特許第6304631号(P6304631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6304631
(24)【登録日】2018年3月16日
(45)【発行日】2018年4月4日
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20180326BHJP
【FI】
   A63B37/00 648
   A63B37/00 650
   A63B37/00 136
   A63B37/00 328
   A63B37/00 332
   A63B37/00 644
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-133826(P2014-133826)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-10564(P2016-10564A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】三村 耕平
(72)【発明者】
【氏名】佐嶌 隆弘
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−75600(JP,A)
【文献】 特開2006−142012(JP,A)
【文献】 特開2004−290614(JP,A)
【文献】 特開2003−290390(JP,A)
【文献】 米国特許第5846141(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、このコアの外側に位置するカバーとを備えており、
その表面に多数のディンプルを有しており、
上記カバーのショアD硬度が30以上50以下であり、
初荷重が98Nであり終荷重が1274Nである条件で測定された圧縮変形量が3.0mm以上5.0mm以下であり、
下記数式(I)を満たすゴルフボール。
0.80 ≦ ((L1 + L2) / 2) ≦ 0.95 (I)
(この数式において、L1はレイノルズ数が1.290×10でありスピンレートが2820rpmである条件で測定された揚力係数CL1の抗力係数CD1に対する比(CL1/CD1)を表し、L2はレイノルズ数が1.771×10でありスピンレートが2940rpmである条件で測定された揚力係数CL2の抗力係数CD2に対する比(CL2/CD2)を表す。)
【請求項2】
上記ディンプルの総容積が430mm以上580mm以下である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記カバーの厚みが0.3mm以上1.8mm以下である請求項1又は2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記比L1が0.85以上0.93以下である請求項1から3のいずれかに記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記比L2が0.76以上0.92以下である請求項1から4のいずれかに記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、ゴルフボールの空力特性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールは、その表面に多数のディンプルを備えている。ディンプルは、飛行時のゴルフボール周りの空気の流れを乱し、乱流剥離を起こさせる。この現象は、「乱流化」と称される。乱流化によって空気のゴルフボールからの剥離点が後方にシフトし、抗力が低減される。乱流化によってバックスピンに起因するゴルフボールの上側剥離点と下側剥離点とのズレが助長され、ゴルフボールに作用する揚力が高められる。優れたディンプルは、よりよく空気の流れを乱す。優れたディンプルは、大きな飛距離を生む。
【0003】
ゴルフプレーヤーは、自らが使用するゴルフボールの銘柄を選ぶことができる。ゴルフの競技では、あるプレーヤーの使用するゴルフボールの銘柄が、他のプレーヤーのそれとは異なることがある。この点において、ゴルフは珍しい球技である。
【0004】
ゴルフは、プレーヤーの技量を競う競技であるべきである。プレーヤーの成績がゴルフボールの銘柄に大きく異存することは、好ましくない。この観点から、米国ゴルフ協会(USGA)は、ゴルフボールの特性に関する種々のルールを定めている。例えば、質量、直径、初速、飛距離及び対称性に関するルールが、定められている。
【0005】
このルールに適合しつつ、プレーヤーに満足を与えうるゴルフボールが、種々提案されている。
【0006】
特開平5−103846号公報には、適正化された直径、深さ及び個数を有するディンプルを備えたゴルフボールが開示されている。
【0007】
特開平10−43342号公報には、直径と深さとの比が適正化されたディンプルを有するゴルフボールが開示されている。
【0008】
特開平10−43343号公報には、ボールの体積に対するディンプルの体積の比率が適正化されたゴルフボールが開示されている。
【0009】
特開2000−107338公報には、その直径と質量とが適正化されたゴルフボールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−103846号公報
【特許文献2】特開平10−43342号公報
【特許文献3】特開平10−43343号公報
【特許文献4】特開2000−107338公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ゴルフボール及びゴルフクラブの技術革新は、めざましい。近年のツアー競技において、ティショットの平均飛距離は増大しつつある。この大きな飛距離は、セカンドショットを容易にする。この大きな飛距離は、競技に対する大衆の興味を損なう。
