特許第6303877号(P6303877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6303877ポリエーテルポリオール及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303877
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ポリエーテルポリオール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/28 20060101AFI20180326BHJP
   C07C 43/13 20060101ALI20180326BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180326BHJP
【FI】
   C07C41/28
   C07C43/13 DCSP
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-136587(P2014-136587)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-13986(P2016-13986A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英之
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−195687(JP,A)
【文献】 特開2010−222294(JP,A)
【文献】 特開平10−291951(JP,A)
【文献】 米国特許第4960951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/28
C07C 43/13
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することによる、下記一般式(2)で表されるポリエーテルポリオールの製造方法。
【化1】
【化2】
式(1)及び式(2)において、R〜Rは、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
【請求項2】
前記Rがメチル基またはエチル基である請求項1項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記Rと前記Rが共にメチル基である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記Rと前記Rが共にメチル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
エーテル化合物及び飽和炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む反応溶媒中で、前記一般式(1)で表される化合物を水素化還元する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水素化触媒はパラジウムを含む固体触媒である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記水素化触媒はジルコニウム化合物を含む固体触媒である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(3)で表されるポリエーテルポリオール
【化3】
式(3)において、R〜R10は、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
【請求項9】
下記一般式(4)で表されるポリエーテルポリオール
【化4】
式(4)において、Rはメチル基またはエチル基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルポリオール及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子内に複数の水酸基と複数のエーテル結合を併せ持つポリエーテルポリオールは様々なものが合成され、広く工業的に利用されている。ポリエーテルポリオールの中で最も一般的なものはポリエーテルジオールであり、この例としては酸化エチレン又は酸化プロピレンを開環重合したオキシアルキレン鎖の両端に水酸基を持つジオール化合物が公知である。また、上記のポリエーテルジオールよりも耐候性、耐酸化性または親油性といった特性を向上させる目的で2,2−ジアルキル−1,3−プロパンジオールのような4級炭素と、それに結合した4つの炭素原子を含み、それらが更に複数の酸素と結合したものからなる四級炭素骨格(以下、単に「ネオ骨格」ともいう。)を持つジオールに複数個の酸化エチレン又は酸化プロピレンを開環付加した改質型ポリエーテルジオールも知られている。
【0003】
さらにポリマー鎖を分岐させることによる性能向上や多数の官能基を導入する等の目的で、3個以上の水酸基と複数のエーテル結合を併せ持つポリエーテルポリオールも製造され、工業的に利用されている。具体的にはトリメチロールプロパンやペンタエリスリトールのようなネオ骨格を持つポリオールに複数個の酸化エチレン又は酸化プロピレンを開環付加した改質型ポリエーテルポリオールである。
【0004】
一方、3個以上の水酸基と複数のエーテル結合を併せ持ち、且つネオ骨格から構成されたポリエーテルポリオールの開示例は極めて少ない。その一つに特許文献1に開示されたものがある。
特許文献1の実施例1には酸触媒を用いた分子間脱水反応によるポリエーテルポリオールの製造方法として、トリメチロールプロパンからジ−トリメチロールプロパンと同時にトリ−トリメチロールプロパンが生成することが開示されている。
【0005】
また、別法として特許文献2に開示されたものがある。特許文献2の実施例1〜6には、オキセタン化合物の縮合反応によるポリエーテルポリオールの製造方法として、トリメチロールプロパンオキセタンとトリメチロールプロパンの開環縮合反応によりジ−トリメチロールプロパンと同時にトリ−トリメチロールプロパンが生成することが開示されている。同時に、特許文献2の実施例7にはトリメチロールプロパンオキセタンとネオペンチルグリコールの開環縮合反応によりネオペンチルグリコール−トリメチロールプロパンエーテルと同時に二種類のトリメチロールプロパンとネオペンチルグリコールからなる三量体エーテルが生成することが開示されている。
【0006】
また、特許文献3の段落0050〜0052にはオキシアルキレン部位が経時的に酸化されて変質すること、そのためにプロポキシル化したネオペンチルグリコール誘導体を用いてポリマーの主鎖を形成した場合には、所定の性能を発揮できないことが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平6−501470号公報
【特許文献2】国際公開2001/14300号
【特許文献3】特表2004−514014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリエーテルポリオールにあって、その分子内に酸化エチレン又は酸化プロピレンによるオキシアルキレン骨格の構造単位を持つものについては、その化学安定性の低さのために経時的に酸素や光によって酸化され、劣化しやすいという問題がある。
これは上述の化学安定性に勝るネオ骨格が部分的に導入された改質型ポリエーテルジオール及び改質型ポリエーテルポリオールについても、オキシアルキレン骨格の構造単位を分子内に含むために本質的に避けられない共通した問題である。
【0009】
よってポリマーを改質したり、多数の官能基を導入する等の目的で3個以上の水酸基と複数のエーテル結合を併せ持ち、且つ化学安定性に優れたネオ骨格を有すポリエーテルポリオールが望まれている。
【0010】
特許文献1に記載の方法ではネオ骨格を有すポリエーテルポリオールであるトリ−トリメチロールプロパンの生成の記載があるが、大量のジ−トリメチロールプロパンや高沸副生物が伴うため、その収率は3%にも満たない。また、特許文献2に記載の方法では原料となるオキセタン化合物が高価である上に反応性が極めて高く副反応を起こしやすいために、特許文献1と同様に大量の副生物を伴い、トリ−トリメチロールプロパンの収率はトリメチロールプロパンオキセタン基準で評価しても最高で40%台に留まる。そのため、効率的なネオ骨格を有すポリエーテルポリオールの製造方法が望まれていた。
