(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、透析廃液中に含まれるアルブミンは紫外光を吸収するため、透析初期における廃液モニタの測定誤差の原因として懸念されている。透析廃液中には種々の不明な夾雑物が含まれるため複数の波長の吸光度を測定する廃液モニタでも、アルブミンの影響を完全に排除することは困難である。一方、アルブミンの280nm程度の紫外光を吸収する性質を利用することで、透析廃液中の漏出アルブミンを定量できる可能性がある。
【0005】
そこで、より高精度でアルブミン漏出量を推定する透析廃液モニタリングの可能性について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、透析廃液を再度膜分離することでアルブミンを排除する前処理プロセスを組み込むことにより、より高精度に透析廃液中のアルブミンの含有量をモニタリングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、血液と透析液との間で透析を行う血液透析において、血液と透析された後の透析廃液のアルブミン含有量を継時的に測定するアルブミン濃度測定装置であって、前記透析廃液からアルブミンを分離するアルブミン分離部と、前記透析廃液を前記アルブミン分離部に供給する第一の透析廃液ラインと、前記第一の透析廃液ラインに配置され、前記透析廃液の特定の波長における第一の吸光度を測定する第一の吸光度測定部と、前記アルブミン分離部によってアルブミンが分離された後の前記透析廃液が流通する第二の透析廃液ラインと、前記第二の透析廃液ラインに配置され、前記第二の透析廃液ラインを流通する前記透析廃液の前記特定の波長における第二の吸光度を測定する第二の吸光度測定部と、継時的に、前記前記第一の吸光度と前記第二の吸光度との差から、アルブミン濃度を算出するアルブミン濃度算出部と、を備えるアルブミン濃度測定装置に関する。
【0008】
また、本発明は、血液と透析液との間で透析を行う血液透析において、血液と透析された後の透析廃液のアルブミン含有量を継時的に測定するアルブミン濃度測定方法であって、前記透析廃液の特定の波長における第一の吸光度を測定する第一の吸光度測定工程と、第一の吸光度を測定した後の前記透析廃液からアルブミンを分離するアルブミン分離工程と、アルブミンを分離した後の前記透析廃液の前記特定の波長における第二の吸光度を測定する第二の吸光度測定工程と、継時的に、前記第一の吸光度と前記第二の吸光度との差から、アルブミン濃度を算出するアルブミン濃度算出工程と、を備えるアルブミン濃度測定方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透析廃液中のアルブミン濃度を高精度で測定することが可能なアルブミン濃度測定装置及びアルブミン濃度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るアルブミン濃度測定装置について説明するための図である。
【
図2】本発明の実施例における透水性評価回路について示した図である。
【
図3】本発明の実施例におけるアルブミン分離回路について示した図である。
【
図4】本発明の実施例における各サンプルのUVスペクトルについて示した図である。
【
図5】本発明の実施例における各サンプルのUVスペクトルの差について示した図である。
【
図6】各種サンプルのUVスペクトルについて示した図である。
【
図7】本発明の実施例における各サンプル中の各種低分子量溶質、アルブミン、β2−マイクログロブリン及びα1−マイクログロブリンの濃度について示した図である。
【
図8】本発明の実施例における各サンプルの廃液モニタ試作機により測定された検出電位について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<アルブミン濃度測定装置>
以下、本発明のアルブミン濃度測定装置の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るアルブミン濃度測定装置は、血液と透析液との間で透析を行う血液透析において、血液と透析された後の透析廃液のアルブミン含有量を継時的に測定する。
【0012】
血液透析は、ダイアライザー2により行われる。
ダイアライザー2は、血液透析患者Hから採取した血液と、透析液との間で透析を行う。ダイアライザー2は、上端と下端が血液ラインL1,L2を介して血液透析患者Hに繋がる。血液透析患者Hから採取した血液は、血液ラインL1に配置されたポンプPによって加圧されて、血液ラインL1を通ってダイアライザー2に供給される。ダイアライザー2において透析された血液は、血液ラインL2を通って血液透析患者Hに戻される。
【0013】
本実施形態に係るアルブミン濃度測定装置1は、分光光度計3,4と、アルブミン分離手段としてのフィルタ装置5と、血液透析装置60内のアルブミン濃度算出部6と、これらを繋ぐラインL5,L6,L7と、を備える。
【0014】
