特許第6303960号(P6303960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6303960
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20180326BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H01M2/02 B
   H01M10/12 K
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-198342(P2014-198342)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2015-135803(P2015-135803A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-261555(P2013-261555)
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 壮右
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−198087(JP,A)
【文献】 実開昭63−012156(JP,U)
【文献】 特開平07−326331(JP,A)
【文献】 特開2007−227394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
H01M 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電要素と、
前記発電要素を収容し、底壁と4枚の外壁と前記外壁が交わる角部とを有する箱型の電槽と、を備え、
4枚の前記外壁のうち、少なくとも対向する一対の外壁は、基部と、前記基部から内側にオフセットし前記電槽の内部空間を小さくする絞り部とを有し、
前記外壁が交わる前記角部において、前記基部に対応する前記角部の内面が、前記絞り部の内面を前記絞り部の内側に超えない範囲にて、前記基部に対応する角部を内側に厚くすることにより、前記基部に対応する前記角部を前記外壁より厚肉の厚肉部とした鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1に記載の鉛蓄電池であって、
前記基部に対応する前記角部の内面は、前記絞り部の内面よりも前記内部空間における外側に位置している鉛蓄電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉛蓄電池であって、
前記角部の外周が円弧形状である場合において、前記角部が前記外壁と同じ厚さとなる時の、前記角部の内周側の半径を基準半径と定義した場合に、
前記基部に対応する前記角部の内周側の半径前記基部に対応する前記角部の内面が前記絞り部の内面を前記絞り部の内側に超えない範囲にて、前記基準半径よりも大きな値である鉛蓄電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記絞り部は、前記外壁の底部側に設けられ、
前記電槽を構成する前記外壁が交わる前記角部のうち、前記絞り部よりも開口に近い側の前記角部が、前記厚肉部である鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記発電要素は、セパレータを介して正極板と負極板とを交互に積層配置した極板群である、鉛蓄電池。
【請求項6】
請求項5に記載の鉛蓄電池であって、
前記外壁の前記絞り部は、前記極板群の積層方向と交差する方向を狭くして形成されている鉛蓄電池。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記電槽内には、流動可能な電解液が収容されている鉛蓄電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記電槽の開口を封口する蓋部材をさらに備え、
前記厚肉部は、前記絞り部よりも前記電槽の開口側に位置しており、
