(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NMR測定装置においては、一般に、複雑なパルスシーケンスに基づく測定を実現できるように、互いに並列動作する複数の信号発生器が設けられている。個々の信号発生器は、例えば、DDS(Direct Digital Synthesizer)あるいはNCO(Numerical Controlled Oscillator)によって構成される(特許文献1)。個々の信号発生器は、強度(振幅)変調、位相変調、周波数変調等の機能を備え、指定された周波数をもった送信信号(デジタル信号)を生成する。それらによって生成された複数の送信信号がそれぞれアナログ信号に変換された上で、それらが合成される。これによりアナログ合成信号が生成される。そのアナログ合成信号がパワーアンプにおいて増幅され、RF送信信号としてプローブへ送られる。
【0007】
一方、上記複数の送信信号をデジタル信号のまま合成した上で、それにより生じたデジタル合成信号をアナログ合成信号に変換することが考えられる。そのような構成によれば、DA変換器の個数を削減でき、また、各DA変換器の後段にある信号処理回路等を削減できる。しかし、その場合、複数の送信信号の生成段階で、複数の送信信号の相互間に対して、必要な振幅比(最終的に実現したい振幅比)を最初から与えると、例えば、なだらかに変化する低振幅のパルスが、少数ビットだけで表現される結果、その波形を滑らかに表現できずに階段状になってしまうという問題がある。つまり、そのような送信信号に対しては、DAC(DA変換器)の出力分解能を十分に活かせないという問題が生じる。同じような課題を他の磁気共鳴装置においても指摘し得る。
【0008】
特許文献2に開示されたMRI装置においては、スイッチングアンプの後段に可変アッテネーターが設けられている。しかし、その構成は、リニアアンプではないスイッチングアンプを採用したために、そこで大きく一律に増幅された送信信号に対して、可変アッテネーターによって後から振幅変調を施すものに過ぎない。合成される複数の送信信号における相互間の振幅比を合成後に事後的に実現しようという考え方あるいはそのための構成については特許文献2には開示されていない。このことは特許文献3についても同様に言えることである。
【0009】
本発明の目的は、磁気共鳴測定装置において、複数の送信信号間の振幅比をそれらの合成後において調整できるようにすることにある。あるいは、測定実行中にアナログ送信信号に対する動的な抑圧を実現できるようにすることにある。あるいは、アナログ送信信号の動的な抑圧に際して周波数特性の影響をできるだけ受けないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁気共鳴測定装置は、複数のデジタル信号として複数の送信信号を発生する複数の信号発生器と、前記複数の送信信号を合成してデジタル合成信号を生成する合成器と、前記デジタル合成信号をアナログ合成信号に変換するDA変換器と、前記アナログ合成信号を抑圧するアッテネーターであって、測定実行中に抑圧レベルを可変することが可能な動的可変アッテネーターと、前記複数の信号発生器及び前記動的可変アッテネーターの動作を制御する制御部と、を含むことを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、それぞれデジタル信号として生成された複数の送信信号が合成され、これによりデジタル合成信号が生成される。デジタル合成信号はDA変換器(DAC)によってアナログ合成信号に変換される。動的可変アッテネーターはアナログ合成信号に対してアッテネート(振幅抑圧)作用を発揮する回路である。制御部は測定実行中に動的可変アッテネーターの動作を動的に制御する。これにより、アナログ合成信号における全体又は一部の振幅を抑圧して所望の振幅をもったパルス列(送信信号)を生成することが可能である。逆に言えば、複数の送信信号の生成段階においてはそれら相互間に最終的な振幅比を与える必要がなくなる。例えば、最終的に低振幅となるパルスであっても、それを大きな振幅をもったパルスとして生成することが可能となる。つまり、上記構成によれば、複数の送信信号の生成に際して、それらの間に必ずしも最終的な振幅比を与える必要がなく、その最終的な振幅比(あるいは中間的な振幅比)を、動的可変アッテネーターを用いて事後的に実現できる。上記構成によれば、DA変換器の出力分解能を有効に活用できるという利点も得られる。
【0012】
上記の動的可変アッテネートは、複数の送信信号間において、時間的にパルス重複が生じていないような条件下で適用するのが望ましい。但し、パルス間に部分的重複があっても、抑圧レベルの動的可変によって生じる問題が無視できる程度であれば、そこに動的可変アッテネートを適用することが可能である。矩形(方形)パルスの場合、その振幅が小さくても、一般に先述のDACの出力分解能の問題は生じないので、そのようなパルスについては、事後的な抑圧ではなく、デジタル信号としての送信信号を生成する段階において必要な振幅を設定するようにしてもよい。パルス生成段階での振幅調整と、動的可変アッテネーターによる事後的かつ動的な振幅調整と、を選択しあるいは組み合わせて、最終的なパルス列を生成するのが望ましい。
【0013】
望ましくは、前記複数の送信信号は、第1送信信号と、第2送信信号と、を含み、前記アナログ合成信号は、前記第1送信信号に基づく第1パルスと、前記第1パルスの後に存在するパルスであって前記第2送信信号に基づく第2パルスと、を含み、前記制御部は、各パルスを単位として前記動的可変アッテネーターの動作を変更する。パルス単位で抑圧レベルを切り換えれば、パルス形状が不必要に崩れてしまうことを防止できる。もっとも、そのような問題が生じないなら、あるいは、その影響を無視できるなら、1パルス期間内において抑圧レベルの動的可変が行われてもよい。
【0014】
