(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下で述べる寸法、形状、材質、圧力、減圧比、孔径、熱遷移流ポンプの縦続接続数等は説明のための例示であって、熱遷移流ポンプシステムの仕様に応じ適宜変更が可能である。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、熱遷移流ポンプシステム10の構成図である。(a)は全体構成図、(b)は熱遷移流ポンプの内部構成を示す図である。この熱遷移流ポンプシステム10は、5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28を縦続接続して、大気圧P
0からP
-1,P
-2,P
-3,P
-4,P
-5と5段階の減圧を行い、減圧チャンバ12の内部空間である減圧室14の圧力をP
-5とするシステムである。試料8は、減圧下で処理が行われる対象物である。減圧チャンバ12は、熱遷移流ポンプシステム10の構成要素としてもよく、しなくてもよい。
【0022】
なお、圧力Pに付記した(−1,−2,−3,−4,−5)の(−)の符号は大気圧P
0よりも低い圧力であることを示し、(−)の後の数字は、値が大きいほど高真空であることを示す。圧力計16は、減圧室の圧力を検出する圧力検出手段である。
【0023】
熱遷移流ポンプシステム10を構成する5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28は、
図2以下で述べる細孔径の相違を除いて基本構成は同じであるので、その中の熱遷移流ポンプ24に代表させて、その基本構成について、
図1(b)を用いて説明する。
【0024】
ケーシング30は、凹部を有する蓋型部材である。ケーシング30は、次に述べるヒートシンク32と一体化して熱遷移流ポンプ24の外形を形作り、凹部によって内部空間を形成する。かかるケーシング30は、気密性を有し熱絶縁性の良好な材料を用いることができる。例えば、セラミック、耐熱性プラスチック等を用いることができる。
【0025】
ヒートシンク32は、熱伝導率の大きな材料で構成され、熱遷移流を発生させる温度差を形成するために低温側となる中実筒部材である。かかるヒートシンク32としては、断面が円形や矩形等の形状に成形された金属製の円柱や角柱を用いることができる。金属の材質としては、銅、アルミニウム等を用いることができる。
【0026】
ヒートシンクの32の一方側の端面を含む外壁は大気に面し、必要があれば、適当な放熱フィンを設け、あるいは冷媒流路を設けて冷却してもよい。ヒートシンク32の他方側の端面33は、平坦面に加工され、ケーシング30の凹部の先端面と気密に接合される。これによって、ケーシング30とヒートシンク32の一体化によって形成される内部空間は、次に述べる吸入路35と排出路37を除いて、気密空間となる。
【0027】
吸入口34は、熱遷移流ポンプ24の内部空間へ媒体気体が吸い込まれる流入口である。吸入口34は、ヒートシンク32の内部に設けられる吸入路35の一方側の開口部で、ヒートシンク32の外壁に設けられる。吸入口34における媒体気体の圧力は、
図1の例ではP
-3である。吸入路35の他方側の開口部は、ケーシング30とヒートシンク32とで形成される熱遷移流ポンプ24の内部空間に面してケーシング30の他方側の端面33に設けられる。ここで媒体気体とは、熱遷移流ポンプ24の内部空間にある気体、特に多孔体膜50の周囲にあって熱遷移流を生じさせる周囲気体のことである。したがって、媒体気体の平均自由行程とは、周囲気体の圧力や温度等で決まる。
【0028】
排出口36は、熱遷移流ポンプ24の内部空間から媒体気体を排出する流出口である。排出口36は、ヒートシンク32の内部に設けられる排出路37の一方側の開口部で、吸入口34とは別の場所でヒートシンク32の外壁に設けられる。排出口36における媒体気体の圧力は、
図1の例ではP
-2である。ここで、P
-2は吸入口34の圧力のP
-3よりも大気圧P
