特許第6304411号(P6304411)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6304411-撥水液、撥水性物品、及びそれらの製法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304411
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】撥水液、撥水性物品、及びそれらの製法
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20180326BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20180326BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20180326BHJP
   C03C 17/30 20060101ALI20180326BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20180326BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180326BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20180326BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20180326BHJP
【FI】
   B05D5/00 Z
   C09K3/18 104
   C09D183/08
   C03C17/30 B
   B05D7/00 E
   B05D7/24 302Y
   B05D3/02 Z
   B05D3/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-18069(P2017-18069)
(22)【出願日】2017年2月3日
(62)【分割の表示】特願2013-117299(P2013-117299)の分割
【原出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2017-127865(P2017-127865A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-172979(P2012-172979)
(32)【優先日】2012年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】濱口 滋生
(72)【発明者】
【氏名】深澤 宏紀
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−194784(JP,A)
【文献】 特開2001−207162(JP,A)
【文献】 特開平08−277388(JP,A)
【文献】 特開2006−291266(JP,A)
【文献】 特開2006−298947(JP,A)
【文献】 特開平10−059745(JP,A)
【文献】 特開平04−144940(JP,A)
【文献】 特開2002−121286(JP,A)
【文献】 特開平02−233535(JP,A)
【文献】 特開平09−104861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00〜B05D7/26
B32B1/00〜B32B43/00
C09D1/00〜C09D201/10
C09K3/00
C09K3/18
C03C15/00〜C03C25/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に撥水層を形成する撥水性物品の製法において、
一般式[1]で示されるフルオロアルキルシラン系化合物、低級アルコール 、有機スルホン酸、及び、水を混合して得られる、ソーダ石灰ガラスからなるガラス基材の表面に結合した 撥水層を形成するための撥水液であり、該撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.1〜29mol倍であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記水の添加量が0.04〜290mol倍であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物が加水分解、及び/又は、重縮合されている撥水液を、
前記ガラス基材の表面上に塗布し、50〜350℃で1〜60分間加熱することにより、撥水層を形成することを特徴とする、撥水性物品の製法。

(式[1]においてmは であり、Y1はメトキシ基、又エトキシ基 であり、pは である)
【請求項2】
前記低級アルコールがイソプロピルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の撥水性物膜の製造方法。
【請求項3】
前記Y1が、エトキシ基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水性物品の製造方法
【請求項4】
前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が2.0〜10.0 mol倍であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の撥水性物品の製造方法
【請求項5】
前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記水の添加量が0.12〜5.50 mol倍であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の撥水性物品の製造方法
【請求項6】
50〜350℃で1〜60分間加熱した後に、基材上に残留した撥水液の余剰分由来の乾固物を基材から払拭する、請求項1乃至5のいずれかに記載の撥水膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ガラス物品に撥水膜を形成するために用いる撥水液、該撥水液を用いて得られる撥水性物品、及びそれらの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた撥水性、耐久性を持ち合わせる撥水ガラスは、建築用はもちろん、自動車用等の窓材、さらには船舶や航空機の窓材などの種々の分野の各種ガラス物品において有用な撥水ガラスとして利用することが可能であり、これまでに種々の検討がなされている。
【0003】
