(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下において、リニアモータ等の構成の説明の便宜上、上下左右等の方向を適宜使用する場合があるが、リニアモータ等の各構成の位置関係を限定するものではない。
【0014】
<1.リニアモータの構成>
図1を参照しつつ、本実施形態に係るリニアモータ1の全体構成の一例について説明する。
【0015】
図1に示すように、リニアモータ1は、固定子2と、可動方向(
図1に示すX軸正方向又は負方向)に移動する可動子3とを有する。リニアモータ1は、可動子3が界磁磁石37と電機子巻線38とを有しており、例えば長ストローク搬送用途に適合するリニアモータである。以下では、リニアモータ1がフラックススイッチング(Flux Switching)モータである場合を例にとって説明するが、これに限定されるものではない。例えば、リニアモータ1は、マグナギャップ(Magna Gap)モータや、HD(High Density)モータ等のインダクタ形リニアモータであってもよい。
【0016】
(1−2.固定子の構成)
固定子2は、複数の固定子ティース22(固定子歯の一例)を有する固定子鉄心21を備える。固定子鉄心21は、例えば複数枚の電磁鋼板を積層方向(
図1に示すY軸方向)に積層して形成されている。固定子鉄心21は、可動子3の上記可動方向に延びる長尺の固定子ベース23を有し、複数の固定子ティース22は、固定子ベース23の上記可動方向に沿って所定の間隔を空けて設けられている。各固定子ティース22は、固定子ベース23から可動子3に向けて突出した形状(例えば台形状)に形成されている。
【0017】
(1−3.可動子の構成)
可動子3は、
図1及び
図2に示すように、上記可動方向に沿って配置されたベース部30と、ベース部30に設けられた可動子鉄心31と、可動子鉄心31に設けられた複数の上記界磁磁石37及びこれと同数の上記電機子巻線38とを備える。可動子鉄心31は、例えば複数枚の電磁鋼板を上記積層方向に積層して形成されている。
【0018】
可動子鉄心31は、ヨーク部32と、複数のティース部33と、2つのサブティース部34とを備える。複数のティース部33は、ベース部30の固定子2側に可動方向に沿って設けられ、2つのサブティース部34は、複数のティース部33の可動方向両端に設けられている。ティース部33及びサブティース部34は、ヨーク部32から固定子2に向けて突出した形状に形成され、固定子ティース22と磁気的ギャップを空けて対向している。サブティース部34の可動方向に沿う幅は、ティース部33の可動方向に沿う幅よりも小さくなるように形成されている。ヨーク部32は、ベース部30の固定子2側に設けられ、複数のティース部33同士及びティース部33とサブティース部34とを固定子2とは反対側の位置で(この例では架橋部32aにより)接続する。
【0019】
ティース部33の可動方向略中央部には、ティース部33の固定子2側の端部からヨーク部32にかけて磁気的ギャップ方向(
図1に示すZ軸方向)に沿って形成された略矩形状の磁石挿入穴35が設けられている。磁石挿入穴35は、可動子鉄心31の幅方向(Y軸方向)に貫通する貫通穴である。また、隣り合うティース部33同士の間、及び隣り合うティース部33とサブティース部34の間には、ティース部33に巻回される電機子巻線38が収容されるスロット部36が形成されている。
【0020】
界磁磁石37は、磁石挿入穴35に挿入され、例えば接着剤により磁石挿入穴35に固定される。複数の界磁磁石37は、可動方向に隣り合う界磁磁石37を一対とした場合に、各対の2つの界磁磁石37の対向面が同極のN極(又はS極)の磁極となるような向きに磁化される。これにより、隣り合うティース部33の間に、N極又はS極の磁極部39が可動方向に沿って交互に形成される。電機子巻線38はティース部33の周囲にのみ巻回され、サブティース部34には巻回されない。ティース部33に巻回された電機子巻線38は上記スロット部36に収容され、ティース部33と共に樹脂でモールドされる。
【0021】
ティース部33には、スロット部36に第1穴部40が形成されている。第1穴部40は、可動子鉄心31の幅方向(Y軸方向)に貫通している。第1穴部40は、ティース部33の固定子2側の端部から離間した位置に形成されている。サブティース部34と隣接するティース部33には、第1穴部40はサブティース部34とは反対側のスロット部36にのみ形成され、サブティース部34側のスロット部36には形成されていない。
【0022】
