの術者への要時調製の手間、あるいは1材型にした場合の貯蔵安定性を改善する余地があった。
【0008】
特許文献4には、難溶性リン酸カルシウム粒子及びリンを含まないカルシウム化合物から成る材と水を含有する材とを混合することで、ハイドロキシアパタイトへ徐々に転化する2材型の象牙細管封鎖材が記載されている。当該封鎖材は処理直後の象牙細管封鎖性に優れ、なおかつ象牙細管封鎖の耐久性にも優れるものの術者への要時調製の手間、あるいは1材型にした場合の貯蔵安定性を改善する余地があった。
【0009】
上記特許文献に記載されているように、初期の象牙細管封鎖性が十分でないものや象牙細管封鎖の耐久性に課題を有するもの、更には要時調製が必要となったり1材型とした場合の貯蔵安定性について改善する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−17449号公報
【特許文献2】特開2005−325102号公報
【特許文献3】WO2010/113800号
【特許文献4】WO2012/046667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、処理直後の象牙細管封鎖性、象牙細管封鎖の耐久性、操作性及び貯蔵安定性に優れる象牙細管封鎖材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)、平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)及び分散剤(C)を含有する象牙細管封鎖材であって、アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の重量比(A/B)が0.05〜15であり、アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の合計100重量部に対して、分散剤(C)を15〜95重量部含み、かつ象牙細管封鎖材100重量部に対して、アパタイト粒子(A)、フィラー(B)及び分散剤(C)の合計が85重量部以上であることを特徴とする象牙細管封鎖材を提供することによって解決される。
【0013】
このとき、前記フィラー(B)が、無機フィラー(b)及び/又は有機フィラー(b’)であることが好適である。前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)、リンを含まないカルシウム化合物(b3)及びその他の無機フィラー(b4)からなる群から選択される少なくとも1種の無機フィラー(b)であることが好適である。
【0014】
また、このとき、前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)の混合物、又は難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物から選択される無機フィラー(b)であり、(b1)と(b2)の総和又は(b2)と(b3)の総和のCa/P比が1.2〜2.0であることが好適である。
【0015】
また、このとき、前記フィラー(B)が、塩基性のリン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性のリン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物を含有する無機フィラー(b)であり、(b1)と(b2)と(b3)の総和のCa/P比が1.5〜3.0であることが好適である。
【0016】
また、このとき、無機フィラー(b)がその他の無機フィラー(b4)を更に含むことが好適であり、分散剤(C)が、水及び/又は非水系の液体であることが好適である。非水系の液体が、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種であることも好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、処理直後の象牙細管封鎖性、象牙細管封鎖の耐久性、操作性及び貯蔵安定性に優れる象牙細管封鎖材が提供される。特に、貯蔵安定性に優れていることから、医療現場で調製する必要がなく1材型の象牙細管封鎖材としての使用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の象牙細管封鎖材は、平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)、平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)及び分散剤(C)を含有するものである。本発明者らによって、分散剤(C)中に平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)、及び平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)をある一定の配合比率にすることで処理直後の象牙細管封鎖性及びその効果が持続されることが明らかとなった。この作用機序は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0019】
