特許第6304123号(P6304123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304123
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】車両の電動制動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/64 20160101AFI20180326BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20180326BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   H02P29/64
   B60T7/12 D
   B60T13/74 G
【請求項の数】1
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-98266(P2015-98266)
(22)【出願日】2015年5月13日
(65)【公開番号】特開2016-214037(P2016-214037A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕己
(72)【発明者】
【氏名】幽谷 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】勝山 智徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 元一
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−238560(JP,A)
【文献】 特開2013−132137(JP,A)
【文献】 特開2009−220807(JP,A)
【文献】 特開2013−005475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/64
B60T 7/12
B60T 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と一体回転する回転体と、
前記回転体に押し付けられることにより、前記車輪に制動力を付与する摩擦部材と、
三相のコイルを有するモータと、
前記各コイルに供給する交流電流を個別に制御することで前記モータの回転を調整することにより、前記摩擦部材を前記回転体に押しつける力を制御するモータ制御装置と、を備え、
前記各コイルのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きく、同1つのコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値以上であるときの前記モータの状態を特定状態とし、
前記モータが特定状態であるときに、流れている電流の絶対値が前記ピーク判定値以上となっている前記コイルを特定のコイルとした場合、
前記モータ制御装置は、前記モータが前記特定状態であることが継続されていることを検出したときに、前記モータの回転角を変更する継続解消処理を実施する制御部を備え、
前記制御部は、
前記継続解消処理として、
前記特定のコイルに流れる電流の絶対値が前記ピーク判定値よりも小さくなる回転角に前記モータの回転角を変更し、同回転角を保持する第1の継続解消処理と、
前記モータが前記特定状態とならない回転角を含む変動許可角度範囲内で前記モータの回転角を振動させる第2の継続解消処理と、を実施するようになっており、
前記車輪に制動力を付与している状況下で前記モータが前記特定状態であることが継続されていることを検出した場合、
車両が停止していないときには前記第1の継続解消処理を実施し、車両が停止しているときには前記第2の継続解消処理を実施する
車両の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相のコイルを有するモータを制御する車両のモータ制御装置を備える車両の電動制動装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハイブリッド自動車等の電動車両の動力源として機能するモータと、同モータを制御する車両のモータ制御装置とが記載されている。同モータ制御装置によって制御されるモータは、三相のコイルを有するブラシレスモータである。また、モータ制御装置は、交流電流を生成して各コイルに出力するインバータ回路と、同インバータ回路を制御する制御部とを備えている。そして、こうしたモータ制御装置では、インバータ回路のスイッチング素子の温度に応じてモータの制御方法を切り替えることで、同スイッチング素子の過度な温度上昇を抑制している。
【0003】
なお、三相のコイルを有するモータは、例えば、車輪と一体回転する回転体と、同回転体に押し付けられることにより車輪に制動力を付与する摩擦部材と、を備える電動制動装置の動力源として採用することもできる。この場合、モータの回転量を調整することで、回転体に摩擦部材を押し付ける力、すなわち車輪に付与する制動力を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−246207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の電動制動装置においては、車輪に付与する制動力を保持しているとき、モータの回転角が保持されることがある。この場合、モータの回転角が変化しないように、モータの各コイルに流れる電流の値もまた保持されることとなる。
【0006】
ちなみに、上記のモータの各コイルに流れる電流は、位相が互いに120°相異している。そのため、モータの回転角によっては、各コイルのうち1つのコイル(以下、「特定のコイル」ともいう。)に流れる電流の絶対値が最大値とほぼ等しくなる一方で、他のコイルに流れる電流の絶対値が比較的小さくなることがある。そして、このように特定のコイルにのみ大きな電流が流れる状態が継続されると、特定のコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなり過ぎることで、特定のコイルの特性の経年変化が他のコイルよりも進むおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、モータの三相のコイルのうち1つのコイルの特性の経年変化が、他のコイルよりも進んでしまうことを抑制することができる車両の制動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための車両の電動制動装置は、三相のコイルを有するモータの回転角を、各コイルに供給する交流電流を個別に制御することで調整するモータ制御装置を備えている。各コイルのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きく、同1つのコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値以上であるときのモータの状態を特定状態とし、モータが特定状態であるときに、流れている電流の絶対値がピーク判定値以上となっているコイルを特定のコイルとしたとする。この場合、車両のモータ制御装置は、モータが特定状態であることが継続されていることを検出したときに、モータの回転角を変更する継続解消処理を実施する制御部を備える。
【0009】
モータの三相のコイルのうち1つのコイルに流れる交流電流の絶対値がピーク判定値以上である場合、当該1つのコイル以外の他のコイルに流れる交流電流の絶対値はピーク判定値未満である。そのため、当該1つのコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなりやすい。
【0010】
上記構成では、モータが特定状態であることが継続されていることが検出されると、継続解消処理の実施によってモータの回転角を変更することで、上記特定のコイルに流れる電流の値が変化される。これにより、特定のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値以上である状態が継続されることが抑制され、特定のコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなり過ぎることを抑制することができる。したがって、モータの三相のコイルのうち1つのコイルの特性の経年変化が、他のコイルよりも進んでしまうことを抑制することができるようになる。
【0011】
また、制御部は、継続解消処理では、モータが特定状態とならない回転角と、モータが特定状態であることが継続されているときの同モータの回転角と、の双方を含む変動許可角度範囲内でモータの回転角を振動させることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、変動許可角度範囲内でモータの回転角を振動させることにより、特定のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値以上であり続けることを抑制することができる。また、モータの回転角を振動させることにより、特定のコイル以外の他のコイルに流れる電流の値も変動するため、モータの回転角を振動させない場合と比較して、各コイル間の温度の乖離を抑えることができる。
【0013】
さらに、変動許可角度範囲が、モータが特定状態であることが継続されているときの回転角を含んだ範囲となっている。そのため、継続解消処理の実施によってモータの回転角を振動させているときに、保持されていたときの回転角からのモータの回転角の乖離が大きくなることを抑制することができる。
【0014】
