特許第6303428号(P6303428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303428
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】車両情報投影システム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20180326BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   B60R21/00 621C
   B60R21/00 624C
   B60R21/00 626D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-238648(P2013-238648)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-99469(P2015-99469A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江尻 剛士
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−034684(JP,A)
【文献】 特開2008−015758(JP,A)
【文献】 特開平10−075479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車線情報を取得する車線情報取得手段と、自車両の乗員から見て前記自車両が走行する隣の車線の手前側に重畳する始点から奥側に重畳する終点まで延在する線分又は破線状又は点線状の画像であり、前記自車両の後方から側方に位置する後方車両の接近を報知する接近報知像を投影する投影装置と、を有する車両情報投影システムにおいて、
前記自車両と前記後方車両との相対距離又は/及び相対速度を入力し、前記相対距離が短距離である程、又は前記相対速度が速い程に速くする伸長速度を決定し、決定した前記伸長速度に応じて、前記接近報知像が、前記始点から前記終点まで動的に伸長するように前記投影装置を制御する表示コントローラ、を備える、
ことを特徴とする車両情報投影システム。
【請求項2】
車線情報を取得する車線情報取得手段と、前記自車両の乗員から見て自車両が走行する隣の車線の手前側に重畳する始点から奥側に重畳する終点まで移動する画像であり、自車両の後方から側方に位置する後方車両の接近を報知する接近報知像を投影する投影装置と、を有する車両情報投影システムにおいて、
前記自車両と前記後方車両との相対距離又は/及び相対速度を入力し、前記相対距離が短距離である程、又は前記相対速度が速い程に速くする移動速度を決定し、決定した前記移動速度に応じて、前記接近報知像が、前記始点から前記終点まで動的に移動するように前記投影装置を制御する表示コントローラ、を備える、
ことを特徴とする車両情報投影システム。
【請求項3】
記表示コントローラは、前記相対距離または/および前記相対速度に応じて、前記接近報知像の前記始点から前記終点までの長さを変化可能である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両情報投影システム。
【請求項4】
前記後方車両が前記自車両の前に割込むことを推定する割込推定手段をさらに備え、
前記表示コントローラは、前記割込推定手段により前記後方車の割込みが推定された場合、前記接近報知像少なくとも前記終点が前記自車両の走行する車線内に侵入するように変形した割込報知像を表示させる、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の車両情報投影システム。
【請求項5】
前記表示コントローラは、前記相対距離または/および前記相対速度に応じて前記接近報知像から前記割込報知像への変形速度を変化可能である、
