(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10,000〜22,000であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州及び北米等においては、自動車のヘッドランプ及びリアランプに常時点灯するデイライトを設置することにより、昼間の歩行者や対向車からの視認性を高める、自動車のデイライト化が進んでいる。デイライトは一般に、導光部材と、導光部材に光を入射させる光源とを備えている。自動車のデイライトの近傍には、一般的に夜間用の通常の光源としてハロゲンランプ等の白熱灯が設けられているため、導光部材は、デイライトの光源から発生する熱に加え、白熱灯から発生する熱によっても加熱される。このため、導光部材には優れた耐熱耐久性が求められる。
【0003】
従来、導光部材の構成材料として、例えば下記特許文献1に、芳香族ポリカーボネート樹脂にリン系安定剤及び脂肪酸エステルを配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の色相と耐黄変性を改善したものとして、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合するリン系安定剤として、2種類のホスファイト系安定剤を用いた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0004】
即ち、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて自動車用照明装置に用いられる導光部材を成形した場合、成形過程で受ける熱で芳香族ポリカーボネート樹脂が劣化し、得られる成形品は僅かながら黄色味を帯びることがある。また、成形時に黄色味を帯びなくても、導光部材は、上記の通り、導光部材周辺の光源の熱に長時間晒されることで劣化して黄変する。特許文献2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、特許文献1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における色相を改善すると共にこの黄変を抑制するものである。
【0005】
特許文献2で用いる2種類のホスファイト系安定剤のうちの一方は、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤であり、他方は、スピロ環骨格を有さないものである。
特許文献2で使用されるスピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0006】
【化1】
【0007】
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基を表す。)
【0008】
特許文献2には、上記一般式(1)の炭素原子数6〜30のアリール基としては、フェニル基とナフチル基が挙げられており、その場合の具体例としては、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられているが、本発明で用いるホスファイト系安定剤(B−I)の例示はなく、このホスファイト系安定剤(B−I)により、加熱条件下に長時間晒されたときの黄変抑制効果が格段に改善されることを示唆する記載はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であれば、特許文献1の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、色相が改善され、また黄変も抑制されるが、加熱条件下に長時間晒された場合における黄変抑制効果においては、更なる改善が望まれる。即ち、前述のように、例えば、自動車用照明装置の導光部材は、デイライトの光源や白熱灯からの熱のために、高温条件下に長時間晒される。このような自動車用照明装置の導光部材用途においては、例えば120℃の高温条件下に1000時間もの長時間晒された場合であっても、黄変の問題が少ないことが要求されるが、特許文献2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、このような高度な耐黄変性を十分に満たすものではなかった。即ち、特許文献2では、後述の本発明に係るΔYIが40以下で合格としており、ΔYIが18.0の実施例が一例だけ記載されているものの、その他の実施例のΔYIは約23〜33となっている。
【0011】
本発明は、特許文献2の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物よりも耐黄変性を更に改善し、加熱条件下に長時間晒された場合であっても黄変の問題が小さい芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記課題を解決するべく、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合するリン系安定剤について鋭意研究を重ねた結果、特定のホスファイト系安定剤が、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、リン系安定剤(B)として下記一般式(I)で表されるホスファイト系安定剤(B−I)0.01〜0.1質量部
および下記一般式(II)で表されるホスファイト系安定剤(B−II)0.01〜0.5質量部と、脂肪酸エステル(C)0.03〜0.3質量部とを含有
し、ホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)の含有量比が、質量比で、ホスファイト系安定剤(B−II)/ホスファイト系安定剤(B−I)=1.5〜8の範囲であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
【化2】
【0016】
(式(I)中、R
11〜R
18は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示し、R
19〜R
22は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、a〜dは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。)
【化3】
(式(II)中、R21〜R25は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0017】
[2] [1]において、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10,000〜22,000であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0022】
[
3] [1]
又は[
2]において、前記ホスファイト系安定剤(B−I)が下記構造式(Ia)で表される化合物であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0023】
【化4】
【0024】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記ホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)の合計の含有量が、前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.3質量部以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
[
5] [1]ないし[
4]のいずれかにおいて、該芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて射出成形することにより得られた300mm長光路成形品について測定した300mm長のYI値(YI
0)と、該300mm長光路成形品を、120℃で1000時間熱エージング処理した後に測定した300mm長のYI値(YI
