特許第6303710号(P6303710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6303710リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303710
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20180326BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 B
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-69201(P2014-69201)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-191824(P2015-191824A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】樋上 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】久芳 完治
(72)【発明者】
【氏名】宇野 貴博
(72)【発明者】
【氏名】磯村 洵子
【審査官】 井原 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−034962(JP,A)
【文献】 特開2004−349253(JP,A)
【文献】 特開平11−195413(JP,A)
【文献】 特開2001−143698(JP,A)
【文献】 特開2000−090924(JP,A)
【文献】 特開2010−277989(JP,A)
【文献】 特開2013−041756(JP,A)
【文献】 特開2002−270157(JP,A)
【文献】 特開2010−282901(JP,A)
【文献】 特開2005−078999(JP,A)
【文献】 特開2011−175945(JP,A)
【文献】 Yunhua Xu, et al.,Uniform Nano-Sn/C Composite Anodes for Lithium Ion Batteries,NANO LETTERS,米国,2013年 1月 2日,13(2),pp.470-474
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩水溶液に還元剤を添加混合することにより、平均粒径が2〜50nmの金属ナノ粒子を還元析出させる工程と、
前記金属ナノ粒子に炭化物前駆体を加えて攪拌し、スラリーを調製した後、前記スラリーを乾燥して固形物を得る工程と、
前記固形物を不活性ガス雰囲気中で400〜800℃の温度で加熱処理して前記炭化物前駆体を炭化させる工程と、
前記加熱処理後の固形物を粉砕し、かつ粒径が50μmを超える粒子を除去することにより、前記金属ナノ粒子が炭素を主成分とする母材内に単分散した構造の平均粒径が2〜20μmであり、かつ粒径が50μmを超える複合粒子を含まない複合粒子を得る工程とを含み、
前記金属ナノ粒子がスズ(Sn)からなる金属ナノ粒子であるか、又はスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子であり、
前記炭化物前駆体がポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース又はポリエチレングリコールであるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
【請求項2】
前記スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子がスズ(Sn)合金からなる金属ナノ粒子である請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
【請求項3】
前記複合粒子100質量%に含まれる前記スズ(Sn)及びスズ(Sn)以外の他の金属の割合が50〜90質量%である請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
【請求項4】
前記スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子が、前記スズ(Sn)を50〜95質量%含み、前記スズ(Sn)以外の他の金属として銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれた1種を残部に含む請求項1ないし3いずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極活物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等のポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化等に伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされるようになってきた。現在、この要求に応える高容量二次電池として、正極材料にLiCoO2等の含リチウム複合酸化物を用い、負極活物質に炭素系材料を用いたリチウムイオン電池が商品化されている。この炭素系材料を負極に使用した場合、その理論容量は372mAh/gと金属リチウムの約1/10の容量しかなく、また理論密度が2.2g/ccと低く、実際に負極シートとした場合には、更に密度が低下する。そのため、体積当たりでより高容量な材料を負極として利用することが電池の高容量化の面から望まれている。
【0003】
一方、Al、Ge、Si、Sn、Zn、Pb等の金属又は半金属は、リチウムと合金化することが知られており、これらの金属又は半金属を負極活物質に用いた二次電池が検討されている。これらの材料は、高容量かつ高エネルギー密度であり、炭素系材料を用いた負極よりも多くのリチウムイオンを吸蔵、脱離できるため、これらの材料を使用することで高容量、高エネルギー密度な電池を作製することができると考えられている。例えば、純粋なスズは993mAh/gの高い理論容量を示すことが知られている。
【0004】
しかし、炭素系材料に比べて、サイクル特性等に劣るといった欠点もある。例えば、スズをそのままリチウムイオン二次電池の負極活物質に用いると、充放電に伴う大きな体積変化により微粉化することで、集電板から剥離したり、また、導電助剤との接触や導通が失われ、電極内に電荷の受け渡しができない領域を生じさせることがある。また、Sn等の負極活物質は、その表面において、抵抗成分を生成する電解液の還元分解を起こしやすく、電池電圧の低下を引き起こすこともある。そのため、Sn等の負極活物質では、十分なサイクル特性を得ることができないという問題が生じる。
【0005】
