(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の少なくとも片面に、1層以上の熱線反射層、金属酸化物薄膜(1)およびハードコート層が前記基材の側からこの順に積層された積層フィルムであって、前記熱線反射層が金属酸化物薄膜(2)、銀を主成分とする金属薄膜および金属酸化物薄膜(3)を前記基材の側からこの順に積層されたものであり、前記金属酸化物薄膜(3)の酸素含有率が前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)のいずれの酸素含有率よりも低く、
前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)の主成分が錫であり、さらに、前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)が亜鉛を前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)の全金属成分を100重量%とした場合に5〜40重量%含み、
前記金属酸化物薄膜(3)が、錫および亜鉛を含む積層フィルム。
基材の片面に、1層以上の熱線反射層、金属酸化物薄膜(1)およびハードコート層を前記基材の側からこの順に積層されており、前記1層以上の熱線反射層、前記金属酸化物薄膜(1)および前記ハードコート層が積層された面の反対側の面に粘着層が積層されており前記ハードコート層の面から測定した波長5.5〜50μmの遠赤外線反射率が85%以上であり、可視光透過率が70%以上である請求項1または2に記載の積層フィルム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載の熱線遮蔽フィルムにおいては、フィルム上に熱線反射膜を成膜した後に、十分に酸化された金属酸化物膜を成膜している。金属酸化物膜は、十分に酸化されることで金属酸化物膜の可視光領域の吸収が抑制され可視光透過性能が向上するとともに、金属薄膜と金属酸化物膜との接着性も向上し積層フィルムの耐久性が向上する。十分に酸化された金属酸化物膜は、多量に酸素を含む成膜ガスを用いた気相成長法により成膜することができる。しかし、本発明者は、上記の金属酸化物膜の成膜時に、成膜ガスに多量に含まれる酸素により、金属酸化物膜よりも先に成膜されている熱線反射膜も酸化されており、熱線反射膜の熱線反射性能が低下するとの課題を見出した。すなわち、上記の方法では、積層フィルムに、高い耐久性および高い可視光透過性能を発揮させる一方で、積層フィルムの赤外線反射性能を低下させてしまうとの課題を見出したのである。そこで、本発明は、かかる課題に鑑み、赤外線反射性および可視光透過性能を高いレベルで備え、かつ、長期間使用した場合においても高い耐久性を有する窓貼り用途に特に好適な積層フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(I)基材の少なくとも片面に、1層以上の熱線反射層、金属酸化物薄膜(1)およびハードコート層を前記基材の側からこの順に積層した積層フィルムであって、前記熱線反射層が金属酸化物薄膜(2)、金属薄膜および金属酸化物薄膜(3)を前記基材の側からこの順に積層したものであり、前記金属酸化物薄膜(3)の酸素含有率が前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)の酸素含有率よりも低い積層フィルム、
(II)前記金属酸化物薄膜(1)および/または前記金属酸化物薄膜(2)の主成分が錫であり、さらに、前記金属酸化物薄膜(1)および/または前記金属酸化物薄膜(2)が亜鉛を前記金属酸化物薄膜(1)および/または前記金属酸化物薄膜(2)の全金属成分を100重量%とした場合に5〜40重量%含む(1)の積層フィルム。
(III)前記金属酸化物薄膜(3)が、錫および/または亜鉛を含む(2)の積層フィルム、
(IV)JISK5600に準じたクロスカット法による密着性試験において、層間剥離が生じない(1)〜(3)のいずれかの積層フィルム、
(V)基材の片面に、1層以上の熱線反射層、金属酸化物薄膜(1)およびハードコート層を前記基材の側からこの順に積層されており、前記1層以上の熱線反射層、前記金属酸化物薄膜(1)および前記ハードコート層が積層された面の反対側の面に粘着層が積層されており前記ハードコート層の面から測定した波長5.5〜50μmの遠赤外線反射率が85%以上であり、可視光透過率が70%以上である(1)〜(4)のいずれかの積層フィルム、
