特許第6304531号(P6304531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 地方独立行政法人 岩手県工業技術センターの特許一覧 ▶ パウレックス株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社 釜石電機製作所の特許一覧

<>
  • 特許6304531-被覆体 図000002
  • 特許6304531-被覆体 図000003
  • 特許6304531-被覆体 図000004
  • 特許6304531-被覆体 図000005
  • 特許6304531-被覆体 図000006
  • 特許6304531-被覆体 図000007
  • 特許6304531-被覆体 図000008
  • 特許6304531-被覆体 図000009
  • 特許6304531-被覆体 図000010
  • 特許6304531-被覆体 図000011
  • 特許6304531-被覆体 図000012
  • 特許6304531-被覆体 図000013
  • 特許6304531-被覆体 図000014
  • 特許6304531-被覆体 図000015
  • 特許6304531-被覆体 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304531
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】被覆体
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/08 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   C23C24/08 C
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-21925(P2014-21925)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-147981(P2015-147981A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】592222204
【氏名又は名称】パウレックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504075027
【氏名又は名称】株式会社 釜石電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100093148
【弁理士】
【氏名又は名称】丸岡 裕作
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】園田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴
(72)【発明者】
【氏名】平野 高広
(72)【発明者】
【氏名】安岡 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】川崎 栄
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−127676(JP,A)
【文献】 特開2008−231486(JP,A)
【文献】 特開2008−155129(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/118354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基材の表面に皮膜材料を被覆した被覆体であって、コールドスプレー法を用い、上記皮膜材料の粉末をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、該ガスを亜音速ないし超音速流にして上記固体基材に対して噴射し、該固体基材の表面に皮膜材料を付着してなる被覆体において、
上記皮膜材料の粉末は、一次粒子を造粒した二次粒子であり、上記皮膜材料を、上記固体基材の表面に点在させて付着したことを特徴とする被覆体。
【請求項2】
上記固体基材の表面に付着する皮膜材料の厚さHが、H≦15μmであり、該固体基材の表面を、該固体基材の表面に対する皮膜材料の被覆面積率Saが、Sa=40%〜95%であることを特徴とする請求項1記載の被覆体。
【請求項3】
上記皮膜材料がセラミックを含むことを特徴とする請求項1または2記載の被覆体。
【請求項4】
上記セラミックは、酸化チタンであることを特徴とする請求項3記載の被覆体。
【請求項5】
上記酸化チタンの結晶構造がルチル型であることを特徴とする請求項4記載の被覆体。
【請求項6】
