(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303249
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】人工膝関節を設置するために使用されるバランサー装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/46 20060101AFI20180326BHJP
A61F 2/38 20060101ALI20180326BHJP
A61B 17/56 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
A61F2/46
A61F2/38
A61B17/56
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-23457(P2017-23457)
(22)【出願日】2017年2月10日
(62)【分割の表示】特願2013-88780(P2013-88780)の分割
【原出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-80569(P2017-80569A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2017年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】517104080
【氏名又は名称】ジンマー・バイオメット合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和昭
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−000230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/46
A61B 17/56
A61F 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用されるバランサー装置であって、 脛骨の近位端面に取付けられる脛骨取付け部と、
大腿骨の遠位端部を支持する大腿骨取付け部と、
前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して脛骨の近位端面と垂直な上下方向に移動させる移動機構と、を有し、
前記移動機構は、前記脛骨取付け部に取付けられる固定部と、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動可能に前記大腿骨取付け部及び前記固定部に取付けられる可動部と、前記可動部を前記固定部に対して、機械的に決められた増分位置でロックするロック機構を有し、
前記可動部は、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動させるために、上下方向に伸縮可能であり、
前記可動部は、更に、上本体部分と、前記上本体部分に回動可能に取付けられる回動部分を有し、前記回動部分は、前記大腿骨取付け部分に固着され、
更に、前記上本体部分に対する回動部分の角度方向位置を表す目盛を有し、
前記固定部は、上下方向孔を有し、
前記可動部は、前記上下方向孔に嵌合するスライドラック部分と、前記スライドラック部分に対して上下方向に移動可能な前記上本体部分と、前記上本体部分を前記スライドラック部分に対して上方に付勢するばねを有することを特徴とする、バランサー装置。
【請求項2】
人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用されるバランサー装置であって、 脛骨の近位端面に取付けられる脛骨取付け部と、
大腿骨の遠位端部を支持する大腿骨取付け部と、
前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して脛骨の近位端面と垂直な上下方向に移動させる移動機構と、を有し、
前記移動機構は、前記脛骨取付け部に取付けられる固定部と、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動可能に前記大腿骨取付け部及び前記固定部に取付けられる可動部と、前記可動部を前記固定部に対して、機械的に決められた増分位置でロックするロック機構を有し、
前記可動部は、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動させるために、上下方向に伸縮可能であり、