(VI)請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルムの製造方法であり、前記金属酸化物薄膜(1)、前記金属酸化物薄膜(2)および前記金属酸化物薄膜(3)が気相成長法で成膜されて得られるものであって、前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)の成膜時の導入ガスが酸素を体積ベースの流量率で5%を超えて含み、前記金属酸化物薄膜(3)の成膜時の導入ガスが酸素を体積ベースの流量率で2%以上5%以下含む積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、赤外線反射性能および可視光透過性能を高いレベルで備え、かつ、長期間使用した場合においても高い耐久性を有する窓貼り用途に特に好適な積層フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の積層フィルムは、基材の少なくとも片面に、熱線反射層、金属酸化物薄膜(1)およびハードコート層を前記基材の側からこの順に積層した積層フィルムであって、前記熱線反射層が金属酸化物薄膜(2)、金属薄膜および金属酸化物薄膜(3)を前記基材の側からこの順に積層したものであり、前記金属酸化物薄膜(3)の酸素含有率が前記金属酸化物薄膜(1)および前記金属酸化物薄膜(2)の酸素含有率よりも低いものである。
【0009】
本発明で用いる基材は、特に限定されることはないが、可視光透過性能、耐候性に優れたものであることが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル、ナイロンなどが好ましく、金属膜を形成する際に必要となる耐熱性、コストなどを考慮するとポリエチレンテレフタレートがより好ましい。また、基材と熱線反射層との層間の密着性を向上させる観点から、熱線反射層を積層する基材の面に易接着層を設けたり、コロナ処理、プラズマ処理、ケン化などの表面処理を施すことが好ましい。ここで、易接着層に用いる樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。本基材の厚みについては、特に制限はないが機械的強度、耐熱性、窓貼り用途に用いた場合の取り扱い性を考慮すると10〜150μmであるフィルムであることが好ましい。厚みを10μm以上とすることで、基材の表面処理工程や、金属層、金属酸化物層(1)または金属酸化物層(2)の形成工程で熱収縮による皺の発生を抑制することができるとともに、窓の破損の防止性能および防犯性能等を付与することができる。一方、厚みを150μm以下とすることで、必要となる材料の量を低減することができ環境負荷低減に繋がるとともに、積層フィルムを窓などに施工する際の施工性をより良好なものにすることができる。
【0010】
次に熱線反射層は、金属酸化物薄膜(2)、金属薄膜および金属酸化物薄膜(3)を前記基材の側からこの順に積層したものである。また、本発明の積層フィルムは熱線反射層を1層以上有しており、例えば、本発明の積層フィルムが熱線反射層を2層有する場合には、熱線反射層の層構成は、基材側から、金属酸化物薄膜(2)/金属薄膜/金属酸化物薄膜(3)/金属酸化物薄膜(2)/金属薄膜/金属酸化物薄膜(3)となる。また、本発明の積層フィルムが有する熱線反射層の数は、1層あれば赤外線反射性能および可視光透過性能に優れた積層フィルムを得ることができるが、2層以上とすることで赤外線反射性能および可視光透過性能をさらに向上することができる。一方、積層フィルムの赤外線反射性能および可視光透過性能の向上と積層フィルムの取り扱い性のバランスの観点から、本発明の積層フィルムが有する熱線反射層の数は、上限としては3層以下が好ましい。
【0011】
また、積層フィルムの可視光透過性を向上させる観点や、金属薄膜と金属酸化物薄膜との密着力を向上させ積層フィルムの耐久性を向上させる観点から、本発明の積層フィルムにおける金属酸化物薄膜(1)〜(3)はいずれも酸素を含有するものである。
【0012】
次に、本発明の積層フィルムは、金属酸化物薄膜(3)の酸素含有率が金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)のいずれの酸素含有率よりも低いことが特徴である。金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)は可視光領域の吸収を抑制し、高い可視光透過性能を発現させる観点から、充分に酸化させる必要がある。そのために、後述する積層フィルムの製造方法における金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)の成膜時に成膜ガスとして多量の酸素を導入する。しかし、十分に酸化した金属酸化物薄膜を金属薄膜の上に直接形成する場合には、充分に酸化した金属酸化物薄膜の形成の際に導入する多量の酸素により金属薄膜も酸化され、結果、積層フィルムの赤外線反射性能が低下するといった問題が発生する。よって、金属薄膜の上に、十分に酸化した金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)を形成する際に、金属薄膜が高濃度酸素雰囲気下に曝されないようにすることが重要である。よって、金属薄膜の上に十分に酸化した金属酸化物薄膜を形成する前に、酸素含有量の少ない金属酸化物薄膜で金属薄膜をマスキングすることにより、これが酸素バリア層として機能し、十分に酸化した金属酸化物薄膜の形成の際に導入した多量の酸素による金属薄膜の酸化を抑制することができるのである。