ことを特徴とする請求項に記載の車両情報投影システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両に接近する障害物について、ユーザに注意を促す車両情報投影システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自車両に接近する障害物についてユーザに注意を促す車両情報投影システムとして、特許文献1に開示されるようなヘッドアップディスプレイ(HUD:Head−Up Display)装置が知られている。このようなHUD装置は、自車両の後方に存在する後方車両(障害物)との相対距離を虚像として表示することにより、ユーザが前方の外景とともに自車両の後方に接近する後方車両の存在及び相対距離を確認することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−194995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようなHUD装置に表示される映像としては、自車両と自車両の後方(死界)から接近する後方車両(追越車両)との相対距離を表示するのみで、どのような速度でどのような方向から後方車両が接近しているかを直感的に把握することができず、ユーザが次にどのような行動をどのようなタイミングで行えばいいかを判断することができなかった。
【0005】
本発明は上記問題を鑑みてなされたものであり、障害物の接近状態を的確に把握させることができ、ドライバの運転を支援することができる車両情報投影システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る車両情報投影システムは、車線情報を取得する車線情報取得手段と、自車両の乗員から見て前記自車両が走行する隣の車線の手前側に重畳する始点から奥側に重畳する終点まで延在する線分又は破線状又は点線状の画像であり、前記自車両の後方から側方に位置する後方車両の接近を報知する接近報知像を投影する投影装置と、を有する車両情報投影システムにおいて、前記自車両と前記後方車両との相対距離又は/及び相対速度を入力し、前記相対距離が短距離である程、又は前記相対速度が速い程に速くする伸長速度を決定し、決定した前記伸長速度に応じて、前記接近報知像が、前記始点から前記終点まで動的に伸長するように前記投影装置を制御する表示コントローラ、を備えるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、障害物の接近状態を的確に把握させることができ、ドライバの運転を支援することができる車両情報投影システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態における車両情報投影システムの構成を説明する図である。
図2】上記実施形態における車両の乗員が視認する景色を説明する図である。
図3】上記実施形態における相対距離による離間距離の変化を説明する図である。
図4】上記実施形態における相対速度による離間距離の変化を説明する図である。
図5】上記実施形態における軌跡映像の推移を説明する図である。
図6】上記実施形態における相対距離及び相対速度のテーブルデータを説明する図である。
図7】上記実施形態における軌跡映像の推移を説明するタイミングチャートである。
図8】上記実施形態における動作処理を説明するためのフロー図である。
図9】上記実施形態における軌跡映像の表示処理を説明するためのフロー図である。
図10】上記実施形態における軌跡映像から割込軌跡映像への変化推移を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に本実施の形態に係る車両情報投影システム1のシステム構成を示す。
本実施形態に係る車両情報投影システム1は、虚像Mを表す表示光Lを自車両2のフロントガラス2aに投影し、虚像Mを自車両2の乗員(ユーザ)3に視認させるヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置)100と、自車両2の周辺の車外状況などを取得する車外情報取得部200と、車外情報取得部200から入力される情報に基づき、HUD装置100の表示を制御する表示コントローラ300と、から構成される。
【0010】
