(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
精度を要求される機械部品等には、鋳物や金属素材などの被削材を切削した切削品が用いられる。切削品の高品質化や生産性向上を図る際、切削性の改善のみならず、切削により生じる切屑の処理も重要となる。
【0003】
切屑は通常、切れ刃により被削材から切離された後、すくい面に接触しつつすくい面に沿って流出していく。この際、切削工具には切屑の流出方向に沿った摩擦力が作用する。この摩擦力は、切屑とすくい面の接触領域の面積に応じた大きさとなり、切屑の厚さや切削力等に影響を及ぼす。例えば、その摩擦力が減少すると、すくい面により被削材へ作用するせん断力の角度が増加し、それに応じて切屑は薄くなると共に、切削合力(主分力、背分力、送り分力の合力)も減少する。
【0004】
そこで、すくい面の刃先部分を2段形状にして、切屑とすくい面の接触領域面積(適宜、単に「接触長さ」ともいう。)を制限する接触領域(面積)拘束工具(これを適宜「拘束工具」という。/
図15B参照)が従来から提案されている。この拘束工具を用いると、すくい面が単一な平面からなる切削工具(これを適宜「平面工具」という。/
図15A参照)を用いた場合よりも、接触長さが相応に短縮され、切屑とすくい面の間に作用する摩擦力も低減されて、切屑が薄くなると共に切削力も低減される。このような拘束工具に関する提案は多くなされており、例えば下記の特許文献に関連した記載がある。
【0005】
もっとも、拘束工具を用いて切取り厚さの少ない仕上加工等を行うと、切削力が低減されて切屑が薄くなる分、切屑は長く連続して流出し易くなる。このような切屑は、単に絡み付き易いだけではなく、切削部分(加工点)へ回帰して噛み込まれ易く、切削不良や工具折損等の原因となる。
【0006】
一方で、すくい面の後方側に突起状の段差(チップブレーカ)を設け、切屑の流出方向を制御し、切屑を強制的にカールさせて、短く分断する切削工具(
図15C参照)が従来から提案されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2A】切れ刃に平行な後端部を有する拘束面を通過した切屑が、その直下にあるすくい面上を流出する様子を示す模式図である。
【
図2B】そのすくい面上にできた切屑による擦過痕を示す写真である。
【
図2C】そのすくい面上を流出した切屑の表面を示す写真である。
【
図3A】波状な後端部(案内部)を有する拘束面を通過した切屑が、その直下にあるすくい面上を流出する様子を示す模式図である。
【
図3B】そのすくい面上にできた切屑による擦過痕を示す写真である。
【
図3C】そのすくい面上を流出した切屑の表面を示す写真である。
【
図5A】変態面からなる拘束面の第1例を示す平面図である。
【
図5B】変態面からなる拘束面の第2例を示す平面図である。
【
図5C】変態面からなる拘束面の第3例を示す平面図である。
【
図5D】変態面からなる拘束面の第4例を示す平面図である。
【
図5E】変態面からなる拘束面の第5例を示す平面図である。
【
図5F】変態面からなる拘束面の第6例を示す平面図である。
【
図8】誘導路の経路と断面形状が変化する形態例を示す図である。
【
図9】誘導路が切削油の油路を兼ねる一例を示す図である。
【
図10A】チップとクランプ治具(誘導路形成治具)により誘導路が構成される一例を示す平面図である。
【
図11A】チップとクランプ治具(誘導路形成治具)により誘導路が構成される別例を示す平面図である。
【
図12A】拘束工具を用いた旋削加工の様子を示す写真である。
【
図12B】平面工具を用いた旋削加工の様子を示す写真である。
【
図13】切取り厚さと流出角度の関係を示すグラフである。
【
図14A】誘導路を有する拘束工具の刃先形状を示す図である。
【
図14B】その拘束工具を用いた旋削加工の様子を示す写真である。
【
図15A】従来の平面工具を用いた旋削加工の様子を示す模式図である。
【
図15B】従来の拘束工具を用いた旋削加工の様子を示す模式図である。
【
図15C】チップブレーカを有する切削工具を用いた旋削加工の様子を示す模式図である。
【