すなわち、金属薄膜の上に十分に酸化した金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)を形成する前に金属酸化物薄膜(3)で金属薄膜をマスキングすることにより、金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)を形成するために導入した多量の酸素による金属薄膜の酸化を抑制し、赤外線反射性能および可視光透過性能に優れた積層フィルムを得ることができる。ここで、金属薄膜の酸化を抑制するために、金属酸化物薄膜(3)を形成する際に導入する酸素濃度は、金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)を形成する際に導入する酸素濃度よりも低くなるため、得られる積層フィルムが有する金属酸化物薄膜(3)の酸素含有率は金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)のいずれの酸素含有率よりも低くなる。また、金属酸化物薄膜(1)〜(3)の酸素含有率は、成膜時に成膜ガスとして導入する酸素の量により調整することができ、成膜後の金属酸化物薄膜(1)〜(3)を構成する金属が完全に酸化されていない場合においては、導入する酸素の量が多いほど成膜される金属酸化物薄膜の酸素含有率は高くなる。ここで、金属酸化物薄膜の酸素含有率とは「構成する金属の一部が酸化されている金属酸化物薄膜の酸素含有量」を「構成する金属の全部が酸化されている金属酸化物薄膜の酸素含有量」で除した値に100を乗じたものをいう。
【0013】
これら金属薄膜および金属酸化物薄膜(1)〜(3)は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの気相成長法で成膜することができるが、成膜できる材料の種類が多岐にわたり、高品位な膜が得られるスパッタリング法を用いることが好ましい。また、気相成長法による金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の成膜時の導入ガスは、酸素を体積ベースの流量率(以下、流量率とする。)で5%を超えて含んでいることが好ましい。上記の導入ガスが、酸素を流量率で5%を超えて含むことで、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)を十分に酸化させることができ、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の可視光領域の吸収を抑制し、得られる積層フィルムの可視光透過性能を向上させることができる。積層フィルムの可視光透過性能をより向上させる観点から、導入ガスは、酸素を流量率で10%以上含むことがより好ましい。一方、その上限については特に限定はされないが、成膜速度を向上させることができる観点から、上記の導入ガスは酸素を流量率で15%以下含むことが好ましい。次に、気相成長法による金属酸化物薄膜(3)の成膜時の導入ガスは酸素を流量率で2%以上5%以下含んでいることが好ましい。上記の導入ガスが酸素を流量率で2%以上含むことで、金属薄膜と金属酸化物薄膜(3)との界面での密着性がより向上し、上記の界面に空気中に含まれる水分などが浸入するのを抑制し、金属薄膜が腐食するのを抑制することでより耐久性に優れる積層フィルムを得ることができるとともに、金属酸化物薄膜(3)の酸素含有量もさらに向上するため、より可視光透過性に優れる積層フィルムを得ることができる。気相成長法による金属酸化物薄膜(3)の成膜時の導入ガスは酸素を流量率で4%以上含むことが好ましい。一方、上記の導入ガスが酸素を流量率で5%以下含むことで、金属酸化物薄膜(3)の成膜の際に金属薄膜を構成する金属が酸化されるのをより抑制することができ、より赤外線反射性能に優れる積層フィルムを得ることができるとともに、次の工程である金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)の成膜の際にも導入ガスに含まれる多量の酸素による金属薄膜を構成する金属の酸化を抑制することができる金属酸化物薄膜(3)を成膜することができる。また、気相成長法による金属薄膜の成膜時の導入ガスにはアルゴンを用いることが好ましい。金属薄膜の成膜時の導入ガスにはアルゴンを用いることで、金属薄膜を構成する金属の酸化を抑制した金属薄膜を成膜することができる。
【0014】