【0012】
USGAは、飛距離に関するルールを変更する予定である。競技に参加するプロのプレーヤーのヘッド速度は、大きい。USGAは、大きなヘッド速度で打撃されたときの飛距離について、規制を強化するであろう。
【0013】
一方、低いヘッド速度で打撃されたときの飛距離は、規制されていない。アマチュアのプレーヤーは、さらなる飛距離を望んでいる。USGAのルールに適合しているにもかかわらず、低いヘッド速度で打撃されたときの飛距離が大きいゴルフボールが、望まれている。
【0014】
プレーヤーにとって、飛距離と共に、フィーリングも重要である。プレーヤーは、打撃フィーリング及び弾道フィーリングを重視する。プレーヤーは、ソフトな打撃フィーリングを好む。プレーヤーはさらに、高い弾道を好む。
【0015】
本発明の目的は、ヘッドスピードの遅いプレーヤーに満足を与えるゴルフボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るゴルフボールは、コアと、このコアの外側に位置するカバーとを備える。このゴルフボールは、その表面に多数のディンプルを有する。カバーのショアD硬度は、30以上50以下である。このゴルフボールの、初荷重が98Nであり終荷重が1274Nである条件で測定された圧縮変形量は、3.0mm以上5.0mm以下である。このゴルフボールは、下記数式(I)を満たす。
0.80 ≦ ((L1 + L2) / 2) ≦ 0.95 (I)
この数式においてL1は、レイノルズ数が1.290×10でありスピンレートが2820rpmである条件で測定された、揚力係数CL1の抗力係数CD1に対する比(CL1/CD1)を表す。この数式においてL2は、レイノルズ数が1.771×10でありスピンレートが2940rpmである条件で測定された、揚力係数CL2の抗力係数CD2に対する比(CL2/CD2)を表す。
【0017】
好ましくは、ディンプルの総容積は、430mm以上580mm以下である。
【0018】
好ましくは、カバーの厚みは、0.3mm以上1.8mm以下である。
【0019】
好ましくは、比L1は、0.85以上0.93以下である。好ましくは、比L2は、0.76以上0.92以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るゴルフボールでは、ヘッド速度が遅いプレーヤーに打撃されたときに、十分な飛距離が得られる。このゴルフボールは、ヘッド速度が遅いプレーヤーに、好ましいフィーリングを与える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された断面図である。
図2図2は、図1のゴルフボールが示された拡大正面図である。
図3図3は、図2のゴルフボールが示された平面図である。
図4図4は、図1のゴルフボールの一部が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール2が示された一部切り欠き断面図である。このゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置するカバー6とを備えている。コア4は、球状のセンター8と、このセンター8の外側に位置する中間層10とを備えている。このゴルフボール2は、カバー6の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。さらにこのゴルフボール2は、その表面に多数のディンプル12を備えている。ゴルフボール2の表面のうちディンプル12以外の部分は、ランド14である。ゴルフボール2が、センター8と中間層10との間に、他の層を備えてもよい。ゴルフボール2が、中間層10とカバー6との間に、他の層を備えてもよい。
【0024】
このゴルフボール2の直径は、40mm以上45mm以下が好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0025】
センター8は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。好ましい基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及び天然ゴムが例示される。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合、ポリブタジエンが主成分であることが好ましい。具体的には、全基材ゴムに対するポリブタジエンの比率は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。シス−1,4結合の比率が80%以上であるポリブタジエンが、特に好ましい。
【0026】
センター8のゴム組成物は、好ましくは、共架橋剤を含む。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸の、1価又は2価の金属塩である。好ましい共架橋剤として、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムが例示される。反発性能の観点から、アクリル酸亜鉛及びメタクリル酸亜鉛が特に好ましい。
【0027】
ゴム組成物が、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸と、酸化金属とを含んでもよい。両者はゴム組成物中で反応し、塩が得られる。この塩が、共架橋剤として機能する。好ましいα,β−不飽和カルボン酸として、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。好ましい酸化金属として、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが挙げられる。