しかし、近年、フルオロアルキルシラン系化合物において、フルオロカーボンユニットの数が大きなもの、例えば、フルオロカーボンユニットの数が8以上のフルオロアルキルシラン系化合物(以降、「長鎖のフルオロアルキルシラン系化合物」と記載する場合がある)については、その合成プロセスで副生成物として排出されるPFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなったため、2003年4月にEPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化する旨を発表以来、長鎖フルオロアルキルシラン系化合物は入手困難な状況となった。そのため、フルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物を用いても、従来と同様の耐久性を有する処理剤が強く求められている。
【0004】
そのような撥水ガラスを得るためには、これまでに多くの方法が提案されてきた。本出願人は、例えば、特許文献1に記載している撥水ガラスのように、ガラス表面に高い比表面積で制御した特異で微細な凹凸形状表層表面を有するベース膜を設けて、ベース膜に被覆する撥水膜の付着効率と密着性を高めることで長期に優れた撥水性能、耐摩耗性、耐候性等を維持できることを開示している。
【0005】
また、本出願人は、特許文献2に記載している撥水ガラスの製法で、出発原料のフルオロアルキルシラン系化合物又はアルキルアルコキシシラン系化合物を希釈溶媒中で酸触媒により加水分解反応させ、その後、脱水剤等で含有水分量を調整して縮重合度を高めるとともに安定するよう制御・調製した撥水液をガラス基板に成膜することにより、優れた耐摩耗性と耐候性を示すことを開示している。
【0006】
また、本出願人は、特許文献3に記載している撥水ガラスのように、撥水膜を形成する際に、ガラス基板の温度が90〜200℃程度にある状態でガラス基板表面、場合によっては方向性をもつ筋状の疵をつけた微細な凹凸状ガラス基板表面に撥水層を形成することにより、耐候性、耐摩耗性、耐擦傷性ならびに耐久性に格段に優れた撥水性能を発揮し、長期にわたりその効果を持続する撥水膜を形成する方法を開示している。
【0007】
さらに、本出願人は、特許文献4において、ジメチルシロキサンユニット(−Si(C
H3)2O−)の数が30〜400である直鎖状ポリジメチルシロキサン、及びフルオロ
アルキルシランのそれぞれを、基材表面に化学的に結合せしめて滑水層を形成する滑水性物品の製法を開示している。
【0008】
さらに近年開示された特許文献5には、環境への負荷が無いPFOAフリーの撥水撥油剤や防汚剤等を提供することを目的として、下記一般式(1)で表されるフッ素化合物を開示している。
Rf−(CH)n−X1−Y1−Z (1)
{式中Rfは炭素数1〜7のパーフルオロアルキル基、nは0〜5の整数であり、X1は−S−、−SO−または−SO−を表し、Y1は炭素数1〜10のアルキレン基または芳香族基、Zは芳香族性水酸基、芳香族性アミノ基、カルボキシル基あるいはスルホン酸基(及びこれらの官能基の中和塩又はエステルを含む)を表す。}
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−1333号公報
【特許文献2】特許第3385165号
【特許文献3】特開平9−309746号公報
【特許文献4】特開2006−144019号公報
【特許文献5】特開2011−20924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の撥水ガラスは、前述したニーズに答えうる手法であるが、特異なベース膜と撥水層の2層膜構成であり、ベース膜及び撥水層の成膜工程が煩雑であるため、成膜設備が大掛かりになり、高コストとなり易い。このため、2層膜ではなく単層膜で、撥水性能、耐摩耗性、耐候性等が優れた撥水ガラスが望まれている。
【0011】
特許文献2に記載の方法により得られる撥水ガラスは、単層膜でも撥水性能や耐久性が向上し所望の性能に近づくような撥水ガラスであるものの、フルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物、例えば、フルオロカーボンユニットの数が4〜6のフルオロアルキルシラン系化合物を用いた撥水液における酸触媒の種類・量、水の量と撥水性能、耐久性能の関係については、十分な検討はなされておらず、改良のための検討の余地がある。
【0012】
また、特許文献3に記載している撥水ガラスも特許文献2と同様に単層膜でも撥水性能や耐久性が向上し所望の性能に近づくような撥水ガラスであるものの、あらかじめ、ガラス基板を加熱状態としたり、ガラス基板表面に凹凸形状をつけたりと、操作が煩雑であり、生産時における作業性、特にその取り扱いが簡便で高効率であるとは言い難い場合がある。
【0013】
また、特許文献4で開示された滑水性物品は、耐候性や耐久性が良好なものであったが、フルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物を用いて処理剤とし、該処理剤を用いて得られた物品に耐候性、耐摩耗性などの負荷を加えると、比較的、短期間で撥水性能が低下することがある。
【0014】
また、特許文献5では、フルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物そのものの工夫により、性能改善を図ったものであるが、該化合物の合成と得られた化合物のキャラクタリゼーションには、充分な技術的ノウハウや知見が必要であるとともに、生産時には、化合物の合成設備も必要となり、撥水ガラスの製造に至るまでの工程としては、決して簡便であるとは言い難い。また、特許文献5の一般式(1)で表される化合物は一般的に入手困難であるため、実施が困難であるという問題がある。
【0015】
本発明は、一般的に入手可能で従来用いられているフルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物を用い、特別な成膜設備を必要とせず、形成する被膜が単層膜であっても、得られる撥水性物品の耐久性、特に耐候性、耐摩耗性を向上かつ両立する撥水液とその調製法、該撥水液を用いて得られる撥水性物品、及びその製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、フルオロカーボンユニットの数が8未満のフルオロアルキルシラン系化合物、溶媒、酸触媒、水を含む撥水液の組成について詳細に検討を行い、特定の酸触媒を用いて、かつ、各原料の調合量を特定の範囲内にすることで、上記の課題を解決し、短鎖フルオロアルキルシラン系化合物においても耐候性、耐摩耗性を向上かつ両立する撥水性物品(撥水ガラス)を簡便に得られることを見出した。なお、上記の耐候性や耐摩耗性といった耐久性は、屋外で使用されるような撥水性物品、特に撥水ガラスに要求されるレベルのものであり、撥水性物品の耐久性は、実際に屋外環境に撥水性物品を所定の期間暴露して撥水性能等の耐久性を評価する屋外暴露試験や、撥水性物品に対し強力なUV光を所定の時間照射して撥水性能等の耐久性を加速評価する耐光性試験によって評価することができる。
