(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303223
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】レアアースを含有する残渣の固化処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/00 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
C02F11/00 101Z
C02F11/00ZAB
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-265949(P2013-265949)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120124(P2015-120124A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小早川 真
(72)【発明者】
【氏名】山上 晃一
(72)【発明者】
【氏名】生田 考
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 義夫
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】渡部 要一
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−050168(JP,A)
【文献】
特開2000−087154(JP,A)
【文献】
特開平11−010197(JP,A)
【文献】
特表2013−517216(JP,A)
【文献】
特開2013−163902(JP,A)
【文献】
特開平11−064590(JP,A)
【文献】
特開2006−063370(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0156116(US,A1)
【文献】
特開2005−181256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00 − 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底の地盤に存在する、レアアースの含有率が1,000ppm以上の泥である、レアアースを含有する泥を酸で処理した後に発生する酸性の残渣と、アルカリ性固化材を混合して、固化体を得ることを特徴とするレアアースを含有する残渣の固化処理方法。
【請求項2】
上記アルカリ性固化材が、セメント、石灰、または酸化マグネシウムを含む、請求項1に記載のレアアースを含有する残渣の固化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太平洋の深海の海底に分布する、レアアースを高含有率で含む泥を典型例とするレアアースを含有する泥を、酸で処理した後に発生する酸性の残渣の固化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レアアースは、ネオジム・鉄・ボロン磁石、LED電球、燃料電池等に用いられる原料として、最先端技術産業に不可欠な元素であり、近年、その需要も急増している。一方、レアアースの寡占的産出国であった中国が、輸出奨励政策から規制強化政策へと方針を変更するなどの事情下において、レアアースの供給不足や価格高騰が懸念されており、レアアースの新たな供給源の確保が課題となっている。
このような状況下において、太平洋の広範囲に分布しているレアアースを高含有率で含む深海の泥が、レアアースの新たな供給源として注目されている。
レアアースを高含有率で含む泥(例えば、太平洋の深海の泥)は、その資源量が膨大であること、希酸中に1〜3時間浸漬するという簡易な方法で抽出することができること、トリウムやウラン等の放射性元素をほとんど含まないこと、等の数々の利点を有している。
【0003】
レアアースを含む泥を処理する方法として、例えば、特許文献1に、光学ガラス研磨・洗浄工程およびこれに付帯する排水処理装置から発生する光学ガラス汚泥に硫酸を加えて加熱処理し、汚泥中に含まれるレアアースメタル成分を溶解するとともに鉛、バリウム、シリカ等を沈殿とし、該沈殿を処理液から分離することによりレアアースメタル成分の溶液を取得することを特徴とする光学ガラス汚泥からレアアースメタル成分を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−50168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レアアースを含有する泥の乾燥質量中のレアアースの質量の割合は、レアアースの含有率が高いことで知られる太平洋の深海底であっても、0.3質量%以下にすぎない。このため、レアアースを含有する泥から、希酸を用いてレアアースを抽出した後に、多量の酸性の残渣が発生するという問題がある。