0に近い高圧である。排出路37の他方側の開口部は、ケーシング30とヒートシンク32とで形成される熱遷移流ポンプ24の内部空間に面してケーシング30の他方側の端面33に、吸入路35の他方側の開口部とは別の場所に設けられる。
【0029】
ヒータ38は、配線40によって外部から電力が供給されて発熱する発熱体である。ヒータ38としては、赤外線を放出する赤外ヒータ等を用いることができる。抵抗線ヒータ等を用いてもよい。
【0030】
多孔体膜50は、細孔52を含む細孔体膜で、複数の細孔52を所定の多孔率で有する多孔質の膜を用いることができる。細孔52は、媒体気体の平均自由行程の5倍の長さ以下の孔径を有する。孔径の詳細については、
図3から
図5を用いて後述する。多孔体膜50は、熱伝導率の小さい材料で構成される。熱伝導率としては、0.2W/(m・K)以下が好ましい。多孔体膜50における細孔52の多孔率は、例えば、孔部分の体積占有率で評価表出来る。多孔率の一例を挙げると、約90%である。これ以外の多孔率であっても構わない。多孔体膜50の厚さの一例を挙げると、約0.5mmから約1mmである。これ以外の厚さであっても構わない。かかる多孔体膜50としては、シリカ(SiO
2)を多孔質にしたエアロジェル(物質名)を用いることができる。
【0031】
多孔体膜50は、その一方側の端面と他方側の端面に温度差があると、低温側の端面から高温側の端面に向かって、熱遷移流54が生じる。熱遷移流54については、
図2を用いて後述する。
【0032】
シール部42は、ヒートシンク32の他方側の端面33と多孔体膜50の間に設けられ、熱伝導率の小さい材料で構成される気密シール手段である。シール部42は、ヒートシンク32の他方側の端面33に設けられる吸入路の開口部を内側に囲み、排出口の開口部を含まないように、多孔体膜50の一方側の端面とヒートシンク32の他方側の端面33との間に配置される。
【0033】
かかるシール部42としては、多孔体膜50とヒートシンク32の双方に対し接着性が良好で、熱伝導性の小さい気密性接着剤を用いることができる。このような接着剤として、アラルダイト(登録商標)を用いることができる。例えば、アラルダイト(登録商標)を多孔体膜50の一方側端面の外周側に沿って一周全部に塗布し、その塗布側をヒートシンク32の他方側の端面33に向けて押し付けることで、シール部42を形成することができる。
【0034】
低温側空間56は、多孔体膜50の他方側の端面とヒートシンク32の他方側の端面33とシール部42の内側面とで形成される空間である。シール部42としてアラルダイト(登録商標)を用いるときは、シール部42の内側面は、アラルダイト(登録商標)の塗布厚さに対応する高さを有する内側面となる。低温側空間56には、吸入路35の他方側の開口部が開口する。
【0035】
高温側空間58は、熱遷移流ポンプ24の内部空間において、シール部42によって低温側空間56と気密分離された空間である。高温側空間58には、排出路37の他方側の開口部が開口する。このように、多孔体膜50は、熱遷移流ポンプ24の内部空間において、吸入口側の低温側空間56と排出口側の高温側空間の間に配置される。ヒータ38は、高温側空間58において、多孔体膜50の他方側の端面に面して配置される。
【0036】
図2は、ヒータ38が通電されたときに多孔体膜50に熱遷移流54が生じることを示す原理図である。ヒータ38が通電されると、多孔体膜50の他方側端面60が加熱されて高温側端面となる。多孔体膜50は熱伝導率が小さく、シール部42も熱伝導率が小さく、一方でヒートシンク32は熱伝導率が大きいので、多孔体膜50の一方側端面62は低温側端面となる。多孔体膜50の細孔52の孔径は媒体気体の平均自由行程の5倍の長さ以下の孔径を有するので、多孔体膜50の低温側端面である一方側端面62から高温側端面である他方側端面60に向かって熱遷移流54が生じる。これによって、低温側空間56から媒体気体が多孔体膜50の一方側端面62から吸い込まれ、多孔体膜50の細孔52を通って多孔体膜50の他方側端面60に抜けて高温側空間58へ流れる。したがって、低温側空間56の気圧は、高温側空間58の気圧P
-2よりも減圧されたP
-3となる。
【0037】