HUD装置(投影装置)100は、本発明の特徴である軌跡映像J(接近報知像)を含む情報映像を表示面に表示する表示器10と、この情報映像を示す画像光Kを反射する平面ミラー20と、この平面ミラー20が反射した画像光Kを拡大及び変形して表示光Lとしてフロントガラス2a側へ反射する自由曲面ミラー30と、を備える。
【0011】
表示器10は、後述する表示コントローラ300による制御の下、後方車両Wの接近を示す映像である軌跡映像Jや、自車両2に関する情報を示す車両情報映像、案内経路を示すナビゲーション情報映像等を表示面に表示するものであり、例えば、液晶パネルなどの表示素子(図示しない)と、この表示素子を照明する光源(図示しない)とから構成される透過型液晶ディスプレイなどである。なお、表示器10は、透過型液晶ディスプレイではなく、自発光型の有機ELディスプレイや、反射型のDMD(Digital Micromirror Device)、反射型及び透過型のLCOS(登録商標:Liquid Crystal On Silicon)等で構成されてもよい。後述する表示コントローラ300は、自車両2の外景における特定対象に位置合わせして情報映像を乗員3に視認させるように、表示器10の表示面に表示する情報映像の表示位置を調整する。これにより、乗員3は、自車両2の外景における特定対象に位置合わせされた虚像Mを視認することができる。
【0012】
平面ミラー20は、表示器10が出射した画像光Kを、自由曲面ミラー30に向けて反射させるものである。
【0013】
自由曲面ミラー30は、例えば合成樹脂材料からなる凹状の基材の表面に、蒸着等の手段により反射膜を形成したものであり、平面ミラー20で反射した表示画像(画像光K)を拡大すると共に、表示画像(画像光K)を変形して表示光Lとしてフロントガラス2aの方向に出射する。
【0014】
以上が、本実施形態におけるHUD装置100の構成であり、HUD装置100から出射された表示光Lが自車両2のフロントガラス2aに投影されることにより、ステアリング2bの上側のフロントガラス2aの所定の表示可能領域Eで虚像Mを視認させるものである。このフロントガラス2aの表示可能領域Eは、表示器10の表示領域に対応しており、表示器10の表示領域内で情報映像を移動させることで、フロントガラス2aの表示可能領域E内で情報映像に対応する虚像Mが移動して視認されることになる。
【0015】
乗員3がフロントガラス2aの奥側に視認する虚像Mは、図2に示すように、自車両2の後方から接近する後方車両Wの接近を示す軌跡映像Jを有する。軌跡映像Jは、自車両2が走行する車線に隣接する車線上に重畳表示され、乗員3の手前側の所定の始点Jpから進行方向の終点Jqまで延びた線状の矢印画像である。なお、軌跡映像Jは、隣車線の形状(カーブや上り下り)に対応して変形する画像であり、自車両2に近い方は幅が広く(相対的に大きく)、自車両2に遠い方は幅が狭く(相対的に小さく)視認されるように遠近法を用いて表示される画像である。なお、自車両2が走行する車線に隣接する車線とは、自車両2と並走する車線であるが、自車両2を追い越す後方車両Wが走行する反対車線であってもよい。
また、軌跡映像Jの先端部である終点Jqは、所定時間(例えば20秒)経過後の自車両2に対する後方車両Wの相対的な位置を指示することが可能であり、例えば、軌跡映像Jが指示していた終点Jqの相対的な位置は、20秒経過後に自車両2から乗員3が視認する後方車両Wの相対的な位置と対応する。
なお、本発明における軌跡映像Jは、後方車両Wと自車両2との関係(相対速度Vや相対距離D)に応じて、種々な表示態様に変形されるが、この軌跡映像Jの変形処理については後で詳述する。相対距離Dは自車両2に搭載された後方情報取得部204と後方車両Wの最も近い一部までの距離を示すが、これに限定されない。
【0016】
また、軌跡映像J以外の情報映像は、目的地までの経路を自車両2の外界の車線(実景)に重畳させて経路誘導する案内経路映像(図示しない),後述するステレオカメラ201aにより白線を認識し、自車両2が車線を逸脱しそうになった場合、白線近傍に重畳させて白線の存在を認識させて車線逸脱を抑制する、または単に白線近傍に重畳させて白線の存在を認識させる白線認識映像(図示しない)など自車両2の外界の実景の特定対象(車線、白線、前方車両、障害物など)に合わせて表示される映像や、自車両2の速度情報や回転数情報や燃費情報など自車両2の運行状態に関する運行状態映像(図示しない)など自車両2の外界の実景の特定対象に合わせて表示しない映像などである。
