(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術を用いてもなお、風味の持続性(後伸び)を向上させる点で改善の余地があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、持続性のある風味を食品に付与する方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、風味素材を含み、平均粒子径が風味素材のlogP値に応じた所定の範囲内に調整された油滴を含有する液状水中油型乳化組成物を、食品全量に対する油相成分量が、風味素材のlogP値に応じた所定の範囲内になるよう食品に添加することにより、該食品に持続性の高い風味を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1] 風味素材を含み、平均粒子径が1.2μm以上80μm以下である油滴を含有する液状水中油型乳化組成物を食品に添加することを含み、
該乳化組成物の油相成分量は、該食品全量に対して10%(v/v)未満であり、
風味素材のlogP値が下記(1)〜(3)の各場合に、前記油滴の平均粒子径及び/又は前記油相成分量が、更に下記の要件を充足する、持続性のある風味の付与方法(以下、「本発明の方法」とも称する)。
(1)風味素材のlogP値が1未満である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上
(2)風味素材のlogP値が1以上3未満である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ/又は、油相成分量が食品全量に対して0.5%(v/v)以上
(3)風味素材のlogP値が3以上である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ/又は、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上
[2] 油滴の平均粒子径が15μm以上80μm以下、且つ、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上10%(v/v)未満である、上記[1]記載の方法。
[3] 乳化組成物が、HLBが10以上である乳化剤を含有する、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4] 上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法によって持続性のある風味が付与された食品。
[5] 液状水中油型乳化組成物を含む食品であって、
該乳化組成物は、風味素材を含み、平均粒子径が1.2μm以上80μm以下である油滴を含有し、
該乳化組成物の油相成分量は、該食品全量に対して10%(v/v)未満であり、
風味素材のlogP値が下記(1)〜(3)の各場合に、前記油滴の平均粒子径及び/又は前記油相成分量が、更に下記の要件を充足する、食品(以下、「本発明の食品」とも称する)。
(1)風味素材のlogP値が1未満である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上
(2)風味素材のlogP値が1以上3未満である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ/又は、油相成分量が食品全量に対して0.5%(v/v)以上
(3)風味素材のlogP値が3以上である場合;
油滴の平均粒子径が15μm以上、且つ/又は、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上
[6] 持続性のある風味を有する、上記[5]記載の食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、持続性のある風味を食品に付与する方法を提供できる。
また本発明によれば、持続性のある風味を有する食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.本発明の方法
本発明の方法は、風味素材を含み、平均粒子径が所定の範囲である油滴を含有する液状水中油型乳化組成物(以下、「本発明の乳化組成物」とも称する)を食品に添加することを特徴の一つとする。
本発明において「液状水中油型乳化組成物」とは、油相成分が油滴として水相中に略均一に分散している水中油型の乳化構造を有し、且つ第十六改正日本薬局方に規定される常温(例、25℃)において液状である組成物をいう。当該乳化組成物には、水相中に略均一に分散した油滴の中に、更に水相が分散しているものも含まれる。
