特許第6303521号(P6303521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6303521回転体、回転体素材、及び回転体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303521
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】回転体、回転体素材、及び回転体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20180326BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   F04C2/10 341F
   F04C15/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-6395(P2014-6395)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135072(P2015-135072A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】306000315
【氏名又は名称】株式会社ダイヤメット
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】本多 直孝
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3470205(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/169024(WO,A1)
【文献】 特公平05−015763(JP,B2)
【文献】 特開2005−264766(JP,A)
【文献】 特許第3163505(JP,B2)
【文献】 特開2009−221950(JP,A)
【文献】 特許第2910087(JP,B2)
【文献】 特開2006−161616(JP,A)
【文献】 特開2002−138968(JP,A)
【文献】 特開昭59−128987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/10
F04C 15/00
F16F 15/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトが圧入される金属製の回転体であって、前記回転体は内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであり、シャフトが圧入される内径面は、一端側に切削加工が施された加工部分を、他端側に切削加工が施されていない未加工部分を備えるともに、前記加工部分の内径は前記未加工部分の内径よりも小さく形成されていることを特徴とする回転体。
【請求項2】
前記内径面の両方の端部に面取り部を備え、一端側の端部における面取り部は切削加工が施され、他端側の端部における面取り部は切削加工が施されていないことを特徴とする請求項1記載の回転体。
【請求項3】
シャフトが圧入される金属製の回転体に加工される回転体素材であって、前記回転体は内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであり、内径面は、一端側に径小部分を、他端側に前記径小部分よりも内径が大きい径大部分を備え、前記径小部分と前記径大部分との間に段差が形成されているとともに、他端側の端部に面取り部が形成されていることを特徴とする回転体素材。
【請求項4】
粉末冶金により得られたことを特徴とする請求項記載の回転体素材。
【請求項5】
シャフトが圧入される金属製の回転体の製造方法であって、前記回転体は内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであり、回転体素材を成形する素材成形工程と、前記回転体素材を切削加工する切削加工工程とを備え、
前記素材成形工程において成形される前記回転体素材の内径面は、一端側に径小部分を、他端側に前記径小部分よりも内径が大きい径大部分を備え、前記径小部分と前記径大部分との間に段差が形成されているとともに、他端側の前記端部に面取り部が形成されており、
前記切削加工工程において、前記径小部分にのみ切削加工を施すことを特徴とする回転体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入されたシャフトに軸支されて回転する内接歯車式オイルポンプ用インナーロータ等の回転体に関し、さらに、回転体素材、及び回転体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内接歯車式のオイルポンプは、インナーロータの中心にシャフトが固定されており、このシャフトを回転させることにより駆動されるようになっている。そして、インナーロータは、ポンプの駆動トルクによって空転することを避けるために、シャフトに確実に固定されている。
【0003】
ところで、一般に、インナーロータとシャフトの固定には、キー溝やカシメ、圧入等が用いられている。
【0004】