また、モータが特定状態であることが継続されているときの同モータの回転角を基準回転角とした場合、変動許可角度範囲の下限値は、基準回転角から規定回転角を減算した差であり、同変動許可角度範囲の上限値は、基準回転角から規定回転角を加算した和であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、継続解消処理の実施によってモータの回転角を振動させる際、モータの回転角は、基準回転角を中心に振動することとなる。そのため、変動許可角度範囲の中心となる回転角が基準回転角ではない場合に比較して、継続解消処理の実施によってモータの回転角を振動させているときに、保持されていたときの回転角である基準回転角からのモータの回転角の乖離が大きくなることをより抑制することができる。
【0016】
また、制御部は、継続解消処理では、特定のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値よりも小さくなる回転角にモータの回転角を変更し、同回転角を保持することが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、継続解消処理の実施によるモータの回転角の変更によって、特定のコイルに流れる電流の絶対値をピーク判定値よりも小さくすることができる。そのため、特定のコイルの温度が過度に高くなることを抑えることができる。
【0018】
また、車両のモータ制御装置は、各コイルに電流が流れている状況下で、モータの回転角が保持されている状態が継続されていることを検出したときに、モータの回転角を振動させる継続解消処理を実施する制御部を備えてもよい
【0019】
モータの回転角が保持されている状態が継続されているときには、モータの各コイルに流れる電流の値が保持されるため、各コイルに流れる電流の絶対値が異なる状態が継続されることがある。このため、モータの回転角が保持されている状態が継続されているときには、各コイル間の温度の乖離が生じやすい。上記構成によれば、モータの回転角を変動許可角度範囲内で振動させることにより、各コイルに流れる電流の絶対値が変動される。そのため、各コイルのうち一部のコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きい状態が継続されにくくなり、結果として、各コイル間の温度の乖離を抑えることができる。こうして、モータの三相のコイルのうち1つのコイルの特性の経年変化が、他のコイルよりも進んでしまうことを抑制することができる。
【0020】
また、車両の電動制動装置としては、車輪と一体回転する回転体と、回転体に押し付けられることにより、車輪に制動力を付与する摩擦部材と、三相のコイルを有するモータと、モータの駆動を制御することにより、摩擦部材を回転体に押しつける力を制御するモータ制御装置と、を備える装置がある。そして、この車両の電動制動装置のモータ制御装置として、上記車両のモータ制御装置を採用することができる。
【0021】
こうした車両の電動制動装置においては、車輪に一定の制動力を継続して付与するために、モータの回転角を保持する状態が継続される場合がある。つまり、モータが特定状態であることが継続されることがある。
【0022】
そこで、上記車両の電動制動装置において、制御部は、継続解消処理として、特定のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値よりも小さくなる回転角にモータの回転角を変更し、同回転角を保持する第1の継続解消処理と、モータが特定状態とならない回転角を含む変動許可角度範囲内でモータの回転角を振動させる第2の継続解消処理と、を実施するように構成してもよい。
【0023】
第2の継続解消処理が実施されている場合には、モータの回転角が振動されるため、車輪に付与する制動力が振動しやすいものの、モータの各コイルの温度上昇態様のばらつきを抑えやすい。一方、第1の継続解消処理が実施されている場合には、モータの回転角が変更されるのみであるため、車輪に付与する制動力が変化しにくい。すなわち、第1の継続解消処理では、第2の継続解消処理と比較して、車輪に付与する制動力が変化しにくい分、運転者に与える違和感は小さい。
【0024】
そこで、制御部は、車輪に制動力を付与している状況下でモータが特定状態であることが継続されていることを検出した場合、車両が停止していないときには第1の継続解消処理を実施し、車両が停止しているときには第2の継続解消処理を実施してもよい。
【0025】
この構成によれば、車両が停止していないときには第1の継続解消処理を実施することで、特定のコイルの温度と特定のコイル以外他のコイルの温度との乖離をある程度抑えた上で、ドライバビリティの低下を抑制することができる。一方、車両が停止しているときには第2の継続解消処理を実施することで、各コイルの温度の上昇態様のばらつきを抑えることができる。
【0026】
また、上記のような車両の電動制動装置にあっては、車輪に付与する制動力が大きい場合には、同制動力が小さい場合に比較して、モータの回転量が大きくなる。このため、車輪に付与する制動力が大きい場合には、モータの回転角をある範囲で変化させたとしても同制動力の変化率が小さく、運転者に与える違和感が小さくなりやすい。一方、車輪に付与する制動力が小さい場合には、モータの回転角をある範囲で変化させると、同制動力の変化率が大きくなり、運転者に与える違和感が大きくなりやすい。
【0027】
そこで、モータ制御装置として上記車両のモータ制御装置を備える車両の電動制動装置において、制御部は、車輪に付与する制動力が制動力判定値以上であるときには継続解消処理の実施を許可し、車両が停止していない状況下で車輪に付与する制動力が制動力判定値未満であるときには、継続解消処理の実施を禁止するようにしてもよい。
【0028】
上記構成によれば、車輪に付与する制動力が制動力判定値以上である状況下では、継続解消処理の実施に伴う車輪に対する制動力の変動の割合が大きくなりにくいと判断することができる。そのため、モータが特定状態であることが継続されていることが検出されたときには、継続解消処理が実施されることで、1つのコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなり過ぎることを抑制することができる。一方、車両が停止していない状況下で車輪に付与する制動力が制動力判定値未満である状況下では、継続解消処理を実施すると、車輪に付与する制動力の変動の割合が大きくなりやすく、運転者に与える違和感が大きくなると判断できる。そのため、こうした状況下では、モータが特定状態であることが継続される場合であっても継続解消処理が実施されない。したがって、継続解消処理の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】車両の電動制動装置の一実施形態の概略を示す構成図。
図2】同車両の電動制動装置が備える車両のモータ制御装置と、同モータ制御装置によって制御されるモータとの電気的構成を示す回路図。
図3】同車両のモータ制御装置が実施する第1の継続解消処理における回転角の変更態様の一例を示すグラフ。
図4】同車両のモータ制御装置が実施する第2の継続解消処理における回転角の振動態様の一例を示すグラフ。
図5】ブレーキ操作量に応じた制動力を車輪に付与させる際に制御部が実施する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図6】モータを構成する各コイルのうち、1つのコイルの温度と他のコイルの温度との乖離を抑えるために制御部が実施する処理ルーチンを説明するフローチャート。
図7】制動力を車輪に付与する際のタイミングチャートであって、(a)は車両の車体速度の推移を示し、(b)は車輪に対する制動力の推移を示し、(c)はモータの回転角の推移を示し、(d)はモータの各コイルに流れる電流の値の推移を示す。
図8】別の実施形態の車両の電動制動装置において、ブレーキ操作量に応じた制動力を車輪に付与させる際に制御部が実施する処理ルーチンの一部を説明するフローチャート。
図9】他の別の実施形態の車両の電動制動装置の概略を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、車両のモータ制御装置及び車両の電動制動装置を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両の電動制動装置10は、車輪11毎に設けられている電動式のブレーキアクチュエータ12と、ブレーキアクチュエータ12を制御する制御装置13とを備えている。例えば、4つの車輪11を有する車両に適用される電動制動装置10は、合計で4つのブレーキアクチュエータ12を備えている。
【0031】
ブレーキアクチュエータ12は、ディスク型の電動アクチュエータであり、車輪11と一体回転する回転体の一例であるブレーキディスク20と、車体に支持されているブレーキキャリパ21とを有している。このブレーキキャリパ21は、図中左右方向でもある車両幅方向においてブレーキディスク20を挟んだ両側に配置される一対のブレーキパッド22を支持している。これらブレーキパッド22が、「摩擦部材」の一例に相当する。ブレーキパッド22は、ブレーキディスク20に近づく方向及び離れる方向に移動可能となっており、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力が大きいほど、車輪11に大きい制動力が付与される。
【0032】
なお、電動制動装置10に適用されるブレーキアクチュエータとして、ディスク型以外にもドラム型の電動アクチュエータも挙げることができる。この場合、ブレーキドラムが「回転体」の一例に相当し、ブレーキシューが「摩擦部材」の一例に相当することとなる。
【0033】
ブレーキキャリパ21には、モータ23と、モータ23からの出力をブレーキパッド22に伝達する伝達機構24とが設けられている。そして、モータ23が駆動されると、モータ23からの出力が伝達機構24を通じてブレーキパッド22に伝達される。これにより、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に押し付けられたり、ブレーキパッド22のブレーキディスク20への押し付けが解消されたりする。