なお、上記第1穴部40は、可動方向に凹んだ凹部とも言うことができる。すなわち、ティース部33は、上記凹部が可動方向両側に形成されることにより、固定子2側の端部の断面積よりも断面積が小さい細歯部33aを、磁気的ギャップ方向における中間部に有している。この細歯部33aは、可動方向の幅がティース33の固定子側の端部の幅よりも小さくなっている。そして、サブティース部34と隣接するティース部33の可動方向の幅は、サブティース部34に隣接しないティース部33の可動方向の幅と同じ、もしくはそれよりも広くなっている。
【0023】
第1穴部40は、電機子巻線38の無通電状態において、固定子2の固定子ティース22と磁気的ギャップ方向に対向したティース部33が第1穴部40の形成位置において界磁磁石37により実質的に磁気飽和するような大きさ、形状等となるように形成される。
【0024】
なお、第1穴部40は、この例では、上記磁気的ギャップ方向に長い略台形状に形成され、固定子2側の一辺40aが、ティース部33の可動方向の幅が固定子2側に向けて拡大するように傾斜している。このような形状により、界磁磁石37からの主磁束を固定子2側に誘導し易くなっている(後述の
図8参照)。
【0025】
ヨーク部32には、磁石挿入穴35の可動方向側に磁石挿入穴35と連通する第2穴部42が形成されている。第2穴部42は、可動子鉄心31の幅方向(Y軸方向)に貫通している。ただし、サブティース部34と隣接するティース部33の磁石挿入穴35については、サブティース部34とは反対側にのみ第2穴部42が形成され、サブティース部34側には第2穴部42が形成されていない。
【0026】
第2穴部42は、電機子巻線38の無通電状態において、固定子2の固定子ティース22と磁気的ギャップ方向に対向したティース部33が第2穴部42と第1穴部40との間(
図2に示すA部)において界磁磁石37により実質的に磁気飽和するような大きさ、形状等となるように形成される。
【0027】
なお、第2穴部42は、この例では上記磁気的ギャップ方向に長い略台形状に形成され、第2穴部42の固定子2側の一辺42aは、第2穴部42が固定子2側に向けて小さくなるように傾斜している。このような形状により、界磁磁石37からの主磁束を固定子2側に誘導し易くなっている(後述の
図8参照)。
【0028】
なお、
図1及び
図2等では、可動子鉄心31のヨーク部32や複数のティース部33、サブティース部34が一体に形成された場合を一例として図示しているが、例えば可動子鉄心31を各ティース部ごとに分割可能に構成してもよい。
【0029】
<2.センサレス制御の具体例>
図3は、上記リニアモータ1に対してセンサレス制御により速度制御を行うリニアモータの制御システム100及び制御装置300の構成の一例を表している。なお、
図3に示す機能ブロック図は伝達関数形式で表記されている。この
図3において、制御システム100は、リニアモータ1と、制御装置300とを有する。制御装置300は、q軸に負荷電流を付与し、d軸に高周波電圧を付与する。以下、より具体的に機能ブロックで実装した例を説明する。
【0030】
制御装置300は、減算器321と、ベクトル制御器322と、電圧制御器323と、電流検出器324と、矩形波電圧発生器325と、座標変換器326と、磁極位置演算器327と、速度演算器328とを備えている。
【0031】
この
図3では示していない上位制御装置から、リニアモータ1の駆動を制御するための磁束指令値と速度指令値ωr*が入力されている。速度指令値ωr*は、減算器321により後述する速度推定値ωr^との偏差が取られる。この偏差と磁束指令値がベクトル制御器322に入力される。ベクトル制御器322は、負荷状態によらず速度推定値ωr^が速度指令値ωr*に一致するようにモータ電流の磁束成分(d軸成分)とトルク成分(q軸成分)とを定めて、リニアモータ1の速度及び電流を制御するための電圧指令値を回転直交座標系(d−q軸座標系)における2相電圧指令値ΔVsd*,ΔVsq*として出力する。電圧制御器323(負荷電流付与部の一例)は、入力された2相電圧指令値ΔVsd*,ΔVsq*に基づいて、リニアモータ1に3相駆動電圧を出力する。これにより制御装置300は、任意の速度とそれに対応するトルクでリニアモータ1を駆動制御できる(位置制御も行うが図示を省略)。
【0032】
