特許第6303698号(P6303698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303698
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20180326BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20180326BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20180326BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   C08L1/10
   C08L23/26
   C08L23/12
   C08J5/00CEP
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-66906(P2014-66906)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-189830(P2015-189830A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 雅之
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−032137(JP,A)
【文献】 特開2006−176596(JP,A)
【文献】 特開2006−028429(JP,A)
【文献】 特開2012−236906(JP,A)
【文献】 特開2013−170206(JP,A)
【文献】 特開2010−275400(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/158906(WO,A1)
【文献】 特開2011−190322(JP,A)
【文献】 特開平11−012401(JP,A)
【文献】 特開昭64−051451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08J 5/00−5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル樹脂を100phrと、
マレイン酸変性ポリプロピレンを1phr以上10phr以下と、
ポリプロピレンを5phr以上50phr以下と、
アジペート系可塑剤、及び難燃剤として縮合リン酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を10phr以上50phr以下と、
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価が、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
セルロースエステル樹脂を100phrと、
マレイン酸変性ポリプロピレンを1phr以上10phr以下と、
ポリプロピレンを5phr以上50phr以下と、
アジペート系可塑剤、及び難燃剤として縮合リン酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を10phr以上50phr以下と、
を含む樹脂成形体。
【請求項4】
前記マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価が、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である請求項3に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物としては種々のものが提供され、各種用途に使用されている。特に家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されたり、また事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも熱可塑性樹脂が使用されている。
近年地球規模での環境問題に対して、植物由来の樹脂の利用は、温室効果ガス排出量を低減し得る材料として大きな期待が寄せられている。従来から知られている植物由来の樹脂の一つに、セルロース誘導体がある。セルロース誘導体は、従来、塗料としての用途や、繊維としての用途では、広く利用されているが、セルロース誘導体の樹脂成形体への利用に際しては、まだ用いられている例は少ない。
【0003】
例えば、可塑化されたセルロースエステル、無機系消臭剤および酸変性樹脂(酸変性ポリプロピレン系樹脂等)で構成された樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、可塑化されたセルロースエステル、およびカルボジイミド化合物で構成されたセルロースエステル系樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−28429号公報
【特許文献2】特開2006−183009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、表面への含有成分の移行及び析出(以下「ブリード」とも称する)を抑制した樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
【0008】
請求項1に係る発明は、
セルロースエステル樹脂を100phrと、
マレイン酸変性ポリプロピレンを1phr以上10phr以下と、
ポリプロピレンを5phr以上50phr以下と、
アジペート系可塑剤、及び難燃剤として縮合リン酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を10phr以上50phr以下と、
を含む樹脂組成物。
【0009】
請求項2に係る発明は、
前記マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価が、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である請求項1に記載の樹脂組成物。
【0010】
請求項3に係る発明は、
セルロースエステル樹脂を100phrと、
マレイン酸変性ポリプロピレンを1phr以上10phr以下と、
