(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303714
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】DNA損傷抑制剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/715 20060101AFI20180326BHJP
A61K 31/702 20060101ALI20180326BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20180326BHJP
A61K 31/7004 20060101ALI20180326BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180326BHJP
A61P 39/00 20060101ALI20180326BHJP
A61K 36/74 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
A61K31/715
A61K31/702
A61K31/7016
A61K31/7004
A61P43/00 105
A61P39/00
A61K36/74
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-69604(P2014-69604)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-189732(P2015-189732A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(72)【発明者】
【氏名】熊王 俊男
(72)【発明者】
【氏名】藤井 繁佳
【審査官】
参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−262828(JP,A)
【文献】
特開2011−132187(JP,A)
【文献】
Acta. Nutrimenta. Sinica.,2007年,Vol29, No.5,pp.466-469
【文献】
生体試料分析,2009年,Vol.32, No.4,pp.297-300
【文献】
Phytomedicine,2013年,Vol.20,pp.705-709
【文献】
Food Chemistry,2007年,Vol.104,pp.1115-1122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/715
A61K 31/7004
A61K 31/7016
A61K 31/702
A61K 36/74
A61P 39/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴ糖類を有効成分とし、
前記オリゴ糖類は、マンノースを主体とした単糖類が2〜10分子結合したオリゴ糖、又は、前記オリゴ糖と単糖類とからなり、
前記オリゴ糖類中の各構成単糖がβ−1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上であることを特徴とする、DNA損傷抑制剤。
【請求項2】
8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)の産生抑制作用を有する、請求項1に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項3】
前記オリゴ糖類が、マンノース、グルコース、ガラクトース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖類が2〜10分子結合したものである、請求項1又は2に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項4】
前記オリゴ糖類中のマンノース残基の割合が、70質量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項5】
前記オリゴ糖類が、マンノースが2〜10分子結合したオリゴ糖類である、請求項1又は2に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項6】
前記オリゴ糖類が、マンノースが2〜10分子結合したβ−1,4−マンノオリゴ糖類である、請求項1又は2に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項7】
前記オリゴ糖類の含量割合が、DNA損傷抑制剤の総固形分に対して60質量%以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のDNA損傷抑制剤。
【請求項8】
マンナンを加水分解処理し、得られたオリゴ糖類を有効成分とするDNA損傷抑制剤を製造し、
前記オリゴ糖類が、マンノースを主体とした単糖類が2〜10分子結合したオリゴ糖、又は、前記オリゴ糖と単糖類とからなり、かつ、各構成単糖がβ−1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上である、DNA損傷抑制剤の製造方法。
【請求項9】