また一方、図示していない上位制御装置から、磁極位置検出制御信号が矩形波電圧発生器325に入力される。磁極位置検出制御信号を入力された矩形波電圧発生器325(高周波電圧付与部の一例)は、任意に設定した時間周期の矩形波電圧(高周波電圧の一例)で電圧指令ΔVhと位相指令Δθhを出力する。これら電圧指令ΔVhと位相指令Δθhが、電圧制御器323内で上記の電圧指令値ΔVsd*に重畳されることで、d軸に高周波電圧が付与される。このようにして、電圧制御器323はリニアモータ1に出力する電圧の振幅と位相を操作する。
【0033】
電流検出器324は、リニアモータ1に入力される電流を3相iu,iv,iwそれぞれで検出する。座標変換器326は、これら3相電流値iu,iv,iwを、2相電流値isα、isβに変換する。これら2相電流値isα,isβは、u相を基準軸のα軸としてそれに直交するβ軸との直交座標系における各軸の電流値である。ここで、リニアモータ1のd軸とq軸のそれぞれのインダクタンスに偏差がある場合、すなわち、当該リニアモータ1が磁気突極性を有する場合、この2相電流値isα,isβの振幅は磁極位置xの情報を含んでいる。磁極位置演算器327は、上記矩形波電圧発生器325から出力された電圧指令ΔVhを参照しつつ、2相電流値isα,isβに基づいてリニアモータ1の磁極位置xを演算し出力する。この磁極位置xの演算手法については、公知の手法に従って行えばよく(例えば特開2010−172080号公報参照)、ここでは詳細な説明を省略する。
【0034】
磁極位置演算器327が出力する磁極位置信号xは、電圧制御器323に入力されるとともに、速度演算器328にも入力される。速度演算器328は、磁極位置xを微分演算することでリニアモータ1の推定速度ωr^を演算する。この速度推定値ωr^は、上記減算器321で速度指令値ωr*から減算して偏差を取ることで、速度フィードバック制御に利用される。そして、特に図示しないが、磁極位置xはU相を基準としたリニアモータ1の回転位置としてみなすことができ、上位制御装置内でこの磁極位置信号xを利用した位置フィードバック制御も行う。以上から、リニアモータ1の磁極位置xを高い精度で検出するためには、リニアモータ1の磁気突極性が高いことが要求される。
【0035】
なお、上記では、探査信号である矩形波電圧をd軸(電圧指令値ΔVsd*)に重畳し、q軸成分だけに負荷交流電流を入力(d軸成分には磁束成分だけ入力)したが、これに限定されない。負荷交流電流についてはq軸成分だけに入力すべきだが、探査信号はq軸あるいはd軸とq軸の両方に重畳入力してもよい。しかし、q軸に高周波電圧信号を重畳すると駆動に必要な電圧の低下やトルク脈動を生じさせる原因となるため、できるだけd軸だけに探査信号を重畳入力するのが望ましい。また、上記リニアモータ1のd軸、q軸インダクタンスは、基本波電流に対するインダクタンスではなく、高周波重畳電圧信号とそれに対応する電流から定義される高周波インダクタンスのことであり、以後の説明でも高周波インダクタンスを単にインダクタンスと呼ぶ。
【0036】
なお、上述した電圧制御器323、矩形波電圧発生器325等における処理等は、これらの処理の分担の例に限定されるものではなく、例えば、1つの処理部で処理されてもよく、また、更に細分化された処理部により処理されてもよい。また、制御装置300は、矩形波電圧発生器325のリニアモータ1に駆動電力を給電する部分(インバータ等)のみ実際の装置により実装され、その他の機能は後述するCPU901(
図11参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、電圧制御器323及び矩形波電圧発生器325の一部又は全部がASICやFPGA907(
図11参照)、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0037】
<3.リニアモータの可動方向断面における磁極配置>
次に、
図4用いて可動方向断面における可動子3の磁極配置について説明する。上述のように本実施形態のリニアモータ1は、可動子3が複数のティース部33及び複数の磁極部39を備えた構成となっている。
【0038】
この例では、可動子3の同相における隣り合う2つのティース部33どうしでは、電機子巻線38の巻回方向が互いに逆向きとなっている。そして、隣り合う2つのティース部33が一つの組となって同一の電流相に対応する。また各組の単位で可動方向(この例ではX軸負の方向)に沿って順にU,V,Wの電流相が配置されている。つまり、隣り合う2組のティース部33どうしは、電気的に120°ずれた位相差で交番磁界が発生する(但し、可動子3の可動に伴い後述するd軸とq軸の移動に応じて各相の振幅は変化する)。ティース部33を12個(6組)備える本実施形態の可動子3においては、供給される3相交流の各相U,V,Wにそれぞれ2組のティース部33部が対応する。
