特許第6303199号(P6303199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.の特許一覧

特許6303199薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維
<>
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000010
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000011
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000012
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000013
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000014
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000015
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000016
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000017
  • 特許6303199-薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303199
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】薬物送達のためのポリエステルアミドコポリマーを含む繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/82 20060101AFI20180326BHJP
   C08G 69/44 20060101ALI20180326BHJP
   A61K 47/34 20170101ALN20180326BHJP
   A61K 9/00 20060101ALN20180326BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20180326BHJP
【FI】
   D01F6/82ZBP
   C08G69/44
   !A61K47/34
   !A61K9/00
   !A61P27/02
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-538442(P2015-538442)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公表番号】特表2016-502608(P2016-502608A)
(43)【公表日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】EP2013072274
(87)【国際公開番号】WO2014064196
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年9月21日
(31)【優先権主張番号】12189803.5
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/717,806
(32)【優先日】2012年10月24日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13166874.1
(32)【優先日】2013年5月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ギッリッセン‐ファン デル ハイト, ミリアン ヘンドリカ ヤコバ
(72)【発明者】
【氏名】シエス, イェンス クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ミホフ, ジョージ
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−520118(JP,A)
【文献】 特表2009−545516(JP,A)
【文献】 特表2008−518666(JP,A)
【文献】 特表2009−508969(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0077272(US,A1)
【文献】 特表2009−518289(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0134332(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/045443(WO,A1)
【文献】 特表2004−507600(JP,A)
【文献】 国際公開第02/018477(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/518666(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D01D 1/00−13/02
D04H 1/00−18/04
C08G 69/00−69/50
A61K 9/00−9/72
47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(IV)
【化1】

による生分解性ポリ(エステルアミド)ランダムコポリマー(PEA)を含む繊維であって、
式(IV)中、
m+pは0.9〜0.1であり、かつqは0.1〜0.9であり、
m+p+q=1であり、ただしmまたはpは0であることができ、
nは5〜300であり、
m単位、p単位、a単位およびb単位は、それぞれランダムに分布し、
は独立して、(C〜C20)アルキレンまたは(C〜C20)アルケニレンおよびその組み合わせからなる群から選択され、
単一主鎖単位mまたはpにおけるRおよびRはそれぞれ独立して、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール、−(CH)SH、−(CHS(CH)、−CHOH、−CH(OH)CH、−(CHNH、−(CHNHC(=NH)NH、−CHCOOH、−CH−CO−NH、−CHCH−CO−NH、−CHCHCOOH、CH−CH−CH(CH)−、(CH−CH−CH−、HN−(CH−、Ph−CH−、CH=CH−CH−、HO−p−Ph−CH−、(CH−CH−、Ph−NH−、NH−(CH−CH−、NH−CH=N−CH=CH−CH−からなる群から選択され、
は、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、アルキレンオキシまたはオリゴエチレングリコールからなる群から選択され、
