(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の閾値は、前記回生コンバータから前記電力系統側に戻される交流電力が、前記負荷の最小消費電力を超えないように設定される、請求項1に記載のエレベータ制御装置。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかごを駆動する交流電動機を制御するエレベータ制御装置は、一般的に、電力会社が管理する商用の三相交流電力系統から共有される交流電力をダイオードブリッジなどの順変換部及び平滑化コンデンサ等を用いて直流電力に変換し、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのスイッチング素子を用いた逆変換部におけるスイッチング制御によりその直流電力を交流電力に変換して交流電動機に供給する。この種のエレベータ制御装置によれば、逆変換部におけるスイッチング周期を制御することにより交流電動機に供給する交流電力の周波数等を制御することができ、これにより交流電動機の可変速制御が実現される。
【0003】
かごと巻上ロープを介してかごに繋がれた釣合い錘のうち重量が大きい方が上昇している場合、エレベータは力行運転状態になっており、逆変換部からの交流電力は交流電動機で消費される。重量が大きい方が下降している場合には、エレベータは回生運転状態になっており、交流電動機は発電機として作用して回生電力を発生させる。例えば、特開2013−143830号公報に開示されているエレベータ制御装置では、このような回生電力は、順変換部と逆変換部を繋ぐ直流母線間に設けられた回生抵抗によって消費される。
【0004】
一方、省エネルギーの観点から、回生電力を回生抵抗によって消費するのではなく、回生コンバータを介して電力系統側へ戻す制御を行うエレベータ制御装置も広く使用されている。このようなエレベータ制御装置では、エレベータが設置されている施設や建物におけるエレベータ以外の負荷であって電力系統から給電される負荷(例えば、空調装置や照明装置)で、回生電力が消費されることで、電力の有効活用が図られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回生コンバータを用いたエレベータ制御装置は、エレベータ以外の負荷の消費電力が大きい、比較的大規模な施設(例えば、大規模なオフィスビル)にて使用されており、エレベータ以外の負荷の消費電力が小さい、比較的小規模な施設(例えば、アパートや小規模マンション)では、回生抵抗によって回生電力を消費するエレベータ制御装置が使用されているが、近年における省エネルギー化への関心の高まりから、小規模な施設においてもエレベータで発生する回生電力の有効活用が求められている。故に、小規模な施設においても回生コンバータを用いたエレベータ制御装置をエレベータの制御に使用することが考えられる。
【0007】
しかしながら、小規模な施設において回生コンバータを用いたエレベータ制御装置を使用する場合、施設に設けられたエレベータ以外の負荷では、回生コンバータから電力系統側へ戻された回生電力の全てを消費できず、その超過分が逆潮流となって電力系統へ流れ込む虞が生じる。このような逆潮流の発生は、電力会社による電力系統の管理に悪影響を及ぼすことから、回避又は抑制されなければならない。
【0008】
本発明は、上述の課題に鑑みて為されたものであり、交流電動機で発生した回生電力が逆潮流となって商用交流電力系統へ流れ込むことを抑制することが可能な回生コンバータ付きエレベータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエレベータ制御装置は、商用交流電力系統から供給される交流電力を直流電力に変換して第1及び第2の電源線を介して出力する順変換部と、前記第1及び第2の電源線を介して供給される直流電力を交流電力に変換して、エレベータのかごを上下駆動する交流電動機に供給する逆変換部と、前記第1及び第2の電源線に接続された電源回生ユニットであって、前記第1及び第2の電源線間に介挿された平滑化コンデンサと、前記エレベータの回生運転時に発生する回生電力を前記第1及び第2の電源線を介して受け取り、交流電力に変換して前記電力系統側へ戻す回生コンバータを含む電源回生ユニットと、前記第1及び第2の電源線間に、直列に介挿されるスイッチ及び抵抗と、前記エレベータの回生運転時に前記平滑化コンデンサの極板間電圧が所定の閾値に達したことを検出して、前記スイッチをオフからオンに切り替えて通電させる制御部と、を備えており、前記所定の閾値は、前記エレベータの設置される施設に設けられており、前記電力系統から給電される前記エレベータ以外の負荷の消費電力に基づいて設定されることを特徴とする。
【0010】