【0011】
特許文献2の実施例7にはポリエーテルポリオールとしてトリメチロールプロパンとネオペンチルグリコールを構成成分とする三量体エーテルが二種類生成することが開示されている。しかし、それら化合物の具体的な化学構造の明示はない。さらにそれら化合物はガスクロマトグラフ分析の百分率で低い値が記載されているのみで明確な生成量の記載もない。
【0012】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、ポリエーテルポリオールを効率良く製造する方法及びその製造方法により得られる新規なポリエーテルポリオール化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリエーテルポリオールを効率良く製造する方法について鋭意研究を重ねた。その結果、水素化触媒の存在下に特定の環状アセタール化合物を水素化することによりポリエーテルポリオールを効率良く製造する方法を見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]
水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することによる、下記一般式(2)で表されるポリエーテルポリオールの製造方法。
【化1】
【化2】
式(1)及び式(2)において、R〜Rは、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
[2]
前記Rがメチル基またはエチル基である[1]に記載の製造方法。
[3]
前記Rと前記Rが共にメチル基である[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
前記Rと前記Rが共にメチル基である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5]
エーテル化合物及び飽和炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む反応溶媒中で、前記一般式(1)で表される化合物を水素化還元する、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6]
前記水素化触媒はパラジウムを含む固体触媒である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7]
前記水素化触媒はジルコニウム化合物を含む固体触媒である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の製造方法。
[8]
下記一般式(3)で表されるポリエーテルポリオール
【化3】
式(3)において、R〜R10は、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を表す。
[9]
下記一般式(4)で表されるポリエーテルポリオール
【化4】
式(4)において、Rはメチル基またはエチル基を表す。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により、ポリエーテルポリオールを効率良く製造することができる。また、ネオ骨格を有す新規のポリエーテルポリオールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその本実施形態のみに限定されない。本実施形態のポリエーテルポリオールの製造方法は、水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、下記一般式(2)で表されるポリエーテルポリオールを得るものである。
【化5】
【化6】
【0016】
ここで、式(1)及び式(2)中、R〜Rは、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖のまたは分岐したアルキル基を表す。式(1)の化合物には複数の幾何異性体が存在する。さらにRとRまたはRとRが互いに異なる場合には式(1)及び式(2)の化合物には複数の光学異性体が存在する。
【0017】
<原料化合物>
本実施形態のポリエーテルポリオールの製造方法(以下、単に「製造法」ともいう。)に原料として用いる化合物は、上記一般式(1)で表される1,3−ジオキサン骨格を有する六員環アセタール化合物(以下、「化合物(1)」という。)である。
【0018】
本実施形態に用いられる化合物(1)の合成原料や製法等に特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。最も簡便で効率的な化合物(1)の製造法は、下記一般式(5)で表されるポリオールエーテルと3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドとを酸触媒などにより脱水環化させる方法である。また、それ以外にも下記一般式(5)で表されるポリオールエーテルと3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドの低級アルコールアセタールとのアセタール交換反応による製造法などであってもよい。
【化7】
ここで、式(5)中、R〜Rは、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖のまたは分岐したアルキル基を表す。
【0019】
上記一般式(5)で表されるポリオールエーテルと3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドとを脱水環化して、化合物(1)を製造する場合に採用できる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドとしては、例えば、下記のA群から選ばれる化合物が挙げられる。
[A群]
3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2,2−ジエチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−メチル−2−エチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−メチル−2−プロピル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−エチル−2−ブチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−プロピル−2−ペンチル−プロピオンアルデヒド、
3−ヒドロキシ−2−メチル−2−ヘキシル−プロピオンアルデヒド。
この時、A群の化合物のプロピオンアルデヒド骨格の2位の炭素原子に結合した置換基が一般式(1)におけるR及びRに該当する。
【0020】
また、この場合に適用できる上記一般式(5)で表されるポリオールエーテルとしては、例えば、下記のB群から選ばれるポリオールと下記のC群から選ばれるポリオールの二分子間で脱水したような構造をとる化合物が挙げられる。
[B群]
2−ヒドロキシメチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール(トリメチロールエタン)、
2−ヒドロキシメチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(トリメチロールプロパン)、
2−ヒドロキシメチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、
2−ヒドロキシメチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、
2−ヒドロキシメチル−2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、