【0034】
なお、本明細書では、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に近づけたり、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を大きくしたりするためのモータ23の駆動を正駆動ともいう。また、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を小さくしたり、ブレーキパッド22をブレーキディスク20から離したりするためのモータ23の駆動を逆駆動ともいう。また、モータ23の正駆動時における同モータ23の出力軸231の回転方向は、モータ23の逆駆動時における出力軸231の回転方向とは反対方向である。
【0035】
伝達機構24は、モータ23の出力軸231の回転速度を減速して出力する減速機25と、減速機25の出力側に接続されているシャフト部材26とを備えている。このシャフト部材26は、モータ23からの出力トルクが減速機25を通じて伝達されることで回転する。このとき、シャフト部材26は、モータ23の出力軸231の回転方向に準じた方向に回転する。なお、本実施形態では、減速機25の減速比は、モータ23が一回転して車輪11に付与する制動力が変化しても、当該制動力の変化を車両の運転者が感じにくい程度の比率に設定されている。
【0036】
また、伝達機構24には、シャフト部材26の先端に連結されている螺子部材27と、ブレーキパッド22を支持しているピストン28とが設けられている。螺子部材27は、ピストン28の内部に位置しており、螺子部材27の周面には雄ねじ加工が施されている。すなわち、螺子部材27の周面が雄ねじ部となっている。
【0037】
ピストン28の内周面には雌ねじ加工が施されている。すなわち、ピストン28の内周面は、螺子部材27の雄ねじ部が螺合される雌ねじ部となっている。そのため、ピストン28には、螺子部材27の回転運動が直線運動に変換されて入力される。つまり、螺子部材27とピストン28とにより、モータ23の出力軸231の回転運動を直線運動に変換してブレーキパッド22に出力する「変換器」の一例が構成される。
【0038】
なお、車両に設けられている複数のブレーキアクチュエータ12のうち、一部のブレーキアクチュエータ12には、図1に示すように、車輪11に付与する制動力を保持するためのロック機構30が設けられている。例えば、ロック機構30を有するブレーキアクチュエータ12としては、後輪用のブレーキアクチュエータを挙げることができる。
【0039】
ロック機構30は、モータ23の出力軸231に固定されており、同出力軸231と一体回転するラチェット歯車31と、ラチェット歯車31に近づく方向及び離れる方向に進退移動する爪部材32と、爪部材32の動力源であるソレノイド33を有している。ラチェット歯車31は、モータ23の駆動に基づき回転する。
【0040】
図1に示すように、制御装置13には、モータ23の出力軸231、すなわちラチェット歯車31の回転角度を検出する回転角度検出センサ101と、ピストン28がブレーキパッド22を押す力を検出する押圧力センサ102とが電気的に接続されている。この押圧力センサ102によって検出される上記押す力は、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力と相関している。そのため、制御装置13は、押圧力センサ102によって検出される上記押す力に基づき、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を推定することができる。
【0041】
また、制御装置13には、ブレーキペダル200のブレーキ操作量を検出するストロークセンサ103が電気的に接続されている。制御装置13は、ストロークセンサ103によって検出されたブレーキ操作量に基づき、運転者が要求している要求制動力を演算する。そして、制御装置13は、演算した要求制動力に応じてモータ23の駆動を制御する。例えば、制御装置13は、要求制動力が大きくなっているときにはモータ23を正駆動させる一方、要求制動力が小さくなっているときにはモータ23を逆駆動させる。また、制御装置13は、要求制動力が保持されているときにはモータ23の出力軸231の回転角度を変化させない。
【0042】
また、制御装置13には、パーキングスイッチ111が電気的に接続されている。車両が停止している状況下でパーキングスイッチ111がオン操作されると、制御装置13は、車両を停止させるのに必要な制動力を車輪11に付与させるべくモータ23を正駆動させ、この状態を保持すべくモータ23及びソレノイド33の駆動を制御する。そして、制御装置13は、車輪11に付与する制動力がロック機構30によって保持されている状態を確認した上で、モータ23及びソレノイド33の駆動を停止させる。
【0043】
また、制御装置13には、車輪11の車輪速度を検出する車輪速度センサ104が電気的に接続されている。制御装置13は、車輪11毎の車輪速度のうち少なくとも1つの車輪速度(例えば、最も大きい車輪速度)に基づいて、車体速度を演算する。
【0044】
次に、図2を参照して、モータ23及び制御装置13について詳しく説明する。
図2に示すように、モータ23は、u相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相交流のブラシレスモータである。こうしたモータ23の出力軸231の回転角のことを単に「モータ23の回転角θ」といい、モータ23の出力軸231が回転することを単に「モータ23が回転する」というものとする。
【0045】
制御装置13は、こうしたモータ23の回転を、各コイル23u,23v,23wに供給する交流電流を個別に制御することで調整するモータ制御装置40を備えている。このモータ制御装置40には、モータ23に流れる電流を切り替えるインバータ回路41と、同インバータ回路41を制御する制御部42と、直流電源としてのバッテリ43とが設けられている。
【0046】
インバータ回路41の入力側にはバッテリ43が接続され、インバータ回路41の出力側にはモータ23が接続されている。
インバータ回路41は、バッテリ43の陽極側に接続された電力線EL1と、バッテリ43の陰極側に接続された電力線EL2と、u相コイル23uに対応するu相上下アームELuと、v相コイル23vに対応するv相上下アームELvと、w相コイル23wに対応するw相上下アームELwとを備えている。また、インバータ回路41は、バッテリ43と並列に電力線EL1,EL2に接続された平滑コンデンサCと、モータ23のu相コイル23uに流れる電流の値を検出する電流センサ411と、w相コイル23wに流れる電流の値を検出する電流センサ412とを有している。
【0047】
u相上下アームELuの一端は電力線EL1に接続されているとともに、u相上下アームELuの他端は電力線EL2に接続されている。こうしたu相上下アームELuには、電力線EL1,EL2の間で直列に接続されたスイッチング素子Q1u,Q2uと、スイッチング素子Q1u,Q2uに並列に接続された還流ダイオードD1u,D2uとが設けられている。そして、u相上下アームELuにおけるスイッチング素子Q1uとスイッチング素子Q2uとの接続部位は、u相コイル23uと接続されている。
【0048】
また、v相上下アームELvの一端は電力線EL1に接続されているとともに、v相上下アームELvの他端は電力線EL2に接続されている。こうしたv相上下アームELvには、電力線EL1,EL2の間で直列に接続されたスイッチング素子Q1v,Q2vと、スイッチング素子Q1v,Q2vに並列に接続された還流ダイオードD1v,D2vとが設けられている。そして、v相上下アームELvにおけるスイッチング素子Q1vとスイッチング素子Q2vとの接続部位は、v相コイル23vと接続されている。
【0049】
また、w相上下アームELwの一端は電力線EL1に接続されているとともに、w相上下アームELwの他端は電力線EL2に接続されている。こうしたw相上下アームELwには、電力線EL1,EL2の間で直列に接続されたスイッチング素子Q1w,Q2wと、スイッチング素子Q1w,Q2wに並列に接続された還流ダイオードD1w,D2wとが設けられている。そして、w相上下アームELwにおけるスイッチング素子Q1wとスイッチング素子Q2wとの接続部位は、w相コイル23wと接続されている。
【0050】
なお、図2に示す例では、スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wとしてIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用いている。しかし、オン・オフの切り替えを速やかに行うことができる素子であれば、例えばパワーMOSFETのようにIGBT以外の他の素子を、スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wとして採用してもよい。
【0051】
各スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wのゲートには制御部42が電気的に接続されている。そして、スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wは、ゲートに所定のパルス幅を有する駆動信号が制御部42から入力されることにより、オン・オフするようになっている。例えば、スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wのオン・オフを適宜制御することにより、インバータ回路41は、バッテリ43から入力される直流電流に基づいて交流電流を生成し、同交流電流をモータ23に出力する。
【0052】
