(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えば学校、病院、生産施設、体育館、プール、空港ターミナルビル、オフィスビル、劇場、シネコン等の建物の天井として、吊り天井が多用されている。そして、吊り天井(吊り天井構造)Aは、例えば
図4に示すように、水平の一方向T1に所定の間隔をあけて並設される複数の野縁1と、野縁1に直交し、水平の他方向T2に所定の間隔をあけて並設され、複数の野縁1に一体に接続して設けられる複数の野縁受け2と、下端を野縁受け2に接続し、上端を上階の床材等の上部構造3(建物躯体)に固着して配設される複数の吊りボルト(吊り部材)4と、野縁1の下面にビス留めなどによって一体に取り付けられ、下階の天井面(天井部5)を形成する天井パネル(天井材)6とを備えて構成されている。
【0003】
一方、このように野縁1及び野縁受け2の天井下地7と天井パネル6を吊りボルト4で吊り下げ支持してなる吊り天井Aは、その構造上、地震時に作用する水平力によって横揺れしやすい。そして、地震時に横揺れして、天井部5の端部5aが壁や柱、梁などの建物構成部材(建物躯体)9に衝突し、天井パネル6に破損が生じたり、脱落が生じるおそれがあった。
【0004】
このため、近年、この種の吊り天井Aを耐震改修することが求められ、天井部5の下方にネットを張って天井パネル6の落下を防止するようにしたり、天井下地7や天井下地7の接合部を補強したり、全面的に最新の耐震技術を備えた吊り天井に替えるなどの対策が提案、実施されている。
【0005】
しかしながら、天井部5の下方にネットを張る耐震改修方法は、ネットによって吊り天井Aの意匠性が低下し、また、ネットが照明やスプリンクラー、エアコンなどの付帯設備のメンテナンスに支障をきたし、さらにネットの設置時に大掛かりな作業足場等が必要になって耐震改修コストが嵩むなどの問題がある。
【0006】
また、天井下地7や接合部を補強する耐震改修方法においては、天井裏空間Hに配設された付帯設備などによって、補強できる範囲に制限が生じ、十分に対応できなかったり、野縁1や野縁受け2の天井下地7などにJIS材ではない一般材が使用され、低強度の場合があり、補強後の性能が不安定で十分な改修精度を確保できなかったり、点付け溶接部などがあって対応できない場合がある。
【0007】
全面やり替えによる耐震改修方法では、最新の知見で耐震化することが可能であるが、天井下の室の使用禁止期間や使用制限期間が長くなり、また、大量の廃棄物が発生するなどの不都合がある。
【0008】
これに対し、本願の出願人は、天井材の下方に、端部が建物構成部材に固定されたワイヤーを緊張した状態で水平に伸張し、このワイヤーと天井下地とを連結してなる天井振動低減構造(吊り天井構造)についての出願を行なっている(特許文献1参照)。また、この吊り天井では、ワイヤーにクランプを外装して取り付け、クランプにボルトからなる連結部材を取り付けるとともに天井材を貫通させ、この連結部材をナットで野縁受けに連結することによって、ワイヤーと天井下地を連結固定するようにしている。
【0009】
そして、このように構成した吊り天井においては、緊張したワイヤーを介して天井下地と建物構成部材とが繋げられることで、地震によって振動が生じたとき、天井部と建物構成部材とが一体に挙動することになり、振動発生時における天井部の揺れを抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の引張材のワイヤーと天井下地とを連結してなる吊り天井においては、ワイヤーに外装したクランプをボルトの連結部材とナットを用いて野縁受けに連結するようにしているため、天井部の下方と天井裏空間内の両側からの作業が必要になり、やはり、施工性の点で改善の余地が残されていた。
【0012】
特に、既設の吊り天井にワイヤーを取り付けて耐震改修を行う場合には、天井裏空間内での危険作業が伴う上、天井裏空間内のエアコンや配管などの付帯設備や建物の上部構造などとのクリアランスがなく、ボルト、ナットによる連結作業ができないおそれもあり、このような場合には、施工できない範囲が生じることになる。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、施工性、経済性を確保しつつ、地震時に天井材(天井パネル)の破損や脱落が生じることを防止でき、優れた耐震性能を有する吊り天井構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0015】
