(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
任意の断面において、二粒子粒界相の厚みを測定したときに、全測定点に対して、二粒子粒界相の厚みが5nm以上でかつ強磁性体とは異なる磁性を有する相からなる測定点の占める割合が20%以上である、請求項1に記載の希土類磁石。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系焼結磁石に代表されるR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeを必須元素とした一種以上の鉄族元素、Bはホウ素を示す)は、高い飽和磁束密度を有することから、使用機器の小型化・高効率化に有利であり、ハードディスクドライブのボイスコイルモーター等に利用されている。近年では、各種産業用モーターやハイブリッド自動車の駆動モーター等にも適用されつつあり、エネルギー保全等の観点からこれらの分野への更なる普及が望まれている。ところで、ハイブリッド自動車等へのR−T−B系焼結磁石の適用においては、磁石は比較的高温に晒されることになるため、熱による高温減磁を抑制することが重要となる。この高温減磁を抑制するには、R−T−B系焼結磁石の室温における保磁力(Hcj)を充分高めておく手法が有効であることは良く知られている。
【0003】
例えば、Nd−Fe−B系焼結磁石の室温における保磁力を高める手法として、主相であるNd
2Fe
14B化合物のNdの一部を、Dy、Tbといった重希土類元素で置換する手法が知られている。Ndの一部を重希土類元素で置換することにより、結晶磁気異方性を高め、その結果、Nd−Fe−B系焼結磁石の室温における保磁力を充分に高めることができる。重希土類元素による置換以外にも、Cu元素等の添加も室温における保磁力向上に効果があるとされている(特許文献1)。Cu元素を添加することにより、該Cu元素が粒界において例えばNd−Cu液相を形成し、これにより粒界が滑らかとなり、逆磁区の発生を抑制するものと考えられている。
【0004】
一方、特許文献2および特許文献3には、希土類磁石の微細構造である粒界相を制御して保磁力を向上させる技術が開示されている。これらの特許文献における図面より、ここでいう粒界相とは三個以上の主相結晶粒子で囲まれた粒界相、すなわち粒界三重点であることが解る。特許文献2には、Dy濃度の異なる二種類の粒界三重点を構成する技術が開示されている。すなわち、全体のDy濃度を高くすることなく、一部Dy濃度の高い粒界相(粒界三重点)を形成することにより、磁区の反転に対して高い抵抗力を持たせることができることが開示されている。特許文献3には、希土類元素の合計原子濃度の異なる第1、第2、第3の、三種類の粒界相(粒界三重点)を形成し、第3の粒界相の希土類元素の原子濃度を他の二種類粒界相の希土類元素の原子濃度より低くするとともに、第3の粒界相のFe元素の原子濃度を他の二種類の粒界相のFe元素の濃度より高くする技術が開示されている。こうすることにより、粒界相中にFeを高濃度で含む第3の粒界相が形成され、これが保磁力を向上させる効果をもたらすとしている。さらに特許文献4には、R
2T
14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上の相と、前記希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%の相とを含むR−T−B系希土類焼結磁石が開示されている。この前記希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%の相は、遷移金属リッチ相と称され、該遷移金属リッチ相中のFeの原子濃度は、50〜70原子%であることが好ましいことが開示されている。これにより、保磁力向上効果を奏するとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
R−T−B系焼結磁石を100℃〜200℃といった高温環境下で使用する場合、室温における保磁力の値も有効な指標の一つではあるが、実際に高温環境下に晒されても減磁しない、若しくは減磁率が小さい、ということが重要である。主相であるR
2T
14B化合物のRの一部がTbやDyといった重希土類元素で置換された組成は保磁力が大幅に向上し、高保磁力化にとっては簡便な手法ではあるが、Dy、Tbといった重希土類元素は産出地、産出量が限られているので、資源的な問題がある。置換に伴い、例えばNdとDyとの反強磁性的な結合により残留磁束密度(Br)の減少も避けられない。上記のCu元素の添加等は保磁力の向上に有効な方法ではあるが、R−T−B系焼結磁石の適用領域の拡大のためには、高温減磁(高温環境下に晒されることによる減磁)抑制の更なる向上が望まれる。
【0007】