は、以下の構造式(III)
【化2】

の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、シクロアルキル断片、芳香族断片または複素環式断片から選択され、
は、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキルからなる群から選択され、
は−(CH−であり、
ただしaは少なくとも0.05であり、bは少なくとも0.05であり、かつa+b=1である、繊維。
【請求項2】
aが少なくとも0.5である、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
aが少なくとも0.75である、請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
p=0およびm+q=1であり、m=0.75であり、aは0.5であり、かつa+b=1であり、
は−(CH−であり、Rは(CH−CH−CH−であり、Rはヘキシルであり、Rはベンジルであり、Rは−(CH−である、請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
m+p+q=1であり、q=0.25であり、p=0.45であり、かつm=0.3であり、aは0.5であり、かつa+b=1であり、
は−(CH−であり、RおよびRはそれぞれ、(CH−CH−CH−であり、Rは(C〜C20)アルキレンからなる群から選択され、Rはベンジルであり、Rは−(CH−であり、
は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される、請求項1に記載の繊維。
【請求項6】
m+p+q=1であり、q=0.25であり、p=0.45であり、かつm=0.3であり、
aは0.75であり、a+b=1であり、
は−(CH−であり、Rは(CH−CH−CH−であり、Rはベンジルであり、Rは−(CH−であり、
は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される、請求項1に記載の繊維。
【請求項7】
m+p+q=1であり、q=0.1であり、p=0.30であり、かつm=0.6であり、
a=0.5であり、かつa+b=1であり、
は−(CH−であり、RおよびRはそれぞれ、(CH−CH−CH−であり、Rはベンジルであり、Rは−(CH−であり、Rは(C〜C20)アルキレンからなる群から選択され、
は、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片、シクロアルキル断片、芳香族断片または複素環式断片から選択される、請求項1に記載の繊維。
【請求項8】
範囲50〜1000μmの平均直径を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項9】
生理活性物質を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の繊維。
【請求項10】
薬物として使用される、請求項に記載の繊維。
【請求項11】
溶融押出し成形による、請求項1〜9のいずれか一項に記載の繊維を製造する方法。
【請求項12】
射出成形による、請求項1〜9のいずれか一項に記載の繊維を製造する方法。
【請求項13】
前記生理活性物質がプロスタグランジンである、請求項9に記載の繊維。
【請求項14】
ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)とグリコール酸のコポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オキサ−エステル)、ポリ(オキサ−アミド)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(炭酸プロピレン)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(チロシン誘導カーボネート)、ポリ(チロシン誘導アリーレート)、ポリ(チロシン誘導イミノカーボネート)、またはその組み合わせをさらに含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の繊維。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ポリエステルアミドコポリマーを含む繊維に関する。本発明は、医療用途において使用される、特に生理活性物質の送達に使用される繊維にも関する。
【0002】
生分解性ポリエステルアミドは当技術分野で公知であり、特にα−アミノ酸−ジオール−ジエステルベースのポリエステルアミド(PEA)が、G.Tsitlanadze,et al.J.Biomater.Sci.Polym.Edn.(2004)15:1−24から知られている。これらのポリエステルアミドは、様々な物理的性質および機械的性質ならびに生分解性プロファイルを提供し、その合成中に構成単位の3つの要素:天然アミノ酸、したがって疎水性α−アミノ酸、非毒性脂肪酸ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸を変化させることにより、その物理的性質および機械的性質ならびに生分解性プロファイルを調節することができる。
【0003】
国際公開第2002/18477号パンフレットでは具体的には、PEA−Iとさらに呼ばれる、式I
【化1】

(式中、mは0.1〜0.9で異なり;pは0.9〜0.1で異なり;nは50〜約150で異なり;
− Rはそれぞれ独立して、(C〜C20)アルキレンであり;
− Rはそれぞれ独立して、水素または(C〜C10)アリール(C1〜C)アルキルであり;
− Rはそれぞれ独立して、水素、(C1〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、または(C〜C10)アリール(C〜C)アルキルであり;
− Rはそれぞれ独立して、(C〜C20)アルキレンである)
のα−アミノ酸−ジオール−ジエステルベースのポリエステルアミド(PEA)コポリマーが言及されている。PEA−Iは、脂肪族ジカルボン酸およびL−リジンに基づくp単位と共重合される、α−アミノ酸、ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸に基づくm単位を含むランダムコポリマーである。
【0004】
国際公開第2007035938号パンフレットには、ビス−(aアミノ酸)ベースのジオール−ジエステル内に少なくとも2つの直鎖状飽和または不飽和脂肪族ジオール残基を含む、式IIによる他の種類のランダムPEAコポリマーが開示されている。
【化2】

式中、
− mは0.01〜0.99であり;pは0.99〜0.01であり;qは0.99〜0.01であり;かつnは5〜100であり;
