【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
図1は、本発明の実施例に係るアクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1全体を示す斜視図であり、
図2は、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1のイヤカップ2Aを示す断面図であり、
図3は、イヤカップ2Aを示す分解斜視図であり、
図4は、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1の要部を拡大して示す斜視図である。本実施例において、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1は、
図1の紙面奥側を前方側とするとともに手前側を後方側として装着者に装着され、イヤカップ2A、2Bの装着者側を音放射側とし、その反対側を外側と呼ぶ。また、上下左右は
図1に示す通りとする。
【0019】
アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1は、左右一対のイヤカップ2A、2Bと、一対のイヤカップ2A、2Bを連結するヘッドバンド3と、を備えたコードレス型のヘッドホンであって、再生機器に接続された送信機から無線で送信された信号を受信し、その信号に応じた音を放射するように構成されている。尚、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1は、コードレス型のものに限定されず、信号送信および電力供給のためのコード部材が接続されていてもよい。
【0020】
右耳用のイヤカップ2Aと左耳用のイヤカップ2Bとは、
図2、3にも示すように、クッション21と、図示しないスピーカユニットと、スピーカユニットを収容するハウジング22と、第1マイク23と、第2マイク24と、備える。右耳用のイヤカップ2Aと左耳用のイヤカップ2Bとは互いに略対称な構成を有しており、以下、右耳用のイヤカップ2Aについて説明する。
【0021】
クッション21は、スポンジ等のクッション部材が合成皮革等の被覆部材で覆われて円環状に形成され、ハウジング22の装着者側(音放射側)に取り付けられる。クッション21は、音放射側の面を当接面211として装着者の側頭部や耳に当接可能に構成されている。クッション21には、円環状の内周面21aに形成された第1マイク孔MH1と、第1マイク孔MH1に連続するとともに第1マイク23を収容可能な凹部212が形成されている。
【0022】
ハウジング22は、例えば樹脂によって形成され、ハウジング本体221と、ハウジング本体221の音放射側に設けられる音放射側蓋部222と、ハウジング本体221の外側に設けられる外側蓋部223と、を有する。ハウジング22には、音放射側蓋部222に隣接する位置に、近接センサ4が収容されている。また、ハウジング22における最も外側の面224には、タッチパネル5が設けられている。
【0023】
近接センサ4は、装着者の側頭部や耳を対象物として検知可能な静電容量型のセンサであって、検知可能距離の範囲内に対象物が存在すると、その静電容量によって対象物を検知する。より具体的には、測定する静電容量に所定の閾値を設定し、測定した静電容量がこの閾値以上となった場合には、ヘッドホン1が装着者に装着されたと判定する。一方、測定した静電容量がこの閾値を下回った場合には、ヘッドホン1が装着者に装着されていないと判定する。この検知可能距離は、必要に応じて適宜に変更することができる。アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1は、イヤカップ2Aが近接センサ4によって対象物を検知すると、スピーカユニットから音波が放射されるようになっている。
【0024】
タッチパネル5は、例えば、感圧式や静電容量型のタッチパネルであって、指によって操作可能に構成され、スピーカユニットの音量を調節したり、再生する音声や楽曲を選択したり、再生機器の電源をオンオフしたりし、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1の機能の調節や、再生機器の操作が可能に構成されている。本実施例のタッチパネル5は静電容量型であって、少なくとも2枚のガラス基板51と、2枚のガラス基板51の界面に設けられた電極部52と、を有している。この電極部52は、タッチパネル5全体に設けられ、外側から見て近接センサ4が隠れるような寸法および配置を有し、近接センサ4を外側から覆っている。