【0028】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、共架橋剤の量は、基材ゴム100質量部に対して10質量部以上が好ましく、15質量部以上が特に好ましい。ソフトな打球感の観点から、この量は50質量部以下が好ましく、45質量部以下が特に好ましい。
【0029】
好ましくは、センター8のゴム組成物は、共架橋剤と共に有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、架橋開始剤として機能する。有機過酸化物は、ゴルフボール2の反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物として、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ−t−ブチルパーオキサイドが例示される。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
【0030】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、有機過酸化物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。ソフトな打球感の観点から、この量は3.0質量部以下が好ましく、2.8質量部以下がより好ましく、2.5質量部以下が特に好ましい。
【0031】
好ましくは、センター8のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含む。好ましい有機硫黄化合物として、ジフェニルジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド及びビス(4−シアノフェニル)ジスルフィドのようなモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド及びビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィドのようなジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド及びビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィドのようなトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィドのようなテトラ置換体;並びにビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド及びビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィドのようなペンタ置換体が例示される。有機硫黄化合物は、反発性能に寄与する。特に好ましい有機硫黄化合物は、ジフェニルジスルフィド及びビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
【0032】
ゴルフボール2の反発性能の観点から、有機硫黄化合物の量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上が特に好ましい。ソフトな打球感の観点から、この量は1.5質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.8質量部以下が特に好ましい。
【0033】
センター8に、比重調整等の目的で充填剤が配合されてもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤として、高比重金属からなる粉末が配合されてもよい。高比重金属の具体例として、タングステン及びモリブデンが挙げられる。充填剤の配合量は、センター8の意図した比重が達成されるように適宜決定される。特に好ましい充填剤は、酸化亜鉛である。酸化亜鉛は、比重調整の役割のみならず、架橋助剤としても機能する。センター8のゴム組成物には、硫黄、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤等の各種添加剤が、必要に応じて適量配合される。センター8に、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末が配合されてもよい。
【0034】
センター8の表面硬度H1は、35以上60以下が好ましい。表面硬度H1が35以上であるセンター8により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、表面硬度H1は40以上がより好ましく、45以上が特に好ましい。表面硬度H1が60以下であるセンター8により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、表面硬度H1は55以下がより好ましく、50以下が特に好ましい。中間層10及びカバー6が剥がされたセンター8の表面に、ショアD型硬度計が押しつけられることにより、表面硬度H1が測定される。測定には、この硬度計が装着された自動ゴム硬度測定機(高分子計器社の商品名「P1」)が用いられる。
【0035】
打球感の観点から、センター8の圧縮変形量CD1は3.5mm以上が好ましく、4.0mm以上がより好ましく、4.5mm以上が特に好ましい。反発性能の観点から、圧縮変形量CD1は6.5mm以下が好ましく、6.5mm以下がより好ましく、6.0mm以下が特に好ましい。