希土類磁石、すなわちR−T−B系焼結磁石の保磁力向上のためには、上記Cu添加の方法に加え、微細構造である粒界相の制御が重要であることは良く知られている。粒界相には、隣接する二つの主相結晶粒子間に形成される、いわゆる二粒子粒界相と、上記した三個以上の主相結晶粒子に囲まれた、いわゆる粒界三重点とがある。
【0008】
希土類磁石の保磁力を向上させるには、主相であるR
2T
14B結晶粒子間の磁気的結合を分断することが重要である。各主相結晶粒子を磁気的に孤立させることができれば、ある結晶粒子に逆磁区が発生したとしても、隣接結晶粒子に影響を及ぼすことがなく、よって保磁力を向上させることができる。本願発明者らは、この隣接結晶粒子間の磁気的分断効果を希土類磁石に付与するためには、上記粒界三重点の制御よりも二粒子粒界相の制御が重要であると考え、種々の既存希土類磁石につき検討を行った。その結果、従来の希土類磁石の二粒子粒界相では、磁気的結合の分断の程度はまだまだ不十分であるとの課題を認識するに到った。すなわち、従来二つの主相結晶粒子間に形成されている二粒子粒界相は、2〜3nmと薄く、十分な磁気的結合の分断効果が出ていない。粒界相を極度に厚くすれば十分な磁気的結合の分断効果が得られると考えられるが、二粒子粒界相の幅を厚くするために原料合金組成のR比率を増やすだけでは、希土類元素Rの濃度が相対的に高い相(Rリッチ相)が偏析し粒界三重点を形成するが、二粒子粒界相の幅が厚くならず、残留磁束密度が極端に低下してしまい、実用上問題となる。また、粒界三重点のFe元素の原子濃度を増やした場合、二粒子粒界相の希土類元素Rの濃度を高くできず、十分な磁気的結合の分断効果が出ないばかりでなく、粒界三重点が強磁性の相となるため、逆磁区発生の核となりやすく、保磁力低下の原因となった。これより、従来の希土類磁石では、隣接結晶粒子の磁気的結合の分断の程度はまだまだ不十分であるとの課題を認識するに到った。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、希土類磁石の微細構造である二粒子粒界相を制御することにより、高温減磁率抑制が向上した希土類磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本願発明者等は、高温減磁率の抑制を格段に向上しうる粒界相構造を鋭意検討した結果、以下の発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明に係る希土類磁石は、主相であるR
2T
14B結晶粒子と、隣接する二つのR
2T
14B結晶粒子間の二粒子粒界相とを含み、該二粒子粒界相の厚みが5nm以上500nm以下であり、かつ強磁性体とは異なる磁性を有する相からなることを特徴とする。ここでいう強磁性体とは異なる磁性を有する相とは、反強磁性体、フェリ磁性体、反平行の磁気モーメントが互いに反平行から若干傾くことによる弱磁性体、もしくは非磁性体等を含むものであり、実質的に非磁性もしくは弱い磁性しか示さず、二粒子粒界相の厚さと相俟って隣接する主相結晶粒子間の磁気的分断効果を奏し、高温減磁率を抑制できる。二粒子粒界相の厚みが5nm未満では、従来と同程度の保磁力しか得られず、高温減磁率の抑制を格段に向上させることができない。また、二粒子粒界相の厚みが500nmを超えると、保磁力が向上して高温減磁率を抑制できるものの、全体に占める二粒子粒界相の体積分率が大きくなり、残留磁束密度が低下してしまい、実用上問題となる。尚、二粒子粒界相の幅(厚さ)の評価法については後述する。
【0012】
本発明に係る希土類磁石においては、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相は、Rリッチ相により構成されることが好ましく、該Rリッチ相に含まれる希土類元素の原子含有濃度は60at.%以上であることが好ましく、90at.%以上であることがより好ましい。こうすることにより、形成された二粒子粒界相は非磁性の粒界相となり、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間の磁気的結合の分断効果を高めることができ、これにより高温減磁率を抑制できる。希土類元素Rとしては、比較的豊富で価格が安定しているという観点から、Nd、Prが好ましい。前記二粒子粒界相を形成するRリッチ相には、CuやCoなどの公知の添加物、あるいは後述する粒界相化合物を形成するGa等が含まれていても良い。このような元素が含まれていても、希土類元素Rの原子含有濃度を60at.%以上としているので、前記二粒子粒界相は非強磁性となる。
【0013】
上記Rリッチ相は、微結晶もしくはアモルファスもしくは微結晶を含むアモルファスであることが好ましい。このような構成とすることにより、R
2T
14B主相結晶粒子とRリッチ相との界面において、結晶格子の不整合に基づく歪みの発生を抑えることができ、よって逆磁区発生の核となるのを防ぐことができる。ここでいう微結晶とは、二粒子粒界相幅よりも小さい結晶子径であって、10nm以下であることが好ましい。透過電子顕微鏡では、アモルファス相は制限視野電子線回折像においてハローパターンとして得られ、微結晶は結晶そのものを観察することによって確認できる。