前記蓋部材は、前記電槽の前記外壁に接合されるリブと、前記リブと間隔をあけて配置され、前記電槽の前記外壁を取り囲む外周壁と、を有する鉛蓄電池。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の鉛蓄電池であって、
前記外壁が交差する前記角部は、円弧形状であり、
4枚の前記外壁のうち、少なくとも対向する一対の外壁は、延設方向に、前記基部と、前記絞り部と、前記基部と前記絞り部の間を傾斜面により接続するテーパ部と、を有し、
前記外壁が交差する前記角部のうち、前記基部に対応する前記角部の内周側円弧の半径は、前記絞り部に対応する前記角部の内周側円弧の半径よりも大きく、
前記テーパ部に対応する部位で、前記角部の内周側円弧の大きさを、前記基部に対応する内周側円弧の半径から前記絞り部に対応する内周側円弧の半径に変化させる、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電槽の割れを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は放電すると、電解液中の硫酸が消費されるとともに水が発生して、電解液の比重が低下する。一般的に、鉛蓄電池に使用される希硫酸からなる電解液においては、比重が低下すると、氷結点が高くなる傾向にある。すると、鉛蓄電池を寒冷地で使用した場合には、電解液が凍って体積膨張を起こすことがあり、電槽の角部が割れ易くなるという問題があった。特に、過放電(定格容量以上の放電)されると、さらに比重が低下して氷結点が高くなるため、上記問題が顕著である。電槽角部の割れを抑制するには、例えば、下記特許文献1で行われているように、電槽の角部を厚くすることが考えられる。しかし、電槽の外形形状は規格により決まっている場合があることから、電槽の内側にしか肉厚を増せないものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−259450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電槽の角部の肉厚を内側に増すと、電槽の内部空間が狭くなることから、極板群(発電要素)を挿入する際に電槽内壁に干渉する等の挿入不具合が生じやすい。また、挿入不具合を改善しようとして、極板群を小さくすると、電池性能が低下してしまう。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、極板の挿入性及び大きさを維持しつつ、電槽の角部の割れを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、鉛蓄電池であって、発電要素と、前記発電要素を収容し、外壁の一部に内部空間を小さくする絞り部を有する電槽と、を備え、前記電槽の角部を、前記絞り部を内側に超えない範囲にて内側に厚くすることにより、前記角部を前記外壁より厚肉の厚肉部とした。
【発明の効果】
【0006】
本明細書によって開示される鉛蓄電池によれば、極板の挿入性及び大きさを維持しつつ、電槽の角部の割れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態1に係る鉛蓄電池の斜視図
図2】電槽の平面図
図3】鉛蓄電池の垂直断面図(図1中のA−A線断面図)
図4】電槽の側面図
図5】蓋部材の底面図
図6図2のB部を拡大した図
図7図2のB部を拡大した図
図8】本発明の実施形態2に係る電槽角部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。本鉛蓄電池は、発電要素と、前記発電要素を収容し、外壁の一部に内部空間を小さくする絞り部を有する電槽と、を備え、前記電槽の角部を、前記絞り部を内側に超えない範囲にて内側に厚くすることにより、前記角部を前記外壁より厚肉の厚肉部とした。
【0009】
この構成では、電槽の角部を厚肉化するため、電槽の角部が割れ難くなる。しかも、電槽の角部を内側に厚くするので、電槽の外形形状を変更する必要がない。加えて、電槽の角部を、絞り部を内側に超えない範囲内で厚くするので、電槽の収容空間が狭くならない。そのため、発電要素の挿入性を維持しつつ、電槽の角部の割れを抑制できる。また、発電要素の大きさを維持して、電池性能を維持できる。