本発明で用いられる平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)は、処理直後において表層から深さ数μmの象牙細管内に物理的に侵入することができ、この細管容積の大部分を埋めることができるものと考えられる。更にこの系に平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)を加えて存在させることにより、粒子間の空隙を効率よく埋めることが可能となり、結果として処理直後の象牙細管を緻密な封鎖物で確実に封鎖することができるようである。また、平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)は、歯質の主要構成成分であるハイドロキシアパタイトに対して過飽和状態のカルシウムイオンやリン酸イオンを含む細管内液や唾液と接触する際に、結晶成長し細管内の石灰化を促す核となるようである。更に、結晶成長した石灰化物は象牙細管壁や周辺象牙質をも石灰化し、最終的には象牙質と一体化するようであり、この細管封鎖物は、歯髄から歯質表面に向って歯髄内液が流れ出ようとする圧力である「歯髄内圧」の存在下においても崩壊、脱離するどころか、歯髄内液をも利用して封鎖物をより石灰化していくようである。直径1〜2μmの象牙細管に対し、同等、又はそれ以上の平均粒子径を有する、平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)によって象牙質表層部における細管内を効率よく封鎖し、これらの粒子間空隙を埋めるとともにそれ自身が周囲の環境によって結晶成長し石灰化を促進するところに本発明の構成を採用する意義がある。
【0020】
本発明の象牙細管封鎖材は、平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)が用いられる。アパタイト粒子(A)の平均粒子径が500nmを超える場合、象牙細管内における平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)の粒子間の空隙を効率よく埋めることができず、更には、比表面積が大きくなり結晶成長の核となりにくいおそれがある。アパタイト粒子(A)の平均粒子径は300nm以下であることがより好ましく、特に200nm以下であることが好ましい。一方、アパタイト粒子(A)の平均粒子径は10nm以上であることが好ましい。アパタイト粒子(A)の平均粒子径が10nm未満の場合、得られる象牙細管封鎖材の粘度が著しく上昇し、ベタつきのあるペースト性状となり操作性が低下するおそれがある。アパタイト粒子(A)の平均粒子径は、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましい。ここで、本発明で使用するアパタイト粒子(A)の平均粒子径とは、電子顕微鏡観察により測定し、算出したものである。
【0021】
電子顕微鏡観察は、例えば、粒子の透過型電子顕微鏡(日立製作所製、H−800NA型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(100個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0022】
本発明で用いられる平均粒子径が500nm以下のアパタイト粒子(A)としては特に限定されないが、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO(OH)]、炭酸アパタイト[Ca10(POCO]、フルオロアパタイト[Ca10(PO]、塩素アパタイト[Ca10(POCl]からなる群から選択される1つ又は2つ以上から選択されることが好ましい。これらの中でもハイドロキシアパタイト[Ca10(PO(OH)]、炭酸アパタイト[Ca10(POCO]及びフルオロアパタイト[Ca10(PO]からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用され、特に、歯質の主要構成成分である点、及び象牙細管内でのハイドロキシアパタイトの結晶成長の観点から、ハイドロキシアパタイト[Ca10(PO(OH)]が更に好適に使用される。
【0023】
本発明で用いられるアパタイト粒子(A)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいし、市販品を更に粉砕しても良い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、アパタイト粒子(A)をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりアパタイト粒子(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
【0024】
本発明の象牙細管封鎖材は、平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)が用いられる。フィラー(B)の平均粒子径が1μm未満の場合、象牙細管内を効率良く封鎖することができないおそれがあり、処理直後の象牙細管封鎖率が低下するおそれがあり、1.5μm以上が好ましい。一方、フィラー(B)の平均粒子径が10μmを超える場合、象牙細管内に粒子が入り込めないおそれがあり、8μm以下がより好ましく、6μm以下が特に好ましい。ここで、本発明に使用するフィラー(B)の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いてレーザー回折散乱法により測定し、算出したものである。
【0025】
レーザー回折散乱法は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100、島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
【0026】