本発明の吊り天井構造は、吊り部材を介して建物躯体の上部構造に吊り下げ支持される天井下地に、天井面を形成する天井材を取り付けてなる吊り天井構造において、前記天井材の下方に且つ前記天井面に沿って横方向に配設されるとともに、前記天井材の下方から前記天井材及び/又は前記天井下地に接続固定して配設される
断面略逆U字状で略棒状の形鋼材である引張材と、前記引張材の端部を建物躯体に接合するための引張材端部接続手段とを備え、且つ、前記引張材の端部を接合する建物躯体がコンクリート造であり、前記引張材端部接続手段が、
複数のアンカーボルトまたは
複数の貫通ボルトを用いて前記コンクリート造の建物躯体に固着して設置される躯体側接合部と、前記躯体側接合部に一体に設けられるとともに、前記引張材の端部が接続される引張材側接合部とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の吊り天井構造において、前記引張材端部接続手段は、前記躯体側接合部が前記天井材より上方の前記コンクリート造の建物躯体に固着して設置され、前記引張材側接合部が前記躯体側接合部の下端に一体に設けられるとともに前記天井材より下方に突設して構成されていることが望ましい。
【0017】
さらに、本発明の吊り天井構造において、前記引張材端部接続手段は、前記躯体側接合部が前記天井材より下方の前記コンクリート造の建物躯体に固着して設置され、前記引張材側接合部が前記躯体側接合部の上端に一体に設けられて構成されていてもよい。
【0018】
さらに、本発明の吊り天井構造において、前記引張材端部接続手段は、前記躯体側接合部がその上端側を前記天井材より上方の前記コンクリート造の建物躯体に、下端側を前記天井材よりも下方の前記コンクリート造の建物躯体にそれぞれ固着して設置され、前記引張材側接合部が前記躯体側接合部の上端から下端の中間部に一体に設けられて構成されていてもよい。
また、本発明の吊り天井構造において、前記引張材端部接続手段は、前記天井材及び前記天井下地からなる天井部の外周端部に係合してこれを保持する係合保持片を備えていることが望ましい
。
【発明の効果】
【0019】
本発明の吊り天井構造においては、略棒状の引張材の中間部をビスなどを用い、天井面の下方から天井材及び天井下地に固定するようにしたことで、従来の引張材のワイヤーと天井下地をボルト・ナットによって接合する吊り天井構造と比較し、引張材の設置時に天井裏空間内での作業がほぼ不要になり、施工性を大幅に向上させることが可能になる。
【0020】
これにより、既設の吊り天井構造に引張材を取り付けて耐震性能の向上を図る耐震改修を行う場合であっても、天井裏空間内での危険作業が不要で、天井裏空間内に設けられている付帯設備、建物躯体とのクリアランスの関係で施工できない範囲が生じるという不都合を解消することができ、必要工期の短縮、コストの低減を図ることが可能になる。
【0021】
また、耐震改修後もエアコン、照明などの天井部付帯設備のメンテナンスを容易に行なうことができ、さらに棒状の引張材を天井部に配設するため、ネットなどと比較し、意匠性を損なうこともない。さらに、天井下地の野縁、野縁受けにJIS材と一般材のどちらが使用されていても、新設、既設の吊り天井構造であっても、さらに天井材がいかなる材質であっても対応可能で、耐震性能の向上を図ることが可能になる。
【0022】
さらに、RC造やSRC造等、コンクリート造の柱や壁等の建物躯体にアンカーボルトまたは貫通ボルトを用いて躯体側接合部を固着し、躯体側接合部に一体に設けられた引張材側接合部に引張材の端部を接合するようにしたことで、地震時に、引張材端部接続手段を介して建物躯体と引張材との間で確実且つ効果的に外力(地震時に作用する水平力)を伝達しつつ負担することが可能になる。
【0023】
これにより、単に引張材を設けた場合と比較し、地震時により確実に且つ効果的に吊り天井構造の横揺れを抑えることができ、天井下地と天井材からなる天井部の端部が壁や柱、梁などの建物躯体に衝突し、天井材に破損が生じたり、脱落が生じることを防止できる。すなわち、より信頼性の高い吊り天井構造を実現することが可能になり、また、より信頼性の高い吊り天井構造の耐震改修を行うことが可能になる。
【0024】