2−ヒドロキシメチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール。
この時、B群の化合物の2位の炭素原子に結合したアルキル基が一般式(5)におけるRに該当する。
【0021】
[C群]
2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、
2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、
2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、
2−プロピル−2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、
2−メチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオール。
この時、C群の化合物の2位の炭素原子に結合した置換基が一般式(5)におけるR及びRに該当する。
【0022】
上記一般式(5)で表されるポリオールエーテルの製造法に特に制限はない。例えば、酸触媒の存在下にB群から選ばれるポリオールとC群から選ばれるポリオールの二分子間脱水反応によって得たものであっても良いし、B群から選ばれるポリオールとA群から選ばれる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドから酸触媒の存在下に分子間脱水反応によって環状アセタール化合物を合成し、それを水素化還元して得たものであっても良い。
【0023】
上記一般式(1)のR〜Rとしては、例えば、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、及び1−エチル−2−メチルプロピル基が挙げられる。これらの中では、R〜Rがそれぞれ独立して、メチル基、エチル基、n−プロピル基又は、1−メチルエチル基(イソプロピル基)であると好ましい。Rがメチル基またはエチル基であって、それ以外が共にメチル基であるとより好ましい。
【0024】
〜Rの組み合わせとしては、それぞれにおいて例示した上記のもののいずれの組み合わせであってもよい。本実施形態によれば、例えばA群、B群、C群の化合物の組み合わせを変えるなどして化合物(1)のR〜Rの置換基の組み合わせを適宜選択することにより、分子の大きさや極性などを変えることが可能であり、工業的な利用に適した所望のポリエーテルポリオールを製造できる利点がある。
【0025】
<水素化触媒>
I.特定金属成分
本実施形態において用いられる水素化触媒の有効成分としては、接触水素化能を有する金属元素(以下、「特定金属成分」という。)が挙げられる。特定金属成分としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、イリジウム、銅、銀、モリブデン、タングステン、クロム及びレニウムが挙げられる。特定金属成分は、水素化能を示すのであれば、金属の状態であっても、陽イオンの状態であってもよい。
【0026】
これらの中では、一般的には金属状態の方が、水素化能が強く、還元雰囲気下で安定であるため、金属の状態であることが好ましい。特定金属成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、固体触媒に含有された状態で用いることができる。特定金属成分を2種以上用いる場合、それらの組み合わせ、混合比率及び形態について特に制限はなく、個々の金属の混合物、あるいは、合金又は金属間化合物のような形態で用いることができる。
【0027】
本実施形態において、水素化触媒は、パラジウム、白金、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の特定金属成分を含む固体触媒であると好ましく、特に好ましくはパラジウムを特定金属成分として含む固体触媒である。
【0028】
これらの特定金属成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられるものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体及びカルボニル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
本実施形態の水素化触媒は、金属成分として特定金属成分を単独で又は接触水素化能を有しない金属と組み合わせて用いることもできる。特定金属成分を単独で用いる例としては、特定金属成分の金属微粉末で構成されるパラジウムブラック及び白金ブラックのような触媒、特定金属成分および接触水素化能を有しない金属を組み合わせた例としては、特定金属成分とアルミニウムと少量の添加物とから合金を形成し、その後にアルミニウムの全部又は一部をリーチングさせることにより調製されるスポンジ触媒などが挙げられる。
【0030】
II. 特定添加成分
また、触媒の活性、選択性及び物性等を一層向上させるために、アルカリ金属元素としてリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム、アルカリ土類金属元素としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム、ハロゲン元素としてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素、補助添加元素として水銀、鉛、ビスマス、錫、テルル及びアンチモンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物(以下、特定添加成分と略す。)を、前述の特定金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。
【0031】
これらの特定添加成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられたものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びアンミン錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、特定添加成分の添加方法、及び特定添加成分と特定金属成分との比率についても特に制限はない。
【0032】
III. 特定非金属成分
本実施形態の水素化触媒において、特定金属成分に非金属物質を組み合わせて用いることもできる。非金属物質としては、例えば、主に、元素単体、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩及びリン酸塩が挙げられる(以下、「特定非金属成分」という。)。その具体例としては、例えば、グラファイト、ダイアモンド、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、アルミノシリケート、アルミノシリコホスフェート、アルミノホスフェート、ボロホスフェート、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸バリウムが挙げられる。特定非金属成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率、形態については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。
【0033】
工業的に用いる観点から、簡便で廉価に得られる特定非金属成分が好ましい。そのような特定非金属成分として好ましいのは、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びアパタイト化合物であり、より好ましくはジルコニウム化合物及びアパタイト化合物である。それらの中でも特に好ましいものは、酸化ジルコニウム及び水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)である。さらには、上述の特定添加成分を用いて、これらの特定非金属成分の一部又は全部を、修飾したりイオン交換したりしたものも用いることができる。
【0034】