【0017】
すなわち、本発明は、少なくとも、CF(CFm−1で示されるフルオロカーボンユニットの数であるmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、及び、有機スルホン酸を混合して得られる、撥水層を形成するための撥水液であり、該撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.1〜29mol倍であることを特徴とする、撥水液である。なお、本発明の撥水液には、前記フルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、及び、有機スルホン酸以外の成分として、水が含まれていても良い。上記のような撥水液を用いることにより、前記フルオロアルキルシラン系化合物(該化合物が加水分解、及び/又は、重縮合した生成物を含むものであってもよい)と、基材表面とを結合させて、該基材表面に優れた耐久性、特に耐候性、耐摩耗性を両立する固形の被膜(撥水層)を形成することができる。
【0018】
本発明の撥水液は、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、及び、有機スルホン酸を混合して得られる、撥水層を形成するための撥水液であり、該撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.45〜26mol倍であることが好ましい。上記のように、フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、及び、有機スルホン酸を混合して得られる撥水液を「第1の撥水液」と記載する。
【0019】
前記第1の撥水液は、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が2.5〜26mol倍であることが好ましい。
【0020】
また本発明の撥水液は、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、有機スルホン酸、及び、水を混合して得られる、撥水層を形成するための撥水液であり、該撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.15〜2.8mol倍であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記水の添加量が0.04〜290mol倍であることが好ましい。上記のように、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、有機スルホン酸、及び、水を混合して得られる撥水液を「第2の撥水液」と記載する。
【0021】
前記第2の撥水液は、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.2〜2.5mol倍であり、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記水の添加量が0.1〜200mol倍であることが好ましい。
【0022】
また、上記の撥水液は、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物が加水分解、及び/又は、重縮合された化合物を含有することが好ましい。
【0023】
また、上記の撥水液は、前記フルオロアルキルシラン系化合物が、フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルトリアルコキシシランであることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、少なくとも、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、及び、有機スルホン酸を混合して、前記フルオロアルキルシラン系化合物を加水分解、及び/又は、重縮合することにより、上記の撥水液を調製することを特徴とする、撥水液の調製法である。前記の加水分解は、撥水液原料中に含まれていた水分によって進行するものであってもよく、撥水液の調製時に大気中から取り込まれた水分によって進行するものであってもよく、また、撥水液原料として添加された水によって進行するものであってもよい。なお、前記の加水分解や重縮合は完全に進行する必要はなく、前記フルオロアルキルシラン系化合物の一部が加水分解や重縮合することでもよい。
【0025】
前記撥水液の調製法は、前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒、有機スルホン酸、及び、水を混合して、前記フルオロアルキルシラン系化合物を加水分解、及び/又は、重縮合することが好ましい。
【0026】
また前記撥水液の調製法は、前記フルオロアルキルシラン系化合物を加水分解、及び/又は、重縮合した後に、さらに脱水剤を添加することにより、撥水液を調製することが好ましい。
【0027】
また、本発明は、基材上に撥水層を形成する撥水性物品の製法において、上記の撥水液を基材の表面上に塗布し、50〜350℃で1〜60分間加熱することにより、撥水層を形成することを特徴とする、撥水性物品の製法である。
【0028】
また、本発明は、上記の撥水性物品の製法によって得られる撥水性物品である。
【0029】
前記撥水性物品は、基材がガラスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、一般的に入手可能で従来用いられている前記フルオロカーボンユニットのmが8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物を用い、特別な成膜設備を必要とせず、形成する被膜が、特異なベース膜と撥水層といった2層膜構成ではなく、単一組成のみからなる単層膜であっても、得られる撥水性物品の耐久性、特に耐候性、耐摩耗性を向上かつ両立する撥水液、及び撥水性物品が簡便に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1の撥水液及び比較例における、フルオロアルキルシラン系化合物(FAS)の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)をまとめたイメージ図。図中の直線上の(1)は、実施例1−1、1−2、比較例1−1〜1−4、1−6、1−8、1−13、(2)は、実施例1−3、(3)は、実施例1−4、(4)は、実施例1−5、(5)は、実施例1−6、比較例1−5、1−7、1−9、(6)は、実施例1−7、(7)は、実施例1−8、(8)は、実施例1−9、(9)は、実施例1−10、(10)は、比較例1−10、(11)は、比較例1−11、(12)は、比較例1−12、の比を示す。