望ましくは、前記第1送信信号は前記第1パルスの元になった第1元パルスを含み、前記第2送信信号は前記第2パルスの元になった第2元パルスを含み、前記制御部は、前記第1パルスの振幅と前記第2パルスの振幅の比に比べて、前記第1元パルスの振幅と前記第2元パルスの振幅の比の方が1に近くなるように、前記複数の信号発生器の動作を制御する。この構成は、最終的な振幅比を最初から実現せずに、信号発生段階では1に近い仮の振幅比を与えるものである。
【0015】
望ましくは、前記制御部は、前記第1パルスとしての矩形パルスと前記第2パルスとしての非矩形パルスとが時間軸上並んでいる場合に前記第1パルスと前記第2パルスとの間で前記動的可変アッテネーターの動作を変更する。この構成によれば、矩形パルスの形状を維持できる。応答の遅れにより非矩形パルスへ影響が及んでも、被矩形パルスが例えば山状のパルスであれば一般にその影響は僅かである。
【0016】
望ましくは、前記制御部は、前記第1パルスとしての非矩形パルスと前記第2パルスとしての矩形パルスとが時間軸上並んでいる場合に前記第1パルスと前記第2パルスとの間で前記動的可変アッテネーターの動作を変更する。この構成において、矩形パルスの形状を保持する場合には、動的可変アッテネーターの応答の遅れを見込んで、矩形パルス手前の適切なタイミングで動的可変アッテネーターの動作を変更するのが望ましい。非矩形パルスが例えば山状パルスである場合、そこに不必要なアッテネート作用が及んでも、それは一般に無視できる程度である。
【0017】
望ましくは、前記制御部は、パルスプログラムから生成された命令列を実行する1又は複数のシーケンサーにより構成され、前記命令列には前記動的可変アッテネーターの動作を変更する命令が含まれる。望ましくは、前記動的可変アッテネーターの後段に設けられたパワーアンプを含む。この構成によれば動的可変アッテネーターとして耐圧の低いものを用いることができる。
【0018】
望ましくは、前記動的可変アッテネーターと前記パワーアンプとの間に設けられ、周波数変換を行うミキサーを含む。一般にすべての回路は大なり小なり周波数特性を有し、動的可変アッテネーター回路においても例外ではない。IF(中間周波数)信号がミキサーによってRF信号に変換される構成においては、中間周波数がとり得る周波数範囲は比較的狭い(あるいは中間周波数が固定されている)のに対して、変換後のRF信号がとり得る周波数範囲は非常に広い。よって、ミキサーの後段に動的可変アッテネーターを設けた場合、その回路自身が有する周波数特性が無視し得なくなる。例えば、その回路で生じる位相変化(位相ズレ)を補正することが困難となる。これに対して、上記構成によれば、そのような問題を回避又は軽減することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、磁気共鳴測定装置において、複数の送信信号間の振幅比をそれらの合成後において実現できる。あるいは、測定実行中にアナログ送信信号に対する動的な抑圧を実現できる。あるいは、アナログ送信信号の動的な抑圧に際して周波数特性の影響をできるだけ受けないようにできる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
(1)NMR測定装置
図1には、本発明に係るNMR測定装置の実施形態が示されている。このNMR測定装置は、有機化合物、高分子材料、生体物質、その他の物質の分析において用いられるものである。測定対象となる試料は液体、固体等である。なお、本発明は、他の磁気共鳴測定装置に対しても適用可能である。
【0023】
図1において、ホストコンピューター10は、パルスプログラムを生成するものである。パルスプログラムは、所望のNMR測定を実現するためのパルスシーケンスを記述したものであり、それはユーザーによりあるいは自動的に生成される。パルスプログラムはホストコンピューター10から分光計制御コンピューター12へ送られる。ホストコンピューター10は一般的なパーソナルコンピューターで構成され得る。
【0024】
分光計制御コンピューター12は、以下に詳述する送受信ユニット20の動作を制御し、また送受信ユニット20から得られる受信データを解析するものである。分光計制御コンピューター12及び送受信ユニット20により分光計が構成される。本実施形態において、分光計制御コンピューター12は、パルスプログラムを命令列に変換する命令列生成部14を搭載している。命令列生成部14は例えばコンパイラーとして構成される。本実施形態において、命令列生成部14は、送受信ユニット20を制御するための命令列を生成しており、命令列が送受信ユニット20に送られている。なお、送受信ユニット20に対してパルスプログラムをわたし、送受信ユニット20においてパルスプログラムを解釈して命令列を生成してもよい。また、分光計制御コンピューター12において、圧縮構造等によって構成される中間命令列を生成してそれを転送し、送受信ユニット20において中間命令列を展開することで非圧縮の命令列を再構成してもよい。特に、転送時の転送レート(データ量)が問題となる場合、上述のように圧縮された中間命令列を転用するのが望ましい。
【0025】
分光計制御コンピューター12は、通信バス18を経由して、送受信ユニット20に接続されている。図示の例では、分光計制御コンピューター12は、ホストコンピューター10に対してネットワークを介して接続されている。分光計制御コンピューター12は、例えば、専用又は汎用のコンピューターによって構成される。本実施形態において、分光計制御コンピューター12は、受信信号をスペクトル解析するFFT演算機能を搭載している。それが
図1において受信信号解析部16として表されている。分光計制御コンピューター12は、スペクトル解析機能の他、NMR測定において必要となる制御機能、解析機能及び管理機能を搭載している。なお、ホストコンピューター10と分光計制御コンピューター12が一体化されていてもよい。また、複数の分光計制御コンピューター12が構成されてもよい。更に、上述の分光計制御コンピューター12の機能の一部または全てをホストコンピューター10に搭載してもよい。
