【実施例】
【0054】
本実施例及び比較例では、撥水層を形成するための撥水液を調製し、基材上に塗布して、撥水性物品を作製した。撥水液の調製方法及び撥水性物品の作製方法は後述の通りである。また、得られた撥水性物品の撥水層について、以下に示す方法により品質評価を行った。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(1)外観:撥水液を塗布して乾燥させた後、白くまだらに残留している余剰な成分をアルコール系溶剤〔日本アルコール販売株式会社製、品名:ネオコールCP〕を湿らした紙タオル(品名:キムタオル)で拭き上げて透明なサンプルを作製する際に、透明サンプルが得られたものを良(表中で○と表記)、透明サンプルが得られなかったものを外観不良(表中で×と表記)とした。また、撥水液の原料の相溶性が悪く、撥水液自体が不透明な場合、均一な撥水層を形成することが困難であるため、そのような場合は「撥水液が不透明」と記載し、(1)〜(5)に記載する評価を行わなかった。
【0056】
(2)接触角:撥水性物品の撥水層表面に、純水約2μlを置いたときの水滴とサンプル表面とのなす角を接触角計で測定した。尚、接触角計には協和界面科学製CA−X型を用い、大気中(約25℃)で測定した。初期接触角において、接触角が108°以上を良(表中で○と表記)、110°以上を優(表中で◎と表記)とした。尚、108°未満のものを性能不足とし、表中で×と表記した。
【0057】
(3)耐光性:メタルハライドランプのUV光を以下の条件でサンプルの撥水膜面に対して2時間照射した後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは試験後の水滴の接触角が85°以上を合格(表中で○と表記)、100°以上を良(表中で◎と表記)とした。尚、85°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
・ ランプ:アイグラフィックス製M015−L312
・ ランプ強度:1.5kW
・ 照度:下記条件における測定値が128mW/cm
2
・ 測定装置:紫外線強度計(コニカミノルタセンシング製、UM−10)
・ 受光部:UM−360(受光波長域;310〜400nm、ピーク波長;365±5nm)
・ 測定モード:放射照度測定
【0058】
(4)耐トラバース性:以下の条件でトラバース試験を実施した後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは、試験後の水滴の接触角が75°以上を合格(表中で○と表記)、85°以上を良(表中で◎と表記)した。尚、75°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
・ 試験機 :トラバ−ス式摺動試験機
・ 試料サイズ :約100mm×200mm
・ 摩擦布 :ネル布
・ 荷重 :0.3kg/cm
2
・ ストロ−ク :100mmの往復摺動(摺動回数は往復の回数)
・ 摺動速度 :30往復/分
【0059】
(5)屋外暴露耐久性:撥水膜面を上面としてサンプルを30°傾斜させて南向きの屋外(三重県松阪市)に設置して10.5ヶ月の屋外暴露試験を行った後の接触角(°)を測定して評価した。ここでは試験後の水滴の接触角が75°以上を合格(表中で○と表記)、85°以上を良(表中で◎と表記)とした。尚、75°未満のものを不合格とし、表中で×と表記した。
【0060】
[実施例1−1]
(I)撥水液の調製
撥水層を形成するための撥水液の原料として、フルオロカーボンユニットの数が6のフルオロアルキルトリアルコキシシランである、(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)トリエトキシシラン〔CF
3(CF
2)
5CH
2CH
2Si(OC
2H
5)
3、エボニック・デグサ製、商品名:F8261、分子量:510、以降、本化合物を「C6FAS」と記載する場合がある〕;1.00gとイソプロピルアルコール〔キシダ化学製、以降、「iPA」と記載する場合がある〕;22.88gを混合し、約3分間撹拌した。次いで、メタンスルホン酸〔キシダ化学製、分子量:96〕;2.26gを添加し、約2時間室温で撹拌して、C6FASを加水分解、及び/又は、重縮合することにより無色透明で均質な撥水液を得た。なお、撥水液原料の総量100質量%に対するC6FASの添加量は3.8質量%であり、C6FASの添加量に対するメタンスルホン酸の添加量は12.00mol倍であり、
図1の(1)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表1に示す。
【0061】
(II)基材の準備
200mm×200mm×3.5mm厚サイズのフロートガラス板の表面を、研磨液として、ガラス研磨剤ミレークE40(T)(三井金属工業製)を水に混合した2質量%のセリア懸濁液を用いて研磨し、水洗及び乾燥した。次いで、約40℃の0.2Nの硫酸水溶液に約1分間該ガラス板を浸漬し酸処理した後、再度水洗し、乾燥した。
【0062】
(III)撥水膜の形成
雰囲気温度約23℃、湿度約50%RHの環境において、上記(I)で調製した撥水液1.0mlを保持した綿布(商品名:ベンコットM−1)をガラス板上に接触させて、任意の一方向に往復させて全面に塗布し、次いで、塗布方向に対して約90°となる方向に往復させて全面に塗布した後、該ガラス板を電気炉に入れ10分間乾燥した。この時、ガラスの最高到達温度(乾燥温度)は150℃であった。最後に、目視で白くまだらに残留している余剰な成分をアルコール系溶剤〔日本アルコール販売株式会社製、品名:ネオコールCP〕で湿らせた紙タオルで拭き上げて、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。
【0063】
上記の評価方法に記載した要領で評価したところ、表1に示すとおり、初期接触角:◎(111°)、耐光性:◎(105°)、耐トラバース性:◎(105°)、屋外暴露耐久性:◎(90°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0064】
【表1】
【0065】
[実施例1−2]
実施例1−1と同様の操作で得た撥水液に、脱水剤としてモレキュラーシーブ〔4AXH5 8X12、ユニオン昭和製〕を約5g添加浸漬して約16時間放置し重縮合反応を調整させつつ脱水した後、濾紙(ワットマン、ガラス繊維ろ紙:GF/A)を用いて濾過し、モレキュラーシーブ4Aを分離除去することにより無色透明で均質な撥水液を得た。該撥水液は