ポリプロピレンを5phr以上50phr以下と、
アジペート系可塑剤、及び難燃剤として縮合リン酸エステルよりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を10phr以上50phr以下と、
を含む樹脂成形体。
【0011】
請求項4に係る発明は、
前記マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価が、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である請求項3に記載の樹脂成形体。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、セルロースエステル樹脂に対してマレイン酸変性ポリプロピレンのみを含ませる場合に比べ、ブリードを抑制した樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供できる。
請求項2に係る発明によれば、マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価が100mgKOH/gを超える場合に比べ、ブリードを抑制した樹脂成形体が得られる樹脂組成物を提供できる。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、セルロースエステル樹脂に対してマレイン酸変性ポリプロピレンのみを含ませる場合に比べ、ブリードを抑制した樹脂成形体を提供できる。
請求項4に係る発明によれば、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸当量が100mgKOHを超える場合に比べ、ブリードを抑制した樹脂成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の一例である実施形態について説明する。
【0015】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースエステル樹脂と、マレイン酸変性ポリプロピレンと、ポリプロピレンと、可塑剤、及び難燃剤よりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤(以下「特定添加剤」とも称する)と、を含む組成物である。
そして、セルロースエステル樹脂の含有量を100phrとし、マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量を1phr以上10phr以下とし、ポリプロピレンの含有量を5phr以上50phr以下とし、特定添加剤の含有量を10phr以上50phr以下とする。
なお、「phr」とは、「per hundred resin」の略であり、ベース樹脂(本実施形態ではセルロースエステル樹脂)100質量部に対する「質量部」である。
【0016】
ここで、可塑剤、又は難燃剤等の添加剤を含む樹脂成形体は、添加剤のブリードが生じることがある。このブリードが生じると、製品外観損傷のみならず、周辺機器の劣化を誘因する。ブリードとは、ベース樹脂中で過飽和状態となった添加剤が熱等の環境変化、又は経時変化で表面に移行及び析出することをことである。これを抑制するには、添加剤の過飽和状態の飽和以下の状態にする必要がある。そのための手段として、ベース樹脂以上に添加剤と親和性の高い樹脂を配合し、それに添加剤を相溶させる手法がある。この点、マレイン酸変性ポリプロピレンは、ベース樹脂であるセルロースエステル樹脂に比べ、可塑剤、又は難燃剤等の添加剤との親和性が高いと考えられる。
【0017】
しかし、ブリードを抑制できる程の多量のマレイン酸変性ポリプロピレンを、単独で、ベース樹脂としてのセルロースエステル樹脂に配合できない。その理由は、マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸と反応するセルロースエステル樹脂のOH基の数が限られるため、未反応物が相分離し、物性不良が生じると推測されるためである。
【0018】
一方で、ベース樹脂であるセルロースエステル樹脂に、マレイン酸変性ポリプロピレンと親和性が高いポリプロピレンと配合すると、マレイン酸変性ポリプロピレンが分散剤として機能し、上記範囲といった多量のポリプロピレンの配合が実現される。そして、このポリプロピレンも可塑剤、又は難燃剤等の添加剤との親和性が高い。このため、マレイン酸変性ポリプロピレンに加え、ポリプロピレンによって、ブリード抑制機能が高まる。
【0019】
以上から、本実施形態に係る樹脂組成物は、ブリードを抑制した樹脂成形体が得られる。また、ポリプロピレンを配合することで、可塑性も高まり、成形性も良好となる。
【0020】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂からなる樹脂成形体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂とポリカーボネート樹脂とからなる樹脂成形体等と同等の耐衝撃性、自立形状保持性(これを実現するための弾性率)、荷重たわみ温度等の機械的特性、及び湿熱特性を持つ樹脂成形体が得られる。
【0021】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各成分の詳細について説明する。
【0022】
(セルロースエステル樹脂)
セルロースエステル樹脂は、樹脂組成物のベース樹脂である。
セルロースエステル樹脂としては、例えば、セルロースアセテート類が好適に挙げられ、具体的には、例えば、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートメチレート、セルロースアセテートヒドロキシエチレート、セルロースアセテートヒドロキシプロピレート、セルロースブチレートヒドロキシプロピレート、セルロースジアセテート等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、加工性の観点から、特にセルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースジアセテート(DAC)がよい。
【0024】