この酸性の残渣の処理方法として、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤で中和処理する方法が考えられる。しかし、中和処理後の残渣を例えば埋め立て資材として利用しようとしても、泥の水分含有率が大きいことから、軟弱な地盤になり、地盤を利用することができるまでに長期間が必要となったり、あるいは、別途、地盤の改良工事が必要となる。また、この残渣を土工資材として利用する場合には、泥を予め脱水処理しなければならないという問題がある。また、水分含有率が大きい泥は、移送や保管が困難であるという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、レアアースを含有する泥から、酸を用いてレアアースを抽出した後に発生する多量の酸性の残渣を、簡易に処理することができ、また、処理後に得られるものを埋め立て資材等として利用することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、レアアースを含有する泥を酸で処理した後に発生する酸性の残渣と、アルカリ性固化材を混合して、固化体を得るようにすれば、この操作を簡易に行うことができるとともに、得られた固化体を、埋め立て資材等として利用することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] レアアースを含有する泥を酸で処理した後に発生する酸性の残渣と、アルカリ性固化材を混合して、固化体を得ることを特徴とするレアアースを含有する残渣の固化処理方法。
[2] 上記アルカリ性固化材が、セメント、石灰、または酸化マグネシウムを含む、上記[1]に記載のレアアースを含有する残渣の固化処理方法。
[3] 上記レアアースを含有する泥は、海底の地盤に存在する、レアアースの含有率が1,000ppm以上の泥である、上記[1]又[2]に記載のレアアースを含有する残渣の固化処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レアアースを含有する泥を酸で処理した後に得られる多量の酸性の泥を、簡易に処理することができる。
特に、本発明では、酸性の残渣を得る前の酸性の泥の脱水を、アルカリ性固化材との混合によって固化体を得ることができる程度に行えばよいので、アルカリ性固化材を用いずに脱水して埋め立て資材を得る場合に比べて、脱水に要する負担(例えば、脱水手段の性能等)が軽減される。
また、本発明によれば、固化体を埋め立て資材等として利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のレアアースを含有する残渣の固化処理方法は、レアアースを含有する泥を酸で処理した後に発生する酸性の残渣と、アルカリ性固化材を混合して、固化体を得るものである。
本発明における固化処理の対象は、レアアースを含有する泥を酸で処理して、レアアースを液中に抽出した後に発生する酸性の残渣である。
レアアースとは、周期律表の第3族のランタロイド(La(ランタン)〜Lu(ルテチウム)の計15種の元素)に、同じく第3族のSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を加えた計17種の元素をいう。
レアアースを含有する泥の一例として、深海底(例えば、海の深さとして、3,500〜6,000mの領域)に層状(例えば、海底から、深さが数10m程度までの地盤)に分布する、レアアースの含有率が大きい泥が挙げられる。
本発明において、レアアースを含有する泥(乾燥状態のもの)の中のレアアースの含有率(質量基準)は、資源であるレアアースを採掘する際の経済性の観点から、好ましくは1,000ppm以上、より好ましくは2,000ppm以上である。
【0011】
本発明における固化処理の対象である酸性の残渣の水分含有率は、埋め立て資材等の用途に好適な物性を有する固化体を得るなどの観点から、好ましくは200質量%以下、より好ましくは50〜150質量%、さらに好ましくは50〜100質量%、特に好ましくは50〜80質量%である。
なお、該水分含有率が50質量%以上であると、脱水の負担を軽減することができる。
酸性の残渣の水分含有率が大きい場合は、泥をタンク等の容器に貯留して、泥の固形分を沈澱させ、その上澄みを回収する沈澱方式や、スクリューデカンター等の装置を用いる遠心分離方式や、フィルタープレス等の装置を用いる加圧脱水方式等の方法で脱水すればよい。
中でも、低コストで簡易に脱水することができる点で、沈澱方式及び遠心分離方式が好ましく、沈澱方式が、より好ましい。
なお、脱水の程度は、沈澱方式、遠心分離方式、加圧脱水方式の順に大きくなる。
【0012】
本発明で用いるアルカリ性固化材とは、水に溶解するとpHがアルカリ性の領域となる固化材であり、例えば、セメント、石灰または酸化マグネシウムを含むものが挙げられる。