本発明で用いられる平均粒子径が1〜10μmであるフィラー(B)としては特に限定されないが、無機フィラー(b)及び/又は有機フィラー(b’)であることが好ましい。中でも、象牙細管封鎖の耐久性の観点からは、フィラー(B)が無機フィラー(b)のみから構成されることがより好ましい。無機フィラー(b)としては象牙細管封鎖の耐久性の観点から、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)、リンを含まないカルシウム化合物(b3)、及びその他の無機フィラー(b4)からなる群から選択される少なくとも1種の無機フィラー(b)が好ましい。中でも、無機フィラー(b)としては、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)の混合物、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)及びリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)及びその他の無機フィラー(b4)の混合物、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)、リンを含まないカルシウム化合物(b3)及びその他の無機フィラー(b4)の混合物からなる群から選択される1種であることがより好ましい。処理直後の象牙細管封鎖性及び象牙細管封鎖の耐久性の観点から、無機フィラー(b)が、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)及びリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物であることが最も好ましい。
【0027】
本発明で用いられる有機フィラー(b’)としては、ポリカーボネート、ポリエポキシド、メラミン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体からなる群から選択される1種類以上からなることが好ましい。
【0028】
本発明で用いられる有機フィラー(b’)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいし、市販品を更に粉砕しても良い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。
【0029】
本発明で用いられる塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)としては特に限定されないが、リン酸四カルシウム[Ca(POO]粒子、リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子、及びアパタイト粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、特に処理直後の象牙細管封鎖性及び象牙細管封鎖の耐久性の観点から、リン酸四カルシウム[Ca(POO]粒子、及びアパタイト粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。リン酸四カルシウム[Ca(POO]粒子が更により好適に使用される。
【0030】
本発明で用いられる難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)としては特に限定されないが、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子(以下、DCPAと略記することがある)、リン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(HPO]粒子、非晶性リン酸カルシウム[Ca(PO・xHO]粒子、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH]粒子、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(HPO・HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子、リン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子及び無水リン酸二水素カルシウム[Ca(HPO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用され、特に処理直後の象牙細管封鎖性及び象牙細管封鎖の耐久性の観点から無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子及びリン酸三カルシウム[Ca(PO]からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。リン酸三カルシウム[Ca(PO]粒子の中でもα−リン酸三カルシウム[α−Ca(PO]粒子(以下、α−TCPと略記することがある)が好適に使用される。
【0031】
本発明で用いられるリンを含まないカルシウム化合物(b3)としては特に限定されないが、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]、酢酸カルシウム[Ca(CHCO・nHO]、乳酸カルシウム[C10CaO]、クエン酸カルシウム[Ca(C・nHO]、メタケイ酸カルシウム[CaSiO]、ケイ酸二カルシウム[CaSiO]、ケイ酸三カルシウム[CaSiO]、及び炭酸カルシウム[CaCO]等が挙げられ、これらのうちの1つ又は2つ以上が好適に用いられる。処理直後の象牙細管封鎖性及び象牙細管封鎖の耐久性の観点から、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、及びケイ酸三カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、水酸化カルシウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種がさらに好適に使用される。
【0032】
本発明においてその他の無機フィラー(b4)とは、上記(b1)、(b2)及び(b3)以外の無機フィラーである。本発明で用いられるその他の無機フィラー(b4)としては特に限定されないが、石英、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられ、これらのうちの1つ又は2つ以上が好適に用いられる。中でもバリウムガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、シリカ、及びジルコニアからなる群から選択される少なくとも1種がより好適に用いられる。