図2】本発明の第2の撥水液及び比較例における、フルオロアルキルシラン系化合物(FAS)の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)をまとめたイメージ図。図中の(13)は、実施例2−1、2−2、2−10、2−12〜2−14、比較例2−1〜2−8、2−11、(14)は、実施例2−3、2−15、(15)は、実施例2−4、(16)は、実施例2−5、(17)は、実施例2−6、(18)は、実施例2−7、(19)は、実施例2−8、(20)は、実施例2−9、(21)は、実施例2−11、(22)は、実施例2−16、(23)は、実施例2−17、(24)は、実施例2−18、(25)は、実施例2−19、(26)は、実施例2−20、(27)は、実施例2−21、(28)は、実施例2−22、(29)は、実施例2−23、(30)は、実施例2−24、(31)は、比較例2−9、(32)は、比較例2−10、の比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の撥水液に使用されるフルオロアルキルシラン系化合物は、下記一般式[1]で示されるフルオロアルキルシランが好適に用いられる。
ここで、Yは1価の加水分解可能な官能基である。さらに、mは8未満の整数であり、フルオロカーボンユニットの数(CF及びCFの総数)を表す。さらに、pは1〜3の整数であり、加水分解可能な官能基の数を表す。
【0033】
フルオロカーボンユニットの数(CF及びCFの総数)が増加すると、得られる撥水膜の耐候性、耐摩耗性は改善する。しかしながら、 前記背景の通り、mの数が大きなフルオロアルキルシラン系化合物は入手が困難になっている。従って、フルオロカーボンユニットの数は8未満である。
【0034】
また、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量は、撥水液の総量に対し、1〜20質量%とすることが重要である。1質量%未満では、初期撥水性(接触角)、耐候性および耐摩耗性が著しく低下する。また、20質量%を超えると撥水液調合時の取り扱い性や撥水液のポットライフが悪くなるほか、撥水液が高コストとなるため、その添加量は、1〜20質量%とすることが好ましい。
【0035】
前記フルオロアルキルシラン系化合物としては、前記一般式[1]のmが8未満である一般に入手可能なフルオロアルキルシラン系化合物を用いることができ、例えば、CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF25CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF25CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF23CH2CH2Si(OCH33、CF3(CF23CH2CH2SiCH3(OCH32、CF3(CF23CH2CH2Si(CH32OCH3、CF3(CF25CH2CH2SiCl3、CF3(CF25CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF25CH2CH2Si(CH32Cl、CF3(CF23CH2CH2SiCl3、CF3(CF23CH2CH2SiCH3Cl2、CF3(CF23CH2CH2Si(CH32Cl等のものが使用できる。
入手容易性と得られる撥水性物品の撥水層の耐久性の観点から、前記一般式[1]のmが4〜6であるフルオロアルキルシラン系化合物がより好ましい。
【0036】
また、前記フルオロアルキルシラン系化合物は、片側末端に加水分解可能な官能基を有するフルオロアルキルシラン系化合物が好適に用いられる。両側末端に加水分解可能な官能基を持ったフルオロアルキルシラン系化合物は、縮合が進みやすく、このため撥水液の性状を安定に保つことが困難となる傾向がある。さらに、縮合した撥水液は、撥水液を基材に塗布・乾燥後、余剰分となり易く、この余剰分は基材に強固に固着し、乾燥後の余剰分の除去が困難となる傾向がある。この点を考慮すると、片側末端のみに加水分解可能な官能基を有するフルオロアルキルシラン系化合物とすることが好ましい。さらに、加水分解可能な官能基の数は、3個が好ましい。3個未満では、生成するシラノール基の量が十分でなくなるため、基材と得られる撥水膜の結合が十分でなくなり、撥水膜の耐久性が低くなる場合がある。
【0037】
また、加水分解可能な官能基の種類としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基又はイソシアネート基等を用いることができる。ただし、加水分解可能な官能基の反応性が高すぎると、撥水液調合時の取扱いが難しくなるだけでなく、撥水液のポットライフが短くなる場合がある。一方、反応性が低すぎると、加水分解反応が十分進行しなくなり、生成するシラノール基の量が十分でなくなるため、基材と得られる撥水膜の結合が十分でなくなり、撥水膜の耐候性、耐摩耗性が低くなる場合がある。取扱いの容易さ、撥水液のポットライフ、得られる撥水膜の耐候性、耐摩耗性を考慮すると、加水分解可能な官能基としてはアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0038】
撥水液に用いる有機溶媒には、フルオロアルキルシラン系化合物、酸触媒を溶解させる有機溶媒を用いることができ、該有機溶媒として、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素溶媒類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類やそれらの混合物を用いることが好ましい。また、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロエーテル、ハイドロフルオロエーテルなどのフッ素系溶剤を用いることもできる。中でも、イソプロピルアルコール等の低級アルコールは、フルオロアルキルシラン系化合物、酸触媒の溶解性が高く、さらに、撥水液の塗布性(塗り伸ばしやすさ)や乾燥時間(作業時間)が適度になるので特に好ましい。
【0039】