図1の熱遷移流ポンプシステム10は、複数の熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28において、多孔体膜50の細孔52の孔径が異なる。そのことを、
図3を用いて説明する。
図3は、隣接して配置される2つの熱遷移流ポンプ24,26の接続関係を示す図である。熱遷移流ポンプシステム10においては、減圧チャンバ12から媒体気体が吸い込まれて大気圧P
0側に排出されるので、熱遷移流ポンプ24は熱遷移流ポンプ26よりも高圧側に配置されていることになる。したがって、減圧側の熱遷移流ポンプ26の排出口36は、接続流路59を介して、高圧側の熱遷移流ポンプ24の吸入口34に接続される。
【0038】
ここで、熱遷移流ポンプ24,26は、基本的構造は互いに同一であるが、熱遷移流ポンプ26の多孔体膜51の細孔53の孔径は、熱遷移流ポンプ24の多孔体膜50の細孔52の孔径よりも大きい。孔径の差は、多孔体膜50,51の材料であるエアロジェルの種類を変えることで異ならせることができる。
【0039】
隣接して配置される2つの熱遷移流ポンプ24,26を区別して、高圧側の熱遷移流ポンプ24を第1の熱遷移流ポンプと呼び、低圧側の熱遷移流ポンプ26を第2の熱遷移流ポンプと呼ぶ。すなわち、
図3の構成は、媒体気体の平均自由行程の5倍の長さ以下の第1の孔径の細孔を有する第1細孔膜が吸入口側と排出口側との間に配置される第1の熱遷移流ポンプと、第1の孔径よりも大きな孔径の細孔を有する第2細孔膜が吸入口側と排出口側との間に配置される第2の熱遷移流ポンプと、第1熱遷移流ポンプの吸入口と第2熱遷移流ポンプの排出口とを接続する接続流路とを備えるものである。
【0040】
図4は、第1の熱遷移流ポンプである熱遷移流ポンプ24の多孔体膜50の細孔52の孔径分布と、第2の熱遷移流ポンプである熱遷移流ポンプ26の多孔体膜51の細孔53の孔径分布を示す図である。
図4(a)が細孔52の孔径分布、(b)が細孔53の孔径分布である。いずれの図も横軸が細孔径、縦軸が頻度である。孔径は、周知の窒素置換法によって細孔の壁面に吸着した窒素ガス量から換算して求めた。孔径分布は、単位断面積当たり同じ孔径の細孔の数、つまり細孔数密度の分布として求めた。
【0041】
図4(a)と(b)を比較すると、細孔の孔径分布がかなり異なる。孔径分布で頻度の最大値を取る孔径を代表孔径として代表孔径の大きさを比較すると、第1の熱遷移流ポンプである熱遷移流ポンプ24の多孔体膜50の細孔52の代表孔径は約10nmであり、第2の熱遷移流ポンプである熱遷移流ポンプ26の多孔体膜51の細孔53の代表孔径は約30nmである。
【0042】
ここでは、代表孔径として、細孔数密度で評価した孔径分布で最大値を取る孔径としたが、この他に、細孔数密度で評価した孔径分布の平均値を用いることができる。また、これらに代えて、細孔体積で評価した孔径分布の平均値、または、細孔体積で評価した孔径分布で最大値を取る孔径を代表孔径とすることもできる。
【0043】
図5は、代表孔径の小さな細孔52の多孔体膜50を用いた熱遷移流ポンプ24と、代表孔径の大きな細孔53の多孔体膜51を用いた熱遷移流ポンプ26について、減圧比特性を比較したものである。横軸は排出口36の気体圧を基準圧力Pbとして(Pb/大気圧P
0)で、縦軸は減圧比である。減圧比とは、吸入口34の気体圧をPaとして、減圧比={1−(Pa/Pb)}で与えられる。例えば、排出口36の圧力Pb=1atmとし、吸入口34の圧力Pa=0.75atmの場合は、減圧比={1−(0.75/1)}=0.25である。
【0044】
図5に示されるように、代表孔径の小さな細孔52を用いた場合は、基準圧力Pbの広い範囲に渡って良好な減圧比特性を有する。したがって、代表孔径の小さな細孔52を用いた熱遷移流ポンプ24のみを縦続接続して熱遷移流ポンプシステムを構成すれば、高圧側から低圧側の広い範囲に渡って良好な減圧比特性を得ることができる。しかし、代表孔径の小さな細孔52を用いた熱遷移流ポンプ24は、流量が小さいので、目標圧力まで減圧する時間が長くなり、減圧効率が低い。
【0045】