上記皮膜材料は、酸化チタンの他に抗菌材を含有することを特徴とする請求項4または5記載の被覆体。
【請求項7】
上記抗菌剤として、貝殻粉末を用いたことを特徴とする請求項6記載の被覆体。
【請求項8】
上記一次粒子の平均粒径Daを、0.1nm≦Da≦5μm、上記二次粒子の粒径Dを、1μm≦D≦500μmにしたことを特徴とする請求項1乃至7何れかに記載の被覆体。
【請求項9】
固体基材の表面に皮膜材料を被覆した被覆体であって、コールドスプレー法を用い、上記皮膜材料の粉末をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、該ガスを亜音速ないし超音速流にして上記固体基材に対して噴射し、該固体基材の表面に皮膜材料を付着してなる被覆体において、
上記皮膜材料がセラミックを含み、該セラミックは、酸化チタンであり、上記皮膜材料を、上記固体基材の表面に点在させて付着し、上記固体基材の表面に付着する皮膜材料の厚さHが、H≦15μmであり、該固体基材の表面を、該固体基材の表面に対する皮膜材料の被覆面積率Saが、Sa=40%〜95%であることを特徴とする被覆体。
【請求項10】
上記酸化チタンの結晶構造がルチル型であることを特徴とする請求項9記載の被覆体。
【請求項11】
上記皮膜材料は、酸化チタンの他に抗菌材を含有することを特徴とする請求項9または10記載の被覆体。
【請求項12】
上記抗菌剤として、貝殻粉末を用いたことを特徴とする請求項11記載の被覆体。
【請求項13】
上記コールドスプレー法で使用するガスを空気で構成したことを特徴とする請求項1乃至12何れかに記載の被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属若しくは非金属の固体基材にセラミック等の皮膜材料をコールドスプレー法により被覆した被覆体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の被覆体として、例えば、特開2008−297184号公報(特許文献1)に掲載された技術が知られている。この被覆体は、皮膜材料としての光触媒酸化チタンを固体基材にコールドスプレー法により被覆したものであり、抗菌,殺菌,防食や防汚等の機能に優れ、各種機器や建築材などに利用される。
コールドスプレー法においては、皮膜材料の粉末をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、このガスを亜音速ないし超音速流にして固体基材に対して噴射し、固体基材の表面に皮膜材料を付着させ、皮膜を形成する。皮膜材料の粉末としては、一次粒径が0.1nm〜1μmのアナターゼ型二酸化チタンをバインダーを用いずに凝集させた粒径1μm〜100μmの二次粒子を用い、このアナターゼ型二酸化チタンのみからなる皮膜を均一に固体基材に堆積させている。その膜厚は1μm以上3mm以下、好ましくは、100μm以上1mm以下になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−297184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この従来の被覆体にあっては、膜厚が1μm以上3mm以下、好ましくは、100μm以上1mm以下になるように、アナターゼ型二酸化チタンのみからなる皮膜を均一に固体基材に堆積させているが、比較的膜が均一に分布して厚くなることから、それだけ高価になっている。また、アナターゼ型二酸化チタンを用いているので、これはブラックライトによる紫外線の照射により、光触媒反応を発現させるが、可視光に応答できないという欠点もある。
本発明は上記の問題点に鑑みて為されたもので、機能性をできるだけ損なうことなく皮膜材料の被覆量を減らし、コストダウンを図った被覆体を提供することを目的とする。また、必要に応じ、皮膜材料に光触媒酸化チタンを用いたものにおいて、可視光に応答できるようにした点も課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するための本発明の被覆体は、図1に示すように、固体基材の表面に皮膜材料を被覆した被覆体であって、コールドスプレー法を用い、上記皮膜材料の粉末をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、該ガスを亜音速ないし超音速流にして上記固体基材に対して噴射し、該固体基材の表面に皮膜材料を付着してなる被覆体において、上記皮膜材料を、上記固体基材の表面に点在させて付着した構成としている。この場合、皮膜材料がある程度連続形成されても良いが、固体基材の表面が同様に点在して露出することになる。