このような問題を解消するため、これまでにも様々な技術、研究がなされているが、例えばCu、Fe、Ni、Ti、Nb、Zn、In及びSnからなる群より選ばれた少なくとも一つの金属と、N、O、P及びSの少なくとも一つと、非晶質炭素とを含む金属炭素複合マトリックスと、この金属炭素複合マトリックスに分散されるSiナノ粒子から構成された、Si−金属−炭素複合体からなる非水電解質二次電池用負極活物質が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−222534号公報(請求項1、段落[0010]、段落[0023])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、上記従来の特許文献1では、この負極活物質は、金属を含有させて電気抵抗を下げた金属炭素複合マトリックスを作製し、その金属炭素複合マトリックスにSiナノ粒子を分散させることによって出力特性が向上するとされているものの、Siナノ粒子を上記マトリックス中に凝集することなく単分散させることは困難である。そのため、一部のSiナノ粒子が凝集して上記マトリックス中で粗大粉が生成することにより、Siナノ粒子の持つ高いサイクル特性を十分に発揮しきれないという問題等があった。
【0008】
本発明の目的は、高容量でサイクル特性及び出力特性に優れた長寿命のリチウムイオン二次電池を製造できる負極活物質の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第の観点は、金属塩水溶液に還元剤を添加混合することにより、平均粒径が2〜50nmの金属ナノ粒子を還元析出させる工程と、前記金属ナノ粒子に炭化物前駆体を加えて攪拌し、スラリーを調製した後、前記スラリーを乾燥して固形物を得る工程と、前記固形物を不活性ガス雰囲気中で400〜800℃の温度で加熱処理して前記炭化物前駆体を炭化させる工程と、前記加熱処理後の固形物を粉砕し、かつ粒径が50μmを超える粒子を除去することにより、前記金属ナノ粒子が炭素を主成分とする母材内に単分散した構造の平均粒径が2〜20μmであり、かつ粒径が50μmを超える複合粒子を含まない複合粒子を得る工程とを含み、前記金属ナノ粒子がスズ(Sn)からなる金属ナノ粒子であるか、又はスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子であり、前記炭化物前駆体がポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース又はポリエチレングリコールであるリチウムイオン二次電池用負極活物質の製造方法である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子がスズ(Sn)合金からなる金属ナノ粒子であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に複合粒子100質量%に含まれるスズ(Sn)及びスズ(Sn)以外の他の金属の割合が50〜90質量%であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更にスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子が、スズ(Sn)を50〜95質量%含み、スズ(Sn)以外の他の金属として銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれた1種を残部に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の方法で製造された負極活物質は、金属ナノ粒子が炭素を主成分とする母材内に単分散した構造の複合粒子からなる。そして、金属ナノ粒子は、平均粒径が2〜50nmのスズ(Sn)からなる金属ナノ粒子であるか、又はスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子であり、複合粒子の平均粒径が2〜20μmであり、かつ粒径が50μmを超える複合粒子を含まない。このように、本発明の負極活物質は、金属ナノ粒子が炭素を主成分とする母材、即ち炭化物マトリクスに内包される構造になっていることから、充放電時の体積膨張・収縮による応力が生じても、母材である炭化物マトリクスで保護されるため、金属ナノ粒子にかかる上記応力が緩和され、割れの発生等が抑制される。また、母材内に単分散する金属ナノ粒子自体も、平均粒径が所望の範囲に制御された極めて微細な粒子であることから、充放電時の体積膨張・収縮による応力に対して高い耐性が得られる。一方、金属ナノ粒子と導電助剤等との電気的な接触は、炭化物マトリクスを介して良好に保たれるので、良好な導通が確保される。これにより、本発明の負極活物質では、スズ(Sn)本来の性能を引き出すことができ、サイクル特性及び出力特性に優れ、寿命が長く、かつ容量が高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
また本発明の第1の観点の負極活物質の製造方法では、高容量で、サイクル特性等に優れたリチウムイオン二次電池の製造に用いられる負極活物質を、湿式法という簡便な方法により製造できる。そのため、イニシャルコストが多大に掛かる特殊な装置等が不要であり、生産コストを大幅に抑えることができる。
【0015】
本発明の第2の観点の負極活物質は、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子がスズ(Sn)合金からなることにより、充放電時の体積膨張・収縮により金属ナノ粒子にかかる応力がより緩和される。
【0016】
本発明の第3の観点の負極活物質は、複合粒子中に含まれるスズ(Sn)等の金属の割合が所望の範囲に制御されるので、最低限の金属使用量で黒鉛材料の372mAh/gを上回る放電容量を達成できるとともに、母材内で金属ナノ粒子同士が接触することなく単分散した状態を保つことができ、サイクル特性を向上させる効果を高めることができる。
【0017】
本発明の第4の観点の負極活物質は、金属ナノ粒子がスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子である場合に、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を所望の比率で含む。スズ(Sn)以外の他の金属は、リチウム(Li)に対して不活性であることから膨張、収縮が起こらなかったり、或いはリチウム(Li)と反応してもスズ(Sn)より反応関与原子数が少ないため、膨張、収縮が起きてもその程度が小さい。そのため、スズ(Sn)以外の他の金属を含むことでナノ粒子が割れづらく、電池サイクル特性が向上する効果を得られる。一方、スズ(Sn)の割合が低下すると、金属ナノ粒子の放電容量が減少する。そのため、黒鉛材料と比較して十分に大きな放電容量の複合粒子を得るには、金属ナノ粒子中のスズ(Sn)以外の他の金属の比率は最大で50質量%とするのが好ましく、また50質量%程度とする場合は、複合粒子における金属ナノ粒子の割合を、例えば80質量%以上とすることでスズ(Sn)量の低減を補うのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の負極活物質を構成する複合粒子の断面を表した模式図である。