これに対し、代表孔径の大きな細孔53を用いた場合は、高圧側では減圧特性があまり良くないが、低圧側で良好な減圧比特性を発揮する。これは、大きい代表孔径の細孔53が多いと、高圧下において媒体気体の平均自由行程と代表孔径の差が小さく、熱遷移流が発生しにくいが、低圧下では媒体気体の平均自由行程と代表孔径の差が大きくなって、熱遷移流が発生でき、大きい代表孔径の細孔53が多い分、より多くの熱遷移流が発生することによると考えられる。また、代表孔径の大きな細孔53を用いた熱遷移流ポンプ26は、流量が大きいので、目標圧力まで減圧する時間が短くでき、減圧効率を高くできる。
【0046】
図6は、その結果をまとめたものである。この結果から、代表孔径が大きく、大きな流量が取れ、低圧側で良好な減圧特性を発揮する熱遷移流ポンプ26を低圧側に配置し、代表孔径が小さく、流量はあまり取れないが高圧側でも良好な減圧特性を有する熱遷移流ポンプ24を高圧側に配置することがよいことが分かる。
【0047】
図1の熱遷移流ポンプシステム10は、
図6の結果に基づき、高圧側の熱遷移流ポンプの多孔体膜の代表孔径よりも低圧側の熱遷移流ポンプの多孔体膜の孔径を大きくするように複数の熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28を縦続接続したものである。多孔体膜の代表孔径の設定方法としては、最も高圧側の熱遷移流ポンプ20から最も低圧側の熱遷移流ポンプ28に向かって、代表孔径を次第に大きくするものとできる。あるいは、例えば、
図5では、代表孔径の小さい細孔52を有する熱遷移流ポンプ24の減圧比特性と代表孔径の大きい細孔53を有する熱遷移流ポンプ26の減圧比特性が約0.2atmで交差するので、この0.2atmより
低圧側では代表孔径の大きい細孔53を有する熱遷移流ポンプを複数台縦続接続し、この0.2atmより
高圧側では代表孔径の小さい細孔52を有する熱遷移流ポンプを複数台縦続接続するものとしてもよい。
【0048】
図5の結果から、基準圧力Pbが低いほど、熱遷移流ポンプの減圧比特性がより向上することが分かる。
図7は、同じ性能の熱遷移流ポンプの縦続接続数を増やしたときのそれぞれの到達圧力を示す図である。横軸は縦続接続数、縦軸は大気圧を基準とした到達圧力である。1台の熱遷移流ポンプの到達圧力は、縦続接続数=1のときの値である。
【0049】
図7の例では、1台の熱遷移流ポンプの減圧比は約0.85である。破線は、この1台の減圧比を縦続接続数Nだけ掛け合わせた値(0.85
N)をその接続数Nのときの到達圧力として計算した値である。N=15とすると、最も低圧側の熱遷移流ポンプにおける減圧は、1atm×(0.85
15)で、約0.1atmとなる。実線は、約0.85の減圧比性能を有する熱遷移流ポンプを実際に縦続接続したときの到達圧力の実測値である。N=15のときの最も低圧側の熱遷移流ポンプにおける減圧は、約0.03atmであった。このことからも、熱遷移流ポンプは、媒体気体の圧力が低圧になる程、減圧比性能がより向上していることが分かる。
【0050】
これらのことから、熱遷移流ポンプについて、一般的な真空ポンプ等を用いて粗引きし、熱遷移流による減圧比が高くなる状態の圧力まで短時間で持ってくるようにすれば、その後の熱遷移流による減圧が効率よく行え、より短時間で所望の減圧に到達させることができ、減圧効率を向上させることができる。
【0051】
粗引きの減圧と熱遷移流による減圧の順序は、前者をより早い時期に行うことがよい。例えば、粗引き用の減圧ポンプ66をまず作動させ、熱遷移流ポンプの内部空間の圧力を予め定めた圧力まで減圧した後、熱遷移流ポンプのヒータ38に通電するものとできる。これに代えて、熱遷移流ポンプのヒータ38を通電すると共に粗引き用の減圧ポンプ66も作動させ、熱遷移流ポンプの内部空間の圧力が所定の圧力まで減圧されたときに、あるいは熱遷移流ポンプの内部空間の温度が所定の温度まで上昇したときに、粗引き用の減圧ポンプ66の作動を停止させることとすることもできる。このように、粗引きの減圧ポンプ66の作動停止は、熱遷移流ポンプの内部空間における媒体気体の圧力や温度が、熱遷移流による減圧を効率よく行える定常状態になったときに実行される。
