(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303358
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
H01L 51/30 20060101AFI20180326BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20180326BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20180326BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
H01L29/28 250H
H01L29/78 616V
H01L29/78 618B
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L29/28 100A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-198561(P2013-198561)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-65317(P2015-65317A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 ちひろ
【審査官】
鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−158710(JP,A)
【文献】
特開2008−124164(JP,A)
【文献】
特開2006−077171(JP,A)
【文献】
特表2013−520811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/336
H01L 27/28
H01L 29/786
H01L 51/00
H01L 51/05−51/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上に少なくともゲート電極と、ゲート絶縁層と、ソース電極及びドレイン電極と、有機半導体層とを有する薄膜トランジスタであって、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間、並びに、前記ソース電極及び前記ドレイン電極上に前記有機半導体層が積層されてなり、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極は少なくとも一種以上の金属から構成され、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極を構成する金属の一種が銀であり、
前記有機半導体層は前記ソース電極及び前記ドレイン電極を構成する金属イオンと結合する化合物を含有し、
前記有機半導体層に含有される金属イオンと結合する化合物はベンゾトリアゾール系またはトリアジン系であり、
前記ソース電極と前記有機半導体層との間及び前記ドレイン電極と前記有機半導体層との間にはペンタフルオロチオフェノール由来の構成単位を有する自己組織化単分子膜が形成されてなり、
前記有機半導体層の前記ソース電極表面及び前記ドレイン電極表面の被覆率が80%以上であることを特徴とする薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般的な平面薄型画像表示装置は非晶質シリコンや多結晶シリコンを半導体層に用いた薄膜トランジスタのアクティブマトリックスにより駆動されている。
【0003】
一方、平面薄型画像表示装置のさらなる薄型化、軽量化、耐破損性の向上を求めて、ガラス基板の替わりに樹脂基板を用いる試みが近年なされている。
【0004】
しかし、上述のシリコンを用いる薄膜トランジスタの製造は、比較的高温の熱工程を要し、一般的に耐熱性の低い樹脂基板上に直接形成することは困難である。
【0005】
そこで、低温形成が可能な有機半導体を用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている。
【0006】
また、有機半導体は印刷法によってパターニングが可能であるという長所を有する。さらに、有機半導体を用いた薄膜トランジスタは半導体層だけでなく、電極やゲート絶縁層も印刷法によって形成可能な材料を選択することにより、薄膜トランジスタを構成する層を全て印刷により形成することも可能である。
【0007】
印刷法を用いることにより、真空成膜・フォトリソグラフィーにより製造されるシリコン系薄膜とトランジスタと比較して製造コストの大幅な削減が期待される。
【0008】
薄膜トランジスタの電極材料としては銀が用いられることが最も一般的である(非特許文献1、2)。しかし、有機半導体材料を銀電極上へ塗布した際に、有機半導体材料と銀電極との濡れ性が悪く、有機半導体材料と銀電極が十分に接触していないことが問題となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Vol.15 No.13、4976(2008)
【非特許文献2】Applied Physics Letters 95、253302(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機半導体材料と銀電極が十分に接触しなければ、薄膜トランジスタのオン電流が減少し、デバイスを動作させる上で所望の特性が得られないこととなる。
【0011】
本発明は、有機半導体層とソース電極及びドレイン電極との接触面積が広く、高いオン電流が得られる薄膜トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明は、絶縁基板上に少なくともゲート電極と、ゲート絶縁層と、ソース電極及びドレイン電極と、有機半導体層とを有する薄膜トランジスタであって、該ソース電極及びドレイン電極は少なくとも一種以上の金属から構成され、該有機半導体層に該ソース電極及びドレイン電極を構成する金属のイオンと結合する化合物を含有させることで、有機半導体層とソース電極及びドレイン電極の接触面積を増加させ、高いオン電流が得られるトランジスタを提供する。
【0013】
有機半導体層中に含まれる化合物がソース電極及びドレイン電極と結合した際に、隣接して存在する有機半導体材料を電極表面近傍に引き寄せ、物理的に接触させることが可能となる。