図2】本発明の負極活物質を構成する金属ナノ粒子の断面を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極活物質は、金属ナノ粒子が、炭素を主成分とする母材内に単分散した構造の複合粒子からなる。即ち、この複合粒子は、図1に示すように、複数の金属ナノ粒子11が炭素を主成分とする母材12、即ち炭化物マトリクスに単分散した状態で内包された構造になっている。このため、充放電時の体積膨張・収縮による応力が生じても、各金属ナノ粒子11の外周のほぼ全面が炭化物マトリクスによって完全に保護されているため、その保護作用によって金属ナノ粒子11にかかる上記応力が緩和される。そのため、充放電を繰り返しても割れが生じにくく、リチウムイオン二次電池のサイクル特性等を向上させることができる。また、例えば、個々の金属ナノ粒子がそれぞれ炭化物マトリクスによって被覆された構造のものに比べて、複合粒子中の金属比率が高まり複合粒子の重量あたりの放電容量を大きくすることができる。また、複合粒子の大きさを電極塗工性に優れる2〜20μmの大きさにすることができる。なお、本明細書中、単分散とは、母材12内の複数の金属ナノ粒子11が互いに接することなく存在している状態をいう。
【0022】
金属ナノ粒子11を内包する母材12は、ポリアクリル酸等の炭化物前駆体を加熱処理して炭化させたものから構成される。母材12の形成に用いられる炭化物前駆体としては、ポリアクリル酸以外に、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース又はポリエチレングリコール等が挙げられる。金属ナノ粒子11の外面がこれらの母材12によって保護されることで上記応力が緩和される一方、良好な導通が確保されるのは、母材が炭素を主成分とした炭化物マトリクスで構成され、導電助剤等との電気的な接触が、この炭化物マトリクスを介して得られるからである。
【0023】
また、母材12内に単分散する金属ナノ粒子11自体が、平均粒径が2〜50nmの範囲の極めて微細な粒径に制御されているため、充放電時の体積膨張・収縮による応力に対して高い耐性が得られる。ここで、金属ナノ粒子11の平均粒径を上記範囲に限定したのは、下限値未満では、製造過程で粒子の凝集が起こり、50nmを超える凝集金属粒子となってしまうからである。一方、上限値を超えると、粒径が大きくなるため、微細化による耐性の向上効果が得られず、充放電時に割れ等が生じ、サイクル特性等が低下するからである。このうち、金属ナノ粒子11の平均粒径は4〜15nmの範囲であることが好ましい。なお、金属ナノ粒子11の平均粒径とは、透過型電子顕微鏡装置(日本電子株式会社製 型式名:JEM−2010F)を用いて目測した値であり、任意の視野から任意に選んだ20サンプルの直径を平均した値である。金属ナノ粒子の平均粒径は、後述の製造方法において、調製する金属塩水溶液中の金属イオン濃度や、使用する分散剤の種類及びその添加量、使用する還元剤水溶液の種類及びその濃度、還元剤水溶液の添加速度等の各種条件の調整により、制御することができる。例えばスズ塩水溶液中のスズイオン濃度が低い場合、分散剤にポリアクリル酸でなく、ポリビニルピロリドンを選択した場合、分散剤の濃度が高い場合、還元剤に2価クロム(Cr(II))ではなく、水素化ホウ素ナトリウムを選択した場合、還元剤水溶液の濃度が高い場合、還元剤水溶液の金属塩水溶液への投入速度が速い場合等には、生成する金属ナノ粒子の粒径は小さくなる傾向にあり、一方、これらの条件と反対の条件を選択すると、粒径は大きくなる傾向にある。
【0024】
母材12内に単分散する金属ナノ粒子11は、図2(a)に示すスズ(Sn)からなる金属ナノ粒子11か、或いは後述の図2(b)〜図2(g)に例示されるスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子11である。スズ(Sn)以外の他の金属としては、銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)及びニッケル(Ni)からなる群より選ばれた1種が挙げられる。
【0025】
スズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子11の場合、スズ(Sn)を50〜95質量%含み、スズ(Sn)以外の上記他の金属を残部に含む割合とするのが好ましい。スズ(Sn)以外の上記他の金属を所望の割合で含むことにより、容量維持率を向上させる効果が得られる。スズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子11において、スズ(Sn)の割合を上記範囲とするのが好ましい理由は、下限値未満では、高容量材料としてのスズ(Sn)の特徴が十分に生かせず、電池容量を低下させる場合があるからである。一方、上限値を超えると、合金化による上記効果が十分に得られない場合があるからである。
【0026】
スズ(Sn)以外の他の金属を含む金属ナノ粒子11の形態としては、例えば図2(b)〜図2(g)に示す構造を有するものが挙げられる。なお、図2(b)〜図2(g)において、Xはスズ(Sn)以外の他の金属を示す。図2(b)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属Xとの合金からなる金属ナノ粒子11である。図2(c)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)を中心に配置し、スズ(Sn)の外面に他の金属Xが偏在する2層構造の金属ナノ粒子である。図2(d)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)を中心に配置し、スズ(Sn)の外面にスズ(Sn)と他の金属Xとの合金が偏在する2層構造の金属ナノ粒子である。図2(e)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)を中心に配置し、スズ(Sn)の外面にスズ(Sn)と他の金属Xとの合金が偏在し、更にその外面に他の金属Xが偏在する3層構造の金属ナノ粒子である。図2(f)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)以外の他の金属Xを中心に配置し、該金属Xの外面にスズ(Sn)と他の金属Xとの合金が偏在し、更にその外面にスズ(Sn)が偏在する3層構造の金属ナノ粒子である。図2(g)に示す金属ナノ粒子11は、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属Xが原子レベルで無秩序に混合したアモルファスの金属ナノ粒子である。なお、上記偏在とは、例えばスズ(Sn)外面をスズ(Sn)以外の他の金属Xが完全に被覆する構造のみならず、スズ(Sn)外面を部分的に被覆する構造等も含まれる。
