(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているように孔が形成された平板を球冠形状に整形すると、紡糸口金の中心部では孔の変形が小さく、中心部から離れるにつれて孔の変形が大きくなり、外周部で孔の変形が最大になる。従って、最終的な吐出孔の形状を円形にするためには、中心部では径の大きな円形の加工工具が必要となり、中心部から離れるほど、径が小さくかつ扁平率が大きな楕円形の加工工具が必要となる。
【0007】
そのため、紡糸口金を一つ製造するために、形状や大きさの異なる多数の加工工具が必要となる。また、楕円形の加工工具は、その短軸方向を紡糸口金の径方向に沿わせる必要がある。例えば特許文献2の例では、吐出孔の数は17000個という、膨大な数である。このような膨大な数の吐出孔を形成するために、加工工具の短軸方向をいちいち紡糸口金の径方向に沿わせるには、膨大な手間がかかる。
【0008】
このように、特許文献2に記載の方法によれば、紡糸口金を製造するために、形状や大きさの異なる多数の加工工具を作成するコストや、加工工具の向きを合わせながらセットする作業工数が生じるという、不都合があった。
【0009】
本発明の目的は、特殊な楕円形状の孔開け工具を用いることなく、円形の孔開け工具を用いて曲面形状の紡糸口金に吐出孔を形成することができる紡糸口金加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る紡糸口金加工装置は、板状の板状部を含む口金板に、紡糸原液を吐出させるための複数の貫通孔を形成する紡糸口金加工装置であって、前記板状部は、一方向に凹んだ曲面状の形状を有し、前記紡糸口金加工装置は、直線状の軌道に沿って工具を進退させることによって、前記軌道と交わるように配置された前記板状部に前記貫通孔を形成する穿孔手段と、前記板状部が前記軌道と略直交するように前記口金板を保持する口金保持部と、前記口金保持部を前記索孔手段に対して相対的に移動させて前記板状部と前記軌道とが交わる位置を変化させる穿孔位置移動手段とを備える。
【0011】
この構成によれば、一方向に凹んだ曲面状の形状を有する板状部に対して、穿孔手段による貫通孔すなわち吐出孔の形成が行われるので、孔開け加工後の板状部材を曲面に加工する背景技術のように、曲面加工時に貫通孔が変形することがない。その結果、特殊な楕円形状の孔開け工具を用いることなく、円形の孔開け工具を用いて曲面形状の紡糸口金に吐出孔を形成することができる。また、口金保持部によって、板状部が工具の進退方向と略直交するように保持されるので、工具による孔開け加工が容易である。
【0012】
また、前記穿孔位置移動手段は、前記口金保持部を、前記軌道又はその延長線上に設定された揺動中心を中心に揺動させる揺動機構を含むことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、口金保持部に保持された口金板の板状部と工具の軌道とが直角に近い角度で交わる状態を維持しつつ、板状部と軌道が交わる加工位置を変化させることが容易である。その結果、板状部が、軌道と略直交するように口金板を保持することが容易となる。
【0014】
また、前記揺動中心は、前記口金保持部よりも前記穿孔手段側に配置されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、貫通孔の形成位置を変更するべく揺動機構により口金保持部を揺動変位させるだけで、板状部と工具の軌道とが直角に近い角度で交わる状態を維持しつつ、板状部と軌道が交わる加工位置を変化させることが可能となる。
【0016】
また、前記揺動中心は、前記口金保持部よりも前記穿孔手段から遠い側に配置され、前記穿孔位置移動手段は、前記揺動の軌跡を含む揺動平面と、前記軌道と直交する直交平面とが交わる交線に沿って前記口金保持部を前記索孔手段に対して相対的に平行移動可能な移動機構をさらに含むことが好ましい。
【0017】