【0014】
また、本発明に係る希土類磁石においては、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相は、Fe、Co等の鉄族元素を含む化合物であってよく、La
6Co
11Ga
3型結晶構造を有するR
6T
13M相(MはAl、Ge、Si、Sn、Gaから選ばれる少なくとも一種)であることが好ましい。このように二粒子粒界相において、鉄族元素Tを化合物の構成元素として取り込むことにより、Fe、Co等の鉄族元素を含んでいても非強磁性の二粒子粒界相を形成することが出来、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間の磁気的結合の分断効果を高めることができ、高温減磁率を抑制できる。
【0015】
上記R
6T
13M相は、高分解能透過型電子顕微鏡観察(HRTEM)において結晶格子縞の観測される結晶性を有することが好ましい。二粒子粒界相であるR
6T
13M相をこのように結晶成長させることにより、均一で幅の広い粒界相を形成することができる。さらに、R
2T
14B主相結晶粒子とR
6T
13M相との界面には薄い微結晶もしくはアモルファス層もしくは微結晶を含むアモルファス層が形成されていることが好ましい。ここでいうR
2T
14B主相結晶粒子とR
6T
13M相との界面の、薄い微結晶もしくはアモルファス層もしくは微結晶を含むアモルファス層の厚みは、0.5nmを下回らず、該R
6T
13M二粒子粒界相の厚みの1/10以下であればよい。またこの薄い微結晶もしくはアモルファス層もしくは微結晶を含むアモルファス層はR−Cu相であることが好ましい。こうすることにより、R
2T
14B主相結晶粒子とR
6T
13M相との界面において、結晶格子の不整合に基づく歪みの発生を抑えることができ、よって逆磁区発生の核となるのを防ぐことができる。
【0016】
さらに、本発明に係る希土類磁石においては、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相は、上記Rリッチ相からなる第1の二粒子粒界相と、上記R
6T
13M相からなる第2の二粒子粒界相とを含むことが好ましい。このように構成することで、従来R−Cu等のRリッチ二粒子粒界相に偏析していたT原子、例えばFe原子をR
6T
13M化合物の形で消費させてやることにより、Rリッチ相中の鉄族元素の濃度を極度に減らすことが出来、よって第1の二粒子粒界相と第2の二粒子粒界相のどちらも非強磁性の粒界相とすることができる。これによって隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間の磁気的結合の分断効果を高めることができ、高温減磁率を抑制できる。
【0017】
本発明に係る希土類磁石においては、隣接する二つの主相結晶粒子間の二粒子粒界相幅を、従来観測されていた値より広くし、かつ二粒子粒界相を非磁性もしくは磁性の極めて弱い材料で構成することにより、該二粒子粒界相による磁気的結合の分断効果を格段に高めていることに特徴がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温減磁率の小さい希土類磁石を提供でき、高温環境下で使用されるモーター等に適用できる希土類磁石を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。尚、本発明でいう希土類磁石とは、R
2T
14B主相結晶粒子と二粒子粒界相を含む焼結磁石であり、Rは一種以上の希土類元素を含み、TはFeを必須元素とした一種以上の鉄族元素を含み、Bを含み、さらには各種公知の添加元素が添加されたものをも含むものである。
【0021】
図1は、本発明に係る実施形態の希土類磁石の断面構造を模式的に示す図である。本実施形態に係る希土類磁石は、R
2T
14B主相結晶粒子1と、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子1間に形成される二粒子粒界相2とを含み、該二粒子粒界相2の断面における幅が5nm〜500nmとされていることを特徴とする。
【0022】
本実施形態における二粒子粒界相2の幅(厚み)は、通常の希土類磁石の二粒子粒界相幅2〜3nmに較べ、格段に広く構成されている。R
2T
14B主相結晶粒子を囲む全ての領域において、二粒子粒界相厚みがこの幅の範囲内である必要はない。局所的に二粒子粒界相厚みの薄い領域があったとしても、一部に上記のような厚い二粒子粒界相を含むことにより、逆磁区発生の確率は低く抑えられる。厚い二粒子粒界相の割合が20%以上であれば良い。
【0023】
本発明における二粒子粒界相幅(粒界相厚み)とは、測定値60点の平均値とする。