【0027】
負極活物質を構成する複合粒子10の平均粒径は2〜20μmであり、かつ粒径が50μmを超える複合粒子10を含まない。複合粒子10の平均粒径を上記範囲に限定したのは、複合粒子10の平均粒径が下限値未満では、湿式法による塗布に適したスラリー調製が困難になる場合があり、一方、上限値を超えると、母材12に内包される金属ナノ粒子11の全量が活物質として機能できずに容量が低下する場合があるからである。このうち、複合粒子10の平均粒径は5〜15μmの範囲であることが好ましい。また、粒径が50μmを超える粒子を含まないものとした理由は、50μmを上回る粒子があると、電極作製時のスラリーの塗布工程や圧延工程において、塗布の均一性が著しく低下したり、電極シートが切れる等のトラブルが発生する確率が高くなるからである。なお、複合粒子10の平均粒径とは、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−950)を用いて測定した体積基準の平均粒径D50をいう。
【0028】
複合粒子10、100質量%に含まれるスズ(Sn)及びスズ(Sn)以外の他の金属の割合が50〜90質量%であることが好ましい。複合粒子10に占めるSn等の割合が下限値未満では、炭素系材料等に代わる高容量材料としての性能を十分に引き出せない場合があり、一方、上限値を超えると、金属ナノ粒子11を内包する炭素成分等が不足し、母材12内に単分散する構造の複合粒子10が得られにくくなるからである。このうち、電池特性、特に後述の初回放電容量、不可逆容量を向上させるのに好適であることから、複合粒子10、100質量%に含まれるスズ(Sn)及びスズ(Sn)以外の他の金属の割合は、65〜85質量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
また、負極活物質は、ポリアクリル酸、水溶性セルロース及びポリビニルピロリドン(PVP)からなる群より選ばれた少なくとも1種の高分子材料を被覆材として更に含むことが好適である。上記種類の高分子材料を含ませることで、該高分子材料が複合粒子10を覆うことになり、膨張収縮抑制効果が増強し、サイクル特性を向上させることができる。更に、負極活物質には、カーボンナノファイバー(CNF)からなる導電性助剤を添加することが好適である。この導電性助剤を添加することで、導電性助剤が複合粒子10を覆うことになり、負極全体に網目状に導電性パスを形成することができるので、サイクル特性を更に向上させることができる。
【0030】
次に、上記複合粒子の製造方法について説明する。先ず、スズイオン等を含む金属塩水溶液と還元剤水溶液を調製する。そして、上記金属塩水溶液に還元剤水溶液を添加、混合することにより、この混合液中でスズイオン等の金属イオンの還元反応を進行させる。
【0031】
金属塩水溶液の調製は、イオン交換水等の溶媒に、分散剤と、塩化スズ(II)・2水和物等のスズ塩等の金属塩を添加、混合して、溶解させることにより行う。好適なスズ塩としては、塩化スズ(II)・2水和物以外に、硫酸スズ(II)や塩化スズ(IV)等が挙げられる。
【0032】
金属ナノ粒子を、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む粒子とする場合であって、これらの合金からなる粒子とする場合は、スズ塩とともに、他の金属塩を溶媒に添加、混合して溶解させる。但し、スズ塩に塩化物を用いる場合であって、スズ(Sn)以外の他の金属が銀(Ag)である場合は、スズイオンを含むスズ塩溶液の調製とは別に、銀イオン含む金属塩水溶液を調製する。銀塩をスズ塩とともに同じ溶媒中に溶解させると、塩化銀(AgCl)の沈殿物が生成し所望の金属ナノ粒子を合成することができなくなるためである。スズ塩以外の他の金属塩としては、硝酸銀(I)、塩化コバルト(II)、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、塩化ニッケル(II)等が挙げられる。
【0033】
分散剤の種類は特に限定されないが、上述の理由から、ポリアクリル酸、水溶性セルロース及びポリビニルピロリドン(PVP)から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。スズ(Sn)以外の他の金属が銀(Ag)以外である場合は、金属塩水溶液を調整する際の各金属塩の配合割合は、得られる金属ナノ粒子中のスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属が上述の所定の割合で含まれるように調整する。また、スズ(Sn)以外の他の金属が銀(Ag)である場合は、得られる金属ナノ粒子中のスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属が上述の所定の割合で含まれるように、スズ塩水溶液と銀イオンを含む金属塩水溶液の濃度や、これらの水溶液の混合割合を調整する。なお、金属塩水溶液は、金属の水酸化物や酸化物の沈殿生成を防止する理由から、pHを1〜2の範囲に調整しておくことが好ましい。
【0034】
還元剤水溶液の調製に用いられる還元剤としては、特に限定されないが、2価クロム(Cr(II))、2価チタン(Ti(II))、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、水素化ホウ素カリウム(KBH4)又はヒドラジン(N24)等が挙げられ、これらの還元剤をイオン交換水等に溶解させることにより調製される。還元剤水溶液は、金属ナノ粒子を生成するのに必要な強い還元力を実現するために、アンモニア、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等を添加することによって、pHを9〜11の範囲に調整しておくことが望ましい。
【0035】
そして、金属塩水溶液に、還元剤水溶液を添加、混合することにより、混合液を調製し、スズイオン等の金属イオンの還元反応を十分に進行させるため、上記調製した混合液を、所定の条件で撹拌保持する。なお、銀イオンを含む金属塩水溶液は、還元剤水溶液を添加する直前にスズ塩溶液と混合する。撹拌保持する際の混合液の温度は10〜50℃に制御することが好ましい。ここで、混合液の温度を上記範囲とするのは、下限値未満では、還元反応速度が遅くなったり、核生成密度が小さくなったり、粒径が大きくなる等の不具合が生じる場合があるからである。また、冷却装置の導入にコストが掛かる等の問題も生じる。一方、上限値を超えると、生成した金属ナノ粒子の熱運動が激しくなり、凝集体を形成しやすくなったり、発泡が激しくなったりする場合があるからである。このうち、混合液の温度は15〜25℃に制御するのが好ましい。