前記可動部は、更に、上本体部分と、前記上本体部分に回動可能に取付けられる回動部分を有し、前記回動部分は、前記大腿骨取付け部分に固着され、
更に、前記上本体部分に対する回動部分の角度方向位置を表す目盛を有し、
更に、前記固定部に対する前記可動部の上下方向位置を表す目盛と、前記固定部に対して前記可動部が上方向に押される荷重を表す目盛を有する、バランサー装置。
【請求項3】
前記固定部は、上下方向孔を有し、
前記可動部は、前記上下方向孔に嵌合するスライドラック部分と、前記スライドラック部分に対して上下方向に移動可能な前記上本体部分と、前記上本体部分を前記スライドラック部分に対して上方に付勢するばねを有することを特徴とする、請求項2に記載のバランサー装置。
【請求項4】
人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用されるバランサー装置であって、 脛骨の近位端面に取付けられる脛骨取付け部と、
大腿骨の遠位端部を支持する大腿骨取付け部と、
前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して脛骨の近位端面と垂直な上下方向に移動させる移動機構と、を有し、
前記移動機構は、前記脛骨取付け部に取付けられる固定部と、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動可能に前記大腿骨取付け部及び前記固定部に取付けられる可動部と、前記可動部を前記固定部に対して、機械的に決められた増分位置でロックするロック機構を有し、
前記可動部は、前記大腿骨取付け部を前記脛骨取付け部に対して移動させるために、上下方向に伸縮可能であり、
前記可動部は、更に、上本体部分と、前記上本体部分に回動可能に取付けられる回動部分を有し、前記回動部分は、前記大腿骨取付け部分に固着され、
更に、前記上本体部分に対する回動部分の角度方向位置を表す目盛を有し、
前記大腿骨取付け部は、上面を有し、
膝が伸展位にあるときに、スペーサーが前記上面に取付けられ、
膝が屈折位にあるときに、サイジングブロック本体が前記上面に取付けられる、バランサー装置。
【請求項5】
前記固定部は、上下方向孔を有し、
前記可動部は、前記上下方向孔に嵌合するスライドラック部分と、前記スライドラック部分に対して上下方向に移動可能な前記上本体部分と、前記上本体部分を前記スライドラック部分に対して上方に付勢するばねを有することを特徴とする、請求項4に記載のバランサー装置。
【請求項6】
更に、前記固定部に対する前記可動部の上下方向位置を表す目盛と、前記固定部に対して前記可動部が上方向に押される荷重を表す目盛を有する、請求項4又は5に記載のバランサー装置。
【請求項7】
ベアリングトライアルのとき、トライアルコンポーネントが前記上面に取付けられる、請求項4〜6の何れか1項に記載のバランサー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用されるバランサー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膝の軟骨がすり切れることにより変形性関節症又は慢性リウマチ等になった患者の治療に人工膝関節が使用されることがある。
図9は、人工膝関節を設置した左脚の大腿骨及び脛骨を示す概略的な側面断面図である。
図9に示すように、人工膝関節100は、脛骨Tの近位端部Teに固定される脛骨トレイ102及びサーフェスライナ104と、大腿骨Fの遠位端部Feを覆うように大腿骨Fに固定される大腿骨コンポーネント106とを有している。場合によって、脛骨トレイ102と脛骨Tの間にスペーサ(図示せず)が挿入される。大腿骨Fと脛骨Tとは、主に、その左右両側に配置された靭帯(図示せず)によって連結され且つ互いに引っ張られており、それにより、大腿骨コンポーネント106は、サーフェスライナ104に押付けられている。人工膝関節100では、膝を、曲げた位置(屈曲位)と伸ばした位置(伸展位)との間で動かすと、大腿骨コンポーネント106がサーフェスライナ104に沿って摺動する。
【0003】
図10は、人工膝関節を設置するために部分的に切除された左脚の脛骨及び大腿骨を示す概略的な側面図である。