また、コンクリート造の建物躯体の側面等にアンカーボルトまたは貫通ボルトを設置し、躯体側接合部を取り付けるという簡易な操作によって引張材端部接続手段を設置することができ、ひいては引張材の端部を容易に建物躯体に接続することができる。よって、やはり、既設の吊り天井構造に引張材を取り付けて耐震性能の向上を図る耐震改修を行う場合であっても、天井裏空間内での危険作業が不要で、天井裏空間内に設けられている付帯設備、建物躯体とのクリアランスの関係で施工できない範囲が生じるという不都合を解消することができ、必要工期の短縮、コストの低減を図ることが可能になる。
【0025】
さらに、躯体側接合部を天井材より上方のコンクリート造の建物躯体に固着して設置し、引張材側接合部を躯体側接合部の下端に一体に設け、天井材の端部と建物躯体の側面の間を通じて天井材より下方に突設させるように引張材端部接続手段を構成すると、例えば天井下地と天井材からなる天井部の端部側の天井材の一部を取り外すなどして形成した隙間を利用し、天井裏側空間側のコンクリート造の建物躯体の側面等にアンカーボルトまたは貫通ボルトを設置し、容易に躯体側接合部(引張材端部接続手段)を取り付けることができる。これにより、引張材の端部を容易に建物躯体に接続することができる。
【0026】
また、躯体側接合部を天井材より下方のコンクリート造の建物躯体に固着して設置し、引張材側接合部を躯体側接合部の上端に一体に設けてられて引張材端部接続手段を構成すると、天井材よりも下方にアンカーボルトまたは貫通ボルトを設置し、完全に天井裏空間内での作業を不要にして容易に躯体側接合部(引張材端部接続手段)を取り付けることができる。これにより、さらに容易に引張材の端部を建物躯体に接続することができる。
【0027】
さらに、躯体側接合部の上端側を天井材より上方のコンクリート造の建物躯体に、下端側を天井材よりも下方のコンクリート造の建物躯体にそれぞれ固着して設置し、引張材側接合部を躯体側接合部の上端から下端の中間部に一体に設けて引張材端部接続手段を構成した場合においても、例えば天井下地と天井材からなる天井部の端部側の天井材の一部を取り外すなどして形成した隙間を利用し、天井裏側空間側のコンクリート造の建物躯体の側面等にアンカーボルトまたは貫通ボルトを設置し、容易に躯体側接合部(引張材端部接続手段)を取り付けることができる。これにより、引張材の端部を容易に建物躯体に接続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、
図1から
図3を参照し、本発明の一実施形態に係る吊り天井構造について説明する。ここで、本実施形態は、例えば学校、病院、生産施設、体育館、プール、空港ターミナルビル、オフィスビル、劇場、シネコン等の建物の天井として用いられる吊り天井の構造、及び既設の吊り天井構造の耐震改修方法に関するものである。
【0030】
本実施形態の吊り天井(吊り天井構造)Bは、
図1に示すように、野縁1と野縁受け2と吊り部材(吊りボルト)4と天井材6とを備えて構成されている。
【0031】
野縁1は、例えば断面コ字状に形成された溝形鋼であり、水平に延設され、且つ水平の一方向の横方向T1に所定の間隔をあけ、平行に複数配設されている。
【0032】
野縁受け2は、例えば断面コ字状に形成された溝形鋼であり、水平に延設され、且つ水平の他方向の横方向T2に所定の間隔をあけ、平行に複数配設されている。また、このとき、野縁受け2は、野縁1と交差するように配設されるとともに、複数の野縁1上に載置した状態で配設される。そして、各野縁受け2は、野縁1と交差する部分で、野縁接続用金具(クリップ)を使用することにより野縁1に接続されている。
【0033】
吊り部材4は、円柱棒状に形成されるとともに外周面に雄ネジの螺刻を有する吊りボルトであり、上端を上階の床材等の上部構造3(建物躯体)に固着、または鋼製の根太等に緊結して垂下され、下端側を、吊り部材接続用金具(ハンガー)を用いることにより野縁受け2に接続して複数配設されている。また、複数の吊り部材4は、所定の間隔をあけて分散配置されている。
【0034】
天井材(天井パネル)6は、2枚のボードを貼り付けて一体に積層形成したものであり、例えば天井付帯設備等の重量と併せて、1m
2あたり20kg程度の重量で形成されている。そして、この天井材6は、複数の野縁1の下面にビス留めなどして設置されている。なお、天井材6は、1枚および3枚以上のボードで構成されていてもよい。
【0035】
そして、この吊り天井Bでは、吊り部材4を介して建物の上部構造3に、野縁1と野縁受け2と天井材6とが吊り下げ支持されている。また、野縁1と野縁受け2によって天井下地7が形成され、この天井下地7と天井下地7に取り付けた天井材6によって天井部5、この天井部5によって下階の天井面が形成されている。
【0036】