【0039】
また、複数の界磁磁石37は、同相における隣り合う2つの界磁磁石37どうしが互いに向かい合う方向(図中の矢印ブロックの方向)で着磁されている。これにより、N極どうしが向かい合う位置の磁極部39は、N型磁極部39Nとなる。また、S極どうしが向かい合う位置の磁極部39は、S型磁極部39Sとなる。これらN型磁極部39NとS型磁極部39Sは、可動子鉄心31の可動方向に沿って交互に配置される。
【0040】
電機子巻線に磁石磁束が最も鎖交する固定子ティース22の中心位置をd軸位置とし、d軸位置から電気角で90度ずれた方向に伸びる軸(磁石磁束が最も鎖交しない固定子ティース22の位置)をq軸とする。
図4においては、W相の可動子ティース部33と固定子ティース22が対向し、W相の電機子巻線に磁石磁束が最も鎖交するので、この固定子ティース22の中心をd軸とする。
【0041】
<4.リニアモータの可動方向断面における磁束分布>
図5及び
図6は、以上のような磁極配置のリニアモータ1における、磁束の発生分布を表している。三相交流モータでは、U,V,Wの各相に互いに120°の位相差を持つ交流電流を印加するが、
図5及び
図6では、U,V,Wの各相に電流を印可してない状態の磁束分布を示している。
【0042】
図5に示す例は、可動子3が移動している最中に、2つのU相それぞれの2つのティース部33が固定子2の2つの固定子ティース22と略対向した位置にあり、U相それぞれがd軸と略一致する状態を示している。この場合、2つのV相と2つのW相それぞれの2つのティース部33は、固定子2の2つの固定子ティース22の略中間位置にあり、V相とW相はq軸から電気角で略30°ずれた位置にあり、q軸位置に近い位置にある。
【0043】
このU相がd軸と一致した状態では、U相の一方の界磁磁石37から出た磁束が一方のティース部33から固定子2の一方の固定子ティース22に入り、固定子鉄心21を通って他方の固定子ティース22から他方のティース部33に入り、他方の界磁磁石37に流入する磁路が形成される。この磁路中、ティース部33のA部の位置で第1穴部40による断面積の減少により磁気飽和する。これにより、U相のd軸インダクタンスLdが低下する。さらに、U相の他方の界磁磁石37から架橋部32a(後述の
図8参照)を介して一方の界磁磁石37に流入する漏れ磁束の磁路において、ティース部33のB部の位置で第1穴部40及び第2穴部42による断面積の減少により磁気飽和する。これにより、U相のd軸インダクタンスLdがさらに低下する。
【0044】
同様に、可動子3の移動に伴いV相がd軸と略一致すると、V相のd軸のインダクタンスLdが低下し、W相がd軸と略一致すると、W相のd軸のインダクタンスLdが低下する。
【0045】
図6に示す例は、可動子3が移動している最中に、2つのU相それぞれの2つのティース部33が固定子2の2つの固定子ティース22の中間位置に対向した位置にあり、U相がq軸と略一致する状態を示している。この場合、V相とW相はd軸位置から電気角で略30°ずれた位置にあり、d軸位置に近い位置にある。
【0046】
このU相がq軸と一致した状態では、U相の一方の界磁磁石37から出た磁束が固定子2の固定子鉄心21を通り他方の界磁磁石37に流入する磁気回路が形成されない。このため、ティース部33のA部の位置で第1穴部40による断面積の減少があっても磁気飽和が緩和し、ティース部33のB部の位置で第1穴部40及び第2穴部42による断面積の減少があっても磁気飽和が緩和する。これにより、U相のq軸のインダクタンスLqが増大する。
【0047】
同様に、可動子3の移動に伴いV相がq軸と略一致すると、V相のq軸のインダクタンスLqが増大し、W相がq軸と略一致すると、W相のq軸のインダクタンスLqが増大する。
【0048】
以上を総合すると、d軸方向のティース部33は一定磁束により全体的に磁気飽和し、重畳電圧により発生する磁束が通りにくくなる(d軸インダクタンスが低下する)。一方、q軸近傍のティース部33では、磁気飽和しないため、重畳電圧により発生する磁束はd軸方向のティース部33よりも通りやすくなる(q軸インダクタンスが大きくなる)。
【0049】
<5.第1穴部、第2穴部の形成による磁極突極比への影響>
可動子3の磁極突極比(「磁気突極比」ともいう)をρ、q軸のインダクタンスをLq、d軸のインダクタンスをLdとすると、
ρ=Lq/Ld ・・・(1)