【0014】
また、ソース電極及びドレイン電極を構成する金属の一種を銀とすることで、金、銅と比較し高導電性かつ低コストの電極を形成することができる。
【0015】
特に、有機半導体層に含有させる金属イオンと結合する化合物をベンゾトリアゾール系またはトリアジン系化合物とすることで、化合物と銀電極の結合が強固となり、半導体層と電極が十分に接触する薄膜トランジスタを形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機半導体層とソース電極及びドレイン電極の接触面積を増加させるので、高いオン電流が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態を示す実施例1及び比較例1の薄膜トランジスタの断面構造を表す概略図である。
【
図2】
図1の薄膜トランジスタの表面側を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。実施の形態において、同一構成要素には同一符号を付け、実施の形態の間において重複する説明は省略する。
【0019】
図1及び
図2に本発明の薄膜トランジスタの一例を示す。絶縁基板10上にゲート電極11、ゲート絶縁層12、ソース電極13およびドレイン電極14、半導体層15を備えたボトムゲート−ボトムコンタクト構造の薄膜トランジスタである。
【0020】
本発明の絶縁基板10としてガラス基板または樹脂基板を用いることができる。樹脂基板の場合、例えば、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルサルフェン、トリアセチルセルロース、ポリビニルフルオライドフィルム、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂、ガラス繊維強化アクリル樹脂フィルム、ガラス繊維強化ポリカーボネート、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等を使用することができる。これらの基板は単独で使用することもでき、二種以上を積層した複合基板を使用することもできる。
【0021】
本発明のゲート電極11には、Ag、Cu、Auなどの低抵抗金属材料をインキ状、ペースト状にしたものをスクリーン印刷、転写印刷、凸版印刷、インクジェット法等で塗布し、焼成することにより形成することができる。PEDOT(ポリエチレンジオキシチフェン)等の導電性有機材料を用いることもできる。また、Mo、Al、Cuなどの低抵抗金属材料を真空成膜し、フォトリソグラフィーを用いてパターニングすることにより形成することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明のゲート絶縁層12としては、例えば、ポリビニルフェノール、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、パリレン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの高分子溶液、アルミナやシリカゲル等の粒子を分散させた溶液、または酸化シリコン、窒化シリコン、シリコンオキシナイトライド、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機材料の前駆体溶液を、スピンコート法やスリットダイコート法等を用いて塗布し、焼成することにより形成することができる。また、上記無機材料を真空成膜法を用いて形成し、フォトリソグラフィー法でパターニングすることにより形成することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明のソース電極13及びドレイン電極14としては、Ag、Cu、Auなどの低抵抗金属材料をインキ状、ペースト状にしたものをスクリーン印刷、転写印刷、凸版印刷、インクジェット法等で塗布し、焼成することにより形成することができるが、特にAgをインキ状またはペースト状にしたものが、低抵抗および低コストという観点から好ましい。またMo、Al、Cuなどの低抵抗金属材料を真空成膜し、フォトリソグラフィーを用いてパターニングすることにより形成することもできるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の有機半導体層15の材料としては、ポリチオフェン、フルオレンビチオフェン共重合体、およびそれらの誘導体のような高分子有機半導体材料、およびペンタセン、テトラセン、銅フタロシアニン、およびそれらの誘導体のような低分子有機半導体材料を用いることができる。また、カーボンナノチューブあるいはフラーレンなどの炭素化合物や半導体ナノ粒子分散液なども半導体層の材料として用いることができるがこれらに限定されるものではない。これらの有機半導体材料はトルエンなどの芳香族系の溶媒に溶解又は分散させてインキ状の溶液又は分散液として用いることができる。溶媒に適当な分散剤や安定剤等の添加剤を加えてもよい。
【0025】
本発明の有機半導体層15には金属イオンと結合する化合物を含有する。例えばベンゾトリア
ゾール系またはトリアジン系の化合物が挙げられる。
【0026】
ベンゾトリアゾール系は化学式1に示されるベンゾトリア
ゾールが基本形であり、他にメタノールの付加物である1H−ベンゾトリアゾール−1−メタノール(化学式2)や、トリアゾール側にアルキル基を付加したもの(化学式3)や、ベンゼン側にアルキル基を付加したものが挙げられる(化学式4)。
【0027】
トリアジンの基本骨格は化学式5に示されるものであり、例えば化学式6に示される2、4−ジアミノ−6−ビニル−S−トリアジン等が挙げられる。
【0029】
有機半導体層15の形成方法としては、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷およびインクジェット法など、公知の方法を用いることができる。一般に、上記の有機半導体に関しては、溶剤に対する溶解度が低いため、低粘度溶液の印刷に適したフレキソ印刷、転写印刷、インクジェット法、ディスペンサを用いることが望ましい。
【0030】
以下、本発明に係る薄膜トランジスタの具体的な実施例について説明する。なお、本発明は各実施例に限るものではない。
【実施例】
【0031】
以下本発明に関わる薄膜トランジスタの具体的な実施例及び比較例について説明する。
【0032】
(実施例1)