図16】従来の送り量と切込みに対する切屑処理性能を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で説明する内容は、本発明の切削工具のみならず切削方法にも適宜該当し得る。切削方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば切削品に関する構成要素ともなり得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《拘束面》
(1)意義
本発明に係る切屑は、誘導路を介してすくい面の下方へ誘導される。もっとも、切れ刃で切離(剪断)された直後の切屑の流出方向自体がすくい面の下方であると、切屑を誘導路の入口へ誘導し易く、また誘導路内における切屑の流動性も高まって好ましい。
【0018】
なお、本明細書でいう「すくい面の下方」とは、すくい面を境界面として、すくい角が増大する方向である。逆に、すくい面の上方とは、すくい角が減少する方向であり、切れ刃で切離された直後の切屑が存在する側である。
【0019】
ところで、平面工具を用いた場合でも、すくい角を大きくしたり、切削方向とすくい面の角度を調整したりすることにより、切屑の流出方向をすくい面の下方とすることが可能である。しかし、すくい角を大きくすると、刃先が鋭くなり、工具強度が低下して工具欠損を生じ易くなる。また、多くの切削加工(特に旋削加工)の場合、切削方向とすくい面は略直角であるため、現実には上記の角度調整は容易ではない。
【0020】
一方、拘束工具を用いると、切屑の流出方向がすくい面の下方となることが本発明の研究により明らかとなった。これは、切屑とすくい面の接触面積(接触長さ)の減少により、切屑をすくい面に沿って流出させる力が減少し、切屑に切削方向の力がより大きく作用するようになったため、つまり切屑に作用する合力がすくい面の下方側に向くようになったためと考えられる。
【0021】
そこで本発明の切削工具は、切れ刃から連なってすくい面の刃先側に設けられ、切屑とすくい面との接触領域を拘束する拘束面をさらに有する拘束工具であると好ましい。拘束工具を用いることにより、拘束面から離脱した切屑が誘導路へ大幅に誘導され易くなる。また拘束工具を設けると、すくい角を大きくする必要もないため、工具欠損の抑止も図れる。
【0022】
(2)形態
本発明に係る拘束面は種々の形態をとり得る。拘束面の形態は、被削材の種類(材質)、切削の種類(旋削、平削り等)、加工条件(切削速度、切込み、送り等)、誘導路の位置等に応じて適宜、変更または選択される。なお、本明細書でいう「拘束面」は、それを構成する単なる平面または曲面のみならず、適宜、それらの面を含む刃先部を意味する。
【0023】
拘束面の種々の形態例を
図1に示した。いずれも、拘束面を含む刃先部の切れ刃稜線に垂直な断面形状を示したものである。
図1に示した拘束面11は、本来のすくい面C1よりもすくい角を大きくし、積極的に切屑の流出角度を負側にして、切屑の流出方向を本来のすくい面C1の下方へ向けるものである。なお、本明細書でいう流出角度は、すくい面を0°として、すくい面の下方側を負、反対側を正とする。
【0024】
拘束面12は、切屑の流出方向がすくい面C1の下方(流出角度が負角)となることを前提に、すくい角を小さくして、刃先部の強度を向上させたものである。拘束面13は拘束面11の平面を曲面としたものであり、拘束面14は拘束面12の平面を曲面としたものである。このように拘束面を曲面とすることにより、切屑の流出角度と刃先強度の両立が可能となる。拘束面15は拘束面を階段状としたものであり、拘束面16は他面状としたものである。このよう拘束面を複数(平)面で構成することにより、拘束面から離脱した切屑の流出角度の調整が容易となる。
【0025】
(3)案内部
本発明に係る拘束面は、その後方側(後端部)が切れ刃に平行な直線状となっていてもよいが、さらに、切屑を誘導路の入口へ案内する案内部を有すると好ましい。この案内部により、拘束面を離脱して下方へ向かう切屑は、左右方向の散乱が抑制されて、効率的に誘導路へ導かれる。この点を以下に具体的に説明する。
【0026】
先ず、
図2Aに示すように、拘束面20の後端部202が切れ刃201に平行な直線状である場合、拘束面20を離脱した切屑の流出方向は、拘束面20に後続するすくい面C2上において左右に散らばり一方向に安定しない。このことは、
図2Bに示すように、実際に切削を行ったときに、すくい面C2にできた擦過痕が、拘束面20の後端部202を転写した模様となっていないことからもわかる。なお、このときの切屑表面(すくい面と接触した面)には、