この構成によれば、揺動機構により口金保持部を揺動変位させ、移動機構により揺動平面と直交平面とが交わる交線に沿って口金保持部を平行移動させることにより、板状部と工具の軌道とが直角に近い角度で交わる状態を維持しつつ、板状部と軌道が交わる加工位置を変化させることが可能となる。
【0018】
また、前記揺動機構は、前記口金保持部の移動を、前記揺動中心を中心とする円弧に沿うように案内するガイド部材を含むことが好ましい。
【0019】
この構成によれば、ガイド部材によって、口金保持部の移動が揺動中心を中心とする円弧に沿うように案内される結果、揺動中心を中心に口金保持部を揺動させることができる。
【0020】
また、前記揺動機構は、前記揺動中心と前記口金保持部との間に掛け渡され、前記口金保持部を、前記揺動中心を中心に揺動可能に保持するアーム部材を含むことが好ましい。
【0021】
この構成によれば、揺動中心を支点にアーム部材を旋回させることにより、揺動中心を中心に口金保持部を揺動させることができる。
【0022】
また、前記板状部は、球冠形状を有し、前記穿孔位置移動手段は、前記板状部の中心を通る回転軸を中心に前記口金板を回動させる回動機構をさらに含むことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、揺動機構によって、口金保持部で保持された口金板を揺動変位させた後、回動機構により口金板を回動させることによって、板状部と工具の軌道とが直角に近い角度で交わる状態を維持しつつ、板状部内の円周上の領域に貫通孔を形成することが可能となる。
【0024】
また、前記板状部の曲率中心を前記揺動中心と一致させるように、前記口金保持部の位置を調節可能な調節機構をさらに備えることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、調節機構によって、板状部の曲率中心を前記揺動中心と一致させることができる。板状部の曲率中心と揺動中心とが一致していれば、板状部の中心と工具の軌道とが正確に直交していた場合、揺動機構により口金保持部を揺動変位させた後も、板状部と工具の軌道とを精度よく直交させることができる。すなわち、板状部と工具の軌道とを精度よく直交させつつ、口金保持部を揺動変位させることにより貫通孔の形成位置を移動できる。
【0026】
また、前記口金保持部は、前記口金板の凹面側が、前記穿孔手段と対向するように前記口金板を保持することが好ましい。
【0027】
この構成によれば、揺動中心が口金保持部よりも穿孔手段側に配置され、かつ口金板の凹面側が穿孔手段と対向配置されるので、口金保持部を揺動させて貫通孔の形成位置を変更しながら複数の貫通孔を形成した場合、複数の貫通孔は、口金保持部の凹面側から凸面側に向かって互いの間隔が拡がるような角度で形成される。紡糸原液は口金保持部の凹面側から供給されるので、このように形成された各貫通孔から紡糸原液を吐出させると、紡糸原液が拡がるように吐出される。その結果、隣接する貫通孔間で糸が癒着してしまうおそれが低減される。
【0028】
また、前記口金保持部は、前記口金板の凸面側が、前記穿孔手段と対向するように前記口金板を保持するようにしてもよい。
【0029】
この構成によれば、揺動中心が口金保持部よりも穿孔手段から遠い側に配置され、かつ口金板の凸面側が穿孔手段と対向配置されるので、口金保持部を揺動させて貫通孔の形成位置を変更しながら複数の貫通孔を形成した場合、複数の貫通孔は、口金保持部の凸面側から凹面側に向かって互いの間隔が狭まるように、すなわち口金保持部の凹面側から凸面側に向かって互いの間隔が拡がるような角度で形成される。紡糸原液は口金保持部の凹面側から供給されるので、このように形成された各貫通孔から紡糸原液を吐出させると、紡糸原液が拡がるように吐出される。その結果、隣接する貫通孔間で糸が癒着してしまうおそれが低減される。
【発明の効果】
【0030】
このような構成の紡糸口金加工装置は、特殊な楕円形状の孔開け工具を用いることなく、円形の孔開け工具を用いて曲面形状の紡糸口金に吐出孔を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。
(第1実施形態)
【0033】