【0026】
送受信ユニット20について説明する。送受信ユニット20は、NMR測定で必要となる送信信号を生成し、またNMR測定結果である受信信号を処理するものである。送受信ユニット20又はそれと分光計制御コンピューター12とを合わせた部分(分光計)をNMR測定装置と称することも可能である。
【0027】
命令列用メモリー22には、本実施形態において、分光計制御コンピューター12から送られてきた命令列が格納される。例えば、命令列がいったん先述の中間命令列に変換されている場合、演算処理部(図示せず)によって、その中間命令列から最終的な命令列が生成(再構成)される。もちろん、他の回路によって命令列が生成されてもよい。命令列用メモリー22上には、命令列を後述のシーケンサー単位で格納する複数の記憶領域が設けられる。各シーケンサーの内部にそのような記憶領域が設けられてもよい。命令列は多様な命令からなり、それには個々の動的回路へ与える動的設定値(例えば後述の動的可変アッテネーターに設定する抑圧レベル)が含まれる。
【0028】
本実施形態においては、命令列用メモリー22に加えて、制御レジスター用メモリー24が設けられている。制御レジスター用メモリー24上にはレジスター領域が設定され、そのレジスター領域には個々の静的回路に対して与える静的設定値が書き込まれる。その設定条件は、命令列と同様に、パルスプログラムを元に生成される。その書き込みは分光計制御コンピューター12によって行われている。例えば、図示されていないコントローラーが、レジスター領域から各静的設定値を読み出して、それを各静的回路へ設定してもよい。あるいは、個々の静的回路がレジスター領域から静的設定値を自ら取得するようにしてもよい。
【0029】
なお、本願明細書において、静的とは、基本的に、測定の実行開始前に回路(静的回路)の動作条件を定めることを意味し、動的とは、基本的に、測定の実行中において回路(動的回路)の動作条件を定める(つまり動作条件を変更する)ことを意味する。つまり、静的回路に対しては、測定の実行開始前に必要な設定値が与えられ、測定の実行中においてその設定値は維持される。動的回路に対しては、測定の実行中において必要なタイミングで設定値を更新する制御が適用される。これにより動的回路の動作条件が動的に変化する。
【0030】
複数の送信シーケンサー26は、送信信号生成部30が有する複数の送信信号生成器等の動作を制御するものである。具体的には、個々の送信シーケンサー26は、自己のために用意された命令列を先頭から順次実行する。本実施形態においては、4つの送信信号生成器(4つの信号発生器(
図2))が設けられており、それに合わせて4つの送信シーケンサー26が設けられている。具体的には、第1送信シーケンサーは第1信号発生器を制御しており、第2送信シーケンサーは第2信号発生器を制御しており、第3送信シーケンサーは第3信号発生器を制御しており、第4送信シーケンサーは第4信号発生器を制御している。但し、1対1の対応関係は必須ではなく、1つの送信シーケンサーが複数の信号発生器を制御してもよく、あるいは、複数の送信シーケンサーが1つの信号発生器を制御してもよい。複数の送信信号の合成を行う回路(後に
図2に示す加算器)及びそれ以降に設けられる回路(後に
図2に示す加算器より後段の回路)の動作の制御については、4つの送信シーケンサーのうちの一部又は全部が担っている。パルスプログラムから生成された命令列に従って、各動的回路が適切なタイミングで適切な動作を行える限りにおいて、シーケンサーあるいはローカル制御部として多様な構成を採用し得る。なお、本願明細書において明示する数値はいずれも例示に過ぎないものである。
【0031】
受信シーケンサー28は、基本的に個々の送信シーケンサー26と同一の構成を備えており、それは自己のために用意された命令列を先頭から順番に実行する。これによって、受信信号処理部34が有する各動的回路の動作が制御される。本実施形態によれば、受信回路についても動的に制御することが可能である。例えば、後述するように、直交検波で用いられる一対の参照信号に対して周波数変調及び位相変調を適用することも可能であり、しかもそれらの条件を測定実行中に動的に変化させることが可能である。本実施形態においては、単一の受信シーケンサー28のみを例示しているが、複数の受信シーケンサーによって、受信信号処理部34を制御しても構わない。また、1又は複数の送信シーケンサー、及び、1又は複数の受信シーケンサーの制御タイミング等を統括的に管理するシーケンサーを別途設けてもよい。
【0032】
送信信号生成部30は、複数の送信信号生成器としての複数の信号発生器、合成器としての加算器、DA変換器(DAC)、信号処理回路、周波数変換回路等を備えている。その具体的な構成例については後に
図2を用いて説明する。送信信号生成部30によって、NMR測定用のRF送信信号31が生成される。RF送信信号31はアナログ信号であり、それは信号増幅を行うパワーアンプ32に送られる。パワーアンプ32において増幅されたRF送信信号がT/Rスイッチ(送受信切替器)38を介してプローブ40に送られる。
【0033】
プローブ40は、送受信コイル(図示されていない)を備えた挿入部40Aと、その根元部分に相当する筐体部40Bと、により構成される。図示の例では、プローブが1つのポートを備えており、つまり1つのRF送信信号がプローブに入力されている。2つあるいはそれ以上の個数のポートを備えたプローブを利用することも可能である。挿入部40Aは、円筒形を有し、それは静磁場発生器42のボア(円筒腔)内に挿入される。送受信コイルにRF送信信号が供給されると、そこで生じた電磁波が試料に照射され、観測核において共鳴吸収現象が生じる。その後、送受信コイルに誘起されるNMR信号(RF受信信号)がプローブ40からT/Rスイッチ38を経由して受信信号処理部34へ送られている。
【0034】