【0017】
情報取得部200は、自車両2の前方を撮像し、自車両2の前方の状況を推定する前方情報取得部(車線情報取得手段)201と、自車両2の経路案内を行うナビゲーションシステム(車線情報取得手段)202と、GPSコントローラ203と、後方情報取得部204(後方車両検出手段,割込推定手段)と、を備え、それぞれが取得した情報を後述する表示コントローラ300に出力するものである。ちなみに、本願の特許請求の範囲に記載の車線情報取得手段は、本実施形態において、前方情報取得部201や、ナビゲーションシステム202などから構成されるが、自車両2周辺の車線の状況を推定できるものであれば、これらに限定されるものではなく、ミリ波レーダーやソナーまたは道路交通情報通信システムなどの外部通信装置と自車両2との間で通信を行うことによって、自車両2の周辺の車線の状況を推定してもよい。また、本願の特許請求の範囲に記載の後方車両検出手段及び割込推定手段は、本実施形態において、後方情報取得部204で構成される。
【0018】
前方情報取得部(車線情報取得手段)201は、自車両2の前方の情報を取得するものであり、本実施形態では、自車両2前方側を撮像するステレオカメラ201aと、このステレオカメラ201aで取得された撮像データを解析する撮像画像解析部(図示しない)と、を有する。
【0019】
ステレオカメラ201aは、自車両2が走行する道路を含む前方領域を撮像するものであり、撮像画像解析部がステレオカメラ201aで取得された撮像データをパターンマッチング法により画像解析することで、道路形状に関する情報(車線,白線,停止線,横断歩道,道路の幅員,車線数,交差点,カーブ,分岐路等)や道路上の物体(前方車両や障害物)の有無を解析することができ、さらに三角測量の原理に基づく画像解析により特定対象(白線,停止線,交差点,カーブ,分岐路,前方車両,障害物等)と自車両2との間の距離を算出することができる。
【0020】
すなわち、本実施形態において、前方情報取得部201は、ステレオカメラ201aで撮像した撮像データから解析した、道路形状に関する情報、道路上の物体に関する情報、及び撮像された特定対象と自車両2との距離に関する情報などを表示コントローラ300に出力する。
【0021】
ナビゲーションシステム(車線情報取得手段)202は、道路に関する情報(道路の幅員,車線数,交差点,カーブ,分岐路等)を含む地図データを記憶する記憶部を有し、GPSコントローラ203からの位置情報に基づいて、現在位置近傍の地図データを記憶部から読み出し、現在位置近傍の道路に関する情報を、表示コントローラ300に出力する。
【0022】
GPS(Global Positioning System)コントローラ203は、人工衛星などからGPS信号を受信し、このGPS信号をもとにして自車両2の位置の計算を行い、計算された自車両位置をナビゲーションシステム202に出力するものである。
【0023】
後方情報取得部(後方車両検出手段,割込推定手段)204は、自車両2の後方から側方に存在する後方車両(後方車両)Wとの距離(相対距離D)を測距する測距センサであり、例えば、測距カメラやレーダセンサ等によって構成される。後方情報取得部204は、自車両2に接近する複数の後方車両Wを個別に認識可能であり、自車両2と個々の後方車両Wとの距離を連続的または断続的に検出し、その時間差分などの比較により自車両2の速度を基準とした個々の後方車両Wの相対速度を算出することができる。すなわち、後方情報取得部204は、後述する表示コントローラ300に自車両2に接近する後方車両Wそれぞれの相対距離D及び相対速度Vを出力する。また、後方情報取得部204は、車車間通信や路上の通信インフラを介した路車間通信等の通信手段を有し、互いの車両位置とその時間的差分によって相対距離Dや相対速度Vを求めてもよい。
【0024】