図1は、本発明の第1実施形態に係る紡糸口金加工装置1の構成の一例を示す部分断面図である。
図2は、紡糸口金加工装置1の側面図である。
図2では、紡糸口金加工装置1の内部を一部透視して破線で示している。
【0034】
図1,
図2に示す紡糸口金加工装置1は、孔加工機2(穿孔手段)、ワーク保持装置3、基台部4、コラム5、及びアーム6を備えている。ワーク保持装置3は、基台部4上に配置され、ワーク保持装置3の上方に口金板8が保持されている。基台部4の後方には、柱状のコラム5が立設されている。コラム5には、アーム6が上下にスライド可能に取り付けられている。
【0035】
基台部4の上面には、円弧状に凹没したガイド面41(ガイド部材)が形成されている。基台部4の内部には、モータ42と、前後方向に延びるモータ42の回転軸43と、回転軸43に取り付けられ、回転軸43と一体回転するピニオンギア44とが収容されている。
【0036】
ワーク保持装置3は、ベース部31と、ベース部31の上方四つ角にそれぞれ立設されたねじ軸32と、ねじ軸32によって支持された回転テーブル支持部33と、回転テーブル支持部33によって支持された回転テーブル34と、回転テーブル34を回転駆動させるモータM1(回動機構)と、回転テーブル34の上面に固着され、口金板8を保持するワークホルダ36(口金保持部)とを備えている。
【0037】
口金板8は、板状の球冠形状に加工された板状部81と、板状部81の外周に設けられたフレーム82とを含む。
【0038】
ベース部31の下面には、ガイド面41に沿う円弧状の被ガイド面311が形成されている。また、ベース部31の下側には、左右方向に円弧状に延びるラック312が形成されている。ラック312は、ピニオンギア44と噛合する。これにより、モータ42が回転すると、ピニオンギア44の回転運動がラック312によって左右方向の運動に変換され、被ガイド面311がガイド面41に対して摺動することにより、被ガイド面311がガイド面41によりガイドされて、被ガイド面311がガイド面41の円弧に沿ってスライド移動する。
【0039】
その結果、ワーク保持装置3全体が、ガイド面41の曲率中心を中心に揺動する。
図1,
図2に示す例では、ガイド面41の曲率中心、すなわちワーク保持装置3の揺動中心は、ワークホルダ36の孔加工機2側に配置されている。
【0040】
回転テーブル支持部33の四方にねじ軸32と螺合するナット331が回転可能に取り付けられている。回転テーブル支持部33は、ナット331を介してねじ軸32に取り付けられている。ナット331を回転させることによって、回転テーブル支持部33の高さを調節可能にされている。ねじ軸32とナット331とが、調節機構の一例に相当している。回転テーブル支持部33の上面には、回転テーブル34が回転可能に載置され、回転テーブル34の上面に固着されたワークホルダ36によって、口金板8が保持されている。
【0041】
工具7は、チャック21によって孔加工機2に取り付けられている。工具7は、例えばリーマ、パンチ、あるいはドリル等の、孔開け工具である。孔加工機2は、上下方向に延びる軌道に沿って工具7をスライド移動させて進退させ、あるいは進退させつつ回転させることによって、ワークホルダ36に保持された口金板8に貫通孔を形成する。
図1,
図2では、工具7の軌道及びその延長線を、一点鎖線Aで示している。以下、工具7の軌道及びその延長線を軌道線Aと称する。
【0042】
なお、孔加工機2がワークホルダ36の上方に配置されていると、ワークホルダ36への口金板8の脱着作業が行いにくい。そこで、例えばコラム5を中心にアーム6を旋回可能にするなどして、ワークホルダ36の上方から孔加工機2を退避可能にすることが好ましい。ワークホルダ36の上方から孔加工機2を退避させることによって、ワークホルダ36へ口金板8を脱着する際の作業性が向上する。
【0043】
このように、口金板8は、最初から板状部81と軌道線Aとが略直交するようにワークホルダ36によって保持されている必要はなく、加工処理の前に、板状部81と軌道線Aとが略直交する位置にワークホルダ36が移動配置される構成であればよい。