【0033】
本発明において、無機フィラー(b)として用いられる、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)、リンを含まないカルシウム化合物(b3)及びその他の無機フィラー(b4)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいし、市販品を更に粉砕しても良い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、無機フィラー(b)をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより無機フィラー(b)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
【0034】
本発明において、無機フィラー(B)が、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)と難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)の混合物、又は難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)とリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物から選択される無機フィラー(b)である場合、(b1)と(b2)の総和、又は(b2)と(b3)の総和のCa/P比は1.2〜2.0であることが好ましく、1.3〜1.8であることがより好ましく、特に1.5〜1.7であることが好ましい。また、無機フィラー(B)が、塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)、難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)及びリンを含まないカルシウム化合物(b3)の混合物を含有する無機フィラー(b)である場合は、(b1)と(b2)と(b3)の総和のCa/P比が1.5〜3.0であることが好ましく、1.6〜2.9であることがより好ましく、特に1.7〜2.8であることが好ましい。このことにより、処理直後の象牙細管封鎖性及び象牙細管封鎖の耐久性に優れる本発明の1材型の象牙細管封鎖材を得ることができる。また、上記無機フィラー(b)に、その他の無機フィラー(b4)が更に含まれていることが本発明の好適な実施態様である。
【0035】
本発明で用いられる分散剤(C)としては特に限定されないが、水及び/又は非水系の液体であることが好ましい。非水系の液体としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル、エタノ−ル、メタノ−ル等の一価アルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコールが挙げられ、ポリエーテル、一価アルコール及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である非水系の液体であることが好ましい。特に、操作性の観点から、水、ポリエーテル、及び多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、水、グリセリン及びポリエチレングリコールの群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、グリセリン及び/又はポリエチレングリコールであることが最も好ましい。
【0036】
本発明の象牙細管封鎖材は、アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の合計100重量部に対して、分散剤(C)を15〜95重量部含む。分散剤(C)の配合量が15重量部未満の場合、ペーストを形成できないおそれがあり、20重量部以上が好ましく、25重量部以上がより好ましい。一方、分散剤(C)の配合量が95重量部を超える場合、象牙細管を十分に封鎖できないおそれがあり、90重量部以下が好ましく、85重量部以下がより好ましい。
【0037】
本発明の象牙細管封鎖材において、アパタイト粒子(A)及びフィラー(B)の重量比(A/B)は0.05〜15である。重量比(A/B)が0.05未満である場合、象牙細管内に充填されたフィラー(B)の粒子間の空隙を十分に埋めるだけのアパタイト粒子(A)が確保できず、初期の象牙細管封鎖性が悪くなる恐れがある。更に象牙細管内においてハイドロキシアパタイトが結晶成長するだけの十分な量が確保できず、象牙細管封鎖の耐久性が低下する恐れがある。重量比(A/B)は、0.3以上が好ましく、特に0.5以上が好ましい。一方、重量比(A/B)が15を超える場合、処理直後に効率よくフィラー(B)が象牙細管内に充填されず、処理直後の象牙細管封鎖性が低下する恐れがある。更に、比表面積が大きいアパタイト粒子(A)が多くなり、封鎖物そのものの溶解が進行しやすく、初期の象牙細管封鎖性が低下する、又は処理した後に封鎖物がうがいや飲食等の物理的刺激によって脱離してしまうなどといった象牙細管封鎖の耐久性を低下させるおそれがある。重量比(A/B)は、3以下がより好ましく、特に2以下が好ましい。
【0038】
本発明の象牙細管封鎖材において、アパタイト粒子(A)、フィラー(B)及び分散剤(C)の合計は、象牙細管封鎖材100重量部に対して85重量部以上である。アパタイト粒子(A)、フィラー(B)及び分散剤(C)の合計が85重量部未満の場合、象牙細管を十分に封鎖できない恐れがあり、90重量部以上が好ましく、さらに95重量部以上がより好ましい。
【0039】