図10に示すように、脛骨Tの近位端部Teは、すり切れた軟骨を除去するために、且つ、脛骨トレイ102を脛骨Tに固定するための設置面、即ち、近位端面Tcを形成するために切除(骨切り)されている。同様に、大腿骨Fの遠位端部Feは、すり切れた軟骨を除去するために、且つ、大腿骨コンポーネント106を大腿骨Fに固定するための5つの設置面Fc1〜Fc5を形成するために切除(骨切り)されている。5つの設置面は、遠位端面Fc1と、遠位端面Fc1に対して垂直な前設置面Fc2及び後設置面Fc3と、遠位端面Fc1と前設置面Fc2及び後設置面Fc3との間の2つの傾斜設置面Fc4、Fc5である。
【0004】
脛骨Tの近位端面Tc及び大腿骨Fの遠位端面Fc1はそれぞれ、人工膝関節100を取付けた後の患者の身長が変化しないように、脛骨Tの近位端及び大腿骨Fの遠位端から予め決められた距離LT、LFのところに形成される。一般的に、脛骨Tの近位端面Tcは、脛骨Tの軸線に対して垂直に形成される。脛骨Tの近位端面Tc及び大腿骨Fの遠位端面Fc1を形成した後、膝が伸展位にあるときの靭帯の緊張状態(靭帯のテンション及び左右のバランス)を調整する。調整前の患者の脛骨Tの近位端面Tcと大腿骨Fの遠位端面Fc1は、左右の靭帯のアンバランスにより平行になっていないので、靭帯の軟部組織の一部を解放することによって、近位端面Tcと遠位端面Fc1が平行になるようにする。このとき、例えば、バランサー装置が脛骨Tと大腿骨Fとの間に挿入され、靭帯の所定の緊張状態を得る。次いで、膝を屈曲位にして、靭帯の緊張状態を確認した後、大腿骨の前設置面Fc2及び後設置面Fc3の位置を決定する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
日本人は、欧米人に比較して正座など膝関節を深く曲げることが多い。そのため、膝が屈曲位にあるときの靭帯の緊張状態を、膝が伸展位にあるときの靭帯の緊張状態に一致させることによって、人工膝関節を設置した後の違和感や磨耗を減少させることが特に望まれている。特許文献1に記載されているバランサー装置は、膝が屈曲位にあるときの靭帯の緊張状態を、膝が伸展位にあるときの靭帯の緊張状態にほぼ一致させることができ、人工膝関節の設置手技の効果を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−230号公報
【特許文献2】特開2008−183083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたバランサー装置では、靭帯の緊張状態を調整するときトルクドライバーを用いて大腿骨を脛骨に対して徐々に遠ざけ、所定の荷重をバランサー装置の外部から作用させる。一方、脛骨に対する大腿骨のロック位置は、回転体の周囲に設けられた多数の引掛り部に爪付きレバーを係合させることによって定められるので、脛骨に対する大腿骨の位置は、厳密には、機械的に決められた増分位置で調整されることになる。したがって、かかる増分位置で調整された荷重は、前記所定の荷重から僅かにずれることがあり、その結果、所定の荷重が膝関節部に正確に伝わらないことがある。また、靭帯の一部を切断するなどして靭帯の緊張状態を変化させるとき、前記増分位置で前記所定の荷重を正確に実現するのに熟練を要することがある。
【0008】
また、特許文献1に記載されたバランサー装置では、膝が伸張位にあるときに大腿骨を支持する部品と、膝が屈曲位にあるときに大腿骨を支持する部品が異なるため、部品を交換する必要がある。このとき、バランサー装置を再設置したときの位置がずれると、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態と、膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態とが整合しないおそれがある。その結果、膝が屈曲位にあるときの大腿骨の骨切が正確にならないおそれがある。
【0009】
そこで、本発明の第1の目的は、所定の荷重により近い荷重を膝関節部に作用させることができるバランサー装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態と膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態をより容易に整合させることができるバランサー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記第1の目的を達成するために、人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用される本発明によるバランサー装置は、脛骨の近位端面に取付けられる脛骨取付け部と、大腿骨の遠位端部を支持する大腿骨取付け部と、大腿骨取付け部を脛骨取付け部に対して脛骨の近位端面と垂直な方向に移動させる移動機構と、を有し、移動機構は、脛骨取付け部に取付けられる固定部と、大腿骨取付け部を脛骨取付け部に対して移動可能に大腿骨取付け部及び固定部に取付けられる可動部と、可動部を固定部に対して、機械的に決められた増分位置でロックするロック機構を有し、可動部は、上下方向に伸縮可能であり且つ伸びる方向に付勢され、可動部が伸びる向きは、大腿骨取付け部を脛骨取付け部から引離す向きであることを特徴としている。