X)とから、下記式で算出されるΔYIが20以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
ΔYI=YI
X−YI
0
【0025】
[
6] [1]ないし[
5]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品。
【0026】
[
7] [
6]において、導光部材であることを特徴とする成形品。
【0027】
[
8] [
7]において、自動車用照明装置に内蔵される導光部材であることを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0028】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品は、加熱条件下に長時間晒された場合であっても黄変が十分に抑制されるものである。
このため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて自動車用照明装置の導光部材を成形した場合には、耐熱耐久性に優れた導光部材を提供することができ、導光部材の光伝達効率を長期に亘り高く維持して、導光部材の交換頻度を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、リン系安定剤(B)として特定のホスファイト系安定剤(B−I)0.01〜0.1質量部と、脂肪酸エステル(C)0.03〜0.3質量部を含有することを特徴とする。
【0031】
以下において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られた成形品の成形直後の色相を「初期色相」と称し、得られた成形品を加熱条件下に長時間晒したときの黄変を抑制する効果を「耐熱黄変抑制効果」と称す。
【0032】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。上記芳香族ポリカーボネート重合体は分岐を有していてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0033】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0034】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物の中では、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が特に好ましい。
上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際に、上記芳香族ジヒドロキシ化合物に加えてさらに分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を少量添加してもよい。この場合、上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は分岐を有するものになる。
【0036】
上記3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノールとしては、例えばフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。この中でも、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン又は1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンが好ましい。上記多価フェノールの使用量は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物を基準(100モル%)として好ましくは0.01〜10モル%となる量であり、より好ましくは0.1〜2モル%となる量である。
【0037】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0038】
また上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル及びイソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで炭酸ジエステルの一部を置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0039】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記触媒をp−トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
【0040】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)には、難燃性等を付与する目的で、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることができる。
【0041】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10,000〜22,000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10,000未満である場合、得られる成形品の機械的強度が不足し、十分な機械的強度を有するものを得ることができない場合がある。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が22,000を超える場合、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度が大きくなるため、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形などの方法で成形して導光部材等の長尺状の成形品を製造する際に優れた流動性を得ることができず、また、樹脂の剪断による発熱量が大きくなり、熱分解により樹脂が劣化する結果、優れた色相を有する成形品を得ることができない場合がある。
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量はより好ましくは12,000〜18,000であり、さらに好ましくは14,000〜17,000である。
【0042】
ここで粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、20℃の温度で測定した溶液粘度より換算して求めたものである。
【0043】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量の異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合したものであってもよく、また粘度平均分子量が上記範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量の範囲内としたものであってもよい。
【0044】
<リン系安定剤(B)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤(B)として、下記一般式(I)で表されるホスファイト系安定剤(B−I)を含有するものである。
【0046】
(式(I)中、R
11〜R
18は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を示し、R
19〜R
22は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示し、a〜dは、それぞれ独立に0〜3の整数を示す。)
【0047】
上記一般式(I)において、R
11〜R
18は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることが好ましく、また、a〜dは、0であることが好ましい。