詳しくは、u相コイル23uに正の電流を流す際にはスイッチング素子Q1uがオンされるとともにスイッチング素子Q2uがオフされる。このとき、スイッチング素子Q1uがオンとなる期間が長いほど、u相コイル23uに流れる正の電流が大きくなる。一方、u相コイル23uに負の電流を流す際にはスイッチング素子Q1uがオフされるとともにスイッチング素子Q2uがオンされる。このとき、スイッチング素子Q2uがオンとなる期間が長いほど、u相コイル23uに流れる負の電流が大きくなる。
【0053】
また、v相コイル23vに正の電流を流す際にはスイッチング素子Q1vがオンされるとともにスイッチング素子Q2vがオフされ、v相コイル23vに負の電流を流す際にはスイッチング素子Q1vがオフされるとともにスイッチング素子Q2vがオンされる。また、w相コイル23wに正の電流を流す際にはスイッチング素子Q1wがオンされるとともにスイッチング素子Q2wがオフされ、w相コイル23wに負の電流を流す際にはスイッチング素子Q1wがオフされるとともにスイッチング素子Q2wがオンされる。
【0054】
このようにモータ23の各コイル23u,23v,23wに流れる電流を変化させることで、同モータ23の回転角が調整される。したがって、本実施形態では、スイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wにより、コイル23u,23v,23wに正の電流を出力するための「正電流生成部」の一例が構成され、スイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wにより、コイル23u,23v,23wに負の電流を出力するための「負電流生成部」の一例が構成される。すなわち、インバータ回路41は、モータ23のコイル23u,23v,23w毎に正電流生成部及び負電流生成部が設けられた構成となっている。
【0055】
制御部42には、電流センサ411,412が電気的に接続されている。そのため、制御部42は、電流センサ411,412によって検出された電流の値に基づいて、u相コイル23uに流れる電流の値及びw相コイル23wに流れる電流の値を取得することができる。また、制御部42は、u相コイル23uに流れる電流の値及びw相コイル23wに流れる電流の値に基づいて、v相コイル23vに流れる電流の値を演算することができる。
【0056】
なお、本明細書において以降の説明では、u相コイル23uに流れる電流を「電流Iu」とし、v相コイル23vに流れる電流を「電流Iv」とし、w相コイル23wに流れる電流を「電流Iw」とする。
【0057】
次に、図3及び図4を参照して、モータ23の各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwと同モータ23の回転角θとの関係を説明する。なお、図3及び図4では、u相コイル23uに流れる電流Iuを実線で示し、v相コイル23vに流れる電流Ivを破線で示し、w相コイル23wに流れる電流Iwを二点鎖線で示している。
【0058】
図3及び図4に示すように、モータ23は三相交流モータであるため、各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwを周期的に変化させることにより、モータ23の回転角θを変更することができる。このように各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの位相は、互いに「120°」相異している。しかし、電流Iu,Iv,Iwの変動幅は互いに等しく、電流Iu,Iv,Iwの最大値Imは互いに等しい。すなわち、電流Iu,Iv,Iwは、下限値「−Im」と上限値「+Im」との間で変動する。
【0059】
本実施形態の車両の電動制動装置10においては、モータ23の回転を制御することで車輪11に付与する制動力を制御することができる。すなわち、モータ23の回転角θを大きくすることで、車輪11に付与する制動力が大きくなる。その一方で、車輪11に付与する制動力を保持するときには、モータ23の回転角θが保持される。そして、このようにモータ23の回転角θを保持する場合、モータ23の回転角θが変化しないように同モータ23の各コイル23u,23v,23wに流す電流Iu,Iv,Iwの値もまた保持される。
【0060】
このため、このように車輪11に付与する制動力を保持しているときのモータ23の回転角θによっては、各コイル23u,23v,23wのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値が最大値Imとほぼ等しくなる一方、他のコイルに流れる電流の絶対値が上記最大値Imに比べて小さくなることがある。このように1つのコイルに流れる電流の絶対値が最大値Imとほぼ等しくなっているときのモータ23の状態のことを「特定状態」といい、モータ23が特定状態であるときに流れている電流の絶対値が最大値Imとほぼ等しくなっているコイルのことを「特定のコイル」という。
【0061】
具体的には、各コイル23u,23v,23wのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きく、同1つのコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpTh以上であるときに、モータ23が特定状態であると判断することができる。また、モータ23が特定状態であるときに、流れている電流の絶対値がピーク判定値IpTh以上となっているコイルが、特定のコイルに相当する。
【0062】
例えば、図3に示すように、モータ23の回転角θが「90°」である場合、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がv相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値よりも大きい場合であって、且つ、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpTh以上である。そのため、こうした場合にモータ23が特定状態であると判断することができ、u相コイル23uが特定のコイルに相当することとなる。
【0063】
なお、ピーク判定値IpThは、以下に示す条件を満たす値に設定されている。
(条件1−1)各コイル23u,23v,23wのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpTh以上になっている場合、他のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpTh以上にならないこと。
【0064】
(条件1−2)各コイル23u,23v,23wのうち1つのコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となるときに、ピーク判定値IpThは他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きいこと。例えば、回転角θが「60°」である場合、v相コイル23vに流れる電流Ivの値が「0(零)」であり、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値が比較的大きい値になっている。こうしたu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値よりも大きい値に、ピーク判定値IpThが設定されている。
【0065】
そして、このようにモータ23が特定状態になっている場合、各コイル23u,23v,23wのうち特定のコイルに流れる電流の絶対値は大きいものの、他のコイルに流れる電流の絶対値は比較的小さい。そのため、モータ23が特定状態であることが継続されていると、特定のコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなり、特定のコイルの特性の経年変化が他のコイルよりも進むおそれがある。
【0066】
一例として、図3に示すように、モータ23の回転角θが「90°」で維持されている場合、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値が最大値Imと等しい一方、v相コイル23v及びw相コイル23wに流れる電流Iu,Iwの絶対値は最大値Imの半分程度となる。この場合、モータ23が特定状態となっており、u相コイル23uが特定のコイルに相当し、v相コイル23v及びw相コイル23wが他のコイルに相当することとなる。そして、この場合、u相コイル23uの温度が、v相コイル23v及びw相コイル23wの温度よりも高くなる。
【0067】
そこで、本実施形態では、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出されたときには、モータ23の回転角θを変更し、特定のコイルに流れる電流の値を変化させる継続解消処理を実施するようにした。このように継続解消処理を実施することで、特定のコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きい状態が継続されたり、特定のコイルの温度と他のコイルの温度との乖離が大きくなり過ぎたりすることが抑制される。
【0068】
すなわち、制御部42が実施する継続解消処理は、特定のコイルに流れる電流の絶対値が小さくなる回転角にモータ23の回転角θを変更し、同回転角θを保持する第1の継続解消処理と、特定のコイルに流れる電流の絶対値が小さくなる回転角を含む角度範囲内でモータ23の回転角θを振動させる第2の継続解消処理とを含んでいる。そして、制御部42は、状況に応じ、第1の継続解消処理を実施したり、第2の継続解消処理を実施したりする。
【0069】
次に、図3を参照し、第1の継続解消処理について説明する。