【0036】
また、混合液の処理時間は、2〜30分間とし、撹拌速度は、好ましくは0.05〜0.5m/秒とするのが好ましい。上記混合液の処理時間は、混合液の撹拌保持時間をいう。撹拌保持時間が下限値未満では、還元反応が未完了でナノ粒子の回収率が低下する場合がある。一方、上限値を超えると製造効率を低下させる等の不具合が生じる場合がある。また、混合液の撹拌速度を上記範囲とするのが好ましい理由は、下限値未満では溶液の混合が不十分となり、所望の金属ナノ粒子を再現性良く得るのが困難となる場合があり、一方、上限値を超えると、スケールアップ時の実現性に困難を伴う等の不具合が生じる場合があるからである。このうち、混合液の処理時間は5〜20分間とするのが好ましく、撹拌速度は0.1〜0.3m/秒とするのが特に好ましい。なお、撹拌速度とは、撹拌羽根の回転により混合液が流動したときの混合液の平均流速をいう。
【0037】
次いで、還元反応によって析出した金属が分散する分散液を静置し、上澄み液を取り除く。続いて、金属ナノ粒子の沈降物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄、静置沈降及び上澄み液除去の操作を複数回以上繰り返すことにより、余剰の還元剤や塩等の雑物を除去する。以上の工程により、複合粒子を構成する所望の金属ナノ粒子が得られる。
【0038】
なお、金属ナノ粒子を、スズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属を含む粒子とする場合であって、図2(c)に示すスズ(Sn)を中心に配置し、スズ(Sn)外面に他の金属Xが偏在する2層構造の金属ナノ粒子とする場合は、先ず、上述の金属塩水溶液を調製する際に、スズ塩以外の他の金属塩を添加せずにスズ塩水溶液を調製する。これに上記還元剤水溶液を添加してスズ(Sn)単体のナノ粒子を還元析出させた直後に、別途調製したスズ塩以外の他の金属塩水溶液を添加混合して、スズ(Sn)粒子の外面に他の金属Xを偏析させる。なお、スズ(Sn)以外の他の金属Xの種類によっては、金属塩水溶液の還元されやすさの程度により、スズイオンと他の金属イオンを共存させた金属塩水溶液に還元剤水溶液を添加しても、中心にスズ(Sn)を中心に配置し、その外面に他の金属Xが偏在する構造となる場合もある。また、図2(d)に示す外面にスズと他の金属Xとの合金が偏在する2層構造の金属ナノ粒子とする場合は、上記のスズ(Sn)単体のナノ粒子を製造した後、スズイオンと他の金属イオンの還元電位が等しくなる濃度に調製したスズ塩及び他の金属塩を含む金属塩水溶液を添加混合することにより、スズ(Sn)と他の金属Xとの合金を外面に偏在させる。また、これらの手法を応用することで、図2(e)、図2(f)に示される3層構造の金属ナノ粒子を得ることができる。また、図2(g)に示すスズ(Sn)とスズ(Sn)以外の他の金属Xが原子レベルで無秩序に混合したアモルファスの金属ナノ粒子とする場合は、金属イオンに対して大過剰の還元剤水溶液を投入することで製造することができる。
【0039】
次に、上記得られた洗浄後の沈殿物(金属ナノ粒子)に、炭化物前駆体を加えて十分に撹拌してスラリーを調製する。炭化物前駆体としては、上述のポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース又はポリエチレングリコール等が挙げられる。スラリーを調製する際の撹拌は、金属ナノ粒子をほぼ完全に単分散した状態とするため、混練機等を用いて十分に行う必要がある。次に、調製したスラリーを、良好な分散状態を保ちながら、好ましくは50〜150℃の温度で5〜48時間乾燥することにより固形物を得る。ここで、後述の加熱処理の前に所定の条件で乾燥を行うのは、乾燥を行わずに、加熱処理を行うと、母材である炭化物マトリクス内に金属ナノ粒子を単一分散させることができない場合があるからである。また、乾燥温度、乾燥時間を上記範囲とするのが好ましい理由は、乾燥温度又は乾燥時間が下限値未満では、実質的に加熱処理前の乾燥工程が行われたことにならず、上記不具合が生じる場合があるからである。一方、上限値を超えても大きな影響はないが、必要以上の加熱や長時間の処理はコストが高くなるだけで利点がないからである。
【0040】
そして、上記乾燥した後の固形物を、窒素等の不活性ガス雰囲気中で400〜800℃の温度で、好ましくは12〜72時間加熱処理することにより炭化物前駆体を炭化させる。これにより、炭素を主成分とする母材内にスズ(Sn)等からなる金属ナノ粒子が単分散する固形物が得られる。加熱処理を不活性ガス雰囲気中で行うのは、金属成分の酸化を防止するためである。また、加熱処理の際の温度を上記範囲とする理由は、加熱処理の際の温度が下限値未満では、炭化物前駆体が十分に炭化せず、一方、上限値を超えると母材に内包される金属ナノ粒子が単分散した状態を保つことができず、金属ナノ粒子同士の焼結が起こり、所望の平均粒径を有する金属ナノ粒子を内包する複合粒子が得られなくなるからである。このうち、加熱処理は、500〜750℃の温度で行うのが好ましい。加熱処理した後は、複合粒子の平均粒径が上述の所望の範囲になるように、粉砕機等を用いて上記固形物を粉砕する。このとき、粉砕機の粉砕ローター、カッターの回転速度又は処理時間等を調製することにより、複合粒子の平均粒径を所望の範囲に制御することができる。粉砕後は、篩等を用いて、粒径が50μmを超える粒子を除去する。
【0041】
続いて、上記本発明の負極活物質を用いて、リチウムイオン二次電池を製造する方法について説明する。具体的には、先ず、上記負極活物質と導電助剤と結着剤とを所定の割合で混合した後、この混合物に所定の割合(例えば、負極活物質、導電助剤及び結着剤の合計量100質量%に対して35〜60質量%)で溶媒を混合して混練機等を用いて混練することにより、負極用組成物のスラリーを調製する。使用する混練機については特に限定されないが、例えば、あわとり練太郎(シンキー社製のミキサ)のように自転と公転の2つの遠心力で撹拌と脱泡の同時処理を行い、各粉末を剪断せずにスラリー中に均一に分散させる撹拌器等が挙げられる。また、シェイカーミル、ホモジナイザ、プラネタリーミキサ等を用いてもよい。次に上記負極用組成物のスラリーを負極集電体上に、ドクターブレード法等の手法により塗布した後に乾燥して負極を作製する。
【0042】