本発明で用いるホスファイト系安定剤(B−I)は、下記構造式(Ia)で表されるビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0049】
上記ホスファイト系安定剤(B−I)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜0.1質量部である。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量が0.01質量部未満であると、十分な耐熱黄変防止効果を得ることができず、また、初期色相も劣る傾向がある。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量が0.1質量部を超えると、成形時のガスが多くなったり、モールドデポジットによる転写不良が起こったりするため、得られる成形品の光透過率が低下するおそれがある。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量は好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.015〜0.08質量部であり、さらに好ましくは0.02〜0.06質量部である。
【0051】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においてはまた、リン系安定剤(B)として上記ホスファイト系安定剤(B−I)と共に、下記一般式(II)で表されるホスファイト系安定剤(B−II)を併用することが、初期色相を更に改善すると共に、耐熱黄変抑制効果を更に高める上で好ましい。
【0053】
(式(II)中、R
21〜R
25は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0054】
上記の一般式(II)中、R
21〜R
25で表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基などが挙げられる。
【0055】
本発明で用いるホスファイト系安定剤(B−II)としては、特に、下記構造式(IIa)で表される(トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0057】
上記のホスファイト系安定剤(B−II)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、ホスファイト系安定剤(B−II)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.01〜0.5質量部、特に0.03〜0.3質量部、とりわけ0.05〜0.2質量部であって、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のホスファイト系安定剤(B−II)/ホスファイト系安定剤(B−I)の質量比が1〜10、特に1.5〜8、とりわけ1.8〜6となるような量であることが好ましい。ホスファイト系安定剤(B−II)の含有量が、上記範囲よりも少ないと、ホスファイト系安定剤(B−II)を併用することによる初期色相及び耐熱黄変抑制効果の改善効果を十分に得ることができず、上記範囲より多くても、それ以上の効果の改善は認められず、リン系安定剤(B)全体の含有量が多くなることにより、成形時のガスが多くなったり、モールドデポジットによる転写不良が起こったりするため好ましくない。
【0059】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、リン系安定剤(B)としてホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)を併用する場合、その合計の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.3質量部以下であることが好ましく、0.2質量部以下であることがより好ましい。
【0060】
<脂肪酸エステル(C)>
脂肪酸エステル(C)は脂肪族カルボン酸とアルコールとの縮合化合物である。
【0061】
脂肪酸エステル(C)を構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸が挙げられる。ここで、脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。脂肪族カルボン酸としては、炭素数6〜36のモノカルボン酸又はジカルボン酸が好ましく、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸及びアゼライン酸などが挙げられる。
【0062】
一方、上記アルコールとしては、飽和又は不飽和の、一価アルコール及び多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらのアルコールの中でも、炭素数30以下の一価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコール又は多価アルコールがさらに好ましい。ここで、脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0063】
上記アルコールとしては、例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0064】
上記脂肪酸エステル(C)としては、例えば蜜ロウ(ミリスチルパルミテートを主成分とする混合物)、硬化油、ブチルステアレート、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、ステアリルステアレート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0065】
中でも、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート等の脂肪酸モノグリセリドを用いることが好ましい。この場合、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する際、押出機内のバレル及びスクリュー表面と樹脂との摩擦を低下させ、加工時のポリカーボネート樹脂の温度上昇を防ぐことができるため、得られる成形品の色相を特に優れたものとするとともに黄変をより高度に抑制することができるようになる。
【0066】
上記脂肪酸エステル(C)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記脂肪酸エステル(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.03〜0.3質量部である。脂肪酸エステル(C)の含有量が0.03質量部未満である場合、得られる成形品の初期色相及び/又は耐熱黄変抑制効果が十分でない傾向がある。一方、脂肪酸エステル(C)の含有量が0.3質量部を超える場合は、得られる成形品の初期色相が劣る傾向がある。上記脂肪酸エステル(C)の含有量は、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.06〜0.3質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.3質量部である。
【0068】
<その他の成分>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、任意成分としてさらに酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、染顔料、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、充填剤等が配合されてもよい。