− Rは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、−(R−CO−O−R10−O−CO−R)−、−CHR11−O−CO−R12−COOCR11−およびその組み合わせからなる群から独立して選択されることができ;
− 単一コモノマーmまたはpにおけるRおよびRはそれぞれ、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール、(C〜C)アルキル、−(CH)SH、−(CHS(CH)、−CHOH、−CH(OH)CH、−(CHNH+、−−(CHNHC(=NH+)NH、−CHCOOH、−(CH)COOH、−CH−CO−NH、−− −CHCH−CO−NH、−CHCHCOOH、CH−CH−CH(CH)−、(CH−CH−CH−、HN−(CH−、Ph−CH−、CH=C−CH−、HO−p−Ph−CH−、(CH−CH−、Ph−NH−、NH−(CH−C−、NH−CH=N−CH=C−CH−からなる群から独立して選択されることができる。
− Rは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、アルキルオキシまたはオリゴエチレングリコールからなる群から選択されることができ;
− Rは、構造式(III)
【化3】

の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片;1,4−シクロヘキサンジオール誘導体などのシクロアルキル断片、芳香族断片または複素環式断片、例えばヘキソース誘導断片から選択されることができる。
− Rは、水素、(C〜C10)アリール、(C〜C)アルキルまたは保護基、例えばベンジルまたは生理活性物質であることができ;
− Rは独立して、(C〜C20)アルキルまたは(C〜C20)アルケニルであることができ;
− RまたはR10は独立して、C〜C12アルキレンまたはC〜C12アルケニレンから選択されることができる。
− R11またはR12は独立して、H、メチル、C〜C12アルキレンまたはC〜C12アルケニレンから選択されることができる。
【0005】
式(II)のランダムポリエステルアミドコポリマーにおいて、m+p+q=1であり、q=0.25であり、p=0.45であり、ただしRは−(CHであり;主鎖単位mおよびpにおけるRおよびRはロイシンであり、− Rはヘキサンであり、Rは、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片であり;Rはベンジル基であり、Rは−(CH2)4−である場合には、このポリエステルアミドはさらに、PEA−III−Bzと呼ばれる。RがHである場合には、このポリエステルアミドはさらに、PEA−III−Hと呼ばれる。m+p+q=1であり、q=0.25であり、p=0.75であり、かつm=0であり、ただしRは−(CHであり;Rは(CH−CH−CH−であり、Rはベンジルであり、Rは−(CHであり;かつRが、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される場合には、このポリエステルアミドはさらに、PEA−IV−Bzと呼ばれ、RがHである場合には、ポリエステルアミドはさらに、PEA−IV−Hと呼ばれる。
【0006】
ポリエステルアミドは、長時間にわたって特異的かつ一定である制御放出速度にてポリマー中に分散された生理活性物質の生体内放出を促進する。酵素によりPEAポリマーが生体内で分解し、実質的に非炎症性である分解生成物の中でも天然α−アミノ酸が生成されることがさらに開示されている。
【0007】
しかしながら、一部の医療分野では、酵素の代わりに加水分解により分解するポリマー、およびそのポリマーを含む繊維などの薬物送達形態が必要とされている。例えば、眼内への薬物の送達が特に問題である、眼科学においてこれが必要とされている。眼球は2つの房;眼球の前方である前部セグメント、および眼球の後方である後部セグメントに分かれている。眼球の後方の硝子体において、例えば、酵素分解性ポリエステルアミドをベースとする繊維またはロッドが分解しないように、または非常に遅く分解するように、酵素は少ししか存在しないか、または全く存在しない。これら2つの事象のいずれも、繊維の分解性を生体内で損ない、かつ医療用途用の生分解性薬物溶離システムとしての繊維をそれぞれ損なうであろう。
【0008】
したがって、当技術分野において、持続的な期間にわたって生理活性物質の連続的な送達を提供する、生分解性ポリエステルアミドを含む送達システムとしての繊維が依然として必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、繊維の分解に伴う上記の欠点を取り除く生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む繊維を提供することである。
【0010】
本発明の目的は、構造式(IV)
【化4】

による生分解性ポリ(エステルアミド)コポリマー(PEA)を含む繊維を提供することによって達成され、
式中、
− m+pは0.9〜0.1で異なり、かつqは0.1〜0.9で異なり、
− m+p+q=1であり、ただしmまたはpは0であることができ、
− nは約5〜約300であり;
− Rは独立して、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、−(R−CO−O−R10−O−CO−R)−、−CHR11−O−CO−R12−COOCR11−およびその組み合わせからなる群から選択され;
− 単一主鎖単位mまたはpにおけるRおよびRはそれぞれ独立して、水素、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C10)アリール、(C〜C)アルキル、−(CH)SH、−(CHS(CH)、−CHOH、−CH(OH)CH、−(CHNH+、−(CHNHC(=NH+)NH、−CHCOOH、−(CH)COOH、−CH−CO−NH、−CHCH−CO−NH、−CHCHCOOH、CH−CH−CH(CH)−、(CH−CH−CH−、HN−(CH−、Ph−CH−、CH=C−CH−、HO−p−Ph−CH−、(CH−CH−、Ph−NH−、NH−(CH−C−、NH−CH=N−CH=C−CH−からなる群から選択され;
− Rは、(C〜C20)アルキレン、(C〜C20)アルケニレン、アルキルオキシまたはオリゴエチレングリコールからなる群から選択され、
− Rは、構造式(III)
【化5】

の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片;1,4−シクロヘキサンジオール誘導体などのシクロアルキル断片、芳香族断片または複素環式断片、例えばヘキソース誘導断片から選択される。
− Rは、(C〜C10)アリール(C〜C)アルキルからなる群から選択され、