図2Cに示すように、平滑で直線的な擦過痕が観られた。
【0027】
次に、
図3Aに示すように、拘束面21の後端部212が切れ刃211と異なる波形状である場合、拘束面21を離脱した切屑の流出方向は、すくい面C2上において一方向に安定し易い。これは
図3Bに示すように、実際にすくい面C2にできた擦過痕が拘束面21の後端部212をほぼ転写したものとなっていることからもわかる。このときの切屑表面(すくい面と接触した面)には、
図3Cに示すように、波状の擦過痕が観られた。
【0028】
なお、
図2B、
図2C、
図3Bおよび
図3Cに示した写真は、拘束面20、21とそれらに後続するすくい面C2を有する切削工具(
図15B参照)を用いて、アルミニウム合金パイプ(φ50×t2mm/JISA6063)の端面を、肉厚部の全幅旋削(回転数:1350rpm)したときに得られたものである。なお、拘束面20、21はすくい面C2に平行な平面とした。
【0029】
このように拘束面の後端部に案内部を設けることにより、すくい面上における切屑の流出方向の安定化(左右方向への散乱抑制)を図れる。この理由は次のように考えられる。案内部を設けると、切屑はその案内部の形状(例えば凹凸状)が転写された状態となり、案内部と嵌合しつつ流出する。そして切屑が単なる箔状ではなく波状(凹凸状)等となる場合、切屑は断面二次モーメントの増加により高剛性化し、切屑はより直進し易くなる。このように案内部との嵌合による切屑の拘束や切屑の高剛性化が相乗的に作用して、切屑は左右方向へ散乱することなく誘導路の入口へ導かれ易くなったと考えられる。
【0030】
本発明に係る案内部は、上述した波状(複数の凹凸状)の後端部からなる他、
図4に示すように、拘束面22の後端部222が一つの台形凹状となる場合でも、拘束面23の後端部232が一つの湾曲凹状となる場合でもよい。
【0031】
(4)変態面
拘束面は、その先端にある切れ刃に沿って延在する。その延在方向は、一定でも、変化してもよい。さらに、拘束面の断面形状(刃先稜線に垂直な断面)や面幅(刃先稜線に垂直な方向の長さ)、つまり拘束面の後端稜線も、切れ刃に沿って変化してもよい。このように拘束面(特に後端部または後端稜線)を変化させることにより、すくい面の下方向に流出する切屑を所望位置へ導くことが容易となる。このように本発明に係る拘束面は、切れ刃の稜線方向に沿って断面形状または幅が変化する変態面からなってもよい。
【0032】
変態面からなる拘束面の形態例を
図5A〜
図5Fに示した。
図5Aに示した拘束面31は、コーナ状に湾曲した切れ刃311と、その切れ刃311に平行な後端稜線312を有する変態面からなり、その内側にすくい面C3が連なっている。
図5Bに示した拘束面32は、コーナ状に湾曲した切れ刃311と、その切れ刃321とは非平行な異形の後端稜線322を有する変態面からなる。
図5Cに示した拘束面33は、拘束面31の平面を同図に示すような断面形状の曲面とした場合であり、コーナ状に湾曲した切れ刃331と、その切れ刃331と平行な後端稜線332を有する変態面からなる。
図5Dに示した拘束面34は、拘束面31の平面を位置によって断面形状が異なる曲面34a、34bとした場合であり、コーナ状に湾曲した切れ刃341と、その切れ刃341と平行な後端稜線342を有する変態面からなる。
図5Eに示した拘束面35は、コーナ状に湾曲した切れ刃351と、その切れ刃351に沿って延在する波状の後端稜線352を有する変態面からなる。
図5Fに示した拘束面36は、コーナ状に湾曲した切れ刃361と、その切れ刃351に沿って延在する波状の後端稜線362aと直線状の後端稜線362bを有する変態面からなる。これら拘束面35、36は、上述した案内部の機能を兼ねる。
図5A〜
図5Fに示した各拘束面を有する切削工具は、旋削等に用いる切削工具の刃先コーナ部に適する。
【0033】
《誘導路》
(1)概要
本発明に係る誘導管は、切れ刃の後方にあるすくい面側に切屑の入口を有し、切屑を少なくとも一時的にすくい面よりも下方へ誘導する溝状または穴状の通路からなる。入口はすくい面中にあってもよいし、すくい面中になくてもよい。切屑処理が適切になされる限り、誘導路の出口が設けられる位置は問わない。通常、出口は切屑が排出される側に設けられる。誘導路は、断面の一部が開口している開溝状でも良いし、断面が閉口している穴状(具体的には閉溝状またはトンネル状)の通路でもよい。