【0036】
圧縮変形量の測定には、YAMADA式コンプレッションテスターが用いられる。このテスターでは、測定対象である球体(センター8、コア4、ゴルフボール2等)が金属製の剛板の上に置かれる。この球体に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれた球体は、変形する。球体に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、測定される。初荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、0.83mm/sである。初荷重がかかってから終荷重がかかるまでの円柱の移動速度は、1.67mm/sである。測定時の雰囲気温度は、23℃である。測定に先立ち、球体は、23℃の恒温槽に24時間以上保持される。
【0037】
センター8の直径は、35.0mm以上40.0mm以下が好ましい。センター8の質量は、30g以上41g以下が好ましい。センター8の架橋温度は、140℃以上180℃以下である。センター8の架橋時間は、10分以上60分以下である。センターが2以上の層を有してもよい。センターが、その表面にリブを備えてもよい。センターが中空であってもよい。
【0038】
中間層10は、熱可塑性樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材ポリマーとして、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが例示される。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。後述されるように、このゴルフボール2のカバー6は薄い。このゴルフボール2が打撃されると、カバー6が薄いことに起因して、中間層10が大きく変形する。従って中間層10は、反発性能に大きな影響を与える。アイオノマー樹脂を含む中間層10を有するゴルフボール2は、反発性能に優れる。
【0039】
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに占めるアイオノマー樹脂の比率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85%以上が特に好ましい。
【0040】
好ましいアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい二元共重合体は、80質量%以上90質量%以下のα−オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸とを含む。この二元共重合体は、反発性能に優れる。好ましい他のアイオノマー樹脂として、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。好ましい三元共重合体は、70質量%以上85質量%以下のα−オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元共重合体は、反発性能に優れる。二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンとアクリル酸との共重合体である。特に好ましい他のアイオノマー樹脂は、エチレンとメタクリル酸との共重合体である。
【0041】
二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとして、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
【0042】
アイオノマー樹脂の具体例として、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7329」及び「ハイミランAM7337」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9910」、「サーリン9945」、「サーリンAD8546」、「HPF1000」及び「HPF2000」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。
【0043】
中間層10の樹脂組成物に、比重調整等の目的で充填剤が配合されてもよい。好適な充填剤として、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤として、高比重金属からなる粉末が配合されてもよい。高比重金属の具体例として、タングステン及びモリブデンが挙げられる。充填剤の配合量は、中間層10の意図した比重が達成されるように適宜決定される。中間層10に、着色剤、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末が配合されてもよい。
【0044】
中間層10の厚みは、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。この厚みは2.0mm以下が好ましく、1.8mm以下がより好ましい。
【0045】
中間層10の硬度H2は55以上が好ましく、60以上がより好ましく、63以上が特に好ましい。硬度H2は、75以下が好ましく、72以下がより好ましく、70以下が特に好ましい。
【0046】
本発明では、「ASTM−D 2240−68」の規定に準拠して、中間層10の硬度H2及びカバー6の硬度H3が測定される。測定には、ショアD型硬度計が取り付けられた自動ゴム硬度計(高分子計器社の商品名「P1」)が用いられる。測定には、熱プレスで成形された、中間層10(又はカバー6)と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