図1の(1)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表1に示す。
【0066】
上記以外は実施例1−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表1に示すとおり、初期接触角:◎(111°)、耐光性:◎(105°)、耐トラバース性:◎(105°)、屋外暴露耐久性:◎(90°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0067】
[実施例1−3〜1−10]
実施例1−2における、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する有機スルホン酸の添加量を変更し、それ以外は、実施例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価を行った。なお、実施例1−3〜1−10の撥水液は、それぞれ、
図1の(2)〜(9)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表1に示す。
【0068】
[比較例1−1]
有機スルホン酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いること以外は、実施例1−1と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は
図1の(1)で示される撥水液に該当する。実施例1−1と同様に評価を行ったところ、表1に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:○(90°)、耐トラバース性:×(69°)、屋外暴露耐久性:○(78°)であり、性能不足であった。
【0069】
[比較例1−2]
有機スルホン酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いること以外は、実施例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は
図1の(1)で示される撥水液に該当する。実施例1−2と同様に評価を行ったところ、表1に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:○(86°)、耐トラバース性:×(71°)、屋外暴露耐久性:○(78°)であり、性能不足であった。
【0070】
[比較例1−3〜1−13]
比較例1−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量を変更し、それ以外は、比較例1−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に評価を行った。比較例1−3、1−4、1−6、1−8、1−13で用いた撥水液は
図1の(1)で示される撥水液に該当し、比較例1−5、1−7、1−9で用いた撥水液は
図1の(5)で示される撥水液に該当し、比較例1−10で用いた撥水液は
図1の(10)で示される撥水液に該当し、比較例1−11で用いた撥水液は
図1の(11)で示される撥水液に該当し、比較例1−12で用いた撥水液は
図1の(12)で示される撥水液に該当する。なお、比較例1−4、1−6、1−8、1−12では、撥水液の原料の相溶性が悪く、撥水液自体が不透明であったため、(1)〜(5)に記載する評価を行わなかった。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表1に示す。
【0071】
本発明の撥水液のうち水を含まないものは、撥水液原料の総量100質量%に対してフルオロカーボンユニットの数が8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物を1〜20質量%添加され、有機スルホン酸を用い、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が
図1の点A〜点Eの範囲で示されるものであり、上記を満たした撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0072】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が
図1の点B〜点Dの範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性により優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0073】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が
図1の点C〜点Dの範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に特に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0074】
一方、スルホン酸以外の酸を用いた比較例1−1〜1−9の撥水液は、撥水液自体が不透明であるという問題や、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が
図1の点A〜点Eの範囲から外れた比較例1−10〜1−12の撥水液は、撥水液自体が不透明であるという問題や、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%から外れた比較例1−13の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。
【0075】
[実施例2−1]
C6FAS;1.00gとiPA;25.00gを混合し、約3分間撹拌した。次いで、メタンスルホン酸〔キシダ化学製、分子量:96〕;0.14gと精製水〔キシダ化学製〕;0.11gを添加し、約2時間室温で撹拌して、C6FASを加水分解、及び/又は、重縮合することにより無色透明で均質な撥水液を得た。なお、撥水液原料の総量100質量%に対するC6FASの添加量は3.8質量%であり、C6FASの添加量に対するメタンスルホン酸の添加量は0.75mol倍であり、C6FASの添加量に対する水の添加量は3.00mol倍であり、
図2の(13)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表2に示す。
【0076】