これにより、皮膜材料が固体基材の表面に点在させて付着するので、それだけ皮膜材料の被覆量を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、皮膜材料を固体基材の全面に被覆するのに比較して多少は機能性に影響するが、点在するのである程度広がりがあることから、局所化する場合に比較して機能性を損なう事態が抑制される。
【0006】
この場合、必要に応じ、上記固体基材の表面に付着する皮膜材料の厚さHが、H≦15μmであり、該固体基材の表面に対する皮膜材料の被覆面積率Saが、Sa=40%〜95%である構成としている。当該被覆面積率Saは、少なくとも1000μm×1000μmで区画した範囲において、Sa=40%〜95%であることが望ましい。より望ましくは、100μm×100μmで区画した範囲においても成立するようにする。
この範囲で、可能な限り機能性の保持ができるようになる。皮膜材料の厚さや被覆面積率は適宜変えることができる。
【0007】
また、必要に応じ、上記皮膜材料がセラミックを含む構成としている。セラミックとしては、例えば、酸化物、MgO,Al23,SiO2,TiO2,CrO2,Cr23,MnO2,Fe23,Fe34,CoO,NiO,CuO,ZnO,ZrO2,MoO3、これらをベースとする複合酸化物、TiN,BN等の窒化物等、SiC,WC,TiC等の炭化物等を用いることができる。
【0008】
この場合、上記セラミックは、酸化チタンである構成としている。この場合、酸化チタンが固体基材の表面に点在させて付着するので、それだけ酸化チタンの被覆量を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、酸化チタン(TiO2)は、n型半導体性を示し、光電極や光触媒の材料として応用される。そのため、抗菌,殺菌,防食や防汚等の機能の向上を図ることができる。この場合、酸化チタンを固体基材の全面に被覆するのに比較して多少は機能性に影響するが、点在するのである程度広がりがあることから、局所化する場合に比較して機能性を損なう事態が抑制される。上記と同様、必要に応じ、固体基材の表面に付着する皮膜材料の厚さHが、H≦15μmであり、固体基材の表面を、少なくとも1000μm×1000μmで区画した範囲において、固体基材の表面に対する皮膜材料の被覆面積率Saが、Sa=40%〜95%であることが望ましい。この範囲で、可能な限り機能性の保持ができるようになる。後述の通り、全面に酸化チタンを被覆した場合に比較しても、ほとんど遜色ない光触媒機能を呈する。
【0009】
また、必要に応じ、上記酸化チタンの結晶構造がルチル型である構成としている。特に、SやNをドーピングしたものや、PtやFe等で修飾したルチル型酸化チタンは、紫外光だけでなく、可視光にも応答し優れた光触媒機能を発揮する。
【0010】
そしてまた、必要に応じ、上記皮膜材料は、酸化チタンの他に抗菌材を含有する構成としている。これにより、抗菌,殺菌,防食や防汚等の機能の向上を図ることができる。
この場合、上記抗菌剤として、貝殻粉末を用いた構成としている。貝殻粉末としては、カキ殻やホタテ貝殻などが挙げられる。
【0011】
また、必要に応じ、上記皮膜材料の粉末は、一次粒子を造粒した二次粒子である構成としている。造粒は、スプレードライ法、転動造粒法、撹拌造粒法などの公知のどの方法を用いてもよい。
この場合、上記一次粒子の平均粒径Daを、0.1nm≦Da≦5μm、上記二次粒子の粒径Dを、1μm≦D≦500μmにしたことが有効である。
望ましくは、一次粒子の平均粒径Daを、1nm≦Da≦500nm、二次粒子の粒径Dを、5μm≦D≦100μmにする。より望ましくは、一次粒子の平均粒径Daを、1nm≦Da≦200nm、二次粒子の粒径Dを、5μm≦D≦50μmにする。
例えば、固体基材が金属製であって、皮膜材料がセラミック等の硬度が高いものにおいては、粒子が大きいと皮膜形成ができにくい。一方、粒子をあまりに細かくすると、コールドスプレー装置の目詰まりをおこし易くなる。本発明では、一次粒子を細かくできるので、二次粒子が固体基材に衝突した際、圧潰するなどして一次粒子が固体基材に付着しやすくなる。また、二次粒子は比較的大きいので、コールドスプレー装置の目詰まりを生じさせる事態が防止される。そのため、セラミック等の硬度の高いものに対応できるようになる。
また、上記の皮膜材料を複数用いる所謂複合粉末の場合には、造粒した二次粒子を付着させるので、各皮膜材料が均一に分散できる。特に、上記の抗菌材を混合する場合には有効になる。
【0012】