本発明の象牙細管封鎖材は、必要に応じてフッ素化合物を含んでも良い。このことにより、封鎖物の耐酸性を向上させることが可能となる。本発明で用いられるフッ素化合物としては特に限定されず、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類、フッ化ジアミン銀などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。中でも安全性の観点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズが好適に用いられる。
【0040】
本発明で用いられるフッ素化合物の使用量は特に限定されず、象牙細管封鎖材の全量100重量部に対してフッ素化合物の換算フッ化物イオンを0.01〜10重量部含むことが好ましい。フッ素化合物の換算フッ化物イオンの使用量が0.01重量部未満の場合、封鎖物の耐酸性が低くなるおそれがあり、0.05重量部以上であることがより好ましい。一方、フッ素化合物の換算フッ化物イオンの使用量が10重量部を超える場合、安全性が損なわれるおそれがあり、5重量部以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明の象牙細管封鎖材は、必要に応じて増粘剤を含んでも良い。これはペーストの粘度を調節し、術者が取り扱いやすいペースト性状に調節することができるからである。増粘剤の例としては、ヒュームドシリカ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリLリジン、ポリLリジン塩、セルロース以外のデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラジーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル、またコラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体などのタンパク質類等の高分子などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。特に、所望のペースト性状が得られやすいことより、ヒュームドシリカが好ましく用いられる。
【0042】
本発明で用いられる増粘剤の使用量は特に限定されず、象牙細管封鎖材の全量100重量部に対して増粘剤を0.01〜10重量部含むことが好ましい。増粘剤の使用量が0.01重量部未満の場合、ペーストの流動性が高くなり操作しづらくなるおそれがあり、0.05重量部以上であることがより好ましい。一方、増粘剤の使用量が10重量部を超える場合、ペーストの流動性が低くなり操作しづらくなるおそれがあり、8重量部以下であることがより好ましい。
【0043】
本発明の象牙細管封鎖材は、必要に応じて薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。薬剤の例としては、セチルピリジニウムクロリド、安息香酸ナトリウム、メチルパラペン、パラオキシ安息香酸エステル、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等に代表される抗菌剤、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
【0044】
本発明の象牙細管封鎖材は、必要に応じて甘味料を配合することができる。甘味料の例としては、サッカリンナトリウム、キシリトール、ステビオサイド、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。
【0045】
本発明の象牙細管封鎖材は、必要に応じて香料を配合することができる。香料の例としては、メントール、オレンジ油、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、ユーカリ油、サリチル酸メチルなどから選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。
【0046】
本発明の象牙細管封鎖材は、処理直後の象牙細管封鎖性、象牙細管封鎖の耐久性、操作性及び貯蔵安定性に優れたものである。特に、貯蔵安定性に優れていることから、医療現場で調製する必要がなく1材型の象牙細管封鎖材としての使用が可能となる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。本実施例において、アパタイト粒子、及びフィラー(B)の平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒子径とした。
【0048】
[アパタイト粒子の調製]
(a)ハイドロキシアパタイト粒子(A):平均粒子径40nm
ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径40nmは、市販のハイドロキシアパタイト粒子(SHAp、株式会社ソフセラ製、球状)をそのまま使用した。
【0049】
(b)ハイドロキシアパタイト粒子(A):平均粒子径150nm
ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径150nmは、市販のハイドロキシアパタイト粒子(SHAp、株式会社ソフセラ製、ロッド状)をそのまま使用した。
【0050】
(c)ハイドロキシアパタイト粒子(A):平均粒子径400nm
ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径400nmは、市販のハイドロキシアパタイト粒子(HAP−200、太平化学産業株式会社製、平均粒子径5〜20μm)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0051】
[フィラー(B)の調製]
(1)塩基性リン酸カルシウム粒子(b1)の調製
(a)リン酸四カルシウム(TTCP)粒子:平均粒子径2μm
リン酸四カルシウム(TTCP)粒子:平均粒子径2μmは、市販のリン酸四カルシウム粒子(TTCP、太平化学産業株式会社製)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0052】