【0010】
本鉛蓄電池では、前記角部の内周面は、前記絞り部の内周面よりも前記内部空間における外側に位置している。本構成では、発電要素の挿入性をより維持しやすい。
【0011】
本鉛蓄電池では、前記角部が前記外壁と同じ厚さとなる時の、前記角部の内周側の半径を基準半径と定義した場合に、前記角部の内周側の半径が、前記絞り部を内側に超えない範囲にて、前記基準半径よりも大きな値である。本構成では、角部の内周側を円弧形状にするため、応力が一点に集中し難く、電槽の角部の割れをより抑制できる。
【0012】
本鉛蓄電池では、前記角部の内側が、前記絞り部を内側に超えない範囲にて、前記外壁に対して斜め形状である。本構成では、角部の内側を斜め形状にするため、応力が一点に集中し難く、電槽の角部の割れをより抑制できる。
【0013】
本鉛蓄電池では、前記電槽は、複数枚の前記外壁と底壁とを有し、一方に開口する箱型であり、前記絞り部は、前記外壁の底部側に設けられ、前記電槽を構成する2枚の前記外壁が交わる前記角部が、前記厚肉部である。電槽を構成する外壁の底部側に絞り部を設けた場合、底部側に比べて、開口に近い上部側で電槽の容積が大きくなる。そのため、電槽の上部側では多量の電解液が存在し、凍結に伴う体積膨張が大きくなることから、割れが発生し易くなる。そこで、本鉛蓄電池では、前記角部のうち、前記絞り部よりも開口に近い上部側の角部を厚肉部としている。すなわち、割れが発生しやすい開口側の角部を厚肉部として補強を行うため、電槽の割れをより一層抑制することが出来る。
【0014】
本鉛蓄電池では、前記角部の延設方向に沿った前記厚肉部の全長は、前記角部の延設方向に沿った前記絞り部の全長よりも長い。本構成では、長く割れやすい部分を厚肉部とすることで、電槽の角部の割れをより一層抑制できる。
【0015】
本鉛蓄電池では、前記発電要素は、セパレータを介して正極板と負極板とを交互に積層配置した極板群であり、前記電槽の前記絞り部は、前記極板群の積層方向と交差する方向を狭くして形成されている。極板群の幅は、絞り部の幅によって設定されるが、本構成では、厚肉部を、絞り部を内側に超えない範囲にて形成していることで、極板群の幅を小さくする必要がなく、電池性能を維持できる。
【0016】
本鉛蓄電池では、前記電槽内には、流動可能な電解液が収容されている。液式の鉛蓄電池では、電槽内に電解液が多量に収容されており、体積膨張の影響が大きい。したがって、本構成は液式の鉛蓄電池に好適である。
【0017】
本鉛蓄電池では、前記電槽の開口を封口する蓋部材をさらに備え、前記厚肉部は、前記絞り部よりも前記電槽の開口側に位置しており、前記蓋部材は、前記電槽の前記外壁に接合されるリブと、前記リブと間隔をあけて配置され、前記電槽の外壁を取り囲む外周壁と、を有する。仮に、電槽の開口側に厚肉部が設けられていない場合には、蓋部材と接合されるリブと外周壁との間に間隔があり、電槽の開口側はたわみやすい。しかしながら、本構成では、電槽の開口側に厚肉部が設けられていることで、電槽がたわみにくくなり、電槽の角部の割れをより一層抑制できる。
【0018】
<実施形態1>
実施形態1を図1ないし図7によって説明する。
1.鉛蓄電池10の構造
鉛蓄電池10は自動車用のバッテリであって、図1から図3に示すように電槽20と、発電要素である極板群40と、蓋部材50とを備える。尚、以下の説明において、極板40A、40Bの積層方向(電槽20の横幅方向)をX方向とし、極板40A、40Bの積層方向に対して直交する方向(電槽20の奥行き方向)をZ方向とする。また、外壁21の延設方向(電槽の高さ方向)をY方向とする。尚、外壁21の延設方向とは、電槽20の底壁22を基準として外壁先端に向かう方向である。
【0019】
電槽20は合成樹脂製である。電槽20は4枚の外壁21A〜21Dと底壁22を有し、上面が開放した直方体の箱型をなす。電槽20の内部は、図2に示すように隔壁23により複数のセル室25に仕切られている。セル室25は、電槽20の横幅方向(図2のX方向)に6室設けられており、各セル室25には、流動可能な電解液と共に極板群40が配置されている。
【0020】