【0012】
このように構成されたバランサー装置では、靭帯の緊張状態を調整するとき、可動部を固定部に対して上方向に移動させることにより、大腿骨取付け部を脛骨取付け部から徐々に遠ざける。可動部は、固定部に対して機械的に決められた増分位置でロックするロック機構によって、靭帯の緊張によって生じる力に抗してロックされる。一方、可動部は上下方向に伸縮可能であり且つ伸びる方向に付勢されているので、大腿骨取付け部は、靭帯の緊張とつりあう荷重で大腿骨の遠位端部に常に押付けられている状態にある。したがって、機械的に決められた増分位置に拘束されない靭帯の緊張状態で調整することが可能になり、所定の荷重により近い荷重を膝関節部に作用させることができる。
【0013】
また、靭帯の一部を切断するなどして靭帯の緊張状態を変化させるとき、可動部が上下方向に伸縮して、靭帯の緊張状態の変化に追従するので、前記増分位置で前記所定の荷重を正確に実現することが容易になる。
【0014】
本発明によるバランサー装置の実施形態において、好ましくは、固定部は、上下方向孔を有し、可動部は、上下方向孔に嵌合するスライドラック部分と、スライドラック部分に対して上下方向に移動可能な上本体部分と、上本体部分をスライドラック部分に対して上方に付勢するばねを有する。
【0015】
本発明によるバランサー装置の実施形態において、好ましくは、更に、固定部に対する可動部の上下方向位置を表す目盛と、固定部に対して可動部が上方向に押される荷重を表す目盛を有する。本発明によるバランサー装置の実施形態において、更に好ましくは、上本体部分に回動可能に取付けられる回動部分を有し、回動部分は、大腿骨取付け部分に固着され、上本体部分に対する回動部分の角度方向位置を表す目盛を有する。
【0016】
このように構成されたバランサー装置は、可動部が上方向に押される荷重を表す目盛を有しているので、前記増分位置で前記所定の荷重を正確に実現することが更に容易になる。
【0017】
上記第2の目的を達成するために、本発明によるバランサー装置の実施形態において、好ましくは、大腿骨取付け部は、上面を有し、膝が伸展位にあるときに、スペーサーが前記上面に取付けられ、膝が屈折位にあるときに、サイジングブロック本体が前記上面に取付けられ、更に好ましくは、ベアリングトライアルのとき、トライアルコンポーネントが前記上面に取付けられる。
【0018】
このように構成されたバランサー装置では、膝が伸張位にあるときも屈曲位にあるときも、大腿骨が同一の大腿骨取付け部によって支持される。したがって、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態と膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態をより容易に整合させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるバランサー装置は、所定の荷重により近い荷重を膝関節部に作用させることができる。
【0020】
また、本発明によるバランサー装置は、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態と膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態をより容易に整合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】膝が伸展位にあるときに使用される本発明によるバランサー装置の斜視図である。
【
図6】膝が屈曲位にあるときに使用される本発明によるバランサー装置の斜視図である。
【
図8】トライアルに使用される本発明によるバランサー装置の斜視図である。
【
図9】人工膝関節を設置した大腿骨及び脛骨を示す概略的な側面断面図である。
【