コーヒー豆及び/又はコーヒー抽出残渣からマンナンを得、得られたマンナンを加水分解処理する、請求項8に記載のDNA損傷抑制剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノースを構成糖とするオリゴ糖類からなる、DNA損傷抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする多くの生物において遺伝情報を担っているDNAは、放射線や化学物質等の外的要因や、細胞内代謝の過程で生じる活性酸素や細胞内 pHの変化等の内的要因によって損傷を受けやすい。DNA損傷の多くは遺伝子変異を引き起こす原因となり、様々な生活習慣病の発症・進展や老化に影響することから、DNA損傷はできる限り抑制できるほうが好ましい。
【0003】
DNA損傷の指標としては、尿中の8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)が用いられている。8−OHdGは、DNAの構成成分であるデオキシグアノシン(dG)が酸化されて分子内に生成する物質である。8−OHdGが生じると、DNA修復酵素が速やかに働いてこれを切り出し、正常なdGに置換され、放出された8−OHdGはそのまま尿中に排泄される。
【0004】
一方で、D−マンノースがβ−1,4結合した化合物であるβ−1,4マンノビオースなどのβ−1,4−マンノオリゴ糖の持つ生理機能が注目されている。また、人間の糖タンパク質の糖鎖の重要な部分構造にはD−マンノースがβ−1,4結合したマンノオリゴ糖が含まれており、飲食品原料としてのみならず、医薬品の原料としての応用も期待されている。例えば、マンノースを構成糖とするオリゴ糖類を経口摂取することにより、血清中の総コレステロールや中性脂肪の量が低下することが報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−169256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、マンノースを構成糖とするオリゴ糖類が血清脂質量を低下させられることは開示されているものの、DNA損傷に関する記載はない。
【0007】
本発明は、オリゴ糖類を有効成分とする、安全に摂取可能なDNA損傷抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、マンノースを主体とした単糖類が1〜10分子結合したオリゴ糖類を経口摂取することにより、尿中の8−OHdG量が低減することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
[1] 本発明に係るDNA損傷抑制剤は、
オリゴ糖類を有効成分とし
、前記オリゴ糖類は、マンノースを主体とした単糖類が2〜10分子結合したオリゴ糖、又は、前記オリゴ糖と単糖類とからなり、前記オリゴ糖類中の各構成単糖がβ−1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上であることを特徴とする。
[2] 前記[1]のDNA損傷抑制剤は、8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)の産生抑制作用を有することが好ましい。
[3] 前記[1]又は[2]のDNA損傷抑制剤においては、前記オリゴ糖類が、マンノース、グルコース、ガラクトース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖類が
2〜10分子結合したものであることが好ましい。
[4] 前記[1]〜[3]のいずれかのDNA損傷抑制剤においては、前記オリゴ糖類中のマンノース残基の割合が、70質量%以上であることが好ましい。
[
5] 前記[1]又は[2]のDNA損傷抑制剤においては、前記オリゴ糖類が、マンノースが
2〜10分子結合したオリゴ糖類であることが好ましい。
[
6] 前記[1]又は[2]のDNA損傷抑制剤においては、前記オリゴ糖類が、マンノースが
2〜10分子結合したβ−1,4−マンノオリゴ糖類であることが好ましい。
[
7] 前記[1]〜[
6]のいずれかのDNA損傷抑制剤においては、前記オリゴ糖類の含量割合が、
DNA損傷抑制剤の総固形分に対して60質量%以上であることが好ましい。
[8] 本発明に係るDNA損傷抑制剤の製造方法は、マンナンを加水分解処理し、得られたオリゴ糖類を有効成分とするDNA損傷抑制剤を製造し、前記オリゴ糖類が、マンノースを主体とした単糖類が2〜10分子結合したオリゴ糖、又は、前記オリゴ糖と単糖類とからなり、かつ、各構成単糖がβ−1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上である。
[9] 前記[8]のDNA損傷抑制剤の製造方法においては、コーヒー豆及び/又はコーヒー抽出残渣からマンナンを得、得られたマンナンを加水分解処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るDNA損傷抑制剤は、経口摂取することによってDNAの損傷を効果的に抑制することができる。
また、本発明に係るDNA損傷抑制剤は、オリゴ糖類を有効成分とするため、安全に摂取可能であり、医薬、機能性飲食品等としても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、マンノオリゴ糖を配合した試験飼料を投与した試験飼料群と、対照飼料を投与した対照飼料群における、尿中の8−OHdG量の測定結果(平均値)を示した図である。