本実施形態において、T/Rスイッチ38は、送信時にRF送信信号をプローブへ送り、受信時にプローブからのRF受信信号を受信信号処理部34へ送るルーティング機能を有している。T/Rスイッチ38からの受信信号39はプリアンプ41で増幅され、増幅された受信信号43が受信信号処理部34に送られている。プリアンプ41がT/Rスイッチ38に内蔵されてもよい。
【0035】
送受信ユニット20内の受信信号処理部34は、入力されたRF受信信号に対して周波数変換、AD変換、直交検波、等の処理を実行する回路である。具体的な構成例については後に
図3を用いて説明する。処理後の受信信号(複素信号)が受信データとして受信データ用メモリー36上にいったん格納される。受信データ用メモリー36から読み出された受信データが分光計制御コンピューター12へ送られ、そこで受信データの解析が実行される。但し、送受信ユニット20内において受信データの解析を行うようにしてもよい。
【0036】
(2)送信信号生成部
次に
図2を用いて送信信号生成部30の具体的な構成例について説明する。
図2において、4つの信号発生器44は、最大4つの送信信号を生成するものである。4つの信号発生器44の動作は基本的に4つの送信シーケンサーによって制御される。具体的には、各信号発生器44の動作を規定するパラメータセットが各送信シーケンサーから各信号発生器44へ与えられている。本実施形態では、各信号発生器44はNCO(Numerical Controlled Oscillator)を含む。NCOは、位相アキュムレーター、サイン波ルックアップテーブル等を含むものである。NCOを利用して、周波数変調、位相変調、及び、振幅変調を行える。すなわち、それぞれ独立して変調処理等が施された送信信号(原信号)が各信号発生器44において生成される。当然ながら、NCOにおいて生成される信号の周波数を自在に定めることが可能である。
【0037】
本実施形態においては、信号発生器44による送信信号の周波数を例えば5〜200MHzにおいて任意に選択することが可能である。後述するように、観測核の周波数(RF信号の周波数)が例えば5MHz以上50MHz未満の低周波数帯に属する場合、生成される送信信号の周波数(原周波数)がそのままRF信号の周波数となる。一方、観測核の周波数が例えば50MHz以上1000MHz以下の高周波数帯に属する場合、生成される送信信号の周波数(原周波数)として例えば125MHzが選択され、それが中間周波数となる。中間周波数信号に対する周波数変換により最終的なRF送信信号が生成される。
【0038】
加算器46は、複数の信号発生器44において生成された複数の送信信号(デジタル信号)を加算して、デジタル合成信号を生成する回路である。信号発生器群において実際には1つの送信信号だけが生成されることもあるが、多くの場合に、複数の送信信号が生成される。便宜上、加算器46の出力信号をデジタル合成信号と称することにする。そのデジタル合成信号は、DAC(DA変換器)48に送られている。DAC48には例えば800MHzのサンプリングクロックが入力されており、デジタル合成信号がアナログ合成信号に変換される。DAC48の後段に設けられたフィルター、アンプ、その他の回路については図示省略されている。
【0039】
DAC48の後段には信号処理回路50が設けられており、それは動的可変ATT(アッテネーター)52を含む。動的可変ATT52は、測定実行中において、いずれかのシーケンサーによって動的に制御されるものである。具体的には動的可変ATT52の作用によって、測定実行中において、パルス列に対する抑圧レベルを動的に可変することが可能である。例えば、動的可変ATT52に入力されるアナログ合成信号が大振幅の矩形パルス(ハードパルス)とそれに続く大振幅の山状の成形パルス(ソフトパルス)とを含む場合、先行する矩形パルスの直後において抑圧レベルを大きくすれば、例えば、0dBから−60dBへ抑圧レベルを変更すれば、先行の矩形パルスの振幅及び波形を維持したまま、後続の山状パルスの振幅を全体的に抑圧することが可能である。これにより、例えば矩形パルスと成形パルスにレベル差(振幅強度の差)を設けたい等の条件を満たした設計通りのパルスシーケンスを事後的に実現することが可能である。動的可変ATT52の抑圧レベルの刻みは例えば1dBである。
【0040】
動的可変ATT52は、例えば、複数のATT素子からなり、それらの中から1又は複数のATT素子を選択し、あるいは、それらの組み合わせを選択することにより、所望の抑圧レベルが実現される。多段階の抑圧レベルを実現可能な構成を採用するのが望ましいが、2段階の抑圧レベルをもった動的可変ATTを用いることも可能である。動的可変ATTとして連続的に抑圧レベルを可変可能なデバイスを利用してもよい。いずれにしても応答性の良好なものを採用するのが望ましい。なお、応答の遅れを見越して動的可変ATT52への制御信号の供給タイミングを調整してもよい。
【0041】
本実施形態では、アナログ合成信号を構成する個々のパルス単位で、例えば、各信号発生器44からの送信信号単位で、動的可変ATT52での抑圧レベルを動的に可変することが可能である。もっとも、アナログ合成信号上の1パルス期間内において段階的又は連続的に抑圧レベルを動的に可変可能なように構成することも可能である。また、1つの信号発生器44から出力されたパルス列に対して、抑圧レベルの動的可変を適用することも可能である。
【0042】
本実施形態では、動的可変ATT52が後述する周波数変換回路(特にミキサー64)の前段に設けられている。これにより、それが周波数変換回路の後段に設けられた場合に比べて、動的可変ATT52での周波数特性の影響(特に位相ズレ)を小さく抑えることが可能である。すなわち、周波数変換回路の後段においては、RF送信信号の周波数の変動範囲が極めて広く(本実施形態では、50MHz以上1000MHz以下)、そこに動的可変ATTを設けた場合には、そこでの周波数特性の影響が無視できなくなり、すなわち抑圧レベルの動的変化の際に位相ズレが大きく複雑に変化してその補正が非常に困難となる。これに対して、周波数変換回路の前段に動的可変ATTを設ければ、そこを通過するIF信号の周波数は固定されており(本実施形態では125MHz)、あるいは、そこを通過するRF信号の周波数変化幅は比較的小さいので(本実施形態では、5MHz以上50MHz未満)、上記のような周波数特性の影響があっても、その影響は比較的小さく、その補正も容易となる。