図10】人工膝関節を設置するために部分的に切除された脛骨及び大腿骨を示す概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、人工膝関節を設置するために大腿骨と脛骨の間に使用される本発明によるバランサー装置の実施形態を説明する。本発明によるバランサー装置は、脛骨を基準として用いられる。以下、脛骨が延びる方向を上下方向Aと称し、脛骨における患者の左右方向及び前後方向をそれぞれ、左右方向B及び前後方向Cと称する(
図1参照)。また、用語「遠位側」及び「近位側」を、患者の胴体に対して用いる。また、以下に説明する実施形態では、左脚を例示する。従って、用語「内側」及び「外側」はそれぞれ、左脚の右側及び左側に対応する。
【0023】
最初、
図1〜
図5を参照して、膝が伸展位にあるときに使用される本発明によるバランサー装置1を説明する。伸展位において、バランサー装置1は、スペーサー12と共に使用される(
図1参照)。
【0024】
図1に示すように、バランサー装置1は、脛骨Tの近位端面Tcに取付けられる脛骨取付け部2と、大腿骨Fの遠位端部(遠位端面Fc1)を支持する大腿骨取付け部4と、大腿骨取付け部4を脛骨取付け部2に対して脛骨Tの近位端面Tcと垂直な方向(上下方向)Aに移動させる移動機構6を有している。移動機構6は、脛骨取付け部2が取付けられる固定部8と、大腿骨取付け部4を脛骨取付け部2に対して移動可能に大腿骨取付け部4及び固定部8に取付けられる可動部10を有している。
【0025】
図2に示すように、脛骨取付け部2は、脛骨Tの近位端面Tcに位置決めされる位置決め部分2aと、位置決め部分2aから前方に向かって延びる支持アーム2bと、支持アーム2bを固定部8に取付けるための結合部分2cを有している。位置決め部分2aは、プレート状であり、脛骨Tの近位端面Tcに載せられる下面2dを有している。支持アーム2bは、脛骨取付け部2を脛骨Tの近位端面Tcに位置決めしたときに、脛骨Tの中心から左方又は右方にずらされて配置されることが好ましい。結合部分2cは、固定部8(具体的には、後述する下本体部分18)の左右方向Bの両側に設けられたT字状の突起14の一方に嵌合し且つ下方からスライド式に挿入可能であり、挿入後に突起14に当接する当接面2eを有している。脛骨取付け部2は、結合部分2c及び突起14を介して固定部8(下本体部分18)にボルト2f(
図5参照)によって固着されている。
【0026】
大腿骨取付け部4は、大腿骨Fと脛骨取付け部2の間に配置されるアタッチメント部分4aと、アタッチメント部分4aから前方に向かって延びる支持アーム4bと、支持アーム4bを可動部10に取付けるための結合部分4cを有している。アタッチメント部分4aは、プレート状であり、スペーサー12(
図1参照)等が取付けられる上面4dを有している。支持アーム4bは、大腿骨取付け部4を大腿骨Fと脛骨取付け部2の間に位置決めしたときに、大腿骨Fの中心から左方又は右方にずらされて配置されることが好ましい。ずらされる方向は、脛骨取付け部2の支持アーム2bがずらされる方向と同じであることが好ましい。結合部分4cは、可動部10(具体的には、後述する回動部分30)の左右方向Bの両側に設けられたT字状の突起16(片方だけを
図2に示す)の一方に嵌合し且つ上方からスライド式に挿入可能であり、挿入後に突起16に当接する当接面4eを有している。大腿骨取付け部4は、結合部分4c及び突起16を介して可動部10(回動部分30)にボルト4f(
図5参照)によって固着されている。
【0027】
図2〜
図4に示すように、移動機構6の固定部8は、縦長の下本体部分18と、左右方向Bに延びるように下本体部分18の下部に設けられた左右方向孔18aに回転可能に支持された回転体20を有している。下本体部分18は、後述する可動部10のスライドラック部分26を上下方向Aに移動可能に受入れるように貫通する上下方向孔18bを有し、後述する目盛プレート34を摺動可能に受入れる上下方向溝18cを有している。回転体20は、スライドラック部分26に作動的に係合するピニオン20aを有している。スライドラック部分26とピニオン20aを係合させるために、左右方向孔18aと上下方向孔18bは互いに連通している。回転体20の先端部は、回転体20を回転させるための工具(例えば、Tレンチ)が嵌合する凸部20b又は凹部を有している。回転体20のピニオン20aを回転させることにより、可動部10のスライドラック部分26を固定部8に対して上下方向Aに移動させ、すなわち、大腿骨取付け部4を脛骨取付け部2に対して上下方向Aに移動させることを可能にする。