負極の作製に使用する導電助剤、結着剤、溶媒及び負極集電体は、特に限定されるものではなく、従来より一般的に用いられるものを使用することができる。例えば、導電助剤としてはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、VGCF或いは銅やチタン等のリチウムと合金化し難い金属粉末等が挙げられる。そして導電助剤は、複合粒子の外面に網目状に付着するように構成される。また、結着剤としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。溶媒としてはN−メチルピロリドン、水等が挙げられる。負極集電体としては銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔等が挙げられる。
【0043】
このようして得られた負極を用いて性能評価試験用の半電池を作製する。リチウム金属箔を所定の寸法に切断することにより、対極が得られる。
【0044】
次に、負極集電体上に負極活物質層を形成して得られた負極と、セパレータと、リチウム金属箔からなる対極とを対極と負極の活物質面をそれぞれ対向させた状態で積層し、積層体を形成する。セパレータは合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルム等から形成される。
【0045】
そして、上記積層体の対極側裏面及び負極側裏面にそれぞれメッシュ材の一端を接続し、袋状に作製したアルミラミネート材にメッシュ材の他端がはみ出るように積層体を装填する。次に、ラミネート材の開口部から非水電解液を加え、真空引きしながら、ラミネート材の開口部を熱融着させることより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0046】
正極側裏面に接続したメッシュ材、及び負極側裏面に接続したメッシュ材は、ともにニッケルメッシュ材が使用される。
【0047】
また、非水電解液には、非水溶媒に電解質を溶解させた溶媒が使用される。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン等の鎖状エーテルや、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル、クラウンエーテル、γ−ブチロラクトン等の脂肪酸エステル、アセトニトリル等の窒素化合物、スルホラン、ジメチルスルホキシド等の硫化物等が例示される。上記非水電解液は単独で使用しても、2種以上混合した混合溶媒として使用してもよい。電解質としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルフォニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]等のリチウム塩が例示される。
【0048】
このように製造された半電池では、負極活物質が上述の複合粒子から構成されるため、充放電時において、負極活物質の体積膨張・収縮による応力が緩和されるとともに導電性を確保できる。なお、この実施の形態では、半電池について記載したが、この半電池に正極を積層したリチウムイオン二次電池でも上記と同様の効果が得られる。
【0049】
この結果、スズ(Sn)がリチウムと効率良く反応するというスズ(Sn)本来の性能を引き出すことができるので、このリチウムイオン二次電池は、サイクル特性及び出力特性に優れ、寿命が長くなり、かつ容量が高くなる。また、負極活物質にカーボンナノファイバー(CNF)からなる導電性助剤を添加すると、この導電性助剤が粒子を覆うことになり、負極全体に網目状に導電性パスを形成することができるので、活物質当りの初回放電容量及びサイクル特性を更に向上させることができる。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0051】
<実施例1>
先ず、イオン交換水500gに塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)18.9gを加えて撹拌溶解し、更に5.0gのポリビニルピロリドン(分散剤)を加え、撹拌溶解して金属塩水溶液(スズ塩水溶液)を調製した。金属塩水溶液は、35質量%濃度の塩酸を加えることにより、pHを1.5に調整した。また、500gのイオン交換水に4.0gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を撹拌溶解して還元剤水溶液を調製した。還元剤水溶液は、28質量%濃度のアンモニア水を加えることにより、pHを9.5に調整した。
【0052】
次に、上記金属塩水溶液を撹拌しながら上記還元剤水溶液を添加し、撹拌速度0.2m/秒、温度20℃の条件で10分間撹拌保持して金属スズ(Sn)を還元析出させることにより、スズ(Sn)からなる金属ナノ粒子の分散液を得た。その後、この分散液を静置して金属ナノ粒子を沈降させて上澄み液を取り除いた。続いて、金属ナノ粒子の沈降物にイオン交換水を加えて撹拌洗浄、静置沈降及び上澄み液除去の操作を3回以上繰り返すことにより、余剰の還元剤や塩等の雑物を除去した。
【0053】
次いで、洗浄後の上記沈殿物に、炭化物前駆体としてポリアクリル酸10gを加え、撹拌してスラリーを調製し、金属ナノ粒子が良好に分散した状態を保ちながら100℃の温度で10時間乾燥した。これにより、塊状のポリアクリル酸内部に金属ナノ粒子が単分散する固形物を得た。更に、上記固形物を窒素雰囲気中、600℃の温度で24時間の加熱処理してポリアクリル酸を炭化させることにより、炭素を主成分とする母材内にスズ(Sn)からなる金属ナノ粒子が単分散する、加熱処理後の固形物を得た。最後に、これを小型粉砕機フォースミル(型式名:FM−1)を用いて粉砕処理し、目開き50μmの篩に通して、粒径50μmを超える粒子を除去することにより、以下の表1に示す、スズ(Sn)からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0054】
<実施例2〜5、比較例1,2>
金属塩水溶液中に含まれるSnイオンの濃度、金属塩水溶液を調製する際の分散剤の種類又は添加量、還元剤の種類又は濃度、或いは還元剤水溶液の添加速度を調整することにより、金属ナノ粒子の平均粒径を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、以下の表1に示す、スズ(Sn)からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0055】
<実施例6,7、比較例3,4>
加熱処理後の固形物を粉砕処理する際、粉砕機の粉砕ローター、カッターの回転速度又は処理時間を調整することにより、平均粒径を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、以下の表1に示す、スズ(Sn)からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0056】