図2は本実施形態における二粒子粒界相幅を測定する方法を具体的に示す模式図である。隣接するR
2T
14B主相結晶粒子1の間には、二粒子粒界相2および粒界三重点3が形成されている。測定対象となる二粒子粒界相2に着目し、該二粒子粒界相とこれに繋がる粒界三重点3との境界2a、2bを決める。この境界2a、2bは、この近傍は測定対象としないので、それほど正確でなくて良い。境界2a、2bを決定したら、この間を4等分し、三つの等分線を引く。この三つの等分線の位置を二粒子粒界相幅の測定点とし、測定値3点を得る。この測定を、任意に選んだ20箇所の着目する二粒子粒界相について行い、合計60の測定点の測定値の平均を二粒子粒界相の厚み(幅)とする。
【0024】
本発明において、上記した厚い二粒子粒界相の割合とは、二粒子粒界相幅を測定した合計60の測定点のうち、二粒子粒界相幅の測定値が5nm以上であり、かつ該測定箇所が強磁性体とは異なる磁性を有する相(本明細書では磁性を満足する相とも呼ぶ)からなる測定点の占める割合とする。尚、本明細書においては、
図2に示すように境界2aと2bを二等分する線上で、二粒子粒界相の幅方向の中点を二粒子粒界相の中点2cとする。
【0025】
本実施形態に係る希土類磁石を構成するR
2T
14B主相結晶粒子においては、希土類Rとしては軽希土類元素、重希土類、あるいは両者の組み合わせのいずれであっても良いが、材料コストの観点からNd、Prあるいはこれら両者の組み合わせが好ましい。鉄族元素Tとしては、FeあるいはFeとCoの組み合わせが好ましいが、これらに限定されない。また、Bはホウ素を示す。本実施形態の焼結磁石において、全質量に対する各元素の含有量は、それぞれ以下の通りである。なお、本明細書においては、質量%は重量%と同じ単位であるとみなすこととする。
R:29.5〜33質量%、
B:0.7〜0.95質量%、
M:0.03〜1.5質量%、
Cu:0.01〜1.0質量%、及び、
Fe:実質的に残部、及び、
残部を占める元素のうちのFe以外の元素の合計含有量:5質量%以下
【0026】
以下、各元素の含有量や原子比等の条件について更に詳細に説明する。
【0027】
焼結磁石中のRの含有量は、29.5〜33質量%である。Rとして重希土類元素を含む場合は、重希土類元素も含めた希土類元素の合計の含有量がこの範囲となる。重希土類元素とは、希土類元素のうちの原子番号が大きいものをいい、一般に
64Gdから
71Luまでの希土類元素がこれに該当する。Rの含有量がこの範囲であると、高い残留磁束密度及び保磁力が得られる傾向にある。Rの含有量がこれよりも小さいと、主相であるR
2T
14B相が形成され難くなって、軟磁性を有するα−Fe相が形成され易くなり、その結果保磁力が低下する。一方、Rの含有量がこれよりも大きいとR
2T
14B相の体積比率が低くなり、残留磁束密度が低下する。Rの含有量は、30.0〜32.5質量%であってもよい。このような範囲であると、主相であるR
2T
14B相の体積比率が特に高くなり、更に良好な残留磁束密度が得られるようになる。
【0028】
Rとしては、Nd及びPrのいずれか一方を必ず含むが、R中のNd及びPrの割合は、Nd及びPrの合計で80〜100原子%であってもよく、95〜100原子%であってもよい。このような範囲であると、さらに良好な残留磁束密度及び保磁力が得られるようになる
【0029】
上記のように、焼結磁石は、RとしてDy、Tb、Ho等の重希土類元素を含んでいてもよいが、その場合、焼結磁石の全質量中の重希土類元素の含有量は、重希土類元素の合計で1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であると好ましく、0.1質量%以下であるとより好ましい。本実施形態の焼結磁石によれば、このように重希土類元素の含有量を少なくしても、他の元素の含有量及び原子比が特定の条件を満たすことによって、良好な高い保磁力を得ることができる。
【0030】
本実施形態に係る希土類磁石は、さらに微量の添加元素を含む。添加元素としては周知のものを用いることができる。添加元素は、R
2T
14B主相結晶粒子の構成要素であるR元素と状態図上に共晶点を有するものが好ましい。この点から、添加元素としてはCu等が好ましいが、他の元素であっても良い。Cuの添加量としては、全体の0.01〜1.0質量%である。添加量をこの範囲とすることで、Cuをほぼ粒界相にのみ偏在させることができる。
【0031】
本実施形態に係る希土類磁石は、さらに二粒子粒界相としてT元素を含みつつも強磁性とはならない化合物を形成するための元素を含む。この目的のためには、Al、Ge、Si、Sn、GaなどのM元素を添加することが好ましい。希土類磁石にCuに加えてこれらの元素を添加することで、二粒子粒界相として結晶性の良いLa
6Co
11Ga
3型結晶構造を有する結晶相を均一に幅広く形成できるとともに、該La
6Co
11Ga
3型二粒子粒界相とR
2T