【0034】
(2)変態通路
誘導路は、切屑の流動が確保される限り、入口から出口までストレートに延在する通路でも良いし、その途中で曲がったり折れたりしていてもよい。また誘導路の断面形状も種々考えられ、円形、方形等の他、波形、その他の異形状でもよい。さらには、誘導路中の位置によって断面形状が変化してもよい。このように本発明に係る誘導路は、通路の断面形状または延在方向が変化する変態通路とすることにより、切屑の流動性、誘導位置(排出位置)等を自在に制御可能となる。
【0035】
誘導路の形態例を
図6に示した。誘導路41は、拘束面rfの直下に連なるすくい面cf上に入口(開口)を有し、上下方向に延在するストレート状の通路からなる。誘導路42は、その出口が拘束面rfの下方に配置された左傾斜路からなる。誘導路43は、その出口が拘束面rfの反対側下方に配置された右傾斜路からなり、途中に水平路を有する。なお、本明細書では適宜、刃先側(被削材側)を左側、その反対側を右側とする。誘導路44は、途中で折れ曲がって連なる右傾斜路と水平路を有し、右側面に出口が配設される。誘導路45は、途中で折れ曲がって連なる右傾斜路と水平路と左傾斜路とからなるV字状の通路からなり、出口がすくい面の後方となる。このような誘導路により、切屑を所望位置まで容易に導くことできる。
【0036】
また誘導路46は、通路幅または通路断面が徐々に拡大する右傾斜路からなる。これにより、誘導路内における切屑の詰まりを抑止できる。さらに誘導路47は、通路幅または通路断面が徐々に縮小する右傾斜路からなる。これにより、切屑を限定的な特定位置へ誘導できる。
【0037】
誘導路48は、入口近傍に拘束面rfから離脱して流出してくる切屑を受け止めて内部へ導入する断面三角形状の導入部481を有する。誘導路49は、誘導路48の導入部481の形状を断面台形形状の導入部491に変更したものである。このように誘導路の入口近傍に、切屑の誘導路内への導入を促進する導入部をさらに設けることにより、切屑を誘導路へ確実に導くことができる。
【0038】
(3)入口または通路断面
誘導路の入口または通路断面も種々の形状が考えられる。その入口または通路断面(以下、単に「入口」という。)の形態例を
図7に示した。入口51は、拘束面rfの直下にあるすくい面cf上にある長方形状の開口からなる。入口52は、長方形状開口の隅部を円弧状に丸めたものである。入口53は、三角形状開口の隅部を丸めたものである。
入口54は、楕円状の開口からなる。入口55は、楕円状開口の輪郭を波状にしたものである。入口56は、長方形状開口の輪郭を波状にしたものである。
【0039】
切屑の形態(厚さ、幅等)に応じて、適切な入口形状(通路断面形状も同様)を選択することにより、切屑を誘導路の入口から出口まで誘導し易くなる。例えば、誘導路の入口や通路の隅部を丸めることにより、切屑の挟まりや詰まりを抑制して、切屑を滑らかに出口まで誘導させることができる。また誘導路の内周面を波状とすることにより、その内周面と切屑の接触抵抗を低減させて、誘導路内における切屑の流動性を高めることができる。なお、誘導路の内周面の波状ピッチは、想定される切屑厚さよりも小さくすると、誘導路の内周面に切屑が付着等し難くなって好ましい。
【0040】
(4)誘導路の経路と断面形状
誘導路の経路と断面形状は、
図6に示したように通路内部(通路途中)で変化してもよい。このような誘導路を三次元的に観た別の形態例を
図8に示した。誘導路61は、長方形状の入口611および出口613と、それらの間を繋ぐ断面長方形状の内部通路612からなる。但し、内部通路612は、断面長方形状の通路がねじられている。誘導路61を用いれば、切屑をあらゆる位置まで所望の経路を経て誘導できるようになる。また誘導路62のように、入口621、内部通路622および出口623にかけて、通路の断面形状が長方形状から楕円状(または円状)に変化してもよい。誘導路61や誘導路62のように、入口と出口の向きや形状を適宜調整することにより、切屑の流動性と切屑の排出性を独立に調整可能となる。
【0041】
(5)油路
本発明に係る誘導路は、すくい面(特に拘束面)から離脱した切屑が導入される位置に入口がある。この入口は通常、切れ刃または加工点の近傍にある。そこで誘導路に切削油(加工油)が供給されると、その切削油は誘導路の入口から加工点へ供給され易くなる。また誘導路を油路の一部として兼用することにより、別途、油路を形成する必要もない。さらに切削油を加工点へ焦点を合わせた状態で確実に効率よく供給できるため、切削油の使用量も削減可能となる。