<実施例8〜11>
炭化物前駆体の種類又は添加量を変更することにより、複合粒子100質量%に含まれる金属(Sn)の割合を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、以下の表1に示す、スズ(Sn)からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0057】
<実施例12>
イオン交換水500gに、塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)18.9g以外に塩化コバルト(II)6水和物(CoCl2・6H2O)10.1gを加えて撹拌溶解し、金属塩水溶液(スズ塩及びコバルト塩水溶液)を調製したこと、及び500gのイオン交換水に6.0gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を撹拌溶解して還元剤水溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、以下の表2に示す、スズ(Sn)とコバルト(Co)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0058】
<実施例13>
先ず、イオン交換水250gに、塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)18.9gを加えて攪拌溶解し、更に2.5gのポリビニルピロリドン(分散剤)を加え、攪拌溶解して金属塩水溶液A(スズ塩水溶液)を調製した。また、イオン交換水250gに、硝酸銀(I)(AgNO3)3.94gを加えて攪拌溶解し、更に2.5gのポリビニルピロリドン(分散剤)を加え、攪拌溶解して金属塩水溶液B(Ag塩水溶液)を調製した。金属塩水溶液Bは、96%硝酸を加えることにより、pHを1.5に調整した。また、500gのイオン交換水に4.5gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を撹拌溶解して還元剤水溶液を調製した。
【0059】
次に、金属塩水溶液Aと金属塩水溶液Bを混合攪拌後、速やかに上記還元液水溶液を添加し、撹拌速度0.2m/秒、温度20℃の条件で10分間撹拌保持して金属スズ(Sn)及び金属銀(Ag)を還元析出させることにより、スズ(Sn)と銀(Ag)の合金からなる金属ナノ粒子の分散液を得た。その後、実施例1と同様の工程を経ることにより、以下の表1に示す、スズ(Sn)と銀(Ag)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0060】
<実施例14>
イオン交換水500gに、塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)18.9g以外に塩化銅(II)2水和物(CuCl2・2H2O)6.7gを加えて撹拌溶解し、金属塩水溶液(スズ塩及び銅塩水溶液)を調製したこと、及び500gのイオン交換水に5.8gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を撹拌溶解して還元剤水溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、以下の表2に示す、スズ(Sn)と銅(Cu)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0061】
<実施例15>
イオン交換水500gに、塩化スズ(II)2水和物(SnCl2・2H2O)18.9g以外に塩化ニッケル(II)6水和物(NiCl2・6H2O)10.1gを加えて撹拌溶解し、金属塩水溶液(スズ塩及びニッケル塩水溶液)を調製したこと、及び500gのイオン交換水に6.0gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を撹拌溶解して還元剤水溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、以下の表2に示す、スズ(Sn)とニッケル(Ni)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0062】
<実施例16,17>
金属塩水溶液B(Ag塩水溶液)を調整する際の硝酸銀(I)(AgNO3)の添加量を変更したこと、及び還元剤水溶液である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4))の添加量を変更したこと以外は、実施例13と同様にして、以下の表2に示す、スズ(Sn)と銀(Ag)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0063】
<実施例18,19、比較例5,6>
固形物を加熱処理する際の温度を変更したこと以外は、実施例12と同様にして、以下の表2に示す、スズ(Sn)とコバルト(Co)の合金からなる金属ナノ粒子が母材内に単分散した構造の複合粒子を得た。
【0064】
<比較例7>
篩を用いて、粒径50μmを超える粒子の除去を行わなかったこと以外は、実施例12と同様にして、以下の表2に示す、粒子スズ(Sn)とコバルト(Co)の合金からなる金属ナノ粒子構造の複合粒子を得た。
【0065】
<比較試験及び評価>
実施例1〜20及び比較例1〜6で得られた負極活物質等について、次の(i)〜(v)の評価を行った。これらの結果を次の表1、表2に示す。
【0066】
(i) 金属ナノ粒子の組成:洗浄後の沈殿物(金属ナノ粒子)についてICP定量分析を行い、金属ナノ粒子中のスズ(Sn)と、スズ(Sn)以外の銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)又はニッケル(Ni)の割合(質量%)を測定した。なお、表1、表2に示す割合には、これらの金属以外の不可避成分等を除いた値である。
【0067】
(ii) 金属ナノ粒子の平均粒径:複合粒子の断面を透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 型式名:JEM−2010F)により観察し、任意に選択した20個の粒子の粒径(直径)を測定し、これらの平均値を求めた。
【0068】
(iii) 複合粒子中の金属の割合:ICP定量分析を行い、複合粒子中のスズ(Sn)と、スズ(Sn)以外の銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)又はニッケル(Ni)の割合(質量%)を測定し、これを合算したものを金属の割合とした。また、HORIBA社製のEMIA−810Wを用いた燃焼−赤外線吸収法により、複合粒子100質量%中に占める炭素の割合を測定し、残部を複合粒子中の金属の割合として扱っても、上記ICP定量分析による結果と整合が得られることを確認した。なお、表1、表2に示す割合には、これらの金属以外の不可避成分等を除いた値である。