極板群40は、図3に示すように各セル室25に対して板面をYZ方向に向けて配置されており、正極板40Aと、負極板40Bと、両極板40A、40Bを仕切るセパレータ40Cとから構成されている。極板群40は、セパレータ40Cを介して正極板40Aと負極板40Bを、X方向に交互に積層配置したものである。各極板40A、40Bは、格子体に活物質が充填されて構成されており、上部には耳部41A、41Bが設けられている。耳部41A、41Bは、ストラップ42を介して、同じ極性の極板40A、40Bを各セル室25内にて連結するために設けられている。
【0021】
図3図4に示すように、電槽20のうちZ方向の両側に位置する外壁(隔壁23との関係では直交する外壁)21B、21Dには、基部31と、テーパ部34と、絞り部33とが設けられている。基部31はY方向に沿った直線形状であり、図3の寸法H1の範囲に形成されている。基部31は、外壁21B、外壁21Dの全幅(X方向の全幅)に亘って形成されている。
【0022】
絞り部33は、基部31の下方に形成されている。絞り部33は、基部31から電槽20の内側にオフセットしており、電槽20の内部空間をオフセット量(図4に示す寸法F)だけ小さくしている。より詳しくは、電槽20の内部空間を、図3のZ方向(極板40A、40Bの幅方向)について小さくしている。
【0023】
絞り部33は、外壁21B、21Dの基部31と平行であり、外壁21B、21Dの底部から高さH2の範囲に形成されている。絞り部33は、外壁21B、外壁21Dの全幅(X方向の全幅)に亘って形成されている。
【0024】
テーパ部34は、基部31と絞り部33との間に形成されている。テーパ部34は、基部31と絞り部33との間を傾斜面で接続しており、基部31と絞り部33との間に凹凸が出来ないようにしている。
【0025】
また、絞り部33の下部には、脚部35が形成されている。脚部35は、絞り部33から電槽外方に向かって張り出している。脚部35の下面は、電槽20の底壁22と面一であり、電槽20の座りを安定させる機能を果たす。そして、脚部35の上面には、ビス孔35Aが開口しており、脚部35を螺子締めすることで、鉛蓄電池10を所定の取り付け箇所に固定出来る構造になっている。
【0026】
一方、電槽20のうちX方向の両側に位置する外壁21A、21Cには、絞り部33は形成されておらず、両外壁21A、21Cは、上部に板フランジ37と、下部に脚部35を形成している点を除けば、平坦な形状である。
【0027】
尚、本鉛蓄電池10は欧州規格に準拠しており、電槽20の外形形状は欧州規格(EN50342−2)により細かく決められている。電槽20の外形形状には、上記した絞り部33の形状や、角部27の形状(外周面側の円弧形状)も含まれており、これら形状も全て、欧州規格により定められている。
【0028】
蓋部材50は合成樹脂製であって、図1に示すように、電槽20の上面を封口する本体51と、本体51の外周縁に沿って形成された外周壁55A〜55Dとを備える。
【0029】
蓋部材50の裏面側には、図5に示すように、リブ52A〜52Dと、蓋隔壁54が形成されている。リブ52A〜52Dは、蓋部材50の基部裏面から下方に突出した所定幅の突条であり、電槽20の外壁21A〜21Dに対応して設けられている。また、蓋隔壁54は、蓋部材50の裏面から下方に突出した所定幅の壁体であり、電槽20の隔壁23に対応して設けられている。
【0030】
これらリブ52A〜52Dの下端面は、電槽20側の外壁21A〜21Dの上端面に突き当たり、蓋隔壁54の下端面は、電槽20の隔壁23の上端面に突き当たる関係となっている。
【0031】
外周壁55A〜55Dは、本体51の外周縁から下向きに延びている。外周壁55A〜55Dはリブ52A〜52Dと間隔Gを空けており、外壁21A〜21Dの上端を、間隔Gを空けて囲う構造になっている。尚、図5中において、間隔Gは、外周壁55Cとリブ52Cとの間の隙間を示している。蓋部材50は、電槽20への組み付け後、電槽20に対して、熱溶着等により全周を溶着される。すなわち、蓋部材50側の各リブ52A〜52Dと電槽20側の各外壁21A〜21Dをそれぞれ熱溶着し、蓋部材50側の各蓋隔壁54と電槽20側の各隔壁23をそれぞれ熱溶着することにより、電槽20の各セル室25が封口される構造となっている。
【0032】