【0043】
信号処理回路50の後段にはバイパス経路付き周波数変換回路が設けられている。周波数変換回路は、具体的には、入力側SW(スイッチ)54、出力側SW56、それらの間に設けられた周波数変換経路60、バイパス経路58等を有している。周波数変換経路60上には、ミキサー64及びフィルターバンク66が設けられている。ミキサー64においては、入力されたアナログ合成信号(この場合、中間周波数信号)に対してオシレーター62からのローカル信号68Aがミキシングされ、これによりRF送信信号が生成される。実際には、ミキシングで生じた不要周波数成分(例えば和周波数又は差周波数に相当するミキサーイメージ)がフィルターバンク66において取り除かれ、これによりRF送信信号が生成される。フィルターバンク66は、例えば、並列的に設けられた複数のLPF(ローパスフィルター)またはHPF(ハイパスフィルター)を含み、その中から使用するLPFまたはHPFが選択される。RF周波数に従って、カットオフ周波数が静的に変更される。LPFまたはHPFに代えてBPF(バンドパスフィルター)等の他のフィルターを設けるようにしてもよい。
【0044】
本実施形態では、観測核の周波数が低周波数帯に属する場合、直接生成方式つまり非変換方式が選択されており、その場合には、入力側SW54及び出力側SW56がバイパス経路58を選択する。つまり、その場合には、ミキサー64及びフィルターバンク66は機能しない。この場合、周波数変換回路の入力信号であるアナログ合成信号は中間周波数信号とは言えず、それはRF送信信号である。つまり、直接生成方式が選択された場合、複数の信号発生器44において最初からRF送信信号が生成されることになる。
【0045】
一方、観測核の周波数が高周波数帯に属する場合、周波数変換方式が選択されており、その場合には、入力側SW54及び出力側SW56が周波数変換経路60を選択する。つまり、その場合には、ミキサー64及びフィルターバンク66が機能する。この場合、周波数変換回路の入力信号であるアナログ合成信号は中間周波数信号となり、それは、ミキサー64においてローカル信号68Aとミキシングされ、続いてフィルターバンク66を通過して、RF送信信号となる。なお、上記の例において、低周波数帯及び高周波数帯のそれぞれの範囲を適宜定めることが可能である。入力側SW54及び出力側SW56はそれぞれ静的回路であり、測定開始前にそれらの動作が設定される。もっとも、それらを動的回路として構成し、測定実行中において方式を切り換えるようにしてもよい。
【0046】
オシレーター62は、ミキサー64に供給するローカル信号68Aを生成する信号発生器である。ローカル信号68Aの周波数は、IFからRFへの周波数変換を行うために必要な周波数として定められる。オシレーター62で生成されたローカル信号は受信信号処理部にも送られている。その信号が符号68Bで示されている。同じ信号を利用することにより送信処理条件と受信処理条件を合わせることが可能である。その場合、信号経路長を合わせるのが望ましい。
【0047】
信号処理回路70は、周波数変換回路の後段に設けられた回路である。信号処理回路70は、必要に応じて動作させることが可能な静的固定ATT及び静的可変ATTを含む。静的固定ATTのアッテネート値は固定である。静的可変ATTのアッテネート値は所定単位刻みで可変設定され得る。それらはいずれも静的回路であり、それらの動作有無(及び静的動的ATTの動作条件)は測定開始前に設定される。静的固定ATT及び静的可変ATTは、静的に設定される回路であるため、そこでの位相ズレ等を事前に特定しておくことが可能である。また、それを事前または事後に、補正することが可能である。本実施形態では、静的固定ATT及び静的可変ATTを周波数変換回路の後段つまり送信信号生成部の最終段に設けたので、それらの抑圧作用によって、パルスシーケンスに基づき期待される送信信号の成分を生成できると共に、RF送信信号の生成処理過程で生じた不要な信号あるいは混入したノイズを抑圧できるという利点が得られる。
【0048】
以上のように送信信号生成部30によってRF送信信号31が生成される。そのRF送信信号31は
図1に示したパワーアンプ32において増幅され、増幅されたRF送信信号がT/Rスイッチ38を経由してプローブ42へ出力される。
【0049】
(3)受信信号処理部
次に、
図3を用いて受信信号処理部34の具体的な構成例について説明する。プリアンプ41によって増幅されたRF受信信号43は、信号処理回路80を経て、バイパス経路付き周波数変換回路に入力される。信号処理回路80は、固定アンプ、可変アンプ、可変ATT等を有するものである。それらの回路は静的回路である。信号処理回路80において、周波数変換回路の前段つまり受信信号処理部の最初段においてNMR信号を増幅することが可能なため、受信処理過程で生じる不要な信号あるいは混入するノイズの影響を低減できるという利点が得られる。但し、受信信号について必要な純度等を維持できる限りにおいて、それらの回路を動的回路に変更してもよい。
【0050】