【0042】
従って本発明に係る誘導路は、切れ刃の近傍へ切削油を供給する油路の少なくとも一部を兼ねると好適である。誘導路への切削油の供給方法は種々考えられるが、その一例を
図9に示した。切削工具7は、拘束面71の直下から連なるすくい面C7に開口した入口721を有する誘導路72と、この誘導路72の内部で連通する供給油路73を有する。供給油路73から切削油が圧送されると、その切削油は誘導路72の入口721から噴出して、拘束面71さらには加工点へ供給される。このように本発明の切削工具は、切削油の供給油路を備え、誘導路がその途中で供給油路と連通していると好ましい。
【0043】
(6)対象
誘導路は、いわゆる交換刃具(スローアウェイチップ、単に「チップ」という。)に形成されても良いし、そのチップを保持するホルダーに形成されても良いし、チップを固定するクランプ治具等に形成されてもよい。また、それらが協働して誘導路を構成してもよい。
【0044】
そのような一形態である切削工具T1を
図10A〜
図10Cに示した。
図10Bは
図10AのA−A断面図を示し、
図10Cは
図10AのB−B断面図を示す。切削工具T1は、略正方形環状のチップ9と、チップ9に内挿される略正方形錐台状のクランプ治具81と、クランプ治具81を介してチップ9をホルダー(図略)に固定するボルト82を有する。チップ9の外周端側には環状の拘束面91(環状の切れ刃)が形成されており、4つのコーナ部でそれぞれ旋削が可能となっている。チップ9の内周面は開口面積が下方に向けて縮小するテーパー状になっている。チップ9の内周面に、クランプ治具81の錐台状の外周面が部分的に密接し得る。具体的にいうと、
図10Aに示すA−A方向では、
図10Bに示すようにチップ9の内周面とクランプ治具81の外周面は密着した状態となっている。一方、
図10Aに示すB−B方向では、
図10Cに示すようにチップ9の内周面とクランプ治具81の外周面は密着せずに隙間が生じており、この隙間が誘導路92となる。
【0045】
切削工具T1の変形例である切削工具T2を
図10Dに示した。切削工具T2は、切削工具T1のA−A断面(
図10B)を
図10Dに示す断面としたものである。具体的にいうと、切削工具T2は、切削工具T1のチップ9をチップ29とし、クランプ治具81をクランプ治具281とした。チップ29は、チップ9と同様に、4つのコーナ部でそれぞれ旋削が可能なように、それらコーナ部の外周端側にC字状の拘束面を有する。但し、各コーナ部の中間(各辺の中央付近)には拘束面を有さず、それらの各中間上端面はクランプ治具281により掛止される。チップ29とクランプ治具281とにより誘導路が形成される点は、切削工具T1の場合と同様である。
【0046】
さらに別形態である切削工具T3を
図11Aおよび
図11Bに示した。
図11Aは平面図であり、
図11BはそのA−A断面図を示す。切削工具T3は、略三角形状のチップ39と、チップ39に内挿される略三角形錐台状のクランプ治具381と、クランプ治具381を介してチップ39をホルダー(図略)に固定する2本のボルト382を有する。チップ39は、一つのコーナ部の外周端側にC字状の拘束面391(C字状の切れ刃)を有する。但し、その残りのコーナ部には拘束面が形成されておらず、それらの上端面はクランプ治具381により掛止される。チップ39とクランプ治具381により、拘束面391の後端側に誘導路392が形成される点は切削工具T1の場合と同様である。なお、切削工具T3は、その誘導路392の入口の近傍に、誘導路392に連通穴397を有する。連通穴397は、チップ39を固定するボルトの穴または切削油の供給油路に利用できる。
【0047】
このように本発明の切削工具は、切れ刃(さらには拘束面)を外周端側にC字状または環状に有するチップと、チップに内挿され、チップの内周面との間で誘導路を形成する外周面を有する誘導路形成治具(例えばクランプ治具)とを備えると好適である。なお、すくい面(拘束面)を有する刃具と、他部材(固定治具等)とが協働して誘導路が形成される例は、上述した構成例に限らず、種々考えられる。
【0048】
《その他》
(1)切削工具