【0044】
図3は、
図1,
図2に示すワーク保持装置3の揺動動作を説明するための説明図である。上述したように、モータ42が回転駆動することにより、ワーク保持装置3は、ガイド面41の曲率中心Oを中心に揺動する。このとき、ガイド面41の曲率半径をR0とする。これに対し、口金板8の板状部81の曲率半径Rは、曲率半径R0よりも短い。そこで、ナット331によって口金板8の位置を調節することによって、ガイド面41の曲率中心Oすなわち揺動中心に、板状部81の曲率中心を一致させることが可能にされている。
【0045】
なお、ナット331等の調節機構を備える例に限らない。ガイド面41の曲率中心Oすなわち揺動中心と、板状部81の曲率中心とが一致するように、予めワーク保持装置3の位置が設定されていてもよい。
【0046】
図4は、口金板8を揺動させて板状部81に貫通孔を形成する動作を説明するための説明図である。まず、口金板8を揺動させない状態で、板状部81の中心Cが軌道線A上に位置している。この状態で孔加工機2が軌道線Aに沿って工具7を口金板8に向けて駆動することにより、板状部81の中心Cに、板状部81と直交する方向に貫通孔が形成される。
【0047】
次に、モータ42を駆動して口金板8を、曲率中心Oを中心に角度α揺動させると、中心Cから角度α離れた位置にある点N0が軌道線A上に位置する。
図5は、貫通孔の形成位置を説明するための説明図である。
図5(a)に示すように、点N0は、中心Cを中心とする半径Rsinαの同心円N上の点である。
【0048】
この状態で、モータM1を駆動して口金板8を回転させつつ、工具7による貫通孔の形成を繰り返すことにより、板状部81と直交する複数の貫通孔を、同心円Nに沿って形成することができる。さらに揺動角度αの変更と、口金板8の回転と、孔開け加工とを繰り返すことにより、板状部81全体に多数の貫通孔が形成される。
【0049】
この場合、揺動中心となる曲率中心Oと板状部81の曲率中心とが一致しているので、軌道線Aと板状部81とが垂直に交わる結果、工具7が板状部81に対して垂直に当接され、板状部81に対して精度よく垂直方向に貫通孔を形成することが可能となる。
【0050】
工具7が板状部81に対して垂直に当接されることで、貫通孔の断面形状が楕円形になったり、孔開け加工時に工具7が板状部81に対して滑って貫通孔の形状が変形したりするおそれが低減される。
【0051】
また、既に曲面加工された状態の板状部81に対して貫通孔を形成するので、孔開け加工後の板状部を曲面に加工する背景技術のように、曲面加工時に貫通孔が変形することがない。その結果、特殊な楕円形状の孔開け工具を用いることなく、円形の孔開け工具7を用いて曲面形状の紡糸口金に吐出孔を形成することができる。
【0052】
また、板状部81は、球冠形状を有しているので、板状部81に対して垂直方向に多数の貫通孔を形成して紡糸口金を作成すると、この紡糸口金の凹面側から紡糸原液を供給し、凸面側から紡糸原液を吐出させた場合、各貫通孔から糸状に吐出された紡糸原液は、互いに離間する方向に拡がるように吐出される。その結果、隣接する吐出孔から吐出された紡糸原液同士がぶつかってくっついてしまうおそれが低減される。
【0053】
例えばマイクロコンピュータを用いて構成された制御部を備え、制御部によって、モータ42,M1、孔加工機2等、紡糸口金加工装置1の各部の動作を制御する構成としてもよい。制御部によって、モータ42によるワークホルダ36の揺動角度、モータM1によるワークホルダ36の回転角度、及び孔加工機2による孔加工動作を制御することにより、上述の紡糸口金加工装置1の動作を実行させ、口金板8に自動的に複数の貫通孔を形成して紡糸口金を形成するようにしてもよい。
【0054】
なお、必ずしもガイド面41の曲率中心O(揺動中心)と、板状部81の曲率中心とを一致させる例に限らない。しかしながら、ガイド面41の曲率中心O(揺動中心)と、板状部81の曲率中心とを一致させることで、板状部81に対して垂直に貫通孔を貫通させる精度が向上する点で好ましい。
【0055】