(b)ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径2μm
ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径2μmは、市販のハイドロキシアパタイト粒子(HAP−200、太平化学産業株式会社製、平均粒子径5〜20μm)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0053】
(c)ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径10μm
ハイドロキシアパタイト粒子:平均粒子径10μmは、市販のハイドロキシアパタイト粒子(HAP−200、太平化学産業株式会社製、平均粒子径5〜20μm)をそのまま使用した。
【0054】
(2)難溶性リン酸カルシウム粒子(b2)の調製
本実施例で使用する無水リン酸一水素カルシウム(DCPA)粒子(b2)は、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)を、以下示す方法によって粉砕することで得た。
【0055】
(a)無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径1μm
無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径1μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で48時間湿式粉砕を行なうことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で24時間真空乾燥することで得た。
【0056】
(b)無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径2μm
無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径2μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で36時間湿式粉砕を行うことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で12時間真空乾燥することで得た。
【0057】
(c)無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径8μm
無水リン酸一水素カルシウム粒子(b2):平均粒子径8μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で20時間湿式粉砕を行うことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で12時間真空乾燥することで得た。
【0058】
(d)無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒子径20μm
無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒子径20μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)をそのまま使用した。
【0059】
(e)無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒子径0.5μm
無水リン酸一水素カルシウム粒子:平均粒子径0.5μmは、市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(日本薬局方、太平化学産業株式会社製、平均粒子径20μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)を120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え120rpmの回転速度で48時間湿式粉砕を行うことで得られたスラリーをロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で12時間真空乾燥することで得た。
【0060】
(f)リン酸三カルシウム粒子(b2):平均粒子径2μm
リン酸三カルシウム(α−TCP)粒子(b2):平均粒子径2μmは、市販のα−リン酸三カルシウム(太平化学産業株式会社製)をそのまま使用した。
【0061】
(3)リンを含まないカルシウム化合物(b3)の調製
(a)炭酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μm
炭酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μmは、市販の炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、矢橋工業株式会社製)をそのまま使用した。
【0062】
(b)水酸化カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μm
水酸化カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μmは、市販の水酸化カルシウム粒子(河合石灰工業株式会社製、平均粒子径:14.5μm)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol、Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mIのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で7時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
【0063】