− Rは−(CH−であり;
− RまたはR10は独立して、C〜C12アルキレンまたはC〜C12アルケニレンから選択される。
− R11またはR12は独立して、H、メチル、C〜C12アルキレンまたはC〜C12アルケニレンから選択され、だたしaは少なくとも0.05であり、bは少なくとも0.05であり、かつa+b=1である。
【0011】
意外なことに、L−リジン−HとL−リジン−ベンジルの両方が存在する、式(IV)の生分解性ポリエステルアミドを含む繊維(以降、PEA−H/Bzと呼ばれる)は、放出および分解に関して意外な特性を提供することが見出された。PEA−H/Bzコポリマーを含む繊維は生理活性物質の徐放性を提供し、表面侵食により特定の種類の酵素の存在下でのみ分解する、先行技術で公知のPEAポリマーと対照的に、バルク浸食メカニズムを介して生理学的条件にて加水分解的に分解することが見出されている。
【0012】
本発明によるPEA−H/Bzコポリマーを含む繊維の分解特性は、上記で挙げられるPEA−I、PEA−III、PEA−IVまたはポリエステル、例えばポリ−ラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)またはポリラクチド(PLLA)などの先行技術ポリマーの分解特性と顕著に異なる。PEA−H/Bzコポリマーを含む繊維は主に、バルク浸食メカニズムを介して加水分解的に分解すると思われるのに対して、公知のPEAは主に、酵素分解プロセスを介して、かつ表面浸食メカニズムを介して分解することが見出されている。
【0013】
例えばPLGAおよびPLLA繊維の分解における更なる不利点は、繊維から放出される生理活性物質の安定性に影響を及ぼし、炎症反応のトリガーとなり得ることから、望ましくない、pHの低下を生じることが多いという事実である。PLGA繊維の分解中に、高度に酸性の分解生成物が形成され、その結果pHが低下することはよく知られている。対照的に、PEA−III−H/Bz繊維のpHは、類似の条件下で変化しない。リジン不含カルボン酸基および分解中に生成される酸性種は、ポリエステルアミド鎖に沿って結合切断を触媒するが、最適な生理学的条件を損なわない適切なバランスにあると思われる。実験から、PEA−H/Bzの繊維が著しいpH低下を示さないことが判明した。
【0014】
上記の知見から、式IVのポリエステルアミド(L−リジン−HとL−リジン−ベンジルの両方が特定の比で存在する)を含む繊維は驚くべき特性を提供し、薬物送達における繊維またはロッドの必要性に対してより良く応えることが確認される。
【0015】
本発明の以下の実施形態において、式(IV)中のnは好ましくは、50〜200で異なり、aは少なくとも0.15、さらに好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは0.75、またさらに好ましくは少なくとも0.8であり得る。
【0016】
一実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む繊維は、p=0かつm+q=1を含み、ただしm=0.75であり、a=0.5であり、かつa+b=1であり、Rは(CHであり、Rは−(CH−CH−CH−であり、Rはヘキシルであり、Rはベンジルであり、Rは−(CH−である。このポリエステルアミドは、PEA−I−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0017】
本発明の他の好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む繊維は、m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3を含み、ただしaは0.5であり、かつa+b=1であり、ただしRは−(CHであり;RおよびRはそれぞれ、−(CH−CH−CH−であり、Rは、(C〜C20)アルキレンからなる群から選択され、Rは、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択され;Rはベンジルであり、Rは−(CHである。このポリエステルアミドは、PEA−III−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0018】
本発明の更なる好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリエステルアミドコポリマーを含む繊維は、m+p+q=1、q=0.25、p=0.45およびm=0.3を含み、ただしaは0.75であり、かつa+b=1であり、Rは−(CHであり;Rは(CH−CH−CH−であり、Rはベンジルであり、Rは−(CH−であり、Rは、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される。このポリエステルアミドは、PEA−III−H/Bz25%Hと呼ばれる。
【0019】
本発明の更なる好ましい実施形態において、式(IV)による生分解性ポリ(エステルアミド)コポリマーを含む繊維は、m+p+q=1、q=0.1、p=0.30およびm=0.6を含み、ただしaは0.5であり、かつa+b=1である。Rは、−(CHであり;RおよびRはそれぞれ、(CH−CH−CH−であり、Rは、(C〜C20)アルキレンからなる群から選択され、Rはベンジルであり、Rは−(CH−であり、Rは、構造式(III)の1,4:3,6−ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片から選択される。このポリエステルアミドは、PEA−II−H/Bz50%Hと呼ばれる。
【0020】
本明細書で使用される、「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、n−ヘキシル等の一価直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。
【0021】
本明細書で使用される、「アルキレン」という用語は、−CH2−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、−(CH2)4−、−(CH2)5−等の二価分岐状または未分岐炭化水素鎖を意味する。
【0022】
本明細書で使用される、「アルケニル」という用語は、主鎖または側鎖において少なくとも1つの不飽和結合を含有する一価直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。
【0023】
本明細書で使用される、「アルケニレン」とは、主鎖または側鎖において少なくとも1つの不飽和結合を含有する二価分岐状または未分岐炭化水素鎖を意味するための、本明細書における構造式を意味する。
【0024】