また、曲率中心Oが軌道線A上に位置する例を示したが、曲率中心Oは、必ずしも軌道線A上に位置していなくてもよい。しかしながら、曲率中心Oを軌道線A上に位置させることで、簡素な構成で板状部81に対して垂直に貫通孔を貫通させることが可能になる。
【0056】
また、ワークホルダ36は、口金板8の凹面側が孔加工機2と対向するように口金板8を保持する例を示したが、ワークホルダ36は、口金板8の凸面側が孔加工機2と対向するように口金板8を保持してもよい。この場合、孔開け加工時に、工具7が板状部81に対して凸面側から押圧されるので、板状部81に対して圧縮方向の押圧力が作用する。その結果、凹面側から押圧される場合と比べて、孔開け加工時に工具7の押圧力に起因して板状部81が損傷するおそれが低減される。
【0057】
なお、揺動機構として、ワークホルダ36の移動を、揺動中心を中心とする円弧に沿うように案内するガイド面41を用いる例を示したが、揺動機構は、必ずしもガイド面41のようなガイド部材を用いて構成される例に限らない。例えば、
図6に示すように、曲率中心Oを通る揺動軸37と、揺動軸37とワークホルダ36との間に掛け渡され、ワークホルダ36を、揺動軸37を中心に揺動可能に保持するアーム部材38とを用いて揺動機構を構成するようにしてもよい。
【0058】
この場合、アーム部材38の長さを伸縮自在に構成し、アーム部材38の長さを調節することにより、板状部81の曲率中心を揺動中心となる揺動軸37に一致させることができる調節機構を備えることが好ましい。なお、予め、板状部81の曲率中心が揺動軸37と一致するようにアーム部材38の長さが設定されていても無論よい。
【0059】
また、板状部81は、必ずしも球冠形状でなくてもよい。板状部81を、曲率半径の異なる曲面や平面を組み合わせて構成し、板状部81と軌道線Aとが略直交するように、揺動角度αと、ナット331等による位置調節とを適宜行うようにしてもよい。
(第2実施形態)
【0060】
次に、本発明の第2実施形態に係る紡糸口金加工装置1aについて説明する。
図7は、本発明の第2実施形態に係る紡糸口金加工装置1aの一例を示す斜視図である。
図7に示す紡糸口金加工装置1aは、ワークホルダ36の揺動中心となる揺動軸923が、ワークホルダ36よりも孔加工機2から遠い側に配置される点、及びワークホルダ36を平行移動可能なX−Yテーブル91(移動機構)を備える点で、主に異なる。
【0061】
具体的には、
図7に示す紡糸口金加工装置1aは、孔加工機2(穿孔手段)、工具7、ワークホルダ36、穿孔位置移動手段9、ベースプレート4a、アーム6、及び昇降機構10を備えている。穿孔位置移動手段9は、ベースプレート4a上に配置され、穿孔位置移動手段9の上面に口金板8が保持されている。基台部4の後方には、昇降機構10が立設されている。
【0062】
昇降機構10は、ベースプレート4a上に立設された二本のポール11と、二本のポール11の間に立設されたねじ棒12と、ねじ棒12を回転駆動するモータ13と、ポール11、ねじ棒12、及びモータ13を支持するサポート14とを備えている。ポール11は、アーム6に挿通され、アーム6を昇降可能に保持する。ねじ棒12は、アーム6に形成されたネジ穴と螺合されている。モータ13がねじ棒12を正逆回転させることにより、アーム6が昇降する。
【0063】
アーム6は、昇降機構10から前方に向かって延び、アーム6の先端部に、孔加工機2が取り付けられている。孔加工機2には、口金板8に貫通孔を形成するための工具7が取り付けられている。アーム6によって、口金板8の上方に孔加工機2及び工具7が配置されている。孔加工機2は、軌道線Aに沿って工具7を進退させ、軌道線A上の板状部81に貫通孔を形成する。
【0064】
穿孔位置移動手段9は、ベースプレート4a上に配設されたX−Yテーブル91と、X−Yテーブル91上に配設された揺動機構92と、揺動機構92により揺動可能に配設された回転機構93とを含む。X−Yテーブル91は、工具7の軌道線Aと直交する平面に沿って、
回転機構93及び揺動機構92を平行移動可能にされている。
【0065】