また、特定非金属成分として、特定金属成分の炭化物、窒化物及び酸化物なども用いることが可能である。ただし、これらを水素還元雰囲気下に晒すと、一部が金属にまで還元されるため、このような場合には、一部が特定金属成分として、残りが非金属成分として用いられることになる。このような場合の例としては、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化タングステン及び酸化クロムなどの酸化物が挙げられる。
【0035】
IV. 水素化触媒
本実施形態の水素化触媒として、特定金属成分を単独で用いてもよく、特定金属成分と特定非金属成分とを組み合わせて用いてもよく、場合によっては、これらに加えて特定添加成分を含んでもよい。本実施形態の水素化触媒の製造法は特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。その例として、特定金属成分の原料化合物を、特定非金属成分上に含浸する方法(担持法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分の原料化合物とを適当な溶媒に共に溶解させた後にアルカリ化合物などを用いて同時に析出させる方法(共沈法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分を適当な比率で混合均一化する方法(混練法)などが挙げられる。
【0036】
水素化触媒の組成又は触媒調製法の都合によっては、特定金属成分を陽イオンの状態で調製した後に還元処理して、金属の状態とすることもできる。そのための還元方法及び還元剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア、ヒドラジン、ホスフィン及びシランのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。これらの還元剤が存在する気相中又は液相中で、陽イオンの状態の特定金属成分を還元処理することにより、特定金属成分は金属の状態に変換される。この時の還元処理条件は、特定金属成分及び還元剤の種類や分量などにより、好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0037】
また、本実施形態の水素化触媒の金属含有量及び形状にも特に制限はない。その形状は粉末状であっても成形したものであってもよく、成形した場合の形状及び成形法についても特に制限はない。例えば、球状品、打錠成形品及び押出成型品、並びにそれらを適当な大きさに破砕した形状を、適宜選択して用いることができる。
【0038】
特に好ましい特定金属成分はパラジウムであり、これを用いた触媒について以下に詳細に述べる。
特定金属成分がパラジウムである場合、パラジウムが貴金属であることを考慮すると、その使用量は少なく、かつパラジウムが有効に利用されることが経済的に望まれる。そのため、パラジウムを触媒担体に分散させて担持して用いることが好ましい。
【0039】
パラジウムの原料となるパラジウム化合物としては、水又は有機溶媒に可溶なパラジウム化合物が好適である。そのようなパラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム塩、テトラアンミンパラジウム塩、硝酸パラジウム及び酢酸パラジウムが挙げられる。これらの中では、水又は有機溶媒に対する溶解度が高く、工業的に利用しやすいので、塩化パラジウムが好ましい。塩化パラジウムは、塩化ナトリウム水溶液、希塩酸、またはアンモニア水等に溶解して用いることができる。
【0040】
パラジウム化合物の溶液を触媒担体に添加するか、あるいは、触媒担体をパラジウム化合物の溶液に浸漬するなどして、触媒担体上にパラジウム又はパラジウム化合物を固定化する。固定化の方法は担体への吸着、溶媒留去による晶析、パラジウム化合物と作用する還元性物質及び/又は塩基性物質を用いた析出沈着のような方法が一般的であり、適宜好適な方法が用いられる。このような方法により調製される水素化触媒におけるパラジウムの含有量は、金属パラジウム換算で、水素化触媒の全量に対して0.01〜20質量%であると好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.5〜5質量%である。パラジウムの含有量が0.01質量%以上であることにより、十分な水素化速度が得られ、化合物(1)の転化率が高くなる傾向がある。一方、パラジウムの含有量が20質量%以下であると、パラジウムの水素化触媒における分散効率が高くなる傾向があるので、より有効にパラジウムを用いることができる。
【0041】
パラジウム化合物や触媒調製法の都合によっては、パラジウムは金属の状態ではなく、陽イオンの状態で担体に担持される場合がある。その場合、担持された陽イオンのパラジウム(例えば、パラジウム化合物の状態で存在)を金属パラジウムへ還元してから用いることもできる。そのための還元方法及び還元剤は、従来公知のものを採用することができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア及びヒドラジンのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、エチレン、プロピレン、ベンゼン及びトルエンのような炭化水素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。陽イオンのパラジウムを還元剤と気相中又は液相中で接触させることにより、容易に金属パラジウムに還元することができる。この時の還元処理条件は、還元剤の種類及び分量などにより好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0042】
本発明の特定金属成分と共に用いられる特定非金属成分として、好ましいものの1種はジルコニウム化合物であり、これを含む水素化触媒について、以下に詳細に述べる。
本実施形態に用いられるジルコニウム化合物は、好ましくは、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコン酸アルカリ土類塩、ジルコン酸希土類塩及びジルコンからなる群より選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものである。
【0043】
特に好ましいジルコニウム化合物は酸化ジルコニウムであり、その製法に特に制限はない。例えば、一般的な方法として知られているのは、可溶性ジルコニウム塩の水溶液を塩基性物質で分解して、水酸化ジルコニウム又は炭酸ジルコニウムとし、その後に熱分解するなどして調製する方法である。このときのジルコニウム化合物の原料に制限はなく、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアルコキシド、酢酸ジルコニウム及びジルコニウムアセチルアセトナートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、分解のために用いられる塩基性物質としては、例えば、アンモニア、アルキルアミン類、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化マグネシム、水酸化カルシウム、水酸化ランタン、水酸化イットリウム及び水酸化セリウムが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0044】
特定非金属成分として酸化ジルコニウムを用いる場合、その物性や形状などに特に制限はない。また、酸化ジルコニウムの純度にも、特に制限はなく、市販されている汎用から高純度品のレベルの純度のものを、適宜用いることができる。
【0045】
ジルコニウム化合物に代表される特定非金属成分を触媒担体として用いる際、これらの担体の形状や粒径、気孔率などの物性値や金属成分を担持する方法などについても、特に制限はない。反応方式や条件に好適な形状、担体物性、担持方法などを適宜選択して用いることができる。また、これらを触媒担体として用いる時のBET比表面積にも特に制限はなく、0.1〜400m/g程度の一般的な比表面積のものを用いることができるが、1〜300m/gのものが好ましく、10〜200m/gのものがより好ましい。