次に、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の厚みは、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。一方、上限は、100nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましい。金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の厚みを10nm以上とすることで、可視光線の反射を抑制でき可視光透過性能に優れた積層フィルムを得ることができる。一方、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の厚みを100nm以下とすることで、積層フィルムの可視光透過性能をより優れたものとすることができる。また、金属酸化物薄膜(3)の厚みについては、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。金属酸化物薄膜(3)の厚みを、1nm以上とすることで金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(3)を形成する際に金属薄膜の酸化が抑制され、赤外線反射性能により優れる積層フィルムを得ることができる。金属酸化物薄膜(3)の厚みを、2nm以上とすることで上記の効果はより顕著なものとなる。一方、上限は、10nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましく、6nm以下であることが更に好ましく、4nm以下であることが特に好ましい。金属酸化物薄膜(3)の厚みを、10nm以下とすることで、可視光透過性能により優れた積層フィルムを得ることができる。この傾向は、金属酸化物薄膜(3)の厚みが薄くなるほど顕著なものとなる。また、金属薄膜の厚みは、特に制限はないが、必要とする赤外線反射性能と可視光透過性能を考慮し、5〜25nmの範囲で適宜選択することが好ましい。厚みを5nm以上とすることで、赤外線反射性能がより向上する。一方、厚みを25nm以下とすることで、可視光透過性能をより向上させることができる。金属酸化物薄膜(1)〜(3)の酸素含有量はエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)、または二次イオン質量分析法など公知の方法を適宜用いることで分析することができる。
【0015】
金属酸化物薄膜(1)〜(3)の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)、または光学膜厚計などの公知の方法を適宜用いることで分析することができる。
【0016】
次に、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)には500nmの波長における屈折率が高い金属酸化物を用いることが可視光線の界面反射を低減し、可視光透過性能を向上させる点で好ましい。具体的にはチタン、ニオブ、亜鉛、錫、インジウム、ジルコニウムなどの酸化物を挙げることができ、これら金属酸化物を1種以上選択して用いることが好ましい。上記の金属酸化物のうち、より高い可視光透過性能を得るとの観点からはより屈折率の高いチタン、ニオブの金属酸化物を用いることがより好ましい。また、太陽光線のエネルギー下で有機物を分解するような強い光触媒反応を示さず、かつ屈折率の高い金属酸化物であるとの観点から、酸化錫(500nmの波長における屈折率約1.9)、酸化亜鉛(500nmの波長における屈折率2.1)を用いることがより好ましい。
【0017】
上記の観点から、基材またはハードコート層と直接接する金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の主成分が錫であることが好ましく、さらに金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)は亜鉛を金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)の全金属成分を100重量%とした場合に5〜40重量%含むことがより好ましい。金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)の組成を上記のとおりにすることで、強い光触媒反応を示さず、屈折率のより高い金属酸化物薄膜を得ることができる。ここで、上記の主成分とは、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)に含有される錫の含有量が、金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)の全成分を100重量%とした場合に50重量%を超えることをいう。
【0018】
また、金属酸化物薄膜(3)については、上述した金属酸化物に加え、ケイ素、アルミニウムなどの金属酸化物を用いることができる。さらに、金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)に錫、亜鉛の金属酸化物を用いた場合、金属酸化物薄膜(3)には錫または亜鉛の1種以上を含むことが、金属酸化物薄膜(3)と金属酸化物薄膜(1)または金属酸化物薄膜(2)との密着性を向上させる点で好ましい。
【0019】