蓋部材50のX方向両側には、図1に示すように、正極側の端子部60Aと、負極側の端子部60Bが設けられている。正極側の端子部60Aと、負極側の端子部60Bの構造は、同一であるため、以下、正極側の端子部60Aを例にとって構造を説明する。
【0033】
図3にて示すように、正極側の端子部60Aは、ブッシング61と、極柱71とを含む。ブッシング61は鉛合金等の金属製であり中空の円筒状をなす。ブッシング61は、蓋部材50の本体51に対して一体形成された筒型の装着部53を貫通しており、上半分が蓋部材50の本体上面から突出している。ブッシング61のうち、蓋部材50の本体上面から露出する上半部は端子接続部であり、ハーネス端子などの接続端子(図略)が組み付けされる。
【0034】
尚、蓋部材50はブッシング81をインサートした金型に樹脂を流して一体成形することから、装着部53はブッシング61と一体化され、ブッシング61の下部外周を隙間なく覆う構造となっている。
【0035】
極柱71は鉛合金等の金属製であり、円柱形状をしている。極柱71は、ブッシング61の内側に下方より挿入されている。極柱71のうち、上端部72はブッシング61に対して溶接により接合され、基端部73は極板群40のストラップ42に接合されている。
【0036】
2.電槽角部27の割れ対策
液式の鉛蓄電池10では、電解液が凍結すると体積膨張するため、電槽20の角部27(互いに直交する2枚の外壁21A〜21Dが交わる4つのコーナ)で、割れが発生し易くなる。本鉛蓄電池10では、電槽20の4つの角部27を、外壁21よりも厚肉化することにより、角部27の割れを抑制する。
【0037】
図6を参照して具体的に説明すると、電槽20の角部27の内周側円弧の半径「R」を、外周側円弧の半径「Ro1」から外壁21の板厚tを引いた値「Ra」に設定すると、角部27の板厚は、外壁21の板厚tと等しくなる(下記(1)式参照)。尚、半径Raが、本発明の「基準半径」に相当する。
Ra=Ro1−t・・・・・・・(1)
【0038】
一方、内周側円弧の半径「R」を、下記の(2)式で示すように、「Ra」よりも大きな値「Rb」にすると、「Ra」の場合に比べて、円弧のラインが電槽内方に入り込んで厚みが増す。
Rb>Ra・・・・・・・・・(2)
【0039】
本鉛蓄電池10では、角部27の内周側円弧の半径「R」を「Rb」として、外壁21の板厚tよりも厚肉の厚肉部28とする。厚肉部28を形成する範囲は、基部31の形成範囲に対応しており、本実施形態では、角部27の上端からテーパ部34までの範囲(図3に示す範囲H1)を厚肉部28としている。
【0040】
尚、図6中において、符号「La」は、内周側円弧の半径を「Ra」とした場合の円弧を示し、符号「Lb」は、内周側円弧の半径を「Rb」とした場合の円弧を示している。
【0041】
また、電槽20内における、極板40A、40Bの幅方向に関する収容空間の大きさ(図3のZ方向の広さ)は、左右の絞り部33の内面Lin間の距離Dにより決まる。角部27の内周側円弧Lbを、絞り部33を内側に超えない範囲内で設定すれば、極板40A、40Bの幅方向に関する収容空間は変化しない。
【0042】
そこで、本鉛蓄電池10では、円弧「Lb」が絞り部33の内面「Lin」を超えて電槽内側(図6では下側)に入り込まないように、円弧Lbの半径「Rb」を決定している。このようにすることで、円弧「Lb」が内面「Lin」の外側(図6では上側)に位置するため、電槽20の収容空間を狭くすることなく、角部27を厚肉化することが出来る。上記により本発明の「前記角部28の内周面(この例では、円弧Lb)は、前記絞り部33の内周面(この例では、内面Lin)よりも、前記内部空間における外側(この例では、電槽外側)に位置している」が実現されている。
【0043】
尚、絞り部33の内面「Lin」には、図6に示すように、基部31の内面「Le」に対して平行な段差として見える内面「Ld」と、X方向の両端の円弧部分の内面「Lc」の双方が含まれる。円弧「Lb」は、図6に示すように、内面「Lin」のうち、少なくとも円弧「Lc」の外側に位置する関係になっていれば、極板群40の収容空間を狭くしないので、本例では、円弧「Lb」が円弧「Lc」に対して重ならない範囲内で、円弧Lbの半径Rbを出来る限り大きな値に設定している。