の関係となる。上述したように、センサレス制御においてリニアモータ1の磁極位置xを高い精度で検出するためには、当該可動子3における磁極突極比ρが高いことが要求される。
【0050】
ここで、インダクタンスLは、磁束φと電流iより、式(2)で定義され、電流に対する発生磁束が多いほどインダクタンスが大きくなる。
φ=Li ・・・(2)
また、電圧v、電流iとインダクタンスLの関係は式(3)で表されるため、一定の交流電圧に対して、インダクタンスが小さいほど交流電流の時間的偏差が大きくなる。
v=dφ/dt=Ldi/dt ・・・(3)
以上のインダクタンスの性質を利用し、センサレス制御では、矩形波電圧発生器325から出力される矩形波電圧(高周波電圧の一例)を2相電圧指令値ΔVsd*,ΔVsq*に重畳し、d軸とq軸の間のインダクタンス偏差により生じる2相電流値isα,isβの振幅偏差に基づいて磁極位置xを推定する。
【0051】
本実施形態の例では、瞬時電流値が0となっている相(
図5に示す例ではU相)に一致するd軸方向のティース部33が最も磁気飽和し易く、すなわち最もインダクタンスの小さいd軸となる。また、瞬時電流値が流れている相(
図5に示す例ではV相、W相)のq軸方向近傍のティース部33が磁気飽和しにくく、すなわちインダクタンスの大きいq軸となる。可動子3全体におけるd軸インダクタンスLd((1)式の分母)とq軸インダクタンスLq((1)式の分子)は、それぞれ複数のコイルによるd軸インダクタンスの総量、複数のコイルによるq軸インダクタンスの総量となる。
【0052】
可動子3に駆動トルクを与えるには、q軸成分の負荷電流だけを印加させればよい(d軸成分はトルクには影響しない)。しかし、q軸成分の負荷電流を大きく増加すると、可動子鉄心31の磁気飽和が大きくなり、可動子鉄心形状に起因する磁極突極比ρが低下する。すなわち、リニアモータ1の磁極位置xの検出精度が低下してしまう。
【0053】
これに対し、リニアモータ1の磁極突極比ρを高めるために、ティース部33の磁気飽和を利用することで、磁極突極比ρを高めることができる。すなわち、瞬時電流値が0となっている相(
図5に示す例ではU相)に一致するd軸のインダクタンスをさらに小さくし、瞬時電流値が流れている2つの相(
図5に示す例ではV相、W相)のq軸のインダクタンスをさらに大きくすればよい。
【0054】
このために本実施形態では、可動子3の各電機子巻線38の無通電状態(以下適宜「無負荷状態」ともいう)において、固定子2の固定子ティース22に対向したティース部33が界磁磁石37からの一定磁束のみにより実質的に磁気飽和するよう、各ティース部33が構成される。その具体的な手段として、固定子ティース22と対向したティース部33が実質的に磁気飽和するように、各ティース部33のスロット部36に第1穴部40が形成されている。これにより、ティース部33の第1穴部40の形成部分における断面積を減少させることができる。そして、第1穴部40は、電機子巻線38の無通電状態において、磁極部39と対向したティース部33が第1穴部40の形成位置において界磁磁石37により実質的に磁気飽和するように、可動方向の寸法や形状等を設定されている。これにより、電機子巻線38の無通電状態において磁極部39と対向したティース部33の第1穴部40の形成部分における界磁磁石37による磁束密度を増大させ、実質的に磁気飽和させることが可能となる。これにより、d軸インダクタンスを小さく抑えることができる。
【0055】
ここで、一般的にティース部33を構成する電磁鋼板は、
図7のB−H曲線に示すような磁気飽和特性を有している。すなわち、電磁鋼板にかける磁界強度を0から次第に増加させた場合、磁界強度が低いうちはそれにほぼ比例するように磁束密度が上昇する。しかし、磁界強度をある程度以上に増加させると、磁束密度の上昇率は低下し、最後にはほとんど磁束密度が上昇しなくなる。本実施形態では、磁束密度が例えば1.9T(テスラ)以上となった状態を、「実質的に磁気飽和」した状態とする。なお、実質的に磁気飽和した状態の磁束密度はこの値に限定されるものではなく、ティース部33を構成する材質等に応じて適宜変更される。
【0056】
これにより、瞬時電流値が0となっている相(
図5に示す例ではU相)に一致するd軸位置では、固定子ティース22に対向するティース部33が界磁磁石37からの一定磁束線だけでほぼ磁気飽和して(磁束の通過余裕をなくして)インダクタンスを最小にできる。すなわち、可動子3全体のd軸のインダクタンスの総量Ldを小さくできる。また、瞬時電流値が流れている2つの相(