【0028】
移動機構6は、更に、可動部10を固定部8に対して、機械的に決められた増分でロックするロック機構22を有し、それにより、大腿骨取り付け部4が脛骨取付け部2に対して下降することを阻止する。具体的には、ロック機構22は、回転体20の周囲に設けられた多数の引掛り部22aに係合可能な爪付きレバー22bと、爪付きレバー22bを枢動可能に支持する軸22cと、可動部10が下降することを阻止するように(即ち、可動部10を持ち上げた状態に維持するように)、爪付きレバー22bを引掛り部22aに向かって付勢するばね22dによって構成されている。
【0029】
図2に示すように、移動機構6の固定部8は、更に、脛骨取付け部2よりも下方において脛骨Tに(実際には、脛骨上の皮膚に)当接する補助支持部24を有していることが好ましい。具体的には、補助支持部24は、脛骨Tに向かって斜め下方に傾斜するように下本体部分18に設けられたガイド突起24aと、ガイド突起24aから脛骨Tに向かって延びる延長要素24bと、延長要素24bを固定部8(具体的には、下本体部分18)に固着させるノブ24cとによって構成されている。延長要素24bは、ガイド突起24aに沿って摺動可能であり、脛骨T上の皮膚に当接した状態で固定部8(下本体部分18)に固着させられる。
【0030】
図2〜
図4に示すように、移動機構6の可動部10は、固定部8の下本体部分18の上下方向孔18bに嵌合する筒状のスライドラック部分26と、スライドラック部分26に対して上下方向Aに移動可能な上本体部分28と、上本体部分28の上部28eに回動可能に取付けられる回動部分30と、上本体部分28をスライドラック部分26に対して上方に付勢するばね32を有している。
【0031】
図3及び
図4に示すように、スライドラック部分26は、上下方向貫通孔26aと、ピニオン20aに係合するラック部分26bを有し、上下方向貫通孔26aの下部に、貫通孔26dを有する底蓋26cが設けられている。
【0032】
上本体部分28は、下本体部分18の上下方向孔18bに嵌合する第1の部分28aと、第1の部分28aから下方に延び且つ第1の部分28aよりも小さい外径を有する第2の部分28bと、第2の部分28bの下端部に取付けられ且つ第2の部分28bよりも大きい外径を有するストッパ28dと、第1の部分28aの上に設けられた上部28eを有している。本実施形態では、下本体部分18の上下方向孔18bは、上本体部分28の第1の部分28aが嵌合する比較的小径の上部分と、スライドラック部分26が嵌合する比較的大径の下部分を有している。第2の部分28bは、底蓋26cの貫通孔26dに嵌合している。ばね32が、第1の部分28aと第2の部分28bの間の段付き部と底蓋28dの間に配置され、それらに当接している。かくして、可動部10は、上下方向Aに伸縮可能であり且つ伸びる方向に付勢され、可動部10が伸びる向きは、大腿骨取付け部4を脛骨取付け部2から引離す向きである。
【0033】
図2〜
図4に示すように、回動部分30は、上本体部分28の上部28eに設けられた円形の前後方向孔28fに回動可能に挿入されたシャフト部分30aと、シャフト部分30aから後方に延び且つ大腿骨取付け部分4と結合される結合部分30bと、シャフト部分30aのうち前後方向孔28fから前方向に突出した部分に取外し可能に取付けられる針部分30cを有している。上部28eの上面28gは、前後方向孔28fの軸線28hを中心とする弧状に形成され、回動部分30bは、上面28gに摺動可能に当接する当接面30dを有することが好ましい。
【0034】
図2〜
図5に示すように、上本体部分28はまた、下本体部分18の上下方向溝18cに摺動可能に配置された目盛プレート34を有している。目盛プレート34は、上本体部分28の上部28eに取付けられ、下部目盛34aと、中間目盛34bと、上部目盛34cを有している。下部目盛34a及び中間目盛34bは、溝18cに沿って下本体部分18に設けられた窓18dを通して見ることができる。
【0035】
下部目盛34aは、固定部8に対して可動部10が上方向に押される荷重、すなわち、脛骨取付け部2に対して大腿骨取付け部4に作用する上向きの荷重を表す目盛であり、スライドラック部分26に設けられた指示線26e(
図2及び
図5参照。本実施形態では、刻み)によって指示される。指示線26eは、下本体部分18及び目盛プレート34に設けられ且つ互いに整列した窓18e、34dを通して見ることができる。
【0036】