周波数変換回路は、具体的には、入力側SW82、出力側SW84、それらの間に設けられた周波数変換経路88、バイパス経路86等を有している。周波数変換経路88上には、ミキサー90及びBPF92が設けられている。それらはいずれも静的回路である。ミキサー90においては、入力されたアナログRF受信信号に対してオシレーターからのローカル信号68Bがミキシングされ、これにより中間周波数信号が生成される。実際には、ミキシングで生じた不要周波数成分がBPF92において取り除かれ、これにより中間周波数信号93が生成される。BPF92は、ミキシングにより生じた不要信号成分(例えば和周波数又は差周波数に相当するミキサーイメージ)を除去する他、後述するアンダーサンプリングとの関係で、不要信号を抑圧しておくアンチエイリアスフィルターとしても機能している。本実施形態では、第3ナイキストゾーン(例えば100MHzサンプリングに対して100〜150MHz)に中間周波数信号としての目的信号(例えば125MHz)が現れる。周波数軸上において、第3ナイキストゾーン以外に存在する信号成分(ノイズ)がBPF92によって除去されている。なお、アンダーサンプリング後において、第1ナイキストゾーン(0〜50MHz)に現れる2次折り返し成分(目的信号の非反転のミラー成分)が観測される。
【0051】
上述したように、本実施形態では、観測核の周波数が低周波数帯に属する場合、直接生成方式つまり非変換方式が選択されており、その場合には、入力側SW82及び出力側SW84がバイパス経路86を選択する。つまり、その場合には、ミキサー90及びBPF92は機能しない。この場合、周波数変換回路の出力信号は中間周波数信号とは言えず、それはRF受信信号である。
【0052】
一方、観測核の周波数が高周波数帯に属する場合、周波数変換方式が選択されており、その場合には、入力側SW82及び出力側SW84が周波数変換経路88を選択する。その場合には、ミキサー90及びBPF92が機能する。ミキサー90においてRF受信信号がローカル信号68Bとミキシングされ、続いてBPF92を通過して、中間周波数信号93となる。送信側周波数変換回路及び受信側周波数変換回路は連動して動作する。つまり、それらはともに同じ方式を選択する。もっとも、それぞれの周波数変換回路において別々の方式を選択させることも考えられる。あるいは、周波数変換回路を送信側及び受信側の一方にだけ設けることも考えられる。本実施形態では、観測核の周波数に応じて方式を選択していたが、ユーザーにより方式を選択させてもよいし、あるいは、他の条件に応じて方式が自動的に選択されるように構成してもよい。
【0053】
バイパス経路の選択によれば、つまり非変換方式によれば、送信信号及び受信信号(特に受信信号)の純度を維持できるという利点が得られる。すなわち、信号が回路を通過する際、その信号はその回路の特性等の影響を不可避的に受ける。これにより信号成分が変化しあるいは他の成分が混入してしまう問題が生じる。ミキサー等もそのような要因となるものである。特に、受信信号については純度の維持が大切であり、とりわけNMR信号の感度や精度が問題となる低い周波数においては純度の維持が重要な事項となる。本実施形態によれば、RF周波数が低い場合には、非変換方式を選択して、送信側及び受信側においてミキサー等をバイパスするようにしたので、高周波信号のミキシングや信号処理等に起因して送信信号及び受信信号に対して不要信号やノイズが入り込んでしまう問題を回避できるという利点が得られる。
【0054】
信号処理回路94は、固定アンプ、可変ATT、LPF、可変アンプなどの回路を有する。それらの回路は静的回路である。但し、受信信号の品質を維持できる限りにおいて動的回路を採用することも可能である。
【0055】
ADC(AD変換器)96は、入力されるアナログ受信信号(RF受信信号又は中間周波数信号)95をデジタル受信信号97に変換する回路である。そのサンプリング周波数は本実施形態において例えば100MHzである。本実施形態において、観測核の周波数が5MHz以上50MHz未満の低周波数帯に属する場合、ADC96のサンプリング方式はオーバーサンプリングとなる。つまり、ナイキスト定理に従って、100MHzの1/2(50MHz)未満の周波数をもった信号に対するサンプリングとなる。
【0056】
一方、観測核の周波数が50MHz以上1000MHz以下の高周波数帯に属する場合、ADC96のサンプリング方式はアンダーサンプリングとなる。つまり、ミキサー90の作用によって、RF受信信号の周波数が中間周波数125MHzに固定的に変換される。その中間周波数信号が100MHzでサンプリングされる。それを前提として、第3ナイキストゾーンから第2ナイキストゾーンを経て第1ナイキストゾーンへ折り返してくる折り返し信号(2次折り返し信号)が観測対象となる。その場合においても、上記BPF92の作用によって、不要なノイズが事前に低減されているので、S/N比の低下が防止されている。第1ナイキストゾーンにおいては第3ナイキストゾーンと同じようにスペクトルが現れる。よって、第1ナイキストゾーンを通じて、第3ナイキストゾーンに存在する信号を観測すれば、スペクトル反転処理等が不要となり、信号解析を簡便に行えるという利点が得られる。
【0057】
本実施形態においては、中間周波数が125MHzであり、それに対するサンプリングに当たっては本来、250MHz以上、望ましくは例えば300MHz以上のサンプリング周波数が必要となる(この場合、オーバーサンプリングとなる)。そのような高速サンプリングを行うことができ、特に高いデータ分解能を有するADC(例えば16bit以上で200Msps以上のもの)は、比較的高価であり、入手・採用が困難なことが多い。本実施形態によれば、中間周波数信号に対してはアンダーサンプリング方式を適用できるので、しかもBPFを効果的に利用しているので、比較的安価で分解能が良好なADCを利用しつつも、良好な測定精度を得られる。
【0058】
直交検波回路は、ADC96の後段に設けられており、それは並列的に設けられた2つのミキサー98,100を含む。それらのミキサー98,100は、参照信号生成回路102において生成された一対の参照信号99、具体的にはcos信号99A及びsin信号99Bをデジタル受信信号96に乗算するものである。これによりその受信信号がオーディオ周波数帯域の複素信号101に変換される。複素信号101は、実数部信号101Aと虚数部信号101Bとからなるものである。
【0059】