セルロースエステル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、10000以上100000以下が好ましく、15000以上80000以下がより好ましい。
この重量平均分子量を上記範囲にすると、樹脂組成物の流動性が適切となり、成形性が高まりやすくなる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィー装置(島津製作所製Prominence GPC型)を用い、測定カラムにはShim−pack GPC−80Mを使用して測定された値である。以下、同様である。
【0025】
セルロースエステル樹脂の含有量は、100phrである。ベース樹脂としてセルロースエステル樹脂を含むことにより、樹脂組成物(その樹脂成形体)が日本バイオプラスチック協会による「グリーンプラ」又は「バイオマスプラ」識別表示制度の認証が得られる。
【0026】
(マレイン酸変性ポリプロピレン)
マレイン酸変性ポリプロピレンは、例えば、マレイン酸又は無水マレイン酸をグラフト変性したポリプロピレンである。マレイン酸変性ポリプロピレンは、例えば、マレイン酸変性ポリプロピレンは、例えば、有機過酸化物、熱分解法等によって発生させたラジカルを開始剤として、マレイン酸又は無水マレイン酸をポリプロピレンにグラフトさせることにより得られる。なお、マレイン酸変性ポリプロピレンとは、無水マレイン酸変性ポリプロピレンも含む。
【0027】
マレイン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、1000以上50000以下が好ましく、3000以上40000以下がより好ましい。
この重量平均分子量を上記範囲にすると、よりブリードを抑制しやすくなる。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
【0028】
マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価は、1mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましく、3mgKOH/g以上55mgKOH/g以下がより好ましい。
この酸価を上記範囲にすると、よりブリードを抑制しやすくなる。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
なお、酸価は、JIS K0070(1992)に従った中和滴定法により測定した値である。
【0029】
マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量は、1phr以上10phr以下であり、好ましくは0.1phr以上20phr以下、より好ましくは1phr以上10phr以下である。
マレイン酸変性ポリプロピレンの含有量を上記範囲にすると、得られる樹脂成形体のブリードが抑制される。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
【0030】
(ポリプロピレン)
ポリプロピレンは、未変性のポリプロピレンである。
ポリプロピレンの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、10000以上300000以下が好ましく、40000以上100000以下がより好ましい。
この重量平均分子量を上記範囲にすると、よりブリードを抑制しやすくなる。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
【0031】
ポリプロピレンの含有量は、5phr以上50phr以下であり、好ましくは1phr以上100phr以下、より好ましくは5phr以上50phr以下である。
ポリプロピレンの含有量を上記範囲にすると、得られる樹脂成形体のブリードが抑制される。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
【0032】
なお、マレイン酸変性ポリプロピレンに対するポリプロピレンの質量比(ポリプロピレン/マレイン酸変性ポリプロピレン)は、1/3が好ましく、1/5がより好ましい。
この質量比を上記範囲にすると、得られる樹脂成形体のブリードが抑制される。また、得られる成形体の難燃性、機械的特性、及び湿熱特性も高まりやすくなる。
【0033】
(特定添加剤)
特定添加剤は、可塑剤、及び難燃剤よりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤である。
【0034】
−可塑剤−
可塑剤としては、例えば、アジート系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等が挙げられる。
アジート系可塑剤としては、例えば、ベンジル−2−(2−メトキシエトキシ)エチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ベンジオクチルアジペート等が挙げられる。
ポリエステル系可塑剤としては、例えば、ポリ(1,3−ブタンジオールアジペート)、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等が挙げられる。ポリエステル系可塑剤としては、例えば、2塩基酸(例えばセバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、フタル酸等)と、2価アルコール(例えばグリコール類、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール等)との重縮合体が挙げられる。
【0035】
可塑剤としては、その他、フタル酸誘導体、イソフタル酸誘導体、テトラヒドロフタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、セバシン酸誘導体、ドデカン誘導体、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体、トリメリット酸誘導体、ピロメリット酸誘導体、クエン酸誘導体、イタコン酸誘導体、オレイン酸誘導体、リシノール酸誘導体、ステアリン酸誘導体、スルホン酸誘導体、リン酸誘導体、グルタール酸誘導体、エステル誘導体、グリコール誘導体、グリセリン誘導体、パラフィン誘導体、エポキシ誘導体等の周知の可塑剤も挙げられる。
【0036】