(c)ケイ酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μm
ケイ酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径2μmは、市販のケイ酸カルシウム粒子(和光純薬工業株式会社製)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol、Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mIのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で24時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
【0064】
(d)炭酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径:2.6μm
炭酸カルシウム粒子(b3):平均粒子径:2.6μmは、矢橋工業社製品をそのまま使用した。
【0065】
(4)その他無機フィラー(b4)の調製
(a)Baガラス粒子(b4):平均粒子径2μm
Baガラス粒子(b4):平均粒子径2μmは、市販のBaガラス粒子(G018−186、SCHOTT社製)をそのまま使用した。
【0066】
(b)フルオロアルミノシリケートガラス粒子(b4):平均粒子径2μm
フルオロアルミノシリケート(FAS)ガラス粒子(b4):平均粒子径2μmは、市販のフルオロアルミノシリケートガラス粒子(G018−117、SCHOTT社製)をそのまま使用した。
【0067】
(c)ジルコニア粒子(b4):平均粒子径2μm
ジルコニア粒子(b4):平均粒子径2μmは、市販のジルコニア粒子(添川理化学株式会社)をそのまま使用した。
【0068】
(5)有機フィラー(b’)の調製
メラミン樹脂粒子(b’):平均粒子径2μmは、市販のメラミン樹脂(エポスター、株式会社日本触媒製)をそのまま使用した。
【0069】
[分散剤(C)の調製]
分子量の異なる2種類のポリエチレングリコール(マクロゴール400、マクロゴール4000、三洋化成工業株式会社製)、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)、水(日本薬局方精製水、高杉製薬株式会社製)は、それぞれ市販品をそのまま使用した。
【0070】
[フッ素化合物、増粘剤の調製]
フッ素化合物であるフッ化ナトリウム(NaF)は、市販のフッ化ナトリウム(ふっ化ナトリウム、和光純薬工業株式会社製)をそのまま使用し、増粘剤である2種類のヒュームドシリカ(Ar−130、Ar−380、日本アエロジル株式会社製)も市販品をそのまま使用した。
【0071】
[象牙細管封鎖材の調製]
実施例1〜103、比較例1〜15
表1〜7に示した組成で象牙細管封鎖材の全量が20gとなるようにメノウ乳鉢上で秤量し、メノウ製の乳棒を用いて5分間練和することにより象牙細管封鎖材を調製した。このとき、混合前と混合後におけるハイドロキシアパタイト粒子、フィラー(B)、フッ化ナトリウム、ヒュームドシリカの平均粒子径は実質的に変化していない。
【0072】
[操作性評価]
上記調製により得られた象牙細管封鎖材について、操作性を評価した。操作性の評価基準は下記の通りである。
A:やわらかいペースト状であり、後述するラバーカップを用いた方法で象牙質にペースト状としてこすり込むことが容易である。さらに水洗によりペーストを洗い流すことができる。
B:固めのペースト状であり、後述するラバーカップを用いた方法で象牙質にペースト状としてこすり込むことが可能である。さらに水洗によりペーストを洗い流すことができる。
C:象牙細管封鎖材の粘度が高く、後述するラバーカップを用いた方法で象牙質にペースト状としてこすり込むことが困難である。
なお、A及びBのペースト性状が好ましく用いられる。
【0073】
[貯蔵安定性評価]
上記調製により得られた象牙細管封鎖材のうち5gをガラス製のスクリューバイアルに分取し、37℃で24時間静置させた。24時間後にガラス製のスクリューバイアル中で硬化している場合は、貯蔵安定性をBとし、硬化しておらず、ペーストの状態を維持している場合は、貯蔵安定性をAとした。
【0074】
[象牙細管封鎖率の評価]
(1)象牙細管封鎖率評価用牛歯の調製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨してトリミングし、頬側象牙質が露出した厚さ2mmの象牙質板を作製した。この頬側象牙質面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この頬側象牙質部分に鉛筆(2B、三菱鉛筆株式会社)で線を引くことにより歯の縦方向に14mm、歯の横方向に8mmの試験部分の窓(以下、「象牙質窓」と呼ぶことがある)を作製し、さらに試験部分の窓を上下に分割するために、歯の横方向にも線を引いた(以下、上部の窓及び下部の窓を、それぞれ「象牙細管封鎖未処理表面」及び「象牙細管封鎖処理表面」と呼ぶことがある)。この牛歯に対して、0.5MのEDTA溶液(和光製薬製)を5倍に希釈した溶液を30秒間象牙質窓に作用させ脱灰を行った後、30分以上水洗することで象牙細管封鎖率評価に用いる牛歯を調製した。
【0075】
(2)象牙細管封鎖率(初期)評価用のサンプル調製
上記象牙細管封鎖処理表面に対して、表1〜7に示す組成のペースト状の象牙細管封鎖材0.1gをPMTC用コードレスハンドピース(メルサージュプロ、株式会社松風)、及びラバーカップ(メルサージュカップ No.12、株式会社松風)を用い、1500rpmの回転数で30秒間こすり込んだ。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去した。上記処理後、牛歯サンプルをプラスチックバイアルに投入し、1時間減圧処理したサンプルを象牙細管封鎖率(初期)評価用サンプルとした。