参照信号生成回路102は、本実施形態において、一対の参照信号を生成する2つの受信用NCOを有している。個々の受信用NCOは同じ構成を有する。更に言えば、各受信用NCOとして、送信信号を生成する送信用NCOと同様のものが利用されている。すなわち、受信用NCOは、任意周波数生成機能、周波数変調機能、位相変調機能を有する。処理対象となる受信信号が中間周波数信号であればそれをベースバンドへ変換するための一定周波数(例えば25MHz)をもった一対の参照信号が生成される。受信信号がRF受信信号であればそれをベースバンドへ変換するための周波数(例えば先述の50MHz未満)をもった一対の参照信号が生成される。
【0060】
本実施形態において、2つの受信用NCOの動作は受信シーケンサーによって制御される。よって、測定実行中において各受信用NCOに与えるパラメータを動的に変更して、位相変調条件、周波数変調条件を動的に切り換えることが可能である。もちろん、参照信号の周波数を動的に変更してもよい。このように本実施形態においては、高機能型の直交検波回路が実現されている。これにより、多様なニーズを満たす高度な測定、及び、高い自由度をもった信号処理を実現できる。
【0061】
直交検波回路の後段には2つのデジタルフィルター回路104,106が設けられている。それらはいずれも静的回路であり、ミキシングより生じた不要信号成分を除去する機能と、FFT演算前において必要なデータ点数の間引きによるサンプリングレートの実効的な変換(デシメーション)を行う機能と、を有する。各デジタルフィルター回路104,106は例えばCICデシメーション回路により構成される。所定の処理を経た受信信号108すなわち実数部信号108A及び虚数部信号108Bは、受信データとして、受信データ用メモリーへ格納される。その後、受信データ用メモリーから読み出された受信データに対して周波数解析等の処理が実行される。
【0062】
なお、
図1に示した、シーケンサー26,28、送信信号生成部30及び受信信号処理部34はFPGA等のデバイスによって実現され得る。
【0063】
(4)観測核の周波数に従う動作条件の適応的選択
図4には、観測核の周波数との関係で選択される2つの動作条件が整理されている。符号110は観測核の周波数(RF)を示しており、符号112は送信信号(原信号)及びサンプリング対象としての受信信号を示しており、符号114は送信側での経路選択の内容を示しており、符号116は受信側での経路選択の内容を示しており、符号118はサンプリング方式を示している。符号120は観測核の周波数が5MHz以上で50MHz未満の場合つまり低周波数帯に属する場合を示しており、符号122は観測核の周波数が50MHz以上で1000MHz以下の場合つまり高周波数帯に属する場合を示している。
【0064】
図4に示されるように、観測核の周波数が低周波数帯に属する場合(符号120参照)、直接生成方式(非変換方式)が適用され、具体的には、生成される送信信号は中間周波数信号ではなくRF送信信号となり、送信側においてはバイパス経路が選択され、受信側においてもバイパス経路が選択される。更にサンプリング方式はオーバーサンプリングとなる。その場合のサンプリング対象はRF受信信号である。
【0065】
一方、観測核の周波数が高周波数帯に属する場合(符号122参照)、周波数変換方式が適用され、具体的には、生成される送信信号はRF送信信号ではなく中間周波数信号となり、送信側においては周波数変換経路が選択され、受信側においても周波数変換経路が選択される。更にサンプリング方式はアンダーサンプリングとなる。サンプリング対象は中間周波数信号(IF信号)である。
【0066】
なお、低周波数帯の下限を、5MHzよりも低い周波数(例えば1MHz)にしてもよいし、5MHzよりも高い周波数(例えば10MHz)にしてもよい。高周波数帯の上限を、1000MHzよりも高い周波数(例えば1500MHz)にしてもよいし、1000MHzよりも低い周波数(例えば500MHz)にしてもよい。上記の例では、2つの周波数帯を区分する境界周波数が50MHzであったが、それをもう少し低い周波数に設定してもよい。サンプリング周波数に応じて適切な境界周波数を定めるのが望ましい。2つの周波数帯の一部がオーバーラップしており、その部分については動作条件を選択できるように構成してもよい。あるいは、2つの周波数帯の間に、選択できない周波数帯が存在していてもよい。
【0067】
(5)動的可変ATTの詳細説明
図5には動的回路としての動的可変ATTの第1動作例が示されている。個々のグラフにおいて横軸tは時間軸であり、縦軸Aは振幅軸である。他の図においても同様である。(A)には、合成前の第1送信信号が示されており、それは第1元パルス124を含む。(B)には、合成前の第2送信信号が示されており、それは第2元パルス130を含む。第1元パルス124は矩形パルスであり、第2元パルス130はなだらかに振幅が変化する山状パルスである。図示の例において、仮に、信号生成時点で、最終的な振幅比を実現しようとした場合、第1元パルス124に対して、第2元パルス126を生成しなければならない。第2元パルス126の振幅は非常に小さく、それが少数ビットで表現される結果、その波形は階段状(振幅分解能が粗い状態)になってしまう。これではDACの出力分解能を活かせない。そこで、本実施形態では、符号128で示すように、振幅が高められた第2元パルス130が生成されている。
【0068】
(C)にはデジタル合成信号131が示されている。それは第1元パルス124及び第2元パルス130を含むものである。(D)にはデジタル合成信号131のDA変換により生成されたアナログ合成信号に対する動的可変ATTによる作用が示されている。第1元パルスに対応する第1パルス124Aの直後において、つまりタイミング134において、動的可変ATTの抑圧レベルが変更されている。抑圧レベルの時間的変化を例示したものが抑圧特性132である。タイミング134から僅かに遅れて、大きな抑圧レベル(−60dB)が設定されている。その結果、大振幅の山状パルスとしての第2パルス130A(第2元パルス130に対応するパルス)が抑圧されて、低振幅の山状パルスとしての第2パルス136が生成されている。矩形パルスとしての第1パルス124Aの振幅及び波形は維持されている。