本発明のエレベータ制御装置では、前記所定の閾値は、前記回生コンバータから前記電力系統側に戻される交流電力が、前記負荷の最小消費電力を超えないように設定されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエレベータ制御装置を用いて、アパートなどの小規模な施設に設置されるエレベータの交流電動機の電力制御を行い、当該エレベータの設置される施設におけるエレベータ以外の負荷の消費電力の大きさに応じて上記の閾値電圧を定めておけば、回生電力が逆潮流となって電力会社の電力系統に流れ込むことを回避又は抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態のエレベータ制御装置1の概要を示す説明図である。エレベータ制御装置1は、アパートなどの比較的小規模な施設(又は建物)に設置されるエレベータの駆動源となる交流電動機2の可変速制御を行う装置である。一端側にエレベータのかご3が、他端側に釣合い錘4が取り付けられた巻上ロープ5が掛けられているシーブ6が、交流電動機2によって回転駆動されることで、かご3が上下に移動する。
【0014】
交流電動機2を動作させるのに要する電力は、電力会社が管理する商用の三相交流電力系統7から供給される。電力系統7には、エレベータが設置されている施設に設けられているエレベータ以外の負荷(例えば、空調装置や照明装置)も接続されており、これら負荷は、電力系統7から給電される。
図1では、施設におけるエレベータ以外の負荷を纏めて負荷8として示している。
【0015】
図1に示すように、エレベータ制御装置1は、順変換部10、平滑化コンデンサ20A、逆変換部30、制御部40、電源回生ユニット50、電圧検出器60、スイッチ70、及び抵抗80を含んでいる。
【0016】
順変換部10は、電力系統7から供給される交流電力を直流電力に変換し、高電位側電源線(以下、第1の電源線)L1及び低電位側電源線(以下、第2の電源線)L2を介して逆変換部30に与える。
図1では詳細な図示を省略したが第2の電源線L2は接地されている。順変換部10は、例えばダイオードブリッジを用いて構成されている。
【0017】
平滑化コンデンサ20Aは、第1の電源線L1と第2の電源線L2の間に介挿されている。平滑化コンデンサ20Aは、順変換部10より出力される直流電力の脈動分を平滑化するためのものである。
【0018】
逆変換部30は、第1の電源線L1と第2の電源線L2を介して与えられる直流電力を三相交流電力に変換して交流電動機2に与える。逆変換部30は、例えば、IGBTなどのスイッチング素子とダイオードの並列回路をブリッジ接続した回路構成(図示省略)を有している。逆変換部30の具体的な回路構成は、公知のエレベータ制御装置におけるものと特段に変わるところはないため、詳細な説明は省略する。
【0019】
制御部40は、CPU(Central Processing Unit)と、このCPUに実行させる制御プログラムを記憶した不揮発性メモリと、この制御プログラムを実行する際にワークエリアとして使用される揮発性メモリと、制御プログラムの実行時に参照される各種設定値等を記憶した書換え可能な不揮発性メモリとを含んでいる(何れも図示省略)。上記制御プログラムに従って作動しているCPUは、上位装置(例えば、エレベータ全体の制御を統括的に行うホストCPU)から与えられるトルク指令などの指令値に応じて、その指令値の示すトルクが出力されるように、逆変換部30に含まれるスイッチング素子のオン/オフをPWM(パルス幅変調)方式で制御する。これにより、交流電動機2の可変速駆動制御が実現される。
【0020】
かご3と釣合い錘4のうち重量が大きい方が上昇している場合、エレベータは力行運転状態になっており、逆変換部30からの交流電力は交流電動機2で消費される。かご3と釣合い錘4のうち重量が大きい方が下降している場合、エレベータは回生運転状態になっており、交流電動機2は発電機として作用して回生電力を発生させる。なお、当然のことながら、乗客の人数に応じてかご3の重量は異なる。
【0021】
電源回生ユニット50は、回生運転状態にて交流電動機2において発生する誘導起電力を電力系統7側へ回生するためのものである。電源回生ユニット50は、第1の電源線L1と第2の電源線L2に接続されていると共に、
図1に示すように、昇圧リアクトル62、キャリアフィルタ64、電磁開閉器66、及び絶縁トランス68を介して電力系統7に接続されている。
【0022】
図1に示すように、電源回生ユニット50は、平滑化コンデンサ20Bと回生コンバータ52とを含んでいる。回生コンバータ52は、例えば、IGBTなどのスイッチング素子とダイオードの並列回路をブリッジ接続した回路構成(図示省略)を有している。回生コンバータ52を構成する各スイッチング素子のオン/オフは、制御部40によってPWM方式で行われる。回生コンバータ52の具体的な回路構成は、公知のエレベータ制御装置におけるものと特段に変わるところはないため、詳細な説明は省略する。