【
図2】実施例2において、試験飲料摂取前後における、[尿中8−OHdG量測定値(ng/mL)]/[尿中クレアチニン量測定値(mg/dL)]値の測定結果(平均値)を示した図である。
【
図3】実施例2において、試験飲料摂取前後における、[尿中HEL量測定値(pmol/mL)]/[尿中クレアチニン量測定値(mg/dL)]値の測定結果(平均値)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明及び本願明細書において、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」とは、単糖であるマンノースを主たる構成要素とするオリゴ糖類を意味する。ここで「オリゴ糖類」なる語は、一般に単糖類と多糖類との間に位し、一定の小数量の単糖類分子のグリコシル結合からなる物質を指す。すなわち、結合している単糖の数が比較的少ないポリマーのことである。「オリゴ糖『類』」という場合、構成単糖の種類や数が様々である複数のオリゴ糖が含まれる組成物であることを意味する。「マンノースを主体としたオリゴ糖『類』」という場合は、オリゴ糖類のうち、特に、組成物全体の構成単糖に占めるマンノースの割合が50%以上である組成物を指す。本発明及び本願明細書において「マンノオリゴ糖類」の語は、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」の語と同様の意味において用いられる。
【0013】
本発明及び本願明細書において、オリゴ糖類の重合度を表すために「DP」と記載することがある。DPとは、オリゴ糖類を構成している単糖の数を意味する。すなわち単糖であるマンノースは「DP1」と表され、4つのマンノースから構成されたマンノオリゴ糖は重合度4、すなわち「DP4」と表される。学術的観点からは、重合度1(DP1)の糖は単糖であって、オリゴ糖ではない。しかし、本発明に用いるオリゴ糖類(組成物)中には、単糖が含まれる場合があるので、本願明細書においてはこのような場合であっても総称して「オリゴ糖類」と呼ぶものとする。すなわち、「1以上10分子以下の、マンノースを主体とした単糖類が結合した、マンノースを主体としたオリゴ糖類」という場合には、この糖組成物中に重合度1の単糖も含まれている場合があると理解されたい。
【0014】
本発明に係るDNA損傷抑制剤は、マンノースを主体とした単糖類が1〜10分子結合したオリゴ糖類、すなわち、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」のうち、構成単糖の数が1〜10分子である組成物である。本発明に係るDNA損傷抑制剤の有効成分としては、構成単糖がマンノース、グルコース、ガラクトース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖が1〜10分子結合したオリゴ糖が複数種類含まれており、かつ構成単糖全体に占めるマンノースの割合が50%以上であるオリゴ糖類(組成物)が好ましく、構成単糖がマンノース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖が1〜10分子結合したオリゴ糖が複数種類含まれており、かつ構成単糖全体に占めるマンノースの割合が50%以上であるオリゴ糖類(組成物)がより好ましい。
【0015】
本発明に係るDNA損傷抑制剤の有効成分としては、オリゴ糖類中のマンノース残基の割合(構成単糖全体に占めるマンノースの割合)が70質量%以上であるオリゴ糖類(組成物)が好ましく、オリゴ糖類中のマンノース残基の割合が80質量%以上であるオリゴ糖類(組成物)がより好ましい。マンノース残基の割合が充分に高いことにより、マンノオリゴ糖によるDNA損傷抑制作用をより効果的に得ることができ、また、グルコース等の他の単糖類の含有割合が比較的低いことにより、甘味度等を低く抑えることができ、飲食品やサプリメント、医薬品等へ幅広く適用しやすくなる。
【0016】
本発明に係るDNA損傷抑制剤の有効成分として用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、単糖のマンノース由来の苦味を抑えることができるため、遊離のマンノース含量が50質量%以下に抑えられたものが好ましい。また、当該「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、2〜9分子の単糖類が結合したオリゴ糖の含量が多いものが好ましく、2〜6分子の単糖類が結合したオリゴ糖の含量が多いものがより好ましい。また、当該「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、各構成単糖がβー1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上であるものが好ましい。
【0017】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、構成単糖がマンノースのみからなる(マンノースのみを構成単位とする)マンノオリゴ糖類、すなわち、マンノースが1〜10分子結合したオリゴ糖類であることも好ましい。この場合には、マンノースが1〜10分子結合したβ−1,4−マンノオリゴ糖類であることがより好ましい。