一方、本実施形態の吊り天井Bにおいては、
図1から
図3に示すように、天井部5の下方に、且つ天井部5の下面(天井面)に沿って水平に、断面略逆U字状で略棒状の引張材11が配設されている。さらに、この引張材11は、例えばアルミ押出形鋼、スチール部材などで形成した溝形鋼であり、その端部側の一対の側壁部11a及び連設部11bにそれぞれボルト挿通孔12が形成されている。
【0037】
また、引張材(補強用グリッド部材)11は、その中間部を天井部5の下方からタッピングビスなどの接続固定手段で天井材6(天井部5)及び野縁1の天井下地7に固定して設けられている。そして、本実施形態では、このような引張材11が天井部5の下方で例えば900〜2400mmピッチの格子状(グリッド状)に配設されている。
【0038】
さらに、本実施形態の吊り天井Bにおいては、
図1から
図3に示すように、天井部5と建物の上部構造3の間の天井裏空間Hの天井部5の外周端部5a側、すなわち、天井裏空間Hの壁、柱、梁等のコンクリート造の建物躯体(RC造やSRC造の建物構成部材)9の側面に、上下方向T3に延設して引張材端部接続手段20が一体に取り付けられている。
【0039】
また、本実施形態の引張材端部接続手段20は、例えば、前後に一対のフランジ21aをそれぞれ配し、上下方向T3に延設されるH形鋼(例えばH−100×100×6×8mm)を用いてなる躯体側接合部21を備えて構成されている。また、躯体側接合部21には、この躯体側接合部21の上端側と下端側にそれぞれ設けられ、横方向T2にそれぞれ所定の寸法で突出するようにして躯体側接合部21に一体に固着して設けられた一対の定着板部22とを備えて形成されている。また、上端側と下端側の一対の定着板部22の左右両側にはそれぞれ、アンカーボルト挿通孔23が形成されている。
【0040】
さらに、引張材端部接続手段20は、コンクリート造の建物躯体9の所定位置に例えばケミカルアンカー等のアンカーボルト24を定着して複数取り付け、これらアンカーボルト24をアンカーボルト挿通孔23に挿通するとともにナットを締結して、定着板部22ひいては躯体側接合部21を建物躯体9の側面に一体に設置するように構成されている。また、このとき、定着板部22(躯体側接合部21)と建物躯体9の側面との間に、無収縮モルタルを充填したり、ゴム材などを設置して、介装部25を設けることが望ましい。
【0041】
さらに、引張材端部接続手段20の躯体側接合部21の下端には、角形鋼(例えば□−100×100×3.2mm)などからなる連結部26が設けられ、この連結部26の下端に、天井部5の外周端部5aに係合してこれを保持する係合保持片27を有する係合部28が一体に接続して設けられている。また、連結部26及び係合部28には上下に穿設して連通したボルト挿通孔29が設けられている。
【0042】
さらに、係合部28の下端には、連結部26及び係合部28に穿設されたボルト挿通孔29にボルトを挿通し、ナットを螺着することにより、引張材側接合部30が一体に固着して設けられている。すなわち、この引張材側接合部30は、連結部26及び係合部28を介して、躯体側接合部21に一体に接続されている。
【0043】
また、本実施形態において、引張材側接合部30は、溝形鋼(例えば溝形鋼−46.2×43.2×3.2mm)であり、一対の側壁部30aと一対の側壁部30aの上端同士を繋ぐ連設部30bを備えて断面コ字状(断面略逆U字状)に形成されている。一対の側壁部30aにはそれぞれボルト挿通孔31が貫通形成され、連設部30bにも連結部26及び係合部28に穿設されたボルト挿通孔29に連通し、引張材側接合部30を連結部26及び係合部28に一体に固設するためのボルト挿通孔32が貫通形成されている。
【0044】
また、引張材側接合部30は、引張材11の軸方向(延設方向)に一対の側壁部30aが沿うようにして、言い換えれば、本実施形態では建物躯体9の側面に直交する方向に一対の側壁部30aが沿うようにして配設されている。さらに、引張材側接合部30は、連結部26及び係合部28を介して躯体側接合部21の下端に一体に設けられるとともに、天井部5(天井材6)の端部5aと建物躯体9の側面の間を通じて天井材6の天井面より下方に突設されている
。
【0045】
本実施形態の吊り天井Bにおいては、
図1から
図3に示すように、互いの側壁部11a、30aや連設部11b、30bに形成されたボルト挿通孔12、31、32同士を連通させるように、格子状に配設した各引張材11の端部側を引張材端部接続手段20の引張材側接合部30に係合させ、これとともにボルトとナットで引張材11の端部を引張材側接合部30に接合する。