14B主相結晶粒子との界面にR−Cu薄層を形成でき、これによって界面を滑らかなものとし格子不整合等に起因する歪みの発生を抑制し、逆磁区の発生核となるのを抑制することができる。焼結磁石において、Mの含有量は、0.03〜1.5質量%である。Mの含有量がこの範囲よりも小さいと、保磁力が不十分となり、この範囲よりも大きいと、飽和磁化が低くなって、残留磁束密度が不十分となる。保磁力及び残留磁束密度をより良好に得るために、Mの含有量は、0.13〜0.8質量%であってもよい。
【0032】
本実施形態の焼結磁石は、上述した各元素に加え、Fe及びその他の元素を含み、Fe及びその他の元素が、焼結磁石の全質量中、上記各元素を合計した含有量を除いた残部を占める。ただし、焼結磁石が十分に磁石として機能するためには、残部を占める元素のうち、Fe以外の元素の合計含有量は、焼結磁石の全質量に対し、5質量%以下であることが好ましい。
【0033】
またCoは、Feと同様、R
2T
14Bの基本組成におけるTで表される元素であり、Feと同様の相を形成する。焼結磁石は、Coを含むことができる。その場合、Coの含有量は0質量%を超え、3.0質量%以下であることが好ましい。焼結磁石にCoを含む相を含むことにより、焼結磁石は、キュリー温度が向上するほか、粒界相の耐食性が向上するため、全体として高い耐食性を有するものとなる。このような効果をより良好に得るために、Coの含有量は、0.3〜2.5質量%であってもよい。
【0034】
また、Cの含有量は、0.05〜0.3質量%である。Cの含有量がこの範囲よりも小さいと、保磁力が不十分となり、この範囲よりも大きいと、保磁力に対する、磁化が残留磁束密度の90%であるときの磁界の値(Hk)の比率、いわゆる角形比(Hk/保磁力)が不十分となる。保磁力及び角形比をより良好に得るために、Cの含有量は、0.1〜0.25質量%であってもよい。
【0035】
また、Oの含有量は、0.03〜0.4質量%である。Oの含有量がこの範囲よりも小さいと、焼結磁石の耐食性が不十分となり、この範囲よりも大きいと、焼結磁石中に液相が十分に形成されなくなり、保磁力が低下する。耐食性及び保磁力をより良好に得るために、Oの含有量は、0.05〜0.3質量%であってもよく、0.05〜0.25質量%であってもよい。
【0036】
焼結磁石は、その他の元素として、例えばZrを含むことができる。その場合、Zrの含有量は、焼結磁石の全質量中、0.25質量%以下であると好ましい。Zrは、焼結磁石の製造過程での結晶粒の異常成長を抑制することができ、得られる焼結体(焼結磁石)の組織を均一且つ微細にして、磁気特性を向上することができる。そのような効果をより良好に得るために、Zrの含有量は、0.03〜0.25質量%であってもよい。
【0037】
焼結磁石は、上記以外の構成元素として、Mn、Ca、Ni、Cl、S、F等の不可避不純物を、0.001〜0.5質量%程度含んでいてもよい。
【0038】
また、焼結磁石において、Nの含有量は、0.15質量%以下であると好ましい。Nの
含有量がこの範囲よりも大きいと、保磁力が不十分となる傾向にある。
【0039】
また、本実施形態の焼結磁石は、各元素の含有量が上述した範囲であるとともに、C、O及びNの原子数を、それぞれ[C]、[O]、及び[N]としたとき、[O]/([C]+[N])<0.60となる関係を満たすことが好ましい。このように構成することで、高温減磁率の絶対値を小さく抑制できる。
【0040】
また、本実施形態の焼結磁石は、Nd、Pr,B,C及びM元素の原子数が、次の関係を満たしていることが好ましい。すなわち、Nd,Pr,B,C及びM元素の原子数を、それぞれ[Nd]、[Pr]、[B]、[C]及び[M]としたとき、0.27<[B]/([Nd]+[Pr])<0.43、及び、0.07<([M]+[C])/[B]<0.60となる関係を満たしていることが好ましい。このように構成することで、高い保磁力が得られる。
【0041】
本実施形態に係る希土類磁石の製造方法の一例を説明する。本実施形態に係る希土類磁石は通常の粉末冶金法により製造することができ、該粉末冶金法は、原料合金を調製する調製工程、原料合金を粉砕して原料微粉末得る粉砕工程、原料微粉末を成形して成形体を作製する成形工程、成形体を焼成して焼結体を得る焼結工程、及び焼結体に時効処理を施す熱処理工程を有する。
【0042】
調製工程は、本実施形態に係る希土類磁石に含まれる各元素を有する原料合金を調製する工程である。まず、所定の元素を有する原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法等を行う。これによって原料合金を調製することができる。原料金属としては、例えば、希土類金属や希土類合金、純鉄、純コバルト、フェロボロン、またはこれらの合金が挙げられる。これらの原料金属を用い、所望の組成を有する希土類磁石が得られるような原料合金を調製する。
【0043】