【0018】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、マンナンを加水分解処理することによって得られるものが好ましい。なお、本発明及び本願明細書において、単に「マンナン」という場合は、D−マンノースのみを構成単位とする多糖であるマンナンの他、マンノースとガラクトース又はグルコースと構成単位とした多糖であるガラクトマンナン、グルコマンナンも広義に含めるものとする。D−マンノースはアルドヘキソースであり、D−グルコース中のカルボキシル基に隣接する炭素に結合している水酸基の立体配置が逆になっているものである。
【0019】
ここで、原料のマンナンは、例えばココナッツ椰子から得られるコプラミール、フーク、南アフリカ産椰子科植物HuacraPalm、ツクネイモマンナン、ヤマイモマンナンより抽出することにより得ることができる。このように得たマンナンを、酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、好ましくは活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製して、糖混合物を得ることができる。かかる当混合物中には、上述した「マンノースを主体としたオリゴ糖類」が含まれている。したがって、このようにして得た組成物は、本発明に係るDNA損傷抑制剤の有効成分として用いられる。さらに、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」は、コンニャクイモ、ユリ、スイセン、ヒガンバナ等に含まれるグルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム等に含まれるガラクトマンナンを酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で分離精製し構成糖としてマンノースの比率を高めることにより製造したものであってもよい。
【0020】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、コーヒー生豆又は焙煎したコーヒー豆を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることができる。あるいは、使用済みコーヒー残渣を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることも可能である。一般に、焙煎粉砕コーヒーを商業用の抽出器にて抽出すると、その際に焙煎コーヒーに含まれるガラクトマンナンの側鎖であるガラクトースが可溶化したり、アラビノガラクタンが加水分解によって可溶化する。従って、コーヒー残渣中にはマンナンが豊富であり、しかも直鎖構造をとっているものと推定される。一方、セルロースは分解されにくく残渣として残っているが、セルロースを分解せずにマンナンを特異的に加水分解する条件を適宜選択することにより、マンノースを主体とするオリゴ糖を得ることができる。
【0021】
特にコーヒー抽出残渣を分解する方法としては、酸及び/又は高温により加水分解する方法、酵素により分解する方法、微生物発酵により分解する方法が挙げられるが、これらに限定されない。酸及び/又は高温により加水分解する方法としては特開昭61−96947号公報、特開平2−200147号公報等に開示されている。商業用のコーヒー多段式抽出系において出てくる使用済みコーヒー残渣を反応容器中において酸触媒を添加して加水分解することもでき、酸触媒を添加せずに高温で短時間処理して加水分解することによっても得ることができる。管形栓流反応器を使用する方法が便利であるが、比較的高温で短時間の反応を行わせる方法に向いているものであれば、いかなる反応器を使用しても良好な結果が得られる。反応時間と反応温度を調節し、可溶化して加水分解させることによってDP10〜40のマンナンをDP1〜10のマンノオリゴ糖に分解し、その後コーヒー残渣と分離してマンノオリゴ糖類を得ることができる。なお、ここでコーヒー抽出残査とは、大気中あるいは加圧条件下で焙煎粉砕コーヒーを水などの溶媒で抽出した後の、いわゆるコーヒー抽出粕を意味する。
【0022】
「マンノースを主体としたオリゴ糖類」として、コーヒー豆(焙煎コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆を含む。)及び/又はコーヒー抽出残渣の加水分解処理により得られたものを用いる場合、使用するコーヒー豆の種類や産地に特に制限はなく、アラビカ種、ロバスタ種、リベリカ種等いずれのコーヒー豆でもよく、さらにブラジル、コロンビア産等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができ、1種類の豆のみを単独で使用してもよく、ブレンドした2種以上の豆を使用してもよい。通常、商品価値がないとして廃棄処分されるような品質の悪いコーヒー豆又は小粒のコーヒー豆であっても使用することができる。上記コーヒー豆を一般的に用いられている焙煎機(直火、熱風、遠赤、炭火式など)による極浅炒り、浅炒り、中炒り、深炒りに焙煎したコーヒー豆、及びこの焙煎コーヒー豆を、一般的な粉砕機、ロールミルなどを用いて粉砕することにより得た、焙煎粉砕コーヒー(粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む)を用いることもできる。