実施例1では以下に示すような薄膜トランジスタ素子を作製した。
絶縁基板10となるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に、Moをスパッタリングにて100nm成膜し、フォトリソグラフィー法を用いてゲート電極11を作製した。次に、ゲート絶縁層12となるポリビニルフェノールを、ゲート電極11を含む絶縁基板10上にスピンコート法により成膜し、180℃で1時間ベーク後、膜厚1μmのゲート絶縁層12を得た。続いて、ゲート絶縁膜12上にソース電極13及びドレイン電極14として、ナノ銀インキを転写法を用いて形成し、180℃で1時間ベーク後、膜厚100nmのソース電極13及びドレイン電極14を得た。さらにソース電極13及びドレイン電極14上にペンタフルオロチオフェノールをイソプロピルアルコールで1重量%に希釈した溶液に30分浸漬させ、自己組織化単分子膜を形成した。最後に有機半導体材料である6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンをテトラリンで2重量%になるように溶解させた溶液に、ベンゾトリアゾール系化合物を半導体材料(固形分)と重量比1.5:1として添加し、凸版印刷法を用いて、ソース電極13及びドレイン電極14上の一部を覆うようにしてソース・ドレイン電極間に印刷し、100℃で60分乾燥させて、膜厚50nmの有機半導体層15を形成した。作製したトランジスタのチャネル長は20μm、チャネル幅は250μmである。
【0033】
以上のようにして作製した薄膜トランジスタの素子特性はオフ電流1.1×10
−12A、オン電流2.6×10
−6Aであり、高いオン電流を有する薄膜トランジスタが得られた。また有機半導体材料のチャネル近傍のソース電極及びドレイン電極表面の被覆率は85%であった。
【0034】
(実施例2)
実施例2では以下に示すような薄膜トランジスタ素子を作製した。
絶縁基板10となるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に、Moをスパッタリングにて100nm成膜し、フォトリソグラフィー法を用いてゲート電極11を作製した。次に、ゲート絶縁層12となるポリビニルフェノールを、ゲート電極11を含む絶縁基板10上にスピンコート法により成膜し、180℃で1時間ベーク後、膜厚1μmのゲート絶縁層12を得た。続いて、ゲート絶縁膜12上にソース電極13及びドレイン電極14として、ナノ銀インキを転写法を用いて形成し、180℃で1時間ベーク後、膜厚100nmのソース電極13及びドレイン電極14を得た。さらにソース電極13及びドレイン電極14上にペンタフルオロチオフェノールをイソプロピルアルコールで1重量%に希釈した溶液に30分浸漬させ、自己組織化単分子膜を形成した。最後に有機半導体材料である6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンをテトラリンで2重量%になるように溶解させた溶液に、トリアジン系化合物を半導体材料(固形分)と重量比1:1として添加し、凸版印刷法を用いて、ソース電極13及びドレイン電極14上の一部を覆うようにしてソース・ドレイン電極間に印刷し、100℃で60分乾燥させて、膜厚50nmの有機半導体層15を形成した。作製したトランジスタのチャネル長は20μm、チャネル幅は250μmである。
【0035】
以上のようにして作製した薄膜トランジスタの素子特性はオフ電流1.3×10
−12A、オン電流2.2×10
−6Aであり、高いオン電流を有する薄膜トランジスタが得られた。また有機半導体材料のチャネル近傍のソース電極及びドレイン電極表面の被覆率は80%であった。
【0036】
(比較例1)
比較例では以下に示すような薄膜トランジスタ素子を作製した。
絶縁基板10となるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム上に、Moをスパッタリングにて100nm成膜し、フォトリソグラフィー法を用いてゲート電極11を作製した。次に、ゲート絶縁層12となるポリビニルフェノールを、ゲート電極11を含む絶縁基板10上にスピンコート法により成膜し、180℃で1時間ベーク後、膜厚1μmのゲート絶縁層12を得た。続いて、ゲート絶縁膜12上にソース電極13及びドレイン電極14として、ナノ銀インキを転写法を用いて形成し、180℃で1時間ベーク後、膜厚100nmのソース電極13及びドレイン電極14を得た。さらにソース電極13及びドレイン電極14上にペンタフルオロチオフェノールをイソプロピルアルコールで1重量%に希釈した溶液に30分浸漬させ、自己組織化単分子膜を形成した。最後に有機半導体材料である6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセンをテトラリンで2重量%になるように溶解させた溶液を、凸版印刷法を用いて、ソース電極13及びドレイン電極14上の一部を覆うようにしてソース・ドレイン電極間に印刷し、100℃で60分乾燥させて、膜厚50nmの有機半導体層15を形成した。作製したトランジスタのチャネル長は20μm、チャネル幅は250μmである。
【0037】
以上のようにして有機半導体層に、金属イオンと結合する化合物を添加せずに作製した薄膜トランジスタの素子特性はオフ電流1.3×10
−12A、オン電流7.0×10
−7Aであり、実施例1と比較するとオン電流の値は1/3以下であった。また有機半導体材料のチャネル近傍のソース電極及びドレイン電極表面の被覆率は30%であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
絶縁基板上に少なくともゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極及びドレイン電極、有機半導体層を有する薄膜トランジスタであって、該ソース電極及びドレイン電極は少なくとも一種以上の金属から構成され、該有機半導体層は該ソース電極及びドレイン電極を構成する金属イオンと結合する化合物を含有することで、半導体層とソース電極及びドレイン電極の接触面積が広く、オン電流の高い薄膜トランジスタを提供することができる。このような薄膜トランジスタは、フレキシブル電子ペーパー、圧力センサ等のスイッチング素子として利用できる。
【符号の説明】
【0039】
10 絶縁基板
11 ゲート電極
12 ゲート絶縁層
13 ソース電極
14 ドレイン電極
15 半導体層