中間目盛34bは、固定部8に対する可動部10の上下方向位置、すなわち、脛骨取付け部2に対する大腿骨取付け部4の上下方向位置を表す目盛であり、窓18dの縁に設けられた指示線18f(
図2及び
図5参照。本実施形態では、刻み)によって指示される。
【0037】
上部目盛34cは、上本体部分28に対する回動部分30の角度方向位置、すなわち、脛骨取付け部2に対する大腿骨取付け部4の角度方向位置を表す目盛であり、針部分30cによって指示される。脛骨取付け部2の下面2dと後述するスペーサー12の上面12bが平行になるとき(
図3参照)、すなわち、脛骨Tの近位端面Tcと大腿骨のFの遠位端面Fc1が平行であるとき、針部分30cは零を示す。
【0038】
図1及び
図3に示すように、スペーサー12は、大腿骨取付け部4の上面4dに載せられる下面12aと、下面12aと平行な上面12bを有している。下面12aは、大腿骨取付け部4の上面4dに設けられた2つの孔4f(
図4参照)に嵌合可能な2つの突起12cを有している。
【0039】
次に、
図6及び
図7を参照して、膝を屈曲位にした状態で使用されるバランサー装置1について説明する。屈曲位において、バランサー装置1は、サイジングユニット36と共に使用される。
【0040】
図6及び
図7に示すように、サイジングブロックユニット36が、
図1及び
図3に示したスペーサー12の代わりにバランサー装置1に取付けられている。具体的には、サイジングブロックユニット36は、サイジングブロックタワー38と、サイジングブロック本体40を有している。
【0041】
サイジングブロックタワー38は、上下方向に延び且つ非円形断面を有するタワー本体38aと、タワー本体38aから下方に突出する取付け突起38bを有している。サイジングブロックタワー38は、大腿骨取付け部4のアタッチメント部分4aの前方に設けられた孔4gを貫通可能である。孔4gを貫通したサイジングブロックタワー38の取付け突起38bは、脛骨取付け部2の位置決め部分2aに設けられた孔2fに嵌合可能であり、それにより、サイジングブロックタワー38は、脛骨取付け部2から上方に延びる。
【0042】
サイジングブロック本体40は、タワー本体38aに摺動可能に嵌合する上下方向孔40aと、大腿骨取付け部4の上面4dに当接する下面40bと、骨切りジグ(図示せず)の設置基準孔を大腿骨Fの遠位端面Fc1に形成するための貫通ガイド孔40cと、大腿骨コンポーネント106(
図9参照)を大腿骨Fに装着するための設置面Fc2を大腿骨Fに骨切りするためのガイド溝40dを有している。したがって、可動部10を固定部8に対して上下方向Aに移動させると、大腿骨取付け部4が脛骨取付け部2に対して上下方向Aに移動し、サイジングブロック本体40がサイジングブロックタワー38に対して上下方向Aに移動する。
【0043】
次に、
図8を参照して、ベアリングトライアルに使用されるバランサー装置1について説明する。ベアリングライアルは、大腿骨Fに取付けられる大腿骨コンポーネント106と同じ形状を有する試験用の大腿骨コンポーネントである大腿骨コンポーネントトライアル106’を大腿骨Fに取付けて、靭帯の緊張状態を確認することである。ベアリングトライアルにおいて、バランサー装置1は、トライアル用スペーサー42と共に使用される。
【0044】
図8に示すように、トライアル用スペーサー42が、
図1及び
図3に示したスペーサー12の代わりにバランサー装置1に取付けられている。トライアル用スペーサー42は、大腿骨取付け部4の上面4dに載せられる下面42aと、大腿骨コンポーネントトライアル106’を摺動可能に支持する上面42bを有している。下面42aは、大腿骨取付け部4の上面4dに設けられた2つの孔4f(
図2及び
図4参照)に嵌合可能な2つの突起(図示せず)を有している。
【0045】
バランサー装置1の各構成要素、スペーサー12、サイジングブロックユニット36、及びトライアル用スペーサー42は、滅菌装置(オートクレーブ)による滅菌を可能にする材料で作られるのがよい。かかる材料は、例えば、ステンレススチール材である。
【0046】
次に、本発明によるバランサー装置の作用を説明する。
【0047】