【0023】
また、コーヒー抽出残渣としては、通常の液体コーヒーあるいはインスタントコーヒー製造工程において、焙煎粉砕コーヒーを抽出処理した後のものであれば、常圧下、加圧下抽出であろうと、またいかなる起源、製法のコーヒー抽出残渣であっても使用することができる。
【0024】
ここで、上記加水分解処理について、いくつか詳細に説明する。酵素により分解する方法としては、例えばコーヒー抽出残渣を水性媒体に懸濁させ、ここへ、例えば市販のセルラーゼ及びヘミセルラーゼ等を加えて撹拌しながら懸濁させればよい。酵素の量、作用させる温度及びその他の条件としては、通常の酵素反応に用いられる量、温度、条件であれば特に問題はなく、使用する酵素の最適作用量、温度、条件及びその他の要因によって適宜選択すればよい。
微生物発酵により分解する方法としては、例えば水性媒体に懸濁させたコーヒー抽出残渣にセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを産出する微生物を植菌して培養させればよい。使用する微生物は、細菌類や担子菌類などコーヒー抽出残渣中のマンナンを分解する酵素を産出するものであれば良く、使用する微生物によって培養条件などは適宜選択すればよい。
【0025】
上記の方法によって得られた「マンノースを主体としたオリゴ糖類」を含む反応液は、必要に応じて精製することができる。精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法、溶剤抽出法等で脱色・脱臭を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うことが挙げられる。精製法の組み合わせ及び精製条件としては、マンノースを主体とするオリゴ糖類を含む反応液中の色素、塩、及び酸等の量や、その他の要因に応じて適宜選択すればよい。
【0026】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」は、有効成分として使用される前に、予め必要に応じて活性炭、イオン交換樹脂、溶剤等で脱色、脱臭、脱酸等の精製処理をしておいてもよい。
【0027】
本発明に係るDNA損傷抑制剤は、前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」を有効成分とする。前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」は、経口摂取されることにより、生体内におけるDNA損傷を抑制する効果を奏する。このため、当該オリゴ糖類を摂取することにより、8−OHdGの産生も抑制され、ひいては尿中の8−OHdG量も低減する。
【0028】
本発明に係るDNA損傷抑制剤は、前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」のみからなるものであってもよく、他の成分を含むものであってもよい。本発明に係るDNA損傷抑制剤における前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」の含量は、総固形分に対して60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0029】
当該他の成分としては、前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」によるDNA損傷抑制作用を損なわないものであればよく、例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料、着色料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。
【0030】
本発明に係るDNA損傷抑制剤の剤型は、特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。本発明に係るDNA損傷抑制剤は、経口摂取することによってDNA損傷抑制効果を奏するため、経口投与に適したものが好ましい。当該剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0031】
本発明に係るDNA損傷抑制剤は、オリゴ糖類を主成分とするものであり、非常に安全に経口接種可能である。そこで、本発明に係るDNA損傷抑制剤は、医薬品として以外にも、飲食品中に原料として配合させてもよい。本発明に係るDNA損傷抑制剤を配合させた飲食品を継続的に摂取することにより、DNA損傷が抑制され、遺伝子変異等により引き起こされる各種疾患(例えば、癌など)の発症リスクを低減させ、予防に資することが期待できる。本発明に係るDNA損傷抑制剤は、その他、飼料や化粧品の原料とすることも好ましい。
【0032】
例えば、コーヒー抽出残渣を酸及び/又は熱により加水分解しオリゴ糖類を高純度に含むように調製した「マンノースを主体としたオリゴ糖類」をそのまま、又は必要に応じて活性炭、イオン交換樹脂、溶剤等で脱色、脱臭、脱酸等の精製処理をした後に、液体コーヒー、インスタントコーヒー等に添加して使用することもできる。ここで、液体コーヒーとしては、缶又はいわゆるペットボトル容器に入れられて市販されているコーヒー飲料(若しくはコーヒー入り飲料と呼ばれるもの)が挙げられる。また、インスタントコーヒーとしては、焙煎粉砕コーヒーを熱湯で抽出した抽出液を噴霧又は凍結乾燥方法により水分を除去した可溶性粉末コーヒーと呼ばれるものが挙げられる。コーヒーミックス飲料としては、可溶性粉末コーヒーに砂糖、クリーミングパウダーなどを添加して混合した飲料などが挙げられる。