図5に示す例ではV相、W相)のq軸位置近傍では、2つの固定子ティース22の中間位置に対向するティース部33が磁気飽和を弱めてインダクタンスを増加できる。すなわち、可動子3全体のq軸のインダクタンスの総量Lqを大きくできる。以上により、上記(1)式の右辺の分母(Ld)を小さくし、右辺の分子(Lq)を大きく取れるため、可動子3の磁極突極比ρを高めることができる。
【0057】
<6.実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態のリニアモータ1は、可動子3が界磁磁石37と電機子巻線38を備えるリニアモータである。その可動子3の複数のティース部33には、電機子巻線38が収容されるスロット部36に第1穴部40が形成されるので、第1穴部40の形成部分におけるティース部33の断面積を減少させることができる。これにより、電機子巻線38の無通電状態において固定子2の固定子ティース22と磁気的ギャップ方向に対向したティース部33の上記穴部40の形成部分における界磁磁石37による磁束密度を増大させ、実質的に磁気飽和させることが可能となる。これにより、d軸インダクタンスLdを小さく抑えることができる。したがって、高い突極比を得ることができるので、センサレス化が可能となる。
【0058】
また、本実施形態では特に、第1穴部40は、ティース部33の固定子2側の端部から離間した位置に形成される。これにより、ティース部33の固定子2と対向するギャップ面積を確保でき、推力特性の低下を抑制できる。
【0059】
また、本実施形態では特に、可動子鉄心31は、可動方向における両端位置に電機子巻線38が巻回されないサブティース部34を有し、サブティース部34と隣接するティース部33は、サブティース部34とは反対側のスロット部36にのみ上記第1穴部40が形成される。これにより、次の効果を奏する。
【0060】
すなわち、可動子鉄心31の両端位置にサブティース部34を設けるので、コギング推力を低減できる。また、複数のティース部33のうちサブティース部34と隣接するティース部33については、サブティース部34とは反対側のスロット部36にのみ第1穴部40を形成し、サブティース部34側のスロット部36には第1穴部40を形成しないので、サブティース部34を通る磁束を増加させることができ、コギング低減効果を確保できる。
【0061】
また、本実施形態では特に、第1穴部40は、電機子巻線38の無通電状態において、固定子2の固定子ティース22と磁気的ギャップ方向に対向したティース部33が第1穴部40の形成位置において界磁磁石37により実質的に磁気飽和するように形成される。
【0062】
これにより、d軸インダクタンスLdを小さく抑え、高い突極比を得ることができるので、センサレス化を実現できる。
【0063】
また、本実施形態では特に、可動子鉄心31は、スロット部36の固定子2とは反対側に位置し、複数のティース部33を接続するヨーク部32と、複数のティース部33の各々においてティース部33からヨーク部32にかけて磁気的ギャップ方向に沿って形成され、界磁磁石37が挿入される磁石挿入穴35と、ヨーク部32において磁石挿入穴35の可動方向側に形成された第2穴部42と、を有する。これにより、次の効果を奏する。
【0064】
すなわち、第2穴部42を磁石挿入穴35の可動方向側に形成することにより、
図8に示すように、ヨーク部32において磁石挿入穴35の固定子2側とは反対側の架橋部32aを流れる漏れ磁束を低減することが可能となるので、モータ特性を向上できる。
【0065】
また、本実施形態では特に、第2穴部42は、磁石挿入穴35の固定子2側とは反対側の端部に連通して形成される。
【0066】
このように、第2穴部42を磁石挿入穴35に連通して形成することで、架橋部32aの長さを長くすることが可能となるので、漏れ磁束の低減効果を高めることができる。
【0067】
また、本実施形態では特に、サブティース部34と隣接するティース部33の磁石挿入穴35は、サブティース部34とは反対側にのみ第2穴部42が形成される。
【0068】
本実施形態では、このように、複数のティース部33のうちサブティース部34と隣接するティース部33の磁石挿入穴35については、サブティース部34とは反対側にのみ第2穴部42を形成し、サブティース部34側には第2穴部42を形成しないので、サブティース部34を通る磁束を増加させることができる。したがって、サブティース部34によるコギング低減効果を確保できる。
【0069】