【0011】
油滴に含まれる風味素材は特に制限されず、食品の種類等に応じて、食品香料の分野において通常用いられる風味素材を適宜選択して使用できる。該風味素材は食品に使用できるものであれば、例えば合成品又は抽出品等であってよい。また市販品も利用でき、簡便であることから好ましい。該風味素材の具体例としては、メチオナール、メチオノール、ジメチルスルフィド、チアゾール等の含硫化合物類;酪酸、イソ吉草酸、オクタン酸、デカン酸等の有機酸類;ノナノール、1−オクテン−3−オール、メントール等のアルコール類;2−メチルピラジン、2、3−ジメチルピラジン等の含窒素化合物類;ヘキサナール、trans,trans−2,4−デカジエナール等のアルデヒド類;バラ油、ラベンダー油、ベルガモット油、シナモン油、レモン油、ハッカ油、各種フレーバー(例、ペパーミントフレーバー、オレンジフレーバー、ゴマフレーバー、ジンジャーフレーバー、ガーリックフレーバー等)等が挙げられ、好ましくは含硫化合物類、有機酸類、アルコール類、含窒素化合物類、アルデヒド類であり、より好ましくはメチオナール、イソ吉草酸、1−オクテン−3−オール、オクタン酸、デカン酸、2−メチルピラジン、2−エチル−4−メチルチアゾール、trans,trans−2,4−デカジエナールである。これらの風味素材は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0012】
風味素材を含む油滴を含有する乳化組成物は、例えば、油相成分と水相成分とを混合する前に予め油相成分に風味素材を添加し、当該風味素材が添加された油相成分と水相成分とを混合した後、得られた混合物に対し乳化処理を施すこと等により調製できる。
【0013】
油相成分に風味素材を予め添加する際、油相成分における風味素材の濃度は特に制限されず、風味素材の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常0.01〜500000ppm(v/v)であり、好ましくは0.05〜400000ppm(v/v)であり、より好ましくは0.1〜300000ppm(v/v)であり、特に好ましくは0.2〜200000ppm(v/v)である。
【0014】
本発明の方法によって持続性のある風味が付与された食品における、風味素材の濃度は特に制限されず、風味素材の種類や食品の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常0.01ppb(v/v)〜100ppm(v/v)であり、好ましくは0.05ppb(v/v)〜50ppm(v/v)であり、より好ましくは0.1ppb(v/v)〜30ppm(v/v)であり、特に好ましくは0.2ppb(v/v)〜20ppm(v/v)である。ここで、当該風味素材の濃度は、本発明の乳化組成物に含まれる風味素材の濃度を意味し、本発明の乳化組成物を添加する前の食品に風味素材が含まれていても、その量は、当該風味素材の濃度に算入しない。
【0015】
本発明の乳化組成物は、油滴の平均粒子径が、少なくとも1.2μm以上(好ましくは2.0μm以上、より好ましくは3.0μm以上)80μm以下(好ましくは70μm以下、より好ましくは60μm以下)であることが好ましい。油滴の平均粒子径が当該範囲外であると、風味の持続性(後伸び)が低下する傾向があり、好ましくない。
本発明において「油滴の平均粒子径」とは、レーザー回折粒度分布測定装置(LA−920、株式会社堀場製作所製、攪拌速度:3)を用いて測定されるメジアン径をいう。
【0016】
本発明において、油滴の平均粒子径の調整は、自体公知の方法により適宜行い得る。例えば、風味素材を添加した油相成分と水相成分とを混合し、得られた混合物に対し乳化処理を施す際、その乳化条件を、後述の実施例に示される条件等に適宜設定することにより、油滴の平均粒子径を所望の範囲内に調整できる。乳化処理に用いられる乳化機は特に制限されず、乳化香料の分野において通常用いられる乳化機(例えば、高圧乳化機、ポンピングコネクタ、マイクロチャネル乳化装置、コロイドミル、ホモミキサー、スティックミキサー、ディスパーミキサー、ホモジナイザー、膜乳化等)を適宜用いることができる。
【0017】
本発明の乳化組成物の油相成分及び水相成分は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されず、食品香料の分野において通常用いられる成分を使用してよい。そのような油相成分としては、例えば、食用油脂、香味油等が挙げられ、また水相成分としては、例えば、水、食塩、酸味料、食酢、醤油、味噌、調味料、糖類、たん白加水分解物、香辛料、増粘剤等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの油相成分及び水相成分は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