患者の膝を伸展位にして、スペーサー12を取付けたバランサー装置1を脛骨Tと大腿骨Fの間に配置する。具体的には、脛骨取付け部2を脛骨Tの近位端面Tcに取付ける。また、脛骨取付け部2の位置決め部分2aが脛骨Tの近位端面Tcに押し付けられた状態で、補助支持部24の延長要素24bをガイド突起24aに沿って移動させて脛骨Tに当接させ、延長要素24bを下本体部分18にノブ24cによって固定する。それにより、移動機構6等の重さで、脛骨取付け部2の位置決め部分2aが脛骨Tの近位端面Tcから離れて、バランサー装置1が傾いて取付けられることを防止する。脛骨取付け部2の支持アーム2b及び大腿骨取付け部4の支持アーム4bが、脛骨Tの右方(又は左方)にずらされて配置されるので、バランサー装置1は、膝蓋靭帯に干渉せずに操作される。
【0048】
Tハンドル等を、回転体20の凸部20bに係合させて回転させることにより、ピニオン20a回転させ、スライドラック部分26を介して可動部10を持上げ、大腿骨取付け部4を大腿骨Fの遠位端面Fc1に接触させ、更にそれを持上げる。ロック機構22により、回転体22は、大腿骨取付け部4を下降させる方向に回転することが阻止され、大腿骨取付け部4を持上げた状態に維持する。
【0049】
靭帯の緊張状態を調整するために、可動部10を固定部8に対して上方向に移動させることにより、大腿骨取付け部4を脛骨取付け部2から徐々に遠ざける。上述したように、可動部10は、固定部8に対して機械的に決められた増分位置でロックするロック機構22によって、靭帯の緊張によって生じる力に抗してロックされる。一方、可動部10は上下方向Aに伸縮可能であり且つ伸びる方向に付勢されているので、大腿骨取付け部4及びスペーサー12は、靭帯の緊張とつりあう荷重で大腿骨Fの遠位端面Fc1に常に押付けられている状態にある。したがって、機械的に決められた増分位置に拘束されない靭帯の緊張状態で靭帯を調整することが可能になり、所定の荷重により近い荷重を膝関節部に作用させることができる。
【0050】
大腿骨Fの遠位端面Fc1と脛骨Tの近位端面Tcの間に働く荷重は、ばね32の縮み量によって定まり、下側目盛34aによって読取ることができる。大腿骨Fと脛骨Tの間の靭帯の緊張状態(テンション及び左右のバランス)が所定の荷重になるように、靭帯を調整する。靭帯の一部を切断するなどして靭帯の緊張状態を変化させるとき、可動部10が上下方向Aに伸縮して、靭帯の緊張状態の変化に追従する。更に、上記荷重の変化は、下側目盛34aに反映される。その結果、前記増分位置で前記所定の荷重を正確に実現することが容易になる。なお、大腿骨Fと脛骨Tの間の間隔は、上下方向目盛34bが参考になり、靭帯の左右のバランスは、角度方向目盛34cが参考になる。
【0051】
伸展位における靭帯の調整が終了したら、屈曲位における靭帯の調整を行うために、スペーサー12をバランサー装置1から取外し、サイジングブロックユニット36をバランサー装置1に取付ける。このとき、膝が伸張位にあるときも屈曲位にあるときも、大腿骨Fが同一の大腿骨取付け部4によって支持され、好ましくは、バランサー装置1を患者から取外す必要がない。したがって、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態と膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態をより容易に整合させることができる。
【0052】
屈曲位における靭帯の調整が終了したら、ベアリングトライアルを行うために、サイジングブロックユニット36をバランサー装置1から取外し、トライアル用スペーサー42をバランサー装置1に取付ける。このとき、膝が伸展位又は屈曲位にあるときもベアリングトライアルを行うときも、大腿骨Fが同一の大腿骨取付け部4によって支持され、好ましくは、バランサー装置1を患者から取外す必要がない。したがって、ベアリングトライアルは、膝が伸張位にあるときに計測した緊張状態及び膝が屈曲位にあるときに計測した緊張状態と略同じ状態で行われる。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0054】
上記実施形態では、上本体部分28の第1の部分28aは、下本体部分18の上下方向孔18bの比較的小径の上部分に嵌合していたけれども、スライドラック部分26の上下方向貫通孔26aに嵌合するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 バランサー装置
2 脛骨取付け部
4 大腿骨取付け部
4d 上面
6 移動機構
8 固定部
10 可動部
18b 上下方向孔
22 ロック機構
26 スライドラック部分
28 上本体部分
30 回動部分
32 ばね
34a 下部目盛
34b 中間目盛
34c 上部目盛
A 上下方向
F 大腿骨
Fc1 遠位端面
T 脛骨
Tc 近位端面