【0044】
次に、電槽20の角部27のうち、絞り部33に対応する範囲(図3にて示す寸法H2にて示す範囲)は、内周側円弧「Lc」の半径Rを、上記した(1)式に従って、「Rc=Ro2−t」に設定しており、当該部分の板厚は、図7に示すように、外壁21の板厚tと等しい関係になっている。すなわち、本鉛蓄電池10では、電槽20の角部27のうち、基部31に対応する範囲H1についてのみ外壁21の板厚tよりも板厚を厚くし、絞り部33に対応する範囲H2は外壁21の板厚tと同じ厚さとしている。
【0045】
尚、角部27の円弧の数値例は以下の通りである。図6に示す、外周側円弧Ro1=5mm、内周側円弧Ra=3mm、内周側円弧Rb=5mm、外壁21の板厚t=2mmである。図7に示す、外周側円弧Ro2=5mm、内周側円弧Rc=3mmである。
【0046】
また、厚肉部28の形成範囲H1と、絞り部33の形成範囲H2の大小関係は、下記の(3)式にて示すように、厚肉部28の形成範囲H1の方が大きい。
H1>H2・・・・・・・・・・・(3)
【0047】
厚肉部28の形成範囲H1の方が小さいと、角部27は板厚の薄い部分が多くなるため、角部27の剛性は、板厚の薄い部分が支配的になり、それ程、高くはならない。そのため、体積膨張に抗することが出来ず、板厚の薄い箇所で割れが発生し易くなる。この点、厚肉化する範囲H1の方を大きくしておけば、角部27の剛性は、板厚の厚い部分が支配的になり、非常に高くなる。そのため、体積膨張に抗することが可能となり、角部27の割れを抑制できる。尚、形成範囲「H1」が、本発明の「前記角部の延設方向(Y方向)に沿った前記厚肉部28の全長」に対応し、形成範囲「H2」が、本発明の「前記角部の延設方向(Y方向)に沿った絞り部33の全長」に対応する。
【0048】
また、角部27のうち、テーパ部34に対応する範囲は、円弧の除変区間であり、同区間内において、角部27の内周側円弧の大きさを「Rb」から「Rc」に変化させている。このような円弧の除変区間を設けることで、形状の急激な変化が無くなるので、応力が一部に集中し難くなる。そのため、角部27の割れを一層、抑制することが可能となる。
【0049】
3.効果説明
本鉛蓄電池10は、電槽20の角部27を厚肉化するため、体積膨張に伴う、角部27の割れを抑制することが出来る。また特に、本鉛蓄電池10は液式の鉛蓄電池であり、電槽20内に流動可能な電解液を多量に収容されており、体積膨張の影響が大きい。したがって、角部27が割れやすいため、効果的である。
【0050】
しかも、電槽20の角部27を内側に厚くするので、電槽20の外形形状を変更する必要がない。加えて、電槽20の角部27を、絞り部33を内側に超えない範囲で厚くするので、電槽20の収容空間(極板40A、40Bの幅方向に関する収容空間)が狭くならない。そのため、極板40A、40Bの挿入性及び大きさを維持しつつ、電槽20の角部27の割れを抑制できる。
【0051】
また、角部27の内周側を円弧形状にするため、応力が一点に集中し難く、角部27の割れをより抑制できる。
【0052】
また、電槽20は4枚の外壁21A〜21Dと底壁22とを有し、上方に開口する箱型である。箱型の電槽20は、電解液が凍結して体積膨張を起こすと、外壁21A〜22Dが膨張するため、2枚の外壁21A〜21Dが交わる角部27に応力が集中して割れが発生しやすい。本鉛蓄電池10では、割れが発生しや易い、2枚の外壁21A〜21Dが交わる角部27を厚肉部28として補強を行うため、電槽20の割れをより一層抑制することが出来る。
【0053】
また、電槽20は外壁21B、21Dの底部側(Y方向の下部側)に絞り部33を設けている。この場合、電槽20は、底部側に比べて、開口に近い上部側で電槽20の容積が大きくなる。そのため、電槽20の上部側では多量の電解液が存在し、凍結に伴う体積膨張が大きくなることから、開口に近い角部27の上部側で割れが発生し易くなる。
【0054】