本明細書で使用される、「アルキニル」とは、少なくとも1つの炭素間三重結合を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味する。
【0025】
「アリール」という用語は、その少なくとも1つの環が芳香族である、約9〜10個の環原子を有するフェニルラジカルまたはオルト縮合二環式炭素環式ラジカルを意味するために、本明細書における構造式を参照して使用される。アリールの例としては、限定されないが、フェニル、ナフチル、およびニトロフェニルが挙げられる。
【0026】
生分解性」という用語は、生体内環境または代表的な生体外に曝露された場合に完全にまたは実質的に分解または腐食されることができる材料を意味する。例えば、対象内において加水分解、酵素分解、酸化、代謝プロセス、バルク浸食または表面浸食等によって徐々に、破壊、再吸収、吸収かつ/または除去されることができる場合に、ポリマーは分解または腐食され得る。「生体吸収性」および「生分解性」という用語は、本出願において区別なく使用される。
【0027】
本明細書で使用される、「ランダムコポリマー」という用語は、ランダム分布における式(IV)のポリエステルアミドのm、pおよびq単位の分布を意味する。
【0028】
本明細書で使用される、繊維とは、ロッドまたはワイヤーも含む。
【0029】
式(IV)によるポリエステルアミドコポリマーで使用されるα−アミノ酸の少なくとも1つは、天然α−アミノ酸である。例えば、R3またはR4がベンジルである場合、合成で使用される天然α−アミノ酸はL−フェニルアラニンである。RまたはRが−CH−CH(CHである代替方法において、そのコポリマーは、天然アミノ酸、ロイシンを含有する。本明細書に記載の2つのコモノマーの変形形態内でRおよびRを独立して変化させることによって、他の天然α−アミノ酸、例えばグリシン(RまたはRがHである場合)、アラニン(RまたはRがCHである場合)、バリン(RまたはRが−CH(CHである場合)、イソロイシン(RまたはRが−CH(CH)−CH−CHである場合)、フェニルアラニン(RまたはRがCH−Cである場合)、リジン(RまたはRが(CH−NHである場合);またはメチオニン(RまたはRが−(CHS(CH)である場合)、およびその混合物も使用することができる。
【0030】
式(IV)のポリエステルアミドコポリマーは好ましくは、15,000〜200,000ダルトンの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。本明細書に記載のポリエステルアミドコポリマーは、様々な分子量および主鎖におけるm、p、およびq単位の様々な相対比率で製造することができる。特別な使用に適した分子量は、当業者によって容易に決定される。適切なMnは、およそ約15,000〜約100,000ダルトン、例えば約30,000〜約80,000または約35,000〜約75,000である。Mnは、標準物質としてポリスチレンを使用して、THF中のGPCによって測定される。
【0031】
ポリエステルアミドの基本重合プロセスは、G.Tsitlanadze,et al.J.Biomater.Sci.Polym.Edn.(2004)15:1−24に記載のプロセスに基づくが、異なる構成単位および活性化基が使用された。
【0032】
式(IV)のポリエステルアミドは、例えばスキーム1に示されるように;p−トルエンスルホン酸ジアミン塩(X1、X2、X3)を活性化二酸(Y1)と溶液重縮合することによって合成される。一般に、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミドが溶媒として使用される。一般に、塩基としてトリエチルアミドが添加され、絶えず撹拌しながら、60℃の不活性雰囲気下で24〜72時間反応が行われる。続いて、水での沈殿、続いて有機沈殿および濾過によって、得られた反応混合物を精製する。減圧下で乾燥させることによって、ポリエステルアミドが形成される。
【化6】
【0033】
一般に、繊維の平均直径は50〜1000マイクロメーターである。好ましい平均直径は、使用目的に応じて異なる。例えば、注射可能な薬物送達システム、特に眼球薬物送達システムとして、その繊維を使用することを意図する場合には、平均直径50〜500μmが望ましてもよく、さらに好ましくは平均直径100〜300μmが望ましくてもよい。
【0034】
本発明の繊維は、生理活性物質の送達システムとしても使用され得るが、診断補助剤または造影剤の送達にも使用され得る。
【0035】
本発明による繊維は、1種または複数種の生理活性物質を含み得る。生理活性物質は、繊維内に多かれ少なかれ均一に分散され得る。
【0036】
特に、生理活性物質は、栄養素、薬剤、小分子薬、タンパク質、ペプチド、ワクチン、遺伝物質(ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、プラスミド、DNAおよびRNAなど)、診断剤、および造影剤の群から選択され得る。生理活性薬理学的成分(API)などの生理活性物質は、使用目的に応じてあらゆる種類の活性を表し得る。
【0037】
生理活性物質は、生物学的応答を刺激または抑制することができてもよい。生理活性物質は例えば、成長因子(VEGF、FGF、MCP−1、PIGF、抗生物質(例えば、B−ラクタム、クロラムフェニコールなどのペニシリン抗生物質)、抗炎症性化合物、抗血栓性化合物、抗跛行薬、抗不整脈薬、抗アテローム硬化性薬、抗ヒスタミン薬、抗癌剤、血管作用薬、点眼薬、アミノ酸、ビタミン、ホルモン、神経伝達物質、神経ホルモン、酵素、シグナル伝達分子および向精神薬から選択され得る。
【0038】
生理活性物質は、増殖抑制性または抗炎症性を有するか、または抗腫瘍性、抗血小板性、抗凝固性、抗線維素溶解性、抗血栓性、抗有糸分裂性、抗菌性、抗アレルギー性、または抗酸化性などの他の特性を有し得る。増殖抑制剤の例としては、ラパマイシンおよびその機能性または構造誘導体、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(エベロリムス)、およびその機能性または構造誘導体、パクリタキセルおよびその機能性または構造誘導体が挙げられる。ラパマイシン誘導体の例としては、ABT−578、40−0−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、および40−0−テトラゾール−ラパマイシンが挙げられる。パクリタキセル誘導体の例としては、ドセタキセルが挙げられる。抗腫瘍薬および/または抗有糸分裂薬の例としては、メトトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(例えば、Pharmacia AND Upjohn,Peapack NJ.からのアドリアマイシン(Adriamycin)(登録商標))、およびマイトマイシン(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Conn.