【0046】
<水素化還元反応>
本実施形態の水素化還元に用いられる溶媒については、原料である化合物(1)のみを用い無溶媒の環境下で反応を行ってもよく、反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒を用いる場合、水素化還元に不活性な状態であれば、その種類や濃度に特に制限はない。ただし、化合物(1)よりも水素化触媒における特定金属成分と強く相互作用するような反応溶媒を用いると、極端に反応速度が低下したり、反応が停止したりすることがある。このような観点から、例えば、リン、窒素、硫黄を含有する化合物は、反応溶媒として用いない方が好ましいが、反応速度に大きく影響を与えない程度の微量であれば、用いてもよい。反応溶媒として好ましいのは、飽和炭化水素化合物、エステル化合物及びエーテル化合物であり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0047】
反応溶媒を用いて反応を行う場合の化合物(1)と反応溶媒の比率に特に制限はないが、両者の混合物中の化合物(1)の割合として1〜60重量%の範囲が好ましい。1重量%以上であれば反応効率が良く経済性に優れる傾向があり、60重量%よりも少なければ化合物(1)の分子間副反応の併発による選択性低下を避けやすい傾向がある。
【0048】
反応溶媒としては、例えば、飽和炭化水素化合物として、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、2,2−ジメチル−ブタン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、iso−オクタン、n−ノナン及びiso−ノナンやその異性体、n−デカン、n−ペンタデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン及びその異性体並びにデカリン、エステル化合物として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、n−酪酸メチル、n−酪酸エチル、n−酪酸ブチル、i−酪酸メチル、n−酪酸シクロヘキシル、i−酪酸シクロヘキシル及び吉草酸メチル及びその異性体、エーテル化合物として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジiso−プロピルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジiso−ブチルエーテル、ジsec−ブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、エチルシクロペンチルエーテル、エチルシクロヘキシルエーテル、プロピルシクロペンチルエーテル、プロピルシクロヘキシルエーテル、ブチルシクロペンチルエーテル、ブチルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン及びジメチル−1,4−ジオキサン並びにそれらの異性体類が挙げられる。なお、本明細書において、反応溶媒としての飽和炭化水素化合物には、直鎖の、分岐した、及び環状のアルカンが包含される。
【0049】
これらの中で、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、2,2−ジメチル−ブタン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジiso−プロピルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジiso−ブチルエーテル、ジsec−ブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン及び1,4−ジオキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ジiso−プロピルエーテル、1,4−ジオキサン、及びノルマルヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0050】
本実施形態における水素化還元の反応系は、化合物(1)、又はそれと反応溶媒とを含む液相、水素ガスの気相、及び水素化触媒の固相から形成され、これらが共存して行われる反応形式であれば特に制限はない。本実施形態の水素化還元における反応容器のタイプは、管型、槽型、釜型などの従来公知のいずれかの形式を用いることができる。また、原料組成物の供給方法は、流通方式及び回分方式のいずれであってもよい。水素化触媒は、固定床、流動床及び懸濁床など従来公知のいずれかの方式を採用することができ、特に制限はない。固定床流通方式の場合、灌液流状態及び気泡流状態でも反応を行うことができる。原料液の流通方向は、重力方向へ流通するダウンフロー、それとは逆方法へ流通するアップフローのいずれであってもよく、原料ガスの供給方向も原料液に対して並流、向流のいずれであってもよい。
【0051】
本実施形態の水素化還元における反応温度は、50〜350℃が好ましく、より好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜280℃である。反応温度が50℃以上であると、より高い水素化速度が得られやすくなる傾向があり、350℃以下であると、原料の分解を伴う副反応をより抑制でき、目的物の収量を更に高めることができる傾向がある。
【0052】
本実施形態の水素化還元における反応圧力は、好ましくは0.1〜30MPaであり、より好ましくは2〜15MPaである。反応圧力が0.1MPa以上であることにより、より高い水素化速度が得られやすくなり、化合物(1)の転化率が向上する傾向があり、30MPa以下であると、反応設備コストをより低く抑えることができ、経済的に好ましい傾向がある。
【0053】
本実施形態の水素化還元に用いられる水素ガスは、特に高純度に精製されたものでなくてもよく、工業的な水素化反応に用いられている通常の品質であってもよい。また、水素化反応が水素分圧に依存して促進されるため、用いられる水素ガスの純度は高い方が好ましいが、水素ガスをヘリウム、アルゴン、窒素及びメタン等の反応に不活性なガスと混合してもよい。反応系内における化合物(1)に対する水素ガスの比率は、回分反応の場合、化合物(1)に対する水素ガスの仕込みモル比として、流通反応の場合、化合物(1)に対する水素ガスのモル換算の供給速度比として表すと、好ましくは0.1〜300、より好ましくは0.5〜100である。水素ガスの仕込みモル比またはモル換算の供給速度比が0.1以上であると、水素化反応がより促進される傾向があり、水素ガスの仕込みモル比またはモル換算の供給速度比が300以下であると、過剰な水素ガスを循環利用させるための設備コストをより低く抑えることができる傾向がある。
【0054】
<ポリエーテルポリオール化合物>
次に、本実施形態のポリエーテルポリオールについて詳細に説明する。分子内に3個以上の一級水酸基と複数のエーテル結合を併せ持ち、且つネオ骨格を有すポリエーテルポリオールとしては特許文献1及び2に記載のトリ−トリメチロールプロパンがある。これらは実質的に4個以上の水酸基を持つため、例えばポリマー鎖に少量導入して強度を向上させるには架橋度が上がり過ぎて好ましくなく、また水酸基が多すぎるために極性が高く、親油性を改善する目的にも適していない。
【0055】
分子内に3個の一級水酸基と複数のエーテル結合を併せ持ち、且つネオ骨格を有すポリエーテルポリオールについては、上記のような用途に対して工業的な利用が期待できるものの知られていない。
【0056】
本実施形態によれば、上記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、3個の一級水酸基と複数のエーテル結合を併せ持ち、且つネオ骨格を有すポリエーテルポリオールを容易に効率良く製造することができる。本実施形態によって製造可能となる新規なポリエーテルポリオールは、下記一般式(3)で表されるものである。
【化8】
【0057】