また、撥水液に用いる有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、2−プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、2−ブタンスルホン酸、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシブタン−1−スルホン酸、2−ヒドロキシペンタンスルホン酸、1−カルボキシエタンスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸、アリールスルホン酸、2−スルホ酢酸、2−又は3−スルホプロピオン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホサリチル酸、ベンズアルデヒドスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、フェノール−2,4−ジスルホン酸などが挙げられる。中でもメタンスルホン酸、エタンスルホン酸やp―トルエンスルホン酸は容易に入手でき、さらに安全性(揮発しにくい)や取り扱い(吸湿しにくい)の観点から特に好ましい。
【0040】
図1に、第1の撥水液について、実施例及び比較例のデータに基づく撥水液における、フルオロアルキルシラン系化合物(FAS)の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)を図示している。前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.1〜29mol倍であること(点A〜点Eの範囲)が重要である。0.1mol倍未満では、前記フルオロアルキルシラン系化合物のプロトン化が十分ではなく、基材と前記フルオロアルキルシラン系化合物との活性度が低いために初期接触角、耐候性および耐摩耗性が低下する。また、29mol倍を超えると前記フルオロアルキルシラン系化合物及び前記有機スルホン酸が撥水液内で均一に溶解することが困難となる。従って、前記有機スルホン酸の添加量は、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対して0.1〜29mol倍であることが重要である。
【0041】
第1の撥水液では、より高い初期接触角と耐候性を得るためには、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.45〜26mol倍であること(点B〜点Dの範囲)が好ましい。さらに、より高い初期接触角と耐候性および耐摩耗性を得るためには、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が2.5〜26mol倍であること(点C〜点Dの範囲)が好ましい。
【0042】
図2に、第2の撥水液について、実施例及び比較例のデータに基づく撥水液における、フルオロアルキルシラン系化合物(FAS)の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)を図示している。
第2の撥水液では、より高い初期接触角と耐候性を得るためには、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.15〜2.8mol倍であること([F]の範囲)が好ましい。さらに、より高い初期接触角と耐候性および耐摩耗性を得るためには、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記有機スルホン酸の添加量が0.2〜2.5mol倍であること([G]の範囲)が好ましい。
【0043】
さらに、第2の撥水液では、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する前記水の添加量は0.04〜290mol倍であること([F]の範囲)が好ましく、さらに、0.1〜200mol倍である([G]の範囲)と、より高い初期接触角と耐候性および耐摩耗性を得ることができるために好ましい。
【0044】
次に本発明の撥水液の好ましい調製方法について説明する。
【0045】
撥水液は、前記フルオロアルキルシラン系化合物、有機溶媒の混合物に、加水分解反応を起こさせるための前記有機スルホン酸、及び水を用いる場合は水を添加、混合し、前記フルオロアルキルシラン系化合物を加水分解、及び/又は、重縮合することにより得られる。ここで、フルオロアルキルシラン系化合物と有機溶媒とを先に混合するのは、フルオロアルキルシラン系化合物を撥水液中に均質に混合させるためである。しかしながら、上記の原料を同時に混合しても良い。
【0046】
また、撥水液中の含有水分量を調整するために、撥水液に脱水剤を添加し、所定時間脱水処理を行っても良い。脱水剤としては、シリカゲル、合成ゼオライト、活性アルミナ等を用いることが出来るが、これに限定するものではない。
【0047】
次に、得られた撥水液を使用して、撥水性物品を得る方法について説明する。
【0048】
上記で得られた撥水液を基材表面に塗布する塗布方法としては、刷毛塗り、手塗り、ノズルフローコート法、ディッピング法、スプレー法、リバースコート法、フレキソ法、印刷法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、それらの併用等各種塗布方法が適宜採用され得る。
【0049】
本発明の撥水性物品の製法は、塗布後に50〜350℃で1〜60分間加熱を行うことが好ましいが、その加熱温度よりも高い耐熱温度を有するものであれば、撥水液が塗布される基材は特に限定されるものではない。例えば、自動車用窓ガラス、建築物用窓ガラスに通常使用されているフロート板ガラス、又はロールアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。これら板ガラスを用いて形成される鏡等の反射性基材、擦りガラス、模様が刻まれたガラス等の半透明から不透明のガラス基材を使用することができる。
【0050】
前記ガラス基材の他にタイル、瓦、衛生陶器、食器等に使用されるセラミックス材料よりなる基材、ガラス窓等の枠体、調理器、メス、注射針等の医療器具、流し、自動車のボディ等に使用されるステンレス鋼、アルミニウム、鉄鋼等の金属材料、プラスチック製の基材、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、その他のプラスチック基材を使用することがある。
【0051】
また、基材と撥水膜との接着強度を向上させる処理を基材表面に予め行うこともできる。前記の処理としては、各種研磨液による研磨・洗浄・乾燥、酸性溶液または塩基性溶液による表面改質処理、プライマー処理、プラズマ照射、コロナ放電、高圧水銀灯照射等により、基材表面に活性基を発生させることが挙げられる。特に、プライマー処理は、例えば基材上に官能基を4個有するケイ素化合物が添加された溶液を基材に塗布し、該ケイ素化合物と基材とを結合させるとともに、該ケイ素化合物由来のシラノール基(活性基)を形成させて行うことができ、撥水液を塗布する表面のシラノール基の数を増やすことができるため好ましい。