【0076】
(3)人工唾液の調製
塩化ナトリウム(8.77g、150mmol)、リン酸二水素一カリウム(122mg、0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg、1.5mmol)、Hepes(4.77g、20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに攪拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、人工唾液1000mlを得た。
【0077】
(4)象牙細管封鎖率(人工唾液浸漬後)評価用のサンプル調製
上記象牙細管封鎖処理表面に対して、表1〜7に示す組成のペースト状の象牙細管封鎖材0.1gをPMTC用コードレスハンドピース(メルサージュプロ、株式会社松風)、及びラバーカップ(メルサージュカップ No.12、株式会社松風)を用い、1500rpmの回転数で30秒間こすり込んだ。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、上記(3)で得られた人工唾液中に1ヶ月浸漬した。上記処理後、牛歯サンプルをプラスチックバイアルに投入し、1時間減圧処理したサンプルを象牙細管封鎖率(人工唾液浸漬後)評価用サンプルとした。
【0078】
(5)SEM観察
SEM観察には電子顕微鏡(S−3500N、株式会社日立ハイテクフィールディング製)を使用した。上記(2)及び(4)で得たサンプルについて加速電圧は15kVの条件で、象牙細管封鎖未処理表面、及び象牙細管封鎖処理表面の形態を観察し、3000倍の倍率で象牙細管封鎖未処理表面の象牙細管に封鎖物が観察されないことを確認した後、象牙細管封鎖処理表面について3枚の写真を撮影した。得られた写真3枚についてそれぞれ象牙細管の全数、及び封鎖された象牙細管の数を目視で数え、下記に示す式によって象牙細管封鎖率を算出した。
象牙細管封鎖率(%)=[(封鎖された象牙細管の数)/(象牙細管の全数)]×100
【0079】
(6)象牙細管封鎖率の向上幅
象牙細管封鎖率(人工唾液浸漬後)から、象牙細管封鎖率(初期)を引いたものを象牙細管封鎖率の向上幅とした。
【0080】
[象牙質透過抑制率評価]
(1)象牙質透過抑制率評価用牛歯の調製
健全牛歯切歯の頬側象牙質から#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機によりトリミングし、直径約1.5cm、厚さ0.9mmの牛歯ディスクを作製した。この牛歯ディスク表面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、厚さ0.7mmまで研磨し、平滑とした。この牛歯ディスクを、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)を5倍に希釈した溶液に180秒間浸漬し、約30秒間蒸留水中で洗浄した後、約30分間蒸留水で洗浄することで象牙質透過抑制率評価に用いる牛歯ディスクを調製した。
【0081】
(2)象牙質透過抑制率(初期)評価用のサンプルの調製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、表1〜7に示す組成のペースト状の象牙細管封鎖材0.1gをPMTC用コードレスハンドピース(メルサージュプロ、株式会社松風)、及びラバーカップ(メルサージュカップ No.12、株式会社松風)を用い、1500rpmの回転数で30秒間こすり込んだ。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、直ちに象牙質透過抑制率(初期)評価試験を実施した(n=5)。
【0082】
(3)象牙質透過抑制率(長期)評価用のサンプルの調製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、表1〜7に示す組成のペースト状の象牙細管封鎖材0.1gをPMTC用コードレスハンドピース(メルサージュプロ、株式会社松風)、及びラバーカップ(メルサージュカップ No.12、株式会社松風)を用い、1500rpmの回転数で30秒間こすり込んだ。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、[象牙細管封鎖率の評価]の上記(3)で得られた人工唾液中に1ヶ月浸漬した後、象牙質透過抑制率(長期)評価試験を実施した(n=5)。
【0083】
(4)象牙質透過抑制率評価試験
象牙質透過抑制率の測定には、Pashleyらの方法(D.H.PASHLEY et al.,J.Dent.Res.65:417−420,1986.;K.C.Y.TAY et al.,J.Endod.33:1438−1443,2007.)に準じる方法を用いて実施した。同様の装置を設置し、上記で得た象牙細管封鎖処置を行った牛歯ディスクを歯髄からエナメル質の方向に液が透過する様に分割可能なチャンバー治具中に設置、固定した。Phosphate−buffered saline(Dulbecco’s PBS, Grand Island Biological Company, Grand Island, NY)の圧力を加える象牙質表面は、Oリングを用いて表面積を78.5mm(直径5mm)に規格化し、10psi(69kPa)で加圧し、24時間経過した際の透過量を測定した。また、同様の操作で上記の象牙細管封鎖処置を行う前の同一の牛歯ディスクの透過量測定結果から、下記式を用いて象牙質透過抑制率を算出した。
象牙質透過抑制率(%)=[1−(象牙細管を封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100
【0084】
(5)象牙質透過抑制率の向上幅
象牙質透過抑制率(長期)から象牙質透過抑制率(初期)を引いたものを透過抑制率の向上幅とした。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】