図3に示すように、第1の継続解消処理では、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出された場合、特定のコイルに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpThよりも小さくなるようにモータ23の回転角θを変更し、同回転角θを保持する。この場合、保持するモータ23の回転角θが、特定のコイル以外の2つの他のコイルのうち、一方の他のコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となる回転角に変更される。例えば、図3に実線矢印で示すように、モータ23の回転角θを「90°」で保持している状態が継続されていることが検出された場合、モータ23の回転角θを「60°」に変更することで、特定のコイルであるu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値が小さくされる。また、これにより、v相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値が「0(零)」となる。
【0070】
この際、第1の継続解消処理では、モータ23の回転角θを「120°」に変更することで、特定のコイルであるu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値を小さくするようにしてもよい。これにより、w相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値は「0(零)」となる。
【0071】
なお、第1の継続解消処理では、モータ23の回転角θを変更することで、各コイル23u,23v,23wのうち何れか1つのコイルに流れる電流の絶対値を「0(零)」にすることができるのであれば、回転角θの変更量を「30°」とは異なる値としてもよい。例えば、モータ23の回転角θを「90°」だけ変更させるようにしてもよい。この場合、特定のコイルに流れる電流の絶対値を「0(零)」とすることができる。また、モータ23の回転角θを「150°」だけ変更させるようにしてもよい。この場合、特定のコイルとは異なる2つの他のコイルのうち一方の他のコイルに流れる電流の絶対値を「0(零)」とすることができる。
【0072】
次に、図4を参照し、第2の継続解消処理について説明する。
図4に示すように、第2の継続解消処理では、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出された場合、変動許可角度範囲Rθ内でモータ23の回転角θを振動させる。このときの変動許可角度範囲Rθは、以下に示す条件を満たすように設定されている。
【0073】
(条件2−1)モータ23が特定状態とはならない回転角を含むこと。例えば、モータ23の回転角θを「90°」に保持する状態が継続されたことに起因して第2の継続解消処理が実施される場合、特定のコイルであるu相コイル23uに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpTh未満となる回転角θを含むこと。
【0074】
(条件2−2)各コイル23u,23v,23wのうち特定のコイル以外の他のコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となる回転角θを含むこと。例えば、モータ23の回転角θを「90°」に保持する状態が継続されたことに起因して第2の継続解消処理が実施される場合、他のコイルであるv相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値が「0(零)」となる回転角、及び他のコイルであるw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値が「0(零)」となる回転角を含むこと。
【0075】
(条件2−3)特定のコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となる回転角を含むこと。
(条件2−4)モータ23が特定状態であることが継続されているときの回転角θである基準回転角θbを含むこと。より具体的には、変動許可角度範囲の下限値θlが基準回転角θbから規定回転角θdを減算した差であり、変動許可角度範囲の上限値θhが基準回転角θbに規定回転角θdを加算した和であること。
【0076】
そして、本実施形態では、変動許可角度範囲Rθが上記(条件2−1)〜(条件2−4)の全てを充足するために、規定回転角θdが「90°」に設定されている。これにより、図4に示すように、モータ23の回転角θを「90°」で保持している状態が継続されていることが検出された場合、変動許可角度範囲の下限値θlが「0(零)°」に設定され、変動許可角度範囲の上限値θhが「180°」に設定される。そのため、第2の継続解消処理の実施によって、回転角θが、「0(零)°」から「180°」の間で振動される。もちろん、変動許可角度範囲Rθが上記(条件2−1)〜(条件2−4)の全てを充足するのであれば、規定回転角θdを「90°」よりも大きい値に設定してもよい。
【0077】
なお、第2の継続解消処理では、(条件2−1)を含むのであれば、変動許可角度範囲Rθを適宜変更してもよい。例えば、基準回転角θbが下限値θlとなるように変動許可角度範囲Rθを設定してもよいし、基準回転角θbが上限値θhとなるように変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。また、基準回転角θbを含むのであれば、特定のコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となる角度を含まないように、変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。例えば、基準回転角θbが「90°」であり、特定のコイルがu相コイル23uである場合、「0(零)°」及び「180°」を含まないように変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。また、基準回転角θbを含むのであれば、特定のコイル以外の他のコイルに流れる電流の絶対値が「0(零)」となる角度を含まないように、変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。例えば、基準回転角θbが「90°」であり、特定のコイルがu相コイル23uである場合、「60°」及び「120°」を含まないように変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。
【0078】
さらに、基準回転角θbを含まないように、変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。例えば、基準回転角θbが「90°」であり、特定のコイルがu相コイル23uである場合、「120°」が下限値θlとなり、「270°」が上限値θhとなるように変動許可角度範囲Rθを設定してもよい。
【0079】
ところで、本実施形態にあっては、車輪11に制動力が付与されているときに第1の継続解消処理や第2の継続解消処理が実施されると、運転者が一定の制動力を要求している場合でも、車輪11に付与される制動力が変化することがある。
【0080】
ここで、第2の継続解消処理が実施されている場合には、モータ23の回転角θが振動されるため、車輪11に付与する制動力が振動しやすいものの、モータ23の各コイル23u,23v,23wの温度上昇態様のばらつきを抑えやすい。一方、第1の継続解消処理が実施されている場合には、モータ23の回転角θが変更されるのみであるため、車輪11に付与する制動力が変化しにくい。
【0081】
そこで、本実施形態では、車両が停止していないとき、すなわち車両の減速途中には第1の継続解消処理を実施する一方、車両が停止しているときには第2の継続解消処理を実施するようにしている。
【0082】
次に、図5に示すフローチャートを参照して、ブレーキ操作が行われている状況下で、車両のモータ制御装置40の制御部42が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、予め設定された制御サイクル毎に実行される処理ルーチンである。また、本処理ルーチンは、運転者がブレーキ操作を行っていることを前提としているが、例えば自動ブレーキなどのように運転者によるブレーキ操作を伴わない車両制動時に実行してもよい。ただし、この場合、ステップS11,S12の各処理が省略されることとなる。
【0083】
図5に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御部42は、ストロークセンサ103によって検出されたブレーキ操作量BOを取得し(ステップS11)、同ブレーキ操作量BOが「0(零)」よりも大きいか否かを判定する(ステップS12)。ブレーキ操作量BOが「0(零)」の場合(ステップS12:NO)、ブレーキ操作がされていないと判断できるため、制御部42は、特定状態継続期間TCに「0(零)」をセットし(ステップS13)、その後、本処理ルーチンを一旦終了する。なお、特定状態継続期間TCとは、モータ23が特定状態であることが継続されている期間を示す値である。
【0084】
ステップS12において、ブレーキ操作量BOが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS12:YES)、制御部42は、ブレーキ操作量BOに基づき、要求制動力BPTを車輪11毎に演算し(ステップS14)、同要求制動力BPTに基づいてインバータ回路41を駆動する(ステップS15)。詳しくは、制御部42は、車輪11に付与する制動力BPが要求制動力BPTとなるように、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力を決定し、その力でブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付けるために必要なモータ23の回転量を決定する。こうして、制御部42は、モータ23の回転量が決定された回転量となるようにインバータ回路41を制御する。