しかしながら、キー溝やカシメにより固定する場合は、組み立て工数の増加により製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
一方、圧入により固定する場合は、シャフトが圧入されるインナーロータの内径面の加工において、適切な圧入代を確保するため、厳しい内径寸法公差を守り、さらに内径面の粗さを小さくする必要がある。このため、インナーロータの加工コストが高くなるという問題があった。特に、長尺のインナーロータを加工する場合は、内径面の内径軸方向の切削距離が長くなるため、より加工コストが高くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−343451号公報
【特許文献2】特開2005−264766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のインナーロータの製造においては、図2に示すように、インナーロータ101の素材51は、粉末冶金等により内径面52を有する円柱管状に形成されていた。そして、インナーロータ101の内径面102を形成するための切削加工においては、バイト等により内径面52が切削加工されて内径面102が形成され、その後、内径面102の両端部において切削加工による面取りが行われ、面取り部103,104が形成されていた。
【0008】
ここで、インナーロータのシャフト圧入範囲は、内径の全体の場合と、内径の一部分の場合がある。そして、長尺のインナーロータの場合は後者の場合が多い。ところが、従来技術においては、後者の場合においても、内径面の全体に切削加工が施されていた。
【0009】
そこで、本発明は、内径面の内径軸方向の切削距離を短くして内径面の加工コストを抑え、より低コストでインナーロータを製造することを可能とする、新規の回転体、回転体素材、及び回転体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の回転体は、シャフトが圧入される金属製の回転体であって、シャフトが圧入される内径面は、一端側に切削加工が施された加工部分を、他端側に切削加工が施されていない未加工部分を備えるともに、前記加工部分の内径は前記未加工部分の内径よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、前記内径面の両方の端部に面取り部を備え、一端側の端部における面取り部は切削加工が施され、他端側の端部における面取り部は切削加工が施されていないことを特徴とする。
【0012】
また、内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであることを特徴とする。
【0013】
本発明の回転体素材は、シャフトが圧入される金属製の回転体に加工される回転体素材であって、内径面は、一端側に径小部分を、他端側に前記径小部分よりも内径が大きい径大部分を備え、前記径小部分と前記径大部分との間に段差が形成されているとともに、他端側の端部に面取り部が形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、粉末冶金により得られたことを特徴とする。
【0015】
また、前記回転体は、内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであることを特徴とする。
【0016】
本発明の回転体の製造方法は、シャフトが圧入される金属製の回転体の製造方法であって、回転体素材を成形する素材成形工程と、前記回転体素材を切削加工する切削加工工程とを備え、
前記素材成形工程において成形される前記回転体素材の内径面は、一端側に径小部分を、他端側に前記径小部分よりも内径が大きい径大部分を備え、前記径小部分と前記径大部分との間に段差が形成されているとともに、他端側の前記端部に面取り部が形成されており、
前記切削加工工程において、前記径小部分にのみ切削加工を施すことを特徴とする。
【0017】
また、前記回転体は、内接歯車式オイルポンプ用インナーロータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の回転体によれば、内径面の一部にのみ切削加工が施されているため、内径面の内径軸方向の切削距離を短くして内径面の加工コストを抑え、より低コストで製造することができる。
【0019】
本発明の回転体素材によれば、内径面の一部にのみ切削加工を施すように構成されているため、内径面の内径軸方向の切削距離を短くして内径面の加工コストを抑え、より低コストで回転体を製造することができる。
【0020】
本発明の回転体の製造方法によれば、回転体素材の内径面の一部にのみ切削加工を施すため、内径面の内径軸方向の切削距離を短くして内径面の加工コストを抑え、より低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の回転体の製造方法の一実施例を示す説明図である。
図2】従来の回転体の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の回転体、回転体素材、及び回転体の製造方法の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0023】