【0052】
次に撥水液を基材に塗布した後の処理について説明する。基材に撥水液を塗布後、50〜350℃で1〜60分間加熱させることで、前記フルオロアルキルシラン系化合物の加水分解可能な官能基に由来するシラノール基と、基材表面に存在する水酸基等の結合性基とを結合させることにより、該基材表面に優れた耐久性、特に耐候性、耐摩耗性を両立する固形の被膜(撥水層)を形成することができる。加熱は、常圧下、加圧下、減圧下、不活性雰囲気下で行っても良い。
【0053】
最後に、余剰分が乾固物となって基材上に残留するので、この余剰分を有機溶剤で湿らした紙タオルや布および/または乾いた紙タオルや布で払拭することにより撥水膜が形成された物品が得られる。
【実施例】
【0054】
本実施例及び比較例では、撥水層を形成するための撥水液を調製し、基材上に塗布して、撥水性物品を作製した。撥水液の調製方法及び撥水性物品の作製方法は後述の通りである。また、得られた撥水性物品の撥水層について、以下に示す方法により品質評価を行った。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(1)外観:撥水液を塗布して乾燥させた後、白くまだらに残留している余剰な成分をアルコール系溶剤〔日本アルコール販売株式会社製、品名:ネオコールCP〕を湿らした紙タオル(品名:キムタオル)で拭き上げて透明なサンプルを作製する際に、透明サンプルが得られたものを良(表中で○と表記)、透明サンプルが得られなかったものを外観不良(表中で×と表記)とした。また、撥水液の原料の相溶性が悪く、撥水液自体が不透明な場合、均一な撥水層を形成することが困難であるため、そのような場合は「撥水液が不透明」と記載し、(1)〜(5)に記載する評価を行わなかった。
【0056】
(2)接触角:撥水性物品の撥水層表面に、純水約2μlを置いたときの水滴とサンプル表面とのなす角を接触角計で測定した。尚、接触角計には協和界面科学製CA−X型を用い、大気中(約25℃)で測定した。初期接触角において、接触角が108°以上を良(表中で○と表記)、110°以上を優(表中で◎と表記)とした。尚、108°未満のものを性能不足とし、表中で×と表記した。
【0057】
(3)耐光性:メタルハライドランプのUV光を以下の条件でサンプルの撥水膜面に対して2時間照射した後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは試験後の水滴の接触角が85°以上を合格(表中で○と表記)、100°以上を良(表中で◎と表記)とした。尚、85°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
・ ランプ:アイグラフィックス製M015−L312
・ ランプ強度:1.5kW
・ 照度:下記条件における測定値が128mW/cm
・ 測定装置:紫外線強度計(コニカミノルタセンシング製、UM−10)
・ 受光部:UM−360(受光波長域;310〜400nm、ピーク波長;365±5nm)
・ 測定モード:放射照度測定
【0058】
(4)耐トラバース性:以下の条件でトラバース試験を実施した後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは、試験後の水滴の接触角が75°以上を合格(表中で○と表記)、85°以上を良(表中で◎と表記)した。尚、75°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
・ 試験機 :トラバ−ス式摺動試験機
・ 試料サイズ :約100mm×200mm
・ 摩擦布 :ネル布
・ 荷重 :0.3kg/cm2
・ ストロ−ク :100mmの往復摺動(摺動回数は往復の回数)
・ 摺動速度 :30往復/分
【0059】
(5)屋外暴露耐久性:撥水膜面を上面としてサンプルを30°傾斜させて南向きの屋外(三重県松阪市)に設置して10.5ヶ月の屋外暴露試験を行った後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは試験後の水滴の接触角が75°以上を合格(表中で○と表記)、85°以上を良(表中で◎と表記)とした。尚、75°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
【0060】
[実施例1−1]
(I)撥水液の調製
撥水層を形成するための撥水液の原料として、フルオロカーボンユニットの数が6のフルオロアルキルトリアルコキシシランである、(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)トリエトキシシラン〔CF(CFCHCHSi(OC、エボニック・デグサ製、商品名:F8261、分子量:510、以降、本化合物を「C6FAS」と記載する場合がある〕;1.00gとイソプロピルアルコール〔キシダ化学製、以降、「iPA」と記載する場合がある〕;22.88gを混合し、約3分間撹拌した。次いで、メタンスルホン酸〔キシダ化学製、分子量:96〕;2.26gを添加し、約2時間室温で撹拌して、C6FASを加水分解、及び/又は、重縮合することにより無色透明で均質な撥水液を得た。なお、撥水液原料の総量100質量%に対するC6FASの添加量は3.8質量%であり、C6FASの添加量に対するメタンスルホン酸の添加量は12.00mol倍であり、図1の(1)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表1に示す。
【0061】
(II)基材の準備
200mm×200mm×3.5mm厚サイズのフロートガラス板の表面を、研磨液として、ガラス研磨剤ミレークE40(T)(三井金属工業製)を水に混合した2質量%のセリア懸濁液を用いて研磨し、水洗及び乾燥した。次いで、約40℃の0.2Nの硫酸水溶液に約1分間該ガラス板を浸漬し酸処理した後、再度水洗し、乾燥した。
【0062】
(III)撥水膜の形成
雰囲気温度約23℃、湿度約50%RHの環境において、上記(I)で調製した撥水液1.0mlを保持した綿布(商品名:ベンコットM−1)をガラス板上に接触させて、任意の一方向に往復させて全面に塗布し、次いで、塗布方向に対して約90°となる方向に往復させて全面に塗布した後、該ガラス板を電気炉に入れ10分間乾燥した。この時、ガラスの最高到達温度(乾燥温度)は150℃であった。最後に、目視で白くまだらに残留している余剰な成分をアルコール系溶剤〔日本アルコール販売株式会社製、品名:ネオコールCP〕で湿らせた紙タオルで拭き上げて、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。
【0063】