【0025】
ハウジング本体221は、円筒状の外周壁221aと、外周壁221aの内側に沿って形成された2つの内壁221bと、外周壁221aと内壁221bとを接続する接続壁221cと、外周壁221aの内側に第2マイク24を収容可能な空間を形成する収容壁部221dと、を有する。ハウジング本体221のうち最も内側に沿った壁部と外側蓋部223とクッション21との内側に内部空間S1が形成され、この内部空間S1にスピーカユニットが収容される。
【0026】
外周壁221aには、内壁221bに対向する位置においてそれぞれ複数(本実施形態では3)の外孔H1が形成され、後述する空気室S2と外部とが連通されている。尚、外孔H1の数は、任意に設定されていればよい。また、外周壁221aには、収容壁部221dによって区画された空間に連通する第2マイク孔MH2が形成されている。
【0027】
内壁221bは、音放射側において外周壁221aと一体に形成されるとともに、音放射側の反対側に向かうにしたがって外周壁221aから離れるように延びている。ハウジング本体221に外側蓋部223が取り付けられることによって、外周壁221aと内壁221bと接続壁221cと外側蓋部223との間に、内壁221bおよび接続壁221cによって内部空間S1と区画された2つの空気室S2が形成される。2つの空気室S2のうち、
図3における左側の空気室を第1空気室S21とし、右側の空気室を第2空気室S22とする。内壁221bには、それぞれ複数(本実施形態では4)の内孔H2が形成され、内部空間S1と空気室S2とが連通されている。尚、内孔H2の数は、任意に設定されていればよい。従って、内部空間S1は、空気室を介して外部に連通されている。
【0028】
収容壁221dは、ハウジング本体221に外側蓋部223が取り付けられることによって、収容壁221dによって内部空間S1と区画された空間が形成され、この空間に第2マイク24が収容される。
【0029】
第1マイク23および第2マイク24は、例えばコンデンサ型のマイクであって、集音した情報をスピーカユニットに送信可能に構成されている。第1マイク23はフィードバック式のノイズキャンセル用のマイクであって、内部空間S1におけるスピーカユニットの音放射側からの音波のうち第1マイク孔MH1を通過したものを集音するように構成され、第2マイク24はフィードフォワード式のノイズキャンセル用マイクであって、外部の音波のうち第2マイク孔MH2を通過したものを集音するように構成されている。尚、第1マイク23及び第2マイク24はコンデンサ型に限定されず、適宜な集音方式で動作するものであればよい。
【0030】
スピーカユニットは、まず、再生機器から受信した再生用の音声信号と、第2マイク24が集音した音波の逆位相の音波と、を合成した音波を前方側(音放射側)に放射する。このように放射された音波が第1マイク23によって集音され、この音波と再生用の音声信号とを比較することで発生したノイズが求められる。スピーカユニットは、発生したノイズの逆位相をさらに合成した音波を放射するように構成されている。即ち、スピーカユニットは、フィードフォワード式の第2マイク24を用いてノイズを事前にキャンセルしようとするとともに、フィードバック式の第1マイク23を用いて発生したノイズを事後的にキャンセルするように構成されている。また、スピーカユニットの後方側(音放射側の反対側)から放射された音波は、外周壁221aに形成された内孔H2を通過することができ、アクティブノイズキャンセル型ヘッドホン1の音響特性(特に、低音域における特性)が向上するようになっている。
【0031】
ヘッドバンド3は、例えば樹脂によって前方又は後方から見て円弧状に形成され、装着者の頭部の大きさに合わせて撓み変形可能に構成されている。また、ヘッドバンド3は、装着者の頭頂部近傍に載置されるように構成されている。
【0032】
次に、外孔H1、内孔H2、第1マイク孔MH1、及び、第2マイク孔MH2の位置や方向等の詳細について説明する。
【0033】
外孔H1は、
図4に示すように、ヘッドバンド3の近傍において外部に開口している。また、外孔H1は、円筒状のハウジング本体221の外周壁221aに対して略垂直に延びていることで、外周壁221aに略垂直な方向に進行する音波(
図3に二点鎖線で示す)が通過するようになっている。尚、外孔H1は、外周壁221aに対する垂直方向から傾斜して延びていてもよい。
【0034】
内孔H2は、外孔H1と周方向に異なる位置に配置されることで、外孔H1と対向しない位置に形成されている。また、内孔H2は、ハウジング本体221の内壁221bに対して略垂直に延びていることで、内壁221bに略垂直な方向に進行する音波(