また、必要に応じ、上記コールドスプレー法で使用するガスを空気で構成している。コールドスプレー法に用いるガスが、例えば、窒素,ヘリウムなど通常用いられているガスであっても良いが、空気の場合には、皮膜材料を固体基材の表面に点在させて付着させやすくなる。また、空気はヘリウムガス等と比較して安価にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、皮膜材料を固体基材の表面に点在させて付着させるので、それだけ皮膜材料の被覆量を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、皮膜材料を固体基材の全面に被覆するのに比較して多少は機能性に影響するが、点在するのである程度広がりがあることから、局所化する場合に比較して機能性を損なう事態が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の被覆体をその製造方法とともに示す図である。
図2】本発明の被覆体の表面状態を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る被覆体を製造するコールドスプレー装置の一例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態に係る二次粒子の製造例を示す走査電子顕微鏡写真であり、(a)は外観を示す写真、(b)断面を示す写真である。
図5】本発明の実施例及び比較例で作製した二次粒子を示す走査電子顕微鏡写真であり、(a1)はルチル型TiO2の二次粒子の外観写真、(a2)はその拡大写真、(b1)はアナターゼ型TiO2の二次粒子の外観写真、(b2)はその拡大写真である。
図6】本発明の実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の全体写真である。
図7】本発明の比較例に係る被覆体の表面の走査電子顕微鏡写真であり、(a1)は比較例1の外観写真、(a2)はその拡大写真、(b1)は比較例2の外観写真、(b2)はその拡大写真である。
図8】本発明の実施例1に係る被覆体の表面の状態を示し、(a1)は外観を示す走査電子顕微鏡写真、(a2)はその拡大走査電子顕微鏡写真、(b2)は(a2)の写真(拡大)のエリアにおける固体基材(Al)のX線の強度分布を表す図、(b2)は(a2)の写真(拡大)のエリアにおける皮膜材料(Ti)のX線の強度分布を表す図である。
図9】本発明の実施例2に係る被覆体の表面の状態を示し、(a1)は外観を示す走査電子顕微鏡写真、(a2)はその拡大走査電子顕微鏡写真、(b2)は(a2)の写真(拡大)のエリアにおける固体基材(Al)のX線の強度分布を表す図、(b2)は(a2)の写真(拡大)のエリアにおける皮膜材料(Ti)のX線の強度分布を表す図である。
図10】実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の皮膜のX線回折測定結果を、原料粉末の測定結果も併せて示すグラフ図である。
図11】実施例1,2及び比較例2に係る被覆体の抗菌試験結果を示す図である。
図12】実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の紫外線LEDでのアセトアルデヒドガス分解実験の結果を示すグラフ図である。
図13】実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の可視光LEDでのアセトアルデヒドガス分解実験の結果を示すグラフ図である。
図14】実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の光触媒特性値τを示すグラフ図である。
図15】実施例1,2及び比較例1,2に係る被覆体の結晶子サイズを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態に係る被覆体について詳細に説明する。
実施の形態に係る被覆体は、図1及び図2に示すように、固体基材の表面に皮膜材料を被覆した被覆体であって、図3に示すように、コールドスプレー法を用い、皮膜材料の粉末をその融点より低い温度に加温したガスに投入し、このガスを亜音速ないし超音速流にして固体基材に対して噴射し、固体基材の表面に皮膜材料を付着してなる。そして、この皮膜材料を、固体基材の表面に点在させて付着させている。
【0016】
図1に示すように、固体基材の表面に付着する皮膜材料の厚さHが、H≦15μmであり、図2に示すように、固体基材の表面を、固体基材の表面に対する皮膜材料の被覆面積率Saが、Sa=40%〜95%である構成としている。当該被覆面積率Saは、少なくとも1000μm×1000μmで区画した範囲において、Sa=40%〜95%であることが望ましい。より望ましくは、100μm×100μmで区画した範囲においても成立するようにする。図2は、100μm×100μmで区画した範囲の状態を示す。この場合、皮膜材料は、ある程度連続形成されても良いが、固体基材の表面が同様に点在して露出することになる。
【0017】