からのムタマイシン(Mutamycin)(登録商標))が挙げられる。かかる抗血小板薬、抗凝固薬、抗線維素溶解薬、およびアンチトロンビンの例としては、ナトリウムヘパリン、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリン類似体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質Hb/nia血小板膜受容体アンタゴニスト抗体、組換えヒルジン、トロンビン阻害剤、例えばアンギオマックス(Angiomax)(Biogen,Inc.,Cambridge,Mass.)、カルシウムチャネルブロッカー(ニフェジピンなど)、コルヒチン、線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミンアンタゴニスト、ロバスタチン(HMG−CoAレダクターゼの阻害剤、コレステロール低下薬,Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJからの商標名Mevacor(登録商標))、モノクローナル抗体(血小板由来成長因子(PDGF)受容体に特異的な抗体など)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断薬、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGFアンタゴニスト)、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼミメティック、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−l−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、エストラジオール、抗癌剤、食事性サプリメント、例えば種々のビタミン、およびその組み合わせが挙げられる。抗炎症剤の例としては、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症剤が挙げられ、バイオリムス、タクロリムス、デキサメタゾン、クロベタゾール、コルチコステロイドまたはその組み合わせが挙げられる。かかる細胞分裂阻害物質の例としては、アンギオペプチン、アンギオテンシン転化酵素阻害剤、例えばカプトプリル(例えば、Bristol−Myers Squibb Co.,Stamford,Conn.からのCapoten(登録商標)およびCapozide(登録商標))、シラザプリルまたはリシノプリル(例えば、Merck AND Co.,Inc.,Whitehouse Station,NJからのPrinivil(登録商標)およびPrinzide(登録商標))が挙げられる。抗アレルギー剤の一例はペミロラストカリウムである。適切であり得る他の治療物質または治療薬としては、α−インターフェロン、ピメクロリムス、イマチニブメシレート、ミドスタウリン、および遺伝子操作された上皮細胞が挙げられる。
【0039】
具体的な生理活性物質の更なる例は、神経作用薬(アンフェタミン、メチルフェニデート)、α1アドレナリン受容体アンタゴニスト(プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、ケテセリン、ウラピジル)、α2ブロッカー(アルギニン、ニトログリセリン)、降圧薬(クロニジン、メチルドパ、モキソニジン、ヒドララジンミノキシジル)、ブラジキニン、アンギオテンシン受容体ブロッカー(ベナゼプリル、カプトプリル、シラゼプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリル、ゾフェノプリル)、アンギオテンシン−1ブロッカー(カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン)、エンドペプチダーゼ(オマパトリラート)、β2アゴニスト(アセブトロール、アテノロール、ビソプロロール、セリプロロール、エスモドール、メトプロロール、ネビボロール、ベタキソロール)、β2ブロッカー(カルベジロール、ラベタロール、オクスプレノロール、ピンドロール、プロパノロール)、利尿剤(クロルタリドン、クロロチアジド、エピチジド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド、アミロリド、トリアムテレン)、カルシウムチャネルブロッカー(アムロジピン、バルニジピン、ジルチアゼム、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェドジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ベラパミル)、抗不整脈薬(アミオダロン、ソラトール、ジクロフェナク、フレカイニド)またはシプロフロキサシン、ラタノプロスト、フルクロキサシリン、ラパマイシンおよび類似体およびリムス(limus)誘導体、パクリタキセル、タキソール、シクロスポリン、ヘパリン、コルチコステロイド(トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド)、血管新生阻害剤(iRNA、VEGFアンタゴニスト:ベバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ(pegaptanib))、成長因子、ジンクフィンガー転写因子、トリクロサン、インスリン、サルブタモール、エストロゲン、ノルカンタリジン、ミクロリジル類似体、プロスタグランジン、スタチン、コンドロイチナーゼ、ジケトピペラジン、大環状化合物、ニューレグリン、オステオポンチン、アルカロイド、免疫抑制剤、抗体、アビジン、ビオチン、クロナゼパムである。上記の物質は、そのプロドラッグまたは併用薬の形で使用することもできる。上記の物質は、そのプロドラッグおよび/または代謝産物のプロドラッグも含む。上記の物質は一例として列挙されており、限定的であることを意味するものではない。
【0040】
本発明に従って、生理活性物質が存在する場合、繊維における1種または複数種の生理活性物質の濃度は、治療される医学的適応症の治療域によって、ならびに投与方法によって決定される。繊維における1種または複数種の生理活性物質の濃度は、繊維の全重量に対して少なくとも1重量%、特に少なくとも5重量%、さらに特に少なくとも10重量%であり得る。この濃度は所望の場合には、90重量%まで、70重量%まで、50重量%まで、または30重量%までであってもよい。
【0041】
式IVによって表される生分解性ポリエステルアミドに加えて、本発明の繊維はさらに、生体適合性ポリマーの群から選択される1種または複数種の他のポリマーを含み得る。
【0042】