上記一般式(3)で表される化合物は式中のR〜R10が、それぞれ同じまたは異なってよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基からなるものである。R〜R10がそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、及び1−エチル−2−メチルプロピル基であるものが挙げられる。これらの中では、R〜R10がそれぞれ独立してメチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)であると好ましい。R8がメチル基またはエチル基であって、それ以外が共にメチル基であるとより好ましい。
上記一般式(3)で表されるポリエーテルポリオールは新規物質である
【0058】
上記一般式(3)において、特に好ましい構造を下記一般式(4)に記した。これは上記一般式(3)において、R、R、R及びR10を全てメチル基にしたものであり、Rはメチル基またはエチル基から選ばれるとより好ましい。
【化9】
【0059】
このようにして得られるポリエーテルポリオールは、分子内に3個の一級水酸基と2つのエーテル結合を併せ持ち、且つネオ骨格を有す構造のポリエーテルポリオールであり、樹脂、塗料、接着剤などの工業原料として利用できる。
【0060】
<一般式(3)化合物の製造プロセス>
一般式(3)の化合物の製造方法としては限定されるものではないが、以下の工程(a)〜(d)を含む製造方法も挙げられる。
工程(a);段落0019記載のA群から選ばれる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと段落0020記載のB群から選ばれるポリオール化合物とを脱水環化して、下記一般式(6)で表されるアセタール化合物を製造する工程、
工程(b);下記一般式(6)で表されるアセタール化合物を水素化還元することにより、下記一般式(7)で表されるポリオールエーテル化合物を製造する工程、
工程(c);段落0019記載のA群から選ばれる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと下記一般式(7)で表されるポリオールエーテル化合物とを脱水環化して、下記一般式(8)で表されるアセタール化合物を製造する工程、
工程(d);下記一般式(8)で表されるアセタール化合物を本実施形態の水素化触媒の存在下に水素化還元することにより、上記一般式(3)で表されるポリエーテルポリオールを製造する工程、
【0061】
【化10】
ここでR〜Rは一般式(3)におけるものと同義である。
【化11】
ここでR〜Rは一般式(3)におけるものと同義である。
【化12】
ここでR〜R10は一般式(3)におけるものと同義である。
【0062】
工程(a)の反応スキームを反応式(9)に示した。
【化13】
工程(a)は上記のA群から選ばれる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと上記のB群から選ばれるポリオール化合物とを脱水環化して、上記一般式(6)で表されるアセタール化合物を製造する工程であって、この時の脱水環化方法としては従来公知な方法を用いることができる。例えば塩酸,硫酸のような無機酸やパラトルエンスルホン酸のような有機スルホン酸、酸性イオン交換樹脂,シリカーアルミナ,アルミノシリケートのような固体酸触媒などの従来公知な触媒を用い、0〜200℃程度の反応温度で、無溶媒または任意の有機溶媒の存在下に反応を行う。副生する水を抜き出した方が好ましく、水単独で抜き出す方法や有機溶媒と共に共沸させて抜き出す方法などを用いることができる。反応によって生成した上記一般式(6)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができる。上記のA群の化合物のプロピオンアルデヒド骨格の2位の炭素原子に結合した置換基が反応式(9)におけるR及びRに、上記のB群のポリオール化合物の2位の炭素原子に結合したアルキル基が反応式(9)におけるRに該当し、これらは一般式(3)のものと同義である。
【0063】
工程(b)の反応スキームを反応式(10)に示した。
【化14】
工程(b)は上記一般式(6)で表されるアセタール化合物を水素化還元することにより、上記一般式(7)で表されるポリオールエーテル化合物を製造する工程であって、この時の水素化還元方法としては、従来公知な方法として例えば水素化還元のための試薬を用いた水素化還元法であってよく、本実施形態として段落0035〜0045記載の水素化触媒を用いた水素ガスによる水素化還元法であってよい。水素化触媒を用いた水素ガスによる水素化還元法を用いる場合には、上述の触媒種、反応溶媒、反応条件等を採用することも可能である。反応によって生成した上記一般式(7)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができる。上記の化式BにおけるR〜Rは、一般式(3)におけるものと同義である。
【0064】
工程(c)の反応スキームを反応式(11)に示した。
【化15】
工程(c)は上記のA群から選ばれる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと上記一般式(7)で表されるポリオールエーテル化合物とを脱水環化して、上記一般式(8)で表されるアセタール化合物を製造する工程であって、この時の脱水環化方法としては従来公知な方法を用いることができる。例えば塩酸,硫酸のような無機酸やパラトルエンスルホン酸のような有機スルホン酸、酸性イオン交換樹脂,シリカーアルミナ,アルミノシリケートのような固体酸触媒などの従来公知な触媒を用い、0〜200℃程度の反応温度で、無溶媒または任意の有機溶媒の存在下に反応を行う。副生する水を抜き出した方が好ましく、水単独で抜き出す方法や有機溶媒と共に共沸させて抜き出す方法などを用いることができる。反応によって生成した上記一般式(8)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができる。この工程は、上記の工程(a)と同様のまたは類似した方法であって良い。上記のA群の化合物のプロピオンアルデヒド骨格の2位の炭素原子に結合した置換基が反応式(11)におけるR及びR10に該当し、これらは一般式(3)のものと同義である。工程(a)に用いられる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと工程(c)で用いられるものとは同じであっても異なっていても良い。化式CにおけるR〜R10は、一般式(3)におけるものと同義である。
【0065】
工程(d)の反応スキームを反応式(12)に示した。
【化16】
工程(d)は上記一般式(8)で表されるアセタール化合物を本実施形態の水素化触媒の存在下に水素化還元することにより、上記一般式(3)で表されるポリエーテルポリオールを製造する工程であって、この時の水素化還元方法としては、本実施形態として段落0035〜0045記載の水素化触媒を用いた水素ガスによる水素化還元法が用いられる。反応によって生成した上記一般式(3)で表される化合物は再結晶、抽出、蒸留などの従来公知な方法により単離することができる。化学式(12)におけるR〜R10は、一般式(3)におけるものと同義である。
【0066】
このような製造プロセスを採用した場合には、工程(a)及び工程(c)が同様の反応機構で進行するために、反応に関する触媒,反応溶媒,及び反応装置などが同一または類似しており、これらの少なくとも一部分を共用することによって設備投資を少なくできるメリットがある。さらに工程(b)と工程(d)についてもどちらも本実施形態の水素化還元法を用いれば、触媒,反応溶媒,及び反応装置などの少なくとも一部分を共用することによって設備投資を少なくできるメリットがあるため、上記の工程群からなる製造プロセスは有意義な経済効果を見込むことができる。
【0067】