図3に二点鎖線で示す)が通過するようになっている。従って、外部から外孔H1を通過して空気室S2に侵入した音波は、直接内孔H2を通過しないようになっている。同様に、内部空間S1から内孔H2を通過して空気室S2に侵入した音波は、直接外孔H1を通過しないようになっている。尚、内孔H2は、内壁221bに対する垂直方向から傾斜して延びていてもよい。
【0035】
第1マイク孔MH1は、スピーカユニットから装着者に向かう音波の進行方向と略直交する方向に沿って延びている。従って、スピーカユニットによって放射された音波は第1マイク23によって集音されにくく、音放射側から侵入する外部音を第1マイク23によって集音することができるようになっている。
【0036】
第2マイク孔MH2は、円筒状のハウジング本体221の外周壁221aに対して略垂直に延びていることで、外周壁221aに略垂直な方向に進行する音波(
図3に二点鎖線で示す)が通過するようになっている。また、第2マイク孔MH2は、外周壁221aにおいて、第1空気室S21の外孔H1と、第2空気室S22の外孔H1と、の間に設けられている。尚、第2マイク孔MH2は、外周壁221aに対する垂直方向から傾斜して延びていてもよい。
【0037】
第1空気室S21の外孔H1のうち中間にある外孔から第2マイク孔MH2まで外周壁221aに沿って
図3における反時計回りに進む際の長さと、第2空気室S22の外孔H1のうち中間にある外孔から第2マイク孔MH2まで外周壁221aに沿って時計回りに進む際の長さと、の差は、特に低減したいノイズの波長の半分の奇数倍(例えば1倍)となっていて構わない。2つの空気室S21、S22からそれぞれ略同位相の音波が外孔H1を通過して外部に漏れるとともに、外周壁221aの外側に沿って進行した場合に、特に低減したいノイズの波長を有する成分は、第2マイク孔MH2近傍において互いに逆位相となって打ち消し合う。
【0038】
左側の3つの外孔H1を通過可能な音波の進行方向と、第2マイク孔MH2を通過可能な音波の進行方向と、が成す角度をθ1とし、右側の3つの外孔H1を通過可能な音波の進行方向と、第2マイク孔MH2を通過可能な音波の進行方向と、が成す角度をθ2とした際に、θ1及びθ2は、90°以上かつ180°となる(例えば、θ1が100°、θ2が170°)。即ち、外孔H1の向きと、第2マイク孔MH2の向きと、が成す角度は、これらのθ1、θ2に等しく、90°以上かつ180°となる。
【0039】
上記の構成により、イヤカップ2A、2Bに第1マイク23及び第2マイク24が設けられていることで、ノイズの低音域の成分を集音してキャンセルすることができる。さらに、内部空間S1が空気室S2を介して外部に連通されていることで、外部から内部空間S1までノイズが侵入する際に、中高音域の成分が特に減衰しやすく、ノイズの中高音域の成分を低減することができる。即ち、第1マイク23及び第2マイク24によってノイズの低音域の成分をキャンセルするとともに空気室S2によってノイズの中高音域の成分を低減し、ノイズを広範囲の音域で低減することができる。
【0040】
また、イヤカップ2A、2Bにフィードフォワード式の第2マイク24が設けられていることで、外部のノイズを第2マイク24によって集音し、ノイズに対するキャンセル用の音波の遅れを抑制することができる。さらに、イヤカップ2A、2Bにフィードバック式の第1マイク23が設けられていることで、スピーカユニットの音放射側におけるノイズを集音して効果的にノイズをキャンセルすることができる。また、イヤカップ2A、2Bに空気室S2が形成されていることで、スピーカユニットが放射した音波を外部に漏れにくくし、漏れた音波を第2マイク24が集音してしまうことを抑制することができる。従って、スピーカユニットによる再生用の音声やキャンセル用の音波をノイズとして集音してしまうことを抑制することができる。
【0041】
また、外部から外孔H1を通過して空気室S2に侵入した音波が直接内孔H2を通過しないようになっていることで、空気室S2内でノイズを減衰させやすくすることができる。さらに、内孔H2と外孔H1とを大きく形成したり数を増やしたりしてもノイズを減衰させやすく、スピーカユニットの振動板を振動させやすくしてアクティブノイズキャンセル型ヘッドホンの音響特性を向上させることができる。
【0042】
また、外孔H1の向きと、第2マイク孔MH2の向きと、が成すが90°以上かつ180°以下であることで、スピーカユニットが放射した音波が内孔H2及び外孔H1を通過して外部に漏れた際に、この音波を第2マイク孔MH2に向かいにくくすることができ、スピーカユニットによる再生用の音声やキャンセル用の音波をノイズとして集音しにくくすることができる。
