特許第6303334号(P6303334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303334
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】電力変換装置のデッドタイム補償装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/537 20060101AFI20180326BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180326BHJP
【FI】
   H02M7/537 C
   H02M7/48 F
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-177445(P2013-177445)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-47021(P2015-47021A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
(72)【発明者】
【氏名】山本 康弘
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−065516(JP,A)
【文献】 特開2011−044920(JP,A)
【文献】 特開2008−099362(JP,A)
【文献】 特開平10−164831(JP,A)
【文献】 特開2008−128897(JP,A)
【文献】 特開平08−266064(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0066384(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0043393(US,A1)
【文献】 特開2000−101523(JP,A)
【文献】 特開2000−244324(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0172161(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02219040(EP,A1)
【文献】 特開2006−333063(JP,A)
【文献】 特開平2−196523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/537
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置のスイッチング素子をPWMゲート信号によってオン・オフ制御するものであって、PWM変調部でデッドタイムによる誤差電圧を補償するものにおいて、
前記電力変換装置はPWMインバータ若しくはPWMコンバータであって、
前記電力変換装置の入力電圧、若しくは出力電圧を電圧検出回路にて検出し、この電圧検出回路に△Σ変調を行うA/D変換器を用い、このA/D変換器により変換されたビットデータを積算し、積算値をPWMゲート信号生成用キャリアに同期したタイミングでディジタル値に変換して電圧検出回路から基本波成分として出力すると共に、
前記電力変換装置の電圧指令と算出された基本波成分との差分を算出し、この差分と電圧指令の加算値を誤差電圧補償値として前記PWM変調部に出力することを特徴とした電力変換装置のデッドタイム補償装置。
【請求項2】
前記電圧検出回路は、
入力されたアナログの電圧信号を△Σモジュレータでクロック信号に基づいてビットデータに変換し、変換されたビットデータを積算する積算器と、
積算された積算値をキャリアに同期したタイミングで取り込んで積算値の変化量を算出する積算変化量算出部と、
前記積算器における積算値をカウントし、キャリアに同期したタイミングでカウント値を取り込んで積算回数を算出する積算回数算出部と、
前記積算値の変化量を前記積算回数で除算する除算部、
とで構成したことを特徴とした請求項1記載の電力変換装置のデッドタイム補償装置。
【請求項3】
前記電力変換装置の電圧指令をサンプラーによって遅延させ、遅延した電圧指令と前記基本波成分との差分を算出し、この差分と電圧指令の加算値を誤差電圧補償値として前記PWM変調部に出力することを特徴とした請求項1又は2記載の電力変換装置のデッドタイム補償装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置のデッドタイム補償装置に係わり、特に検出電圧を入力して△Σ変調を行うA/D変換器を用いて出力電圧誤差を補償するデッドタイム補償装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IGBT等のスイッチング素子の制御により、直流電力を交流電力に変換するインバータでは、インバータの上下アームの短絡防止ためにデッドタイムが設けられる。このインバータの制御において、出力する電圧指令と実際に出力される電圧の間にはデッドタイムやスイッチング素子の電圧降下などにより誤差が発生する。この電圧誤差は出力電流波形に歪を生じさせ、モータを駆動した場合にはトルクリプルが生じる等、制御性能に悪影響を及ぼす。
【0003】
この電圧誤差を補償(以下デッドタイム補償という)する手法は数多く提案されている。例えば、特許文献1のように、出力電流の極性に応じて方形波や台形波電圧を電圧指令に重畳する方式や、非特許文献のように、誤差電圧成分を外乱とし、外乱オブザーバを用いて誤差電圧を推定して電圧指令の補償を行う方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−145368