上記以外は実施例1−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表2に示すとおり、初期接触角:◎(110°)、耐光性:◎(100°)、耐トラバース性:◎(97°)、屋外暴露耐久性:○(81°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0077】
【表2】
【0078】
[実施例2−2]
実施例2−1と同様の操作で得た撥水液に、脱水剤としてモレキュラーシーブ〔4AXH5 8X12、ユニオン昭和製〕を約5g添加浸漬して約16時間放置し重縮合反応を調整させつつ脱水した後、濾紙(ワットマン、ガラス繊維ろ紙:GF/A)を用いて濾過しモレキュラーシーブ4Aを分離除去することにより無色透明で均質な撥水液を得た。該撥水液は
図2の(13)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件を表2に示す。
【0079】
上記以外は実施例2−1と同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価したところ、表2に示すとおり、初期接触角:◎(110°)、耐光性:◎(100°)、耐トラバース性:◎(96°)、屋外暴露耐久性:○(81°)であり、優れた撥水性、耐候性及び耐摩耗性を示し、長期的に撥水性能を維持し耐久性が高いものであった。
【0080】
[実施例2−3〜2−24]
実施例2−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、有機スルホン酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する有機スルホン酸の添加量、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する水の添加量を変更し、それ以外は、実施例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に撥水膜を有するサンプルを作製し、同様に評価を行った。なお、実施例2−3、2−15の撥水液は
図2の(14)で示される撥水液に該当し、実施例2−4〜2−9の撥水液は、それぞれ、
図2の(15)〜(20)で示される撥水液に該当し、実施例2−10、2−12、2−13、2−14の撥水液は
図2の(13)で示される撥水液に該当し、実施例2−11の撥水液は
図2の(21)で示される撥水液に該当し、実施例2−16〜2−24の撥水液は、それぞれ、
図2の(22)〜(30)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表2に示す。
【0081】
[比較例2−1]
有機スルホン酸の代わりに硝酸を用いること以外は、実施例2−1と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は
図2の(13)で示される撥水液に該当する。実施例2−1と同様に評価を行ったところ、表2に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:×(72°)、耐トラバース性:×(61°)、屋外暴露耐久性:×(74°)であり、性能不足であった。
【0082】
[比較例2−2]
有機スルホン酸の代わりに硝酸を用いること以外は、実施例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、目視観察で表面が均一な透明な撥水膜を有するサンプルを得た。なお、本比較例で用いた撥水液は
図2の(13)で示される撥水液に該当する。実施例2−2と同様に評価を行ったところ、表2に示すとおり、初期接触角:×(107°)、耐光性:×(78°)、耐トラバース性:×(74°)、屋外暴露耐久性:×(74°)であり、性能不足であった。
【0083】
[比較例2−3〜2−11]
比較例2−2における、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量、酸の種類、フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量を変更し、それ以外は、比較例2−2と同様の操作で撥水液を調製し、同様に評価を行った。比較例2−3〜2−8、2−11で用いた撥水液は
図2の(13)で示される撥水液に該当し、比較例2−9で用いた撥水液は
図2の(31)で示される撥水液に該当し、比較例2−10で用いた撥水液は
図2の(32)で示される撥水液に該当する。撥水液の成分及び調製条件と評価結果を表2に示す。
【0084】
本発明の撥水液のうち水を含むものは、撥水液原料の総量100質量%に対してフルオロカーボンユニットの数が8未満の整数であるフルオロアルキルシラン系化合物を1〜20質量%添加され、有機スルホン酸を用い、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が0.1〜29mol倍であり、上記を満たした撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0085】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)が
図2の[F]の範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性により優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0086】
また、上記の撥水液の中でも、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する、酸の添加量の比(mol倍)、及び、水の添加量の比(mol倍)が
図2の[G]の範囲で示される撥水液を用いた実施例では、耐候性及び耐摩耗性に特に優れた撥水性物品(撥水ガラス)を得ることができた。
【0087】
一方、スルホン酸以外の酸を用いた比較例2−1〜2−8の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量に対する酸の添加量の比(mol倍)が0.1〜29mol倍の範囲から外れた比較例2−9、2−10の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。また、撥水液原料の総量100質量%に対する前記フルオロアルキルシラン系化合物の添加量が1〜20質量%から外れた比較例2−11の撥水液は、得られた撥水性物品の耐候性及び耐摩耗性が不十分であるという問題があった。