さらに上記一般式(4)で表されるポリエーテルポリオールの製造方法として、この製造プロセスを用いる場合には工程(a)、工程(c)で用いられる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドとしては工業的に入手が容易な3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロピオンアルデヒドのみがあればよく、それに関する原料容器,移送器具などの少なくとも一部分を共用できるため、製造装置が極めて簡便になり、より経済的に好ましい。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明の製造方法について、実施例及び比較例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明は要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
水素化還元の反応成績の評価は、仕込原料、並びに反応液中の原料、及び生成したポリエーテルポリオールをガスクロマトグラフによって算出し、それぞれのモル数を基準として評価した。
原料アセタール(化合物(1))の転化率(%)=
100×[1−(反応液に残存する原料のモル数)/(仕込原料のモル数)]
各生成ポリエーテルポリオールの選択率(%)=
100×(目的とする生成物のモル数)/[(仕込原料のモル数)−(反応液に残存する原料のモル数)]
ただし、化合物(1)に異性体が存在する場合、それらの異性体を合算した値を用いた。
ガスクロマトグラフの測定には以下の機器を用いた。
装置:GC−2010 島津製作所製
カラム:DB−1 アジレント・テクノロジー社製
【0070】
反応液からクロマトグラフ法により生成物を単離した。これには下記の材料を使用した。
充填剤:和光純薬製、商品名「ワコーゲルC−200」
展開溶媒:メタノール−クロロホルム

単離した生成物の同定はH−NMR、13C−NMR測定によって行った。測定条件を下記に示す。
装置:ECA500 日本電子株式会社製
H−NMR
核種:
測定周波数:500MHz
測定試料:5%CDOD溶液
13C−NMR
核種:13
測定周波数:125MHz
測定試料:5%CDOD溶液
【0071】
反応原料である化合物(1)(環状アセタール化合物)は以下の方法により調製した。これは製造プロセスの工程(c)に相当する。
【0072】
<原料調製例1>
(3−[5−エチル−2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−エチル)−1,3−ジオキサン−5−イルメトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)38.4gと、後述の参考例1と同様の方法で調製した2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−プロパン−1,3−ジオール82.8gと、ベンゼン522gと、粒状ナフィオン(商品名「NR−50」、シグマアルドリッチ社試薬)5.4gと、を2リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で生成する水をベンゼンと共沸させながらディーン・スターク・トラップを用いて系外へ抜き出して、水の留出が止まるまで反応させることにより、3−[5−エチル−2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−エチル)−1,3−ジオキサン−5−イル−メトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物1A」と表記する。)を幾何異性体の合計として105.1g得た。下記に、この合成反応スキームを示す。
原料調製例1の化合物(1)合成反応
【化17】
【0073】
<原料調製例2>
(3−[2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−エチル)−5−メチル−1,3−ジオキサン−5−イル−メトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オールの調製)

2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド38.4gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)27.6gを用い、2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−プロパン−1,3−ジオール82.8gに代えて後述の参考例2と同様の方法で調製した2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−プロパン−1,3−ジオール55.4gを用いた以外は原料調製例1と同様にして、3−[2−(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチル−エチル)−5−メチル−1,3−ジオキサン−5−イル−メトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物2A」と表記する。)を幾何異性体の合計として72.9g得た。下記に、この合成反応スキームを示す。
原料調製例2の化合物(1)合成反応
【化18】
【0074】
<担体調製例1>
金属成分の担体として用いた酸化ジルコニウムを下記の方法で調製した。
酸化ジルコニウム(ZrO)換算で25質量%の濃度のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液505gに、撹拌しながら28%アンモニア水15.5gを滴下することにより白色沈殿物を得た。これを濾過し、イオン交換水で洗浄した後に、110℃、10時間乾燥して含水酸化ジルコニウムを得た。これを磁製坩堝に収容し、電気炉を用いて空気中で400℃、3時間の焼成処理を行った後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状酸化ジルコニウムを得た。この担体のBET比表面積(窒素吸着法により測定。以下同様。)は102.7m/gであった。
【0075】
<触媒調製例1>
パラジウムを特定金属成分とする触媒を下記の方法で調製した。
5.0gの担体調製例1で得た担体に0.66質量%塩化パラジウム−0.44質量%塩化ナトリウム水溶液を添加し、担体上に金属成分を吸着させた。そこにホルムアルデヒド−水酸化ナトリウム水溶液を注加して吸着した金属成分を瞬時に還元した。その後、イオン交換水により触媒を洗浄し、乾燥することにより1.0質量%パラジウム担持酸化ジルコニウム触媒を調製した。
【0076】
水素還元反応は以下の方法で実施した。これは製造プロセスの工程(d)に相当する。
<実施例1>
100mLのSUS製反応器内に、触媒調製例1で得た触媒0.84g、化合物1A 2.6g、及び1,4−ジオキサン24.3gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して3時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。
その結果、化合物1Aの転化率(幾何異性体の合計)は95.2%であり、生成物の2,2−ビス−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブタン−1−オールへの選択率は69.9%であった。下記に実施例1における反応スキームを示す。
【化19】
生成物をクロマトグラフ法によって単離し、NMR分析によって同構造を確認した。
1H NMR (500 MHz, CD3OD) d 0.87 (3H x 4, s, CH3CCH3), 0.87 (3H, t, CH3CH2), 1.38 (2H, q, CH3CH2-), 3.15, 3.28, 3.33 (4H x 3, s x 3, -CH2-O-C- x 4 & -C(CH3)2-CH2OH x 2), 3.47 (2H, s, -C(CH2CH3)-CH2OH);
13C NMR (125 MHz, CD3OD) d 7.97, 22.2, 23.8, 37.8, 44.8, 64.5, 69.6, 72.8, 78.7.