【0069】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば最終成形品を成形するまでの任意の段階で、各成分を一括又は分割して配合し、溶融混練する方法が挙げられる。各成分の配合方法としては、例えばタンブラー、ヘンシェルミキサー等を使用する方法、フィーダーにより定量的に押出機ホッパーに供給して混合する方法などが挙げられる。溶融混練の方法としては、例えば単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等を使用する方法などが挙げられる。
【0070】
[成形品]
本発明の成形品は、上述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
【0071】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法には特に制限はないが、例えば、射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法などが挙げられ、好ましくは射出成形法である。
【0072】
なお、成形時の樹脂の熱劣化を抑制し、
初期色相に優れたものを得るために、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際には、窒素等の不活性ガス雰囲気下で成形を行うことが好ましい。
【0073】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、初期色相に優れ、また、従来品に比べて、加熱条件下に長時間晒された場合の黄変の程度が非常に少ないものであるため、照明装置の導光部材、特に、デイライトの光源のみならず白熱灯から発生する熱によっても加熱条件下に晒される自動車用照明装置の導光部材として好適に用いることができ、その優れた初期色相、耐熱黄変抑制効果により、導光部材の光伝達効率を長期に亘り高く維持して、導光部材の交換頻度を大幅に低減することができる。
【0074】
[ΔYI]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱黄変抑制効果に優れることから、後掲の実施例の項に記載される方法に従って、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて射出成形することにより得られた300mm長光路成形品について測定した300mm長のYI値(YI
0)と、該300mm長光路成形品を120℃で1000時間熱エージング処理した後に測定した300mm長のYI値(YI
X)とから、下記式で算出されるΔYIが、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは13以下となり、加熱条件下に晒されても、その色相の低下を長期に亘り抑制することができる。
ΔYI=YI
X−YI
0
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例
、参考例及び比較例において用いた材料は次のとおりである。
【0077】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ユーピロン(登録商標)H−4000N」:界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量16,000)
【0078】
<リン系安定剤(B)>
<ホスファイト系安定剤(B−I)>
Properties&Characteristics社製「Doverphos S−9228」:ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
<ホスファイト系安定剤(B−II)>
ADEKA社製「アデカスタブAS2112」:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト
<その他のリン系熱安定剤>
ADEKA社製「アデカスタブPEP−36」:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト
【0079】
<脂肪酸エステル(C)>
理研ビタミン(株)製「リケマールS−100A」:ステアリン酸モノグリセリド
【0080】
<離型剤>
東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製「SH556」:メチルフェニルポリシロキサン
【0081】
[
参考例1〜3、実施例
4〜6及び比較例1,2]
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
表1に示す成分を表1に示す割合となるように配合し、タンブラーミキサーで均一に混合して混合物を得た。この混合物を、フルフライトスクリューとベントとを備えた単軸押出機(いすず化工機社製「VS−40」)に供給し、スクリュー回転数80rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度250℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押出した。押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0082】
<特性評価>
上記のようにして得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について、以下のようにして初期色相及び耐熱黄変抑制効果を調べた。
(1)初期色相
色相は、YI値を指標とし、次のようにして測定した。
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを120℃で4〜8時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100」)により、280℃の温度で300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、L/d=50)を得た。この成形品について、長光路分光透過色計(日本電色工業社製「ASA1」)を使用して300mm長のYI値を測定した。このYI値を初期色相「YI
0」とする。結果を表1に示す。
【0083】
(2)耐熱黄変抑制効果
黄変抑制効果は、熱エージングによるYI値の変化量であるΔYI値を指標とし、次のようにして測定した。
上記(1)における初期色相測定後の成形品を120℃に設定した熱風循環乾燥機に入れ、1000時間熱エージング処理を行った。その後、上記(1)初期色相と同様にして熱エージング処理後のYI値を測定した。このYI値を「YI
X」とし、下記式よりΔYIを求めた。結果を表1に示す。
ΔYI=YI
X−YI
0
【0084】
【表1】
【0085】
表1より次のとこが分かる。
比較例1は、特許文献2において使用されているスピロ骨格を有するホスファイト系安定剤PEP−36と離型剤とを用いたものであり、初期色相が高く、またΔYIが38.7と長時間加熱条件下に晒された場合の黄変の程度が非常に大きい。
比較例2は、特許文献2において、第1ホスファイト系安定剤として使用されているスピロ骨格を有するホスファイト系安定剤PEP−36と第2ホスファイト系安定剤として使用されている他のホスファイト系安定剤AS2112を併用したものであり、比較例1に比べて初期色相、耐熱黄変抑制効果は改善されているが、十分ではなく、特にΔYIは24.8と非常に大きい。
【0086】
これに対して、本発明に係るホスファイト系安定剤(B−I)であるホスファイト系安定剤S−9228を用いた
参考例1〜3、実施例
4〜6では、いずれもΔYIが16以下の優れた耐熱黄変抑制効果が得られている。
参考例1は、ホスファイト系安定剤S−9228の配合量が少ないため、若干初期色相が劣るものであるが、ホスファイト系安定剤S−9228の配合量を多くすることにより、
参考例2,3に示されるように初期色相も改善される。
また、ホスファイト系安定剤(B−II)であるホスファイト系安定剤AS2112を併用した実施例4〜6では、初期色相もΔYIも非常に優れた結果が得られる。
以上より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱黄変抑制効果、更には初期色相に優れたものであることが分かる。