生体適合性ポリマーの例は、ポリ(オルトエステル)、ポリ(無水物)、ポリ(D,L−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)とグリコール酸のコポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(オキサ−エステル)、ポリ(オキサ−アミド)、ポリ(エチレンカーボネート)、ポリ(炭酸プロピレン)、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(チロシン誘導カーボネート)、ポリ(チロシン誘導アリーレート)、ポリ(チロシン誘導イミノカーボネート)、これらのポリマーとポリ(エチレングリコール)(PEG)とのコポリマー、またはその組み合わせである。
【0043】
好ましくは、押出し成形プロセスによって、例えば生分解性ポリマーおよび最終的な更なる化合物がRetsch凍結粉砕機を使用してホモジナイズされる、溶融押出し成形によって、繊維が製造される。次いで、バレルサイズ5ccを有し、かつミクロ繊維紡糸デバイスに連結されている二軸スクリューを有する、予熱されたDSM Xploreミクロ押出機内に、得られた粉末を充填する。生分解性ポリマーは好ましくは、範囲100〜250μmの直径を有する繊維に延伸される前に、120C〜140℃での滞留時間5〜10分を有する。押出し成形は通常、プロセス中のポリマーの酸化的分解を極力抑えるために、不活性雰囲気下で行われる。続いて、張力下にて室温で冷却される。次いで、得られた繊維は好ましくは、例えば4mm片に切断され、ガンマ放射線によって滅菌され得る。
【0044】
押出し成形により得ることができる、本発明による繊維は、水性環境に曝露すると形が変わり、その長さが著しく短くなり、直径が増加する。繊維の総体積は保存される。繊維の長さは一般に、2分の1〜20分の1に短くなる。
【0045】
その代わりとして、本発明の繊維は、射出成形によって製造することもできる。このプロセスにおいて、温度50〜200℃、好ましくは100〜200℃の温度で射出成形機で繊維が形成され、直径およそ200μmの繊維が形成される。次いで、開く前に金型を室温に冷却し、繊維を取り出す。そのように得られた繊維が水性環境に曝露された場合に形が変化せず、その長さおよび直径が良好に保存されることが、この加工方法に必須である。
【0046】
繊維に1種または複数種の生理活性物質がローディングされる場合には、ローディングは、生理活性物質の存在下にて繊維を形成することによって、またはその後に達成され得る。多量の生理活性物質を有する繊維を得るために、生理活性物質の存在下で繊維を製造することが一般に好ましい。特に生理活性物質が影響を受けやすい場合には、繊維を形成した後に繊維にローディングすることが好ましい。これは、繊維を生理活性物質と接触させて、生理活性物質を繊維内に拡散させ、かつ/またはその表面に付着/吸着させることによって達成することができる。
【0047】
本発明に従って、満足なカプセル化効率(つまり、使用される作用薬の量で割られた、繊維における生理活性物質の量)を有する、1種または複数種の生理活性物質を有する繊維を提供することが可能である。ローディング条件に応じて、少なくとも20%の効率、少なくとも50%、少なくとも75%または少なくとも90%またはそれを超える効率が実現可能である。
【0048】
例えば(ラピッドプロトタイプ)足場、コーティング、パッチ、複合材料、ゲル、プラスターまたはヒドロゲルに繊維を組み込んでもよい。
【0049】
本発明による繊維は注入するか、または埋め込むことができる。
【0050】
更なる実施形態において、この繊維は、MRI、CT、X線などの特定の技術によって画像化可能であってもよい。造影剤は、繊維内に組み込んでもよいし、またはその表面上に結合することもできる。適切な造影剤は、例えばガドリニウムである。
【0051】
本発明によるポリエステルアミドコポリマーを含む繊維は、痛みの管理の分野、筋骨格分野(MSK)、眼科学、癌治療、ワクチン送達組成物、皮膚科学、心血管分野、および整形外科、脊髄、腸管、肺、鼻または耳の分野における特に薬物送達の医療分野で使用することができる。
【0052】
本発明による繊維は、特に眼科分野の疾患の治療に、薬物溶出賦形剤として使用することができる。
【0053】
本発明は、単なる実例である、以下の非限定的な実施例および図面を参照して、詳細に説明される。
【0054】
[材料]
別段の指定がない限り、すべての化学物質はシグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich)から購入した。1H NMR分析は、重水素化DMSO中の10mg/mlポリマー溶液を使用して、Varian Inova 300分光計で行った。使用したDSC装置は、インタークーラー(Intercooler)および自動ロボット(auto robot)TS0801ROと連結されたMettler Toledo 822eであった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】PEA−III−Ac BzおよびPEA−III−25%H繊維の生体内分解。
図2】PEA−III−Ac BzおよびPEA−III−25%H繊維の分解の生体外/生体内の相関性。
図3】180日間にわたる、PBS緩衝液における加水分解中の分子量の減少。
図4】180日間にわたる、PBS緩衝液における加水分解中の繊維の重量減少。
図5】形状安定性の評価を繊維の長さによって図式的に示す。
図6】6か月間にわたる、PEA−III−Ac BzおよびPEA−III−25%H繊維の生体内分解。
図7】6か月間にわたる、PEA−III−Ac BzおよびPEA−III−25%H繊維の分解の生体外/生体内の相関性。
図8】266日間にわたる、PBS緩衝液における加水分解中の分子量の減少。
図9】266日間にわたる、PBS緩衝液における加水分解中の繊維の重量減少。
【0056】
[実施例]
[実施例1]
PEA−III−Ac Bz、PEA−III−H/Bz25%HおよびPEA−III−H/Bz50%Hの繊維を直径約180μmで押出し成形によって製造した。得られた繊維を長さ4〜5mmの片に切断し、微量天秤で個々に計量した。殺生物剤としてアジ化ナトリウム0.05%を含有するPBS緩衝液3mL中に単一の繊維を浸漬した。37℃でオービタル振盪で穏やかに振盪しながら、加水分解を行った。試料を三つ組で採取し;37℃で減圧下にて一晩、繊維を乾燥させた。分解後の繊維の重量を再び、微量天秤で決定した。Waters RI検出器2414型、カラムヒーターe2695型を備えたWaters分離モジュールからなるWaters GPCシステムを使用して、残りのポリマー繊維の相対分子量を決定した。このシステムは、50℃で動作するStyragel HR5EおよびStyragel HR2カラムを備えた。移動相として、流量1.0mL/分を有するテトラヒドロフラン(THF)を使用した。試料をTHF 200μlに溶解し、その100μLをカラムに注入した。Waters Empowerソフトウェアを使用して、データの評価を行った。分子量の計算は、ポリスチレン標準物質に対してであった。結果を図3および8に示し、180日間および266日間それぞれにわたって、PBS緩衝液における加水分解中の分子量の減少が示されている。図4および9によって、180日間および266日間それぞれにわたって、PBS緩衝液における加水分解中の繊維の重量減少が示されている。