食用油脂の具体例としては、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、こめ油、落花生油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、やし油、キャノーラ油、サラダ油等の植物油脂;牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油等の動物油脂;等が挙げられ、好ましくは植物油脂である。また、上記食用油脂をエステル交換したエステル交換油、上記食用油脂に水素添加した硬化油等も用いることができる。これらの食用油脂は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
香味油の具体例としては、生姜、にんにく、たまねぎ、ねぎ、ニラ、セリ、茗荷、セロリ、しそ、みつば、わさび等の香味野菜を上記の食用油脂に漬け込んで(必要に応じて加熱してもよい)、香味を移しこんだもの等が挙げられる。これらの香味油は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の乳化組成物は、乳化剤を含有してよい。当該乳化剤は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されず、食品香料の分野において通常用いられる乳化剤を使用できる。そのような乳化剤としては、例えば、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、キラヤ抽出物、グリセリン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、植物性ステロール、植物レシチン(例、大豆レシチン等)、スフィンゴ脂質、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、大豆サポニン、胆汁末、プロピレングリコール脂肪酸エステル、分別レシチン、ユッカフォーム抽出物、卵黄レシチン、ポリソルベート20/60/65/80等が挙げられ、植物レシチン(例、大豆レシチン等)、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。これらの乳化剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の乳化組成物に用いられる乳化剤は、HLBが10以上であることが好ましい。HLBが10以上である乳化剤を用いることにより、本発明の方法によって付与される風味の持続性が、より向上する。当該HLBは、11以上がより好ましく、13以上が特に好ましく、15以上が最も好ましい。HLBの上限は特に制限されないが、20(より好ましくは18、特に好ましくは16)が好ましい。
ここで「HLB」とは、親水親油バランス(hydrophile−lipophile balance)を意味し、基本的にW.C.Griffinによって提唱された計算式(W.C.Griffin,J.Soc.Cosmetic Chemists,1,311(1949)参照)に従って求められる。
【0022】
本発明の乳化組成物が乳化剤を含有する場合、該乳化物は、油相成分と水相成分とを混合する前に、予め水相成分に含まれていることが好ましい。水相成分中の乳化剤の濃度は特に制限されず、使用する乳化剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、通常0.1〜3.0%(v/v)であり、好ましくは0.5〜2.0%(v/v)である。
【0023】
本発明の乳化組成物のpHは特に制限されないが、通常1〜13程度であり、食品に用いる観点から、好ましくは3〜8である。
【0024】
本発明の乳化組成物に含まれる油相成分は、乳化組成物に対して、0.1〜50%(v/v)であることが好ましく、より風味の持続性を付与する観点から、1.0〜30%(v/v)がより好ましく、2.0〜20%(v/v)が特に好ましい。
【0025】
本発明の乳化組成物に含まれる水相成分は、乳化組成物に対して、50〜99.9%(v/v)であることが好ましく、より風味の持続性を付与する観点から、70〜99%(v/v)がより好ましく、80〜98%(v/v)が特に好ましい。
【0026】