【0085】
そして、制御部42は、電流センサ411,412によって検出されるu相コイル23uに流れる電流Iuの値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの値を取得し、両電流Iu,Iwの値に基づいてv相コイル23vに流れる電流Ivの値を取得する(ステップS16)。続いて、制御部42は、モータ23が特定状態であるか否かを判定する(ステップS17)。このステップS17では、各コイル23u,23v,23wの中に、電流の絶対値がピーク判定値IpTh以上となるコイルがある場合には、モータ23が特定状態であると判定することができる。一方、全てのコイル23u,23v,23wに流れる電流の絶対値がピーク判定値IpTh未満である場合には、モータ23が特定状態ではないと判定することができる。
【0086】
ステップS17において、モータ23が特定状態でない場合(ステップS17:NO)、制御部42は、その処理をステップS13に移行する。一方、モータ23が特定状態である場合(ステップS17:YES)、制御部42は、特定状態継続期間TCを更新する(ステップS18)。すなわち、制御部42は、本処理ルーチンの制御サイクルに応じた値を特定状態継続期間TCに積算する。
【0087】
続いて、制御部42は、特定状態継続期間TCが期間判定値TCTh以上であるか否かを判定する(ステップS19)。期間判定値TCThは、特定状態継続期間TCに応じて継続解消処理を行うか否かを判定するための判定値である。つまり、制御部42は、特定状態継続期間TCが期間判定値TCTh以上であるときに、モータ23が特定状態であることが継続されていることを検出することができる。そして、特定状態継続期間TCが期間判定値TCTh未満である場合(ステップS19:NO)、制御部42は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、特定状態継続期間TCが期間判定値TCTh以上である場合(ステップS19:YES)、制御部42は、図6を用いて後述する継続解消処理を実施し(ステップS20)、その後、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0088】
次に、図6に示すフローチャートを参照して、制御部42が実施する上記ステップS20の継続解消処理(継続解消処理ルーチン)について説明する。
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御部42は、車輪速度センサ104によって検出される車輪速度に基づいて車体速度VSを取得し(ステップS31)、同車体速度VSに基づいて車両が停止中であるか否かを判定する(ステップS32)。車両が停止していない場合(ステップS32:NO)、車両が減速途中であると判断できるため、制御部42は、第1の継続解消処理を実施し(ステップS33)、その処理を後述するステップS35に移行する。一方、車両が停止中である場合(ステップS32:YES)、制御部42は、第2の継続解消処理を実施し(ステップS34)、その処理を次のステップS35に移行する。
【0089】
ステップS35において、制御部42は、ストロークセンサ103によって検出されたブレーキ操作量BOを取得する。続いて、制御部42は、取得したブレーキ操作量BOに基づいて要求制動力BPTを演算し(ステップS36)、要求制動力BPTが変化したか否かを判定する(ステップS37)。要求制動力BPTが変化していない場合には、モータ23の回転角θを変更する必要がないと判断することができるため、第1の継続解消処理や第2の継続解消処理の実施を継続させることが望ましい。しかし、要求制動力BPTが変化している場合には、車輪11に付与する制動力を変更する必要があるため、第1の継続解消処理や第2の継続解消処理の実施を終了させることが望ましい。
【0090】
そのため、ステップS37において、要求制動力BPTが変化していない場合(ステップS37:NO)、制御部42は、その処理を先のステップS31に移行する。一方、要求制動力BPTが変化している場合(ステップS37:YES)、制御部42は、本処理ルーチンを終了し、第1の継続解消処理や第2の継続解消処理の実施を終了する。
【0091】
次に、図7に示すタイミングチャートを参照して、車両走行中においてブレーキ操作が行われ、要求制動力BPTが一定に保持されたときのモータ23の制御方法の一例について説明する。なお、図7では、図3及び図4と同様に、u相コイル23uに流れる電流Iuを実線で示し、v相コイル23vに流れる電流Ivを破線で示し、w相コイル23wに流れる電流Iwを二点鎖線で示している。また、本実施形態では、上述したように、上記第2の継続解消処理における規定回転角θdは「90°」である。
【0092】
図7(a),(b),(c),(d)に示すように、第1のタイミングt11で要求制動力BPTが保持されると、車輪11に付与される制動力BPを要求制動力BPTに保持するためにモータ23の回転角θが保持される。この場合、モータ23の各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの値が保持される。また、第1のタイミングt11におけるモータ23の回転角θでは、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpTh以上となるため、モータ23が特定状態であり、u相コイル23uが特定のコイルであると判断することができる。
【0093】
なお、図7に示す例では、説明理解の容易のために、モータ23が特定状態になったときのモータ23の回転角θは、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値が交流電流の最大値Imとなるときの回転角θ(90°)であるとする。この場合、当該回転角θが基準回転角θbに該当することとなる。
【0094】
第1のタイミングt11以降では、モータ23が特定状態であることが継続されるため、特定状態継続期間TCが徐々に長くなる。そして、第2のタイミングt12で、特定状態継続期間TCが期間判定値TCThに達する。この第2のタイミングt12から第3のタイミングt13間での間では、車両が減速途中であるため、第1の継続解消処理が実施される。すると、この第1の継続解消処理の実施によって、特定のコイルであるu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpThよりも小さくなるようにモータ23の回転角θが変更される。これにより、期間判定値TCTh以上よりも長い期間、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpTh以上となることが抑制される。
【0095】
なお、第1の継続解消処理では、モータ23の回転角θを変更するために、u相コイル23uに流れる電流Iuだけではなく、v相コイル23vに流れる電流Iv及びw相コイル23wに流れる電流Iwもまた変更される。図7に示す第1の継続解消処理では、第1の継続解消処理の開始直前の回転角θ(90°)を基準回転角θbとした場合、モータ23の回転角θを、基準回転角θbから「30°」を減算した角度(60°)としている。これにより、v相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値が「0(零)°」となる一方で、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値とw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値とが互いに等しくなる。なお、このように第1の継続解消処理の実施によってモータ23の回転角θを変化させることにより、車輪11に付与される実際の制動力(以下「実制動力BPR」ともいう。)が僅かに減少する。しかし、こうした実制動力BPRは、車両の運転者にほとんど気づかれることはない。
【0096】
そして、第3のタイミングt13で、要求制動力BPTが保持されている状況下で車両が停止する。そのため、第3のタイミングt13以降では、第2の継続解消処理が実施されることにより、変動許可角度範囲Rθ内でモータ23の回転角θが高速で振動される。図7では、明細書の説明理解の便宜上、第2の継続解消処理の実施中における各コイル23u,23v,23wに流れる電流が比較的ゆっくりと振動しているように描いている。
【0097】
なお、図7に示す例では、変動許可角度範囲Rθの下限値θlは基準回転角θb(90°)から規定回転角θd(90°)を減算した回転角(0°)であり、変動許可角度範囲Rθの上限値θhは基準回転角θb(90°)に規定回転角θd(90°)を加算した回転角(180°)である。
【0098】
すなわち、第3のタイミングt13から第4のタイミングt14までの期間では、モータ23の回転角θが、変動許可角度範囲の下限値θl(0°)となるまで次第に小さくされる。
【0099】
そして、第4のタイミングt14から第5のタイミングt15までの期間では、モータ23の回転角θが、変動許可角度範囲の上限値θh(180°)となるまで次第に大きくされる。続いて、第5のタイミングt15から第6のタイミングt16までの期間では、モータ23の回転角θが変動許可角度範囲の下限値θlとなるまで次第に小さくされる。そして、第2の継続解消処理の実施条件が成立している間では、こうしたモータ23の回転角θの振動が継続される。
【0100】
第2の継続解消処理の実施期間には、特定コイルであるu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpTh未満となる期間が含まれる。そのため、u相コイル23uの温度が、v相コイル23v及びw相コイル23wの温度よりも高くなることが抑制される。