これら可塑剤の中でも、得られる樹脂成形体の相溶の点から、アジート系可塑剤(特に、ベンジル−2−(2−メトキシエトキシ)エチルアジペート、エチルヘキシルアジペート、イソデシルアジペート、イソノニルアジペート、ベンジルオクチルアジペート等のアジピン酸のジエステル化合物)がよい。
【0037】
可塑剤の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、300以上30000以下が好ましく、300以上3000以下がより好ましい。
可塑剤の重量平均分子量を上記範囲にすると、樹脂組成物の流動性が適切となり、また、成形加工時に可塑剤のガス化が抑制され、成形性が高まりやすくなる。
【0038】
可塑剤の含有量は、5phr以上50phr以下が好ましく、10phr以上40phr以下がより好ましい。
可塑剤の含有量を上記範囲にすると、樹脂組成物の流動性が適切となり、また、耐衝撃性、引張り強さ等の樹脂成形体の機械的特性が良好となる。
【0039】
−難燃剤−
難燃剤としては、例えば、リン系、シリコーン系、含窒素系、硫酸系、無機水酸化物系等の周知の難燃剤が挙げられる。
リン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アルミニウム、ピロリン酸メラミン等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤としては、ジメチルシロキサン、ナノシリカ、シリコーン変性ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
含窒素系難燃剤としては、メラミン化合物、トリアジン化合物等が挙げられる。
硫酸系難燃剤としては、硫酸メラミン、硫酸グアニジン等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト等が挙げられる。
【0040】
これらの難燃剤の中でも、難燃性向上の観点から、リン系難燃剤、硫酸系難燃剤、無機水酸化物系難燃剤がよく、特に、常温(例えば25℃)で固体状の難燃剤(例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アルミニウム、ピロリン酸メラミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、モンモリロナイト等)がよい。
【0041】
また、難燃剤としては、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1−ビフェニルも好ましい。具体的には、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1−ビフェニルは、単量体、二量体、及び三量体があり、難燃剤としては、これら単量体、二量体、及び三量体よりなる群から選択される少なくとも一種も好ましい。
【0042】
なお、難燃剤としては合成したものを用いてもよいし市販品を用いてもよい。
リン系難燃剤の市販品としては、大八化学(株)製のPX−200、PX−202、CR−741、CE−733S、TPP;ブーテンハイム製のTERRAJU C80;クラリアント製のEXOLIT AP422、EXOLIT OP930;ADEKA製のFP800等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤の市販品としては、東レダウシリコーン製のDC4−7081等が挙げられる。
含窒素系難燃剤の市販品としては、ADEKA製のFP2200等が挙げられる。
硫酸系難燃剤の市販品としては、三和ケミカル製のアピノン901;下関三井化学製のピロリンサンメラミン;ADEKA製のFP2100等が挙げられる。
無機水酸化物系難燃剤の市販品としては、堺化学工業製のMGZ3、MGZ300;日本軽金属製B103ST等が挙げられる。
【0043】
難燃剤の含有量は、5phr以上50phr以下が好ましく、10phr以上40phr以下がより好ましい。
難燃剤の含有量を上記範囲にすると、樹脂成形体に難燃性が発現されやすくすると共に、樹脂組成物の流動性も良好となる。
【0044】
−特定添加剤の含有量−
特定添加剤の含有量(可塑剤、及び難燃剤よりなる群から選択される少なくとも1種の添加剤の含有量)は、5phr以上50phr以下であり、好ましくは5phr以上45phr以下、より好ましくは5phr以上40phr以下である。
この特定添加剤の含有量を上記範囲にすると、ブリードを抑制しつつ、樹脂組成物の流動性も良好となる。
【0045】
(その他の成分)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記各成分の他、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、難燃助剤、加熱された際の垂れ(ドリップ)防止剤、可塑剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等の周知の添加剤が挙げられる。
その他の成分は、例えば、0phr以上10phr以下がよく、0phr以上5phr以下がより好ましい。ここで、「0phr」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
【0046】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記各成分を溶融混練することにより製造される。
ここで、溶融混練の手段としては公知の手段を用いることができ、例えば、二軸押出し機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0047】
[樹脂成形体]
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物からなる。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0048】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が望ましい。本実施形態に係る樹脂組成物は、熱流動性が高く射出成形を適用し得る。射出成形のシリンダ温度は、例えば200℃以上230℃以下であり、望ましくは210℃以上230℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば30℃以上100℃以下であり、30℃以上60℃以下がより望ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0049】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0051】