血液透析装置60は、ダイアライザー2の下端側の側部に繋がった透析液ラインL3を介して、ダイアライザー2に透析液を供給する。ダイアライザー2に供給された透析液は、透析後に、ダイアライザー2の上端側の側部に繋がった透析液ラインL4を介して、血液透析装置60に戻される。
【0015】
透析廃液ラインL5は、血液透析装置60に戻された透析液(透析廃液)をフィルタ装置5に供給する。分光光度計3は、透析廃液ラインL5に配置され、フィルタ装置5の一次側における透析廃液の特定の波長の吸光度(第一の吸光度)を測定する。この特定の波長としては、アルブミンの吸光度が高い280nm程度であることが好ましい。
フィルタ装置5に配置されるフィルタとしては、エンドトキシン捕捉フィルター(ETRF)や、FB−EG等を用いることができる。フィルタ装置5に配置されるフィルタのポアサイズは、アルブミン(66kDa)を捕捉することができる大きさに設定されている。
【0016】
フィルタ装置5に供給された透析廃液は、フィルタにより一部ろ過される。透析廃液ラインL6は、フィルタ装置5においてアルブミンの分離された透析廃液(ろ液)が流通する。
分光光度計4は、透析廃液ラインL6に配置され、フィルタ装置5の二次側における透析廃液の特定の波長における吸光度(第二の吸光度)を測定する。この特定の波長としては、分光光度計4において、透析廃液の吸光度を測定するために用いる光の波長であることが好ましい。
フィルタ装置5に供給された透析廃液のうちフィルタによりろ過されなかった一部は、透析廃液ラインL6の分光光度計4よりも下流側に接続されるバイパスラインL7を介して透析廃液ラインL6に供給され、排出される。
【0017】
血液透析装置60内のアルブミン濃度算出部6は、分光光度計3によって測定される吸光度(第一の吸光度)と分光光度計4によって測定される吸光度(第二の吸光度)との差(ΔA)からアルブミン濃度を算出する。より詳しくは、アルブミン濃度算出部6は、ΔAとアルブミン濃度との関係式からアルブミン濃度を継時的に算出する。アルブミン濃度算出部6によって算出されたアルブミン濃度は、血液透析装置60のモニタに表示される。
【0018】
<アルブミン濃度測定方法>
続いて、本実施形態に係るアルブミン濃度測定方法について説明する。
本実施形態に係るアルブミン濃度測定方法は、血液と透析液との間で透析を行う血液透析において、血液と透析された後の透析廃液のアルブミン含有量を継時的に測定する。
【0019】
本実施形態に係るアルブミン濃度測定方法は、第一の吸光度測定工程ST1と、アルブミン分離工程ST2と、第二の吸光度測定工程ST3と、アルブミン濃度算出工程ST4と、を備える。
【0020】
第一の吸光度測定工程ST1では、血液透析を行った後の透析液(透析廃液)の特定の波長における吸光度(第一の吸光度)を測定する。この特定の波長としては、アルブミンの吸光度が高い280nm程度であることが好ましい。
【0021】
アルブミン分離工程ST2では、第一の吸光度測定工程ST1において吸光度を測定した後の透析廃液からアルブミンを分離する。アルブミンを分離する方法は特に限定されないが、フィルタによってアルブミンを分離する方法が挙げられる。
【0022】
第二の吸光度測定工程ST3では、アルブミン分離工程ST2においてアルブミンを分離した後の透析廃液の特定の波長における吸光度(第二の吸光度)を測定する。この特定の波長としては、第一の吸光度測定工程ST1において、透析廃液の吸光度を測定するために用いる光の波長であることが好ましい。
【0023】
アルブミン濃度算出工程ST4では、継時的に、第一の吸光度と第二の吸光度との差(ΔA)から、アルブミン濃度を算出する。より詳しくは、アルブミン濃度算出工程ST4では、ΔAとアルブミン濃度との関係式からアルブミン濃度を継時的に算出する。
【0024】
本実施形態に係るアルブミン濃度測定方法は、上述したアルブミン濃度測定装置を用いて行うことが好ましい。
【0025】
以上、本実施形態に係るアルブミン濃度測定装置及びアルブミン濃度測定方法について説明したが、本発明はこれに限定されない。
例えば、本実施形態においては、アルブミン分離部としてのフィルタ装置5を用いたが、本発明はこれに限定されず、例えば、アルブミンを吸着する物質を用いてアルブミンを透析廃液から分離するようにしてもよい。
【0026】
以上のアルブミン濃度測定装置によって正確に透析廃液中のアルブミン濃度を把握できれば、透析量マーカーとなる透析廃液中の溶質濃度についても、より正確に把握することが可能になる。
【実施例】
【0027】
続いて、本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
[実験フィルタ]
実験に用いるフィルタとして、エンドトキシン捕捉フィルター(ETRF)であるニプロ社製のCF−609N(新品及び使用済み品)を用いた。
【0029】
(実験1)フィルタ透水性の評価