【0101】
また、第2の継続解消処理の実施期間には、特定コイルのu相コイル23uに流れる電流Iuの値が「0(零)」となる回転角θと、v相コイル23vに流れる電流Ivの値が「0(零)」となる回転角θと、w相コイル23wに流れる電流Iwの値が「0(零)」となる回転角θとが含まれている。さらに、当該実施期間には、特定コイルのu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値が最大値Imとなる回転角θと、v相コイル23vに流れる電流Ivの値が最大値Imとなる回転角θと、w相コイル23wに流れる電流Iwの値が最大値Imとなる回転角θとが含まれている。このため、第2の継続解消処理の実施によってモータ23の回転角θを振動させているときに、各コイル23u,23v,23wの温度上昇の態様のばらつきが抑えられ、各コイル23u,23v,23w間の温度上昇量の乖離が抑制される。
【0102】
また、第4のタイミングt14から第6のタイミングt16までの期間には、特定のコイルであるu相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値がピーク判定値IpTh以上となるときのモータ23の回転角θが含まれる。より具体的には、変動許可角度範囲Rθは、基準回転角θbが中心となるように設定されている。このため、第2の継続解消処理の実施によってモータ23の回転角θを振動させているときに、同回転角θの基準回転角θbからの乖離量が小さくなる。
【0103】
なお、第2の継続解消処理を実施することで、車輪11に付与する実制動力BPRもまた振動されることとなる。しかし、図7に示す例では、第2の継続解消処理を車両停止中に実施している。そのため、第2の継続解消処理の実施に伴う車両挙動の変化が生じないため、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0104】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・車両の電動制動装置10にあっては、車輪11に付与する制動力BPが大きい場合には、制動力BPが小さい場合に比較して、モータ23の回転角θが大きくなる。このため、車輪11に付与する制動力BPが大きい場合には、モータ23の回転角θをある範囲で変化させたとしても同制動力BPの変化率が小さく、運転者に与える違和感が小さくなりやすい。一方、車輪11に付与する制動力BPが小さい場合には、モータ23の回転角θをある範囲で変化させると、同制動力BPの変化率が大きくなり、運転者に与える違和感が大きくなりやすい。
【0105】
そのため、車輪11に付与する制動力BPが大きいと判断できる場合、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出されたときに、継続解消処理を実施するようにしてもよい。その一方で、車輪11に付与する制動力BPが小さいと判断できる場合、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出されても継続解消処理を実施しないようにしてもよい。
【0106】
すなわち、図8に示すように、特定状態継続期間TCが期間判定値TCTh以上である場合(ステップS19:YES)、制御部42は、要求制動力BPTが制動力判定値BPTTh以上であるか否かを判定する(ステップS41)。要求制動力BPTが制動力判定値BPTTh未満である場合(ステップS41:NO)、制御部42は、本処理ルーチンを一旦終了する。この場合、第1の継続解消処理や第2の継続解消処理が実施されない。
【0107】
一方、要求制動力BPTが制動力判定値BPTTh以上である場合(ステップS41:YES)、制御部42は、継続解消処理(第1の継続解消処理又は第2の継続解消処理)を実行し(ステップS42)、その後、本処理ルーチンを一旦終了する。なお、制動力判定値BPTThとは、継続解消処理を実施するか否かを決定するための判定値であり、適宜に決定することが好ましい。
【0108】
上記構成によれば、車輪11に付与する制動力BPが制動力判定値BPTTh以上である状況下では、継続解消処理の実施に伴う車輪11に対する制動力BPの変動の割合が大きくなりにくいと判断することができる。そのため、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出されたときには、継続解消処理が実施されることで、1つのコイルの温度が他のコイルの温度よりも高くなり過ぎることを抑制することができる。
【0109】
一方、車輪11に付与する制動力BPが制動力判定値BPTTh未満である状況下では、継続解消処理を実施すると、車輪11に付与する制動力BPの変動の割合が大きくなりやすく、運転者に与える違和感が大きくなると判断できる。そのため、こうした状況下では、モータ23が特定状態であることが継続される場合であっても継続解消処理が実施されない。したがって、車両制動中にあっては、継続解消処理の実施に伴うドライバビリティが低下する事象の発生を抑制することができる。
【0110】
なお、図8に示す例では、車輪11に付与する制動力BPが制動力判定値BPTTh未満である状況下では、車両が停止しているか否かに関わらず、継続解消処理の実施を禁止している。しかし、車両が停止している場合には、継続解消処理の実施によって車輪11に付与する制動力BPが変動してもドライバビリティがほとんど低下しない。そのため、車輪11に付与する制動力BPが制動力判定値BPTTh未満である状況下では、車両が停止していない場合に限って継続解消処理の実施を禁止するようにしてもよい。すなわち、車輪11に付与する制動力BPが制動力判定値BPTTh未満である状況下であっても、車両が停止している場合、モータ23が特定状態であることが継続されていることが検出されたときには継続解消処理を実施させるようにしてもよい。
【0111】
・コイルに正の電流を流す場合、インバータ回路41においてスイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wはオンされるため、スイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wには電流が流れることで、スイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wの温度は上昇しやすい。その一方で、コイルに正の電流を流す場合、インバータ回路41のスイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wはオフされるため、スイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wには電流が流れず、スイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wの温度は上昇しにくい。同様に、コイルに負の電流を流す場合、スイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wには電流が流れ、スイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wには電流が流れないため、スイッチング素子Q2u,Q2v,Q2wの温度は上昇しやすく、スイッチング素子Q1u,Q1v,Q1wの温度は上昇しにくい。したがって、正の電流及び負の電流のうち一方の電流がコイルに流れる状態が継続されているときには、当該一方の電流をコイルに流すためにオンされるスイッチング素子の温度が過度に高くなってしまうおそれがある。
【0112】
そこで、変動許可角度範囲Rθを、特定のコイルに正の電流が流れる回転角θと、同特定のコイルに負の電流が流れる回転角θとの双方を含むように設定してもよい。これによれば、第2の継続解消処理を実施することでモータ23の回転角θを振動させる際に、特定のコイルに正の電流を流すことで、負電流生成部の一例を構成するスイッチング素子の温度上昇を抑えることができる期間を作り出すことができる。また、特定のコイルに負の電流を流すことで正電流生成部の一例を構成するスイッチング素子の温度上昇を抑えることができる期間を作り出すことができる。
【0113】
例えば、u相コイル23uが特定のコイルである場合、u相コイル23uに正の電流を流すことでスイッチング素子Q2uの温度上昇を抑えることができる期間と、u相コイル23uに負の電流を流すことでスイッチング素子Q1uの温度上昇を抑えることができる期間とを作り出すことができる。したがって、第2の継続解消処理の実施中に、特定のコイルであるu相コイル23uに流す電流Iuの向きを変更する2つのスイッチング素子Q1u,Q2u間の温度差が過度に大きくなることを抑制することができる。
【0114】
このような第2の継続解消処理を実施する場合、例えば、変動許可角度範囲Rθを「360°」としてもよい。この場合、第2の継続解消処理の実施によってモータ23の回転角θを振動させることにより、当該振動の1周期において、各コイル23u,23v,23wの各スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2wがオンされる期間を等しくすることができる。すなわち、各コイル23u,23v,23wの各スイッチング素子Q1u〜Q1w,Q2u〜Q2w間の温度差が大きくなることを抑制することができる。
【0115】
・車両の電動制動装置としては、モータ23の回転角θを制御することで車輪11に付与する制動力BPを調整することができるのであれば、上記電動制動装置10以外の他の構成の装置を採用してもよい。こうした他の電動制動装置の一例を図9に示している。
【0116】