【0047】
コア4(すなわちセンター8及び中間層10)の直径は、41.0mm以上42.0mm以下が好ましい。コア4の質量は、42.0g以上44.0g以下が好ましい。コア4の圧縮変形量CD2は、3.0mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0048】
カバー6は、樹脂組成物から成形されている。この樹脂組成物の基材樹脂として、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、スチレンブロック含有熱エラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリオレフィンエラストマー及びアイオノマー樹脂が例示される。
【0049】
好ましい基材ポリマーは、ポリウレタンである。樹脂組成物が、熱可塑性ポリウレタンを含んでもよく、熱硬化性ポリウレタンを含んでもよい。生産性の観点から、熱可塑性ポリウレタンが好ましい。熱可塑性ポリウレタンは、ハードセグメントとしてのポリウレタン成分と、ソフトセグメントとしてのポリエステル成分又はポリエーテル成分とを含む。熱可塑性ポリウレタンは、軟質である。このポリウレタンが用いられたカバー6は、耐擦傷性に優れる。カバー6に熱可塑性ポリウレタンと他の樹脂とが併用される場合、全基材樹脂に対する熱可塑性ポリウレタンの比率は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0050】
熱可塑性ポリウレタンは、分子内にウレタン結合を有する。このウレタン結合は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によって形成されうる。ウレタン結合の原料であるポリオールは、複数のヒドロキシル基を有する。低分子量ポリオール及び高分子量ポリオールが用いられうる。
【0051】
低分子量のポリオールとして、ジオール、トリオール、テトラオール及びヘキサオールが挙げられる。ジオールの具体例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール及び1,6−シクロヘキサンジメチロールが例示される。アニリン系ジオール又はビスフェノールA系ジオールが用いられてもよい。トリオールの具体例として、グリセリン、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールが挙げられる。テトラオールの具体例として、ペンタエリスリトール及びソルビトールが挙げられる。
【0052】
高分子量のポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)のようなポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)のような縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートのようなポリカーボネートポリオール;並びにアクリルポリオールが挙げられる。2種以上のポリオールが併用されてもよい。ゴルフボール2の打球感の観点から、高分子量のポリオールの数平均分子量は400以上が好ましく、1000以上がより好ましい。数平均分子量は、10000以下が好ましい。
【0053】
ウレタン結合の原料であるポリイソシアネートとして、芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートが例示される。2種以上のジイソシアネートが併用されてもよい。
【0054】
芳香族ジイソシアネートとして、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)が例示される。脂肪族ジイソシアネートとして、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が例示される。脂環式ジイソシアネートとして、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びトランス−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)が例示される。4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0055】
熱可塑性ポリウレタンの具体例として、BASFジャパン社の商品名「エラストランXNY80A」、「エラストランXNY82A」、「エラストランXNY85A」、「エラストランXNY90A」、「エラストランXNY97A」、「エラストランXNY585」及び「エラストランXKP016N」;並びに大日精化工業社の商品名「レザミンP4585LS」及び「レザミンPS62490」が挙げられる。
【0056】
カバー6の樹脂組成物には、必要に応じ、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等が適量配合される。
【0057】
カバー6の硬度H3は、30以上50以下が好ましい。硬度H3が30以上であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、大きな飛距離が得られる。この観点から、硬度H3は31以上がより好ましく、32以上が特に好ましい。硬度H3が50以下であるゴルフボール2は、スピン性能に優れる。スピンにより、ゴルフボール2の高弾道が達成される。このゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、優れた弾道フィーリングが得られる。この観点から、硬度H3は45以下がより好ましく、40以下が特に好ましい。