表示コントローラ300は、CPU,ROM,RAM,グラフィックコントローラなどからなるECU(Electrical Control Unit)である。表示コントローラ300は、HUD装置100に供給する映像データや後述するテーブルデータや処理を実行するためのプログラムなどを記憶するROM301と、車外情報取得部200から入力される情報に基づき、ROM301から映像データを読み出して描画データを生成する情報映像生成手段302と、HUD装置100の表示器10の表示制御を行う表示制御手段303と、を有する。
【0025】
情報映像生成手段302は、情報取得部200から入力される情報に基づき、画像メモリから映像データを読み出し、表示器10に表示させる情報映像を生成し、表示制御手段303に出力する。
【0026】
情報映像の生成において、情報映像生成手段302は、前方情報取得部201及びナビゲーションシステム202から入力される道路形状に関する情報から軌跡映像Jの表示形態や表示する位置を決定し、自車両2が走行する車線に隣接した車線に対応する位置に軌跡映像Jを示す虚像Mが視認されるように情報映像の描画データを生成する。
【0027】
また、情報映像生成手段302は、相対距離Dまたは/および相対速度Vに応じて、軌跡映像Jの表示態様を変える。具体的に、情報映像生成手段302は、自車両2から軌跡映像Jの終点Jqが指示する外景の特定位置までの離間距離Fqを変化させたり、相対距離Dおよび相対速度Vに応じて、軌跡映像Jが始点Jpから特定の終点Jqまで伸長する速度である伸長速度を変化させたりする。
【0028】
以下に、情報映像生成手段302が行う軌跡映像Jの表示対応の変換処理について図3乃至7を用いて説明する。図3,4は、車線を走行する自車両2と後方車両Wを上から視認した図であり、図3は、相対距離Dの変化に応じて軌跡映像Jの離間距離Fqが変化する様子を示した図であり、図4は、相対速度Vの変化に応じて軌跡映像Jの離間距離Fqが変化する様子を示した図である。図5は、乗員3から前方を視認した際の様子を示した図であり、軌跡映像Jの伸長を説明するための図である。図6は、軌跡映像Jの伸長速度を決定するテーブルデータを説明する図である。図7は、相対速度V,相対距離Dによる離間距離Fqの変化を説明するタイミングチャートであり、ここで、相対距離Dは、例えば、10m以下を短距離、10m〜20mを中距離、30m以上を遠距離とし、相対速度Vは、10km/h以下を低速、10〜30km/hを中速、30km/h以上を高速とする。
【0029】
図3を参照して、相対距離Dの変化に応じた離間距離Fqの変化について説明する。情報映像生成手段302は、後方情報取得部204から自車両2と後方車両Wとの間の距離である相対距離Dを入力し、この相対距離Dが大きい(D=Da)場合、離間距離Fqを小さくした(Fq=Fa)軌跡映像Jaを生成し、相対距離Dが小さい(D=Db<Da)場合、離間距離Fqを大きくした(Fq=Fb>Fa)軌跡映像Jbを生成する。この離間距離Fqは、相対距離Dの変化に応じてリニアに変化し、自車両2の後方に所定距離以上だけ離れた場合、軌跡映像Jを非表示とし(離間距離Fq=0)、さらに、自車両2の前方に所定距離以上だけ離れた場合も、軌跡映像Jを非表示とする(離間距離Fq=0)。斯かる構成により、乗員3は、軌跡映像Jの長さ(離間距離Fq)から、自車両2と自車両2の後方から側方に位置する後方車両Wとの相対距離Dを推定することができ、後方車両Wの接近状態を的確に把握することができる。
【0030】
図4を参照して、相対速度Vの変化に応じた離間距離Fqの変化について説明する。情報映像生成手段302は、後方情報取得部204から自車両2と後方車両Wとの相対速度Vを入力し、この相対速度Vが小さい(V=Va)場合、離間距離Fqを小さくした(Fq=Fa)軌跡映像Jaを生成し、相対速度Vが大きい(V=Vb>Va)場合、離間距離Fqを大きくした(Fq=Fb>Fa)軌跡映像Jbを生成する。この離間距離Fqは、相対速度Vの段階的な変化に応じて変化する。斯かる構成により、乗員3は、軌跡映像Jの長さ(離間距離Fq)から、自車両2と後方車両Wとの相対速度Vを推定することができ、後方車両Wの接近状態を的確に把握することができる。
【0031】