【0069】
(iv) 複合粒子の平均粒径:粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−950)により、体積基準の平均粒径を測定した。
【0070】
(v) 電池性能:先ず、実施例1〜20及び比較例1〜6で得られた負極活物質を用い、負極活物質粉末を導電助剤、結着剤、溶媒と混合しスラリーをそれぞれ調製した。具体的には、合成した負極活物質粉末4g、アセチレンブラック0.5g、カーボンナノファイバー0.08g、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)0.5g及びn−メチルピロリジノン(NMP)1.5gを混練機を用いて混練することにより、スラリーを作製した。混練機にはあわとり練太郎(シンキー社製のミキサ)を用いた。
【0071】
次に、得られたスラリーをドクターブレードを用いて銅箔上に活物質密度が5mg/cm2となるように塗布し、乾燥、圧延し、幅3cm長さ3cmに切断することで負極電極を作製した。上記作製した負極を用いて半電池を組み、充放電サイクル試験を行った。対極及び参照極にはリチウム金属を用い、電解液には、炭酸エチレン(EC)と炭酸ジエチル(DEC)を1:1の割合(体積比)で混合した溶媒に1M濃度で六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解したものを用いた。充電は電圧が5mVとなるまで0.5mA/cm2の定電流条件で実施し、その後、電流が0.01mA/cm2になるまで5mVの定電圧条件で実施した。
【0072】
放電は電圧が1Vになるまで0.5mA/cm2の定電流条件で実施した。充電と放電を各1回実施した状態を1サイクルとし、100サイクルまでの充放電試験を行い、初回放電容量、初回効率、容量維持率及び不可逆容量を計測することにより、電極性能の評価を実施した。得られた評価結果を次の表1、表2に示す。
【0073】
なお、初回放電容量は、1サイクル目における、活物質質量(1g)あたりの放電容量をいい、数値が大きい程、高性能であることを示す。400mAh/g以上であれば、黒鉛材料を用いた際の理論値を上回る高い電池性能が得られたと評価でき、500mAh/g以上であれば、リチウム(Li)と比較的高い電位で反応するSn系材料を用いた電池として、十分に高い性能が得られたと評価できる。
【0074】
また、初回効率は、1サイクル目の充電容量に対する放電容量の割合をいい、数値が大きい程、高性能であることを示す。初回効率が80%未満では、正極電極板と組み合わせたときの電池性能を十分に発揮させるために、リチウムドーピング等の特殊な処理が必要になることから望ましくなく、85%以上であれば、特に高い電池性能が得られたと評価できる。
【0075】
また、容量維持率は、100サイクル目までに計測された放電容量の最大値に対する100サイクル目の放電容量の割合(容量維持率)をいい、数値が大きい程、高性能であることを示す。容量維持率は、使用する負極活物質のみに依存するものではなく、結着剤や導電助剤の種類又は配合量、電解液、電極厚さ、乾燥条件、圧延条件、充放電サイクル試験の条件等にも影響される。そのため、容量維持率による評価は一般に相対的な評価となるが、負極活物質以外の上記条件は、ほぼ同じ条件にて行っているため、85%以上の場合を負極活物質の性能による効果が得られたと評価でき、90%以上の場合は負極活物質の性能によって特に高い電池性能が得られたと評価できる。
【0076】
また、不可逆容量は、1サイクル目を除いた2〜100サイクル目までの充電容量の合計と放電容量の合計の差をいい、数値が小さい程、高性能であることを示す。不可逆容量の大小は試験用の半電池においては性能にほぼ影響はないが、正極電極板と組み合わせて全電池とした場合には電池性能に大きな影響を与える。100mAh/g以下であれば電池性能に大きな悪影響を与えることなく、良好な結果が得られると評価でき、80mAh/g以下であれば特に高い電池性能が得られたと評価できる。
【0077】
【表1】
【0078】
表1から明らかなように、実施例1〜11と比較例1〜4とを比較すると、金属ナノ粒子の平均粒径が所定値よりも大きい比較例2では、サイクル回数が増えるに伴って活物質の割れが進行したため、良好な導通を維持できず、実施例1〜11と比較して容量維持率が低下し、不可逆容量が高い値を示した。一方、活物質である金属ナノ粒子の平均粒径が所定値に満たない比較例1では、母材内で金属ナノ粒子の凝集が多くみられたことから、初回放電容量等が低下し、不可逆容量が高い値を示した。
【0079】
また、複合粒子の平均粒径が所定値よりも大きい比較例4では、複合粒子の中心に配置する金属ナノ粒子までリチウムイオンや電子を供給するのが困難となり、内部抵抗が大きくなったことから、初回放電容量等が低下し、不可逆容量が高い値を示した。また、複合粒子の平均粒径が所定値に満たない比較例3では、電極作製時に電極スラリーの塗工が困難になり、適正な電極が作製できなかったことから、初回放電容量等が低下し、不可逆容量が高い値を示した。これに対して、実施例1〜11では、充放電サイクル試験において初回放電容量等が高い値を示し、不可逆容量が低い値を示しており、高容量でサイクル特性に優れた結果が得られた。
【0080】
【表2】
【0081】
表2から明らかなように、実施例12〜20と比較例5,6を比較すると、加熱処理温度が所定値を超える比較例6では、金属ナノ粒子の単分散が保てずに凝集及び焼結して、
金属ナノ粒子が55nmと大きくなったため、十分な電池性能を発揮できなかった。また、加熱処理温度が下限値に満たない比較例5では、炭化物前駆体の炭化が不十分となったため、電極上で電解液が還元する等の副反応が多く発生し初回効率と不可逆容量が大幅に悪化する結果となった。また、粒径が50μmを超える粒子の除去を行わなかった比較例7では、電極を作成することができず、充放電サイクル試験を実施できなかった。これに対して、実施例12〜20では、充放電サイクル試験において初回放電容量等が高い値を示し、不可逆容量が低い値を示しており、高容量でサイクル特性に優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質は、高容量かつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池の製造等に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0083】
10 複合粒子
11 金属ナノ粒子
12 母材
図1
図2