【0046】
これにより、引張材11は、その中間部が天井材6や天井下地7に固着し、その端部が引張材端部接続手段20を介してコンクリート造の建物躯体9に接続して配設される。
【0047】
そして、上記構成からなる本実施形態の吊り天井Bにおいては、天井部5の下方に配設された引張材11が、端部を引張材端部接続手段20を介してコンクリート造の建物躯体(建物構成部材)9に接続し、中間部を天井材6や野縁1に接続して配設されているため、地震時に、この引張材11によって天井部5が建物躯体3、9と一体に挙動し、天井部5の揺れが抑制される。
【0048】
一方、既設の吊り天井Aを本実施形態の吊り天井Bに耐震改修する場合に、一端部と他端部をそれぞれ、引張材端部接続手段20を介して建物躯体9に接続するとともに、中間部をビスなどの接続固定手段を用いて天井部5の下方から天井材6及び/又は天井下地7に固定して引張材11の取り付けが行なえる。このため、従来の引張材のワイヤーと天井下地7をボルト・ナットによって接合する吊り天井構造と比較し、引張材11の設置時に天井裏空間H内での大掛かりな作業が不要になる。
【0049】
したがって、本実施形態の吊り天井構造(吊り天井)Cにおいては、引張材11の中間部をビスなどの接続固定手段を用い、天井面の下方から天井材6及び天井下地7に固定するようにしたことで、従来の引張材のワイヤーと天井下地7をボルト・ナットによって接合する吊り天井構造と比較し、引張材11の設置時に天井裏空間H内での作業が不要になり、施工性を大幅に向上させることが可能になる。
【0050】
これにより、既設の吊り天井構造に引張材11を取り付けて耐震性能の向上を図る耐震改修を行う場合であっても、天井裏空間H内での危険作業が不要で、天井裏空間H内に設けられている付帯設備、建物躯体3とのクリアランスの関係で施工できない範囲が生じるという不都合を解消することができ、必要工期の短縮、コストの低減を図ることが可能になる。
【0051】
また、耐震改修後もエアコン、照明などの天井部付帯設備のメンテナンスを容易に行なうことができ、さらに棒状の引張材11を天井部5に配設するため、ネットなどと比較し、意匠性を損なうこともない。さらに、天井下地7の野縁1、野縁受け2にJIS材と一般材のどちらが使用されていても、新設、既設の吊り天井構造であっても、さらに天井材6がいかなる材質であっても対応可能で、耐震性能の向上を図ることが可能になる。
【0052】
さらに、RC造やSRC造等、コンクリート造の柱や壁等の建物躯体9にアンカーボルト24で躯体側接合部21を固着し、躯体側接合部21の下端に一体に設けられ、天井材6より下方に突出する引張材側接合部30に引張材11の端部を接合するようにしたことで、地震時に、引張材端部接続手段20を介して建物躯体9と引張材11との間で確実且つ効果的に外力(地震時に作用する水平力)を伝達させることが可能になる。
【0053】
これにより、単に引張材11を設けた場合と比較し、地震時により確実に且つ効果的に吊り天井構造Bの横揺れを抑えることができ、天井下地7と天井材6からなる天井部5の端部が壁や柱、梁などの建物躯体9に衝突し、天井材6に破損が生じたり、脱落が生じることを防止できる。すなわち、より信頼性の高い吊り天井構造Bを実現することが可能になり、また、より信頼性の高い吊り天井構造Bの耐震改修を行うことが可能になる。
【0054】
さらに、例えば天井下地7と天井材6からなる天井部5の端部5a側の天井材6の一部を取り外すなどして形成した隙間を利用し、天井裏側空間Hに対してコンクリート造の建物躯体9の側面等にアンカーボルト24を打設し、躯体側接合部21を取り付けることができる。
【0055】
これにより、やはり、既設の吊り天井構造に引張材11を取り付けて耐震性能の向上を図る耐震改修を行う場合であっても、天井裏空間H内での危険作業が不要で、天井裏空間H内に設けられている付帯設備、建物躯体とのクリアランスの関係で施工できない範囲が生じるという不都合を解消することができ、必要工期の短縮、コストの低減を図ることが可能になる。
【0056】
よって、本実施形態の吊り天井構造Bによれば、施工性、経済性を確保しつつ、地震時に天井部5の端部5aが衝突して破損や脱落が生じることを防止し、耐震性能を向上させることが可能になる。
【0057】
また、本実施形態の吊り天井構造Bにおいては、万一天井鉛直支持力を喪失しても、引張材11によって天井面全体の崩落を防止するフェイルセーフ機能を発揮させることが可能である。