粉砕工程は、調製工程で得られた原料合金を粉砕して原料微粉末を得る工程である。この工程は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の2段階で行うことが好ましいが、1段階としても良い。粗粉砕工程は、例えばスタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。水素を吸蔵させた後、粉砕を行う水素吸蔵粉砕を行うこともできる。粗粉砕工程においては、原料合金を、粒径が数百μmから数mm程度となるまで粉砕を行う。
【0044】
微粉砕工程は、粗粉砕工程で得られた粗粉末を微粉砕して、平均粒径が数μm程度の原料微粉末を調製する。原料微粉末の平均粒径は、焼結後の結晶粒の成長度合を勘案して設定すればよい。微粉砕は、例えば、ジェットミルを用いて行うことができる。
【0045】
成形工程は、原料微粉末を磁場中で成形して成形体を作製する工程である。具体的には、原料微粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して原料微粉末の結晶軸を配向させながら、原料微粉末を加圧することにより成形を行う。この磁場中の成形は、例えば、1000〜1600kA/mの磁場中、30〜300MPa程度の圧力で行えばよい。
【0046】
焼結工程は、成形体を焼成して焼結体を得る工程である。磁場中成形後、成形体を真空もしくは不活性ガス雰囲気中で焼成し、焼結体を得ることができる。焼成条件は、成形体の組成、原料微粉末の粉砕方法、粒度等の条件に応じて適宜設定することが好ましいが、例えば、1000℃〜1100℃で1〜10時間程度行えばよい。
【0047】
熱処理工程は、焼結体を時効処理する工程である。この工程を経た後、隣接するR
2T
14B主相結晶粒子間に形成される二粒子粒界相の幅およびその組成が決定される。しかしながら、これらの微細構造はこの工程のみで制御されるのではなく、上記した焼結工程の諸条件及び原料微粉末の状況との兼ね合いで決まる。従って、熱処理条件と焼結体の微細構造との関係を勘案しながら、熱処理温度及び時間を設定すればよい。熱処理は500℃〜900℃の温度範囲で行えばよいが、800℃近傍での熱処理を行った後550℃近傍での熱処理を行うというふうに2段階に分けて行ってもよい。熱処理の降温過程における冷却速度でも微細組織は変動するが、冷却速度は、100℃/分以上、特に300℃/分以上とすることが好ましい。本発明の上記時効によれば、冷却速度を従来よりも速くしているので、粒界相における強磁性相の偏析を効果的に抑制させることができると考えている。よって、保磁力の低下、ひいては高温減磁率の悪化を招く原因を排除することができる。原料合金組成と前記した焼結条件および熱処理条件を種々設定することにより、二粒子粒界相の幅を制御することができる。ここでは二粒子粒界相の幅の制御方法として熱処理工程の一例を述べたが、表1に記載されているような組成要因によっても二粒子粒界相の幅の制御することは可能である。
【0048】
以上の方法により、本実施形態に係る希土類磁石が得られるが、希土類磁石の製造方法は上記に限定されず、適宜変更してよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る希土類磁石の高温減磁率の評価について説明する。評価用試料形状としては特に限定されないが、一般に多用されているように、パーミアンス係数が2となる形状とする。先ず室温(25℃)における試料の残留磁束を測定し、これをB0とする。残留磁束は、例えばフラックスメーター等により測定できる。次に試料を140℃に2時間高温暴露し、室温に戻す。試料温度が室温に戻ったら、再度残留磁束を測定し、これをB1とする。すると、高温減磁率Dは、
D=(B1−B0)/B0*100(%)
と、評価される。
【0050】
本実施形態に係る希土類磁石の微細構造、すなわち二粒子粒界相の幅は、HRTEMにより評価することができる。倍率は観測対象の二粒子粒界相幅に応じて適宜設定すればよい。上記した高温減磁率を評価した試料を薄片形状として、研磨断面の観察を行う。研磨断面は配向軸に平行であっても、配向軸に直交していても、あるいは配向軸と任意の角度であってよい。具体的な測定方法は上記したとおりである。
【0051】
本実施形態では、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた観察を行って二粒子粒界相の中点2cの位置を特定し、さらに、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(STEM−EDS)を用いた点分析により、二粒子粒界相の中点2cにおける各元素の含有割合を算出し、二粒子粒界相の組成とする。
【0052】
また、本実施形態では、二粒子粒界相の中点2c付近のHRTEM及び制限視野電子線回折もしくは収束電子線回折図形の解析から、二粒子粒界相の結晶構造と結晶性を特定する。
【0053】