【0052】
図8は、粗引き用の減圧ポンプ66を備える熱遷移流ポンプシステム64の構成図である。
図8(a)は全体構成図である。
図8(b)は熱遷移流ポンプ24の内部構成を示す図で、
図1(b)と同じ内容である。
【0053】
この熱遷移流ポンプシステム64は、縦続接続された5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28と、粗引き用の減圧ポンプ66と、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口をそれぞれ減圧ポンプ66の吸入口に接続する連通路68と、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口と連通路68の間にそれぞれ設けられる連通切替弁70,72,74,76,78を備える。
【0054】
なお、
図8では、連通路68、連通切替弁70,72,74,76,78を、縦続接続された5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28とは別体として示したが、これらを一体化構造としてもよい。例えば、5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28を縦続接続するために、隣接する熱遷移流ポンプの一方の排出口と他方の吸入口とを接続する接続流路に、連通路と連通切替弁の機能を持たせて一体化するものとしてもよい。
【0055】
縦続接続された5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28は、
図1の熱遷移流ポンプシステム10の5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28と同様に、高圧側の熱遷移流ポンプの多孔体膜の代表孔径よりも低圧側の熱遷移流ポンプの多孔体膜の孔径を大きくする構成とすることができる。また、減圧ポンプ66を用いて所定の減圧まで粗引きするので、全ての熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28について多孔体膜の代表孔径を同じとし、同じ性能の熱遷移流ポンプを5台縦続接続する構成としてもよい。その場合には、多孔体膜の代表孔径を大きくし、流量を大きく取れるようにすることが好ましい。例えば、
図4(b)で説明した孔径分布の細孔53を有する多孔体膜51とすることがよい。
【0056】
粗引き用の減圧ポンプ66は、適当な真空ポンプを用いることができる。連通路68は、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口をそれぞれ減圧ポンプ66の吸入口に接続する流路である。排出口を減圧ポンプ66に接続するようにするのは、流体抵抗の大きな多孔体膜を通らずに、熱遷移流ポンプの内部空間において多孔体膜の両側の空間を減圧ポンプ66によって排出して減圧するためである。なお、
図8のように減圧チャンバ12が設けられている場合には、減圧チャンバ12の排出口に別個の開閉弁を設けることがよい。かかる連通路68は、適当な材質の管路で構成することができる。
【0057】
連通切替弁70,72,74,76,78は、減圧ポンプ66が作動していないときに、5つの熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の各排出口が連通することを防止するための開閉切替弁である。すなわち、連通切替弁70,72,74,76,78は、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口と連通路68の間にそれぞれ設けられ、減圧ポンプ66の作動中は、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口を減圧ポンプ66の吸入口と連通させる。また、減圧ポンプ66が停止中は、各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の排出口と減圧ポンプの吸入口との間を遮断する。