【0077】
<実施例2>
100mLのSUS製反応器内に、触媒調製例1で得た触媒1.2g、化合物1A 2.4g、及びノルマルヘキサン24.9gを収容し、実施例1と同様の方法で反応温度230℃で2.5時間反応させた。その結果、化合物1Aの転化率(幾何異性体の合計)は99.1%であり、生成物の2,2−ビス−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブタン−1−オールへの選択率は51.3%であった。
【0078】
<実施例3>
100mLのSUS製反応器内に、触媒調製例1で得た触媒0.80g、化合物2A 3.0g、及び1,4−ジオキサン25.3gを収容し、実施例1と同様の方法で反応させた。その結果、化合物2Aの転化率(幾何異性体の合計)は89.5%であり、生成物の2,2−ビス−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−プロパン−1−オールへの選択率は71.3%であった。下記に実施例3における反応スキームを示す。
【化20】
生成物をクロマトグラフ法によって単離し、NMR分析によって同構造を確認した。
1H NMR (500 MHz, CD3OD) d 0.87 (3H x 4, s, CH3CCH3), 0.90 (3H, s, CH3C-), 3.16, 3.27, 3.33 (4H x 3, s x 3, -CH2-O-C- x 4 & -C(CH3)2-CH2OH x 2), 3.46 (2H, s, -C(CH3)(CH2OH)-;
13C NMR (125 MHz, CD3OD) d 17.6, 22.2, 37.8, 42.6, 66.6, 69.6, 75.2, 78.7.
【0079】
一般式(6)の環状アセタール化合物は以下の方法により調製した。これは製造プロセスの工程(a)に相当する。
【0080】
<参考原料調製例1>
(2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)121.8gと、2−エチル−2―ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオール(トリメチロールプロパン、東京化成工業試薬)159.2g、と、ベンゼン1054gと、粒状ナフィオン(商品名「NR−50」、シグマアルドリッチ社試薬)5.3gとを2リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で生成する水をベンゼンと共沸させながらディーン・スターク・トラップを用いて系外へ抜き出して、水の留出が止まるまで反応させた。これを濾過した後に濃縮及び冷却することにより再結晶させて、2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物HTPA」と表記する。)の結晶を幾何異性体の合計として219.9g得た。下記に、この合成反応スキームを示す。
参考原料調製例1の化合物HTPAの合成反応
【化21】
【0081】
<参考原料調製例2>
(2−(5−ヒドロキシメチル−5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド121.8gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)75.8gを用い、2−エチル−2―ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオール159.2gに代えて2−ヒドロキシメチル−2−メチル−プロパン−1,3―ジオール(トリメチロールエタン、東京化成工業試薬)89.2gを用いた以外は参考原料調製例1と同様にして、2−(5−ヒドロキシメチル−5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物HTEA」と表記する。)の結晶を幾何異性体の合計として121.9g得た。下記に、この合成反応スキームを示す。
参考原料調製例2の化合物HTEAの合成反応
【化22】
【0082】
一般式(6)の環状アセタール化合物の水素化還元反応による一般式(7)のポリオールエーテル化合物の調製は以下の方法で実施した。
これは製造プロセスの工程(b)に相当する。
【0083】
<参考例1>
600mLのSUS製反応器内に、触媒調製例1で得た触媒9.2g、化合物HTPA 61.3g、及び1,4−ジオキサン321gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して6時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、化合物HTPAの転化率(幾何異性体の合計)は97.7%であり、生成物の2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−プロパン−1,3−ジオールへの選択率は85.5%であった。触媒を濾過して除去し、1,4−ジオキサンから再結晶させて、2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−プロパン−1,3−ジオールの結晶を得た。
下記に参考例1における反応スキームを示す。
【化23】
【0084】
<参考例2>
600mLのSUS製反応器内に、触媒調製例1で得た触媒8.6g、化合物HTEA 51.8g、及び1,4−ジオキサン337gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して7時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果、化合物HTEAの転化率(幾何異性体の合計)は99.1%であり、生成物の2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−プロパン−1,3−ジオールへの選択率は73.2%であった。触媒を濾過して除去し、1,4−ジオキサンから再結晶させて、2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−プロパン−1,3−ジオールの結晶を得た。
下記に参考例2における反応スキームを示す。
【化24】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の製造方法によれば、環状アセタール化合物である化合物(1)を水素化触媒によって水素還元することにより、ポリエーテルポリオールを効率良く製造することができる。また、ネオ骨格を有す新規のポリエーテルポリオールを得ることができる。