揺動機構92は、X−Yテーブル91の上面に固着された枠体921と、枠体921の側壁に固着され、枠体921の側壁を前後方向に貫通する揺動軸923を回動させる傾斜駆動装置922とを備える。傾斜駆動装置922は、例えばモータと、モータの回転を減速して揺動軸923に伝達する減速ギア等を含んで構成されている。
【0066】
回転機構93は、ロータリーインデックス931(回動機構)と、ロータリーインデックスホルダ932とを備えている。ロータリーインデックス931は、ロータリーインデックスホルダ932の上面に固着されている。ロータリーインデックス931の上面には、ワークホルダ36が固着されている。ロータリーインデックス931には、
図8に記載のモータM2(回動機構)の回転軸が連結されている。これにより、モータM2が回転駆動すると、ロータリーインデックス931が回転する。ロータリーインデックス931が回転すると、ワークホルダ36及びワークホルダ36に取り付けられた口金板8が回転される。
【0067】
ロータリーインデックスホルダ932は、枠体921の内側に収容されている。ロータリーインデックスホルダ932は、傾斜駆動装置922の揺動軸923と連結され、揺動軸923の回動に応じて、揺動軸923を中心に揺動するようになっている。
図7に示す紡糸口金加工装置1aでは、ワークホルダ36の揺動中心である揺動軸923が、ワークホルダ36(口金保持部)よりも孔加工機2(穿孔手段)から遠い側に配置されている。
【0068】
図8、
図9は、主に揺動機構92による口金板8の揺動動作を説明するための説明図である。まず、中心Cが軌道線A上に位置する基準姿勢のとき、口金板8は、ワークホルダ36によって、板状部81が中心Cで軌道線Aと直交するように配置されている。ワークホルダ36は、揺動軸923から板状部81の中心Cまでの距離がLとなるように、口金板8を保持している。
【0069】
この状態で、孔加工機2が軌道線Aに沿って工具7を口金板8に向けて駆動することにより、板状部81の中心Cに、板状部81と直交する方向に貫通孔が形成される。
【0070】
次に、傾斜駆動装置922を駆動して口金板8を、揺動軸923を中心に例えば左方向に角度β揺動させると、口金板8が、左方向に傾きつつ、左方向に移動する。このとき、基準姿勢のときの板状部81の曲率中心Oの位置と、角度β傾いたときの曲率中心O’の位置とは、左右方向かつ水平方向に沿って、すなわち揺動軸923と直交する平面であって、かつ揺動の軌跡を含む揺動平面と、軌道線Aと直交する直交平面とが交わる交線(以下、移動ラインと称する)に沿って、距離x離間している。距離xは、下記の式(1)で求められる。
【0071】
x=(R+L)sinβ ・・・(1)
【0072】
次に、X−Yテーブル91によって、式(1)で算出された距離xだけ、右方向(揺動による口金板8の移動方向と逆方向)に口金板8(板状部81)を平行移動させると、板状部81が点N0で軌道線Aと直交するように配置される。この状態で、孔加工機2が軌道線Aに沿って工具7を口金板8に向けて駆動することにより、板状部81の点N0に、板状部81と直交する方向に貫通孔が形成される。このとき、角CO’N0=α=βとなる。
【0073】
なお、口金板8を水平方向に平行移動させると、下記の式(2)で示す距離zだけ、口金板8と工具7との距離が遠くなる。
【0074】
z=(R+L)(1−cosβ) ・・・(2)
【0075】
そこで、孔加工機2により貫通孔を形成する前に、式(2)に基づき、昇降機構10により孔加工機2を距離z下降させ、工具7と口金板8との距離が一定になるように調節することが好ましい。これにより、孔加工機2が工具7を駆動するストロークの範囲内で、貫通孔の形成に適した一定の位置に工具7を位置させて、工具7による貫通孔の形成を行うことができる。このように、貫通孔の形成時の工具7と口金板8との距離を一定にすることにより、孔加工機2の性能が発揮しやすい状態で、孔開け加工を行うことが可能となる。
【0076】