本実施例の回転体は、鉄系金属からなる内接歯車式オイルポンプ用のインナーロータである。本実施例の回転体の製造方法を示す図1において、左側に回転体素材としての素材1、右側に回転体素材を切削加工して得られた回転体11を示す。なお、図1は主にシャフト(図示せず)が圧入される内径面を模式的に示す説明図であって、実際のインナーロータの形状等を示したものではない。
【0024】
図1の左側において、素材1は、金属粉末を成型して焼成する粉末冶金により得られたものであり、略円柱面状の内径面2を有している。内径面2は、一端側に径小部分3、他端側に径大部分4を備えており、径小部分3と径大部分4は、それぞれ内径が一定の直線状の形状になっている。そして、径小部分3は後述の切削加工が施されるため、その加工代を考慮して径大部分4よりも内径が小さく設定され、径小部分3と径大部分4との間には段差5が形成されている。また、他端側の端部には面取り部6が形成されている。なお、面取り部6と径大部分4の間の段差7は、粉末冶金における成型上の都合により形成されたものである。
【0025】
一方、図1の右側において、回転体11は、素材1の径小部分3にのみ切削加工を施すことにより形成されている。すなわち、回転体11の内径面12は、一端側に切削加工が施された加工部分13、他端側に切削加工が施されていない未加工部分14を備えている。したがって、素材1の径大部分4は回転体11の未加工部分14と同一である。このように、回転体11の内径面12は、シャフトが圧入される範囲である加工部分13のみが切削加工により形成されるため、内径面12の内径軸方向の切削距離が短くなり、内径面の加工コストが抑えられる。本実施例においては、内径面12の内径軸方向の1/2〜2/3の領域を加工部分13が占めており、この場合、残りの1/3〜1/2の領域における加工コストを削減することができる。また、切削距離が小さくなることにより切削加工に用いられる切削具の寿命が延び、その結果、切削具に係るコストも低減させることができる。
【0026】
ここで、シャフトが圧入されない範囲である未加工部分14は、シャフトを圧入する際にシャフトをガイドする役目を果たす場合があるため、加工部分13との内径の差はできるだけ小さくすることが好ましい。一方、切削加工の際、未加工部分14にバイト等の切削具が当たらずに加工部分13のみを効率良く加工するために、未加工部分14の内径は加工部分13の内径よりも大きく設定されるのが好ましい。このため、加工部分13の内径は未加工部分14の内径よりも僅かに小さく形成され、内径面12の形状は、従来のインナーロータにおける直線状の形状に近い形状になっている。なお、加工部分13と未加工部分14の内径の差は、例えば、0.01〜0.02mmとなっている。
【0027】
また、内径面12の一端側の端部は、切削加工を施すことにより形成された面取り部15を備えている。なお、他端側の端部の面取り部6は切削加工が施されておらず、素材1のまままである。このように、素材1において他端側の端部の面取り部6を予め形成しておくことにより、切削加工により面取り部6を形成する工程を不要とし、加工コストを削減することができる。
【0028】
以上のように、本実施例の回転体は、シャフトが圧入される金属製の回転体11であって、シャフトが圧入される内径面12は、一端側に切削加工が施された加工部分13を、他端側に切削加工が施されていない未加工部分14を備えるともに、前記加工部分13の内径は前記未加工部分14の内径よりも小さく形成されている。また、前記内径面12の両方の端部に面取り部を備え、一端側の端部における面取り部15は切削加工が施され、他端側の端部における面取り部6は切削加工が施されていない。
【0029】
また、本実施例の回転体素材は、シャフトが圧入される金属製の回転体11に加工される回転体素材としての素材1であって、内径面2は、一端側に径小部分3を、他端側に前記径小部分3よりも内径が大きい径大部分4を備え、前記径小部分3と前記径大部分4との間に段差5が形成されているとともに、他端側の端部に面取り部6が形成されている。
【0030】
そして、本実施例の回転体の製造方法は、シャフトが圧入される金属製の回転体11の製造方法であって、素材1を成形する素材成形工程と、前記素材1を切削加工する切削加工工程とを備え、前記素材成形工程において成形される前記素材1の内径面2は、一端側に径小部分3を、他端側に前記径小部分3よりも内径が大きい径大部分4を備え、前記径小部分3と前記径大部分4との間に段差5が形成されているとともに、他端側の前記端部に面取り部6が形成されており、前記切削加工工程において、前記径小部分3にのみ切削加工を施すものである。
【0031】
したがって、内径面12の内径軸方向の切削距離が短くなり、内径面の加工コストが抑えられる。また、切削距離が小さくなることにより切削加工に用いられる切削具の寿命が延び、その結果、切削具に係るコストも低減させることができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えは、素材は、粉末冶金に限らず、鋳造、鍛造により形成されてものであってもよい。また、回転体は、内接歯車式オイルポンプ用のインナーロータに限らない。
【符号の説明】
【0033】
1 素材(回転体素材)
2 内径面
3 径小部分
4 径大部分
5 段差
6 面取り部
11 回転体
12 内径面
13 加工部分
14 未加工部分
15 面取り部
図1
図2