本発明に係る切削工具は、その種類を問わないが、旋削工具であると好ましい。なお、本明細書でいう切削工具は、チップのような刃具部分のみでもよいし、ホルダーやシャンクを含むものでもよい。
【0049】
切削工具は、その材質を問わず、加工方法や被削材の特性に応じて適宜選択される。その一例として、高速度鋼(ハイス)、炭化タングステン(WC)とバインダーであるコバルト(Co)とを含む混合物を焼結した超硬合金、ダイヤモンド、CBN等がある。また切れ刃、すくい面、拘束面などは、耐摩耗性、摺動性、低摩擦化等に有効なDLC膜、TiN膜等でコーティングされていてもよい。
【0050】
(2)被削材
本発明に係る被削材は、その形態を問わない。被削材は、棒状、ブロック状、管状等いずれでも良く、その加工履歴や加工段階も問わない。また被削材の材質はいずれでも良く、鉄系材料(ステンレス鋼等)でも活性金属材料でもよい。活性金属材料として、アルミニウム系、チタン系、マグネシウム材料、銅系材料などがある。中でも、一般的に多用される一方で切削時に凝着を生じ易くて切屑処理が問題となり易いアルミニウム合金の切削に、本発明の切削工具が用いられると好ましい。なお、本明細書でいう「X系材料」とは、元素Xに係る純金属、合金および複合材を意味する。
【0051】
(3)切削環境
本発明の切削工具は、切削部分の冷却や潤滑を行う切削液が供給されるウエット環境下は勿論、そのような切削液が供給されないドライ環境下で使用されるものでもよい。
【実施例】
【0052】
本発明に係る誘導路または拘束面を評価するために、以下のような実験を行った。これらの実験結果に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
《実験例1》
(1)概要
実験用の平面工具と拘束工具をそれぞれ用意し、各工具を用いて旋削加工を行った。各場合における切取り厚さと切屑の流出形態(流出方向、流出角度)の関係を調べた。拘束工具を用いた旋削加工の様子を
図12Aに、平面工具を用いた旋削加工の様子を
図12Bにそれぞれ示した。また、各場合について得られた結果を
図13に併せて示した。
【0054】
この際、旋削加工は、被削材であるアルミニウム合金パイプ(φ50×t2mm/JISA6063)の端面側から、その肉厚部の全幅を切削して行った(近似二次元切削)。このときの被削材の回転数(切削速度)は1350rpmとした。また、平面工具のすくい面のすくい角も、拘束工具の拘束面のすくい角も0°とした(すくい面または拘束面を切削方向に対して垂直とした)。また拘束面は平面状とし、切れ刃から後端縁までの長さ(拘束面の幅)を0.25mmとした。さらに本実験では、切屑の純粋な流出を確認するために、ドライ環境下で切屑が拘束面以外に接触しないように拘束工具の形状を工夫した。なお、一回転当たりの送り量を変化させることで、切取り厚さに対する切屑流出状態を確認した。
【0055】
(2)評価
図12A、
図12Bおよび
図13から次のことがわかった。すくい角を0°とした平面工具の場合、切屑はそのすくい面に沿って流出し、この傾向は切取り厚さ(送り量)が変化しても変わらない。一方、拘束工具を用いた場合、拘束面のすくい角は0°でも、切屑の流出角度は0°以下(つまり流出方向が拘束面(すくい面)の下方)となった。また、その流出方向は切取り厚さが大きくなるほど大きくなる傾向を示したが、切取り厚さが小さいときでも、切屑の流出方向は十分にすくい面の下方となることもわかった。従って、拘束面を設けることにより、広範囲な加工条件下で切屑をすくい面の下方へ導くことが可能になることが明らかとなった。
【0056】
《実験例2》
(1)概要
拘束面と誘導路を有する拘束工具を用意した。この拘束工具の詳細な刃先形状は
図14Aに示した通りである。この拘束工具を用いて、上述した場合と同様に旋削加工を行った。そのときの様子を
図14Bに示した。
【0057】
(2)評価
図14Bから明らかなように、被削材から発生した切屑はすくい面の下方へ流出し、誘導路内へ導かれることがわかった。そして、その切屑は誘導路を通過して、その出口(図略)から排出されることも確認された。
【0058】
同様な実験を切取り厚さを種々変化させて行った。いずれの場合も、
図14Bのように切屑は誘導路を通過して排出された。なお、変化させた切取り厚さは、0.05mm、0.1mm、0.145mm、0.170mm、0.2mm、0.225mm、0.25mm、0.29mm、0.34mmおよび0.4mmの10種類とした。