【0057】
[実施例2]
窒素雰囲気下のオーバーヘッドスターラーを備えたガラス容器に添加された無水DMSOおよびトリエチルアミン中で、ビス−(L−ロイシン)1,4−ジアンヒドロソルビトールジエステル、ビス−(L−ロイシン)α,ω−ヘキサンジオールジエステルの予め計算された量のジ−p−トルエンスルホン酸塩、リジンベンジルエステル、リジンおよびセバシン酸のジ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを重縮合することによって、適用されるポリマーが合成された。この反応に予め活性化された酸を使用することによって、比較的低温(65C;48時間)で重合され、副生成物を含まない、重縮合され、かつ予測可能な分解生成物が得られる。2つの沈殿工程において反応混合物からポリマーが単離され、その結果、ポリスチレン標準物質に対してTHFベースのGPCによって決定される、数平均分子量50kDaの白色非晶質物質が得られた。ポリマーにおける異なる構成単位の比は、1H NMRスペクトルから計算された。コポリマー組成物は、理論的予測と申し分なく一致した。次に、均一な混合物を得るために、Chromoionophore II 0.20重量%の存在下にて、Retsch ZM200装置においてポリマーを凍結粉砕した。
【0058】
速度1〜250rpm、温度範囲140Cにて、細い紡糸用のDSMミクロ繊維紡糸装置を備えたPharmaミニ押出機を使用して、均一化された凍結粉砕配合物を繊維に加工した。範囲120〜300μmの直径を有する繊維に延伸する前に、ポリマーは140Cで5〜10分間の滞留時間を有した。プロセス中のポリマーの酸化的分解を最小限にするために、不活性雰囲気下にて押出し成形を行った。得られた繊維を長さ約4mm、直径150μmの片に切断し、BGS,Wiehl,Germanyにて冷却条件下でガンマ放射線25kGyによって滅菌した。
【0059】
[埋め込みおよび臨床的経過観察]
平均体重2〜3kgの雌のチンチラウサギ(Chinchilla Bastard rabbits)(Charles River Company,Sulzfeld,Germany)を使用した。研究動物の世話および使用についての原則に従って、すべての動物実験を行い、自然・環境・消費者保護庁(Office for the Nature,Environment and Consumer Protection)(LANUV),Recklinghausen,Germanyの許可および管理の下に実施した。
【0060】
結膜下に埋め込むために、ウサギの結膜に放射状切開を施し、強膜から結膜を解剖することによって、チャンバを作製した。そのチャンバ内に1本の乾燥した繊維を入れ、1本のバイクリル(vicryl)9−0縫合糸で切開を閉じた。眼球1つにPEAの試料1つを埋め込んだ。インプラントを毎週モニターし、1、3、6および12か月後に読み取りを予定した。
【0061】
乾燥繊維の硝子体内への埋め込みに、特注品の26G静脈内カテーテルを使用した。角膜輪部下1.5mmに26G針で経強膜穿刺を行い、改良されたカテーテルを挿入した。カテーテル針を除去した後、ミクロ鉗子でカテーテルにPEA繊維を挿入し、カテーテル針で硝子体内に前方へ移動した。カテーテルを取り除き、繊維の硝子体内位置をビデオ写真撮影によって記録に残した。1か月および3か月後に、PEA繊維を外植した。眼底検査による臨床検査を毎週行い、フィブリルの存在および形状を確認し、眼底の状態を観察した。
【0062】
記載の観察期間後、眼球を除去し、巨視的に分析した。さらに、ポリマーに関して起こる変化を評価するために、重量およびGPCによって、外植された繊維を評価した。
【0063】
[埋め込みおよび臨床的経過観察]
平均体重2〜3kgの雌のチンチラウサギ(Chinchilla Bastard rabbits)(Charles River Company,Sulzfeld,Germany)を使用した。研究動物の世話および使用についての原則に従って、すべての動物実験を行い、自然・環境・消費者保護庁(LANUV),Recklinghausen,Germanyの許可および管理の下に実施した。
【0064】
結膜下に埋め込むために、ウサギの結膜に放射状切開を施し、強膜から結膜を解剖することによって、チャンバを作製した。そのチャンバ内に1本の乾燥した繊維を入れ、1本のバイクリル(vicryl)9−0縫合糸で切開を閉じた。眼球1つにPEAの試料1つを埋め込んだ。インプラントを毎週モニターし、1、3、6および12か月後に読み取りを予定した。
【0065】
乾燥繊維の硝子体内への埋め込みに、特注品の26G静脈内カテーテルを使用した。角膜輪部下1.5mmに26G針で経強膜穿刺を行い、改良されたカテーテルを挿入した。カテーテル針を除去した後、ミクロ鉗子でカテーテルにPEA繊維を挿入し、カテーテル針で硝子体内に前方へ移動した。カテーテルを取り除き、繊維の硝子体内位置をビデオ写真撮影によって記録に残した。1か月および3か月後に、PEA繊維を外植した。眼底検査による臨床検査を毎週行い、繊維の存在および形状を確認し、眼底の状態を観察した。
【0066】
記載の観察期間後、眼球を除去し、巨視的に分析した。さらに、ポリマーに関して起こる変化を評価するために、重量およびGPCによって、外植された繊維を評価した。
【0067】
[実施例3]
直径約200μmで射出成形によって、PEA−III−H/Bz25%Hの繊維を製造した。得られた繊維を長さ5〜10mmの片に切断し、微量天秤で個々に計量した。Moticam2000デジタルカメラを備えたMoticテレスコープを使用して、個々の繊維を画像化した。
【0068】
PBS緩衝液1mL中に単一の繊維を浸漬し、37℃にてオービタル振盪機上においた。実験を2つ組で行った。所定の時点で、緩衝液から繊維を穏やかに取り出し、組織上にブロットした。テレスコープで画像を撮影し、繊維の長さおよび直径を測定した。緩衝液を新しくし、試料をオービタル振盪機に戻した。図5において、形状安定性の計算は、繊維の長さを測定することによって図示される。射出成形繊維は初期長さ10mmを有し、押出し成形繊維は初期長さ5mmを有した。形状安定性の違いは、押出し成形繊維の長さの減少によって明確に表されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9