本発明で用いる金属薄膜は、赤外線反射性能に優れる銀を主成分とすることが好ましい。ここで、上記の主成分とは、金属薄膜に含有される銀の含有量が、金属薄膜の全成分を100重量%とした場合に50重量%を超えることをいい、銀の含有量としては90重量%以上であることが好ましい。さらに、銀の耐腐食性を向上させる目的で金、パラジウム、銅、ビスマス、ニッケル、ニオブ、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム等を1種以上添加した合金とすることも好ましいことである。これら金属のうち、赤外線反射性能と耐腐食性を両立させる観点から、金および/またはパラジウムを含有することが特に好ましい。また、金および/またはパラジウムの含有量に特に制限はないが、耐腐食性とコストの観点から、金属薄膜の全成分を100重量%とした場合に、金原子およびパラジウム原子を合計で2〜5重量%含むことが好ましい。少ないと銀の腐食を抑制する効果が得られない。また、多すぎると、コストが上がるだけでコストアップに見合う改善効果を得ることができない。
【0020】
次に本発明の積層フィルムに用いるハードコート層は、金属薄膜および金属酸化物薄膜を保護する機能を有するものである。好ましくは有機化合物、有機珪素化合物があげられる。好ましくはこれらのポリマー、さらに架橋構造をとるポリマーである。
【0021】
ハードコート層を構成する樹脂は、紫外線、電子線などを照射して架橋して得ることができる。その場合、高透明で耐久性があるものが好ましい。例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッソ系樹脂、シリコン樹脂を単独または混合して使用できる。また、樹脂にリン酸基、スルホン酸基およびアミド基からなる群より選ばれる1種以上の極性基が含まれることが好ましい。これは、リン酸、アミド、スルホン酸などの極性基を有するアクリル酸誘導体やメタクリル酸誘導体を共重合する方法などで得ることができる。上述したアクリル酸誘導体やメタクリル酸誘導体としては、リン酸基を有するものが好ましく、例えば、リン酸水素=ビス[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]を使用することができる。ハードコート層に極性基を有する架橋樹脂を含むことにより、ハードコート層の下地である金属酸化物薄膜との密着性を向上させることが可能となり、耐久性、耐傷付性を向上させることができる。
【0022】
また、ハードコート層は単層構成でも良いが、異なる2種類以上の層から形成されていても良い。例えば、架橋樹脂単一の層と極性基を含む架橋樹脂からなる2層構成であっても良い。但し、この場合は金属酸化物薄膜と接する層に極性基を含む層を形成することが、密着性を向上させる点で好ましい。
【0023】
ハードコート層の厚みについては0.5〜1.5μmであることが好ましい。ハードコート層の厚みを0.5μm以上とすることで、積層フィルムの耐傷付性をより向上させることができ、ハードコート層の厚みを1.5μm以下とすることでハードコート層の赤外線吸収量をより低減させることができ、積層フィルムの赤外線反射性能をより向上させることができる。
【0024】
また、ハードコート層は樹脂の溶液を、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法などの方法で塗布し乾燥した後、紫外線、電子線などを照射し架橋させることができる。
【0025】
次に基材と熱線反射層との間にアンダーコート層を形成しても良い。アンダーコート層を形成することにより、基材と熱線反射層との層間の密着性が向上し、金属薄膜の腐食を抑制することができるため好ましい。アンダーコート層を形成するものとしては、樹脂が好ましく、さらに高透明で耐久性があるものが好ましい。例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などを単独、またはそれらの混合物を使用することができる。これらアンダーコート層は、樹脂を含む溶液を、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法などの公知の技術で塗布し、乾燥した後、必要に応じて紫外線、電子線などを照射し硬化させることにより形成することができる。アンダーコート層の厚みについては、0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましい。一方、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。アンダーコート層の厚みを0.5μm以上とすることで基材表面をより均一に被覆することができ、耐傷付性を十分に向上させることができる。一方、アンダーコート層の厚みを5μm以下とすることで、取扱い性をより向上させることができる。
【0026】
本発明の積層フィルムは、JIS K5600に準じたクロスカット法による密着性試験において、層間剥離が生じないことが好ましい。なお、クロスカット法とは積層フィルムの表面(ハードコート層面)にカッターナイフで碁盤の目状に切りかきを入れ、その上に粘着テープを貼り付けた後、引き剥がすことによって各層の密着力を測定する試験である。つまり、粘着テープの粘着力<各層間の密着力となる場合には剥離は生じない。この場合、層間の密着力が優れているために各層の間から空気中の水分などの侵入を抑制し、金属薄膜層の腐食を抑制し、耐久性に優れる積層フィルムとすることができる。