【0058】
以上、本発明に係る吊り天井構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0059】
例えば、本実施形態では、略棒状の引張材11が溝形鋼であるものとして説明を行ったが、鋼板、炭素繊維シートなどの板状部材(棒状部材)を引張材11として用いて吊り天井構造Bを構成するようにしてもよい。また、棒状(板状)の引張材11と帯状(テープ状)の引張材を組み合わせるなどして吊り天井構造Bを構成するようにしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、引張材端部接続手段20の躯体側接合部21がアンカーボルト24を用いてコンクリート造の建物躯体9に固着して取り付けられるものとして説明したが、コンクリート造の建物躯体9に貫通形成した貫通孔に貫通ボルトを挿通し、この貫通ボルトを用いて躯体側接合部21をコンクリート造の建物躯体9に固着して取り付けるようにしてもよい。この場合においても、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0061】
さらに、引張材11の端部を引張材端部接続手段20を介してコンクリート造の建物躯体9に接続することが可能であればよく、引張材端部接続手段20は、少なくともアンカーボルト24(または貫通ボルト)と躯体側接合部21と引張材側接合部30を備えていればよい。
【0062】
すなわち、本実施形態のように、躯体側接合部21を天井材6より上方のコンクリート造の建物躯体9に固着して設置し、引張材側接合部30を躯体側接合部21の下端に一体に設け、天井材6の端部と建物躯体9の側面の間を通じて天井材6より下方に突設させるように引張材端部接続手段20を構成すると、例えば天井下地7と天井材6からなる天井部5の端部側の天井材6の一部を取り外すなどして形成した隙間を利用し、天井裏側空間H側のコンクリート造の建物躯体9の側面等にアンカーボルト24(または貫通ボルト)を設置し、容易に躯体側接合部21(引張材端部接続手段20)を取り付けることができる。これにより、引張材11の端部を容易に建物躯体9に接続することができる。
【0063】
また、躯体側接合部21を天井材6より下方のコンクリート造の建物躯体9に固着して設置し、引張材側接合部30を躯体側接合部21の上端に一体に設けてられて引張材端部接続手段20を構成してもよい。そして、このように構成すると、天井材6よりも下方にアンカーボルト24(または貫通ボルト)を設置し、完全に天井裏空間H内での作業を不要にして容易に躯体側接合部21(引張材端部接続手段20)を取り付けることができる。これにより、さらに容易に引張材11の端部を建物躯体9に接続することができる。
【0064】
さらに、躯体側接合部21の上端側を天井材6より上方のコンクリート造の建物躯体9に、下端側を天井材6よりも下方のコンクリート造の建物躯体9にそれぞれ固着して設置し、引張材側接合部30を躯体側接合部21の上端から下端の中間部に一体に設けて引張材端部接続手段20を構成してもよい。この場合においても、例えば天井下地7と天井材6からなる天井部5の端部側の天井材6の一部を取り外すなどして形成した隙間を利用し、天井裏側空間H側のコンクリート造の建物躯体9と、天井材6よりも下方の建物躯体9との側面等にそれぞれアンカーボルト24(または貫通ボルト)を設置し、容易に躯体側接合部21(引張材端部接続手段20)を取り付けることができる。これにより、引張材11の端部を容易に建物躯体9に接続することができる。
【0065】
なお、本実施形態の引張材端部接続手段30や上記の変更例の引張材端部接続手段30を含め、本発明に係る引張材端部接続手段は、天井部5に取り付けた引張材11の端部を引張材側接合部30に接続するものであるため、引張材側接合部30の少なくとも一部(引張材11の端部を接続する部分)が天井部5(天井面)よりも下方に位置するように構成される。
【0066】
また、本実施形態では、天井下地7が野縁1と野縁受け2を備えて構成されているものとしたが、本発明に係る天井下地は、必ずしも本実施形態のように限定しなくてもよく、例えば、吊りボルト(吊り部材)4に吊り下げ支持されて水平の一方向T1に所定の間隔をあけて並設されるとともに一方向T1に直交する他方向T2に延びる複数のTバー(断面逆T型の支持部材)を備えて構成した天井下地7であってもよい。すなわち、本発明は、特に天井下地の構成を限定する必要はない。