ここで、固体基材としては、鉄,鋳鉄,ステンレス,パーマロイ,銅,黄銅,リン青銅,ニッケル,キュプロニッケル,錫,鉛,コバルト,半田,チタン,アルミニウム,クロム,金,銀,白金,パラジウム,亜鉛の何れかの金属、あるいはこれらの合金、金属の酸化物、リン酸塩処理金属、クロム酸塩処理金属、木材、紙、プラスチックス、ガラスや金属粉末等を混合した複合強化プラスチック等、適宜のものを選択することができる。
実施の形態では、ステンレス(SUS)若しくはアルミニウム(Al)を用いた。
【0018】
皮膜材料としては、セラミックを含む。セラミックとしては、例えば、酸化物、MgO,Al23,SiO2,TiO2,CrO2,Cr23,MnO2,Fe23,Fe34,CoO,NiO,CuO,ZnO,ZrO2,MoO3、これらをベースとする複合酸化物、TiN,BN等の窒化物等、SiC,WC,TiC等の炭化物等を用いることができる。実施の形態では、酸化チタン(TiO2)、とりわけ、その結晶構造がルチル型である酸化チタンを用いた。
【0019】
また、皮膜材料は、酸化チタンの他に抗菌材を含有する。抗菌材として、貝殻粉末を用いた。実施の形態では、カキ殻粉末を用いた。
【0020】
そして、皮膜材料の粉末は、一次粒子を周知のスプレードライ法で造粒した二次粒子である。一次粒子の平均粒径Daを、0.1nm≦Da≦5μm、二次粒子の粒径Dを、1μm≦D≦500μmにした。望ましくは、一次粒子の平均粒径Daを、1nm≦Da≦500nm、二次粒子の粒径Dを、5μm≦D≦100μmにする。より望ましくは、一次粒子の平均粒径Daを、1nm≦Da≦200nm、二次粒子の粒径Dを、5μm≦D≦50μmにする。
【0021】
実施の形態では、ルチル型酸化チタンの一次粒子は、その平均粒径が14nmのものを用いた。また、カキ殻の一次粒子は、その平均粒径が2μmのものを用いた。
そして、ルチル型酸化チタンの一次粒子100重量部に対して、カキ殻の一次粒子を1〜60重量%混合した。望ましくは、カキ殻の一次粒子を0.1〜10重量%混合する。実施の形態では、10重量%混合した。
【0022】
そして、このルチル型酸化チタンの一次粒子とカキ殻の一次粒子との混合物を、周知のスプレードライ法により、造粒して二次粒子を得た。実施の形態では、二次粒子は、その粒度範囲が10〜45μmとなった。
図4には、二次粒子の製造例の走査電子顕微鏡写真を示す。図4(b)の断面写真において、白い点になって見えるのがカキ殻の粒子である。
【0023】
次に、このように作製した皮膜材料の二次粒子を、コールドスプレー法により、固体基材に被覆した。図3には、コールドスプレー法を実施する低温溶射装置1の概略を示す。この低温溶射装置1は、空気,窒素,ヘリウムなどの高圧の作動ガスが供給される主配管2と、主配管2の途中に設けられ作動ガスを皮膜材料粉末の融点または軟化温度よりも低い温度に加温するガス加熱器3と、主配管2から分岐された枝配管4と、枝配管4に介装され作動ガスにより皮膜材料粉末を搬送せしめる粉末供給装置5と、主配管2及び枝配管4が合流し枝配管4からの皮膜材料粉末を加温されたガスに投入させる粉末投入管6と、粉末投入管6に接続され固体基材Kに材料粉末をガスとともに吹き付けるスプレーノズル7とから構成されている。スプレーノズル7では作動ガス及び皮膜材料粉末は超音速流となって噴出される。
【0024】
実施の形態では作動ガスを空気とした。この作動ガスの空気,ガス加熱器3の温度設定,スプレーノズル7と固体基材との距離、固体基材の表面粗さ等の条件を適宜設定し、図1及び図2に示すように、皮膜材料を、固体基材の表面に点在させて付着させた。この場合、コールドスプレー法に用いるガスが、空気なので、皮膜材料を固体基材の表面に点在させて付着させやすくなる。また、空気はヘリウムガス等と比較して安価にすることができる。
【0025】
また、この場合、固体基材が金属製であって、皮膜材料が酸化チタンを含む極めて硬度が高いものであるが、一次粒子を細かくしたので、二次粒子が固体基材に衝突した際、圧潰するなどして一次粒子が固体基材に付着しやすくなる。また、二次粒子は比較的大きいので、コールドスプレー装置の目詰まりを生じさせる事態が防止される。また、二次粒子は、酸化チタンとカキ殻との混合物である所謂複合粉末であるので、各皮膜材料が均一に分散できる。
【0026】
このようにして製造された被覆体によれば、酸化チタンが固体基材の表面に点在させて付着するので、それだけ酸化チタンの被覆量を減らすことができ、コストダウンを図ることができる。また、酸化チタン(TiO2)は、n型半導体性を示し、光電極や光触媒の材料として応用される。そのため、抗菌,殺菌,防食や防汚等の機能の向上を図ることができる。この場合、酸化チタンを固体基材の全面に被覆するのに比較して多少は機能性に影響するが、点在するのである程度広がりがあることから、局所化する場合に比較して機能性を損なう事態が抑制される。即ち、後述もするが、全面に酸化チタンを被覆した場合に比較しても、ほとんど遜色ない光触媒機能を呈する。