【0058】
カバー6の厚みは、0.3mm以上1.8mm以下が好ましい。この厚みが0.3mm以上であるゴルフボール2は、スピン性能に優れる。スピンにより、ゴルフボール2の高弾道が達成される。このゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、優れた弾道フィーリングが得られる。この観点から、厚みは0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上が特に好ましい。厚みが1.8mm以下であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。このゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、大きな飛距離が得られる。さらに、厚みが1.8mm以下であるゴルフボール2は、打撃フィーリングにも優れる。これらの観点から、厚みは1.0mm以下がより好ましく、0.8mm以下が特に好ましい。
【0059】
ゴルフボール2が、中間層10とカバー6との間に、補強層を備えてもよい。補強層は、中間層10と堅固に密着し、カバー6とも堅固に密着する。補強層は、中間層10からのカバー6の剥離を抑制する。補強層は、樹脂組成物から形成されている。補強層の好ましい基材ポリマーとして、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が例示される。
【0060】
ゴルフボール2の圧縮変形量CD3は、3.0mm以上5.0mm以下である。圧縮変形量CD3が3.0mm以上であるゴルフボール2は、反発性能が過大ではない。このゴルフボール2は、USGAが定める飛距離のルールに適合しうる。さらに、圧縮変形量CD3が3.0mm以上であるゴルフボール2では、ソフトな打撃フィーリングが得られる。これらの観点から、圧縮変形量CD3は3.5mm以上がより好ましく、3.8mm以上が特に好ましい。圧縮変形量CD3が5.0mm以下であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、圧縮変形量CD3は4.7mm以下がより好ましく、4.5mm以下が特に好ましい。
【0061】
図2及び3に示されるように、ディンプル12の輪郭は円である。このゴルフボール2は、直径が4.6mmであるディンプルAと、直径が4.4mmであるディンプルBと、直径が4.2mmであるディンプルCと、直径が4.0mmであるディンプルDと、直径が3.9mmであるディンプルEと、直径が2.6mmであるディンプルFとを備えている。ディンプル12の種類数は、6である。ゴルフボール2が円形ディンプル12に代えて、又は円形ディンプル12と共に、非円形ディンプルを有してもよい。
【0062】
ディンプルAの数は42個であり、ディンプルBの数は72個であり、ディンプルCの数は66個であり、ディンプルDの数は126個であり、ディンプルEの数は12個であり、ディンプルFの数は12個である。ディンプル12の総数は、330個である。
【0063】
図4には、ディンプル12の中心及びゴルフボール2の中心を通過する平面に沿った断面が示されている。図4における上下方向は、ディンプル12の深さ方向である。図4において二点鎖線で示されているのは、仮想球16である。仮想球16の表面は、ディンプル12が存在しないと仮定されたときのゴルフボール2の表面である。ディンプル12は、仮想球16の表面から凹陥している。ランド14は、仮想球16の表面と一致している。本実施形態では、ディンプル12の断面形状は、実質的には円弧である。
【0064】
図4において両矢印Dmで示されているのは、ディンプル12の直径である。この直径Dmは、ディンプル12の両側に共通の接線Tgが画かれたときの、一方の接点Edと他方の接点Edとの距離である。接点Edは、ディンプル12のエッジでもある。エッジEdは、ディンプル12の輪郭を画定する。図4において両矢印Dpで示されているのは、ディンプル12の深さである。この深さDpは、ディンプル12の最深部と仮想球16との距離である。
【0065】
それぞれのディンプル12の直径Dmは、2.0mm以上6.0mm以下が好ましい。直径Dmが2.0mm以上であるディンプル12は、乱流化に寄与する。この観点から、直径Dmは2.5mm以上がより好ましく、2.8mm以上が特に好ましい。直径Dmが6.0mm以下であるディンプル12は、実質的に球であるというゴルフボール2の本質を損ねない。この観点から、直径Dmは5.5mm以下がより好ましく、5.0mm以下が特に好ましい。
【0066】
ゴルフボール2のホップが抑制されるとの観点から、ディンプル12の深さDpは0.10mm以上が好ましく、0.13mm以上がより好ましく、0.15mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2のドロップが抑制されるとの観点から、深さDpは0.60mm以下が好ましく、0.55mm以下がより好ましく、0.50mm以下が特に好ましい。
【0067】
ディンプル12の球面面積sは、ゴルフボール2の仮想球16の表面のうち、ディンプル12の輪郭線に囲まれたゾーンの面積である。図2及び3に示されたゴルフボール2では、ディンプルAの球面面積sは16.61mmであり、ディンプルBの球面面積sは15.20mmであり、ディンプルCの球面面積sは13.85mmであり、ディンプルDの球面面積sは12.56mmであり、ディンプルEの球面面積sは11.94mmであり、ディンプルFの球面面積sは5.31mmである。
【0068】