【0023】
エレベータが回生運転状態となると、交流電動機2で発生した誘導起電力が平滑化コンデンサ20Bの両端に流れ込む。平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧は、電圧検出器60によって検出されて、その値が制御部40に送られる。制御部40は、例えば、平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧が、力行運転状態における値から上昇したことを検知すると、エレベータが回生運転状態にあると判断して、回生コンバータ52を構成する各スイッチング素子のオン/オフをPMW方式で制御して、回生電力を交流に変換する。回生コンバータ52で交流に変換された回生電力は、電力系統7側に送られる。
【0024】
スイッチ70及び抵抗80は、第1の電源線L1と第2の電源線L2の間に、直列に介挿されている。本実施形態のスイッチ70は例えばIGBTであり、そのゲートは制御部40のCPUに接続されている。つまり、本実施形態では、制御部40のCPUによってスイッチ70のオン/オフ制御が行われる。
【0025】
図2は、制御部40のCPUが、本発明に係る制御プログラムに従って実行する処理の流れを示すフローチャートである。制御部40のCPUは、例えば、エレベータ制御装置1への電力供給開始を契機として、当該制御プログラムを不揮発性メモリから揮発性メモリへ読み出し、その実行を開始する。
【0026】
まず、制御部40のCPUは、上位装置から与えられた指令値に応じて逆変換部30の制御を開始する(ステップS110)。例えば、上位装置から与えられた指令値が交流電動機2の出力トルクを指定するトルク指令であれば、CPUは、その出力トルクを実現する交流電力が供給されるように、逆変換部30に含まれる各スイッチング素子のスイッチング制御を行う。また、上位装置から与えられた指令値が交流電動機2に与える電流の電流値を指定する電流指令或いは交流電動機2に印加する電圧を指定する電圧指令であれば、CPUは、それら電流指令の示す電流値或いは電圧指令の示す電圧の交流電力が供給されるように、逆変換部30に含まれる各スイッチング素子のスイッチング制御を行う。なお、交流電動機2の駆動制御の開始に先立って電源回生ユニット50の回生コンバータ52は停止状態にされている。また、スイッチ70もオフ状態にされており、通電していない。
【0027】
ステップS110に後続するステップS120では、制御部40のCPUは、エレベータが回生運転状態であるか否かを判定する。電源回生ユニット50の平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧について電圧検出器60によって検出された値が、所定の電圧値、例えば、力行運転状態における電圧値を超えている場合、CPUは、エレベータが回生運転状態にあると判定する。なお、上位装置から与えられた制御部40に与えられた指令値、交流電動機2について計測された出力トルクや回転速度の値、かご3内の乗客等の重量を測定する重量センサの計測値などに基づいて、CPUは、エレベータが回生運転状態であるか否かを判定してもよい。
【0028】
ステップS120にて、エレベータが回生運転状態であると判定された場合、制御部40のCPUは、電源回生ユニット50の回生コンバータ52を駆動する(ステップS130)。交流電動機2で発生し、平滑化コンデンサ20Bの両端に流れ込んだ回生電力は、回生コンバータ52で交流に変換されて、電力系統7側に戻される。電力系統7側に戻された回生電力は、エレベータが設置されている施設に設けられているエレベータ以外の負荷8で消費される。なお、回生コンバータ52が既に駆動されている場合、CPUは、ステップS130にて、回生コンバータ52の駆動状態を維持する。
【0029】
ステップS120にてエレベータが回生運転状態ではない、即ち力行運転状態にあると判定された場合、制御部40のCPUは、電源回生ユニット50の回生コンバータ52を停止する(ステップS140)。なお、回生コンバータ52が既に停止状態である場合、CPUは、ステップS140にて、回生コンバータ52の停止状態を維持する。
【0030】
ステップS130の後、制御部40のCPUは、電源回生ユニット50の平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧について電圧検出器60によって検出された値が、所定の閾値電圧以上か否かを判定する(ステップS150)。この閾値電圧の値は、エレベータが回生運転状態であるか否かを判定する際に参照される上記の所定の電圧値よりも大きい。
【0031】