また、本実施形態では特に、第2穴部42は、電機子巻線38の無通電状態において、固定子2の固定子ティース22と磁気的ギャップ方向に対向したティース部33が第2穴部42と第1穴部40との間において界磁磁石37により実質的に磁気飽和するように形成される。
【0070】
本実施形態では、このように、第1穴部40による磁気飽和効果と第2穴部42による磁気飽和効果との相乗効果により、d軸インダクタンスLdをさらに小さくすることが可能となるので、突極比をさらに高めることができる。
【0071】
(6−1.シミュレーション結果)
次に、上述した本実施形態の効果について、シミュレーション結果を用いて説明する。
図9Aは、ティース部33に穴部がない比較例における高周波インダクタンス変化の結果を表し、
図9Bは、ティース部33に穴部(第1穴部40及び第2穴部42)がある本実施形態における高周波インダクタンス変化の結果を表している。高周波インダクタンス変化は、電機子巻線38の無負荷状態で、U−V相間に探査信号を重畳入力した場合の高周波インダクタンス変化である。なお、図の横軸は、電気角範囲360°に渡る可動子位置である。また図の縦軸は、高周波インダクタンスであり、高周波電圧信号により発生する高周波磁束の通りやすさに相当する。
図9Aにおいて、◇印でプロットした曲線は、U相のインダクタンス変化であり、■印でプロットした曲線は、V相のインダクタンス変化であり、▲印でプロットした曲線は、U相とV相のインダクタンスを足し合わせたU−V相インダクタンス変化である。
【0072】
比較例では、
図9Aに示すように、U相、V相ともd軸の高周波インダクタンスは略正弦波状に変化するが、それらの振幅の変化は比較的少ない。この正弦波のうちの最小値に対する最大値の比(最大値/最小値)が磁極突極比ρに相当する。つまり正弦波の振幅が大きいほど磁極突極比ρが高い。比較例の場合には、図示するように、U相、V相とも磁極突極比ρが約1.1となり小さいことが分かる。
【0073】
本実施形態では、
図9Bに示すように、U相、V相ともd軸の高周波インダクタンスは略正弦波状に変化し、それらの振幅の変化は比較的大きい。本実施形態の場合には、図示するように、U相、V相とも磁極突極比ρが約1.4となり、上記比較例に比べて大幅に大きくできることが分かる。
【0074】
図10Aは、ティース部33の穴部の有無等の可動子鉄心31の条件の違いによるコギング推力の変化を表す曲線であり、
図10Bは、上記可動子鉄心31の条件及び最大コギング推力を表す表である。なお、
図10Aの横軸は、上記
図9A,
図9Bと同様、電気角範囲360°に渡る可動子位置である。また図の縦軸は、0を中心とした可動方向一方側への正のコギング推力及び可動方向他方側への負のコギング推力を表す。
【0075】
図10Bに示すように、タイプAは、可動子鉄心31の複数のティース部33の全てのスロット部36に穴部(第1穴部40)があるが、複数のティース部33の可動方向両端のサブティース部がない比較例の場合、タイプBは、可動子鉄心31の複数のティース部33の可動方向両端にサブティース部34があり、穴部(第1穴部40)が全てのティース部33のスロット部36だけでなくサブティース部34側のスロット部36にもある比較例の場合、タイプCは、可動子鉄心31の複数のティース部33の可動方向両端にサブティース部34があり、穴部(第1穴部40)が全てのティース部33にはあるがサブティース部34側のスロット部36にはない本実施形態の場合である。
【0076】
タイプAでは、可動方向両端にサブティース部34がないので、可動方向両端のサブティース部34によるコギング低減効果が得られない。このため、タイプAでは、
図10Aに示すように、可動子位置の移動に対するコギング推力の変動が大きく、コギング推力の最大幅(ピーク・トゥ・ピーク値)は、
図10Bに示すように、25.2[N]もの大きな値を示した。タイプBでは、可動方向両端にサブティース部34があるので、可動方向両端のサブティース部34によるコギング低減効果があるものの、サブティース部34側のスロット部36に第1穴部40があるため、第1穴部40がサブティース部34に磁束が流れるのを低減し、可動方向両端のサブティース部34によるコギング低減効果が十分発揮されない。このため、タイプBでは、
図10Aに示すように、可動子位置の移動に対するコギング推力の変動が比較的大きく、コギング推力の最大幅は、
図10Bに示すように、7.2[N]の比較的大きな値を示した。タイプCでは、サブティース部34側のスロット部36には第1穴部40を形成しないので、第1穴部40がサブティース部34に流れる磁束が低減するのを防止でき、コギング低減効果を確保できる。このため、タイプCでは、