次に図5を参照して、軌跡映像Jの伸長する様子を説明する。表示コントローラ300は、車外情報取得部200からの入力する相対距離Dが予め定められた距離未満になった場合、軌跡映像Jを伸長させて表示するイニシャル表示を実行する。イニシャル表示とは、軌跡映像Jを始点Jpから目標とする長さ(離間距離Fq)になる終点Jqまで動的に伸長する表示であり、具体的には、離間距離Fが目標とする離間距離Fqに到達するまでF1(図5(a)),F2(図5(b)),F3(図5(c))と徐々に伸長する表示である。このように、乗員3の前方方向に動的にイニシャル表示されることで、乗員3は、後方車両Wの接近を確実に認識することができる。また、このイニシャル表示における伸長速度は、イニシャル表示を開始する時点の後方車両Wの相対距離D及び相対速度Vにより決定され、具体的には、ROM301は、図6に示すような相対距離Dと相対速度Vとの二次元データに関連付けられた伸長速度(伸長速度α,伸長速度β,伸長速度γ)のテーブルデータを予め格納しており、このテーブルデータによって後方情報取得部204から入力された相対距離D及び相対速度Vに対応する伸長速度が決定され、相対速度Vが高速である程、伸長速度が高くなり(伸長速度α>β>γ)、相対距離Dが短距離である程、伸長速度が高くなるように設定される。
【0032】
図7を参照して、相対距離D,相対速度Vに基づく軌跡映像Jの離間距離Fqの推移を説明する。図7(a)は相対速度Vの推移を示し、図7(b)は相対距離Dの推移を示し、図7(c)は相対速度Vに基づく離間距離Fqの推移を示し、図7(d)は相対距離D,相対速度Vに基づく軌跡映像Jの離間距離Fqの推移を示す。まず、時間t1まで、相対距離Dが閾値Dminより大きいため後方車両Wが自車両2に十分近づいていないと判定し、軌跡映像Jは非表示とする(離間距離Fq=0)。時間t1において、相対距離Dが閾値Dminに達すると、軌跡映像Jの離間距離Fqが目標とする離間距離Fqに到達するまで徐々に伸長するイニシャル表示を所定時間(例えば3秒)経過するまでに行う(時間t2までに行う)。このときの伸長速度は上述したように相対距離D及び相対速度Vのテーブルデータにより決定され、目標とする離間距離Fqは、時間t1における相対速度Vにより決定される。イニシャル表示が終わると、離間距離Fqは、相対速度Vと相対距離Dの変化に応じて伸縮する。時間t2からt3の間では、後方車両Wが徐々に自車両2に近づいているため、相対距離Dが徐々に短くなり、これに基づいて離間距離Fqもリニアに増加する。また、離間距離Fqは、相対速度Vが所定の値だけ変化した場合に伸長する。例えば、時間t3からt4において、相対速度Vが低下したとしても離間距離Fqは変化せず、時間t4からt5において相対速度Vが所定の値(V2)に達することで離間距離Fqが変化する。相対速度Vにより離間距離Fqが変化する際、所定時間(例えば1秒)経過するまでに急激に変化させる。また、後方車両Wが自車両2の前方側に進行し、相対距離Dが閾値Dmaxに達した場合(時間t6)、軌跡映像Jを非表示とする(離間距離Fq=0)。以下に、軌跡映像Jの表示に関する表示コントローラ300が実行する処理の一例を図8のフロー図を用いて説明する。
【0033】
図8を参照して、表示コントローラ300は、まずステップS10において、後方情報取得部204から相対距離D及び相対速度Vを入力し、後方車両Wが接近しているか判定する(ステップS20)。後方車両Wが接近していた場合、表示コントローラ300は、ステップS30において、相対距離Dが閾値Dmin以内であるかを判定し、相対距離Dが閾値Dmin以内であった場合(ステップS30でYESの場合)、軌跡映像Jをイニシャル表示するための離間距離Fq及び伸長速度を入力した相対距離D及び相対速度Vに基づき決定し(ステップS40)、イニシャル表示を実行する(ステップS50)。その後、後方車両Wの相対距離D及び相対速度Vに基づき、軌跡映像Jを表示(更新)する。このステップS60以降の処理については、図9のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