本発明の乳化組成物は、該乳化組成物の油相成分量が、食品全量に対して、少なくとも10%(v/v)未満(好ましくは5%(v/v)以下、より好ましくは3%(v/v)以下)であることが好ましい。乳化組成物の油相成分量が、食品全量に対して10%(v/v)以上であると、油相成分によって風味がマスキングされる傾向があり、好ましくない。尚、該乳化組成物の油相成分量の下限は特に限定されないが、食品全量に対して、0.001%(v/v)であることが好ましい。
ここで「食品全量」とは、乳化組成物が添加された後の食品の量であり、乳化組成物の量を含むものである。
【0027】
上述する通り、本発明の乳化組成物は、油滴の平均粒子径が、少なくとも1.2μm以上80μm以下であることが好ましく、また乳化組成物の油相成分量が、食品全量に対して、少なくとも10%(v/v)未満であることが好ましいが、これらの油滴の平均粒子径及び/又は油相成分量は、風味素材のlogP値に応じて、更に所定の要件を充足することが好ましい。油滴の平均粒子径及び/又は油相成分量が、更なる所定の要件を充足することにより、本発明の方法は、持続性に優れる風味を食品に付与することができる。
【0028】
具体的には、油滴の平均粒子径及び/又は油相成分量は、風味素材のlogP値が下記(1)〜(3)の各場合に、下記の要件を更に充足することが好ましい。
【0029】
(1)風味素材のlogP値が1未満である場合;
油滴の平均粒子径は、15μm以上(より好ましくは16μm以上、特に好ましくは17μm以上)であり、且つ、油相成分量は、食品全量に対して0.05%(v/v)以上(より好ましくは0.07%(v/v)以上、特に好ましくは0.1%(v/v)以上)であることが好ましい。
【0030】
(2)風味素材のlogP値が1以上3未満である場合;
油滴の平均粒子径は、15μm以上(より好ましくは16μm以上、特に好ましくは17μm以上)であり、且つ/又は、油相成分量は、食品全量に対して、0.5%(v/v)以上(より好ましくは0.7%(v/v)以上、特に好ましくは1%(v/v)以上)であることが好ましい。
また、油滴の平均粒子径は、15μm以上(より好ましくは16μm以上、特に好ましくは17μm以上)であり、且つ、油相成分量は、食品全量に対して、0.5%(v/v)以上(より好ましくは0.7%(v/v)以上、特に好ましくは1%(v/v)以上)であることが更に好ましい。
【0031】
(3)風味素材のlogP値が3以上である場合;
油滴の平均粒子径は、15μm以上(より好ましくは16μm以上、特に好ましくは17μm以上)であり、且つ/又は、油相成分量は、食品全量に対して、0.05%(v/v)以上(より好ましくは0.07%(v/v)以上、特に好ましくは0.1%(v/v)以上)であることが好ましい。
また、油滴の平均粒子径は、15μm以上(より好ましくは16μm以上、特に好ましくは17μm以上)であり、且つ、油相成分量は、食品全量に対して、0.05%(v/v)以上(より好ましくは0.07%(v/v)以上、特に好ましくは0.1%(v/v)以上)であることが更に好ましい。
【0032】
本発明において「logP値」とは、オクタノール/水分配係数の対数値を意味し、JIS規格(JIS Z7260−107、JIS Z7260−117)に規定される方法によって測定される。
【0033】
油滴の平均粒子径が15μm以上80μm以下(好ましくは、17μm以上60μm以下)、且つ、油相成分量が食品全量に対して0.05%(v/v)以上10%(v/v)以下(好ましくは、0.1%(v/v)以上1%(v/v)以下)であると、風味素材のlogP値にかかわらず、食品に持続性のある風味を付与でき好ましい。
【0034】
本発明の乳化組成物が添加される食品は特に制限されないが、例えば、スープ類(例、鶏がらスープ、コンソメスープ、野菜スープ、中華スープ等)、シチュー類、ドレッシング類、だし、調味料等が挙げられ、好ましくはスープ類であり、より好ましくは鶏がらスープ及びコンソメスープである。
本発明において「食品」とは、経口摂取し得るものを広く包含する概念であり、飲料等も含まれる。
【0035】
本発明の乳化組成物を食品に添加する時期は特に制限されず、例えば、食品の喫食前に添加できる。また喫食の直前や、喫食中に添加してもよい。あるいは、食品を調理又は製造する間に、その原料と併せて添加してもよい。
【0036】
本発明の方法により、持続性のある風味が付与された食品を提供できる。本発明において、「持続性のある」風味とは、食品を嚥下し、口を閉じて5回呼吸したとき、5回目の呼気中に感じられる風味をいう。
【0037】
2.本発明の食品
本発明の食品は、所定の液状水中油型乳化組成物を含むことを特徴の一つとする。本発明の食品は、当該乳化組成物を含むことにより、持続性のある風味を有することができる。
【0038】
本発明の食品が含む乳化組成物は、上述の本発明の方法において用いられる「本発明の乳化組成物」と同様のものであり、充足すべき要件や好適な態様等も同様である。