次に、本発明を具体的な実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0054】
まず、焼結磁石の原料金属を準備し、これらを用いてストリップキャスティング法により、下記表1で表される試料No.1〜18及び比較例1〜3の焼結磁石の組成が得られるように、それぞれ原料合金を作製した。なお、表1及び表2に示した各元素の含有量は、T、R、Cu及びMについては、蛍光X線分析により、Bについては、ICP発光分析により測定した。また、Oについては、不活性ガス融解−非分散型赤外線吸収法により、Cについては、酸素気流中燃焼−赤外吸収法により、Nについては、不活性ガス融解−熱伝導度法により測定することができる。また、[O]/([C]+[N])、[B]/([Nd]+[Pr])及び([M]+[C])/[B]については、これらの方法により得た含有量から各元素の原子数を求めることにより算出した。
【0055】
次に、得られた原料合金に水素を吸蔵させた後、Ar雰囲気で600℃、1時間の脱水素を行う水素粉砕処理を行った。その後、得られた粉砕物をAr雰囲気下で室温まで冷却した。
【0056】
得られた粉砕物に粉砕助剤としてオレイン酸アミドを添加、混合した後、ジェットミルを用いて微粉砕を行い、平均粒径が約3〜4μmである原料粉末を得た。
【0057】
得られた原料粉末を、低酸素雰囲気下において、配向磁場1200kA/m、成形圧力120MPaの条件で成形を行って、成形体を得た。
【0058】
その後、成形体を、真空中で1030〜1050℃、4時間焼成した後、急冷して焼結体を得た。得られた焼結体に対し、900℃と500℃との2段階の熱処理を行った。一段目の900℃での熱処理(時効1)については1時間と一定とし、冷却速度を100℃/分としたが、二段目の500℃での熱処理(時効2)については熱処理時間及び熱処理の降温過程における冷却速度を変え、二粒子粒界相の幅の異なる複数の試料を準備した。尚、上記したように二粒子粒界相の幅は、原料合金組成、焼結条件によっても変化させることができる。
【0059】
以上のようにして得られた試料につき、B−Hトレーサーを用いて、残留磁束密度及び保磁力をそれぞれ測定した。その後に高温減磁率を測定し、次に断面を電子顕微鏡により観察し、二粒子粒界相の幅の測定を行うとともに、二粒子粒界相を構成する材料の同定を行った。先ず、各種試料の微細構造および磁気特性をまとめて表1に示す。また、複数種の二粒子粒界相が観測されており、組成と構造から類推し、観察されたものは○で、観察されなかったものは×で表1に示した。尚、表1には従来の微細構造をもつ試料についても比較例として示す。
【0060】
また、二段目の熱処理(時効2)の冷却速度を表2に示した。さらに、焼結体に含まれるC、O、N、Nd、Pr、B、M元素の原子数を、それぞれ[C]、[O]、[N]、[Nd]、[Pr]、[B]及び[M]としたとき、各試料の[O]/([C]+[N])、[B]/([Nd]+[Pr])及び([M]+[C])/[B]の値を算出し、表2に示した。希土類磁石に含まれる酸素の量及び窒素の量は、粉砕工程から熱処理工程に至るまでの雰囲気を制御し、特に粉砕工程での雰囲気に含まれる酸素の量及び窒素の量の増減調整により、表2の範囲に調整した。また、希土類磁石に含まれる原料に含まれる炭素の量は、粉砕工程で添加する粉砕助剤の量の増減調整により、表2の範囲に調整した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1より、二粒子粒界相幅が5nm以上となる本実施形態の試料では、高温減磁率が−2%以下と低く抑えられ、高温環境下での使用にも適した希土類磁石となっていることがわかる。が、二粒子粒界相幅が500nmを超えてしまう比較例1では、高温減磁率が極めて低く抑えられているにも拘わらず、残留磁束密度Brが12.6kGと低下してしまっており、実用上問題となる。これは、希土類磁石全体に対して非強磁性の二粒子粒界相の占める体積分率が大きくなりすぎたためといえる。一方、比較例2では、二粒子粒界相幅が1.8nmと狭いため、主相結晶粒子間の磁気的分断効果が発揮できておらず、高温減磁率の抑制がなされない。比較例3では、二粒子粒界相幅が6nmと従来に較べて厚くされており、また室温での保磁力が試料No.15と同等であるにも拘わらず、高温減磁率の抑制効果が出ていない。これは後述するように、二粒子粒界相が鉄族元素を多く含むNd−Cu(−Fe)相で形成されていることによるものと考える。尚、本実施例の電子顕微鏡写真を解析したところ、厚い二粒子粒界相の割合は20%以上であった。
【0064】
次に、本発明に係る希土類磁石における二粒子粒界相をさらに詳しく説明する。
図3は試料No.8に形成された二種類の二粒子粒界相を示す電子顕微鏡写真である。第1の二粒子粒界相21はSTEM−EDSによる分析の結果、Ndを高濃度に含むNd−Ga相である。具体的にはNdを原子濃度で90原子%含むNd−Ga相であり、非強磁性の二粒子粒界相となっている。第2の二粒子粒界相22について、HRTEMおよび制限視野電子線回折像を検討したところ、La