図9を参照して、表示コントローラ300は、ステップS62において、後方情報取得部204から相対距離D及び相対速度Vを入力し、これら相対距離D,相対速度Vに基づき、軌跡映像Jの終点Jqが指示する位置を決定するための離間距離Fqを決定し(ステップS63)、この離間距離Fqに従って軌跡映像Jを更新表示する(ステップS64)。また、表示コントローラ300は、ステップS65において、後方車両Wが自車両2の前方に割り込んでくる可能性があるかを判定する。具体的には、自車両2に設けられた側方カメラによる後方車両Wのウインカー点滅認識、又は自車両2に設けられた測距センサによる後方車両Wの横方向変位の連続接近を検知したとき、表示コントローラ300は、後方車両Wが自車両2の前方に割り込んでくる可能性があると判定する。表示コントローラ300は、後方車両Wが自車両2の前方に割り込んでくる可能性があると判定した場合(ステップS65でYESの場合)、測距センサまたは側方カメラからの情報から、自車両2と後方車両Wとの位置関係を仮想的な二次元(又は3次元)空間を算出して、その仮想空間内で後方車両Wの進行方向を推定する(ステップS66)。そして、この後方車両Wの推定した進行方向に基づき、軌跡映像Jを、自車両2に割り込んでくるような矢印形状の割込軌跡映像Hに変形させて表示する(ステップS67)。
【0035】
ステップS67において、割込軌跡映像Hは、図10に示すように、軌跡映像Jから徐々に所望の割込軌跡映像Hの形状になるように変形していく。この際の変形速度は、図6に示すような相対距離Dと相対速度Vとの二次元データに関連付けられた変形速度のテーブルデータに基づき、相対距離D及び相対速度Vから決定される。なお、具体的に例えば、変形速度αは15°/秒、変形速度βは5°/秒、変形速度γは2.5°/秒とする。
【0036】
そして、ステップS37において、表示コントローラ300は、軌跡映像Jから割込軌跡映像Hへ変形されたことを乗員3が明確に認識できるようにするため、それぞれの表示色を互いに異なるようにする。表示色としては、例えば、軌跡映像Jは後方車両Wの存在を示すために注意・警告とは異なる感覚を与える緑色とする。また、割込軌跡映像Hは、実際に後方車両Wが自車両2前方に割込むことによって接触する可能性が高まったことを注意・警告する意味での黄色ないし赤色とする。
【0037】
また、ステップS37において、表示コントローラ300は、軌跡映像Jから割込軌跡映像Hへ変形する際に、軌跡映像Jもしくは割込軌跡映像Hの少なくとも一方の画像を点滅させるようにする。例えば、画像変形が行われる際に、軌跡映像Jを点滅させ、その後、割込軌跡映像Hに変形する。これによって乗員3に軌跡映像Jの表示態様の変化を容易に伝えることができる。逆に割込軌跡映像Hだけを点滅させたり、軌跡映像J及び割込軌跡映像Hの両方を点滅させたりしてもよい。点滅周期としては、前方視界に表示を重畳させても不必要な視線・注意誘導を引き起こさせない程度にする。
【0038】
以上に説明したとおり、本実施形態における車両情報投影システム1によれば、後方情報取得部204により後方からの後方車両Wの接近を検出し、自車両2が走行する隣の車線に重畳して軌跡映像Jを表示することができるので、乗員3に対して、前方を視認させながら後方車両Wが進行してくる車線を事前に認識させ、対象となる車線に注意を向けさせることができる。
【0039】
また、軌跡映像Jの終点Jqを、後方車両Wが進行する車線の進行方向に徐々に移動させて表示することができるので、ユーザに対して、画像の動的な変化によってさらに強く後方車両Wの接近を知らせることができ、後方車両Wが対象の車線から追い抜いてくることを直感的に認識させることができる。
【0040】
また、軌跡映像Jの終点Jqの移動速度(伸長速度)を、相対距離Dまたは/および相対速度Vに応じて変化させることができるので、ユーザに対して、軌跡映像Jの伸長速度の違いにより、後方車両Wの相対距離Dや相対速度Vによる危険度を短時間で直感的に認識させることができる。また、軌跡映像Jの終点Jqの位置を、相対距離Dの変化に基づきなめらかに変化させ(伸長速度が遅い)、相対速度Vの所定値幅変化すること基づき段階的に急激に変化させる(伸長速度が速い)ことにより、伸長速度の変化により相対距離Dまたは相対速度Vのどちらが変化したかを、乗員3に認識させることができる。また、同様の効果を奏するために、相対距離Dまたは相対速度Vの変化に基づき、軌跡映像Jが伸長する際の軌跡映像Jの色や輝度、形状などの表示態様を変化させてもよい。また、伸長速度を速める方法の代替としては、相対速度V(相対距離D)の変化に対し、軌跡映像Jを伸長させるタイミングを遅延させ、相対速度V(相対距離D)の変化した所定時間経過後に急激に軌跡映像Jの終点Jqの位置を変化させてもよい。