なお、図9に示す車両の電動制動装置10Aは、ブレーキパッド22を変位させるための構成が上記実施形態と相違している。したがって、以降の説明では、上記実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、上記実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0117】
図9に示すように、車両の電動制動装置10Aは、車輪11毎に設けられている制動機構12Aと、制動機構12Aによって車輪11に付与される制動力BPを調整する第1のアクチュエータ51及び第2のアクチュエータ52と、第1のアクチュエータ51及び第2のアクチュエータ52を制御する制御装置13Aとを備えている。
【0118】
制動機構12Aには、ブレーキディスク20と、ブレーキパッド22と、第1のアクチュエータ51及び第2のアクチュエータ52からブレーキ液が供給されるホイールシリンダ29と、が設けられている。ブレーキパッド22は、ホイールシリンダ29内の液圧であるWC圧が増大されるとブレーキディスク20に接近する一方、WC圧が減少されるとブレーキディスク20から離れるようになっている。そして、ブレーキパッド22がブレーキディスク20に接触している場合、WC圧が高いほど、ブレーキパッド22をブレーキディスク20に押し付ける力が大きくなり、制動機構12Aによって車輪11に付与される制動力BPが大きくなる。
【0119】
第1のアクチュエータ51は、第1の液圧発生装置511と、第1の液圧発生装置511からホイールシリンダ29にブレーキ液を供給する第1の液圧路512と、第1の液圧路512に設けられた遮断弁513と、を備えている。第1の液圧発生装置511には、ブレーキ操作量BOに応じた液圧であるMC圧を発生するマスタシリンダ514が設けられている。
【0120】
そして、第1のアクチュエータ51では、遮断弁513が開いている場合、マスタシリンダ514内のMC圧に応じた量のブレーキ液が制動機構12Aのホイールシリンダ29内に供給される。すなわち、MC圧が高いほど、WC圧が高くなる。一方、遮断弁513が閉じている場合、ブレーキ操作量BOに関わらず、マスタシリンダ514からブレーキ液がホイールシリンダ29に供給されることが制限される。遮断弁513は、例えば、次に説明する第2のアクチュエータ52が正常に作動している場合に閉じられ、同第2のアクチュエータ52が正常に作動しなくなる場合に開かれる。
【0121】
第2のアクチュエータ52は、第2の液圧発生装置521と、モータ23と、モータ23の出力を第2の液圧発生装置521に伝達する伝達機構24Aと、第2の液圧路522とを備えている。第2の液圧発生装置521には、ブレーキ操作量BOに応じて駆動されるモータ23の回転量に応じた液圧であるSC圧を発生するスレーブシリンダ523が設けられている。SC圧は、モータ23の回転角θを大きくすることで高くなり、回転角θを小さくすることで低くすることができる。そして、第2のアクチュエータ52では、スレーブシリンダ523内のSC圧に応じた量のブレーキ液が制動機構12Aのホイールシリンダ29内に供給される。すなわち、SC圧が高いほど、WC圧が高くなる。
【0122】
こうした車両の電動制動装置10Aにおいても、上記実施形態と同様に、車両に付与される制動力BPを保持するために、モータ23の回転角θを保持する場合がある。したがって、こうした車両の電動制動装置10Aの車両の制御装置13Aにあっても、上記実施形態におけるモータ制御装置40を備えてもよい。
【0123】
図7に示すタイミングチャートでは、第2のタイミングt12で、ステップ状にモータ23の回転角θを変更したが、モータ23の回転角θは緩やかに変更してもよい。これによれば、車輪11に付与される制動力BPの急な変化を抑制して、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0124】
・第1の継続解消処理におけるモータ23の回転角θの変更量や、第2の継続解消処理における変動許可角度範囲Rθは、減速機25の減速比等の電動制動装置10の特性に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、減速機25の減速比が小さい場合には、当該減速比が大きい場合よりも、上記変更量や上記変動許可角度範囲Rθを小さくしてもよい。これによれば、第1の継続解消処理及び第2の継続解消処理を実施する際に、車輪11に付与する制動力BPが大きく変化することを抑制して、ドライバビリティの低下を抑制することができる。
【0125】
図3及び図4に示すように、モータ23の回転角θと各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの値との間には相関関係がある。したがって、各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの値の絶対値がピーク判定値IpTh以上となるときのモータ23の回転角θの角度範囲を予め取得しておき、モータ23の回転角θが当該角度範囲に含まれているかを判定することで、モータ23が特定状態であるか否かを判定してもよい(ステップS17)。
【0126】
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS33を省略してもよい。すなわち、車両が停止していないときには第1の継続解消処理を実施しなくてもよい。また、図6に示すフローチャートにおいて、ステップS34を省略してもよい。すなわち、車両が停止しているときには第2の継続解消処理を実施しなくてもよい。
【0127】
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS32,S33を省略してもよい。すなわち、車両が停止しているか否かに関わらず、第2の継続解消処理を実施するようにしてもよい。また、図6に示すフローチャートにおいて、ステップS32,S34を省略してもよい。すなわち、車両が停止しているか否かに関わらず、第1の継続解消処理を実施するようにしてもよい。
【0128】
・要求制動力BPTは、ストロークセンサ103によって検出されるブレーキ操作量BOに基づいて演算しなくてもよい。例えば、運転者のブレーキペダル200に対する踏力を検出するセンサを設け、当該センサによって検出される踏力に基づいて要求制動力BPTを演算してもよい。
【0129】
・モータ23の回転角θが保持されている状態が継続されている場合には、モータ23の各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの値が保持されるため、各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの絶対値が異なる状態が継続されることがある。このため、モータ23の回転角θが保持されている状態が継続されているときには、各コイル23u,23v,23w間の温度の乖離が生じやすい。
【0130】
例えば、モータ23の回転角θが「60°」である場合には、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値がv相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値よりも大きくなり、u相コイル23u及びw相コイル23wの温度がv相コイル23vの温度よりも高くなりやすい。また、モータ23の回転角θが「90°」である場合には、u相コイル23uに流れる電流Iuの絶対値が、v相コイル23vに流れる電流Ivの絶対値及びw相コイル23wに流れる電流Iwの絶対値よりも大きくなり、u相コイル23uの温度がv相コイル23v及びw相コイル23wの温度よりも高くなりやすい。
【0131】
そこで、こうした場合には、モータ23の回転角θを振動させる継続解消処理(第2の継続解消処理)を実施させてもよい。これによれば、モータ23の回転角θを振動させることにより、各コイル23u,23v,23wに流れる電流Iu,Iv,Iwの絶対値を変動させることができる。そのため、各コイル23u,23v,23wのうち一部のコイルに流れる電流の絶対値が他のコイルに流れる電流の絶対値よりも大きい状態が継続されにくくなり、結果として、各コイル23u,23v,23w間の温度の乖離を抑えることができる。こうして、モータ23の三相のコイル23u,23v,23wのうち1つのコイルの特性の経年変化が、他のコイルよりも進んでしまうことを抑制することができる。なお、この場合におけるモータ23の回転角θの振動範囲は、上記実施形態の変動許可角度範囲Rθであってもよい。
【0132】
・車両のモータ制御装置40は、車両の電動制動装置以外の他の車載装置に適用してもよい。例えば、モータ23の回転力を利用して操舵を補助する電動パワーステアリング装置では、ステアリングの舵角を一定に保持するために、モータ23の回転角θを保持する場合がある。したがって、車両のモータ制御装置40を、こうした電動パワーステアリング装置に採用してもよい。
【符号の説明】
【0133】
10,10A…電動制動装置、11…車輪、13,13A…車両の制御装置、20…ブレーキディスク(回転体の一例)、22…ブレーキパッド(摩擦部材の一例)、23…モータ、23u…u相コイル、23v…v相コイル、23w…w相コイル、40…車両のモータ制御装置、41…インバータ回路、42…制御部、BP…制動力、BPTTh…制動力判定値、Iu…u相コイルに流れる電流、Iv…v相コイルに流れる電流、Iw…w相コイルに流れる電流、IpTh…ピーク判定値、Im…最大値、Q1u,Q1v,Q1w…スイッチング素子(正電流生成部の一例)、Q2u,Q2v,Q2w…スイッチング素子(負電流生成部の一例)、Rθ…変動許可角度範囲、θ…回転角、θb…基準回転角、θd…規定回転角、θl…変動許可角度範囲の下限値、θh…変動許可角度範囲の上限値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9