ステップS150にて、電圧検出器60によって検出された値が、所定の閾値電圧以上であると判定された場合、制御部40のCPUは、スイッチ70をオフ状態からオン状態に切り替えて通電させる(ステップS160)。スイッチ70がオンに切り替えられると、第1の電源線L1→スイッチ70→抵抗80→第2の電源線L2という電流経路が形成されて、この電流経路に沿って電流が流れることにより、回生電力の一部は抵抗80においてジュール熱に変換されて消費される。
【0032】
上記閾値電圧は、エレベータが設置されている施設におけるエレベータ以外の負荷8の消費電力の大きさに基づいて決定される。負荷8の消費電力に応じた大きさの回生電力が電力系統7側に戻されることで、電力系統7への逆潮流が適切に抑制される。閾値電圧を示す閾値電圧データは、制御部40の書換え可能な不揮発性メモリに記憶されており、エレベータが設置される施設のエレベータ以外の負荷8の消費電力に応じて適宜設定される。
【0033】
回生コンバータ52で交流に変換されて、電力系統7側に戻される回生電力が負荷8の最小消費電力を超えないように閾値電圧が設定されることで、交流電動機2で発生した回生電力のうち当該最小消費電力を上回る分が、抵抗80において消費されてもよい。負荷8の消費電力は一定ではなく、例えば、エレベータが設置されている施設がアパートである場合、住居者が、掃除機や洗濯機などの家電機器を用いている状態と、冷蔵庫などの常時動作する機器のみが動作している状態(例えば、深夜)とでは、負荷8の消費電力は異なる。故に、電力系統7側に戻される回生電力が、負荷8の最小消費電力を超えないように設定されることで、電力系統7側に戻される回生電力が負荷8にて消費されることが保証されて、電力系統7への逆潮流がより確実に抑制される。
【0034】
ステップS160の後、制御部40のCPUは、電源回生ユニット50の平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧について電圧検出器60によって検出された値が、閾値電圧未満である否かを判定する(ステップS170)。ステップS170にて、電圧検出器60の電圧値が閾値電圧未満であると判定されると、CPUは、スイッチ70をオン状態からオフ状態に切り替える(ステップS180)。これにより、回生電力は、抵抗80において消費されることなく、電力系統7側に送られる。ステップS180の後、CPUは、ステップS120以降の処理を再度実行する。ステップS140の後、及び、ステップS150にて、平滑化コンデンサ20Bの極板間電圧が閾値電圧以上ではないと判定された場合についても同様である。
【0035】
以上に説明したように、本実施形態によれば、アパートなどの小規模施設にて、エレベータの駆動制御に回生コンバータ52を備えたエレベータ制御装置1を用いたとしても、回生コンバータ52から電力系統7側に戻される回生電力が逆潮流となって商用電力系統7に流れ込むことが抑制されている。
【0036】
上記実施形態では、アパートなどの小規模施設のエレベータの駆動制御への本発明の適用例を説明した。これは、小規模施設ではエレベータ以外の負荷8の消費電力が大規模施設に比較して小さく、エレベータの回生運転時に発生する回生電力を他の負荷8による電力消費によって賄いきれない虞が高いからである。しかしながら、本発明の適用対象は、小規模施設のエレベータの駆動制御を行うためのエレベータの駆動制御に限定されるものではなく、逆潮流が生じる虞があるならば、大規模施設のエレベータの駆動制御に本発明のエレベータ制御装置が適用されても良い。
【0037】
上記実施形態では、閾値電圧を示す閾値電圧データは、制御部40の書換え可能な不揮発性メモリに記憶されているが、エレベータが設置されている施設におけるエレベータ以外の負荷8の消費電力をリアルタイムで又は所定の周期で検出する電力計を設けて、当該電力計で検出された消費電力を踏まえて、閾値電圧データが適宜更新されてもよい。また、このような電力計から特定された、ある日の負荷8の最小消費電力に基づいて、次の日における閾値電圧データ又は閾値電圧が決定されてもよい。
【0038】
アパートや小規模マンションなどの小規模な集合住宅のエレベータ制御に本発明が適用される場合には、エレベータを除いた、当該集合住宅の共用部分で常時給電されている設備(例えば、エントランスのオートロックシステム、防犯カメラ、ロビー階の電灯など)の消費電力の合計に基づいて、閾値電圧データ又は閾値電圧が決定されてもよい。また、このような集合住宅では、ロビー階以外の階に設置された電灯は夜間のみ点灯することが多く、共用部分の消費電力の合計が変動することから、閾値電圧データ又は閾値電圧は、昼間や夜間等の時間帯に応じて変更されてもよい。
【0039】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。