【非特許文献】
【0005】
伊東他、「ベクトル制御における外乱オブザーバを用いたインバータの出力電圧の誤差補償手法の解析」、電学論D、vol.128.No.8.pp.1005−1012(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4は、特許文献1に記載されたインバータのデッドタイム補償装置の回路図で、CTにより検出した電流を比較器と補償量演算器に入力する。比較器では電流の大小及び極性に応じて出力されるパルス状の信号と、補償量演算器は周波数設定器で設定された周波数に応じた補償量とを乗算した後、積分器を介して補償電圧とし、PWM電圧指令値に加算してPWMパルス演算器に出力するものである。
【0007】
この特許文献1の方式では、電流の極性に応じて補償量の切替えを行っているが、電流の周波数が低い場合には電流の傾きが小さいため零付近になる時間が長くなり、極性判定が難しくなるため補償量の切替えが難しくなる。また、スイッチング素子のオン電圧降下は温度による変化があり、素子によるオン電圧降下のバラツキも大きいため、電圧誤差成分を除去することは難しくなっている。
【0008】
図5は非特許文献に記載された外乱オブザーバを用いた補償法のブロック図で、外乱オブザーバでは、電圧指令と実際のモータ端子電圧の差を求めて外乱を推定する。推定した外乱は外乱補償電圧Vcomp(Vdcomp,Vqcomp)として電圧指令に加算することでデッドタイム誤差電圧補償を行っている。この非特許文献の方式は、オブザーバにより電圧誤差を推定して補償を行うため電流の極性に応じて補償を行うため、特許文献1のように電流の極性に応じて切替える必要はなく、或る程度の電圧誤差分の変動にも対応できる。
【0009】
しかし、電圧誤差を推定するオブザーバの演算は、電流制御周期よりも高速に演算する必要があるため高速な演算能力を備えた機能が必要となる。また、モータ定数を用いるので定数が未知のモータに適用することができなく、更に、モータ定数が大きく変動した場合には不安定になる可能性もある。
【0010】
本発明が目的とするところは、電流の切替えや高速で複雑な演算をすることなく、簡単にデッドタイム、オン電圧降下による出力電圧誤差を補償する電力変換装置のデッドタイム補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、電力変換装置のスイッチング素子をPWMゲート信号によってオン・オフ制御するものであって、PWM変調部でデッドタイムによる誤差電圧を補償するものにおいて、
前記電力変換装置はPWMインバータ若しくはPWMコンバータであって、
前記電力変換装置の入力電圧、若しくは出力電圧を電圧検出回路にて検出し、この電圧検出回路に△Σ変調を行うA/D変換器を用い、このA/D変換器により変換されたビットデータを積算し、積算値をPWMゲート信号生成用キャリアに同期したタイミングでディジタル値に変換して電圧検出回路から基本波成分として出力すると共に、
前記電力変換装置の電圧指令と算出された基本波成分との差分を算出し、この差分と電圧指令の加算値を誤差電圧補償値として前記PWM変調部に出力することを特徴としたものである。
【0012】
本発明の請求項2は、前記電圧検出回路を、入力されたアナログの電圧信号を△Σモジュレータでクロック信号に基づいてビットデータに変換し、変換されたビットデータを積算する積算器と、
積算された積算値をキャリアに同期したタイミングで取り込んで積算値の変化量を算出する積算変化量算出部と、
前記積算器における積算値をカウントし、キャリアに同期したタイミングでカウント値を取り込んで積算回数を算出する積算回数算出部と、
前記積算値の変化量を前記積算回数で除算する除算部、
とで構成したことを特徴としたものである。
【0013】
本発明の請求項3は、前記電力変換装置の電圧指令をサンプラーによって遅延させ、遅延した電圧指令と前記基本波成分との差分を算出し、この差分と電圧指令の加算値を誤差電圧補償値として前記PWM変調部に出力することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のとおり、本発明によれば、検出電圧を△Σ変調して基本波成分を算出し、この基本波成分と電圧指令との差分を電圧指令に加算してデッドタイム、オン電圧降下による出力電圧誤差の補償信号としたものである。これにより、従来のような電流の切り替えや高速で複雑な演算を用いることなく、簡単にデッドタイム、オン電圧降下による出力電圧誤差を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態を示すデッドタイム補償装置の構成図。
図2】本発明の電圧検出部の構成図。
図3】本発明の電圧検出回路の構成図。
図4】従来のデッドタイム補償装置の構成図。
図5】従来のデッドタイム補償装置の構成図。
図6】実験結果の波形図で、(a)は本発明の場合、(b)は本発明のデッドタイム補償を除いた場合。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施例を示すデッドタイム補償装置の構成図で、1は直流電源部、2はスイッチング素子よりなるインバータの主回路部、3はPWM変調部で、入力された電圧指令、直流電圧vdcおよびキャリアcryに基づいてPWMゲート信号を生成して主回路部2に出力し、主回路部2において直流電圧をU,V,Wの三相交流電圧に変換する。10は本発明による電圧検出部、20は制御部で、この制御部20はデッドタイム補償部分のみを表現している。