加えて、電槽20の上部側は、金属製の極柱71が配置されていることから、底部側に比べて熱伝導性が高く、環境温度の変化に応じて電解液が凍結又は解凍しやすい。すなわち、環境温度が氷結点を下回ると、極柱71の影響で上部側の電解液から温度が下がるため、電解液は上部側から凍結する。一方、環境温度が氷結点を上回ると極柱71の影響で上部側の電解液から温度が上がるため、電解液は上部側から解凍する。このように電解液の上部側は、環境温度の変化に応じて凍結又は解凍しやすく、体積膨張と収縮が頻繁に起こる。そのため、開口に近い角部27の上部側で割れが発生しやすい。
【0055】
本鉛蓄電池10では、2枚の外壁21A〜21Dが交わる角部27のうち、絞り部33よりも開口に近い上部側を厚肉部28としている。すなわち電槽20のうち、割れが発生しやすい角部27の上部側を厚肉部28として補強を行うため、電槽20の割れをより一層抑制することが出来る。
【0056】
また、本鉛蓄電池10は、リブ52と外周壁55との間に間隔Gがあり、電槽20の開口側は撓みやすい。この点、本鉛蓄電池10では、撓みやすい電槽20の開口側に厚肉部28を設けている。そのため、角部27の割れをより一層抑制できる。尚、開口側とは、絞り部33との関係で、電槽開口に近い側という意味である。
【0057】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を、図8によって説明する。
実施形態1では、内周側円弧の半径Rを大きくすることにより、角部27を厚肉化した。実施形態2では、角部27の内面側を、外壁21に対して斜線形状(電槽20を平面方向から見た時の形状)にすることにより、角部27を厚肉化する。
【0058】
具体的に説明すると、電槽20の角部27のうち、外壁21の基部31に対応する範囲(図3にて寸法H1にて示す範囲)について、角部27の内面側を45°の斜線形状にする。斜線LsのX方向の長さS(Z方向も同様)は、この例では、図8に示すように円弧Laの半径Raより大きい。角部27の内面側を斜線形状にした場合も、実施形態1と同様、角部27を厚肉化することが可能となるので、体積膨張に伴う、角部27の割れを抑制することが出来る。
【0059】
また、斜線Lsは、絞り部33の内面Linよりも電槽20の外側(図8では上側)に位置しているので、実施形態1と同様、電槽20の収容空間が狭くならない。そのため、極板40A、40Bの挿入性及び大きさを維持しつつ、電槽20の角部27の割れを抑制できる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
(1)上記実施形態1、2では、欧州規格に準拠した鉛蓄電池10を例示したが、本発明は、欧州規格に準拠した鉛蓄電池以外にも、電槽20の外壁21の一部に、内部空間を小さくするような絞り部33を有する鉛蓄電池であれば、適用することが出来る。
【0062】
(2)上記実施形態1では、角部27のうち、基部31に対応する範囲H1を全て厚肉化しているが、厚肉化する範囲は、少なくとも、絞り部33に対応する範囲H2よりも広ければよく、範囲H1の一部だけを厚肉化するようにしてもよい。
【0063】
(3)上記実施形態2では、角部27の内面側を45°の斜線形状にしたが、角部27が厚肉化されていればよく、斜線Lsの角度は45°以外でもよい。また、斜線の角度を45°にする場合も、斜線LsのX方向の長さSは、斜線Lsが半径Ra以上にすることも可能である。
【0064】
(4)上記実施形態1、2では、鉛蓄電池の一例として、液式の鉛蓄電池を例示したが、それ以外にも、電槽内部に流動可能な電解液がほとんど存在しない制御弁式の鉛蓄電池に適用することも可能である。
【0065】
(5)上記実施形態1、2では、電槽20のうち、2枚の外壁21A〜21Dが交わる角部27を厚肉部とした例を示したが、外壁21A〜21Dの中央部(Y方向の中央)に絞り部33が設けられている場合であれば、外壁21A〜21Dと底部22が交わる角部を厚肉部としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10....鉛蓄電池
20...電槽
21...外壁
27...角部
28...厚肉部
23...隔壁
33...絞り部
40...極板群(本発明の「発電要素」の一例)
50...蓋部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8