セメント、石灰または酸化マグネシウムを含むものとしては、例えば、セメント、セメント系固化材、石灰、石灰系固化材、マグネシア系固化材等が挙げられる。
中でも、固化体を埋め立て資材として用いた場合に、強固な地盤を得る観点から、セメントが好ましい。
【0013】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
中でも、廃棄物の利用の観点から、エコセメントが好ましい。
セメント系固化材とは、セメントを主成分(通常、50質量%以上)として含み、かつ、各種の有効成分を副成分として含む固化材である。市販品としては、太平洋セメント社製の「ジオセット」(商品名)等が挙げられる。
石灰としては、生石灰、消石灰等が挙げられる。
石灰系固化材とは、石灰を主成分(通常、50質量%以上)として含み、かつ、各種の有効成分を副成分として含む固化材である。
マグネシア系固化材としては、炭酸マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを、低温(600〜900℃)で焼成して得られる軽焼マグネシア(軽焼酸化マグネシウムともいう。)等が挙げられる。
【0014】
アルカリ性固化材の量は、酸性の残渣のpHによっても異なるが、酸性の残渣を中和して、中性または中性に近いpH領域の固化体を得る観点から、酸性の残渣1m
3に対して、好ましくは30〜400kg、より好ましくは50〜300kg、特に好ましくは100〜200kgである。
なお、本発明の固化処理においては、例えば、(1)酸性の残渣にアルカリ性固化材を添加して混合し、得られた混合物を埋め立て地等に打設して固化させる、(2)酸性の残渣を埋め立て地等に打設しておき、この打設した酸性の残渣に、アルカリ性固化材を添加して混合し、固化させる、(3)酸性の残渣にアルカリ性固化材を添加して混合し、粒状やブロック状の成形体を製造した後、該成形体を埋め立て資材等として利用する、等の実施形態を採用することができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明を説明する。以下の文中の「%」は、特に断らない限り、質量基準の割合を表す。
(1)レアアースを含有する残渣の模擬試料の調製
太平洋の深海底から採取したレアアースを含有する泥の、公表されている化学成分及び公表されている含有鉱物から、レアアースを含有する残渣の模擬試料の鉱物組成を定めた。この鉱物組成を目標にして、珪砂24%、酸化鉄(Fe
2O
3)14%、酸化マンガン(MnO)4%、酸化マグネシウム(MgO)3%、ハイドロキシアパタイト6%、フィリップサイト48%(以上の割合は、材料全量中の配合割合を表す。)を混合粉砕することによって、粘土(粒径:5μm以下)やシルト(粒径:5μmを超え、75μm以下)の粒度を有し、かつ、32μm残分が5%以下の粉砕物を得た。
得られた粉砕物を、0.1Nの塩酸に1時間浸漬し、次いで、含水率(水分含有率)100%になるように脱水して、レアアースを含有する残渣の模擬試料を得た。
また、比較用(比較例1〜3)に、含水率100%のシルト(幸手産)を用意した。
【0016】
(2)固化体の作製
「地盤工学会基準(案)JGS 0821(安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠して、前記(1)の残渣の模擬試料を用いて、固化体の供試体を作製した。具体的には、残渣の模擬試料と、残渣の模擬試料1m
3当たり150kgの量のセメントを、ハンドミキサーで混合した後、得られた混合物を、φ5cm×10cmの円柱モールド内に収容して、成形体を作製した。この成形体を20℃の恒温室で7日間養生して、強度試験用の供試体である固化体を得た。この際、セメントとしては、普通ポルトランドセメント(実施例1、比較例1)、エコセメント(実施例2、比較例2)、エコセメント80%と無水石膏20%の混合物(実施例3、比較例3)を用いた。
(3)固化体の一軸圧縮試験
固化体の一軸圧縮試験を、「JIS A 1216」に準拠して行った。
結果を表1に示す。表1中、「普通」、「エコ」は、各々、普通ポルトランドセメント、エコセメントを表す。
【0017】
【表1】
【0018】
(4)固化体の吸着性能試験
レアアースを含有する泥(例えば、深海泥)には、ゼオライトが含まれている。このため、固化体には、BODや海水中のレアメタル等の吸着作用を期待することができる。そこで、実施例1及び比較例1の各固化体について、メチレンブルーの吸着量を測定した。測定は、セメント協会の「JCAS I−61:2008」(フライアッシュのメチレンブルー吸着量試験方法)に準拠して行った。具体的には、100℃で乾燥した固化体の試料を適度に破砕して試験に供し、単位質量(g)あたりのメチレンブルーの吸着量を求めた。
結果を表2に示す。表2から、実施例1の固化体は、比較例1の固化体に比べて、メチレンブルーの吸着量が非常に大きく、固化処理後も、周辺環境のBODや、海水中のレアメタル等の再吸着用の用途における利用を期待することができることがわかる。
【0019】
【表2】