【0027】
更に、酸化チタンの結晶構造がルチル型であるので、アナターゼ型酸化チタンの場合には紫外線の特別な光源下で機能を発揮するが、ルチル型酸化チタンは、バンドギャップがアナターゼ型より小さいため、紫外光より長波長である可視光を吸収することから、可視光に応答できるようになり、汎用性が大幅に向上する。特に、SやNをドーピングしたものや、PtやFe等で修飾したルチル型酸化チタンは、紫外光だけでなく、可視光にも応答し優れた光触媒機能を発揮する。
更にまた、皮膜材料は、酸化チタンの他に抗菌材としてのカキ殻を含有するので、抗菌,殺菌,防食や防汚等の機能の向上を図ることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例1及び実施例2について説明する。また、この実施例1,2においては、比較例1及び比較例2を作製してこれとの性能比較試験を行った。
実施例1,2及び比較例1,2において、固体基材として、幅50mm,長さ100mm,厚さ3mmの純Al(JIS A1100)板を使用した。使用に際して、アセトン洗浄のみを行い、固体基材表面を粗面化するブラスト処理は行わなかった。
【0029】
実施例1,比較例1において、使用した皮膜材料は、ルチル型の酸化チタン(株式会社石原産業製の可視光応答型光触媒粉末であるMPT-623)を用いた。MPT-623は可視光下で高い活性を示すよう白金化合物処理された粉末である。一次粒子の平均粒径は14nmであった。
これを、下記のスプレードライ法によって造粒した。図5(a1)に造粒した粉末外観の走査電子顕微鏡写真(以下「SEM写真」という)を示し、図5(a2)に粉末表面のSEM写真を示す。二次粒子の粒径は10〜45μmの範囲にした。
【0030】
実施例2,比較例2において、使用した皮膜材料は、アナターゼ型の酸化チタン(株式会社石原産業製ST-41)を用いた。一次粒子の平均粒径は200nmであった。
これを、下記のスプレードライ法によって造粒した。図5(b1)に造粒した粉末外観のSEM写真を示し、図5(b2)に粉末表面のSEM写真を示す。二次粒子の粒径は10〜45μmの範囲にした。図5(a2)(b2)の粉末表面のSEM写真からルチル型酸化チタンの一次粒子はアナターゼ型の一次粒子と比較して非常に細かいことがわかる。
【0031】
スプレードライヤーは、株式会社坂本技研製のディスク式の装置を用いて、固形分濃度25mass%,固形分1kgあたり,ポリビニルアルコール(PVA)添加量0.3kgで行った。スプレードライした粉末は、分級して粒度範囲10〜45μmにして使用した。これらの粉末のX線回折結果を後述する皮膜の結果とともに図10に示す。
【0032】
次に、実施例1,2におけるコールドスプレー法による成膜方法について示す。コールドスプレー装置は、ロシアOCPS社製のDYMET412kを使用した。成膜はスプレーガンを株式会社安川電機製の6軸多関節ロボットに取り付け、プログラムによる自動方式でコーティングを行った。スプレー条件は、作動ガス(プロセスガス)として空気を使用し、設定圧力0.5MPa,ヒータ設定はHighモード(噴出空気温度:450℃〜500℃),スプレー距離15mm,ステップ2mm,トラバース速度200mm/s,粉末供給量を1g/minにして成膜を行った。
【0033】
また、比較例1,2は、以下のように作製した。これは、高速フレーム溶射法(以下「HVOF溶射法」という)により成膜した。スルザーメテコ社製のダイヤモンドジェット溶射装置を用い、プロピレン−酸素を燃料ガスとして使用し、溶射距離175mm,ステップ3mm,トラバース速度750mm/s,粉末供給量を38g/minにして溶射を行った。
【0034】
実施例1,2及び比較例1,2について、下記の実験を行い、評価した。
(1)皮膜の付着状態
実施例及び比較例について、成膜後の光触媒プレートを精密切断機で15mm×10mmの大きさに切断して超音波洗浄した後、カーボン蒸着して観察及び分析を行った。観察及び分析は、日本電子株式会社製フィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA) JXA-8530Fを使用した。皮膜の結晶構造解析はブルカー・エイエックスエス株式会社製の粉末X線回折装置(D8 DISCOVER)で測定を行った。
図6にスプレーした固体基材外観の写真を示す。膜厚は、比較例1,2が15μm程度であったのに対して、実施例1,2は5μm程度であった。
図7(a1)(a2)に比較例1の表面のSEM写真、図7(b1)(b2)に比較例2の表面のSEM写真を示す。比較例1,2ともに凹凸があるもののほぼ均一な皮膜が得られている。
【0035】