【0039】
本発明の食品の種類は特に制限されず、その具体例としては、本発明の方法の説明において例示した食品と同様のものが挙げられ、好適な態様も同様である。
【0040】
本発明の食品は、自体公知の方法で調製された食品に、本発明の乳化組成物を添加することにより製造できる。
【0041】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[試験例1]logP値、油相成分量、平均粒子径の検討
(評価サンプルの調製)
異なるlogP値を有する5種の風味素材を選定し、各風味素材を油滴中に含み、油滴の平均粒子径が0.15〜60μmである液状水中油型乳化組成物を調製した後、これらを所定の呈味溶液に添加して、乳化組成物の油相成分量がサンプル全量に対して0.01〜10%(v/v)である評価サンプルを調製した。
使用した5種の風味素材を下表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
乳化組成物は、風味素材を食用油脂(製品名:さらさらキャノーラ油、味の素社製)に所定の濃度で添加して調製した風味素材添加油と、乳化剤(商品名:エマゾールO−120V、花王社製、HLB:15)を所定の濃度で含む乳化剤水溶液とを、所定の混合比率で混合した後、所定の乳化条件で乳化処理を施すことにより調製した。
風味素材添加油中の風味素材の濃度、乳化剤水溶液中の乳化剤の濃度、及び風味素材添加油と乳化剤水溶液との混合比率(風味素材添加油と乳化剤水溶液との合計量に対する、風味素材添加油の量の割合)を、それぞれ「油中風味素材濃度」、「乳化剤濃度」及び「油混合比率」として、下表2及び3に示す。表2は、風味素材としてメチオナール、イソ吉草酸又は1−オクテン−3−オールを使用した場合の各濃度及び比率を示し、表3は、風味素材としてオクタン酸又はデカン酸を使用した場合の各濃度及び比率を示す。尚、各表中の「油相成分量」は、最終的に調製される評価サンプル全量に対する、乳化組成物の油相成分の割合である。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
また、油滴の平均粒子径及び乳化条件(乳化装置、pass回数、その他の条件)を、下表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
油滴の平均粒子径として、レーザー回折粒度分布測定装置(LA−920、株式会社堀場製作所製、攪拌速度:3)を用いてメジアン径を測定した。
【0050】
所定の呈味溶液への液状水中油型乳化組成物の添加は、下表5に示す割合で行った。尚、必要により乳化剤水溶液も添加した。
【0051】
【表5】
【0052】
所定の呈味溶液の組成は、下表6に示す通りである。
【0053】
【表6】
【0054】
以上の手順で製造された評価サンプル中の風味素材の濃度は、風味素材がメチオナール、イソ吉草酸又は1−オクテン−3−オールである場合、10ppm(v/v)であり、風味素材がオクタン酸又はデカン酸である場合、20ppm(v/v)であった。また評価サンプル中の乳化剤の濃度は、0.50%(v/v)であった。
【0055】
(持続性のある風味の付与効果の評価)
持続性のある風味の付与効果の評価は、2名の専門評価パネルが、各評価サンプル10mlを嚥下した後、口を閉じて5回呼吸し、該5回目の呼気中に感じられる風味強度を評価することにより行った。
具体的には、未乳化の組成物を添加したコントロール(呈味溶液に、風味素材添加油及び乳化剤水溶液を単に添加したもの)の風味の持続性を1とした5段階の評価基準(下記)により、風味の持続性を評価した。
[評価基準]
5:非常に持続性の高い風味が確認された
4:持続性の高い風味が確認された
3:持続性のやや低い風味が確認された(コントロールよりは強い)
2:持続性の低い風味が確認された(コントロールよりは強い)
1:未乳化のコントロール(未乳化cont)
×:油の風味にマスキングされた
(−:評価サンプルなし)
【0056】
結果を
図1〜5に示す。
【0057】
図1〜5に示される結果から明らかなように、風味素材のlogP値によって、持続性のある風味が得られる油滴の平均粒子径及び油相成分量の範囲は、3種(例、風味素材のlogP値が(1)1未満である場合、(2)1以上3未満である場合、(3)3以上である場合)に分けられた。風味素材のlogP値が大きい程、持続性のある風味が得られる油滴の平均粒子径及び油相成分量の範囲は広い結果となった。
【0058】
[試験例2]乳化剤のHLBの検討
(評価サンプルの調製)