【0027】
本発明の積層フィルムは、少なくともその片面に粘着層を形成することが好ましい。また、積層フィルムの片面のみに熱線反射層、金属酸化物層(1)およびハードコート層が積層されたものである場合には、熱線反射層、金属酸化物層(1)およびハードコート層が積層された面の反対側の面に粘着層を形成することが好ましい。積層フィルムに粘着層を形成することで、窓貼りが簡単になる。
【0028】
また、積層フィルムのハードコート層の面から測定した積層フィルムの波長5.5〜50μmにおける遠赤外線反射率が85%以上であり、かつ、積層フィルムのハードコート層の面から測定した積層フィルムの可視光透過率が70%以上であることが好ましい。ハードコート層は、窓貼り用途に使用した場合に室内側の最表面に位置する層であり、当該層側から測定した遠赤外線反射率は暖房熱の反射率を示す。遠赤外線反射率が85%以上を満足することにより、住宅の省エネ指標「次世代省エネ基準」で規定される熱貫流率4.0W/m
2・Kを満足することが可能となる。
【0029】
また、可視光透過率が70%以上を満足することより、窓に貼合した場合に充分な外観視認性を確保することが可能となり、窓貼り用途に好適な積層フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明する。実施例中に示す特性値の測定に供する評価用試験体の作製方法ならびに特性値の測定・算出方法は次のとおりである。
【0031】
A.評価用試験体の作製
(1)積層フィルムを50mm角正方形にカットする。
(2)前記(1)項でカットしたフィルムのハードコート層を形成した面と反対面に粘着層を形成する。
(3)次に、(2)項で形成した粘着層を介して、3mm厚のフロートガラスに貼合する。
【0032】
B.耐久性
(1)規格:JIS A5759−2008に準拠した。
(2)測定方法:
i)サンシャインウェザーメーター(スガ試験機株式会社製:型番S80)を用い、試験体のガラス面側から紫外線を照射する。なお、照射条件はJIS A5759の表10記載のとおりとし(ブラックパネル温度63℃、相対湿度50%、放射強度255W/m
2、120分照射中に18分間散水)、照射時間は1000時間とする。
(3)判定基準:
「○」:ハードコート層の剥離およびクラック無し。
「×」:ハードコート層の剥離またはクラック有り。
【0033】
C.遠赤外線反射率
(1)規格:JIS R3106−1998に準拠
(2)測定方法:
i)分光測光器(株式会社島津製作所製:型番IR Prestige−21)、正反射測定ユニット(株式会社島津製作所製:型番SRM−8000A)を用い、評価用試験体の波長5〜25μmの分光反射率を測定する。なお、標準板にはAl蒸着鏡を用いる。
ii)前記分光反射率からJIS本文付表3に記載の番号λ1(波長5.5μm)〜λ30(波長50μm)の選定波長における分光反射率を抽出する。なお、λ25(波長25.2μm)〜λ30(波長50μm)の反射率はλ24(波長23.3μm)の値を用いる。
iii)抽出した分光反射率にそれぞれJIS本文付表3に記載のAl蒸着鏡の標準反射率を乗じ、λ1〜λ30の選定波長における評価試験体の反射率とする。
iV)前記反射率の平均値を遠赤外線反射率とする。
(3)測定条件:波長範囲「5〜25μm」アボダイス係数「Happ−Genzel」、積算回数「20回」、分解能「4.0cm−1」。
【0034】
D.可視光透過率
(1)規格:JIS R3106−1998に準拠
(2)測定方法:
i)分光測光器(株式会社島津製作所製:型番UV−3150)を用い、評価用試験体の波長400〜780nmの分光透過率を10nm間隔で測定する。ii)前記透過率にJIS本文付表1に記載の重価係数を乗じた後、平均値を算出し可視光透過率(%)とした。
(3)測定条件:波長範囲「400〜780nm」、スキャンスピード「高速」、
分解能力「10nm」。
【0035】
E.密着性試験(クロスカット法)
(1)規格:JIS K5600−5−6−1999に準拠
(2)測定方法:
i)クロスカット用間隔スペーサー(コーテック株式会社製:型番CROSS CUT GUIDE1.0)、カッターナイフを用い、評価用試験体にタテ方向6回、ヨコ方向6回の切り込みを1mm間隔で入れる(本操作により、5×5=25マスの格子が作製される)。ii)i)で作製した格子上に透明感圧付着テープ(日東電工株式会社製:型番31B)を圧着し、圧着したテープを約60度の方向に引き剥がす。
(3)判定基準
「○」:25マス全ての格子で剥離無し。
「×」:25マス中1マス以上の格子が剥離が発生。
【0036】
[実施例1]