図8(a1)に実施例1の表面のSEM写真(外観)、図8(a2)に実施例1の表面のSEM写真(拡大)を示す。また、図8(b1)に(a2)の写真(拡大)のエリアにおける固体基材(Al)のX線の強度分布を示し、図8(b2)に(a2)の写真(拡大)のエリアにおける皮膜材料(Ti)のX線の強度分布を示す。
図9(a1)に実施例2の表面のSEM写真(外観)、図9(a2)に実施例2の表面のSEM写真(拡大)を示す。また、図9(b1)に(a2)の写真(拡大)のエリアにおける固体基材(Al)のX線の強度分布を示し、図9(b2)に(a2)の写真(拡大)のエリアにおける皮膜材料(Ti)のX線の強度分布を示す。
この実施例1,2のSEM写真及びX線の強度分布から分かるように、皮膜材料(TiO2)が点在し、固体基材が所々露出しているのが分かる。また、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例1は粒状、実施例2は島状の表面形態となっており、付着している面積は実施例2の方が多くなっていることが観察される。コールドスプレーした皮膜の密着は機械的なアンカー効果によるものと推察され、切断,超音波洗浄を行っても脱落しない密着力が得られている。
【0036】
次に、図10に、皮膜のX線回折測定結果を示す。比較のために原料粉末の測定結果も併せて示す。実施例2のアナターゼ型(ST-41)のコールドスプレー皮膜はアナターゼ相のみのピークが認められるが、比較例2のHVOF溶射皮膜は、フレームの熱影響によって変態したルチル相のピークも認められる。ルチル型(MPT-623)を成膜した結果は、比較例1のHVOF溶射,実施例1のコールドスプレー両皮膜ともTiO2はルチル相のみのピークが認められる。アナターゼ相からなるTiO2は溶射の熱影響によって一部がルチル相に変態することが知られているが、用いた粉末はルチル相からなっているため結晶構造の変化は認められなかった。しかし、HVOF溶射皮膜のピークは,原料粉末と比較してシャープになっておりフレームの熱影響があることが推察された。
【0037】
(2)溶射皮膜の抗菌性
光触媒性能の評価として抗菌試験とガス分解実験を行った。抗菌試験は、JIS R 1702 ファインセラミックス-光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果に準じて試験を行った。光触媒プレートの大きさは50mm×50mmで、これをシャーレに入れて使用した。使用細菌はE. coli (大腸菌)で、1mlあたり約10万個の菌数に調整した菌液0.15mlに生理食塩水1mlを添加した溶液を光触媒プレート表面に滴下して、アナターゼ型光触媒(ST-41)はブラックライト(パナソニック株式会社製FL20S-BL-B)を、可視光応答型光触媒(MPT-623)は蛍光灯(東芝ライテック株式会社製FL20SD)をそれぞれ2本光源として2時間照射した。照明ランプと光触媒プレートの距離は100mmである。所定の時間照射後、菌液を回収して寒天培地で培養を行い、コロニー数から抗菌性の評価を行った。抗菌性はコロニー数が基材のみの結果と比較して100分の1以下となる場合に抗菌性有りと判定した。抗菌試験結果を図11に示す。レファレンスとして、成膜しない固体基材のみも試験を行った。
【0038】
この結果から、ブラックライトでの試験ではHVOF溶射で成膜した結果も示しているが、どちらの皮膜も菌は検出されなかった。コールドスプレーしたルチル型TiO2(MPT-623)皮膜の蛍光灯による試験でも菌数は、レファレンスの100分の1以下に減少しており、光触媒プレートの抗菌効果が認められた。これらのことから粒状の組織で皮膜が非常に薄いコールドスプレーしたルチル型TiO2(MPT-623)でも抗菌性を有していることが確認された。
【0039】
(3)溶射皮膜のガス分解性能
光触媒プレートの製品化のためには,光源をLEDとすれば、装置の小型化,長寿命化などのメリットがあると思われる。そこで光源を紫外線LED(波長365nm)及び可視光LED(波長405nm)とし、更にガス分解性能について検討を行った。
ガス分解実験装置を作製した(図示せず)。これは、容器として、内寸250mm×250mm×95mm(容量約6リットル)のアクリル製真空デシケータを使用し、この容器に光源となるランプと光触媒プレートを入れて密閉した試験を行った。使用した光源は波長405nm及び365nmのLEDライトである。
ガス分解評価試験では、アセトアルデヒドを使用した。試験ではアセトアルデヒド溶液をマイクロピペットにより15μl秤量したものを真空デシケータ内に固定したろ紙に滴下した。直後にフタを閉めて密閉容器内で自然に気化させた。初期濃度は約100ppmである。分解評価実験を行うにあたり、光触媒効果がでない状態、すなわちランプを点灯しない状態でデシケータ内のガス濃度を測定し、十分に気化及び吸着してデシケータ内のガス濃度が一定になる時間を調べたところ20minであった。そのためガス濃度変化は20min経過後から測定を行った。照明と光触媒プレート表面との距離は約30mmである。濃度測定には、株式会社ガステック製のガス検知管92Mを使用した。