上記の評価方法に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、初期接触角:◎(111°)、耐光性:◎(105°)、耐トラバース性:◎(105°)、屋外暴露耐久性:◎(90°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例1−2]
実施例1−1と同様の操作で得た撥水液に、脱水剤としてモレキュラーシーブ〔4AXH5 8X12、ユニオン昭和製〕を約5g添加浸漬して約16時間放置し重縮合反応を調整させつつ脱水した後、濾紙(ワットマン、ガラス繊維ろ紙:GF/A)を用いて濾過し、モレキュラーシーブ4Aを分離除去することにより無色透明で均質な撥水液を得た。該撥水液は図1の(1)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表1に示す。
【0066】
上記以外は実施例1−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表1に示すとおり、初期接触角:◎(111°)、耐光性:◎(105°)、耐トラバース性:◎(105°)、屋外暴露耐久性:◎(90°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0067】
[実施例1−3〜1−10]
実施例1−2における、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する有機スルホン酸の添加量を変更し、それ以外は、実施例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価を行った。なお、実施例1−3〜1−10の撥水液は、それぞれ、図1の(2)〜(9)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表1に示す。
【0068】
[比較例1−1]
有機スルホン酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いること以外は、実施例1−1と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は図1の(1)で示される撥水液に該当する。実施例1−1と同様に評価を行ったところ、表1に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:○(90°)、耐トラバース性:×(69°)、屋外暴露耐久性:○(78°)であり、性能不足であった。
【0069】
[比較例1−2]
有機スルホン酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いること以外は、実施例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は図1の(1)で示される撥水液に該当する。実施例1−2と同様に評価を行ったところ、表1に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:○(86°)、耐トラバース性:×(71°)、屋外暴露耐久性:○(78°)であり、性能不足であった。
【0070】
[比較例1−3〜1−13]
比較例1−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量を変更し、それ以外は、比較例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に評価を行った。比較例1−3、1−4、1−6、1−8、1−13で用いた撥水液は図1の(1)で示される撥水液に該当し、比較例1−5、1−7、1−9で用いた撥水液は図1の(5)で示される撥水液に該当し、比較例1−10で用いた撥水液は図1の(10)で示される撥水液に該当し、比較例1−11で用いた撥水液は図1の(11)で示される撥水液に該当し、比較例1−12で用いた撥水液は図1の(12)で示される撥水液に該当する。なお、比較例1−4、1−6、1−8、1−12では、撥水液の原料の相溶性が悪く、撥水液自体が不透明であったため、(1)〜(5)に記載する評価を行わなかった。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表1に示す。
【0071】
本発明の撥水液のうち水を含まないものは、撥水液原料の総量100質量%に対してフルオロカーボンユニットの数が8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物を1〜20質量%添加され、有機スルホン酸を用い、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が図1の点A〜点Eの範囲で示されるものであり、上記を満たした撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0072】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が図1の点B〜点Dの範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性により優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0073】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が図1の点C〜点Dの範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に特に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0074】
一方、スルホン酸以外の酸を用いた比較例1−1〜1−9の撥水液は、撥水液自体が不透明であるという問題や、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が図1の点A〜点Eの範囲から外れた比較例1−10〜1−12の撥水液は、撥水液自体が不透明であるという問題や、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%から外れた比較例1−13の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。
【0075】
[実施例2−1]
C6FAS;1.00gとiPA;25.00gを混合し、約3分間撹拌した。次いで、メタンスルホン酸〔キシダ化学製、分子量:96〕;0.14gと精製水〔キシダ化学製〕;0.11gを添加し、約2時間室温で撹拌して、C6FASを加水分解、及び/又は、重縮合することにより無色透明で均質な撥水液を得た。なお、撥水液原料の総量100質量%に対するC6FASの添加量は3.8質量%であり、C6FASの添加量に対するメタンスルホン酸の添加量は0.75mol倍であり、C6FASの添加量に対する水の添加量は3.00mol倍であり、図2の(13)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表2に示す。