図2の透水性評価回路によりフィルタ透水性を評価した。500mL/minでRO水をろ過した際のTMP(=(P1+P2)/2−P3)を測定し、純水ろ過係数を求めることで、透水性を評価した。CF−609Nの純水ろ過係数は、新品で2680、、交換品(次亜塩素酸及び酢酸で負荷しつつ6か月間使用したもの)で2890であった。なお、純水ろ過係数の単位は全て「mL/(m
2・mmHg・hr)」である。
【0030】
(実験2)アルブミン分離に関する検討
図3のアルブミン分離回路により、フィルタによるアルブミン分離に関して検討した。
アルブミン濃度及び小分子溶質濃度の影響を検討するため、アルブミンを多く含む治療開始後(プライミングボリューム(PV)分を考慮)0〜5分、5〜10分、10〜15分に貯留した透析廃液(各約2500mL)を使用した。それぞれの透析廃液を、軟性バッグに入れ、実験日まで冷蔵にて保存(同一患者より採取し、採取時間ごとに混合して試験液とした)。
【0031】
測定では、まず、ポンプにて試験液を500mL/minシングルパスにてETRF(CF−609N)の一方の面側に供給した。続いて、ETRFの他方の面側(ろ液側)に設置したポンプによりろ液流量を250mL/minに調整した。続いて、PVの影響による経時変化が見込まれるので、3分ほど定常状態になるまで待機したのち、原液及びろ液を適量(100mL以上)サンプリングした。ろ液を採液後、廃液モニタ(JMS社)及びUV分光光度計(スペクトル180〜350nm程度)にて吸光度を測定し、各種低分子量溶質(尿素窒素(UN)、尿酸(UA)、クレアチニン(Cre)等)、アルブミン(Alb)、β2−マイクログロブリン(β2−MG、分子量11.8kDa)及びα1−マイクログロブリン(α1−MG、分子量33kDa)の濃度の検査を行った(SRL社)。なお、これらの検査は、条件の異なる複数の透析液サンプルに対して行った。具体的には、採取時間の異なる3種類の透析廃液(0〜5分、5〜10分、10〜15分)それぞれについて、フィルタ(CF−609N)の前後(原液及びろ液)のサンプル(計6パターン)について検査をした。
【0032】
(実験3)
また、ファウリング後のETRF(CF−609N)についても評価した。実験2後に新品のCF−609Nに対して、5%BSA(ウシ血清アルブミン)生理食塩水溶液(1L)をフィルタ外側に200mL/minで供給し、濾過を6mL/min(10mL/(min・m
2))の流量条件にて60分間還流し、膜にタンパク質を付着させた。その後、生理食塩水を500mL/minで20分間(10L)流すことで洗浄した後のフィルタについて、実験1同様に透水性を評価した。その結果、透水性は230mL/(m
2・mmHg・hr)まで低下した。臨床にて生じる透析廃液中に含まれるアルブミンはごく少量であり、一回の治療あたりの総漏出量は数g程度であるため、フィルタの透水性はほとんど変化しない。また、フィルタの透水性は、多少低下したとしても治療ごとに行われる次亜塩素酸及び酢酸による洗浄によって改善することが確認されている。
【0033】
図4は、実験2及び実験3にて採取したサンプルのUVスペクトルについて示した図である。
図4のA、B及びCは、透析廃液の採取時間がそれぞれ0〜5分、5〜10分及び10〜15分のサンプルである。また、A、B及びCの後ろの(+)及び(−)はフィルタの前後、つまり原液(+)あるいはろ液(−)であることを表す。これらの表記の示すサンプルは、以下の図においても同様である。
図5は、A、B及びCのそれぞれについて、ろ液(−)のUVスペクトルから原液(+)のUVスペクトルを差し引いたグラフについて示した図である。
図5のスペクトルは、フィルタ(CF−609N)を透過しなかった物質のUVスペクトルであるとみなすことができる。
図6は、アルブミン(BSA)、尿酸、尿素、クレアチニン及びインドキシル硫酸のUVスペクトルについて参考までに示した図である。
【0034】
図7は、A、B及びCのそれぞれの、原液(+)及びろ液(−)における、UN、UA、Cre、Alb、β2−MG及びα1−MGの濃度について示した図である。
図8は、廃液モニタ試作機により測定された、A、B及びCのそれぞれの、原液(Alb(+))及びろ液(Alb(−))の検出電位と、その差である出力電位(Δ:Alb(−)−Alb(+))について示した図である。
【0035】
膜分離により、尿素やクレアチニンといった低分子量の化合物の濃度は不変であったが、アルブミンをはじめ、β2−マイクログロブリン、α1−マイクログロブリンはほとんど除去された(
図7)。分離前後のスペクトルの差分には、アルブミンに起因すると考えられる280nm付近にピークを有する波形がみられた(
図5)。廃液モニタ試作機により測定された出力電位(
図8参照)はアルブミン濃度(
図7参照)と良く相関した。透析液廃液を分画処理する前後の差分を考慮することで、廃液モニタの精度向上とアルブミン漏出量の推算が可能であると考えられる。
【0036】
透析廃液を分画処理しアルブミンを除去することで、より高精度であり且つアルブミン漏出量も推算できる透析廃液モニタリングが期待できる。