【0040】
測定したガス濃度を下記の式で評価した。
In(C)/(C0)=-(t)/(τ)・・・・・・式
C0:初期濃度
C:各照射時間後の測定濃度
t:照明照射時間(s)
τ:光触媒特性値(s)
この式ではアセトアルデヒド濃度が初期濃度の1/eに分解する時間を光触媒評価値τと定義しているが、このτ値を用いて光触媒特性の評価を行った。このτ値が低いほど光触媒活性は高いことを示している。
【0041】
図12に、紫外線LEDでのアセトアルデヒドガス分解実験結果を示す。初期濃度は100ppmである。溶射していない基材のみをデシケータに入れた実験では,ガス濃度の変化は認められなかった。光触媒プレートは実施例及び比較例ともに濃度低下が認められた。ガス検知管で測定できなくなるまでの時間は、実施例2で1.8ks、比較例1で3ks、比較例2で3.6ks、実施例1で3ksとなり、実施例2のコールドスプレーしたアナターゼ型TiO2(ST-41)の皮膜の分解速度が速かった。
【0042】
図13に、光源を405nmのLEDにした場合の分解実験結果を示す。アナターゼ型TiO2(ST-41)は紫外光のみで光触媒反応が起こるため、このLEDではガス濃度変化は認められなかった。ルチル型TiO2(MPT-623)では、ガス濃度の減少が認められ、ガス検知管で測定できなくなるまでの時間は実施例1が5.4ks、比較例1が7.2ksとなり、わずかであるが実施例1の皮膜の分解速度が速かった。基材表面のSEM写真から基材への粉末付着量はHVOF溶射皮膜と比較してコールドスプレー皮膜の付着量が少ないことを考慮すれば、分解能力はコールドスプレー皮膜の方が高いといえる。
【0043】
図14には、今まで評価した条件での各皮膜の光触媒特性値τを示す。LEDに関しては、紫外線LEDのτ値が低くなっている。これは波長が短く光触媒皮膜表面がより光活性になったためである。紫外線LED下の試験では、コールドスプレーした実施例2のτ値が一番低く、これ以外はほぼ同等の結果となった。可視光LEDの結果は、コールドスプレー皮膜の方がHVOF溶射皮膜より低いτ値となっている。これらの結果からコールドスプレーによる光触媒皮膜の成膜は、低コストで光触媒材料を固定化できる有効な方法であると考えられる。
【0044】
上記の結果から考察すると、溶射法で光触媒活性の高いプレートを成膜するためには、フレームの熱影響をできるだけ抑えて、結晶型の変化や結晶粒の成長を抑えながら成膜することが重要である。アナターゼ型TiO2のHVOF溶射皮膜は、フレームによる熱影響でアナターゼ相から一部ルチル相への変態が認められた。熱影響のほとんど無いコールドスプレー法で成膜した皮膜はアナターゼ相のみからなっており、両者のガス分解特性を比較するとコールドスプレー法で成膜したプレートの分解速度が速かった。
【0045】
ルチル型TiO2の成膜では、コールドスプレー法による皮膜は、粒状組織となっていて、付着率は低いにもかかわらず、ガス分解特性はHVOF溶射した皮膜よりも少し高かった。X線回折の結果から周知のScherrerの式によって、実施例及び比較例の結晶子サイズを計算した。結果を図15に示す。アナターゼ相は(101)面,ルチル相は(110)面のピークから計算をしている。比較のために粉末の測定結果も併せて示す。アナターゼ型粉末の結晶子サイズは約50nmで成膜してもほとんど変化せず、また、溶射法による差はほとんどない。これに対してルチル型TiO2(MPT-623)は溶射法によって結晶子サイズに差が認められる。すなわち、原料粉末で14nmであったものが、比較例1のHVOF溶射皮膜では36nmと2倍以上大きくなっているのに対して、実施例1のコールドスプレー皮膜は15nmとほとんど変化していない。発明者らは一次粒径の異なるアナターゼ型TiO2の造粒粉末を種々の温度で熱処理して結晶構造変化を調べた。それによれば、一次粒径が小さいほどアナターゼからルチルへ結晶構造が変化する温度は低下し、また、変化する割合も大きくなる。結晶子サイズは小さいほど光触媒活性が高く、溶射による成膜ではフレームの熱影響による結晶粒成長や結晶構造の変化も少ないことが望ましい。光触媒皮膜の有害物質等の分解は、皮膜表面での接触部分でのみ反応が起きるため、皮膜厚さが薄くても十分であると考えられる。コールドスプレー皮膜組織は粒状となっていて、結晶粒成長や結晶型の変化を抑えながら光触媒材料を成膜する有効な方法である。
【符号の説明】
【0046】
1 低温溶射装置
2 主配管
3 ガス加熱器
4 枝配管
5 粉末供給装置
6 粉末投入管
7 スプレーノズル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15