【実施例】
【0033】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0034】
[実施例1]
マンノオリゴ糖を経口摂取することによる、尿中の8−OHdG量に対する影響を調べた。
【0035】
<マンノオリゴ糖の調製>
粉砕して粒径を約1mmにしたコーヒー抽出残渣を、総固形分濃度が約14質量%の水と粉砕物からなるスラリーに調製した後、4mの熱栓流反応器内において熱処理した。当該熱処理においては、当該スラリーを、滞留時間8分間に対応する速度で高圧蒸気とともに栓流反応器にポンプ輸送し、6.35mmφオリフィスを用いて約210℃に維持した。その後、当該スラリーを大気圧下に噴出することによって、反応を急止した。得られたスラリーを濾過して、不溶性固形分から可溶性固形分を含む液を分離した。この可溶性固形分含有液を、活性炭で脱色した後、濃縮、乾燥することによって、マンノースを主体とする単糖類が1〜10分子結合したオリゴ糖類を含有する組成物を得た。
【0036】
このようにして得られた組成物(マンノオリゴ糖)の重合度(DP)分布は、DP1;2.4%、DP2;26.6%、DP3;20.2%、DP4;17.8%、DP5;10.9%、DP6;8.9%、DP7;6.0%、DP8;3.6%、DP9;1.9%、DP10;1.7%であり、糖鎖中のマンノース残基の含量は90%であった。ただし、DP分布及び糖鎖中のマンノース残基の含量は、加水分解条件により種々の値をとりうる。オリゴ糖のDP1としてはマンノース等、DP2としてはマンノビオース等、DP3としてはマンノトリオース等、DP4としてはマンノテトラオース等、DP5としてはマンノペンタオース等、DP6としてはマンノヘキサオース等、DP7としてはマンノヘプタオース等、DP8としてはマンノオクタオース等、DP9としてはマンノノナオース等、DP10としてはマンノデカオース等であり、結合様式はβ−1,4結合であった。
【0037】
<マウスへの経口摂取>
得られたマンノオリゴ糖をマウスに経口投与し、尿中の8−OHdG量に対する影響を調べた。
実験にはICR系雄マウスを用いた。検疫及び馴化期間をかねて14日間の予備飼育を行った後、体重の推移及び一般状態に異常が認められない個体16匹を2群(1群8匹)に分けて実験に供した。動物は温度、湿度、換気回数、及び照明時間をコントロールされた環境下飼育された。実験飼料は、牛脂を含んだ高脂肪飼料をベース(対照飼料)として、前記で調製したマンノオリゴ糖を5質量%となるように配合した飼料を試験飼料とした。一方の群のマウスには試験飼料を、残る一方の群のマウスには対照飼料を、28日間にわたり自由摂取させた。投与期間終了24時間前より、蓄積尿を採取して−80℃下で保存した。
【0038】
<蓄積尿中8−OHdG量の測定>
採取された尿は、DNA損傷のマーカーである8−OHdG、及び尿中に常時排泄されているクレアチニン含量の測定に供した。8−OHdG含量は、[8−OHdG測定値(ng/mL)]/[クレアチニン測定値(mg/dL)]で計算した。
各群の尿中の8−OHdGの測定結果(平均値)を
図1に示す。マンノオリゴ糖を配合した試験飼料を投与した群は、対照飼料を投与した群と比べて、尿中の8−OHdG量が少なくなることが確認された。つまり、マンノオリゴ糖を経口摂取することにより、生体内におけるDNA損傷が抑制されることが明らかである。
【0039】
[実施例2]
実施例1で調製されたマンノオリゴ糖を含有するコーヒー飲料を摂取することによる、尿中の8−OHdG量に対する影響を調べた。
【0040】
<ヒト試験用液体コーヒーの調製>
表1に示す組成で、コーヒー抽出液、マンノオリゴ糖(実施例1で調製したもの)、重曹、乳化剤、高甘味度甘味料及び水を混合したものを、試験飲料とした。試験飲料は、275gボトル缶に充填した後、常法に従い殺菌した。
【0041】
【表1】
【0042】
<試験飲料の摂取と尿中8−OHdG量の測定>
ヒト試験は、BMI25〜30の成人男女6名に対して実施した。被験者は、12週間にわたって試験飲料を1日1本摂取した。採尿は、試験飲料摂取前及び摂取後で実施した。採取された尿は、DNA損傷のマーカーである8−OHdG、脂質の過酸化マーカーであるヘキサノイルリジン(HEL)、及び尿中に常時排泄されているクレアチニンの各含量の測定に供した。8−OHdG量及びHEL量は、それぞれ、[尿中8−OHdG量測定値(ng/mL)]/[尿中クレアチニン量測定値(mg/dL)]、及び[尿中HEL量測定値(pmol/mL)]/[尿中クレアチニン量測定値(mg/dL)]で算出した。
【0043】
尿中に排泄された8−OHdG量の測定結果(6名の平均値)を
図2に、尿中に排泄されたHEL量の測定結果(6名の平均値)を
図3に、それぞれ示す。この結果、試験飲料の摂取後には、試験飲料摂取前と比べて、尿中に含まれる8−OHdGが減少したことが確認された。以上の結果より、マンノオリゴ糖を配合した試験飲料の摂取は、体内のDNAの損傷を抑制する効果を有していることが確認された。