【0017】
図2は電圧検出部10の概略構成で、抵抗分圧回路11と電圧検出回路12を備えている。電圧検出部10は、インバータの出力電圧u,v,wを直接抵抗R1,R2で分圧した電圧vu,vv,vwをAD変換器13に入力する。AD変換器13で離散値となったデータは基本波成分となって制御部へ送られる。
【0018】
図3は電圧検出回路12の構成図でU相分を代表として示している。AD変換器13には、△Σモジュレータ13aが用いられて△Σ変調される。そのために、△Σモジュレータ13aには絶縁回路13cを介して1ビット1-bitのクロック信号clk-vが印加され、入力されたアナログの電圧vuは△Σモジュレータ13aにおいて1ビットデータSm-vに変換され、絶縁回路13bを介して出力される。絶縁回路13b,13cは、1ビットデータであるので、フォトカプラ等によって容易に絶縁することができる。
【0019】
絶縁回路13bを経た絶縁後の1ビットデータSmは、FPGA等による積算部14でクロックclkに基づいて積算され、積算値ΣSmはキャリア発生部によるキャリアcry と同期した割込みタイミングintcで積算変化量算出部15に入力される。なお、図3における割込みタイミングintcはキャリア周期の1/2のタイミングとしている。
【0020】
積算変化量算出部15は、積分値の変化量演算部15aと積分値の変化量演算部15bより構成される。変化量演算部15aでは、現在の積算値ΣSm(n)と前回の積算値ΣSm(n-1)からその変化量、△V=ΣSm(n)−ΣSm(n-1)を演算する。
変化量演算部15bでは、今回の変化量△V(n)と前回の変化量△V(n-1) との和、△V(n)+△V(n-1)を求めて除算部18に出力する。この△V(n)+△V(n-1)は、キャリア1周期分の変化量に相当する。
【0021】
一方、クロックclkはカウント部16に入力されてクロックがカウントされ、カウント値N(n)は割込みタイミングintcで積算回数算出部17に入力される。積算回数算出部17は、積算回数の変化量演算部17aと積算回数の変化量積算部17bより構成される。変化量演算部17aでは、現在のカウント値N(n)と前回のカウント値N(n-1)との積算回数の差、△N(n)=N(n)−N(n-1)を求める。
【0022】
変化量積算部17bでは、今回の積算回数△N(n)と前回の積算回数△N(n-1) との和、△N(n)+△N(n-1)を求めて除算部18に出力する。この△N(n)+△N(n-1)は、キャリア1周期分の変化量に相当する。
除算部18では、積算値の変化量△V(n)+△V(n-1)を積算回数△N(n)+△N(n-1)で除算することでPWM電圧の基本波成分を得る。
【0023】
なお、図3では割込みタイミングintcをキャリア周期の1/2とした場合であるが、電圧検出値s-vu,s-vv,s-vwをデッドタイム補償に用いる場合には、電圧指令の更新周期と同じか、若しくはそれよりも早くすることが望ましい。
【0024】
次に、図1を用いてデッドタイム補償について説明する。制御部20には電圧指令値v*-u,v*-v,v*-wが入力されており、サンプラー21を経て遅延された電圧指令値v*-u-z,v*-v-z,v*-w-zと、電圧検出部10による検出電圧の基本波成分s-vu,s-vv,s-vwとの差分をとり、デッドタイム補償量△v-u,△v-v,△v-wが算出される。このデッドタイム補償量を電圧指令値v*-u,v*-v,v*-wに加算した値がデッドタイム補償値としてゲート信号生成部に入力される。
【0025】
ゲート信号生成部では、このデッドタイム補償された電圧指令値と検出された直流電圧vdcからインバータのスイッチング素子をオン・オフ制御するゲート信号が生成される。なお、電圧検出にはPWM出力期間や検出遅れが存在する。正確な電圧誤差成分を演算するためには、この時間遅れ分を補正する必要がある。そこで、制御部20に設けたサンプラー21により電圧指令を遅延させて、電圧検出タイミングと整合させている。
【0026】
上記では、インバータの主回路部2を構成するスイッチング素子のオン・オフ制御の場合についての説明であるが、本発明では、電力変換装置において交流電力を直流電力に変換するPWMコンバータにも同様にして適用できる。PWMコンバータ適用時には、図1で示すインバータ出力電圧vn-u,vn-v,vn-wがコンバータ入力電圧となる。
また、実施例では、三相インバータについて説明しているが、単相若しくは多相のPWMインバータ、PWMコンバータにも適用できることは勿論である。
【0027】
図6は実験結果の波形図を示したもので、図6(a)は本発明の場合、図6(b)は図1においてデッドタイム補償量を電圧指令に加算していない場合の結果である。図で明らかなように、図6(b)においては電圧指令CH2と電圧検出値CH1との誤差は比較的大きくなっているのに対し、本発明を適用した図6(a)での電圧指令CH2と電圧検出値CH1との誤差は小さくなっている。また、CH6で示す出力電流は、図6(b)においては電流0A付近で歪が発生しているのに対し、図6(a)では、出力電流CH6の0A付近での歪も減少していることが分る。
【符号の説明】
【0028】
1… 直流電源部
2… 主回路部
3… PWM変調部
10… 電圧検出部
11… 抵抗分圧回路
12… 電圧検出回路
13… A/D変換器
14… 積算部
15… 積算変化量算出部
16… カウント部
17… 積算回数算出部
18… 除算部
20… 制御部
21… サンプラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6