【0076】
上記以外は実施例1−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表2に示すとおり、初期接触角:◎(110°)、耐光性:◎(100°)、耐トラバース性:◎(97°)、屋外暴露耐久性:○(81°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0077】
【表2】
【0078】
[実施例2−2]
実施例2−1と同様の操作で得た撥水液に、脱水剤としてモレキュラーシーブ〔4AXH5 8X12、ユニオン昭和製〕を約5g添加浸漬して約16時間放置し重縮合反応を調整させつつ脱水した後、濾紙(ワットマン、ガラス繊維ろ紙:GF/A)を用いて濾過しモレキュラーシーブ4Aを分離除去することにより無色透明で均質な撥水液を得た。該撥水液は図2の(13)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表2に示す。
【0079】
上記以外は実施例2−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表2に示すとおり、初期接触角:◎(110°)、耐光性:◎(100°)、耐トラバース性:◎(96°)、屋外暴露耐久性:○(81°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0080】
[実施例2−3〜2−24]
実施例2−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、有機スルホン酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する有機スルホン酸の添加量、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する水の添加量を変更し、それ以外は、実施例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価を行った。なお、実施例2−3、2−15の撥水液は図2の(14)で示される撥水液に該当し、実施例2−4〜2−9の撥水液は、それぞれ、図2の(15)〜(20)で示される撥水液に該当し、実施例2−10、2−12、2−13、2−14の撥水液は図2の(13)で示される撥水液に該当し、実施例2−11の撥水液は図2の(21)で示される撥水液に該当し、実施例2−16〜2−24の撥水液は、それぞれ、図2の(22)〜(30)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表2に示す。
【0081】
[比較例2−1]
有機スルホン酸の代わりに硝酸を用いること以外は、実施例2−1と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は図2の(13)で示される撥水液に該当する。実施例2−1と同様に評価を行ったところ、表2に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:×(72°)、耐トラバース性:×(61°)、屋外暴露耐久性:×(74°)であり、性能不足であった。
【0082】
[比較例2−2]
有機スルホン酸の代わりに硝酸を用いること以外は、実施例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は図2の(13)で示される撥水液に該当する。実施例2−2と同様に評価を行ったところ、表2に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:×(78°)、耐トラバース性:×(74°)、屋外暴露耐久性:×(74°)であり、性能不足であった。
【0083】
[比較例2−3〜2−11]
比較例2−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量を変更し、それ以外は、比較例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に評価を行った。比較例2−3〜2−8、2−11で用いた撥水液は図2の(13)で示される撥水液に該当し、比較例2−9で用いた撥水液は図2の(31)で示される撥水液に該当し、比較例2−10で用いた撥水液は図2の(32)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表2に示す。
【0084】
本発明の撥水液のうち水を含むものは、撥水液原料の総量100質量%に対してフルオロカーボンユニットの数が8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物を1〜20質量%添加され、有機スルホン酸を用い、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が0.1〜29mol倍であり、上記を満たした撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0085】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)が図2の[F]の範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性により優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0086】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)が図2の[G]の範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に特に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0087】
一方、スルホン酸以外の酸を用いた比較例2−1〜2−8の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が0.1〜29mol倍の範囲から外れた比較例2−9、2−10の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%から外れた比較例2−11の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。
図1
図2