6Co
11Ga
3型結晶構造の形成を示唆する格子像および回折スポットが観察され、STEM−EDSによる分析の結果と構造からNd
6Fe
13Ga化合物が形成されているのを確認した。この化合物はFeを含んではいるものの非強磁性の二粒子粒界相となっている。この化合物の電子線ホログラフィーによる磁束分布の解析から、非常に磁化の値が小さく、反強磁性もしくはフェリ磁性を示すものではないかと考えている。以上のように二粒子粒界相幅を5nm以上と厚くすることと非強磁性となる材料で構成することにより、主相結晶粒子間の磁気的結合を分断して、高温減磁率の抑制がなされているものと考える。
【0065】
上記第2の二粒子粒界相につき、さらに詳しく解析したものが
図4である。
図4(a)は第2の二粒子粒界相のHRTEMによる観察である。R
2T
14B(Nd
2Fe
14B)主相結晶粒子1と第2の二粒子粒界相22の領域でともに格子の連続性が良く結晶性の高い格子縞が観察されることから、主相結晶粒子のみならず二粒子粒界相であるNd
6Fe
13Ga化合物も極めて結晶性の良いものであることがわかる。このように良好な結晶を二粒子粒界に成長させてやることで、均一で厚い二粒子粒界相を形成することができるものと考える。
図4(a)の二つの相の界面を、さらに高倍率で観察したものが
図4(b)の写真である。R
2T
14B主相結晶粒子1と第2の二粒子粒界相22との界面に1〜2nm程度の薄いNd−Cu層23(Layer)が形成されていることを、HRTEM及び電子線回折図形の解析、及びSTEM−EDSによる分析から確認できる。このNd−Cu層23はアモルファスとなっており、このことが二つの結晶相の間の緩衝層として機能し、これによって界面が滑らかなものとなって格子不整合等に起因する歪みの発生を抑制し、逆磁区の発生核となるのを抑制し、高温減磁率の抑制がなされているものと考える。尚、この薄い界面相23は、R
6T
13M相が形成された試料No.1〜試料No.18、及び比較例1においても観察された。
【0066】
次に、試料No.13に形成された二粒子粒界相について説明する。試料No.13においては二種類の組成の異なるR−Ga(Nd−Ga)二粒子粒界相を確認できる。このような組成の異なるR−M二粒子粒界相は、多くの本実施例の試料においても確認できる。上記したNdを90原子%以上含むNd−Ga二粒子粒界相に加えて、Ndを60原子%程度含むNd−Ga二粒子粒界相も構成できる。この場合、残りの構成元素としてはGa、Fe、Cu等があり、Nd+Ga+Cuで80原子%程度となっており、非強磁性の二粒子粒界相となる。
【0067】
図5(a)は、従来技術による比較例3の二粒子粒界相を示すHRTEM写真である。
図5(b)には、
図5(a)示した二粒子粒界相2をまたぐ図上A−B間をSTEM−EDSにてライン分析を行って求めたFe及びNdの濃度分布を示す。このSTEM−EDSによる元素分析の結果から、この比較例3での二粒子粒界相には、75.8at.%のFe原子が含まれており、磁気的には強磁性となっていることが推察される。このように、鉄族元素が高濃度で存在する従来技術になる二粒子粒界相では、二粒子粒界相幅を5nm以上とすることが出来たとしても、主相結晶粒子間の磁気的分断効果は得られず、よって高温減磁率の抑制効果を向上させることはできない。
【0068】
また、表2に示すように、本発明の条件を満たす試料1〜18の試料では、焼結磁石に上述した微細構造が形成されているとともに、焼結磁石に含まれるNd、Pr、B、C及びM元素の原子数が、次のような特定の関係を満たしている。すなわち、Nd、Pr、B、C及びM元素の原子数を、それぞれ[Nd]、[Pr]、[B]、[C]及び[M]としたとき、0.27<[B]/([Nd]+[Pr])<0.43、及び、0.07<([M]+[C])/[B]<0.60となる関係を満たしている。このように、0.27<[B]/([Nd]+[Pr])<0.43であり、且つ、0.07<([M]+[C])/[B]<0.60であることにより、保磁力(Hcj)を効果的に向上させることが可能であった。
【0069】
また、表2に示すように、本発明の条件を満たす試料1〜18の試料では、焼結磁石に上述した微細構造が形成されているとともに、焼結磁石に含まれるO、C及びNの原子数が、次のような特定の関係を満たしている。すなわち、O、C及びNの原子数を、それぞれ[O]、[C]及び[N]としたとき、[O]/([C]+[N])<0.60となる関係を満たしている。このように、[O]/([C]+[N])<0.60であることにより、高温減磁率Dを効果的に抑制させることが可能であった。
【0070】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。