図10Aに示すように、可動子位置の移動に対するコギング推力の変動が小さく、コギング推力の最大幅は、
図10Bに示すように、4.9[N]の小さな値を示した。以上から、本実施形態の構成により、最も大きなコギング低減効果が得られることが分かる。
【0077】
なお、以上既に述べた以外にも、上記実施形態による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0078】
<7.制御装置のハードウェア構成例>
次に、
図11を参照しつつ、上記で説明したCPU901が実行するプログラムにより実装された電圧制御器323や矩形波電圧発生器325等による処理を実現する制御装置300のハードウェア構成例について説明する。なお、
図11中では、制御装置300のリニアモータ1に駆動電力を給電する機能に係る構成を適宜省略して図示している。
【0079】
図11に示すように、制御装置300は、例えば、CPU901と、ROM903、RAM905と、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築された専用集積回路907と、入力装置913と、出力装置915と、ストレージ装置917と、ドライブ919と、接続ポート921と、通信装置923とを有する。これらの構成は、バス909や入出力インターフェース911を介し相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0080】
プログラムは、例えば、ROM903やRAM905、ストレージ装置917等の記録装置に記録しておくことができる。
【0081】
また、プログラムは、例えば、フレキシブルディスクなどの磁気ディスク、各種のCD・MOディスク・DVD等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記憶媒体925に、一時的又は永続的に記録しておくこともできる。このようなリムーバブル記憶媒体925は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらのリムーバブル記憶媒体925に記録されたプログラムは、ドライブ919により読み出されて、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置に記録されてもよい。
【0082】
また、プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LANやインターネット等のネットワークNWを介し転送され、通信装置923がこのプログラムを受信する。そして、通信装置923が受信したプログラムは、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置に記録されてもよい。
【0083】
また、プログラムは、例えば、適宜の外部接続機器927に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、適宜の接続ポート921を介し転送され、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置に記録されてもよい。
【0084】
そして、CPU901が、上記記録装置に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記の電圧制御器323や矩形波電圧発生器325等による処理(例えば、d軸及びq軸の少なくとも一方に高周波電圧を付与するステップと、q軸に負荷電流を付与するステップ等)が実現される。この際、CPU901は、例えば、上記記録装置からプログラムを、直接読み出して実行してもよく、RAM905に一旦ロードした上で実行してもよい。更にCPU901は、例えば、プログラムを通信装置923やドライブ919、接続ポート921を介し受信する場合、受信したプログラムを記録装置に記録せずに直接実行してもよい。
【0085】
また、CPU901は、必要に応じて、例えばマウス・キーボード・マイク(図示せず)等の入力装置913から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0086】
そして、CPU901は、上記の処理を実行した結果を、例えば表示装置や音声出力装置等の出力装置915から出力してもよく、さらにCPU901は、必要に応じてこの処理結果を通信装置923や接続ポート921を介し送信してもよく、上記記録装置やリムーバブル記憶媒体925に記録させてもよい。