また、移動機構は、理論上、上記移動ラインに沿って直線的に口金板8(板状部81)を平行移動可能であればよい。しかしながら、実際の装置による揺動や移動動作の精度上、口金板8が上記移動ラインからずれて揺動したり移動されたりする場合がある。そこで、移動機構としてX−Yテーブル91を用いることで、このような移動ラインからの位置ずれを修正可能とすることが好ましい。
【0077】
さらにこの状態でモータM2を回転させつつ、工具7による貫通孔の形成を繰り返すことにより、
図5(a)に示すように、板状部81と直交する複数の貫通孔を、同心円Nに沿って形成することができる。
【0078】
この場合、工具7が板状部81に対して垂直に当接されるので、貫通孔の断面形状が楕円形になったり、孔開け加工時に工具7が板状部81に対して滑って貫通孔の形状が変形したりするおそれが低減される。
【0079】
また、紡糸口金加工装置1の場合と同様、既に曲面加工された状態の板状部81に対して貫通孔を形成するので、特殊な楕円形状の孔開け工具を用いることなく、円形の孔開け工具7を用いて曲面形状の紡糸口金に吐出孔を形成することができる。
【0080】
紡糸口金加工装置1の場合と同様、例えばマイクロコンピュータを用いて構成された制御部を備え、制御部によって、傾斜駆動装置922、X−Yテーブル91、モータM2、孔加工機2等、紡糸口金加工装置1aの各部の動作を制御する構成としてもよい。制御部によって、式(1)に基づき傾斜駆動装置922によるワークホルダ36の揺動角度βに対応する移動距離xを算出し、式(2)に基づき昇降機構10を昇降させる距離zを算出してもよい。
【0081】
そして、制御部によって、揺動角度β、移動距離x、距離zの算出、X−Yテーブル91による平行移動、昇降機構10の昇降、モータM2によるワークホルダ36の回転角度、及び孔加工機2による孔加工動作を制御することにより、上述の紡糸口金加工装置1aの動作を実行させ、口金板8に自動的に複数の貫通孔を形成して紡糸口金を形成するようにしてもよい。
【0082】
なお、紡糸口金加工装置1の場合と同様、ワークホルダ36は、口金板8の凸面側が孔加工機2と対向するように口金板8を保持してもよい。
【0083】
また、移動機構としてX−Yテーブル91を用いる例を示したが、移動機構は、移動ラインに沿って平行移動可能であればよく、必ずしもX−Yテーブルでなくてもよい。
【0084】
また、板状部81は、必ずしも球冠形状でなくてもよい。板状部81を、曲率半径の異なる曲面や平面を組み合わせて構成し、板状部81と軌道線Aとが略直交するように、揺動角度βと、X−Yテーブル91による移動量等の調節を適宜行うようにしてもよい。
【0085】
なお、孔加工機2がワークホルダ36の上方に配置されていると、ワークホルダ36への口金板8の脱着作業が行いにくい。そこで、例えば
図10に上面図で示すように、X−Yテーブル91によって、ワークホルダ36を孔加工機2の下方から退避させるようにしてもよい。あるいは、
図8、
図9において、揺動角度βが90°近くになるまで揺動可能な構成としてもよい。これにより、ワークホルダ36の上方から孔加工機2を退避させることによって、ワークホルダ36へ口金板8を脱着する際の作業性が向上する。
【0086】
このように、口金板8は、最初から板状部81と軌道線Aとが略直交するようにワークホルダ36によって保持されている必要はなく、加工処理の前に、板状部81と軌道線Aとが略直交する位置に、ワークホルダ36が移動配置される構成であればよい。
【0087】
なお、移動機構は、必ずしもX−Yテーブル91でワークホルダ36を移動させる例に限らない。移動機構は、ワークホルダ36を孔加工機2に対して相対的に移動可能であればよく、例えば移動機構は、孔加工機2を左右(X方向)、前後(Y方向)に移動させる機構であってもよい。
【0088】
また、ガイド面41や
図6に示すような揺動機構や穿孔位置移動手段9は、穿孔位置移動手段の一例である。穿孔位置移動手段は、口金板8を移動させ、かつ板状部81と軌道線Aとが略直交するように口金板8を傾斜させることができればよく、必ずしもこのような構成に限らない。また、回動機構もモータM1,M2、ロータリーインデックス931等に限られず、種々の変形が可能である。