【0043】
また、2つの空気室S21、S22のそれぞれに対応した外孔H1から外部に漏れた音波が第2マイク孔MH2に到達した際に、低減したい波長の成分が互いに逆位相となるように、外孔H1及び第2マイク孔MH2が配置されていることで、スピーカユニットによる再生用の音声やキャンセル用の音波を第2マイクによってノイズとして集音しにくくすることができる。
【0044】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0045】
例えば、前記実施例では、イヤカップ2A、2Bにフィードバック式の第1マイク23及びフィードフォワード式の第2マイク24が設けられるものとしたが、例えば空気室S2におけるノイズの低減効果に応じて、イヤカップ2A、2Bに第1マイク23と第2マイク24とのうち一方が設けられる構成であってもよい。
【0046】
また、前記実施例では、外孔H1と内孔H2とが互いに対向しない位置に配置されるものとしたが、これらの孔のうち一方を通過した音波が他方を直接通過しにくいように構成されていればよく、例えば、外孔や内孔が形成される部材が充分な厚さを有するとともに、外孔を通過可能な音波の進行方向と内孔を通過可能な音波の進行方向とが互いに交差していれば(即ち、内孔の向きと外孔の向きとが交差していれば)、外孔と内孔とが互いに対向する位置に配置されていてもよい。
【0047】
また、前記実施例では、外孔H1と内孔H2とがイヤカップ2Aの周方向に異なる位置に配置されることで互いに対向しないものとしたが、外孔と内孔とは、イヤカップ2Aの厚さ方向(
図2における上下方向)において異なる位置に配置されることで互いに対向しなくてもよいし、周方向及び厚さ方向において異なる位置に配置されていてもよい。また、前記実施例のように外孔及び内孔が複数形成される場合には、全ての外孔と内孔とが互いに対向しない位置に配置されていてもよいし、一部の外孔と内孔とが互いに対向する位置に配置されていてもよい。
【0048】
また、前記実施例では、外孔H1を通過可能な音波の進行方向と、第2マイク孔MH2を通過可能な音波の進行方向と、が成す角度θ1及びθ2が90°以上かつ180°以下であるものとしたが、スピーカユニットの後方側から放射された音波が充分に外部に漏れにくい構成であれば、外孔H1を通過可能な音波の進行方向と、第2マイク孔MH2を通過可能な音波の進行方向と、が成す角度は任意の値であればよい。
【0049】
また、前記実施例では、2つの空気室S2が形成され、それぞれに対応した外孔H1の間に第2マイク孔MH2が形成されるものとしたが、スピーカユニットから放射された音波が充分に外部に漏れにくい構成であれば、第2マイク孔MH2は、外孔H1に対して任意の位置に配置されていればよい。また、空気室S2は、少なくとも1つ形成されていればよい。
【0050】
また、前記実施例では、ハウジング本体221の外周壁221aに外孔H1が形成されるものとしたが、この外孔H1には、外孔H1よりも小さい開口寸法を有する複数の小孔が形成された部材がさらに設けられてもよい。この部材は、例えば布部材や不織布であって、外孔H1を充填するように設けられてもよいし、少なくとも一方側から塞ぐように設けられてもよい。このような構成によれば、外部から侵入するノイズや外部に漏れる再生用の音声を低減することができる。また、この複数の小孔が形成された部材は、通過する空気を制動しても構わない。それにより、音波がこの部材を通過する際に音圧が減衰しやすくなり、外部から侵入するノイズや外部に漏れる再生用の音声を低減することができる。
【0051】
また、イヤカップ2A、2Bのうち内部空間S1を囲む壁部(例えば、ハウジング本体221の外周壁221aの内面)には、音波が進行する際に抵抗となる制動部材がさらに設けられてもよい。制動部材は、例えばガラスウールやフェルト等の吸音材であればよく、壁部の少なくとも一部に設けられていればよい。このような構成によれば、内部空間S1に侵入したノイズの進行を制動部材によって妨げることができる。また、このような制動部材は、スピーカユニットの後方側(音放射側の反対側)から放射された音波を吸収することができる。
【0052】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施例に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。