【0058】
連通と遮断の切替は、圧力計16の圧力を見ながら、所定の圧力まで各熱遷移流ポンプ20,22,24,26,28の内部空間が粗引きされたかどうかを操作者が判断し、その判断に基づいて操作者が手動で行うことができる。切替を行う所定の圧力は、熱遷移流ポンプシステム64の減圧効率の目標値に基づいて予め設定することができる。例えば、
図5の結果を参考として、切替を行う所定の圧力を約0.2atmとすることができる。
【0059】
連通と遮断の切替を手動に代えて、機械的信号または電気的信号等によって行うこともできる。また、連通切替弁70,72,74,76,78を所定の圧力等になったときに自動的に連通と遮断の切替を行うような機構を有するものとしてもよい。そのような連通切替弁の例を
図9から
図11に示す。以下では、
図8(b)の熱遷移流ポンプ24の排出口36と連通路68との間に連通切替弁が配置される場合を例として説明する。
【0060】
図9は、連通切替弁として用いることができるリリーフ弁80を示す図である。リリーフ弁80は、筐体82と、熱遷移流ポンプ24の排出口36に接続される開口部84と、連通路68に接続される開口部86を有する。筐体内部には、弁体88と、弁体88の先端部90を開口部84の周辺部の弁座に押し付ける付勢力を発生するリリーフバネ92が配置される。リリーフバネ92の付勢力は、圧力に換算した値がリリーフ圧P
Rとなるように設定される。
【0061】
これにより、排出口36の圧力が高く、連通路68の圧力よりもリリーフ圧P
R以上のときには排出口36と連通路68とが連通し、減圧ポンプ66の作用によって、熱遷移流ポンプ24の内部空間が粗引きされる。この連通によって排出口36の圧力が低下し、連通路68の圧力よりリリーフ圧P
Rだけ高い値まで低下すると、排出口36と連通路68の間が遮断される。この遮断の後で、熱遷移流ポンプ24のヒータ38が通電され、熱遷移流による減圧が始まる。したがって、リリーフ圧P
Rを予め設定することで、連通路68の圧力と排出口36の圧力との差圧がリリーフ圧P
R以下かどうかで、連通と遮断が自動的に切り替わる。
【0062】
図10は、流通切替弁として用いることができる弾性体94を示す図である。弾性体94は、内部に圧力P
Sの流体が封止され、ゴム等の弾性材料で構成される球状またはパイプ状の外形を有するものである。弾性体94は、排出口36と連通路68の間の管路内に配置される。
【0063】
図10(a)は、排出口36の圧力が大気圧等の高圧であるときを示す図で、弾性体94の内部圧力P
Sの大きさを大気圧よりも低圧とすることで、排出口36と連通路68とが連通し、減圧ポンプ66の作用によって、熱遷移流ポンプ24の内部空間が粗引きされる。
【0064】
図10(b)は、排出口36と連通路68の連通によって排出口36の圧力が低下し、弾性体94の内部圧力P
S以下の低圧になったときを示す図である。このとき、弾性体94が堆積膨張し、排出口36と連通路68の間が遮断される。この遮断の後で、熱遷移流ポンプ24のヒータ38が通電され、熱遷移流による減圧が始まる。したがって、弾性体94の内部圧力P
Sを予め設定することで、排出口36の圧力がP
S以上かどうかで、連通と遮断が自動的に切り替わる。このように、弾性体94は、媒体気体の圧力変化によって連通と遮断との間を切り替える圧力差感知弁として用いることができる。
【0065】
図11は、流通切替弁として用いることができる温度感知式弁96を示す図である。温度感知式弁96は、温度が上昇すると全閉の遮断状態となり、温度が低下すると全開の連通状態となる弁である。かかる温度感知式弁96としては、例えば、シールテック社製の製品名が大気温度感知式バルブである弁を用いることができる。温度感知式弁96は、排出口36と連通路68の間の管路に配置され、その配置位置は、熱遷移流ポンプ24のヒータ38の真上等で、媒体気体の温度を反映できる場所とすることが好ましい。温度感知式弁96を熱遷移流ポンプ24と一体化構造としてもよい。このように、温度感知式弁96は、媒体気体の温度変化によって連通と遮断との間を自動的に切り替える温度感知弁として用いることができる。