全てのディンプル12の球面面積sの合計の、仮想球16の表面積に対する比は、占有率と称される。乱流化の観点から、占有率は0.780以上が好ましく、0.800以上がより好ましく、0.840以上が特に好ましい。占有率は、0.950以下が好ましい。図2及び3に示されたゴルフボール2では、球面面積sの合計は4495.3mmである。このゴルフボール2の仮想球16の表面積は5728.0mmなので、占有率は0.785である。
【0069】
十分な占有率が達成されるとの観点から、ディンプル12の総数は250個以上が好ましく、280個以上がより好ましく、300個以上が特に好ましい。個々のディンプル12が乱流化に寄与しうるとの観点から、総数Nは450個以下が好ましく、400個以下がより好ましく、380個以下が特に好ましい。
【0070】
本発明において「ディンプルの容積」とは、仮想球16とディンプル12の表面とに囲まれた部分の容積を意味する。このゴルフボール2のディンプル12の総容積は、580mm以下が好ましい。総容積が580mm以下であるゴルフボール2では、高弾道が達成される。このゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、優れた弾道フィーリングが得られる。この観点から、総容積は560mm以下がより好ましく、550mm以下が特に好ましい。ゴルフボール2のホップが抑制されるとの観点から、総容積は430mm以上が好ましい。
【0071】
このゴルフボール2は、下記の数式(I)を満たす。
0.80 ≦ ((L1 + L2) / 2) ≦ 0.95 (I)
この数式においてL1は、レイノルズ数が1.290×10でありスピンレートが2820rpmである条件で測定された、揚力係数CL1の抗力係数CD1に対する比(CL1/CD1)を表わす。この数式においてL2は、レイノルズ数が1.771×10でありスピンレートが2940rpmである条件で測定された、揚力係数CL2の抗力係数CD2に対する比(CL2/CD2)を表す。揚力係数及び抗力係数は、USGAの定めるITR(Indoor Test Range)に則して測定される。
【0072】
レイノルズ数は、流体力学の分野にて用いられる無次元数である。レイノルズ数(Re)は、下記数式によって算出されうる。
Re = ρvL/μ
この数式において、ρは流体の密度を表し、vは物体の速度を表し、Lは特性長さを表し、μは流体の粘性係数を表す。
【0073】
前述の通り、揚力係数CL1及び抗力係数CD1の測定時のレイノルズ数は、1.290×10である。このレイノルズ数は、空気中を飛行するゴルフボール2に関しては、ヘッド速度が35m/sであるドライバーで打ち出されたときのボール速度に対応する。揚力係数CL1及び抗力係数CD1の測定時のスピンレートは、2820rpmである。このスピンレートは、ヘッド速度が35m/sであるゴルファーの平均的な値である。比L1の測定では、ヘッド速度が35m/sであるゴルファーが想定されている。
【0074】
前述の通り、揚力係数CL2及び抗力係数CD2の測定時のレイノルズ数は、1.771×10である。このレイノルズ数は、空気中を飛行するゴルフボール2に関しては、ヘッド速度が45m/sであるドライバーで打ち出されたときのボール速度に対応する。揚力係数CL2及び抗力係数CD2の測定時のスピンレートは、2940rpmである。このスピンレートは、ヘッド速度が45m/sであるゴルファーの平均的な値である。比L2の測定では、ヘッド速度が45m/sであるゴルファーが想定されている。
【0075】
多くのアマチュアプレーヤーのヘッド速度は、35m/s以上45m/s以下である。上記数式(I)では、35m/sのヘッド速度に対応する比L1と、45m/sのヘッド速度に対応する比L2とが、平均されている。平均値((L1+L2)/2)が0.80以上0.95以下であるゴルフボール2は、多くのアマチュアプレーヤーに適している。
【0076】
平均値((L1+L2)/2)が0.80以上であるゴルフボール2がアマチュアのプレーヤーに打撃されたとき、高い弾道が得られる。このゴルフボール2がUSGAの飛距離のルールに適合するものであるにもかかわらず、プレーヤーは、この弾道に満足を覚える。このゴルフボール2は、弾道フィーリングに優れる。この観点から、平均値((L1+L2)/2)は0.84以上がより好ましく、0.88以上が特に好ましい。
【0077】
平均値((L1+L2)/2)が0.95以下であるゴルフボール2は、ホップしにくい。この観点から、平均値((L1+L2)/2)は0.93以下がより好ましく、0.92以下が特に好ましい。
【0078】
ディンプル12の仕様の適正化により、上記範囲内の平均値((L1+L2)/2)が達成されうる。具体的には、
(1)ディンプル12の深さの適正化
(2)ディンプル12の面積の適正化
(3)ディンプル12の容積の適正化
(4)ディンプル12の個数の適正化
(5)ディンプル12の占有率の適正化
等の手段により、比L1及び比L2が適正化され、上記範囲内の平均値((L1+L2)/2)が達成されうる。
【0079】
比L1は、0.85以上0.93以下が好ましい。比L1が0.85以上であるゴルフボール2が、35m/sのヘッド速度のドライバーで打撃さたとき、高い弾道が得られる。このゴルフボール2がUSGAの飛距離のルールに適合するものであるにもかかわらず、プレーヤーは、この弾道に満足を覚える。このゴルフボール2は、弾道フィーリングに優れる。この観点から、比L1は0.87以上がより好ましく、0.88以上が特に好ましい。比L1が0.93以下であるゴルフボール2は、ホップしにくい。この観点から、比L1は0.92以下が特に好ましい。
【0080】