【0069】
以上のように、動的可変ATTを用いて、第1パルス124Aを保存しつつも、第2パルス130Aだけに対して振幅の抑圧を行うことが可能である。つまり事後的に所望の振幅をもったパルス列を生成することが可能である。逆に言えば、送信信号の段階では最終的な振幅比に代えて1に近い振幅比で個々の送信チャンネル信号を生成することが可能となるので、DACの出力分解能を有効利用できる。
【0070】
仮に、抑圧特性の若干の遅れから、第2パルス136の一部(前側の裾部分)に抑圧不足が生じても、その抑圧不足部分は第2パルス136全体から見て僅かであり、それが信号処理上、問題となることはない。もし、それが問題となるのであれば、送信信号の生成段階において振幅調整を行えばよく、あるいは、それと動的可変ATTとを併用するようにすればよい。
【0071】
図6には動的可変ATTの第2動作例が示されている。
図6に示す内容は、
図5に示したものよりも、より一般的なものである。第1パルス124Aに続いて、一定の時間間隔138を隔てて、第2パルス130Aが存在している。これに対して、第1パルス124A直後のタイミング134で抑圧レベルを大きくすると(具体的には0dBから−60dBへ変更すると)、抑圧特性132が得られる。時間間隔138の期間内において、抑圧特性132が十分に安定している。つまり。第2パルス130Aの先頭までに安定した抑圧レベルが生じている。これにより、第2パルス130Aの振幅が抑圧されて、第2パルス136が生成されている。
【0072】
図7には動的可変ATTの第3動作例が示されている。抑圧前の状態において、時間順で第1パルス146、第2パルス150、及び、第3パルス154が存在している。これに対して、第1パルス146の直後のタイミング142で抑圧レベルが図示のように変更されており、また、第2パルスの直後のタイミング(第3パルスの直前)144で抑圧レベルが図示のように変更されている。すなわち、減衰特性140は、3つの安定化区間を有し、つまり、区間140a,140b,140cを有する。区間140aにおいては、第1パルス146が抑圧され(例えば−20dBに抑圧され)、中振幅の第1パルス148が生成されている。区間140bにおいては、第2パルス150が更に抑圧され(例えば−60dBに抑圧され)、低振幅の第2パルス152が生成されている。区間140cにおいては、大振幅の第3パルス154は抑圧されずに(つまり0dBが設定され)、その振幅が維持されている。このように、パルス列に応じて、パルス間の適切なタイミングで抑圧レベルを動的に可変して、所望の振幅をもったパルス列を事後的に生成することが可能である。なお、図示の例ではパルス単位で抑圧レベルが動的に変更されていたが、パルス期間内において抑圧レベルを変更して波形形状の操作を行うことも可能である。但し、抑圧レベルの変更に伴って抑圧動作が不安定となる場合にはパルス間において抑圧レベルを変更するのが望ましい。
【0073】
図8には動的可変ATTの第4動作例が示されている。(A)には第1送信信号が示されており、それは第1元パルス156を含む。(B)には第2送信信号が示されており、それは第2元パルス160を含む。第1元パルス156及び第2元パルス160はいずれも矩形パルスである。よって、第2元パルス160においてはその生成段階から低振幅が設定されている。つまり、大振幅の第2元パルス158は生成されていない。(C)には合成信号161及び抑圧特性162が示されている。この例では動的可変ATTによる抑圧(抑圧レベルの動的可変)は行われていない。すなわち、動的可変ATTの通過後において、第1パルス156及び第2パルス160のいずれについても振幅が維持され、且つ、波形が維持されている。
【0074】
以上のように、原始的な振幅抑圧と事後的な振幅抑圧とを状況に応じて選択するのが望ましく、あるいは、それらの方式を組み合わせて利用するのが望ましい。
【0075】
図9には、動的可変ATTと他のATTの組み合わせが整理されている。本実施形態においては、動的可変ATT(符号164参照)の他に、静的固定ATT(符号166参照)及び静的可変ATT(符号168参照)が設けられている。なお、
図2に示した信号処理回路70が静的固定ATT及び静的可変ATTを有している。それら3種類のATTを適宜組み合わせて所望の振幅を実現することが可能である。動的可変ATTにおいては、符号164Aで示すように、可変値(可変抑圧値)が動的に設定される。静的固定ATTにおいては、符号166A及び166Bで示すように、その投入の有無(つまり20dBのATT通過またはそのバイパス)を切り換えることが可能である。更に、静的可変ATTにおいては、静的に設定した事前設定値(可変抑圧値)によって抑圧が実行される。
【0076】
パルス列の全体に対して抑圧(利得調整)を行う場合、静的固定ATT及び静的可変ATTが利用される。その上で、パルス列の一部に対して抑圧を行う場合、動的可変ATTが利用される。このように状況に応じて最適な組合せを選択することが可能である。例えば、パルス列の抑圧を動的に行う必要がない場合は、送信信号生成部の後段において静的抑圧を適用するのが望ましい。アナログ信号としてのRF送信信号が送信信号生成回路を通過している処理過程においては、各回路において不要信号(ノイズ等)の混入が起こり得る。その処理過程の前段においてRF送信信号の抑圧を行うと、RF送信信号と不要信号との強度差が小さくなり、それを無視できなくなる場合がある。これに対し、その処理過程の後段、理想的には最終出力段で、RF送信信号の抑圧を行えば、不要信号も一緒に抑圧されることになるので、RF送信信号と不要信号との強度差の悪化を回避できる。そのような事情及び事後的なパルス抑圧の必要等を考慮して、3種類のATTを選択的に動作させ、あるいは、それらの最適な組合せを選択するのが望ましい。