[比較例101、参考例101、実施例1〜7、比較例1〜10]
表1〜表2に従った成分(数量の単位は「phr」)を
2軸混練装置(東芝機械製、TEM58SS)にて、シリンダ温度190℃で混練し、樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを、射出成型機(東芝機械(株)製、製品名「NEX500」)を用いて表1〜表2に記載の射出温度(シリンダ温度)、金型温度50℃で射出成型し、長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片(ISO527引張試験、ISO178曲げ試験に対応、試験部厚さ4mm、幅10mm)と、UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ:0.8mm、1.6mm)を成形した。
【0052】
[評価]
(透明性)
得られた樹脂組成物のペレットをプレス成型機(東洋精機(株)製 ファインラボプレス M−1)により成形し、厚み100μmの試験用シートを作製した。
その試験用シートの光透過率を、紫外・可視光分光光度計(島津製作所製UV−1800)により測定し、透明性を評価した。
なお、測定波長は550nmとした。また、表中、「−」は測定不可を示している。
【0053】
(難燃性)
−UL−V試験−
Vテスト用UL試験片を用い、UL−94HB試験に規定の方法に準拠して、ULチャンバ(東洋精機(株)製)にて、UL−Vテストを実施した。結果の表示は、難燃性が高い方から順にV−0、V−1、V−2、HBであり、HBより劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合を「failure」と示した。
なお、射出成形できず、試験片を作製できなかったものは、実質上生産不可能という理由から、検討を中止した。
【0054】
(機械的特性)
−引張り強さ、伸び−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片を用い、ISO527に準拠して、評価装置(島津製作所製、精密万能試験機オートグラフAG−IS 5kN)にて、引張り強さ、及び伸びについて測定した。
【0055】
−耐衝撃性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片にノッチ加工を施し、これを用い、JIS−K7111(2006年)に準拠して、評価装置(東洋精機(株)製DG−UB2)にて、シャルピー衝撃試験より耐衝撃性を測定した。
【0056】
−荷重たわみ温度(HDT)−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片を用い、ISO178曲げ試験に準拠して、HDT測定装置(東洋精機(株)製、HDT−3)を用にて、1.8MPaの荷重における荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0057】
(耐湿熱性)
−湿熱試験後の耐衝撃性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片に対して、次のようにして湿熱試験を行った後、上記同様にして耐衝撃性を測定した。
湿熱試験は、湿熱試験機(THN042PA;ADVANTEC製)にて65℃×85%×400時間の条件で行った。
【0058】
−寸法安定性−
長さ方向の両側にゲートを設けて成形した試験片に対して、上記湿熱試験を行う前後で、ダンベル試験片の寸法変化(湿熱試験前/湿熱試験後)を調べた。この寸法変化は、試験片における、成形時の樹脂の流動方向(マシンダイレクション方向:表1〜表2中「MD」と表記」)、及び、成形時の樹脂の流動方向を横断する方向(トラバースダイレクション方向:表1〜表2中「TD」と表記」)の各々について行った。
【0059】
(ブリード)
ブリードについて、次の評価を行った。
UL−94におけるVテスト用UL試験片を湿熱条件(温度65℃、相対湿度85%)下で、500時間放置した後、試験片の表面性を目視で観察した。
評価基準は、以下の通りである。
G1(◎): 目視ブリード・変色なし
G2(○) 目視ブリードなし
G3(△) ややブリードあり
G4(×) ブリードあり
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
上記結果から、本実施例1〜7では、比較例7、9に比べ、ブリードが抑えられていることがわかる。
また、本実施例2、4、6と比較例4、6、8、10との比較により、本実施例では、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びポリプロピレンの配合量を高めても、成形体が可能であり、機械的特性、湿熱特性の良好な樹脂成形体が得られることがわかる。
【0063】
なお、表1〜表2の材料種の詳細は、以下の通りである。
−セルロースエステル樹脂−
・L−50: 商品名L−50(ダイセル(株)製)、セルロースジアセテートプロピオネート
【0064】
−無水マレイン酸変性ポリプロピレン−
・ユーメックスTS110: 商品名ユーメックスTS110(三洋化成工業(株)製)、酸価=7mgKOH、重量平均分子量=3000
・ユーメックス1010: 商品名ユーメックス1010(三洋化成工業(株)製)、酸価=52mgKOH、重量平均分子量=30000
【0065】
−ポリプロピレン−
・PP−BN: 商品名ノバテックPP−MA3(日本ポリプロ(株)製)、重量平均分子量=60000
【0066】
−可塑剤−
・DAIFATTY−101: 商品名DAIFATTY−101(大八化学(株)製)、ベンジル−2−(2−メトキシエトキシ)エチルアジペート
【0067】
−難燃剤−
・FP800: 商品名FP800((株)ADEKA製)、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1−ビフェニルの単量体、二量体、及び三量体の混合物