【0041】
また、軌跡映像Jの長さ(自車両2から軌跡映像Jの終点Jqが指示する位置までの離間距離Fq)を、相対距離Dまたは/および相対速度Vに応じて変化させることができるので、ユーザに対して、軌跡映像Jの長さの違いにより、後方車両Wの相対距離Dや相対速度Vによる危険度を短時間で直感的に認識させることができる。
【0042】
また、表示コントローラ300は、後方情報取得部(割込推定手段)204により後方車両Wの割込みが推定された場合、軌跡映像Jを、少なくとも終点Jqが自車両2の走行する車線内に侵入するように変形した割込軌跡映像Hを表示させることができ、ユーザに対して、後方車両Wが自車両2の前方に割り込んでくることを事前に認識させることができる。
【0043】
なお、本発明は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に変形例の一例を示す。
【0044】
上記実施形態において、軌跡映像Jを、始点Jpから延在し終点Jqが矢印形状である画像としていたが、軌跡映像Jの形状はこれに限定されずに変更可能である。例えば、終点Jq矢印形状ではなく、始点Jpから終点Jqまで延在する線分であってもよく、始点Jpと終点Jqを結ぶ箇所を破線状や点線状でとしてもよい。また、始点Jpから終点Jqまで延在する画像でなく、上記実施形態のように決定された離間距離Fq及び移動速度(上記実施形態における伸長速度)に応じて、特定の固体画像を決定された移動速度で、決定された離間距離Fqまで移動させるものであってもよい。
【0045】
また、上記実施形態において、車外情報取得部200からの入力する相対距離Dが予め定められた距離未満になった場合、軌跡映像Jを伸長させて表示するイニシャル表示を実行していたが、イニシャル表示の契機はこれに限定されない。表示コントローラ300は、図示しない自車両2の方向指示灯(車線変更推定手段)の操作の有無により、乗員3が進路変更の意思があるかを判定し、乗員3による方向指示灯の操作があった場合、軌跡映像Jのイニシャル表示を行うようにしてもよい。斯かる構成により、進路変更する車線(自車両2が走行する隣の車線)に接近してくる後方車両Wがいた場合、軌跡映像Jの終点Jqが移動して表示されるイニシャル表示により迅速に注意喚起することができる。また、イニシャル表示の表示開始契機の代替として、乗員3の視線を検出する図示しない視線検出手段(車線変更推定手段)を有し、この視線検出手段乗員3が自車両2のサイドミラーを見たことにより乗員3が進路変更の意思があると判定し、この際にイニシャル表示を開始してもよい。また、前方情報取得部201などの検出信号により、自車両2が隣の車線に寄りすぎてしまった場合にイニシャル表示を開始してもよい。
【0046】
また、上記実施形態において、軌跡映像Jの先端部(終点Jq)が移動する伸長速度(変化速度)が、相対距離D及び相対速度Vのテーブルデータにより決定されるとしていたが、これらの伸長速度(変化速度)をaD+bV(a,bは係数)などの演算で決定してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 車両情報投影システム
2 自車両
3 乗員(ユーザ)
100 ヘッドアップディスプレイ装置(HUD装置、投影装置)
200 情報取得部
201 前方情報取得部(車線情報取得手段)
201a ステレオカメラ
202 ナビゲーションシステム(車線情報取得手段)
203 GPSコントローラ
204 後方情報取得部(後方車両検出手段,割込推定手段)
300 表示コントローラ
D 相対距離
Fq 離間距離
H 割込軌跡映像(割込報知像)
J 軌跡映像(接近報知像)
Jp 始点
Jq 終点(先端部)
K 画像光
L 表示光
M 虚像
V 相対速度
W 後方車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10