50μm厚のPETフィルムの基材の片面にアクリル系ハードコート剤「”レイクイーン”(登録商標。以下同じ)5105(三菱レイヨン株式会社製)」を塗布し、乾燥した後にUV照射して厚さ3μm厚のアンダーコート層を形成した。次に当該アンダーコート層を形成した基材のアンダーコート層上に、金属組成が錫:亜鉛=65重量%:35重量%のスパッタリングターゲット材を用いて厚さ40nmの金属酸化物薄膜(2)を製膜した(スパッタガスは、アルゴンの流量率が90%、酸素の流量率が10%であった。)。続いて、金属酸化物薄膜(2)上に、銀中に金を3重量%含有するスパッタリングターゲット材を用いて厚さ16nmの金属薄膜を製膜した(スパッタリングガスはアルゴン=100%)。さらに、金属酸化物薄膜(2)と同一のスパッタリングターゲット材を用いて厚さ2nmの金属酸化物薄膜(3)を成膜し(スパッタガスは、アルゴンの流量率が98%、酸素の流量率が2%であった。)、金属薄膜をマスキングした。次に、金属酸化物薄膜(3)上に金属酸化物薄膜(2)と同一のスパッタリングターゲット材を用いて厚さ50nmの金属酸化物薄膜(1)を成膜し(スパッタガスは、アルゴンの流量率が90%、酸素の流量率が10%であった。)、アンダーコート層を形成した基材のアンダーコート層上にPETフィルム側から金属酸化物薄膜(2)/金属薄膜/金属酸化物薄膜(3)/金属酸化物薄膜(1)からなる熱線反射を形成した。
【0037】
次に、上記の金属酸化物薄膜(1)上にアクリル系樹脂「”オプスター(登録商標。以下同じ)Z7535(JSR株式会社製)」を塗布し、乾燥した後にUV照射し、厚さ約0.8μmのハードコート層を形成し積層フィルムを得た。
【0038】
[実施例2]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを4nmに変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0039】
[実施例3]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを4nm、金属酸化物薄膜(3)成膜時のスパッタリングガスをアルゴン:酸素=96%:4%に変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0040】
[実施例4]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを6nm、金属酸化物薄膜(3)成膜時のスパッタリングガスをアルゴン:酸素=96%:4%に変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0041】
[実施例5]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを8nm、金属酸化物薄膜(3)成膜時のスパッタリングガスをアルゴン:酸素=96%:4%に変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0042】
[実施例6]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを4nm、金属酸化物薄膜(3)成膜時のスパッタリングガスをアルゴン:酸素=95%:5%に変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0043】
[実施例7]
金属酸化物薄膜(3)の厚さを1nmに変更したことを除き実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0044】
[比較例1]金属酸化物薄膜(3)を設けないことを除き、実施例1と同一の方法で積層フィルムを得た。
【0045】
実施例1〜7および比較例1の各試験体について、上述した測定方法を用い、耐久性、密着性、遠赤外腺反射率、可視光透過率を測定した結果を表1および表2に示す。
【0046】
金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)と比較して酸素含有率が低い金属酸化物薄膜(3)を設けた実施例1〜7の積層フィルムはいずれも、耐久性試験および密着性に優れるものであった。また、上記の実施例1〜7の積層フィルムの遠赤外線反射率はいずれも85%以上であり、可視光透過率はいずれも70%以上であり遠赤外線反射性能および可視光透過性能に優れるものであった。
【0047】
続いて、金属酸化物薄膜(3)を設けなかった比較例1は、耐久性試験、密着性試験で判定は「○」であったが、金属酸化物薄膜(1)成膜時の酸素の影響により、金属薄膜が酸化し遠赤外線反射率は83%、可視光透過率は68%とともに低い傾向にあった。
【0048】
上述した結果から、金属薄膜の直上に金属酸化物薄膜(1)および金属酸化物薄膜(2)と比較して酸素含有率が低い金属酸化物薄膜(3)を積層することにより、赤外線反射性能、および可視光透過性能を高いレベルで備え、かつ、長期間使用した場合においても高い耐久性を有する窓貼り用途に特に好適な積層フィルムを得ることができた。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】