比L2は、0.76以上0.92以下が好ましい。比L2が0.76以上であるゴルフボール2が、45m/sのヘッド速度のドライバーで打撃さたとき、高い弾道が得られる。このゴルフボール2がUSGAの飛距離のルールに適合するものであるにもかかわらず、プレーヤーは、この弾道に満足を覚える。このゴルフボール2は、弾道フィーリングに優れる。この観点から、比L2は0.80以上がより好ましく、0.86以上が特に好ましい。比L2が0.92以下であるゴルフボール2は、ホップしにくい。この観点から、比L2は0.91以下が特に好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0082】
[実施例1]
100質量部のハイシスポリブタジエン(JSR社の商品名「BR−730」)、22.5質量部のアクリル酸亜鉛、5質量部の酸化亜鉛、適量の硫酸バリウム、0.5質量部のジフェニルジスルフィド及び0.6質量部のジクミルパーオキサイドを混練し、ゴム組成物を得た。このゴム組成物を共に半球状キャビティを備えた上型及び下型からなる金型に投入し、170℃で18分間加熱して、直径が38.5mであるセンターを得た。
【0083】
50質量部のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1605」)、50質量部の他のアイオノマー樹脂(三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミランAM7329」)及び4質量部の二酸化チタンを二軸混練押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を射出成形法にてコアの周りに被覆し、中間層を形成した。この中間層の厚みは、1.6mmであった。
【0084】
二液硬化型エポキシ樹脂を基材ポリマーとする塗料組成物(神東塗料社の商品名「ポリン750LE)を調製した。この塗料組成物の主剤液は、30質量部のビスフェノールA型固形エポキシ樹脂と、70質量部の溶剤とからなる。この塗料組成物の硬化剤液は、40質量部の変性ポリアミドアミンと、55質量部の溶剤と、5質量部の二酸化チタンとからなる。主剤液と硬化剤液との質量比は、1/1である。この塗料組成物を中間層の表面にスプレーガンで塗布し、23℃の雰囲気下で6時間保持して、補強層を得た。この補強層の厚みは、10μmであった。
【0085】
100質量部の熱可塑性ポリウレタンエラストマー(BASFジャパン社の商品名「エラストランXNY85A」)及び4質量部の二酸化チタンを二軸押出機で混練し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物から、圧縮成形法にて、ハーフシェルを得た。このハーフシェル2枚で、コア、中間層及び補強層からなる球体を被覆した。このハーフシェル及び球体を、共に半球状キャビティを備え、キャビティ面に多数のピンプルを備えた上型及び下型からなるファイナル金型に投入し、圧縮成形法にてカバーを得た。カバーの厚みは、0.5mmであった。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状を有するディンプルが形成された。このカバーの周りに二液硬化型ポリウレタンを基材とするクリアー塗料を塗装し、直径が約42.7mmであり質量が約45.6gである実施例1のゴルフボールを得た。このゴルフボールは、下記の表1に示されたディンプル仕様D3を有する。
【0086】
[実施例2−11及び比較例1−9]
センター、中間層、カバー及びディンプルの仕様を下記の表5−8に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2−11及び比較例1−9のゴルフボールを得た。センターの組成の詳細が、下記の表1に示されている。中間層及びカバーの組成の詳細が、下記の表2に示されている。ディンプルの仕様の詳細が、下記の表3及び4に示されている。
【0087】
[フライトテスト]
ゴルフラボラトリー社のスイングマシンに、チタン合金製のヘッドを備えたドライバー(ダンロップスポーツ社の商品名「XXIO」、シャフト硬度:R、ロフト角:11°)を装着した。ヘッド速度が40m/secである条件でゴルフボールを打撃して、ボール速度、打出角、スピンレート、最高点座標(x、y)及びキャリーを測定した。座標xは、発射地点から最高点までの水平方向距離である。座標yは、発射地点から最高点までの鉛直方向距離である。キャリーは、発射地点から落下地点までの距離である。この結果が、下記の表9−12に示されている。
【0088】
[官能評価]
10名のテスターに、ドライバーにてゴルフボールを打撃させ、弾道フィーリグ及び打撃フィーリングを評価させた。下記の基準に従い、格付けを行った。この結果が、下記の表9−12に示されている。
弾道フィーリグ:飛距離が大きいと感じるテスターの人数
A:8名以上
B:5名以上7名以下
C:2名以上4名以下
D:1名以下
打撃フィーリグ:ソフトであると感じるテスターの人数
A:8名以上
B:5名以上7名以下
C:2名以上4名以下
D:1名以下
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
【表8】
【0097】
【表9】
【0098】
【表10】
【0099】
【表11】
【0100】
【表12】
【0101】
表9−12に示されるように、各実施例のゴルフボールは、諸性能に優れている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係るゴルフボールは、ゴルフコースでのプレイ、ドライビングレンジでのプラクティス等に適している。
【符号の説明】
【0103】
2・・・ゴルフボール
4・・・コア
6・・・カバー
8・・・センター
10・・・中間層
12・・・ディンプル
14・・・ランド
16・・・仮想球
図1
図2
図3
図4