乳化剤(商品名:エマゾールO−120V、花王社製、HLB:15)を下表7に示す各乳化剤に変更した以外は、上記試験例1と同様の手順により評価サンプルを調製した。風味素材には、1−オクテン−3−オールを使用した。また油滴の平均粒子径は17μmに調整し、乳化組成物の油相成分量は、評価サンプル全量に対して1%(v/v)に調整した。
【0059】
(持続性のある風味の付与効果の評価)
上記試験例1と同様の方法及び評価基準により、持続性のある風味の付与効果の評価を行った。
【0060】
結果を表7に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
表7に示される結果から明らかなように、いずれの乳化剤を使用した場合も一定の効果を奏することが確認されたが、HLBが高い乳化剤(例、HLBが11〜16である乳化剤)を使用したときの効果が、より好適であった。
【0063】
[試験例3]鶏がらスープ及びコンソメスープにおける効果の評価
(評価サンプルの調製)
下表8に示す4種の風味素材(鶏だしの風味素材)の混合物を、食用油脂(製品名:さらさらキャノーラ油、味の素社製)に各風味素材の濃度が表8に示す通りになるよう添加して調製した風味素材添加油5mlと、1%(v/v)乳化剤水溶液(乳化剤の製品名:エマゾールO−120V、花王社製)45mlとを混合した後、所定の乳化条件で乳化処理を行い、風味素材を油滴中に含む液状水中油型乳化組成物(以下、風味素材添加乳化組成物という)を調製した。当該風味素材添加乳化組成物に含まれる油滴の平均粒子径は、17μmであった。
【0064】
【表8】
【0065】
乳化条件(乳化装置、ポアサイズ、pass回数)を、下表9に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
また、風味素材を使用しなかったこと以外は上記と同様の手順で、風味素材を含まない液状水中油型乳化組成物(以下、風味素材無添加乳化組成物という)を調製した。
【0068】
風味素材無添加乳化組成物、上記の風味素材添加油、及び風味素材添加乳化組成物を、鶏がらスープ(「丸鶏がらスープ」(製品名、味の素社製)の1.5%水溶液)にそれぞれ下表10に示す量で添加し、評価サンプルA〜Cを調製した。風味素材無添加乳化組成物、風味素材添加油、及び風味素材添加乳化組成物に含まれる食用油脂の量は、評価サンプル全量(100.1ml又は101ml)に対し、約0.1%(v/v)である。
【0069】
【表10】
【0070】
風味素材無添加乳化組成物、上記の風味素材添加油、及び風味素材添加乳化組成物を、コンソメスープ(「クノールチキンコンソメ」(製品名、クノール社製)の2%水溶液)にそれぞれ下表11に示す量で添加し、評価サンプルD〜Fを調製した。風味素材無添加乳化組成物、風味素材添加油、及び風味素材添加乳化組成物に含まれる食用油脂の量は、評価サンプル全量(100.1ml又は101ml)に対し、約0.1%(v/v)である。
【0071】
【表11】
【0072】
評価サンプルB、C、E及びFにおける、各風味素材の濃度(喫食時濃度)は、下表12に示す通りである。
【0073】
【表12】
【0074】
(持続性のある風味の付与効果の評価)
持続性のある風味の付与効果の評価は、2名の専門評価パネルが、各評価サンプル10mlを嚥下した後、口を閉じて5回呼吸し、該5回目の呼気中に感じられる風味強度を評価することにより行った。
具体的には、コントロール(乳化組成物等を添加されていない鶏がらスープ又はコンソメスープ)の風味強度を1とした5段階の評価基準(下記)により、風味の持続性(後伸び)を評価した。
[評価基準]
5:非常に持続性の高い風味が確認された
4:持続性の高い風味が確認された
3:持続性のやや低い風味が確認された(コントロールよりは強い)
2:持続性の低い風味が確認された(コントロールよりは強い)
1:コントロール
【0075】
結果を表13(鶏がらスープ)及び表14(コンソメスープ)に示す。
【0076】
【表13】
【0077】
【表14】
【0078】
表13及び14に示される結果から明らかなように、食品として鶏がらスープを使用した場合(表13)とコンソメスープを使用した場合(表14)とは、ほぼ同様の結果になった。
香料添加油を添加したサンプル(評価サンプルB及びE)は、風味素材の風味が、トップにのみ付与され、持続性のある風味は付与されなかった。
風味素材無添加乳化組成物を添加したサンプル(評価サンプルA及びD)では、鶏がらスープ又はコンソメスープそのものの風味が少し伸びるようになったことが確認された。
風味素材添加乳化組成物を添加したサンプル(評価サンプルC及びF)では、鶏がらスープ又はコンソメスープの風味と風味素材の風味とが合わさり、全体として強い持続性のある風味が付与されたことが確認された。